インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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今回ちょっと長めです。


原作2巻 プロレスの力
第十六話 転校生?ラノベかよ


「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え?そう?私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ」

 

クラス対抗戦から暫くしての月曜日。ここ、一年一組の教室では女子達がどのISスーツがいいかについて意見交換をしている。

 

「着れれば何でもいいんじゃねえの?」

「よくないよー。たっつんには分からないだろうけどさー」

「そうですわね。デザイン性はもとより、やはり自分に合ったものでないと」

 

すっかり俺の机の周りをたまり場にしているセシリアと、のほほんこと布仏本音が俺のつぶやきに反論してきた。

そういうもんか。そういえば、アイツも服選ぶのにめっちゃ時間かかってたな。

 

「そういえば、たっつんのISスーツってかなり特殊だよねー」

「他のISスーツとはデザインも機能性も違うみたいですし、企業の試作品とかですか?」

「うんにゃ。いつも練習で使ってるアンダーシャツとハーフパンツだけど?」

 

ちなみに試合用のショートタイツとかもある。

何でそこで唖然とする二人とも。

 

「……ねえたっつん、もしかして今までずっとそれでやってたの?」

「おう。わざわざ新しく買わなくても練習着は足りてるからな。あと慣れてる方がいいし」

 

ため息をつかれた。何故だ。

そもそも何であんなぴっちりした水着みたいなの着るんだ?どう考えてもアンダーシャツとかの方がいいのに。

 

「いいですか?ISを扱う者にとってISスーツの着用は基本中の基本ですのよ。ISスーツが検知した肌表面の微弱な電位を各部に伝えることで、よりスムーズな操縦が可能となるのですわ」

「へー」

「あと耐久性も凄くてねー、拳銃の弾くらいなら通さないんだよー」

「へー」

 

あんなペラペラな布が?信じられんな。いつの間にかやってきた山田先生が同じことを一夏に説明してるから、間違いではないんだろうけど。

 

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます!」

 

あ、マオ軍そ……もとい織斑先生がやってきた。さっきまで騒々しかった教室の空気ががらりと変わり、セシリアとのほほんも自分の席へと戻って行った。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」

 

あ、やっぱ何でもいいんだ。着るもの。じゃあいつも通りの練習着でも問題ないじゃん。

 

「なんなら、齊藤みたいにほぼ裸でやってもいいぞ」

 

失敬な。確かに試合では上半身裸だがちゃんと下は履いてるし、今までの授業ではちゃんと上も着てるぞ。おい一夏、笑ってんじゃねえ。

 

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ」

 

連絡事項を言い終えた織斑先生が、変な空気をそのままにしたまま山田先生にバトンタッチ。ちょっとかわいそうだ。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

「へー」

「「「えええええっ!?」」」

 

随分いきなりだな。まだ一年の一学期だというのに、二組の凰も合わせて三人も転校生が来るとはな。

 

「失礼します」

「…………」

 

転校生が入ってきた途端ピタッと静かになった。他のみんながどう思ってるかは知らんが、俺が見た第一印象はだな。

 

(ちっさ。ひょっろ)

 

片方はちっさい銀髪。もう片方はひょっろい優男。え?男?

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

「お、男……?」

 

マジかよ、三人目か。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方たちがいると聞いて本国より転校を―――」

 

声たけーな。声変わりしてないのか。おっといかん。耳を塞がないと。

 

「きゃ……」

「はい?」

「きゃあああああああ――――――っ!」

 

耳栓持ってくればよかった。めっちゃキーンってなる。

 

「男子!三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形!守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれてよかった〜〜〜!」

 

何で女子ってこんな元気なの?それはともかく、シャルルだっけ?ひょっろいな〜。身長が低いのは仕方ないが、もう少し鍛えた方がいいんじゃないか?足なんてローキック一発で折れそうだ。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

めっちゃ面倒くさそうっすね織斑先生。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから〜!」

 

そういえばもう一人がまだだな。周りの喧騒が凄くてうっかり忘れかけたぜ。

ふ~む。銀髪ロングに低身長に眼帯……ちょっと遅れた中二病かな?俺の友達が好きそうな見た目だな。

 

「……………」

 

……全然喋らんな。日本語が分からないんじゃないだろうな。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

え?お知り合いっすか。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

なんか、中学時代の俺と師匠を思い出すな。親父の友人という事もあって、普段は親せきのおじさんみたいな人だったけど、ひとたび指導モードに入ればすげえ厳しかったなー。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

……え?終わり?

 

「あ、あの、以上……ですか?」

「以上だ」

 

山田先生の問いに表情一つ変えずに答えるラウラ。今聞いたばっかなので流石に今回は名前間違えないぞ。

しかし今の自己紹介、入学初日の一夏を思い出すな。どこ出身なんだろうな?まあ今はなんか聞ける空気ちゃうし、あとで聞いてみるか。こういう時は積極的に転校生と関わった方がいいってマンガで言ってた。

あとはもう考えるの終わり。今日の昼めしどうしようかな。肉?魚?

 

バシンッ!

 

昨日魚だったから、やっぱ肉かな?いやでも、海鮮定食食ってないし……ここの美味いんだよなあ。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

よし決めた!とりあえず海鮮定食とメンチカツ定食を食って、あとはその後に決めよう。

 

「いきなり何しやがる!」

「ふん……」

 

?何かあったのか。ラウラがすたすたと歩いてって空いてる席に座ったが、そこがお前の席だって先生言ってたっけ?まあいいか。気にしたら負けだ。

 

「あー……ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

ぱんぱんと手を叩いて織斑先生が行動を促す。やれやれ、転校生とコミュニケーションとるのは後にするか。

さて、じゃあさっさと更衣室に行くか。前教室で着替えようとしたら怒られたし。

 

「おい織斑、齊藤。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

「はい」

「うっす」

 

まあ、そうなるな。

 

「君達が織斑くんと斎藤君?初めまして。僕は―――」

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」

 

着替えが入ったバッグを肩に担いでる間に一夏がシャルルに軽い説明をして、そのまま俺達三人は教室を出た。

 

「男子は空いてるアリーナの更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」

「う、うん……」

「めんどくせーよなー」

 

ホントメンドクサイ。何で教室で着替えるのがダメなんだろう。すぐ終わるのに。別に見られても気にしないのに。

 

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

「俺は齊藤龍輝。将来プロレスラーになる男だ。呼ぶときは龍輝でいい」

「うん。よろしく一夏、龍輝。僕のこともシャルルでいいよ」

 

簡単に自己紹介しつつ歩を進める。案外すぐ馴染めそうだな。

 

「ねえ龍輝、今言ってたプロレスラーって―――」

「ああっ!転校生発見!」

「しかも齊藤くんと織斑くんと一緒!」

「相変わらずいい体してるわね~うぇへっへっへ」ジュルリ

 

あ、他のクラスの女子に見つかった。そうかHR終わってんだっけな。

 

「いたっ!こっちよ!」

「者ども出会え出会えい!」

 

ここは日光江戸村か。ところで日光といえばいろは坂だな。

 

「黒髪もいいけど金髪もいいわね」

「しかも瞳はアメジスト!」

「並んでると齊藤君の筋肉が際立つわね」

「筋肉男子と王子系男子、夏コミのネタはこれで決まりね!」

 

誰だか知らんが不穏なこと考えんじゃない。俺はノーマルだ。

 

「な、なに?何でみんな騒いでるの?」

「そりゃ男子が俺達だけだからだろ」

「……?」

 

いい加減慣れたかと思ったんだけどな。ミーハーだよねみんな。

 

「とにかく急ぐぞ。龍輝!」

「あいよ」ヒョイ

「え?!ちょっと……!?」

 

一夏の呼びかけでシャルルを肩に担ぎ上げる。重さを全く感じないが、ちゃんと飯食ってんのかな?昼んとき食わせるか。

 

「行くぞ!」ダッ

「OK!」ダッ

「うわあああぁぁぁ!!」

 

担いだままダッシュ。叫び声が聞こえるが、無視無視。あんまり暴れると頭から落ちるぞ。

 

「か、担いだまま走るなんて!」

「流石人間ブルドーザーの異名を持つ齊藤君!」

「このままじゃ下手に手を出せない」

 

そんな異名を着けてもらった覚えはない。担ぐんだったらフォークリフトじゃないのか。

色々突っ込みたいが、授業まで時間がない。このまま更衣室までGOだ。

 

「おろしてえええぇぇぇ!!」

 

知らん知らん。

 

―――

――

 

「よーし、到着!」

 

あれから走ること数分、何とか無事更衣室に到着した。

 

「うぅ……気持ち悪い……」

 

いや、一名無事じゃないな。走ったせいで結構揺れたからな、酔ったんだろう。

 

「大丈夫か?」サスサス

「何とか……というか担いで運ばなければこうならなかったんじゃ……」

「こうでもしないと、お前だけ捕まってたかもしれんからな」

「そうかなぁ?」

 

そうだよ。

 

「うわ!時間ヤバイな!すぐに着替えちまおうぜ」

「だな」

 

返事しつつバッグを開けて着替えを取り出し、ベンチの上に置いてから制服を脱ぐ。

 

「わあっ!?」

「?」

「?」

 

どうした?

 

「荷物でも忘れたのか?」

「い、いやそのぉ……筋肉にびっくりして……」

 

ほう。じゃあリクエストに応じてポージングでもしてやろう。

 

「触ってみ?」

「う、うん……うわっ!カッチカチだ!」サワサワ

 

シャルルが俺の上腕を触りながらそう言った。当然だ。

 

「すごいなぁ……」

「鍛えてるからな。お前も少しは鍛えた方がいいぞ」ペタペタ

「わひゃぁっ!?」ビクッ

 

胸筋触っただけでそんな驚かなくても。

 

「わ、悪い。そんな吃驚するとは」

「う、ううん。僕の方こそ大きな声出してごめん……」

 

なんかすごい罪悪感が。

でも、触った感じ結構柔らかかったな。今度トレーニングに誘うか。強制的に。

 

「二人とも早く着替えようぜ。時間ないし」

「それもそうだな。お前も早く着替えろよ」ガサガサ

「う、うんっ。着替えるよ?でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

?華奢だから見られるの恥ずかしいのか。

 

「まあいいけど、さっさとしろよ」

 

と言いつつアンダーシャツの袖に腕を通す。今回持ってきたのは紺色の半そでタイプ。何気にお気に入りの一品である。

 

「…………」

 

視線感じるな。俺の背筋に何かついてるのか?

 

「シャルル?」

「な、何かな!?」

 

振り向くとシャルルは慌てた様子で明後日の方を向いてジッパーを上げた。

 

「うわっ、着替えるの超早いな。何かコツでもあるのか?」

「い、いや、別に……って一夏まだ着替えてないの?」

「言い出しっぺが一番遅いってどういうことだよ」

 

ちなみに俺はハーフパンツも穿き終わって、靴をランニングシューズに履き替えているところだ。

 

「これ着づらいんだよ。何か引っかかって」

「ひ、引っかかって?」

「パンツかスパッツ穿けよ」

「裸じゃないとうまく伝わんないんだってさ。お前は普通のアンダーシャツとハーフパンツだから関係ないだろうけどさ」

「え!?」

 

そういうもんか。シャルルが吃驚してるが、そんなに変かな?

 

「よっ、と。―――よし、行こうぜ」

「おう」

「う、うん」

 

ようやく一夏が着替え終わって、俺等は更衣室を出た。

 

「そのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのやつ?」

「デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

「へえ!じゃあシャルルって社長の息子なのか。道理でなあ」

「うん?道理でって?」

「なんつうか気品っていうか、いいところの育ち!って感じするじゃん。納得したわ」

 

ほー、社長の息子だったのか。何か温室っぽいとは思ってたけど。筋肉とか。

 

「いいところ……ね」

「?」

「それより一夏の方がすごいよ。あの織斑千冬さんの弟だなんて」

「ハハハ、こやつめ!」

「?」

 

何か二人とも様子が変だな。まるで地雷でも踏んだみたいな。

 

「ところで龍輝。さっきも聞こうとしたんだけど、何でプロレスラーになりたいの?」

「そういえば、俺もちゃんと聞いたことなかったな。なんでなりたいんだ?」

 

シャルルが質問したら一夏まで乗ってきた。理由か、色々あるけどな。

 

「そうさなぁ……勇気をもらったから、かな」

「勇気?」

「どういうこと?」

「さあてね。それより、急がねえと出席簿くらうぞ」ダッ

 

そう言ってアリーナに向かって走り始める。少し遅れて二人もついてきた。

こういうのは、あんまり詮索するもんじゃないぜ。

 

―――

――

 

「遅い!」

 

バシーンバシーン

 

結局間に合わず、鬼軍曹からのご指導を受けた。何故か俺と一夏だけ。

 

(不幸だ……)


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