インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第十七話 放て!これが驚異の新機能!

まだ頭ジンジンする。織斑先生は一度、自分の身体能力を把握すべきだと思う。

 

「ずいぶんゆっくりでしたわね」

「一夏が手間取ってな」

 

何でこう悉くセシリアが隣にいるんだろう。もしかして俺のこと好きなのか?そんな訳ないか!

 

「やっぱりたっつんはそのカッコなんだねー」

 

のほほんまで寄ってきた。まあ、動くときはこの格好にするのが当たり前になってるしな。

ちなみに一夏とシャルルはスキューバダイビングみたいな格好だ。

 

「やっぱこの格好じゃないと気合はいんないしなー」

「確かに、下手なISスーツなんかよりも龍輝さんに合っていますものね」

「そうだねー。たっつんが着たら、スーツがはち切れちゃうよー」

 

おいおい、銃弾も通さない硬度なんじゃなかったのか。アハハ。

 

バシーン!

 

向こうで凰と篠ノ之の二人が制裁の出席簿を受けてるが、何かしたんだろうか?

 

「まあ何か馬鹿なことでも言ったんだろう」

「まったく、授業が始まるというのに何をしているのかしら」

「お前等も何無駄話をしている」

 

バシーンバシーン

 

本日二発目。何故か叩かれてたのは俺とセシリアだけで、のほほんはいつの間にかどっかに逃げた。アイツ、後でグリグリしてやる。

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

「はい!」

 

いつもより人数が多いから、返事のボリュームがデカいな。

実戦訓練っつっても、何をやるんだ?

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの連中がいることだしな。―――凰!オルコット!ついでに齊藤!」

「な、なぜわたくしと龍輝さんまで!?」

「俺ついでかよ」

 

ひでえ。とばっちりじゃないか。

 

「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」

「だからってどうしてわたくしと龍輝さんが……」

「一夏のせいなのになんであたしが……」

 

お前達はまだいいよ。俺なんてついでだぞ。

 

「お前ら少しはやる気を出せ。―――アイツらにいいところを見せれるぞ?」

 

?最後の方良く聞こえなかったな。二人になんて言ったんだろう。

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

なぜかすげえやる気出てる。なんて言ってたのかすごい気になる。

 

「斎藤、お前の場合は機体テストの意味もある。只動いてるだけで構わん」

「そっすか」

 

何か気に障るな。じゃあ期待を裏切って、相手を速攻で倒してやろう。

 

「それで、相手はどちらに?」

「まさかバトルロイヤル?」

「あたしは別に二対一でも構わないけどね」

「慌てるなバカども。対戦相手は―――」

 

キィィィン……。

 

なんだこの音?すげえ嫌な予感がする。

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

あれ?何かが迫って―――うわっ!?

 

「フンぬらばっ!!」ガシィ

 

ズザザザ

 

あ、危ねえ。間一髪フロストの展開が間に合った。セシリアと訓練しといてほんとよかったぜ。

 

「あ、あのう、齊藤くん……大丈夫ですか?」

 

降ってきた物体が喋った。聞いたことある声だな。

 

「大丈夫っすよ山田先生。伊達に鍛えてないっすから」

「そういう問題じゃないと思いますが……」

 

まあ生身だったらヤバかったろうけどさ、流石に。そんなことを考えながらそっと山田先生を地面に降ろす。

 

「なんにせよ、怪我が無くてよかったすね」

「そ、そうですね。ありがとうございます」

 

なんか顔が赤いけど、どっか打ったのか?

 

「さて。もう理解してると思うが、貴様らの相手は山田先生が務める。ああ見えて元代表候補生だからな」

「え?あの、三対一で……?」

「いや、さすがにそれは……」

「気が引けるような……」

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

カッチーン。温厚な俺でも流石に怒ったぞ。本気は出せないが、いっちょやってやるぜ!

止めは二人に任せればいいしネ。

 

「手加減はしませんわ!」

「やってやろうじゃない!」

「い、行きます!」

 

開始早々空中に飛び立っていった三人。……すんません、飛ばれると手も足も出ないんですけど。

 

「どうした斎藤。何故飛ばない?」

「この機体、パワー全振りの代わりに飛べないみたいなんすよ」

「……そうか」

 

その微妙な顔ヤメテー!他のみんなもそんな目で見るなー!

 

「なら跳躍すればいいだろう」

「分かってます……よっと!」ダン

 

簡単に言ってくれるよなあ。まあ、それしかないけどさ。

空中で戦ってる三人目掛け、思いっきり跳躍。よし、狙い通り!……って。

 

「おわっ!?」

「きゃあ!?」

「あいたっ!?」

 

くうぅ、目測を見誤ったか。まさか山田先生に到達する前にセシリアと凰にぶつかるとは、運が悪い。そのままセシリアに掴まったから、地面に落ちることはないだろうけど。

 

「すまん!大丈夫か?」

「龍輝さん?!わ、わたくしは大丈夫ですわ」///

「あたしも平気よ……アンタ何赤くなってんの?」

 

ふう、よかった。ISの安全性は高いと授業では聞いてるが、それでも心配してしまうな。

 

「ん?」

 

あれ?山田先生が構えてるのって……グレラン?

 

「っ!?やば―――!?」

 

気付いた時にはすでに遅し。銃口からグレネードが射出されており、回避はもう間に合わない。

 

ドオォーン

 

「ぬうおわあああああーーー!?」

「「きゃあああ―――!?」」

 

あ、二人の叫び声がハモってる。なんて考えてる間に地面が迫って―――

 

 

グレネードを受けた三人が、地面に落下した。うまい具合に三人纏めてグレネードを当てたけど、龍輝が来ることも予想していたのか?山田先生は。普段の様子からじゃ想像つかないな。

 

「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……」

「あ、アンタらねえ、何面白いように誘導されてんのよ……」

 

二人がいがみ合ってるせいで、なんか専用機持ちと代表候補生の株価が暴落してる気がする。他の女子の間でひそかに笑いが起きてるから、そろそろやめた方がいいと思うぞ。

 

「さて、これで諸君にもIS学園の教員の実力は理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」

 

ぱんぱんと手を叩いて千冬姉がみんなの意識を切り替える。あれ?何か忘れてるような。

 

「ま……っだまだあっ!!」ガバァ

「おわぁっ!?」ビクゥ

 

吃驚した。そういえば、龍輝のこと忘れてた。

 

「勝手に終わらさんでくださいよ。こちとらまだ動けるんですから」

「た、龍輝、大丈夫なのか?」

「あんなの、師匠の蹴りに比べりゃどうってことねえわ!」

 

コイツの師匠ってのはいったい何者なんだ。

 

「でも龍輝、どうすんだ?向こうに飛ばれてる以上、攻撃手段はないんだろ。跳躍しても読まれるし」

「心配すんな。手はある……こいつを使ってみるか」

 

龍輝は俺にそう返すと、体を山田先生の方に向けて、少し腰を下ろした。いったい何をするつもりなんだ?

 

「クラッチアンカー!!いっけええええ!!」

「……は?」

 

ロボットアニメのパイロット張りに龍輝が叫んだ途端、龍輝のIS『フロストTypeD・G』の腰部分から鎖が飛んでった。

みんなポカーンとしてる。山田先生もポカーンとしてたが、そこは元代表候補生。すぐに気を戻すと鎖の軌道上から逃れた。

 

「逃がすかあっ!」

 

と思ったら、鎖の先端が軌道変更して山田先生に向かって行く。ホーミング機能でもついてんの?あ、追いつかれた。

 

「捕らえたっ!フンっ!!」グイ

 

鎖が山田先生にぐるぐる巻き、間髪入れずに龍輝が引き寄せようとする。当然山田先生も抵抗するが、パワーの差がありすぎるのか、ジリジリグイグイと引き寄せられてく。しかしこのままでは危ないと感じたのか、山田先生はライフルを取り出すと龍輝に向かって撃ち始めた。が―――

 

「んな豆鉄砲効くかあ!!」カンカンカン

 

そんなものものともしない龍輝であった。山田先生の驚いてる顔が遠目でも分かる。さらに周りは千冬姉を除き、皆唖然としているし。

 

「オ……ラアッ!!」

「きゃあっ!?」グン

 

一気に引っ張られて山田先生が体勢を崩し、そのまま龍輝の射程圏内に飛び込んだ。

 

「つ~かま~えた」ガシィ

「さ、齊藤くん!?こういうのはそのお、もっとお互いをよく知ってから―――」

 

山田先生が何か言ってるっぽいけど、ああなったらいかに山田先生と言えども終わりだよな。前遊びで組み付かれたことあるけど、ぜんっぜん離せなかった。

 

「フンッ!!」ブン

「え―――?」

 

龍輝は組み手を若干変えると、そのまま後ろに捻り自身の体を浴びせながら山田先生を地面に叩きつけた。すっごい音がしたぞ。

 

「レフェリー!カウントッ!」

「え?え?」

 

抑え込まれてるというのに山田先生はこの状況がよく分かってない様子。

 

「ワン、ツー、スリー。勝者、齊藤龍輝」

 

千冬姉が淡々とカウントを入れ、龍輝の勝ち名乗りを上げた。そんなノリよかったっけ?

 

「おっしゃあ!」

「え?ええ~!?」

 

ガッツポーズを上げる龍輝とは裏腹にあまりにもな決着に驚愕の声を上げる山田先生。正直俺もあんまりだとは思うが。

 

「見事なパワースラムだ」

「ありがとうございます!」

 

千冬姉、何でそんな詳しいの?プロレス好きだったっけ?

 

「教官!何をしておられるのですか!?」

 

ん?この声は―――

 

 

「この男の悪ふざけに付き合うなど、何を考えてるのですか!?」

 

抗議の声を上げてきたのは転校生の一人、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

人が勝ち名乗りを上げてる時に無粋なことをするものだ。

 

「こいつはふざけてなどいない。それと、ここでは織斑先生と呼べと言ったはずだ」

「投げつけ抑え込むのが実戦だというのですか?」

「ああ実戦だ。プロレスという名のな」

 

そうそう。俺がやってるのはプロレス。それ以上でも以下でもない。

 

「プロレス?プロレスとは、あのプロレスですか」

「そうだ」

「プロレスなどとっくの昔に廃れた、ただのショーではございませんか!」

 

……おい、今のは流石に聞き捨てならねえぞ。

 

「おいおま―――!」

 

一言物申そうとした時、織斑先生が手で俺を制した。

 

「……ラウラ、貴様はプロレスが遊びだと思うか?プロレスラーが弱いと思うか?」

「教、官……?」

 

す、すごい迫力だ。一歩も動けない。

 

「そう思っているなら、今すぐ認識を改めろ。プロレスはお前が思っているほど甘いものではない」

「―――っ!?」

「分かったならさっさと戻れ」

 

流石に堪えたのか、すごすごと戻っていくラウラ。

……なんか、言いたいことを先に言われてしまった。もう俺の怒りは収まったよ。

 

「……齊藤、龍輝……貴様は……!」ギリッ

 

すげえ睨まれてるな。でも、先にプロレスを馬鹿にしたそっちが悪いだろ。

 

「では授業を進める。各専用機持ちをリーダーにして八人グループに分かれ、実習を行う。いいな?では、分かれろ」

 

織斑先生の掛け声で、二クラス分の女子達が俺と一夏、シャルルに一気に詰め寄ってきた。

そんな状況ではあったが、俺の頭の中はさっきのことが残っていた。

 

(恨まれたよな。やっぱ)

 

波乱の予感を感じたが、そんなのは関係ないとばかりに授業は進んでいく。

 

(はてさて。どうなることやら)


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