インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第二十話 お前は一体どうしたい?

「きゃあああっ!?」

 

我に返ったのか慌ててシャワー室に戻りドアを閉める女子。

 

「えーと……ボディーソープ、ここに置いとくから……」

「う、うん」

 

一夏がボディーソープのボトルを置いたと同時に脱衣所を出る俺達。何がどうなってるんだろう?シャワーを使ってるのはシャルルのはず―――確かに思い返せば、シャルルの顔立ちと似ていたな。……意外とでかかったな。

 

「なあ、さっきのって―――」

「あ、上がったよ……」ガチャ

 

この声、やっぱりシャルルのだよな。

 

「お、おう」

「早かったな」

 

改めて見ても、やっぱ女子にしか見えんよなあ。ていう事は待てよ……もしかして俺、今まで結構やばいことしてた?

 

「あー、その……お茶でも飲むか?」

「う、うん。もらおうかな……」

「俺ウーロン茶」

「わりい、切らしてる」

「じゃあ同じのでいいや」

 

一夏が気をきかせてくれたが、まだやっぱ気まずい雰囲気のままだ。きっついな。

 

「もう大丈夫だろ。ほい」

「あ、ありがとう」

「サンキュー」

 

ズズッと渡された茶をすする。はぁ~あったまる。

 

「じゃあ、まあ、改めて、何で男のフリなんかしていたんだ?」

「それは、その……実家の方からそうしろって言われて……」

「実家って、確か親がどっかの会社の社長なんだっけ?」

「うん。僕の父がデュノア社って会社の社長で、その人からの命令なんだ」

 

へー。そういえば前そんなこと言ってたような気が……すっかり忘れてたわ。

 

「命令って……親だろう?」

「なんでそんなことを―――」

「僕はね、愛人の子なんだよ」

 

愛人―――てことは、コイツの親父は浮気していたって事か。俺の師匠が聞いたらブチギレるだろうな。なんたって俺の師匠は周りが引くほどの愛妻家だし。

 

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなった時にね――――――」

 

それからシャルルは、辛いだろうに自分の身の上話をしてくれた。引き取られてからIS適応が高いことが分かって、テストパイロットをしてたこと、父親の本妻から殴られたこと(個人的にはこれが一番許せん)、会社が経営危機になった時に俺等のニュースがあり、それに乗る形で広告塔として男装させられ、さらに俺等に接触してデータを盗んで来いと命令されたこと。

―――そして、恐らく本国に呼び戻されることになるだろう、と。

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までうそをついていてゴメン」

 

話し終わると、シャルルは俺等に向かって深々と頭を下げた。その姿に、俺はなんだか―――

 

「シャルル、面あげろ」

「?」

 

―――無性に腹が立った。

 

「歯ぁ食いしばれえ!!」

 

バシン!

 

顔を上げたシャルルの頬を、張り手でぶっ叩いた。手には少しジンとした感触がある。

 

「た、龍輝……?」

「シャルル、お前何諦めてんだ」

 

シャルルは驚きと脅えが混じったような表情をしているが、んなこたあ関係ねえ。

 

「テメエの人生はテメエのもんだろうが!親が社長だか何だか知らねえが、誰かに何か言われたぐらいで諦めようとしてんじゃねえ!!」

「龍輝の言う通りだ。確かに親がいなけりゃ子供は生まれない。だからって、親が子供に何をしてもいいだなんて、そんな馬鹿なことがあるか!」

 

俺に続いて、一夏も声を荒げながらシャルルに言葉を浴びせた。何か熱が入っているが、まあいいか。

 

「僕だって―――僕だってこんなことやりたくはなかった!でも仕方ないじゃないか……!」

 

シャルルは俺達の言葉を聞き終わると、うつむきながら震えた声でそう言った。

 

「したくもねぇことならやらなきゃいいだけだろう!」

「龍輝には、分からないよ……」

 

……ああ、そうだな。確かに俺にはさっぱり分からねえ。

 

「シャルル……」

「……」

 

だが、それで納得できるほど俺は頭良くはねえ。

 

「なあシャルル、お前は一体どうしたい?」

「え……?」

「親とか会社とか国とかは関係なく、お前は今どうしたいんだ?」

 

シャルルは困惑した様子だったが、暫し考え込むように俯いた後弱弱しく口を開いた。

 

「そうだね……許されるなら、この学園でみんなと過ごしたい、かな」

 

へっ、ようやっと本音を言ったか。

 

「でも、無理だろうけどね……」

「バカヤロウ!無理を通して、道理を蹴っ飛ばすんだよ!」

 

ちょっと面を喰らった様子のシャルルに、俺はさらに言葉を紡いだ。

 

「いいかシャルル、親がどうとか、愛人がどうとか、そんなものに縛られんな!お前がやりたいこと、お前が自分で選んだことが、只の操り人形じゃねえ、お前という一人の人間の証明だ」

「龍輝……」

「そうだぜシャルル。それにさ―――」ゴソゴソ

 

そう言って一夏は一冊の手帳を取り出し、あるページを開いて見せてきた。

 

「『特記事項第二二、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』―――つまり、少なくとも三年間は大丈夫って事だ!」

 

そんなのあったのか、知らんかったな。この学校もちゃんとしてたんだな。

 

「こんなんよく覚えてたな」

「特記事項って五十五個もあるのに」

「……勤勉なんだよ、俺は」

 

嘘つけ。成績俺とそう変わらんだろ。

 

「ふふっ。……二人とも、ありがとう」

 

……ついドキッとしてしまった。まあでも、やっと笑ってくれたか。

 

「いい笑顔するじゃねーか。お前にはこっちの方が似合うぜ」

「そ、そうかな?」///

「おう!……シャルル、これから先お前になんか言ってくる奴がいたら―――それがどうした!―――って言いながら、笑い飛ばしてやれ」ニッ

「―――!」

 

昔師匠が言ってたな。人の悪口も笑い飛ばせる人間になれって。今のシャルルに必要なのは、その度量だ。

 

「それでも懲りない奴がいたら、俺が駆けつけてラリアットぶちかましてやる!」

「い、いやそれは……」

「おいおい、お前のラリアットなんて喰らったら死んじまうぞ」

 

それもそうだな。と答えたところで全員が吹き出し、部屋の中が笑い声に包まれた。

あれ?そういえば何か忘れてるような……。

 

 

「……龍輝さん、いらっしゃいませんわね。まだ来てないのかしら……?」

 

 

「……ありがとう。なんだか勇気が出てきたよ」

 

そう言ったシャルルの眼に、もう諦めの色はなかった。

 

「それならよかった。な、龍輝」

「ああ。俺の筋肉も喜んでるぜ」ピクピク

「ふふっ、なにそれ。……ところで龍輝、一つ気になってたんだけど―――」

 

?何だろ。俺の筋肉に何か変なところでもあったかな?

 

「―――なんで上半身裸なの?」

 

……あ!

 

「しまった、トレーニングの後熱かったから脱いだままだった」

「ああ、全然気が付かなかったぜ」

 

しまったなー。道理で冷えると思った。

 

「いや、気付かないはずないよね」

「だって龍輝だし」

「どうしよう。一瞬納得しかけたよ」

 

うーん、どうしよう。部屋に上着取りに行こうにも、頭使ったから凄い腹減ってるし。何よりメンドイし。

 

コンコン

 

「「「!?」」」

「龍輝さん?こちらにいらっしゃいますか?」

 

この声はセシリア?食堂にいる筈じゃ。まずい、今シャルルが女だと広まるのはたぶんまずい。

 

「お、おうセシリア!今開ける!……やべえぞおい」

「ど、どうしよう?」

「と、とりあえず隠れろ」

 

小声でやり取りし、慌てて動く俺ら三人。シャルルがベッドに入ったのを見計らって、ドアを開ける。

 

「よ、ようセシリア!どうした?」

「龍輝さん!い、いえ、食堂に龍輝さんの姿がなかったので、気になってしまって……」///

「そっか。悪かったな、心配かけて。シャルルが体調悪いみたいで、看病してたんだ」

 

どこかもじもじとした様子で話すセシリアに、謝罪の言葉を返す。ついでに言い訳も。

 

「そ、そういう事でしたら仕方ないですわ」

「さっきようやく落ち着いたから、後は一夏に任せて先に飯行こうとしてたんだ。よかったら一緒に行かねえか?まだなんだろ?」

「は、はい!喜んでご一緒しますわ!」

 

よかった。これでバレる心配はなさそうだ。

 

「じゃあな一夏、先飯行くわ」

「あ、ああ。またあとでな」

「ごほごほっ。またね、龍輝」

「お、おう」

「デュノアさん、お大事に。さあ龍輝さん、参りましょう!」

 

するっと俺の腕に自分の腕を絡ませ、そのまま体も寄せてきた。セシリアのなんか柔らかい部分が当たって、正直ヤベえ。とりあえず、このまま行くしかない。

さっきとは別のものと闘いながら、俺はセシリアと食堂に向かった。

 

 

「……ねえ」

「ん?」

 

龍輝がセシリアを連れて食堂に向かって少ししたとき。シャルルが布団をかぶりながら俺に訊いてきた。

 

「何であの格好について何にも言わないの?」

 

確かに。龍輝は上半身裸のままだったのに、セシリアは何も言わなかったな。たぶんだけどやっぱり。

 

「……龍輝だから、じゃないかな?」

「……もうそれでいいや」

 

そんなことで引っ掛かってたらきりがないぞ、シャルルよ。




シャルルの問題解決はまだ少し続きがあります。
次回を待っててください。

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