インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第二十二話 それぞれの思惑。あれ?俺出番少なくね?

「そ、それは本当ですの!?」

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

月曜はなぜこんな憂鬱なんだ。といったことを考えながら教室に向かうと、聞きなれた声が廊下まで響いてきた。

 

「何騒いでんだ?」

「さあ?」

「俺が知るか」

 

ちなみに、一緒にいるのは一夏とシャルルだ。

 

「本当だってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末学年別トーナメントで優勝したら織斑くんか齊藤くんと―――」

「俺らがなんだって?」

「「「きゃああっ!?」」」

「たっつんおはー」

 

普通に声をかけただけなのに、すげえ驚かれた。ちょっとショック。のほほんはいつも通りだな。

 

「おはようのほほん」

「何の話だったんだ?俺と龍輝の名前が出てたみたいだけど」

「え?そ、そうだっけ?」

「さ、さあ、どうだったかしら」

 

凰とセシリアはそう言うが、お前らすげえ棒読みだぞ。聞かれたらまずい事だったのか?余計気になるな。

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

「そ、そうですわね!わたくしも自分の席につきませんと」

 

そそくさと言った感じでその場を離れる二人。まあ、俺も織斑先生の制裁を喰らうのは嫌だしな。

 

「……なんなんだ?」

「さあ……」

「……ねむ」

 

ふぁ~……何で月曜はこんな眠いんだろう?

しかし学年別トーナメントか。興味はあるが、俺には関係ないな。たぶん強制参加だろうけどな。

 

 

「「あ」」

 

二人そろって間抜けな声を上げてしまう。放課後のここ、第三アリーナに姿を現したのは鈴とセシリアだった。

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

「奇遇ですわね。わたくしも全く同じですわ」

 

二人の間で火花が散る。最終的な目的は違えど、優勝を狙ってるという点に関しては共通していた。

 

「ちょうどいい機会だし、この前の実習のことも含めてどっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

「あら?珍しく意見が一致しましたわ。どちらがより強く優雅であるか、この場ではっきりとさせようではありませんか」

 

言い終わるや否や、二人は己の得物を呼び出し、相手に向かって構えた。

 

「では―――」

「尋常に―――」

 

勝負―――と言おうとしたのを遮って砲弾が飛んできた。

 

「「!?」」

 

緊急回避してすぐ、二人は砲弾が飛んできた方に視線を向ける。そこには漆黒のカラーリングの機体が立っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

その機体を駆るのは、龍輝や一夏と因縁があるドイツの代表候補生。佇まいから強者であると感じたのか、セシリアの表情がこわばる。

 

「……どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

連結した専用の刀、《双天牙月》を肩に担ぎ、戦闘態勢を整える鈴。その眼は鋭く、一挙手一投足を見逃すまいとしている。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

ラウラの発言にアリーナの空気がさらに緊張する。

 

「何?やるの?わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

「ISの性能は操縦者の性能。カタログスペックだけで判断するなんて、三流のやることですわ」

 

鈴は挑発し返し、セシリアは冷静に反論するが、当のラウラはどこ吹く風。眉一つ動かさない。

 

「はっ……。二人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国は」

「ああっ!?」

 

挑発に乗せられてヒートアップした鈴がラウラに食って掛かる。

 

「ああ、ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね。いいじゃない。―――叩き潰してやるわ」

「お待ちください鈴さん。そう熱くなっては相手の思う壺ですわ。ここはわたくしが―――」

「はっ!二人がかりで来たらどうだ?一足す一は所詮二にしかならん。下らん種馬に媚びを売るメス犬共に、この私が負けるものか」

「―――今なんて―――」

「―――今なんとおっしゃいましたの?」

 

あからさまな挑発であったが、その発言によって先程まで冷静だったセシリアの何かが切れた。

 

「確かにわたくしはまだ未熟。故にわたくしへの侮辱なら甘んじて受けましょう。ですが―――」

 

ジャキッ、と手にしているライフルをラウラに向けながら、セシリアは言葉を紡ぐ。その言葉の一つ一つには、普段からは想像がつかない怒気が込められていた。

 

「夢に向かい、一日も怠ることなく努力している龍輝さんに向かって『下らない』なんて言葉、例え神が赦しても、わたくしが赦しはしません!」

 

ラウラの発言により燃え上がった怒りの炎が、セシリアの眼に宿る。自然とライフルを握る手に力が入り、今すぐにでも撃ち抜く、そんな雰囲気が漂った。

 

「あんた……。ええ、そうね。徹底的に痛めつけて、あいつらの前で土下座させてやるわ!」

 

セシリアの様子を見て冷静さを取り戻した鈴が、再度武器を握りなおす。

 

「御託はいい。とっととかかって来い」

「上等!」

「覚悟なさい!」

 

 

「さっきからなに握ってんだ?」

「新聞紙のボール」

「新聞紙?」

「それもトレーニングなの?」

 

時間は放課後、俺、一夏、篠ノ之、シャルルの四人は、空いてるという情報の第三アリーナに向かって歩いていた。

 

「んだ。手軽に握力が鍛えられて、しかも金もかからん」

「へー。色々あるんだね」

 

ちょっと工夫すれば、身近な物でもトレーニングできるからな。みんなもやってみよう!

 

「あれ?」

「なんだ?」

 

なんだか、アリーナに近づくにつれて人が多くなってる気がするな。

 

ドゴォンッ!

 

「「「「⁉」」」」

 

突然の轟音に驚き、状況を確認するため慌てて観客席の方に向かう。その方がピットに行くより近い。

 

「鈴!」

「セシリア!」

 

アリーナではセシリアと凰が誰かと戦ってるみたいだ。あの爆煙の中にいるのが相手か?

 

「あいつは……!」

 

煙の中から出てきたのは、漆黒のISとそれを駆るラウラの姿だった。

 

「何をしているんだ?お、おい!」

 

一夏の声掛けも聞こえないようで、二人は再びラウラに向かていく。二対一故に有利に思えるが、この間の事があるしなあ……。

 

「無茶だけはすんなよ……」ボソ

 

ついそう呟いた。

 

 

「くらえっ!!」

 

掛け声と同時に鈴の両肩の装甲が開き、そこから衝撃砲《龍砲》が最大出力で発射される。当たれば一撃、そう思える砲撃だった。しかし―――

 

「無駄だ。シュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

―――その砲撃が届くことはなかった。

 

「くっ!まさかここまで相性が悪いだなんて……!」

 

バリアーの様なものなのか、ラウラは右手をかざし停止結界と呼称したそれを発動し衝撃砲を無効化、すぐさま攻撃へと転じる。肩部からワイヤーと一体化した刃が飛翔し、鈴の脚部を捕らえた。

 

「そうそう何度もさせるものですかっ!」

 

セシリアがライフルとビットによる射撃で援護するが、悉く躱されてしまう。

 

「ふん……。理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型とは笑わせる」

 

先程と同じようにラウラが手をかざすと、何かに掴まれるようにビットが動きを停止した。

 

「動きが止まりましたわね!」

「貴様もな」

 

セシリアの狙いすました狙撃は、ラウラのリボルバーカノンによって相殺され、続けて第二射を行おうとするも、ワイヤーに掴まってた鈴をぶつけられ阻害される。

 

「「きゃああっ!」」

 

ぶつけられ体勢を崩した二人に、ラウラは『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』によって急接近し、近接戦を仕掛ける。鈴はその手に持つ青龍刀《双天牙月》を構え、ラウラも両手首からプラズマの刃を展開して襲い掛かる。

 

 

「やばいな……」

「ボーデヴィッヒさんの方が戦闘慣れしてるし、正直このままじゃ……」

 

確かに、ラウラの奴は遠近共に隙がなく、一手も二手も先を読んでいる。昔千冬姉の指導を受けてたというから、強いというのは分かってたけど、ここまでとは。

 

「なあ龍k―――あれ?」

 

ふと隣に目を向けると、そこにいた筈の龍輝の姿がない。こんな時にどこ行ったんだ?

 

 

「このっ……!」

 

暫く二人の剣戟は続いていたが、再び鈴にラウラのワイヤーブレードが襲い掛かってきた。たまらず衝撃砲を展開し、エネルギーを集中させる。

 

「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧縮兵器を使うなど」

 

その言葉通り、衝撃砲は射出する前にラウラの射撃によって破壊される。

 

「もらった」

「!」

 

衝撃砲を吹き飛ばされ体勢を崩した鈴に、ラウラがプラズマ刃を両手に展開し襲い掛かる。

 

「させませんわ!」

 

間一髪のところでセシリアが割って入り、ライフルを盾にして攻撃をそらし、同時に腰部のビットからミサイルを発射する。

半ば自殺行為ですらある接近してのミサイル攻撃。二人も爆発に巻き込まれ地面に叩き付けられる。

 

「無茶するわね、アンタ……」

「苦情はあとで。けれど、これなら確実にダメージが―――」

 

そこまで言って、セシリアの言葉は止まる。煙が晴れた先には、何事もなかったかのようにラウラが佇んでいた。

 

「終わりか?ならば―――私の番だ」

 

言い終わるや否や、ラウラは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で二人の傍に移動、鈴を蹴り飛ばし、セシリアを近距離の砲撃で吹き飛ばす。更に追撃のワイヤーブレードが放たれ、飛ばされた二人に迫る。

 

「しまっ―――!」

(龍輝さん―――!)

 

迫り来る驚異に対し、反射的に二人は眼を瞑ってしまう。

 

ガシイィンッッ

 

強烈な音がアリーナに響く。…………が。

 

「……?」

「何が……?」

 

いつまでたっても衝撃は来ない。一体どうしたことかと、二人は瞑った眼を開く。

 

「「―――え!?」」

 

 

―――観客席。

 

「「「あ!」」」

 

 

「な―――!?」

 

ラウラは目の前の光景に目を見開く。彼女が放ったワイヤーブレードは確かに敵を捕らえていた。避けられないタイミングで放ったため当然だ。しかし、結果として彼女の狙いは外れていた。

 

()()()()()()()()()()!?」

 

 

「あ、あああアンタ!」

「――――――!」

 

二人は視線の先、自分たちの前に立っている人物を確認したとき、鈴は驚きのあまり声が若干震え、逆にセシリアは状況が信じられないのか声が出なかった。

 

「ぐぅ……二人とも、無事か―――!」

 

立っている人物は二人を心配し声をかける。それに応えるかのように、徐々にセシリアの口から声が出始めた。

 

「た、た―――」

 

二人の身代わりとなり、ラウラのワイヤーブレードにとらわれた人物は―――

 

「―――龍輝さんっ!?」

 

プロレスラー、齊藤龍輝その人だった。

 

「そう!俺だ!」


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