インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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あけましておめでとうございます。
新年初投稿です。
ご愛読してくださる皆さま、今年もよろしくお願いいたします!


第二十三話 レスラー故の……

拝啓、ジムの皆様。

梅雨が終わり、夏の足音が聞こえる時期となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はというと―――

 

「ぐぬぬ……!」グググ

「くっ……!」グググ

 

ロリっ娘ドイツ人にワイヤーで拘束されています。

なぜこんなことになったか端的に説明しますと、知り合いの喧嘩に割って入った結果です。

……手紙口調はここまでにしとこう。正直ない頭絞って考えてるからもうネタ切れです。

 

「二人とも、動けるか―――?」

「え、ええ……」

「なんとかね……」

 

よかった。正直間に合うか不安だったがな、早めにピットに向かって正解だった。

 

「今のうちに退け、ここは任せろ!」

「で、ですがそれでは―――!」

 

セシリアが心配そうに聞き返してくるが、今はそんな時間も惜しい。いつアイツが照準を再度二人に合わせるか分からん。

 

「いいから行け!」

「―――っ!行くわよ、セシリア!」

「―――御武運を!」

 

ふう、行ったか。正直、二人を守りながら闘える気がしねえ。

 

「わざわざ出てくるとはな。姫を守る騎士(ナイト)気取りか?笑わせる」

「俺は只のレスラーだ。んな大層なもんじゃねえ」

 

ちゃちな挑発だ。こういうのは俺には効かんぞ。

 

「丁度いい。前は邪魔が入ったが、今度こそ貴様を叩き潰してくれる!」

「やれるもんならやってみろ!」

 

言い終わるのを合図に、互いが飛び出し一気に距離を詰める。

 

「シッ!」ブン

 

接近すると同時にラウラはさっきも使ってたエネルギー刃で斬り付けようとしてくる。俺はそれを避けずに胸板で受ける。

 

「ふんっ!」ガン

「何っ!?」

 

受けた後も何回か斬り付けてくるが、こんなの師匠の逆水平に比べりゃタオルで撫でたぐらいのもんだ!

斬ってくる隙をついて両足で跳躍。打点はバッチシ。

 

「お返しだ!」ヒュン

 

思いっきりドロップキックを放つ。

 

「馬鹿が。そんなのが当たるか」ヒョイ

 

が、思いっきり空を切る。受け身をとってすぐ立ち上がるが、その瞬間巻き付いたままのワイヤーを引っ張られてつい体勢を崩す。

 

「シッ!」シュッ

「がっ!?」ガン

 

そのまま膝蹴りを喰らってしまった。もろ顔面に。流石に効くな。だが。

 

ガシッ

 

そんなの日常茶飯事だこの野郎!

 

「なっ!」

「おぅらっ!」ブン

 

撃ち込まれた膝を抱え、そのまま原型ドラゴンスクリューで捻り倒す。

 

「チィッ!」ガンガン

「くっ!」パッ

 

絶好のチャンスだったが、ラウラが空いている足で蹴ってきたためつい放してしまった。惜しい!

 

「シャッ!」タンッ

 

空いた距離をステップで詰める。

 

バキ

 

―――嫌な音がした。

 

「くうぅっ!?」

 

数瞬後、尋常じゃない痛みが襲い、つい左膝を抑える。

ラウラの奴、俺のステップインに合わせて前蹴りを打ってきやがった。

それ自体はなんてことのない、MMAの試合でも見るストッピング目的の蹴りで、本来ならそこまでの威力はない。だが当たりどころが悪かった。

 

「ほう」ニヤリ

 

ラウラの方を見ると、なんかすげえ嫌な笑顔を浮かべていた。……変な汗が出てきた。

 

「そこがお前の―――」

「⁉―――うっ!」ズキ

 

直感が避けろといっている。が、膝のダメージのせいでうまく動けない。

 

バキィ!!

 

「弱点か!」

「ガアアッ⁉」

 

さっきとは比べ物にならない激痛が走り、つい膝を着く。

あのくされへなこ膝関節にローキックを叩き込んできやがって!

 

「どれ、もういっぱ―――」

「うおおおおおおおお!!」

 

ラウラが三度蹴りを放とうとしたとき、怒号が観客席の方から響いてきた。

 

「一夏!?」

「やめろおおーー!!」

 

声の方を見ると、一夏が『白式』を纏った状態で突っ込んできた。そしてラウラに向かってその手に持った刀を振り下ろそうとした。

 

「ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

 

しかし、その刃はラウラに届く直前でぴたりと止まった。セシリア達の時にもそうだったが、どういう理屈で止めてるんだ?

 

「く、くそっ、体が……!」

「やはり私の敵ではないな。先にコイツを片付けるつもりだったが、お望みなら貴様からやってやろう。」

「っ!や、やめろ!お前の相手は―――ぐっ!?」ビキッ

 

クソ!膝に力が入らねえ。このままじゃ一夏が……!

 

「貴様はそこでコイツがやられるのを黙って見てるんだな」ジャコン

 

ラウラがリボルバーカノンの砲身を一夏に向ける。何か、何かないか。

 

「消えろ」

「―――っ!?」

 

―――!これがあった!

 

「アンカー!シュートッ!」バシュウ

 

放ったアンカーが砲身に巻き付く。自分でやったことながらよく命中したな。

 

「何っ!?チィッ!」

 

ドオオン!

 

リボルバーカノンから砲弾が発射されたが、直前にアンカーを巻き取って砲身をずらしたおかげで一夏に命中することはなかった。

 

「ふう、間一髪」

 

間に合ってよかった。一瞬だけ呆気に取られてくれたおかげだ。

 

「助かったぜ龍―――がっ!?」

「!?一夏」

 

ホッとしたのも束の間、ラウラはリボルバーカノンの代わりに一夏に蹴りを放った。

未だ動きを止められてる為、一夏は避けることも防御もできずまともに受けてしまい、その体は思いっきり吹っ飛んだ。

 

「貴様ぁッ!」ジャコン

「やべ」

 

いつの間にか砲身がこっち向いてる。流石に今の状態で喰らうのはまずいな。もうアンカーでずらすのはできんし……ヤバくね?

 

「やはり貴様から消してやるっ!!」

 

南無三!

 

ガギン

 

―――ラウラが今まさに撃とうとした瞬間、砲撃音の代わりに金属音が響き、俺等の間に誰かが割って入っていた。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

「織斑先生!?」

「千冬姉!?」

 

一夏もびっくりしているらしい。まあ、織斑先生が乱入してくることも想定外だけど、何より吃驚なのは、織斑先生が普段のスーツ姿でバカでっかい刀を持っていることだろう。

いやでも、師匠や先輩はアレよりおっきな丸太担いで山道走ったりしてたから、そこまででもないか?……でも織斑先生は女性だし、やっぱりすげーことだな。

 

「模擬戦をやるのは構わん。―――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「……教官がそう仰るなら」

 

若干渋々という感じだったが、ラウラは頷いた後ISの装着状態を解除した。

 

「織斑、齊藤、お前たちもそれでいいな?」

「あ、ああ……」

「うっす……」

「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者共」

「「は、はい!」」

 

俺等の返事を聞いて、織斑先生は視線をアリーナ全体に向ける。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

アリーナ内の生徒全員に向けてそういうと、織斑先生はパンッ!と強く手を鳴らした。

 

 

「痛っつつつ!」

 

アリーナの一件の後、俺は保健室で膝の手当を受けていた。手当と言っても、テーピングを巻いてもらってるだけなんだがな。

 

「君は本当に保健室が好きね。―――はい終わり」

「ありがとうございます」

「お大事にね」

 

保険医の先生にお礼を言って、保健室を後にする。別に好きで通ってる訳じゃないんだけどな。

 

「よお、龍輝」

「一夏。みんなも」

 

廊下に出ると、一夏やセシリア、鈴、シャルルが待っていた。

 

「龍輝さん、お怪我の方は大丈夫ですか?!」

「お、おう、平気だ」

 

いきなりセシリアの奴がズイッときたもんだから驚いて噛みそうになってしまった。てゆーか近い。そんな近いと柔らかいものが当たって色々。服を掴まれて距離が取れんし。おまけにそんな心配そうな顔で下から見上げないで。ドキッとしちゃうから。

 

「本当に大丈夫ですか?もしや、わたくしに気を使って―――」

「違う違う。……心配してくれてありがとな」

 

セシリアが言い終わる前に否定する。手当のおかげで痛み引けてきたから大丈夫なんだよな。でも、心配してくれるのはありがたいな。

 

「セシリアの方こそ大丈夫か?」

「わたくしは大丈夫です。……龍輝さんが、護ってくださいましたから……」ボソ

 

?最後の方小さくて聞こえなかったな。まあでも、大事無くてよかった。相変わらず服掴んだままだけど。何か胸に顔埋めてきたんだけどおおお!?

 

「な、ならよかった。凰も大丈夫か?」

「アタシも平気よ。まあ、その……ありがとね」

 

ちょっと照れ臭そうにしながらも凰が礼を言ってきた。いやー二人とも無事でよかった。

 

「でも吃驚したよ。龍輝が蹴られただけでダウンするなんて」

「確かにな。蹴った方がダウンしそうなもんなのに」

 

シャルルの疑問はいい。だけど一夏、お前俺を何だと思ってるんだ。

 

「丁度古傷が疼いてな」

「古傷?」

「ああ。膝の痛みはレスラーとは切っても離せないもんだ」

 

他には腰とか首とか。

 

「意外ね。アンタにそんな弱点があったなんて」

「俺なんか全然。師匠は酷い時には膝腰肩その他いろいろな箇所を故障しながら試合してたんだぞ」

 

随分前の話だけどな。ちなみに今は完治してるらしい。やっぱ師匠はすげーや。

 

「だからアンタの師匠は何者なのよ」

「それ俺も気になってた」

「僕も」

 

そういえば話してなかったな。でも、どこから話せばいいんだろう?つーかセシリア、いい加減離れてくんない。マジでやばいから。色々なものが。

 

「ん?」

 

ドドドドドドドッ……!

 

地鳴りのような音が廊下の向こう側から聞こえる。他の面子も、セシリアでさえも顔を起こして廊下の向こうを見ている。……いやな予感がする。

時間が過ぎると同時にだんだんと音の正体の全貌が見えてくる―――っ!?

 

「「「「「!?」」」」」

 

地鳴りの正体は、大勢の女子生徒が走っている音だった。そして心なしか、こっちに向かっているようにも見える。……うん、確実に向かってきてるね。

 

「織斑君!」

「デュノア君!」

「齊藤君!」

 

あっという間に俺達は大量の女子生徒に飲み込まれた。比喩とかでなくマジで。

 

「な、な、なんだなんだ!?」

「あ、危なっ!?」

「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

 

「「「「これ!」」」」

 

女子達が一斉に何かの紙を見せてくる。すげー圧力。なになに……。

 

「『学年別タッグトーナメント応募用紙』?」

 

突き出された紙には、そう書いてあった。

 

 


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