インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第二十四話 1+1は200だ!10倍だぞ10倍!

「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする』」

 

トーナメントの申込用紙に書かれている事項を読んでいくと、そんなもっともらしい事が書いてあった。まあ実戦で一対一なんて状況、そんなないだろうしな。試合とかならともかく、路上じゃ一対多なんてのもあり得る。

ちなみにジムの先輩は昔、喧嘩売ってきたヤンキー7人を全員秒殺したらしい。師匠?あの人はそもそも売ってくる人間がいない。

 

「『なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』―――」

「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」

 

再度人垣から手が伸びてくる。バイオでこんなシーンあったよね。

 

「「「「私と組んでください!お願いします!!」」」」

 

やったーモテモテだぜ。て言えるやつ、代わってみるか?存外恐怖しか出てこないぞ。

 

「え、えっと……」

 

何かシャルルが狼狽えてる。あ、そっか。シャルルは本当は女子なんだから、女子と組むのはまずいのか。何処でバレるか分からんし。

どうにかしてやろうにも人垣の向こうじゃ……。

 

「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

どうしようかと考えてる時に一夏が大きな声でそう言った。成程、その手があったか。

 

「まあ、そういうことなら……」

「他の女子と組まれるよりはいいか……」

 

効果てきめんのようだ。一夏、グッジョブ。

 

「なら……」

「ん?」

 

……あ、そうか。

 

「「「「齊藤君!!」」」」

 

一夏とシャルルが組んだと言う事は、

 

「齊藤君、わたしと組もう!」

「いや!私と組んで!!」

「私と組んでくれるよね!?」

 

必然的に、空いた俺に集中すると言う事に……。

 

(どうすっべ……)

 

うーむタッグか。こういうのは適当に決めるとあれだよなあ。一夏と組んだ方が楽っちゃ楽だったんだけどなぁ、まあこの状況じゃ仕方ないか。

誰と組もうか。師匠曰く、「タッグを組むなら一番信頼できる奴と組め!」。今一番信頼できる奴と言えば……。

 

「悪い、俺セシリアと組むから」

 

…………

 

なんか、いやな予感がする。こういう沈黙の後は大体―――

 

「「「「えええええええええ!?」」」」

 

―――キーンって、耳鳴りが、凄い。

 

「何で何で!?」

「ちょっと何言ってるかわからない!?」

「理由は、理由は何なの!?」

 

なになになに怖い怖い怖い。何でそんな迫ってくんの怖えーんだけど。

理由つってもなあ。

 

「一緒にトレーニングとかしてるし、一番息が合いそうだから」

「うっ、意外とまともな理由……」

「確かにタッグ組むならそういう人の方がいいだろうし……」

「タッグマッチはプロレスの花だもんね。仕方ないか」

 

そう言いつつ一人、また一人ともと来た道を戻っていく。

よかった、なんとか納得してもらえたか。渋々と言った感じが大多数なのがあれだが。

 

「ふう、なんだかどっと疲れたな」

 

女子ってたまにすごい行動力あるけど、どこにあんな力あるんだろう。

あとなんか凰が一夏に食って掛かってるけど、メンドクサイし放っておこう。一夏ガンバ。

 

「事後承諾で悪いけど、俺と組んでくれるか?勢いで言ったとはいえ、さっきのは俺の本音だしさ」

 

セシリアに向かって改めてタッグの申し込みをする。女子にこういうこと言うのは初めてな為、照れ臭くて視線は合わせてない。台詞も何かキザっぽいしな。

あと一瞬あの妖怪お菓子食いが浮かんだけど、アイツも出るのかな?

 

「……」

「セシリア?」

 

返事がないな。もしかして気乗りしないとか?

 

「ああ、ソイツ気絶してるわよ」

「え?」

 

ふと、一夏と話してた凰がそう言った。言われて確認してみると、確かにセシリアは真っ赤になってダウンしていた。

 

「なな何で!?いったい何が!?」

「何でって―――」

 

凰は俺等の方を指さしながら言葉を続けた。

 

「アンタが抱きしめてたからでしょ」

「What?」

「何で無駄に発音いいのよ」

 

俺が?セシリアを?……ああ、そういえば人ごみに飲まれる直前に咄嗟に抱き寄せた、ような記憶がおぼろげにあるな。

つまり今の状況は、俺がセシリアを抱きしめて……。

 

「っ!?」ボン///

「龍輝が爆発した!?」

「アイツにも恥ずかしいって感情あったのか」

「てゆーか気付いてなかったの?一夏とは別方向で鈍感ね」

 

は、恥ずかしいいいいいいいいい!!ヤベえ状況認識したらすげー意識してきたんですけど!主に柔らかさとか、感触とか、柔らかさとか!!

 

「へ、部屋に戻って寝かせてくる!」///

 

セシリアを背中に背負って逃げるように走りだす。膝?ビキビキいってるけど気にする余裕はない。

 

「手ぇ出しちゃだめよー」

「龍輝に限ってないと思うけど」

「いや分かんねーぞ。ああいうのに限って実は―――」

「一夏テメエ!変なこと言うな!」

 

あの野郎、後でコブラツイストかけてやる!

 

 

「よっと」

 

部屋に戻ってすぐ、ベッドにセシリアを寝かせる。ここまで来るまで長かった……。廊下やら中庭やら、数々の視線をかいくぐりながらだったから、変に疲れた。ついでに膝もやばい。痛い。

 

「痛っつつ」

 

よっこらせっとベッドに腰かける。立っているよりは幾分楽だが、それでも膝は痛い。今日はスクワット出来そうにないな。

 

「上半身だけにするか」

 

いつもより軽いものになるが、仕方ない。

ベッドから立ち上がってトレーニングスペースの方に行き、ラックのプレートをシャフトに取り付けていく。歩くたびにズキズキ痛むが、これくらいなら耐えれんこともない。

 

「ううん……ここは……?」モゾ

 

どうやら気が付いたようだ。プレートを付ける音がうるさかったかな?

 

「起きたか」

「龍輝さん?あの、いつの間に部屋に……?」

「人ごみに潰されて気絶したから運んできた」

 

若干偽造したが、あんなの恥ずくて言えるか。

 

「運んでって……龍輝さんが、わたくしを?」

「そうだけど」

「……」

 

そう答えるとセシリアは考えるように沈黙した。

 

「っ!?」///ボン

「っ!?」

 

真っ赤になって爆発した!?なんかデジャブ。

 

「ど、どうした?もしかしてどこか打ってたのか?」

「だ、大丈夫ですわ!」///

 

顔を抑えて俯きつつ答えるセシリア。何かボソボソと言ってるみたいだけど、よく聞こえん。

 

「そうか。無理はすんなよ」

「お、お気遣い感謝します。あ、あの……重くなかったですか?」

「心配すんな。前に担いだ丸太に比べりゃ綿みたいなもんだから」

「それと比べられましても……」

 

あの時はきつかったな。確か約120kgくらいだっけ?ちなみに師匠と先輩たちは最低でも200kgだったはず。

 

「セシリア。話あんだけど、いいか?」

「は、話ですか?」

「ああ」

 

なんかまた顔が赤くなったような。まあ気にせんとこ。

 

「月末に学年別トーナメントがあるだろ?それがタッグ戦になってな」

「タッグ……と言う事は……!」

「俺と組んでくれないか?セシリア」

 

そう言うとセシリアは数瞬の沈黙の後、後ろを向いて何やら震えていた。ガッツポーズしてるのがちらっと見えたから、嫌がってる訳じゃなさそうだ。

 

「スゥー、ハァー……一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

 

深呼吸をしてから俺の方に向き直ってそう言った。

 

「何故わたくしなのでしょうか?遠距離特化のわたくしでは、龍輝さんのスタイルには合わないと思いますが……」

 

ふむ、確かに一理あるな。俺が組み付いたりしてる時はセシリアは(しないとは思うが)誤射の可能性があるため撃てず、セシリアが撃ってる時は俺が組み付いたりできない。

まあでも、そんなのはどうでもいい。タッグを組む際に一番重要なのは、スタイルとかではなく。

 

「一番信頼してるから、じゃ不足か?」

「―――!?///い、いえ!十分、十分ですわ!」

 

妙に返事に力が入ってるが、納得してくれたようでよかった。

 

「……龍輝さんが、わたくしを……わたくしが、龍輝さんの一番……ウフフ」///

 

なんかまたボソボソ言ってるけど、よく聞き取れないな。まあともかく、これで一安心だ。さーて、トレーニングしよーっと。

 

「龍輝さん!」

「お、おう。何だ?」

 

急に話しかけられたから吃驚した。ダンベル持つ前でよかった。

 

「一つお願いがあるのですが」

「お願い?」

 

何か嫌な予感がするけど、セシリアならそんな無茶なお願いとかはしてこないだろうし、何よりタッグを組んでもらったんだから、お願いの一つや二つ訊いてやらないと罰が当たる。

そういえば、ラウラの奴は誰と組むんだろうか?


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