インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第二十六話 基本は大事

『いよいよ始まります。学年別タッグトーナメント、一回戦第一試合。リングでは選手たちが開始のゴングを今か今かと待ち構えております』

 

この学園の人間は、こんな奴らばかりなのか?ふざけてるにも程があるな。やはりこの場所は教官にふさわしくない。

 

『実況は私、新聞部二年、黛 薫子がお送りします。そして解説はこの方』

『織斑千冬だ。今回は主審も務める、よろしく頼む』

「きょ、教官っ!?」

 

な、何故教官があんなことをしているのだ!?これもあ奴のせいなのか……!

 

「くっ!齊藤、貴様だけは絶対に許さん!」

「俺のせいかよ!」

 

カァーーーン!

 

「行くぞっ!」

「叩き潰してやるっ!」

 

ゴングと同時にまっすぐ向かってくる。馬鹿め、何も学んでいないのか。

 

『さあ開始のゴングが鳴りました。同時に齊藤選手がボーデヴィッヒ選手に、オルコット選手が篠ノ之選手に向かって行った!』

『どうやら互いに分かれて戦うつもりらしいな』

 

ある程度まで近づいたら肘を振りかぶってきた。あんなもの、避けるまでもない。

 

「ふん……」

 

手をかざしAICを発動する。あとは嬲り殺しにするだけ―――

 

バキィ!

 

―――な?

 

『おおっと!ボーデヴィッヒ選手ダウン!』

 

一体、何が起こった?奴は確かにAICで動きを封じられていた筈。なのに、何故。

 

『エルボーがいい角度で入ったな。アレは下手なパンチよりも効くぞ』

 

何故奴は肘を打てた!?

 

「き、貴様、何をした!?」

「エルボースマッシュ」

 

立ち上がり奴に問いかけるが、奴は何でもないといった様子でそう答えた。

 

「とぼけるな!AICが発動してる中、何故動ける!?」

「ああそれか。なーに簡単なことだ。AICっていうのはPICに作用すんだろ?ならそれを使わなければいい」

 

……は?こいつは何を言っている。

 

「馬鹿な。そんなことをすれば、ISは碌な機動が出来なく―――」

「空中戦はな。だが生憎俺の機体は陸戦専用だ。そんなのあっても邪魔なだけだ」

 

くっ!?確かに閲覧した映像では、コイツは一度たりとも飛んでいない。だが、ISで陸戦専用なんてありえるのか?

 

「どうした?殴り返してこないのか?それともエルボー一発でグロッキーか?軍人(ルーキー)

「っ!貴様っ!!」

 

コイツ!簡単には終わらせん!ボロ雑巾になるまで叩き潰してやる!!

 

 

龍輝とラウラが相対している一方、アリーナ内ではもう一組の戦いも始まっていた。

 

『さて織斑先生、こちらの二人の戦いの方はどう見ますか?』

『一見では、射撃特化のオルコットの方が有利だろう。単純な実力にしても、代表候補生と一般生徒では大きな差がある』

 

箒が展開してるISは『打鉄』。射撃武器もあるにはあるが、箒が装備しているのは近接ブレード一本だった。これでは実力差を埋めるどころか、余計に開くだけ。

 

『しかし、紛いなりにも奴は剣道全国チャンピオンだ。この状況の対策も織り込み済みだろう』

『成程。確かに接近すればオルコット選手に成す術はありませんし、駆け引きが重要になってきますね』

 

千冬が言った通り、箒も今日までただ遊んでいたわけではない。自身が苦手とする状況への対策、射撃武器への対策は十数通り以上立てている。あとはこの策を行使するための隙を見つけるだけだが、対するセシリアは飛行こそしていないが、ライフルの銃口を箒に向け、確実に打ち抜ける隙を窺っている。

ジリジリと互いの距離が狭まり、互いの射程距離が重なっていく。

 

「フゥー……」

 

箒は深く息を吐き出して脱力すると、セシリアをその双眸で見据え―――

 

「ハァッ!!」ダンッ

 

一気に踏み込んだ。

 

『先に動いたのは篠々之選手!大胆な行動だああッ!!』

 

真っ直ぐ、直線的な軌道ではあるものの、元々剣道の全国大会で優勝する程の実力にISのパワーアシストが加わり、その速度は常人であれば目で追うのも厳しい程だ。踏み込みにより両者の距離が急激に縮まっていき、箒はその手に持つ刀を振り上げた。

 

(もらった―――っ!?)

 

勝利、とまではいかなくとも自分に有利な状況になると確信していた箒の視界に、予想外の物体が飛び込んできた。

 

『ああっとオルコット選手!ライフルを投擲するというまさかの行動に出たああっ!!』

「くっ!?」

 

自身のスピードも加わり、あっという間に箒の視界が奪われ、彼女は反射的にライフルを刀で弾く。が―――

 

「え?」

 

―――その視界が晴れることはなかった。

 

「タァッ!」ガツン

「がっ!?」

 

新たに視界を埋め尽くしたものを理解する時間もなく箒の顔面に、その正体であるセシリアの機体『ブルー・ティアーズ』の足底が突き刺さった。

次の瞬間、箒の身体は吹っ飛び、持っていた刀は手から離れ、自身とは逆の方に飛んでいった。セシリアは蹴った反動を利用しそのまま後方に一回転し、前受け身で着地した。

 

『なななんとおおオルコット選手!まさかのドロップキックウウゥゥ―――!!?』

『打点の高い、いい縦回転式ドロップキックだ。ダグ・ファーナスを思い出すな』

 

ドロップキック。プロレスの基本的な蹴り技の一つであり、最も有名な技の一つである。その威力は意外に高く、この一発で決まる試合もある。

 

「な、何が……うぅ」フラ

 

何とか立ち上がった箒であったが、まともに受けてしまい軽い脳震盪を起こしているのか、その足取りはおぼつかない。逆に言えばその程度で済んでいるのは、ISの搭乗者保護機能のおかげというべきか。

 

「ふぅ……龍輝さんの言う通り、『こんなもの』は邪魔ですわね」ガシャン

 

ゴトゴトン

 

『おっとこれはどうしたことか?オルコット選手、自身の専用機の強みでもあるBT兵器をパージ!』

『今のオルコットには、あんなものは自身の動きを阻害する『重り』でしかないのだろう。いい判断だ』

 

オオォォ

 

突然とったセシリアの行動に、場内から感嘆の声が上がる。

 

「さぁて、まだまだ行きますわよ!」バッ

「っ!」

 

先程とは逆にセシリアが踏み込んで距離を縮める。箒は退避しようとするが、うまく足が動かずたたらを踏む。

 

「しまっ―――!」

「もらいましたわ!」ガシ

 

セシリアは組み付くと、箒の首を引いて寝かせ、そのまま脇に抱え締め上げる。

 

『距離を詰めてそのままヘッドロックだ!』

『ただ絞め上げるのではなく、骨をめり込ませるように絞めてるな。アレは効くぞ』

 

作者は以前、藤原喜明組長のヘッドロックを喰らったことがあるが、まるでまな板の上に固定されて鉈で圧されてるような痛みだった。

 

「フンッ!」ギリギリ

「ぐああっ!?」ミシミシ

 

更にグイっと絞め上げるセシリア。頭蓋骨の軋む音が観客席にまで聞こえるようであり、実際観客席からは少なくない悲鳴が上がっている。

 

「篠々之さん、ギブアップしますか?」

「ふ、ふざけるな!こんなもので、私が―――!」

「なら、これはどうですか!」グイ

「っ!」ダン

 

箒にギブアップの意思がないことを確認すると、セシリアはヘッドロックの体勢のまま体を横に捻って両膝をつき、箒を投げるとそのまま抑え込んだ。

 

「ぐうぅっ!?」ギリギリ

 

頸椎への締め付けによるダメージに加え、今度はセシリアと『ブルー・ティアーズ』の重量が箒の肺を圧迫する。

 

『ヘッドロックスロウからの袈裟固め、プロレスの基本的な流れですね』

『基本に忠実なオルコットらしい攻めだ。あの連携は基本を疎かにしてできるほど甘いものではないからな』

 

予想とは違う試合の展開に、当初のブーイングはどこへやら、観客はセシリアに歓声を上げていた。ちなみに来賓の方々は全員放心状態で現実逃避をしていた。

 

「くっ……!近接戦は苦手だったはず―――いつの間にこんな技術を!?」

「わたくしを嘗めないでください!今日までの数週間、寝る間を惜しんで龍輝さんに特訓して頂いたのですわ!」グイ

「ぐうぅ―――!?」ミシミシ

 

箒の質問に答えると、セシリアはより一層締め付けを強くする。

 

「さあ!逃げれるものなら逃げてみてくださいませ!!」

 

 

「シッ!シャァッ!」

「フン!」

 

何なのだコイツは!さっきから私の打撃を避けようともせずまともに受けている。おまけに全く効いてる様子がないなんて。

 

『齊藤選手、仁王立ちのままボーデヴィッヒ選手の打撃を受け止めているー!』

 

くっ!なら顎を揺らしてやれば―――!

 

「シッ!」シュッ

 

私の放った拳は寸分違わず奴の顎に当たった。打ち抜いた。その筈、なのに。

 

「いーい打撃だ。だがな」

 

なんだ?この感触は?まるで()()()()()()()()()()()―――。

 

「師匠や先輩達に比べりゃ、全然甘いわあっ!!」ブン

「ガアッ!?」ドザァ

 

しまった!?呆気に取られてなければ、あんなオーバーアクションの肘など喰らわなかったのに!?

 

『ロオオォォーーーリングエルボオオォォーーー!的確に打ち抜いたあああ!!ボーデヴィッヒ選手ダアアウン!!』

『インパクトの瞬間に首を回して衝撃を消し、その勢いのまま放ったか』

 

くっ!だが、この程度のダメージなら何ともない。すぐ立ち上がって、奴を見据えると、奴はのんきに頭を掻いていた。

 

「アレを喰らって立つか。ISが凄いのか、俺が未熟なのか」

 

気に食わん。コイツの飄々とした顔も、戦闘スタイルも何もかも!

 

「シッ!」

 

踏み込んで奴の顔面にストレートを放つ。予想通り奴は避けるそぶりを見せず、まともに命中した。が、効いてはいない。

 

「なら―――」ザッ

「っ!」

 

放った拳を戻さず、そのまま当てて奴の視界を奪う。

 

「これならどうだっ!!」ジャッ

 

腕を引くと同時にハイキックを放つ。ギリギリまで視界を奪っての一撃、流石の奴も只では済まん筈だ。

 

バキイ!

 

―――決まった。そう思った瞬間、私の蹴り足が下から抱えられた。

 

「流石に効いたぜ」

 

奴はそういうと私の足を抱えながら首に手を回してきた。

次の瞬間、私の身体は奴に逆さまに抱えあげられていた。

 

『なんと齊藤選手、蹴ってきた足を抱えそのまま抱えあげたーー!そしてそこから―――』

「こいつはお返しだ、釣りはいらねえぜ!」ヒュン

「ガハッ!?」バキイ

 

身体が落下したと思うと、背中から衝撃が突き抜け、私は思わず悶絶してしまった。

 

『地面に叩きつけたああああ!!』

『ボディスラムか。受け身も取らずに叩きつけられるとは、今頃肺が押しつぶされてるだろうな』

 

呼吸がうまくできない。なぜあんな投げがここまでの威力を?

 

「分かったか?これがプロレスだ」

「っ!?」

 

その声に反射的に立ち上がる。ISの保護機能のおかげか、呼吸は幾分楽になってきた

 

「肘一つ、投げ一つが殺人級。それを受けても平然と立ち上がる。それがプロレスラーだ。今一度お前に言う―――」

 

そう言うと奴は一度深く息を吸い込んでから、再び口を開いた。

 

 

「プロレスを嘗めるな!!」

 

 

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