インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第二十七話 新機能パート2!無理ありすぎじゃない?

「おらぁ!せいっだぁ!」

「ぐッ―――うっ!?」

 

左右のエルボーの連打がラウラを襲う。ガードこそしているものの、龍輝が放つエルボーは重く、インパクトの衝撃はガードを貫通してラウラにダメージを与える。

 

『嵐の様なエルボーの連打に、ボーデヴィッヒ選手成す術がない!!』

 

成す術がない―――その表現は半分当たっているが、半分違う。この状況を脱するだけなら、スラスター全開で龍輝が攻撃不能な空中に退避すればいい。そこから一方的に攻撃すればたやすく勝つことができるだろう。だがラウラの頭の中にその選択肢はなかった。完膚なきまで叩き潰すと決めた以上、そのような方法をとるわけにもいかなかったし、何より通用するとも思えなかった。

 

(クソッ!クソクソクソッ!!何なのだコイツは!?)

 

どうすれば倒せるのか。困惑するラウラの腕がはじかれ、彼女の身体がのけぞった。

 

「しま―――っ!?」

『ボーデヴィッヒ選手ピーーンチ!エルボーの連撃によってガードをこじ開けられたーーー!』

 

ラウラが体勢を立て直そうとする間もなく、龍輝はラウラに組み付き、片手を首に、もう片手を腰に回し両足と腰のバネを使ってラウラを持ち上げた。

 

「―――っ!?」

「おゥらあ!!」

 

ズドンッ!!

 

そして自身も倒れ込むように、地面にラウラの背面を叩きつけた。

 

『決まったあああああ!!本日二度目の投げえええええ!!』

『あのロックボトムの入り、どこかで……』

 

先程と同じように悶絶すると思われたラウラだが、今回は受け身をとったため先のボディスラム程のダメージはなく、すぐに立ち上がろうとする。

 

「逃がすか!」グイ

 

しかし龍輝はそれを許さず、ラウラの片足を抱えて片エビ固めで抑え込んだ。

 

『ワーン……ツー……』

「き……さまあ!!」バン

「おっと!」

 

カウントが2まで進んだところでラウラがキックアウトし、あわや3カウントという事態は免れた。

 

「おっしーなー。まあ、こんな序盤で決まっちゃ、観客も不満だろうしな」

「ふざけるな!こんな決着が許されるわけ―――」

『ここで改めてルールを説明いたします』

 

ラウラの不満を遮るようにアナウンスが流れる。

 

『決着は3カウント、ギブアップ、KOのみ。場外、及び反則カウントはありません。なお、シールドエネルギーがなくなった場合はKOとなります』

 

この説明を聞いた来賓組は完全に意識をアリーナから外し、現実逃避をしていた。合掌。

 

「な?」

「―――っ!?」

 

この時、ラウラはようやく気付いた。先程のカウントは誰の声で数えられてたかを。

 

「さあ来い。試合はまだ始まったばかりだぜ」

 

 

「フンッ!」グイ

「グゥゥ!」ギリギリ

 

龍輝とラウラが戦ってる一方、セシリアは箒を袈裟固めで押さえ、今まさに極めんと首への圧力を強めていった。

 

「な、めるなよ…オルコット……」ギギギ

「何ですって?」

「確かにこの抑え込みは強い……だが、私も武道を修めてる身……」

 

ここでセシリアは異変に気付く。基本通り胸に乗るように抑えてるのに、何故喋れる余裕があるのか。

その正体に気付く頃には、耐えてるだけに思われていた箒の状況が変わっていた。

 

「袈裟固めくらい……返せぬと思ったか―――!」グイ

「っ!?」

 

箒は体を丸めて足を上げ、その足でセシリアの頭を挟みそのまま返すと同時に上体を起こす。

 

『おおっと油断したかオルコット選手!袈裟固めを返されてしまった!』

『図らずもプロレスのムーブとなったか』

 

そのまま箒は両足で首を絞め上げようとするが、力を込める前にセシリアはポップで体をはね上げて脱出し、距離を取って相対した。

 

パチパチパチ

 

その光景に観客席から拍手が起こるが、何故起こったかを理解できる人間はこの場には数えられるくらいしかいない。

 

「なかなかやりますわね」

「そちらこそな。あのまま押さえられていたらやばかったぞ」

 

箒は立ち上がると、構えをとった。無手ではあるが、戦い方がないわけではない。そう言ってるかのようだ。

 

「今度はこっちの番だ!」

「返り討ちにして差し上げますわ!」

 

ガアァッ!?

 

「龍輝さん!?」

 

突然の悲鳴に声がした方向を向き、その光景を見た途端、セシリアは走り出していた。

 

 

「そうだ……私は教官を……」

 

先程までの激昂はどこへやら、今のラウラは熱が急激に冷めたような印象を放っていた。

 

「何ぶつくさ言ってんだ?来ないなら、こっちから行くぞ!」

 

ラウラに向かって龍輝は走りだし、そのままエルボーを放つ。が―――

 

「―――っ!?おわっとっと」

 

ラウラはスウェー気味にそれを避け。龍輝は勢いを殺しきれずたたらを踏む。

 

「へッ、まだまだ行くぞ!」

「……示さねば……」

 

更にエルボーやチョップを放つ龍輝であったが、ラウラはそれを避け続ける。

 

「やるな!これならどうだ!」ブン

 

龍輝は右腕を伸ばしラウラの喉元に向かって放つが、ラウラはダッキングで躱す。

 

『右のラリアット!躱した!』

「まだだ!」

 

ラウラが体勢を戻すタイミングで、腰の反動を使い左腕のラリアットを放つ。

 

『もう一発!おおっと―――!?』

「何!?」

『ほう……』

 

気付いた時には、龍輝の左腕にはラウラの右腕が巻かれ、両足には右足がかけられていた。

 

「おわっ!」グン

 

そのままラウラは下に潜り込むように回転し、龍輝はそれに巻き込まれて地面に倒された。瞬間、龍輝の脳裏を鋭く、ひんやりした何かが貫通した。

やばい!そう思ったときには遅く、左腕を拘束していたラウラの右腕は、彼女の左腕と共に自身の左足の足首付近に巻き付いていた。

 

「しま―――っ!?」

「フンッ!」グイ

 

バキイ

 

「――――――っ!!??」

 

音が聞こえた。聞いてはならない音、聞きたくはない音。その音を聞いた瞬間、龍輝は声にならない悲鳴を上げた。

 

『い、今何が起こったんですか?織斑先生』

『齊藤が放ったラリアットに対し、ボーデヴィッヒがカウンターのビクトル膝十字を極めた。それも痛めている左膝にな』

『怪我してるところをやられたってことですか!これは齊藤選手、ピンチです!』

 

ラウラの膝を極める力は強まっていくが、龍輝は体を捻ってポイントをずらし、そのままロックを外して脱出した。しかし、その痛みからか立つことはできず。膝を抑えてうずくまる。

 

「ぐうぅっ!?」

 

その痛みは、周りの人間には想像できない、経験した者にしかわからない痛みだ。

 

「―――形勢逆転、だな?」

「ッ!?」

「フン!」バキィ

「ガッ!?」

 

うずくまる龍輝に近づき、見下ろすように立っていたラウラは次の瞬間、顔面にサッカーボールキックを放った。

 

『強烈なサッカーボールキックが炸裂ううう!!このままKOか!?』

 

そのえげつなさからか、観客席から悲鳴が聞こえるなか、ラウラは仰向けに倒れた龍輝の左膝を思いっきり踏みつけた。

 

「ぐああああっ!?」

「さっきまでの勢いはどうした?ん?」

 

グリグリ、グリグリ。まるで虫でもすり潰すかのように膝を痛め付ける。見た目では大したことはないだろうが、古傷が開いてる今の龍輝にとっては拷問にも等しい。

 

「そういえば、インディアンにはこのような拷問方があるらしい」ガキィ

「っ!?―――ガアァッ!?」

 

ラウラが龍輝の足を複雑に絡めた途端、とてつもない痛みが龍輝を襲う。

 

『あれは、インディアンデスロックか』

『知っているのですか?織斑先生?』

『インディアンに伝わる拷問技が元のサブミッションだ。見掛けはあんなだが、そのダメージは下手をすれば一発で膝が壊れる』

 

そうしているうちにもラウラは後ろに体重をかけ、同時に更に膝が極まっていく。

 

「こ……んの、へな子があっ!」

「ハハハ!いい様だな、プロレスラー(ド素人)

 

苦悶の表情の龍輝とは真逆に、ラウラは高笑いをあげながら彼を見下ろす。

このまま膝が壊されるのも時間の問題。そう思われた。だが―――

 

「タアッ!」

「な―――っ!?ガハッ!?」

 

突然の背後からの衝撃によりラウラの体は吹っ飛び、そのまま足のロックが外れ、漸く拷問から解放された。

 

『ここでセシリア選手がカットに入る!』

『ドロップキックでカットとは、魅せに来たな』

 

膝を押さえながら龍輝は立ち上がろうとするが、ダメージのせいでよろけてしまい、セシリアの手を借りながら漸く立ち上がる。

 

「悪い、助かった」

「いえ、お礼なんて……龍輝さんはしばらく休んでいてください」

「そういう訳には、いかんさ」

 

龍輝はそう言って一歩前に踏み出すと再びラウラと相対する。更に先程までセシリアと対峙していた箒が追いつき、試合開始時と同じ構図となった。

 

「その膝でまだ私とやるつもりか?せっかく助かったのだから、もう少し大事にしたらどうだ?」

「馬鹿言え。この程度で棄権したら師匠にぶん殴られるわ。せっかく会場が温まってきたところなのによ」

 

ISの機能のおかげで多少は痛みが和らいでいるものの、それでも立っているのがやっとという状況だ。しかし、レスラーはこの程度では沈まない。

 

「それに、プロレスっていうのは、ピンチからが本番だぜ」スッ

「何を―――?」

 

手を上げ、天を指すようなポーズをとった龍輝に、周囲の人間は異様な雰囲気を感じとった。

 

「とくと見ろ!これがコイツの奥の奥の手―――」

「チッ!させるかあっ!」

 

ラウラが飛び出すが、時すでに遅し。

 

「―――来い!『ジャングル・オブ・スクエア』!!」

 

そう龍輝が叫んだ途端、『フロストTypeD・G』の拡張領域(バススロット)からユニットが飛び出し、四人を囲むように――――――

 

 

 

 

――――――アリーナにリングが出現した。

 

「な」

「な」

『な』

 

何いいいぃぃーーーーー!?

 

アリーナ内に、観客や選手、実況の驚愕の声が響き渡った。

 

『これはどうしたことかああああ!?何とアリーナの中央に、プロレスのリングが出現したああああ!?』

『見た感じ8メートル四方だな。プロレスのリングが6メートル四方だから、若干大き目だな』

 

アリーナ中央、リングの上では四人の選手が対峙していた。龍輝はロープを掴み、調子を確かめるようにロープを使いストレッチをする。

 

「貴様、なんだこれは?」

「リングだ。戦うにはふさわしい舞台だろ?」

「ふざけおって……!」

 

ストレッチを終えた龍輝はセシリアを青コーナーに下がらせ、ラウラを見据える。赤コーナーでは箒が下がり、ラウラが残っている。

 

「さあ仕切り直しだ。決着はリングでつけようぜ!」

 


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