インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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今回も長いです。


第二十九話 まだ試合は終わってねえ!!

「……名残惜しいが―――」

「ああ。楽しい時間も、もう終わりだ」

 

ああ、本当に名残惜しい。だが、同時に嬉しくもある。ここまで熱くなれたことが今まであっただろうか?先程までの怒りによる熱さではなく、身体の芯から燃えるような、それでいて心地いい熱さだ。

 

「いざ―――」

「尋常に―――」

 

プロレス、か。確かに、教官が言うだけあ―――

 

《――――――ヤツハ……》

 

「!?」ゾワッ

「勝―――!?」

 

何だ、今の声は……!?

 

《――――――キョウカンヲ……》

 

また!?頭が、割れそうだ―――!

 

『どうしたことかボーデヴィッヒ選手?突如倒れ込んでしまった!』

『あれは、もしや……』

「お、おい!どうした!?」

 

《――――――ツブス……》

 

駄目だ……意識が……もう―――。

 

「うゥうウああアァぁーー!」

 

―――きょう、かん―――

 

 

「な、なんだよこいつは……」

 

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。突然ラウラが頭を抱えて倒れたと思ったら黒い泥みたいなのに取り込まれた。しかもその泥はラウラを完全に取り込んだ後、巨大な人型に姿を変えやがった。アンドレ・ザ・ジャイアントよりもでけえんじゃないか?

 

『齊藤、オルコットと篠ノ之を連れて離脱しろ』

 

突然のことに放心していたが、織斑先生からの通信でハッと気を戻す。

 

「先生!あれは何なんすか!?」

『私の記憶が正しければ、アレは危険な代物だ。説明している暇はない、早く離脱しろ』

 

とは言われてもよぉ、あの中にはラウラがいんだろ?だったらアイツをほっといて逃げるわけにゃ―――

 

「いかねえだろうが!」

 

雄叫び一番、泥人形野郎に向かってダッシュ。距離が縮まって手を伸ばそうとした瞬間、強い衝撃で弾かれ吹き飛ばされた。

 

「ガァッ!?」

 

コーナーポストに衝突し、その衝撃で肺の中の空気を全部吐き出してしまった。酸欠でむせる。

 

「ゲホッ!ゴホッ!……チックショォ、何なんだアレは?」

 

コーナーポストにもたれ掛かりながら奴を睨みつけてると、再び織斑先生から通信が入った。

 

『アレはVTシステム。過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムだ』

「再現?カービィみてえなものか」

 

おいおい、そんなのチートじゃねえか。

 

『形状から察するに、使われてるデータはおそらく私のモノだ。今のお前では、勝ち目はない』

「……悔しいっすけどね」

 

だが、逃げようとした瞬間襲ってくるかもしれん。セシリアと篠ノ之はリング下にいるから狙われてないだけだろうから、下手に二人の傍に行く訳にもいかん。

 

「……織斑先生、すんません」

『……』

「俺はここでコイツを抑えます。三人で逃げてる途中でやられる可能性もありますし。それに―――」

 

それに、これは俺の個人的な理由だ。

 

「VTシステムだかなんだか知らねーが、俺とラウラの試合を邪魔されて、只で済ますわけにはいかねえんだよ!!」

 

さっきからずっとムカついていた。アイツは、ラウラは試合を通して俺の闘いを、プロレスを認めてくれた。アイツとの楽しい時間を邪魔されて、勝てないと言われたから、はいそうですか、って逃げれるかよ!!

 

『……フゥー。まあ、お前ならそう言うだろうとは思ったがな』

 

織斑先生は呆れたようにそう言ったが、まだ試合も終わってないのにリングを降りれるかよ。

 

「奴は俺が―――」

「うおおおおおお!!」

 

聞き覚えのある声が後方から聞こえた。首を回して視線を向けて確認すると、一夏が凄い勢いで飛んできていた。

そして一夏が俺の傍に来た瞬間―――

 

「ガフっ!?」

 

―――ラリアットで場外に叩き落した。

 

「ゴフッ!ゴホッ!―――何をするんだ龍輝!?」

「何をするんだ、だぁ?それはこっちのセリフだ!!」

 

間髪入れずに場外の一夏に向かって続けて言う。

 

「テメエこそ何乱入しようとしてやがんだ!!言い訳があるなら言ってみろ!?」

「……あいつは、アレは千冬姉のデータだ。それは千冬姉の、千冬姉だけのモノなんだ。アイツはそれを……」

 

身内を侮辱されて激情したって事か。気持ちは分からいでもない。が。

 

「言いてえことはそれだけか」

「何?」

「理由はよーく分かった。お前の性格を考えれば仕方ないだろう。だけどよ―――」

 

一拍おいて息を吸い込んでから言い放つ。

 

「これは俺の試合だ!素人が出しゃばってんじゃねえ!!」

「ッ!?だ、だけど俺は―――」

 

一夏がまたなんか言おうとしたところでスピーカーからアナウンスが流れ始めた。

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定。鎮圧のため、教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに非難すること!繰り返す―――』

 

すると観客席から悲鳴が上がり、防護用のシャッターだかが下り始めた。

……ふざけてんじゃねえぞ、おい。

 

「た、龍輝?」

「……織斑先生」

『どうした?』

「会場のスピーカーと繋げられますか?」

『もう準備はできている。思いっきりやれ』

「恩に着ます」

 

接続を確認し、大きく息を吸い込んでから口を開く。

 

『おい観客共!何勝手に帰ろうとしてやがんだ!?まだ試合は終わってないだろうが!!』

 

そう叫ぶと、悲鳴が上がりざわめき立っていた会場が一瞬で静かになった。

 

『確かに突然の乱入者のせいで、試合が滅茶苦茶になったことは詫びる。だがここから試合内容が変更になるだけで、試合自体は終わってねえんだぞ!!』

 

遠くてもわかる。今観客席の視線は全て俺に向いている。

 

『ここからはこの俺齊藤龍輝と、乱入者謎のISXこと、『魔界48号』とのシングルマッチに変更だ!このカードが見たくねえ奴だけ帰りやがれ!!』

 

…………

 

言いたいことは言った。あとは観客たちがどういった反応をするか……。

 

――――――ワアアアアアァァァァァ!!!

 

少しの沈黙の後、割れんばかりの歓声が会場内に響き渡り、俺の身体やリングを揺らした。

 

「セシリア、篠ノ之、無事か?」

「は、はい!」

「……まだ少し痛むがな」

 

二人に通信を繋ぎ、安否を確認する。よかった、なら問題ないな。

 

「二人ともセコンドついてくれ」

「ま、まさか本当に一人でやるつもりか!?」

「危険ですわ!いくら龍輝さんでも……」

 

二人の心配はもっともだが、これはプロレスで、俺の試合だ。

 

「いいからつけ。その方が逆に安心だ」

「……分かりましたわ」

「……まあ、心配するだけ無駄なのだろうな。お前は」

「ありがとな。二人とも」

 

決まったところで再びスピーカーに繋ぐ。

 

『おっしゃ決まりだ!!おいアナウンス、何ぼさっとしてんだ!?さっさとコールしやがれ!!』

『―――これよりッッ!!スペシャルシングルマッチを開始致しますッッッ!!!』

 

うおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!

 

『赤ッコオオオナアアア!!身長、体重不明。『戦慄の殺人魔神』魔界ッッよぉぉんじゅうううううッはちいいいごおおおおぉぉぉッッ!!!』

 

ワアアアアアアァァァァァァァ!!!!

 

乱入してきた悪役にこの大歓声、観客も分かってきているな。

 

『青ッコオオオナアアア!!168cm、77kg。『燃えるバーサーカーソウル』さぁいとおおおおおおおたつうううきいいいいいいいッッッ!!!』

 

ウオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!

 

観客からの歓声に右手を上げて応える。というかアナウンスの声がどう聞いても織斑先生なんだが。

 

『レフェリー、織斑千冬』

 

あの人もしかして全部兼任するつもりか?まあそんなことはいい。目の前の敵に集中しないとな。

 

 

誰しも子供の頃、テレビの向こうの存在に憧れたことがあるだろう。そして、何の根拠もなく、自分も将来そうなりたいと思うものだ。

しかし、多くは途中で挫折し、諦めてしまう。現実とはそういうものだ。

 

「すげぇ……」

 

目の前に映っている龍輝の姿は、その当時テレビで見た存在のように、俺を魅了していた。

そういえば昔、弾がネットに上がっていたプロレスの動画を見せてきたっけ。弾は熱くなってたけど、俺は「痛そうだな」くらいしか思わなかったな。

だけど、今ならあの時の弾の気持ちが分かる。上手く言えないけど、かっこいい。

 

「一夏」

「な、なんだ?」

 

急に声をかけられてつい声が上ずっちまった。

 

「特等席で試合を見せてやる。二人と一緒に俺のセコンド付け」

「え?!」

 

突然の要請に吃驚して体が跳ね上がる。

 

「い、いいのか?」

「嫌なのか?」

「そ、そうじゃないけど……」

 

けどさっきの事があるし、俺がついていいのか?

 

「さっきの事なら気にすんな。早くしないと、試合始まるぞ」

「……ありがとな」

 

何と言うか、只でさえでかい龍輝の背中が更にでかく見える。これが、プロレスラーか。

 

「ほんと、すげえや」

 

ポツリとそう呟いて、俺は青コーナー側に向かった。

 

 

『ファイッ!』

 

開始と同時に龍輝が距離を詰めるが、先に仕掛けたのはは魔界48号。その巨体から放たれた凶器攻撃(斬撃)により龍輝の身体が吹っ飛ばされロープに飛ぶ。

 

「ぐぅおっ!?―――まだまだ!」

 

しかしそのままロープの反動で跳ね返って、その勢いのまま向かって行き―――

 

「オラァ!」ガツン

 

肩からぶつかり、その衝撃で魔界48号の身体がマットに沈む。

 

『跳ね返ってショルダータックル!48号ダウウウウンッッ!!パワータイプの底力を見せた齊藤!!』

 

龍輝は今度は自分からロープに走り、反動で戻ってくるとその場で跳び肘を落とすが、魔界48号が素早く起き上がったことで逆に自分がダメージを負う。

 

『ランニングエルボードロップ!いや48号躱した!』

 

肘を抑える龍輝の正面を魔界48号の蹴りが襲う。

 

「ぐあっ!?」

『サッカーボールキック炸裂!(スーパー)ヘビー級の蹴りが突き刺さるうううう!!』

 

重い蹴りを受けダウンした龍輝だったが、よろよろとしながらも何とか立ち上がる。しかしそれを狙ったかのように魔界48号の凶刃が襲い掛かる。

 

『これは危険すぎる凶器攻撃だ!齊藤は気付いてない!』

 

魔界48号が刀を振りかぶった瞬間、龍輝の口元がニヤリと歪み、逆に懐に潜り込み顎をかち上げた。

 

「おうらぁっ!」

『カウンターのエルボースマッシュだ!これを狙っていたのか齊藤!』

 

不意の反撃に魔界48号の動きが止まり、龍輝はこの好機を逃さんとばかりにコーナーに押し込む。

 

『コーナーに押し込んだ齊藤。そのままロープに上り―――』

「いくぞおっ!!」

 

龍輝はセカンドロープに上り観客にアピールすると、その拳を魔界48号の頭に落とし始めた。

 

『連続ナックルパート!その姿はまるでキングコング!』

 

拳を打ちこむたびに観客席から「オイ!オイ!」と掛け声が上がる。それに気を良くしたのか打ち終わると両手を上げてアピールする。

 

「お?」

 

しかし次の瞬間龍輝の体が宙に浮き、数秒の浮遊の後マットに叩きつけられた。

 

「ガハッ!?」

『逆襲の超高層パワーボム!!身体がバウンドするほどの勢いで叩きつけられた!!そのままフォーーール!!』

「ぅラアッ!」

 

だが龍輝はカウントが入る前にキックアウトして脱出し、そのまま一旦距離を取って相対する。

 

「がッグっ!?」

『休む暇を与えない48号の猛攻!その巨体に似合わず軽快に攻め立てる!』

「舐めんな!!」

 

攻められながらも隙を突き放ったチョップが刀の柄頭を打ったことにより、48号の手から刀が離れ場外に落ちる。

すると今度は肘を使って攻撃を返す。

 

「か――――――ッ!?」

『今度はエルボー!体重の乗った一撃が振り下ろされるーーー!』

 

強力な一撃にさしもの龍輝もふらつく。

 

『おおっと齊藤踏みとどまった!ダウンはしない!』

 

何とか耐えたものの、周りの目から見ればあと一撃でももらえば倒れそうなほど消耗してるように見えた。

 

『48号再び振りかぶって……エルボー!!』

 

無慈悲な一撃が叩き込まれ、今度こそ龍輝の身体が崩れる。……だが――――――

 

『―――耐えたっ、耐えたああああ!!今度こそ終わりと思われた齊藤―――しかしまだその両足で、しっかりとマットを踏みしめて立っているううううう!!!』

 

だがプロレスラーは倒れない。間一髪のところで踏みとどまり、目の前の巨大な敵を睨みつける。

 

「あああああああっっっーーー!!!!!」

 

支えてるのは意地か信念か、雄叫びを上げながらチョップを放つ。バチイィーンと澄んだ音が会場内に木霊する。

 

「ぐぅっ!?」

 

魔界48号がエルボーを返すが、龍輝は少しよろけただけですぐにまた正面に向き直り、チョップを放つ。

 

『これは激しい!チョップとエルボーの打ち合いだああああ!!』

「うぅおおおおおおおおっっっっーーーーー!!!!!!」

 

龍輝がチョップを打てば魔界48号がエルボーを返し、またチョップを打ち、またエルボーが返り、チョップ、エルボー、チョップ、エルボー、永遠に続くかと思われた打ち合いも、終わりが訪れた。

 

『―――長く続いた打ち合いの末、先に膝をついたのは48号!!あの巨体に真正面から打ち勝ったあああああ!!場内大歓せえええええええ!!!』

 

理屈じゃない。己の意地と信念をかけ、魂でぶつかった龍輝が打ち勝った。ただそれだけの事。

龍輝は追撃の為ロープに走り、反動で跳ね返りその勢いを載せてぶつかろうとする。だが――――――

 

「こふっ――――――!?」

『カウンターラリアットオオオオオ!!48号まだ沈まない!!』

 

喉元を刈られ、空中で一回転してから龍輝の身体がマットに沈む。そのあまりの衝撃にリングが揺れた。

 

『齊藤ここにきてダウーーーン!!起き上がることができない!!』

 

ダウンカウント、ワン、ツー、スリー……

 

無機質な合成音声によるカウントが進むも、意識がないのか龍輝はピクリともしない。

 

 

「もう、もう限界だ!」

 

そう言ってリングに上がろうとするが、セシリアに肩を掴まれ行く手を阻まれる。

 

「落ち着きなさい。まだ試合は終わっていませんわ」

「だけど!」

「一夏の言う通りだ!たった一人でここまで……もう充分だろう!?」

 

箒の言う通り、龍輝はもう限界のはずだ。千冬姉のデータとたった一人で戦って、真正面から攻撃を受け続けて……もう、もう見てらんねえ!

 

「大丈夫ですわ」

 

そう言うとセシリアは俺の肩から手を放し、視線をリングに戻した。

 

「龍輝さんは絶対に立ち上がります。だってまだ―――」

 

セシリアは一瞬目を閉じると、再び俺等の方を向き言葉を続ける。

 

「まだ心が折れていませんもの」

 

心……

 

「何故そんなのが分かる?」

「龍輝さんには信念があります。『プロレス』という絶対的な信念が。しかし相手の方にはそれがない。只コピーしているだけの相手が龍輝さんの心を折れる筈がありません。それに……聞こえませんか?」

 

そう言われ耳を澄ますと、確かに聞こえた。ああ……これを聞いちまったら、最後まで信じてやんねえとな。

 

 

あれ?何だ此処?一面真っ白じゃねえか。

何でこんなところにいるんだ?俺は確か試合中で……。まさか落ちた!?こうしちゃいられねえ!すぐに戻らねえと……どっちに行けばいいんだ?

とりあえず適当に走ってはいるが、一向に戻れる気配がねえ。クソ!早く戻らねえと試合が終わっちまう!でもどっちに――――――

 

―――ぉ―――ぃ―――

 

ん?

 

―――さ―――い――――――お―――

 

なんか声がするな。こっちに行ったらいいのか?

近づくごとに声がはっきりと聞き取れるようになってくる。……こりゃ、早く戻らんとな。

 

 

今、場内には一つ、たった一種類の言葉が響き渡っていた。一人や二人だけならともかく、全観客が同じ言葉を発していた。

 

「「「「「「さーーーいーーーとお!さーーーいーーーとお!」」」」」

『場内、大齊藤コオオオオオル!!今、会場が一体となったああああ!!』

 

場内一斉のコールによりアリーナの空気がビリビリと震え、その衝撃はリングにも伝わった。そして――――――

 

「おおおおおおおおおお!!!!」

 

コールの中、龍輝が雄叫びと共に立ち上がり、観客もそれに応えるように絶叫した。

 

『立ち上がった齊藤!!カウントは9.9!!ギリギリで蘇ったあああああ!!!』

 

場内の割れんばかりの歓声を浴びて復活した龍輝。だがその足取りは重く、やはりダメージは抜け切れていない。魔界48号はそれを逃すまいとしてか、一気に距離を詰め攻め込んでくる。

 

『48号が行った――――――』

 

そして接近してエルボーを放つ。……だが。

 

ガシイ

 

聞こえたのは打撃がヒットした音ではなく、何かを掴んだ音だった。その音の正体は――――――

 

『アイアンクローだあああああ!!!』

 

龍輝の左手が、魔界48号の顔面を鷲掴んだ音だった。

 

「さっきのは効いたぜ……こいつはお返しだ―――」

 

そう言うと龍輝は顔面を掴んだまま脇を潜り、空いてる手で腰を掴むと全身のバネを使い持ち上げ――――――

 

「釣りはいらねえぜっ!!」

 

ダアンッ!!

 

マットに思いっきり叩きつけた。

 

『決まったアイアンクロースラムウウウウウ!!手はまだ離さない!!』

 

そのまま上体を起こし、アイアンクローを極めたままマウントを取る。

 

「パージ!」

 

そして何を思ったか、顔面を掴んだままのISの左腕パーツをパージし、自身の左腕を引き抜く。

 

「仕上げだ……フンっ!」

『なんと齊藤!パージした左腕をそのままに生身の腕でストマッククロ―!ずぶりとめり込んだ!』

 

暫く弄るように腕を動かした後、何かを見つけたのか左腕を引き抜く。

 

「おいしょおっ!!」

 

その引き抜いた手には、何かが握られていた。よく見るとそれは人の頭部らしい。

 

「ったくこのじゃじゃ馬が。手間かけさせやがって」

『魔界48号の身体からボーデヴィッヒを引き抜いたああああ!!確かに生身の腕、しかも掴むという行為ならシールドバリアーも絶対防御も発動しない!見かけによらずクレバーだ齊藤!!』

 

龍輝は引き抜いたラウラを抱きかかえなおすと一旦魔界48号から離れ、青コーナーに向かう。

 

「こいつを頼む」

「承りましたわ」

 

セコンドのセシリア達にラウラを任せると、再び魔界48号に向かう。ラウラを引き抜いたせいか、魔界48号の身体はドロドロに崩壊し始めていた。

 

「おっと、3カウント入る前に消えんじゃねえよ」

 

龍輝は魔界48号を掴んで引き起こすと脇で頭を抱え、片腕をハンマーロックの形に極める。

 

「こいつで……終わりだ!!」

 

軽く飛ぶようにして踏み込み、全身のバネを使って跳ね上げ、体を反っていく。

 

「おおおおおおうらあああああああああっっっっ!!!!!」

 

ドオォォン!!!

 

魔界48号がマットに叩きつけられた瞬間、会場内が大歓声に包まれ、そんな中カウントが数えられる。

 

「「「ワンッ!」」」

 

セコンドの三人が声を張り上げ―――

 

「「「「「ツーッ!」」」」」

 

全観客が声を揃えてカウントを数え、そして―――

 

「「「「「「「「『スリーッッ!!』」」」」」」」」

 

―――長い様で、短い死闘が、今幕を閉じた。

 

『決まったあああああ!!試合を制したのは齊藤龍輝!!14分38秒、魔神風車固めにより、魔界からの使者を打倒したあああああ!!』

 

大歓声の中、龍輝はブリッジの状態を解いて横たわってから動けずにいた。それほどまでに辛く、体力を消耗する戦いだということを物語るかのように。

 

「へ、へへ……やっと一勝……か。長かったな――――――」

 

視界の端にリングに上って駆け寄ってくる見知った顔を確認したところで、龍輝の意識は再び沈んでいった。


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