インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第三十話 最近話長くね?

「うっ、ぁ……」

 

ぼやッとした光に照らされ、ラウラは目を覚ました。

 

「気が付いたか」

 

聞き覚えがある声がした方向に視線を向けると、そこには己が敬愛してやまない織斑千冬の姿があった。

 

「私……は……?」

「全身に無理な負荷がかかったことによる筋肉痛と打撲がある。しばらくは体を休めておけ」

「……何が……起きたのですか?」

 

その質問に千冬は少し天井を仰いでから言葉を紡ぐ。

 

「ふう……。簡潔に言うぞ。お前は――――――」

 

ごくりと生唾を飲んで身構えるが、次に続いた言葉は予想の斜め上を行くものだった。

 

「黒のマスクを被ったことで洗脳され、魔界48号となっていた」

「はい?」

 

あまりの衝撃にラウラの目が点になる。

 

「そして齊藤とシングルで対決し、魔神風車固めによりピンフォール負けした。久々にいい試合を見せてもらったよ」

「あ、あの教官……」

「―――ここまでが表向きの話だ」

 

唐突に千冬の雰囲気が変わる。同時に言い知れぬ緊張がラウラの身体を巡った。

 

「VTシステムは知ってるな?」

「は、はい……。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで……まさか」

「そうだ。先程言った黒のマスクがVTシステムだ。条約で使用を禁止されていたものがお前のISに搭載されていた」

「…………」

「本来ならもっと大きな問題になる筈だが、少なくとも学園内では只の演出と言う事で落ち着いている」

 

その言葉を聞き、ラウラは驚きのあまり顔を上げる。

 

「まったく、齊藤に感謝しろよ。あ奴のマイクが無ければこうはならなかったのだからな」

「どういう事ですか?」

「先程も言った通り、公式な記録ではお前と斎藤の試合中に突如魔界48号に変貌し、急遽シングルマッチに変更して齊藤と対決、14分38秒ピンフォール負けとしか記録されていない。これも齊藤がマイクで()()()()()()()()()()()と周りに思わせたからだぞ」

 

あまりにもな内容にラウラは戸惑いを隠せず、視線が宙を泳ぐ。

 

「おかげで何の追及もお咎めもなしになったんだ。感謝するんだな」

「……奴は」

 

一通り千冬が言ったところで、ポツリとラウラが口を開いた。

 

「何故、そんなことをしたのでしょうか?」

「……さあな」

 

ラウラの問いにそう答えると、千冬はラウラのベッドと窓側のベッドを隔てるカーテンに歩み寄ると、そのカーテンの端を掴む。

 

「それは本人に訊け」シャー

「あ……っ」

 

千冬がカーテンを開けると、そこにはもう一つのベッドに横たわり寝息を掻いている龍輝の姿があった。

 

「な、何で……?」

「試合が終わったらぶっ倒れてな、お前と同じようにここへ運ばれた。まあ、筋肉のおかげかダメージはそれほどでもないみたいだがな」

 

見れば身体に包帯は巻かれているものの、寝てる姿はとても安らかで先の激戦の後というのを感じさせない。いや、激戦の後だからこそぐっすりと眠っているのだろうか。

 

「私はこれで失礼する。あとはソイツとじっくり話し合うんだな。面会謝絶と言ってあるから邪魔は入らん」

「え、あの教官…………」

「ああ、それから」

 

千冬はドアに手をかけたところで再度、ラウラに向かい言葉を投げかける。

 

「お前は私にはなれない。お前がなれるのは、お前だけだ」

 

千冬はそう言うとドアを開け、部屋から退出した。部屋には試合の当事者二人が残され、内一人はのんきに寝息を立てている。

 

「話し合え、と言われても―――」

 

何を話せば……そう呟こうとした時、隣のベッドからさっきまでの寝息とは違う声が聞こえた。

 

「むー……?ここは……保健室か?」

「っ!?お、起きたか……」

「ん……ああ、ラウラか」

 

つい反射的に声をかけるがその後に言葉が続かず、振り向いた龍輝と目線があったまま沈黙してしまう。何を話すか、そう悩んでるうちに龍輝が先に話しかけた。

 

「怪我の具合はどうだ?」

「え、あ……大したことは無い。むしろお前の方が酷いのではないのか?」

 

そう訊くと龍輝はフッと笑ってから答える。

 

「この程度、ジムに通ってた頃はしょっちゅうだ。むしろ軽いくらいだぞ」

「そう、か……」

 

本当に龍輝が通ってたジムとはどんなところなのだろうか。

 

「……色々聞きたいことはあるが、ひとまず礼を言っておく」

「礼?何のだ?」

 

?マークを浮かべる龍輝に、ラウラはさらに続ける。

 

「……先程、教官から聞いた。VTシステムの件、お前のおかげで大きな問題にはならなかったと」

「問題って、ありゃ只の演出だ。そんなんでいちいち大騒ぎしてらんねーだろ」

 

その返答にぽかんと口が開くラウラだが、すぐにハッと気を戻すと強く問いかける。

 

「演出って……一歩間違えば死ぬかもしれなかったんだぞ!?」

「あの試合はプロレスだったんだぜ。間違ってもあり得ねーよ」

「何故……そう言い切れる?」

 

その問いを聞くと龍輝はベッドから上体を起こし、身体ごとラウラの方を向いてから答える。

 

「そうさなあ……何でプロレスは反則は5カウント以内OKで、即刻失格にならないと思う?」

「……お前と闘う前の私なら、ショーだからと答えていただろうな」

 

その言葉を聞いて龍輝の頬が緩む。

 

「これは昔師匠から聞いた話なんだが、プロレスっていうのは平和の象徴なんだと」

「平和の象徴?アレがか?」

 

さっきとは逆にラウラが?マークを浮かべ、その反応を見て龍輝はさらに言葉を続ける。

 

「そ。相手を倒したいんなら何もリングの上でやる必要はない。極端な話、暗がりからナイフで刺したり遠くから銃で撃っちまえばいい。だけどどんなに恨みがあろうと俺達はリングの上で闘う。確かに他の格闘技に比べりゃ危険なルールだが、プロレスラーはそれを承知でリングに上がっている。例えパイプ椅子で殴られようが一斗缶で叩かれようが、真正面からぶつかり合えば悪感情なんかすぐに吹っ飛ぶ。どんなに敵対していてもリングを降りたらノーサイド、だからプロレスは平和の象徴なんだ―――って言ってたな」

「……成程、な」

 

そう呟くとラウラは思い返すように天井を仰ぎ、再び口を開く。

 

「確かに、始めは殺したいほど憎んでいた筈だったが、いつの間にかその感情は消えていてただお前との闘いを、試合を楽しんでいた」

「な、プロレスってすげえだろ?」ニッ

「フフッ、確かにな」

 

龍輝に釣られてか、学園にきてから初めてラウラが笑顔を見せた。そして一度目を伏せると意を決したように龍輝の目を見据え、最後の問いを投げかける。

 

「……なあ」

「ん?」

「お前にとって、強さとはなんだ?」

 

真剣な様子で問うラウラに、龍輝は少しだけ間を置いてから答え始める。

 

「……魂の強さ、だな」

「魂……」

「プロレスには不思議な力がある。自分の魂を燃やして、その熱い気持ちを、プロレスに対する情熱を互いにぶつけ合って全力で真正面から闘うことで、ファンの人に勇気と元気を与えられる。非科学的って思われるかもしれないけど、俺達はその力を信じている。だから俺達はリングに上がり、どんな相手にもぶつかっていける。その為には魂が強くないといけない。魂が強い人間は、どんな困難があろうともそれを乗り越えていける。だからプロレスラーは強いんだ」

 

龍輝が話し終わった時、ラウラはその表情を曇らせており、龍輝はそれに気づくと慌てて場を和ませようと口を開いた。

 

「つっても、これも師匠からの受け売りなんだけどな。あはは……」

 

しかしそれでもラウラは俯いたままで、なんとなく気まずくなった龍輝は視線を外す。しばらく沈黙が続き、どうしたものかと考え込む。

 

「……私は、欠陥品だった」

「おいおい、どうした突然?」

「只の昔話だ……」

 

その沈黙はラウラの口から放たれた発言により破られる。その発言の内容に龍輝は少し茶化す感じで返すが、とてもふざけてる雰囲気ではないため、真剣に話に耳を傾ける。

 

「ある事故のせいで、私は軍から『出来損ない』の烙印を押され、部隊員からも欠陥品と呼ばれた。酷いもんだったよ、まるで深い沼に嵌っていくような……。そんな中あの人が、教官が現れて、私を救ってくれた」

 

ラウラが指す人物が誰なのか、龍輝は聞かなくても分かった。自分たちの担任であり鬼教官、織斑千冬その人だと。

 

「教官の指導を受けている内に私は、深く、強く、あの人に憧れていった。その強さに。凛々しさに。自分を信じる姿に、焦がれた。いつしか私は、あの人の様になりたい。……そう思うようになった」

 

龍輝は話を聞いている内に妙な親近感を覚え、彼女に自分を重ねていった。

 

「だが、どこまで行っても私は私、あの人になれる筈もない。それに、先程教官から言われたよ。『お前は私にはなれない』―――とな。なあ、齊藤。私が今までやってきたことは、あの人になりたくてしてきたことは、全部……無駄だったのだろうか?」

 

自嘲気味に問いかけるラウラに対し、龍輝は表情を変えず、間髪入れずに返答する。

 

「いや、無駄じゃねえだろ。そのやってきたことがあって今のお前が存在してんだから」

 

予想だにしなかった返しに、ラウラは目を見開き閉口する。それでもお構いなしとばかりに龍輝は続けて言い放つ。

 

「俺だって師匠みたいなレスラーになりたくて鍛えてるわけだし、俺に限らず誰だって初めは誰かの模倣から始まるもんだ。そこから自分に合うもの、合わないものを見極めて自分の闘い方(スタイル)を確立させていけばいい。たぶん織斑先生も、そういうことを言いたかったんじゃないか?」

「あ……」

 

自分のスタイル、そんなことを今まで考えたことがあっただろうか。いや、憧れに目が眩み、そんな簡単なことも見えていなかったというべきか。

そのことにラウラはショックを受け、それと同時にただ憧れていただけの自分とは違う龍輝の存在が急に眩しく思えた。

 

「私は……『私』になれるだろうか……。あの人の、模倣をすることしかできなかった私が……」

「今までやってこなかったんなら、これからやっていけばいいさ。恐れず行動していけば、必ず変わっていける」

 

龍輝のその言葉を聞いた瞬間、ラウラは目頭が熱くなり、自身の頬を何かが伝っていくのを感じた。

 

「だからそんなくよくよすんな。それに、もしどうすればいいか分からなくなったら―――」

 

涙で濡れたラウラの目をしっかり見つめ、龍輝は言い放つ。

 

「―――そんときゃ俺が面倒見てやるさ。まだまだ未熟者だが、道標くらいにはなってやるぜ」

 

そう言った龍輝の顔は、きっと笑っていたのだろう。目が霞んでよく見えなかったものの、ラウラにはそれがはっきりと分かった。

 

「……話してたらなんか疲れてきたな。もっかい寝るわ、おやすみ」

「え、あ……」

 

そう言うと龍輝は再びベッドに横になると十秒と経たずに寝息を立て始めた。その様子にラウラは何故かおかしくなり、小さく笑いが込み上げた。

 

「ふふっ……本当に強いのだな、お前は」

 

敗けたな。そう思ったラウラの心中は穏やかで、心地よさすら感じている。

ふと気づけば心臓が早鐘の様に音を鳴らし、ラウラの心にある思いが生まれていた。

 

(ああそうか……私はこの男に、齊藤龍輝に――――――)

 

夕暮れの太陽が照らす保健室に、龍輝の寝息がこだまする。

 

 

トーナメントの翌日、『先に行ってて』と言ったシャルロットと食堂で別れて俺は教室に向かっている。

昨日はあの後もいろいろあったな。龍輝がぶっ倒れて面会謝絶になったり、買い物に付き合うと言ったら箒に叩かれたり、シャルロットと何故か一緒に風呂に入ってそこで『シャルロット』という本名を教えてもらったり。

そんな事を考えてると教室が見えてきた。だけど何か様子がおかしい。何故かは分からんが凄い人でごった返している。

 

「いったい何があったんだ?」

 

教室の中を覗いてみると、中までぎゅうぎゅう詰めってことはなく、列になって並んでるようだった。

 

「ちょっと失礼」

 

一言声をかけて人ごみの中を通り教室の中に入ると、その原因はすぐ分かった。

 

「よー一夏。遅かったな」

「何やってんだ龍輝?」

 

そう、この列は龍輝の机の前に並んでいた。そして当の龍輝は手に持ったペンで渡されたノートとか色紙に何かを書いている。

 

「サイン頼まれてな」

「いや、それは見ればわかるけど」

「皆昨日の試合でたっつんのファンになったんだってー」

 

突然出てきたのほほんさんが補足してくれた。成程、合点がいった。

 

「んでこの状況に嬉しいながらも嫉妬心を感じて葛藤しているセッシーがあちらに」

 

指差された方を見ると、確かにセシリアが自分の机で頭を抱えて何やらブツブツ言っているようだった。まあ、自分の好きな男子が人気者になったらそりゃ複雑だよな。でもあれはファンとしてだから心配する必要ないと思うぞ。

 

「貴様ら、いつまでたむろしているつもりだ。さっさと教室に戻れ」

 

やけにドスの利いた声が教室に響き、並んでいた女生徒達がクモの子を散らすように自分の教室に戻っていく。いつの間にかチャイムが鳴っていたらしい、入り口には鬼教官千冬姉の姿が―――

 

バシン

 

「貴様も何を突っ立っている。さっさと座れ」

「はい……」

 

相変わらず痛い。

 

「山田君、HRを」

「は、はい!えーと、今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します」

 

転校生?もうすでに二人も転校生が来てるのに?

 

「じゃあ、入ってください」

「失礼します」

 

あれ?この声って―――

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

山田先生に呼ばれて入ってきたのは、以前とは違いスカート姿のシャルルだった。あれ、シャルロット?どゆ事?

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです」

 

成程、隠し通すよりもカミングアウトする道を選んだか。詳しくはあとで訊こう。だって―――

 

「え?デュノア君って女……?」

「美少年じゃなくて美少女だったわけね!」

 

教室内がめっちゃざわついてるし。シャルル―――いや、シャルロットと一夏には昼飯でも食いながら説明してもらえば――――――

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ってたわよね!?」

 

―――前言撤回。一夏、お前には今から尋問をする。

 

「一夏」

「た、龍きゅぶっ!?」

 

速攻で一夏の頭をヘッドロックで捕らえる。

 

「お前コノヤロウ!俺がぶっ倒れてる間に何一人だけいい思いしてんだアアン!?」ミシミシ

「こ、これには訳がアアアアアっっ!?」

「言い訳かいい度胸だ。ならこいつだ!」

 

ヘッドロックを外してバックに回り、左足を絡めて右脇を潜り首を抱え込むようにクラッチして上半身を捻り上げる。

 

「こ、コブラはやば痛ってえええええ!!?」

 

はっはっは!いい気味だ!このままストレッチボムで叩きつけて―――

 

「一夏ぁっ!!!」

 

―――やろうとした時、教室の扉が凄い勢いで開かれ、憤怒の表情の凰が登場した。

そしてISを展開すると両肩の衝撃砲を……って!?

 

「死ね!!!!」

「ちょっ待っ!?」

 

俺ごとかよ!?このままじゃコイツの巻き添えで死――――――

 

ズドドドドオンッ!

 

…………あれ?何ともない?一夏が床に転がってるのは反射的にコブラのロックを外したからで、当たってたら悶えるぐらいじゃ済まんだろうしな。

 

「…………」

 

意外や意外。俺達と凰の間に入ってきたのは朝から姿が見えないラウラだった。その姿はISを纏っており、そのおかげで無事だったのか。

 

「わりい、助かっ―――むぐっ」

 

礼を言おうとした瞬間、グイッと引き寄せられ、唇に何か柔らかいものが……?

 

「…………?」

「お、お前を私の嫁にする!これは決定事項だ!」///

「……Why?」

 

え?いやちょっと待って?嫁?誰が?俺が?

 

「俺男だぞ?」

「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 

それごく一部の人達の習わしだから。

 

「それに……」

 

というかさっきのって……俺初めてだったんですけどお!?

 

「面倒を見てくれるのだろう?」

 

いや言ったけど、そういう意味じゃないよ!?

 

「―――龍輝さん?どういうことか説明してくださるかしら」

 

ギギギ、と首を声のした方に向けると、ものすごい威圧感を放っているセシリアがISを展開して近づいてきていた。殺意の波動って、ゲームの中だけじゃなかったんだな。

 

「い、いや、俺にも何が何だか」

「説明も何も、昨日嫁に言われたのだ。『お前の面倒を見てやる』とな」

 

だからそういう意味じゃないって

 

「何を戯言を……。龍輝さんはわたくしに『一番信頼している』と言ってくださいましたわ!」

「何だと!?」

 

なんかすごい拗れてる。

 

「なんか、アンタ見てたら怒り収まってきたわ」

「アハハ、龍輝って人気者だねえ」

「たっつんファイト」

「いや助けてくんない!?」

 

アイツらは完全に傍観者になってるし、一夏は未だ床に転がってるし、織斑先生は笑ってるし……詰んでね?

 

 

~♪~♪

 

二人の口論が激しくなる中、不意に軽快な曲が流れだし、それを疑問に思ったのか二人の口論も止まる。

よく聞くとその曲の音源は龍輝のケータイだと分かり、教室中の視線が龍輝に集中する。

 

「あ、電話か」

「今回は見逃すが、次からは電源を切っておけよ」

「すいません」

 

注意してきた千冬に謝罪しつつケータイを取り出す。どうやら誰かが電話をかけてきたらしい。

こんな時に誰だろう?そう思った龍輝が画面を確認すると、そこには―――

 

「―――っっっ!!??」

 

―――龍輝の師匠の名前が表示されていた。

 

「ちょ、ちょっとすいません!」

「龍輝さん?」

「どうしたのだ嫁よ?」

 

困惑する二人をよそに、龍輝は通話ボタンを押して電話に出る。その慌てっぷりは普段から想像つかない程だ。

 

「お疲れ様でございます!龍輝でございます!―――はい」

 

龍輝は電話の主に答えながら廊下に移動し、通話を続ける。

残された者たちは特に会話をするでもなく、ただ龍輝が出て行った扉を見つめ、声に耳を傾けていた。

 

「―――はい―――本当ですか!?ありがとうございます!」

 

聞こえづらくなったこともあり、どんな話をしているのかさらに想像がつかない。

 

「―――はい。よろしくお願いします!失礼いたします」

 

ようやく通話を終え、龍輝が教室に戻ってきた。何故か疲れ切った様子だったが。

 

「あの、龍輝さん、今のお電話は……?」

「…………」

 

セシリアの問いに、龍輝はすぐには返答せず、軽く天井を仰いでからようやく答える。

 

「試合が、決まった……」

 

後に、生徒達は言う。あれがこの日で一番の驚きだったと。

 

 

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