インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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新章突入です。


龍輝試合編 Wave the NEW GENERATIONS
第三十一話 帰省inYAMAGATA


《間もなく、米沢―――》

「あと1時間か……」

 

もう山形に入ったか。今俺、齊藤龍輝は地元に向かう新幹線に乗っている。

何故こうしているか、話は昨日に遡る――――――。

 

――

―――

 

「し、試合!?もしかしてプロレスの!?」

「ホントなの齊藤君!?」

「とうとうプロデビュー!?」

 

試合が決まったのを伝えたらクラスの女子たちがすごい迫ってくる。恐い。

 

「貴様ら落ち着け……齊藤」

「は、はい!」

 

織斑先生の一声で静かになった、と思ったら矛先がこっちに。なんか怒ってる?

 

「まずはおめでとう、よかったな」

「あ、ありがとうございます」

 

いや正直吃驚した。

 

「それで、試合はいつだ?」

「7月4日に、山形の総合スポーツセンターで。詳しい時間とかはまだっす」

 

そう答えた途端、周りの女子達がどよめきだした。

 

「や、山形かあ……」

「ちょっと遠いね」

「お小遣い足りるかなあ……」

 

まあそうなるよな。新幹線でも3~4時間かかるし。

 

「4日か……臨海学校の2日前だが、まあ大丈夫か」

「そうっすね。そういう訳で練習のため明日から帰省しますけど」

「本来であれば認められないが、試合なら仕方ない。頑張れよ」

 

意外とあっさり許してくれたな。まあいいや、授業終わったらさっさと荷物纏めないとな。

 

「龍輝さん!」

「嫁っ!」

 

キレーにハモったな。そういえば二人のこと忘れてた。

 

「龍輝さんが帰省されるのでしたら、わたくしも付いて行きますわ!」

「嫁と私は一心同体、まさか置いていくとは言うまいな!?」

 

強い口調で迫ってくるセシリアとラウラだったが、そのせいで気付いていない。後ろから迫ってくる鉄拳に……。

 

ゴッ!

 

「いっ!?」

「がっ!?」

「貴様ら、堂々とさぼり宣言とはいい度胸だ」

「さ、さぼりだなん―――」

「私は只、嫁と一緒に―――」

 

そこから先を二人は発することが出来なかった。対象でない筈の俺でさえ織斑先生の圧で肌がピリピリしている。

 

「まあ、行くのがダメって訳じゃないんだから、試合の日に来ればいいじゃん。歓迎するぜ?」

「「……」」

 

一応フォローはしといたものの、二人は目に見えて落ち込んだままだ。大丈夫だろうか?

 

―――

――

 

結局あの日は一日中落ち込んでたな。朝も見送りはしてくれたけど、あの調子じゃ織斑先生の鉄拳喰らってるだろうな。そんなに俺の地元に来たかったのだろうか?

 

《間もなく―――》

 

回想してる間にもう着くな。正直一時間も経ってるようには感じないけど、気にしちゃいかんな。

棚から荷物を下ろして肩に担ぎ、出口の方に向かう。切符は、ちゃんとあるな。

 

《―――に到着です。お忘れ物のないようにお願いします》

 

プシュー

 

新幹線から降りると、変わらぬ光景が俺の視界一杯に入ってきた。

 

「よっと。久しぶり……って感じはあんましないな」

 

とはいえ約三か月弱ぶりの地元だ。空気を吸い込むと懐かしい匂いと味がした。

このままぼーっとしているわけにもいかないので、改札に行き駅員に切符を渡して駅の外に出る。

 

「えっと、確かもう来てる筈なんだけど……」

「龍輝」

 

聞きなれた声に反射的に振り向くと、そこには出迎えに来てくれたガタイのいい人物が立っていた。

 

「翔さん!お久しぶりです」

「おう、しばらく見ない間に少しは体でかくなったみたいだな」

 

俺を出迎えに来てくれたのは、ジムに通ってた頃世話になっていたキッククラスの先生だった。

 

「女子高でデレデレして鈍ってるんじゃないかとみんな心配してるぞ?」

「大丈夫ですよ、ちゃんと毎日たらふく食って鍛えてますし」

「ならいい!はっはっは―――ところで」

 

話に花を咲かせてると、視線はそのままに不意に俺の後ろを顎で差してこう言った。

 

「後ろの嬢ちゃん達はお前の知り合いか?」

「後ろ?」

 

何か嫌な予感がしながらも刺された方向を振り向くと――――――

 

「……何でいんの?」

 

今朝見送ってくれたはずの金髪お嬢様と銀髪ロリッ娘が立っていた。

 

「初めまして。わたくし、龍輝さんの”パートナー”を務めております、セシリア・オルコットと申します」

「お会いできて光栄です。私はラウラ・ボーデヴィッヒ、彼とは将来を約束した仲です」

 

表面上は穏やかな二人だが、俺には見える。二人の笑顔の間に飛び散ってる火花が。

 

「あっはっは!なかなか面白い娘達だな!おっと、自己紹介がまだだったな。俺は川戸(かわと)(しょう)。キッククラスのコーチをしている。よろしく頼むぜ、嬢ちゃん達!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

「よろしくお願いします」

 

いや、普通に挨拶してる場合じゃ……はあ、まあいいか。理由はあとで訊くことにしよう。何かもう、メンドイ。

 

「まあ積もる話もあるが、それはおいおい……三人とも車に乗ってくれ、早速ジムに行くぞ」

 

そう言って翔さんが駐車場の方に歩きだしたので、俺達もそれに続く。どうやら近くの方に停めてたみたいで、ちょっと歩くとすぐに車が見えてきた。

余談だが、翔さんの愛車はGT-R(BNR32)という車なのだが、中古で300万したとかで、購入後奥さんにこってり絞られたらしい。

 

「嬢ちゃん達は後部座席だ。龍輝、シート避けてやれ」

「はい。―――よっと、二人とも乗ってくれ」

「ボーデヴィッヒさん、お先にどうぞ」

「いや、貴様から先に乗れ」

「どっちでもいいから早く乗れ」

 

結局セシリア、ラウラの順に乗ることになった。ラウラの奴、何か上機嫌だな。

 

「よーし全員乗ったな。シートベルトは着けたか?じゃあ行くぞ―――!」

 

駅からジムまで大体15分くらいか。ちょっと予定外の事が起こったけど、試合まで時間がないから、しっかり練習しないとな。

 

 

龍輝が帰省してから、セシリアとラウラがいなくなったことで(多分龍輝に付いて行った)多少の騒動はあったものの、その後は概ね普通の日々が過ぎていった。

そして数日後のある日のHR。何か千冬姉の様子が昨日と違う。うまく言えないけど、なんかそわそわしてるような……。

 

「あー、諸君……早速だが重要なお知らせがある」

 

お知らせ?いったい何だろうか。

 

「7月4日に齊藤が地元山形で試合をすることは憶えているな?この中で、齊藤の試合を観に行きたいと思っている者はどれくらいいる?」

 

その言葉に教室中の生徒全てが挙手をして応えた。箒も小さくだが手を上げている。

 

「全員か……丁度いいな」

「?」

「実は昨日、齊藤が通ってたジムから私宛に郵便が来てな。中を確認したところ、私と山田先生を合わせたクラス全員の分のチケットが入っていた。無論、新幹線のチケットと旅館の案内も一緒にな」

 

……え、マジで?

 

「……ということは」

 

誰が言ったのか分からないその言葉の返答を、クラス全員が待ち望んでいる……そんな錯覚すら感じる。

 

「喜べ貴様ら、全員観戦に行けるぞ」

 

ワアアアアアアアアア!!!!

 

「やった!やったよお母さん!」

「普段の行いがいいから神様がご褒美をくれたのよ!」

「山形の美味いもの一杯堪能するわ!」

 

なんか目的が違うのがいたけど、まあそんなことはどうでもいいか!

龍輝の地元か、楽しみだなあ。一体どんなところなんだろうな?




新章記念に龍輝のプロフィールを簡単にまとめました。

名前―齊藤龍輝(さいとう たつき)
年齢―15
誕生日―8月26日
身長―168cm
体重―78kg(増量中)
得意技―スープレックス、バックブリーカー

気が向けば追加します。

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