インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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前話からかなり時間が空いてしまいました。話もあまり進んでないですが、読んでくれたらうれしいです。



第三十二話 え?知り合い?

「ついにやってきたぜ!龍輝の地元、山形に!」

「叫んでないでさっさと改札へ行け」

 

千冬姉に怒られちまったぜ。え?テンション高いって?みんなこんな感じだぞ。

 

「切符拝見します」

「あ、はい」

 

駅員さんに切符を渡して改札を出る。今時自動改札じゃないって、珍しいな。

 

「遅いぞ一夏!」

「わるいわるい」

 

改札を抜けて外に出ると先に出ていた箒がぷりぷりと怒った様子で立っていた。

 

「しっかし何もないわね。アイツの地元っていうからどんな所かと思ったら、只の田舎じゃない」

 

おいおい鈴、そんなこと言ったら失礼だぞ。

 

「まさか貴様まで招待されていたとはな。クラスが違うだろうに」

「龍輝が気を使ったんじゃないか?」

「にしても一組全員だけじゃなくてアタシまで招待するなんて、アイツの師匠って何者なのよ」

 

それは皆共通の疑問だな。前々から訊こうとは思っていたけど、なぜだかタイミング合わないんだよな。

 

「三人とも、バス来たみたいだよー!」

 

シャルの声に反応して整列場所の方を見ると、ロータリーにデカ目のバスが停まっていて、その前にクラスの生徒達が続々と並んでいく。

 

「行くぞ、一夏」

「遅れて千冬さんに叩かれても知らないわよ!」

 

二人に続き、俺も整列場所まで駆け足で向かう。山形まで来て千冬姉の制裁なんて受けたくないからな。

ちなみにシャルは既に整列していた。ちゃっかりしてるな。

 

 

バスに揺られること三十分、宿泊先の旅館のある温泉街に到着したが、なんというか、圧巻の一言だ。

 

「なんか、古い感じね」

「まだこのような町並みが残っていたとはな」

 

箒の言うとおり、この温泉街は大正ロマン溢れるような古い町並みで、どこかほっとするような雰囲気がある。

 

「へえ~、あの鉱山って見学できるんだ。あとで観に行こうかな」

 

シャルなんてもうこの後の予定たててるし。確かチェックインの後自由時間だっけ?俺もどこか観てこようかな。

 

「全員いるな。これより旅館へチェックインしたのち、各自自由時間だが、羽目を外し過ぎて迷惑をかけないようにな」

 

「はーい!」と全員返事はしたものの、やはりどこか浮かれてる感じがする。そういう俺もだけどな。

 

「山田先生、後は頼む」

「はい。生徒たちの事は任せてください」

 

そんな会話が聞こえた後、山田先生は生徒たちの方に向かい、千冬姉は時刻を確認しつつ駐車場の方に視線を向けていた。

 

「あれ?千冬姉どっか行くの?」

 

ガツンッ

 

痛い……。

 

「織斑先生だと何度言ったら分かるんだ、馬鹿者」

「すみません……」

 

いい加減俺の脳細胞死滅しかけてるんじゃなかろうか。

 

「まったく。今回の礼も兼ねて挨拶に向かうだけだ」

「挨拶って、龍輝のジムに?」

「そうだ。しかもアポを取った際に、場所がわからないだろうからと迎えを寄越すと言ってくれてな。まったく、頭が下がるよ」

 

マジか。もの凄くいい人だな。増々気になってきた。

 

「予定ではもうすぐなんだが……」

 

と千冬姉が呟いた時、一台の車が駐車場に入り、空いてるところに停車すると、二人の人間が車から降りた。そのうちの一人が俺達の方に駆け足で近づいて……

 

「龍輝?」

「よー一夏、久しぶり」

 

うん久しぶり。と言っても数日だけどな。

 

「織斑先生、お久しぶりです。今回は自分のわがままを聞いていただき、ありがとうございます」

「いや、気にしなくていい。ところで―――」

「おい龍輝、自分だけ先に行くなよ」

 

気付くと車の駐車を終えたらしき運転してたと思われる人が近くまで来ていた。

 

「すみません翔さん」

「まあ気持ちは分かるがな。初めまして、キッククラスのコーチをしている川戸翔といいます。いつも龍輝がお世話になってます」

 

デカい。丁寧な口調で名乗っていたけど、こういっちゃあれだが見た目に全然合わない。身長は180超えてるくらいで、服を着ていてもそのゴツさが全然隠れていない。足とかパンパンだし。

 

「これはご丁寧に。私は彼のクラスの担任の、織斑千冬です。迎えが来るとは聞いていましたが、まさかWMF(=世界ムエタイ連盟)ヘビー級チャンピオンが来られるとは」

「元、が付きますがね。こちらこそ、こんな美人の先生が来られるなんて思いませんでしたよ」

 

美人、ねえ。確かに千冬姉は弟の俺から見ても綺麗だとは思うけど、中身がなあ……。

しかし、この人が龍輝のジムの先生か。思ってたのより優しそうだな。

 

「織斑、お前も挨拶しろ」

「は、初めまして、龍輝のクラスメイトの織斑一夏です!」

 

変に緊張したせいで声が上ずっちまった。恥ずかしい。

 

「ああ、君が。龍輝から話は聞いてるよ。よろしく頼むぜ」

「よ、よろしくお願いします!えっと……川戸さん?」

 

差し出された右手を握り返すと、ゴツゴツした感触が手に伝わった。どんなトレーニングしたらこんな手になるんだ?

 

「翔でいい。どうも名字で呼ばれるのは苦手でな」

「わ、分かりました―――翔さん」

 

何だか思っていたよりもフレンドリーで、先生というよりアニキ、といった感じの人だな。

 

「そうだ、一夏もジムに来いよ」

「え?いいのか?」

「いいに決まってるだろ。ですよね?翔さん」

 

そう言って龍輝が伺いを立てると、翔さんは笑顔でサムズアップをした。どうやらOKのサインらしい。

 

「よろしいのですか?」

「いいんですよ、客は多い方が賑やかでいい。うちのオーナーもそう言うと思いますし」

 

いいのか。ジムの人たちみんなこの人みたいなのかな?何はともあれ、とうとうジムが見れるのか、楽しみだなあ。

 

「「ちょっと待ってください(待ちなさい)!!」」

 

……この声は。

 

「何一人だけどっか行こうとしてんのよ!?」

「一夏が行くなら私も行きます!」

「ごめん、止められなかった……あと僕もちょっと気になってたし」

 

声のした方に振り向くと、箒と鈴がデーンという効果音が聞こえそうな感じで立っていて、その後ろには申し訳なさそうな様子のシャルが頭を下げていた。苦労人ポジが板についてきたな。

 

「却下だ。こんな大人数で行っては流石に―――」

「まあまあ先生―――嬢ちゃん方、正直言ってキミらみたいなかわいい娘達はうちのジムは大歓迎だが、生憎俺の車は定員いっぱいでね……また迎えに来てもいいが、俺もクラスがあるからあんまし長いこと空けられないんだ」

 

千冬姉を抑えた翔さんの説明を聞いた二人は目に見えて落ち込んでるように見える。あとシャルも心なしか落ち込んでないか?

 

「だからまた明日、この時間にここに迎えに来る。どうしても今日がいいなら、飛ばして迎えに来るが」

「……いえ、明日で大丈夫です」

「流石にこれ以上迷惑はかけられないわね」

「無理くり押し掛ける時点で大分迷惑だけどね」

 

シャルのツッコミが光ったところで、二人とも納得したようだ。

 

「おしっ!じゃあまた明日な。今日一日は先生のいうこと聞いて、温泉を楽しんでくれ」

「はい。明日はよろしくお願いします」

「あーあ、一夏と一緒に行きたかったな」

「仕方ないよ。今日一日はここを堪能しようよ」

 

話しつつ旅館の方に戻っていく三人。山田先生の胃に穴が開かないだろうか心配になるな。

 

「すみません、うちの生徒がご迷惑をおかけしてしまって」

「はっはっは!いいんですよ先生、あれくらい元気な方が我々も歓迎のし甲斐があるってもんです」

 

と快活に笑って応える翔さん。アイツら、明日失礼なことしないといいけど。特に鈴。

 

「じゃあそろそろ行きますか。車はあっちに止めてありますんで、付いて来てください」

 

そう言われて車の前まで翔さんの後ろを歩いて付いていく。駐車場が広いからか、話してる間に他の車が近くに停めたということはなく、分かりやすかった。

 

「先生は助手席に乗ってください。龍輝、お前は坊主と一緒に後ろだ」

「あ、いえ、私は後ろでも」

「いえいえ!美人が隣にいた方が運転のし甲斐がありますから!」

 

……この人、もしかして千冬姉を口説いてんのか?なんて物好きな。

 

「安心しろ一夏。翔さん奥さんいるから」

「結婚してんのにあれなのか」

「まあ、正直者だからな」

 

それはそれであれだが。

 

「おら龍輝!早く乗らないと、先生が座れねえだろ」

「すいません!ほら一夏、乗るぞ」

「お、お邪魔します」

 

龍輝の後ろに続いて後部座席のシートに座る。これがスポーツカーのシートか……意外と柔らかいな。

 

「シートベルトしろよ、最近うるさいからな。お待たせしました、どうぞ先生、お乗りください」

「では、失礼します」

 

千冬姉が助手席に乗り、それに続いて翔さんが運転席に乗って車のエンジンをかけると、スポーツカーらしい重低音が響いた。やっぱカッコいいよな、こういうの。

 

「全員シートベルトは締めたな?出発するぞ!」

 

ジムか、一体どんな所なんだろう。楽しみだな。

 

 

「着いたぞ」

 

車に揺られること約20分、どうやら目的地に着いたみたいだ。ちなみに意外と安全運転だった。

 

「へえーここが龍輝のジムか……普通の家じゃないのか?」

 

車を降りてすぐ目に入ったのは、よく見る田舎の一軒家で、とてもジムには見えなかった。

 

「いや、これは先生の自宅でな。ジムはこの奥の庭にあるんだ」

「へえ、そうなのか」

 

庭に建てるって、いったい敷地何坪あるんだ?

 

「今午後のクラスの時間なんで、先に自宅の方に行きましょう」

 

促されて翔さんの後ろをついて行き、龍輝の師匠の家の玄関まで行くと、おもむろに翔さんが玄関の戸を開けた。余談だが、引き戸だった。

 

「こんにちは!あやねさんいる?」

 

そう翔さんが大きめの声で言うと、奥の方から「はーい」という女性の返事と共にパタパタという足音が近づいてきた。

そして姿を現したのは、エプロンをした華奢な女性だった。

 

「あら川戸さん、もう戻ってきたのね」

「飛ばしてきたからな。あやねさん、こちらが話してた龍輝の先生で、それと急遽一緒に来た龍輝のクラスメイトだ」

 

翔さんに促されて千冬姉が一歩前に出て、先に女性に挨拶する。

 

「初めまして。龍輝くんの担任の織斑千冬と申します。こちらは彼の同級生の……」

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

今回はスムーズに言えたな。地味だって?シンプルにしないと絶対噛むからな。

 

「今回は急な訪問で、御迷惑をおかけします」

「いえいえ、こちらこそ龍輝くんがお世話になってます。私はあやねといいます。生憎主人はただいま出ておりまして……」

「大丈夫、話してあるから。俺がアイツを呼んでくるから、あやねさんよろしく頼むよ。ほら龍輝行くぞ」

「はい。すいません、すぐ来ますんで待っててください」

 

そう言うと翔さんと龍輝は足早に玄関を出ていった。呼んでくるということは、ジムに向かったのだろう。

 

「主人から話は聞いてますので、どうぞ上がってお待ちください」

「すみません、お邪魔します」

「お、お邪魔します」

 

玄関に上がると、あやねさんに奥の部屋に案内された。床の間という奴だろうか、不思議な匂いと雰囲気でつい姿勢を正してしまう。

あやねさんは俺達を案内してお茶を持ってきてくれた後、やることが残ってたらしく、しばらくお待ちくださいと言って部屋を出て行った。千冬姉と二人きりだが、特に会話もなく、部屋は静寂に包まれている。

そうしてしばらく待っていると、玄関の戸が開いた音がし、そして足音が俺達のいる部屋に近づいてきた。

 

「いやあ、お待たせしました。わざわざ来ていただいたのにすみません」

 

ふすまを開けて入ってきた男性は開口一番そう言うと頭を下げた。もしかしてこの人が龍輝のレスリングの先生かなのか?

 

「いえ此方こそ、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

 

千冬姉も立ち上がって挨拶し、俺も続いて立ち上がって挨拶する。

 

「私は龍輝くんの担任の――――――!?」

「……あれ?」

 

どうしたのだろうか、急に千冬姉が固まった。チラと顔を見ると、その顔色は驚愕の色に染まっていた。

 

「もしかして千冬ちゃんか?久しぶりだねえ!」

「は、はい!お、お久しぶりです!」

 

……え、何?知り合い?というか、こんな千冬姉見たことないんだけど。

 

「最後に会ったのが中学の時だったっけ?」

「あ、いえ。高校生の時に後楽園ホールで一度」

「そうだそうだ!いやー懐かしいなぁ!随分と美人になって」

「あ、ありがとうございます!」

 

なんか凄い話弾んでる……誰なんだろう、この人。

 

「あ、あの千冬姉?この人はいったい?」

「あれ?千冬ちゃん、もしかして彼が?」

「は、はい!弟の一夏です!ほら一夏、挨拶しろ!」

 

何だろう、この感じ。千冬姉完全に教師モードじゃなくなってるし。

 

「お、織斑一夏です!よろしくお願いします!」

「いやーあの赤ん坊がおっきくなったねえ!」

 

え?もしかして昔うちの近くに住んでたのかな?

 

「こうして話すのは初めてだから、改めて自己紹介しよう」

 

そう言うと男性は自分の方をサムズアップした親指で指し―――

 

 

「俺は風間(かざま)龍輔(りゅうすけ)。ジム『ドラゴンピット』のオーナーで、レスリングコーチをしている。よろしく頼むよ、一夏君!」

 




キャラプロフィール

名前―川戸翔(かわと しょう)
年齢―38
誕生日―12月1日
身長―183cm
体重―104kg(平常時)95kg(試合時)
得意技―膝蹴り、左ハイキック
獲得タイトル-WMF世界ヘビー級王座、JMF日本ヘビー級王者

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