デカい。俺がこの人に抱いた第一印象はその一言につきる。
「しっかし千冬ちゃんがまさか龍輝の担任だったとはな。世の中狭いねぇ」
風間龍輔。そう名乗った目の前の男性は、身長は俺と同じかちょっと高いくらいだが、体のデカさは桁違いだ。
パンパンに張ってTシャツがはち切れそうな上半身、ジャージを履いてはいるものの、隠しきれず浮き彫りになっている下半身。
こう言ってはあれだけど、俺や龍輝とは比べ物にならない。というより、根本的に違うと思ってしまう体だ。
「私も驚きました。ジムを開いたとは噂で耳にはしましたが、まさか風間さんが―――」
「おいおい、『風間さん』なんて他人行儀だなぁ。昔みたいに『龍にいちゃん』って呼んでくれないのかい?」
「い、いえ。私もいい大人ですし、流石に……」
あの千冬姉がこんな風に接するなんて、余程すごい人なんだな。てか、そんな呼び方してたのか。想像つかねえ。
「俺にとっちゃ、今でもかわいい嬢ちゃんのままなんだがなあ……千冬ちゃんも成長したってことか。なんだか寂しいねえ」
と言って風間さんは少し悲しい顔をして、それを見た千冬姉がオロオロしている。ここに山田先生含むうちのクラスのメンバーがいなくてよかったかもしれない。いたら絶対変な意味で阿鼻叫喚になるだろうから。
「そうだ。せっかく来たんだから挨拶だけとは言わずに練習でも見ていきな」
「はい、是非!あ、いや、その―――ゴホン」
風間さんの提案に一瞬でテンションが上がった千冬姉だが、すぐに気を戻してまるで仕切り直すように咳払いをした。
「あっはっは!じゃあ早速行こうか。付いてきてくれ」
「はい!ほら一夏、行くぞ!」
「あ、うん」
踵を返して玄関に向かった風間さんに続き、俺と千冬姉も移動する。ジムに行くといっても、龍輝が言うには庭にあるらしく、その言葉通り庭の方に入ってすぐ結構立派な一階建ての建築物が目に入ってきた。中からは威勢のいい、というより怒号みたいな声が聞こえる。ちょっと怖くなってきた。
「ここが入り口だ。さあ入ってくれ」
ギイィ、と音を立てて開けられたドアを、先に風間さんが通り、続いて俺達も通っていく。
中に入ってすぐ、あまりの熱気につい顔を背けてしまう。
「ここが―――」
千冬姉の呟きがやけにはっきりと聞こえる。ジムの中は変わらず威勢のいい声が響いているのに、だ。
熱気にも少し慣れてきたため、視線をジムの中に戻す。
正直、絶句した。でもそれも仕方ないと思う。だって―――
「……すげえ」
―――ジムの人達は綺麗に整列をして、正面に立ってる人の号令に合わせてひたすらスクワットをしていたのだから。
「今コンディショントレーニングの最中でな、すまんが紹介は後にさせてくれ」
「あ、だ、大丈夫です」
暫くするとスクワットが終わったのか今度は腕立てを始め、それが終わってようやくジムの人達は各々マットの上でストレッチなどをし始めた。スクワットや腕立ては龍輝が部屋とかでやってるの見たことあるけど、あれ回数がえげつない量だったような。
「さて……二人は適当に邪魔にならないところで見ていてくれ。と言っても、今の時間は一般会員しかいないから、そこまで激しくはやらないけどな」
「一般……?」
あの人たちが一般?どう見てもプロの人達にしか見えないが。
「ああ。うちのジムは9時~12時と15時~18時は一般向けのクラスでな、学生とかも来るぞ」
学生って、マジか。いやでも、龍輝は中一から通ってたっていうから、そこまで驚くことでもないのかな?
「あれ?そういえば龍輝は?」
気になってジム内を見渡したが、龍輝の姿はマットやトレーニングスペースにも、リングの方にもない。トイレかな?
「ああ、アイツなら今は外に出てるぞ。新入り二人がロードワークから帰って来ないから、その迎えにな」
成程。試合近いってのに、アイツも大変だな。
「新入り、ですか?」
「ああ。若い女子二人なんだが、これがなかなか根性ある奴らでな。将来が楽しみだ!」
そう言ってワッハッハッハッ、と豪快に笑う風間さん。女子二人……なんだか嫌な予感がする。千冬姉もなんか感づいてるみたいだし。
「たぶんそろそろ―――」
「ただいま戻りました!」
風間さんが言い終わる前に、入口の方から大きな声が聞こえ、振り向くと龍輝がジムの扉を開けて、中に入ってきている所だった。
「ずいぶん遅かったな!」
「すいません!案の定二人ともフラフラでして……」
「んで、あの娘らはどうした?」
「もうすぐ来ます。――――――ほら二人とも急げ」
問われた龍輝は短く返事をするとジムの外に顔を出して誰かに声をかけた。外からは弱々しい声で返事してるのが
かすかに聞こえたが、誰の声かまでは分からない。
「「ゼェ、ゼェ―――も、戻りました~……」」
息も絶え絶えな姿で戻ってきたのは、前かがみになっていたのと前髪が垂れて分かりづらいが、よーく見ると俺と千冬姉の見知った顔だった。
「も、もしかして――――――」
「――――――オルコットにボーデヴィッヒ、か?」
そう、今にも倒れそうなほど疲れ切った姿を見せている二人は、俺のクラスメートであり、龍輝が帰省したのと同時にどっかに行った、セシリア・オルコットとラウラ・ボーデヴィッヒの二人だ。
あの千冬姉も疑問符をつけるほど、今の二人の姿はすごいことになっている。
「ん?ああ、この二人も千冬ちゃんの生徒だったっけ。なかなか面白い娘達だな。龍輝に付いて一緒にやって来て、『自分も龍輝と一緒に練習したい』って言ってきたんだ」
「それは……ご迷惑をお掛けしました」
やっぱ二人とも付いていってたのか。でもこの様子じゃ、付いてきたのを後悔してるんじゃ。
「いや迷惑じゃないよ。むしろ感心させられたね」
予想外の言葉に千冬姉の目が点になっている。ちなみに二人はふらふらしながらもロッカールームに入っていった。休憩だろうか。龍輝もロッカールームに入ってったが、少ししたら出てきてバーベルスペースの方に向かっていった。
「最初はいつ逃げ出すかと思ったが、いやなかなか根性がある娘達だ。泣き言ひとつ言わずにちゃんと毎回練習に参加してるんだからな」
意外や意外。風間さんの口から出てきたのは二人を褒める言葉だった。
「これも、千冬ちゃんの教育がいいからだろうな。いやー流石だなぁ」
「い、いやぁそのぉ……恐縮です……」///
そして流れるように千冬姉も褒める。これには千冬姉もつい顔がにやける。
「おっと、時間だ。俺はクラスの方を始めなきゃならんから行くけど、二人とも自由に見ててくれて構わないからな」
「あ、あの風間さん!」
急に千冬姉がジムの方に行こうとした風間さんを呼び止めた。……何か嫌な予感がする。
ちなみにチラと見ると、二人がロッカールームから出てきてマットの方に向かって行った。Tシャツがさっきと違ったけど、着替えたのだろうか?まあ確かに、汗だくどころか滝に打たれたのか、と思うほど濡れてたけど。
「やっぱり練習に参加させていただいてもよろしいでしょうか?」
「おう、いいぞ」
あっさりと決まった。あまりにあっさり過ぎて頭が回らない
「じゃあロッカールームで着替えてこい。着替えは―――コイツをやろう」
風間さんはカウンターの内側をあさると、二組の練習着(ジムのTシャツとトレーニングパンツ)とシューズを俺達の方に差しだした。全て新品らs……二組?
「遅くなったが、世界一になったお祝いだ。と言っても、あんま大したもんじゃないがな」
「い、いえ!凄く嬉しいです!ありがとうございます!!」
こんなテンションの高い千冬姉初めて見た。てか、なし崩し的に受け取っちまったけど、これ俺も練習する流れ?
「ならよかった。右が男子更衣室で、左が女子更衣室だ。早く着替えろよ」
「はい!ほら一夏、さっさと着替えるぞ」
「え、あ、うん……」
……マジか。
――――――
――――
――
着替え終わった俺達を見て風間さんはうんうんと頷いた後俺等をジム生の人達の前に連れて行った。
「えー、本日は龍輝の担任である織斑千冬先生とその弟で龍輝の学友の一夏君がクラスに参加することになった」
「織斑千冬です。本日はよろしくお願いします!」
「お、織斑一夏、です……よろしくお願いします」
千冬姉、ハツラツとしすぎだろ。というか、今ようやっと認識したのか、セシリアとラウラの二人が「何でここに」という顔をしている。
「ちなみにこの千冬先生は、昔の俺の教え子でな」
……え?
「油断してるとやられるからな、気入れろよ」
「「「「「はい!!」」」」」
え?いや、ちょっと待って。色々混乱してる。
「え?千冬姉レスリングやってたの?」
「……風間さんが引っ越すまでは、直接教えてもらっていた。今でも基本の練習は欠かしてない」
知らなかった、そんなの。そういえば時々夕方や夜に出かけてたけど……その時に?
「じゃあ挨拶も済んだことだし、ぼちぼち始めますか」
そう言うと風間さんはスゥ、と息を吸い込んで――――――
「これからクラスを始めます!よろしくお願いします!!」
「「「「「よろしくお願いします!!!!!」」」」」
……俺、ついていけるかな?
キャラプロフィール
名前―風間龍輔(かざま りゅうすけ)
年齢―39
誕生日―6月21日
身長―175cm
体重―96kg
得意技―スープレックス、パワーボム
獲得タイトル-IWFヘビー級王座、IWFタッグ王座、PWGPジュニアヘビー王座、