インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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初めに謝っておきます。ごめんなさい。
今回、ある人物のキャラ崩壊が凄いです。あと独自設定。
それでもいいという方のみ、読んでください。


第三十四話 これで一般かよ……

――

――――

――――――

 

あれ……?俺、何してたんだっけ……?

何で、天井を見てるんだっけ?

なんで……こんなことになったんだっけ―――?

 

 

【練習開始から暫く経った頃】

 

正直、吃驚している。

 

「よーし5分休憩だ。各自しっかり水分とっとけ」

 

いや、確かに練習内容に吃驚してるんだが、そういう意味じゃない。

 

「フゥ……。やはり風間さんの指導は的確だな」

 

そう。このジムの練習は、プロレスのイメージ通りの練習ではなく、構えに始まり基礎のテクニックからみっちりと、懇切丁寧に教えてくれる、結構ちゃんとしたクラス練習だったのだ。

 

「おっす。お疲れ一夏」

「よう。お前も休憩か?」

 

マットスペースの外で水を飲んでいると、龍輝が汗をタオルで拭きながらやってきた。

 

「ああ。ウェイトがひと段落着いたんでな。これから合流させてもらうわ」

 

見てる余裕なかったからわからなかったが、ずっとウェイトやってたのか。通りでパンプアップしてるわけだ。

 

「そういえば、これから何やるんだ?スパーリングとか?」

「いや、一般クラスではスパーリングは基本、希望者だけでやるんだ。無理してやって、怪我でもしたら大変だからな」

「へー。そういうもんなのか」

 

ちょっと安心した。流石に今日教わったばかりでスパーリングなんてできないしな。

 

「まあ、この後のアレをやったら、スパーやらなくてもバテるかもな」

「アレ?」

「そろそろ再開するぞ!」

 

龍輝に訊き返そうとした時、風間さんの呼びかける声が聞こえ、龍輝はさっさとマットの方へ行ってしまった。

 

「またあとでな、一夏。ぶっ倒れんじゃねえぞ」

「え、ちょっ」

 

困惑しながらもマットの方に戻る。龍輝の奴、どういう意味だ?

 

「次は受け身の練習だ。各自、二人組を作ってバラけてくれ」

 

受け身?それって柔道とかの準備運動でやるあれか?何で今なのかはわからないけど、とりあえず誰かと組まないと。

 

「一夏くん、よければまた組まないか?」

「藤井さん!こちらこそよろしくお願いします」

 

今俺に声をかけてくれたのは藤井(ふじい)雅信(まさのぶ)さん。さっきまでのテクニックの練習でも一緒に組んでくれた(ちなみに千冬姉は女性の会員さんと組んでいた)、このジムの会員さんだ。何でも風間さんとは友達で、プロではないらしいが、かなりガタイがいい。

初めてのことばかりで戸惑っていた俺だが、藤井さんが丁寧にコツとかを教えてくれたお陰で、なんとか形にはなっていた。

ちなみに千冬姉は女性の会員さんと組んでいた。

 

「しっかし初心者にも受け身をやらせるとは、昔の教え子が来て舞い上がってるな、アイツ」

「受け身って、普通準備運動とかでやるんじゃ?」

「ああいや、普通の受け身はやってるよ。だけどこれからやるのは―――」

「全員組んだな。初心者もいるから、まずは手本を見せる。龍輝、来い!」

 

藤井さんが説明してくれようとしたが、タイミング悪く風間さんの掛け声で止められた。

全員が注視してるなか、呼ばれた龍輝が風間さんに駆け寄る。

 

「まずは首投げ、所謂フライングメイヤーからだ。これの受け身は前回り受け身と同様だ。今から龍輝がやるから、よく見てろよ」

 

そう言うと風間さんは龍輝の首を両腕で捕らえると、体を反転させ前方に投げつけた

 

「セイッッ!!」ブン

 

バァンッ!!

 

……うわぁお。

 

「おらもう一丁いくぞっ!!」

「はいっっ!!」

 

倒れた龍輝の頭を風間さんが掴んで無理矢理立たせ、更に投げつけた。

 

バァンッ! バァンッ! バァンッ!

 

合計四発ほど投げたあたりで、ようやく龍輝の頭から手を離し、俺たちの方に向き直った。

 

「とりあえず、一人10回ずつやってみようか」

 

……マジすか。

 

「最初は俺が投げるから、一夏くんは受け身を取ってくれ」

「いやいやいや!無理ですって!?」

 

フライングメイヤーなら動画とかで見たから俺でも知ってるけど、あんな勢いじゃなかったぞ!?受け身取り損なったら呼吸ができなくなるってレベルじゃねえだろ、アレ!?

周りではすでに始めているけど、なんでみんな普通にやれてるの!?

 

「大丈夫だって。意外と何とかなるもんだから」

「そういう問題じゃないですって!?」

「いいからいいから。ほら、いくぞぉ」

 

ガシッ

 

そうこうしてるうちに藤井さんに頭を捕らえられた。

 

(あ……終わった……)

 

がっしりした腕から逃れられる気もせず、俺はもう、諦めて覚悟を決めるしかなかった。

 

「よっセイッ!」グイ

 

頭を引かれた次の瞬間、身体が妙な浮遊感に包まれているのを感じた。あ、これヤベえわ。

 

(とにかく受け身を―――!)

 

そう思ってマットに接触すると感じた瞬間に、腕を背中の方に思いっきり振った。

 

バアンッ!

 

――――――ッッッ!!??

 

「――――――ゴブハァッッッ!!?」

「ほら次いくぞ。―――おいしょぉっ!」グイ

 

ちょ……呼吸が……待っ……

 

ダアンッ!

 

「――――――カッ……!?」

「ほら受け身取んないともっときついぞ?ほいもう一発!」

 

薄れていく意識の中、俺はようやく、さっき龍輝が言ったことの意味を理解した。

そしてマットに衝突する瞬間、俺の目の前は真っ白になった――――――

 

 

――――――

――――

――

 

「―――ハッ!」

 

そうだ、俺は受け身の途中で気絶して……。

 

「お、起きたか」

 

声のした方を見ると、龍輝がスポーツドリンクのボトルを持って立っていた。

 

「お疲れ、コイツでも飲んでも少し休みな」

「サンキュ」

 

差し出されたボトルを受け取り、中身を一気に煽る。普段はあんま冷たいのは飲まないけど、今だけは冷たいスポーツドリンクが身体に染み渡る。

 

「―――ぷはぁっ!……あれ?他の人達は?」

「会員の人はもう帰ったよ。翔さんも家に帰ったけど、夜の練習の時には戻ってくる」

「そうか。……お前いつもあんな練習してたのか」

「まあな」

 

そりゃあこんな体にもなるよな。あんなキツイのを毎日やってたら。

 

「でも夜の練習の方がもっとキツイからな。あれと比べたら全然楽だよ」

 

嘘だろ。アレよりもきつい練習とかあんのかよ。いや、確か夜は主にプロの人達が練習してんだっけか。そりゃキツイわ。

 

「午後のクラスは終わりだから、それ飲んだらシャワー浴びて着替えな」

「ああ。ありがとな」

 

気にすんなと言いながら龍輝は先に更衣室に入っていった。俺は残ったスポーツドリンクを飲み干し、龍輝に続いて更衣室に入った。

更衣室では龍輝がタオル片手に待っていて、シャワーの使い方とかを教えてくれて、そのまま一緒にシャワーを浴びた(もちろんスペースごとに区切られている)。

 

「そういえばさ」

 

シャワーからあがって着替えているとき、龍輝がシャツを着ながら訊いてきた。

 

「夜の練習までの間に風間さんが飯をご馳走してくれんだけど、食うよな?」

 

飯か……確かに疲れてるからか、さっきから妙に腹が空いてるんだよな。

 

「そこまで世話になっていいのか?」

「気にすんなって。風間さんからも、お前が目を覚ましたら連れて来いって言われてるし」

「じゃあ、お言葉に甘えて、ご馳走になろうかな」

 

そう答えると、龍輝はニカッと笑った。

 

「そうと決まれば早く行こうぜ。腹が減ってしょうがねえ」

「だな。俺も空きすぎて倒れそうだ」

 

さっきまでの疲労はどこへ行ったのか、練習後でくたくたになっているはずなのに龍輝に続いてジムを出た俺の足は何故か軽かった。気絶したとはいえ、少し寝てたからか?

ジムの外に出ると、辺りは少し暗くなってきていた。ジムを出る前にちらっと時計を見た時は18時を過ぎていたから、当然と言えば当然か。

 

「お邪魔しまーす」

「お、お邪魔します」

 

龍輝が勢いよく風間さんの家の玄関を開けて中に入っていき、それに続いて俺も入っていく。

 

「あら、龍輝くんに一夏くんいらっしゃい」

 

奥の方からエプロン姿のあやねさんが出迎えてくれた。その手にはなぜかでっかい炊飯器をぶら下げていたが。

 

「お、来たな!もうすぐできるから、茶の間で待っててくれ!」

 

奥の方から風間さんの声が響いてきた。その声に返事をしてから、忙しそうなあやねさんの代わりに龍輝に案内してもらい茶の間(というか居間?)に入る。と言っても、玄関から入ってすぐ横だったのだが。

中に入ると、すでに千冬姉やセシリア、ラウラがテーブルを囲んで座っていた。食器などの配置はもう済んでおり、後は料理を運ぶだけのようだ。

 

「遅いぞ貴様ら」

「まったく、あの程度で倒れるなんて、鍛え方が足りん」

「受け身は基本中の基本ですのよ?」

 

いや、二人と比べられても困るんだが。ラウラは軍人だし、セシリアはいつの間にか龍輝と一緒に練習してたし。

 

「いつまで立っている。さっさと座れ」

「あ、うん」

 

敷かれた座布団に腰を下ろし、一息つく。何だろう、この落ち着く感じ。

 

「龍輝さん!是非わたくしの隣にお座りになってください!」

「いいや嫁よ、私の隣の方が座り心地いいぞ!」

 

この二人は相変わらずだなあ。そしてそれを気にもせずに一番近いところに座る龍輝も相変わらずだな。

二人は龍輝が座ったのを見て、席を移動して龍輝の横に座った。こうなると思ってあらかじめちょっと空けて座っててよかった。

 

「よーし出来たぞ!待たせたな皆!」

 

暫くすると風間さんが鍋をもって台所の方からのっしのっしと歩いてきた。その後ろから茶碗の載ったお盆を持ったあやねさんが続いて入ってきて、炊飯器からご飯を盛って、手際良く配膳していく。

 

「ほいよ!俺特製キムチ鍋だ!遠慮せずたんとけえよ!」

 

そう言ってテーブルの真ん中に置かれた鍋は、まるで炊き出しで使われる鍋の様にデカかった。一体何人分あるんだろう?

 

「あの、風間さん。本当に私たちまでご馳走になってよろしいのでしょうか?」

 

ちょっと遠慮しがちな感じで千冬姉が尋ねたが、風間さんは豪快に笑いながら。

 

「いいっていいって。飯はみんなで食った方が美味いしそれに久しぶりにやって疲れただろ?弟子にたんと食わせてやるのも俺の役目だからな。だから遠慮せず、一杯食えよ!」ガシガシ

「あ、ありがとうございます!」グス

 

泣いてるよ。あの千冬姉が。頭撫でられて。ラウラとセシリアが信じられないものを見る目で見てるけど、当の本人たちは気にしてない様子。

 

「はいはい二人とも、積もる話は後にして、冷めちゃう前に食べましょ?」

 

このままでは長くなると判断したのかあやねさんがそう言った。

 

「おおっとそうだな。じゃあみんな、手を合わせて……いただきます!」

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

風間さんの合図で一斉にいただきますを言い、順番に鍋の中から手元のお椀によそっていく。

手元のよそったお椀からは、キムチの食欲を刺激する匂いがぷぅんと漂っている。まずは一口……!

 

「美味しい!」

「懐かしい……昔を思い出すなぁ」

「はっはっは!どんどん食えよ、たっぷりあるからな!」

 

これは飯が進む!初めはこの量じゃどうなるかと思ったが、どうやらあっという間になくなりそうだ。セシリアとラウラも、結構な勢いで食ってるし。

 

「「おかわり」」

「はいはい」

 

龍輝と風間さんに至っては、もうご飯のおかわりをあやねさんに要求している。

 

「すみません、私もおかわりをお願いします」

 

とか言ってるうちに千冬姉もおかわりしてる。こりゃすぐになくなるかもな。

 

―――

――

 

「ごちそうさまでした!」

「「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」

 

ふぅ~食った食った。俺もなんだかんだで4回もおかわりしちまったな。セシリアとラウラもがっつり食ってたからか、あれだけあった鍋も、あっという間になくなったし、恐るべしレスラー飯。

まあ大半は龍輝と風間さんと千冬姉、そしてあやねさんが食ったんだけどな。あの細身でどこに入るんだろう。

 

「どうだ千冬ちゃん、満足したかい?」

「はい!もうお腹いっぱいです」

「そうかそうか!」

 

またも豪快に笑い、千冬姉の頭を撫でまわす風間さん。千冬姉の顔が真っ赤になってるが、そんなのはお構いなしに撫でる。まるで父親と子供だ。

 

「そうだ。20時から夜の練習をやるんだが、そっちも参加するかい?」

 

……え?夜の練習って、さっきのクラスよりもきついっていう、あの?

 

「はい!是非お願いします!」

 

即答する千冬姉。

 

「おおそうか!プロの選手も来るから、きっと千冬ちゃんにとっていい経験になるぞ!」

 

風間さんはすごい喜んでいるけど、流石に俺は勘弁だ。さっきのでもぶっ倒れたのに、それよりもキツイ夜練なんて、今度こそ死ぬ。

 

「安心しろ一夏。風間さん強制しないから。特に夜練は」

「そ、そうなのか?」

 

龍輝にそう言われて少し安心した。

 

「まあ、セシリアとラウラは参加してるけど」

 

……マジかよ。

 

「やっぱり俺、参加しないといけないような」

「いやそんなことないって。無理してぶっ倒れたらそれこそことだからさ。二人だって、休み休みだし」

 

龍輝はそう言うけど、鍛えてるとはいえ女子も参加する練習に参加しないのはなんか男として情けない気がするよな。ちなみに二人はあやねさんの手伝いで台所に行っている。

 

「もうこんな時間か。そろそろ来る頃かな?」

「ああ、そういえばそうですね」

「誰か来客でも来られるのですか?」

 

風間さんと龍輝の会話が気になったのか、千冬姉が風間さんに尋ねた。来客が来るならさすがにずっと居座るのは悪いしな。

 

「いや、昼前にうちの練習生を山に行かせてな。たぶんそろそろ戻ってくる頃だと」

「こんばんはー!」

 

まるでタイミングを見計らったかのように、玄関から元気に挨拶する声が聞こえた。というか山って、いったいどこの山に行かせたんだ?

 

「?この声は……いや、まさか……」

「おー来たな」

 

声を聞いて何か考えてる千冬姉とは対照的に、顔に笑みを浮かべながら立ち上がり、その練習生を迎えるために玄関に向かう風間さん。何やら談笑している声が聞こえる。というかどっかで聞いた声の様な気がする。

 

「この声、やはり!」

 

考えがまとまったのか、千冬姉が急に立ち上がり玄関に向かう。俺もどんな人か気になったため、千冬姉の後に続いて玄関に向かう。

玄関に続く廊下に出てその人物を見た時、俺は驚愕のあまり固まった。千冬姉も同様に固まってた。

 

「お、おま、お前……何でここに!?」

 

その人物は俺達の知り合いで、俺の幼馴染の姉で、そして――――――

 

「おっ丁度いいところに。二人に紹介しよう。コイツはうちの練習生の―――」

 

今現在、世界中から逃亡中……のはずの人物――――――

 

 

 

 

 

「はろはろー、世紀の大天才にしてドラゴンピット所属レスラーの束さんだよー。ちーちゃんにいっくん、久しぶり~」

 

篠ノ之束、その人だったのだから。…………てか所属レスラーって!

 

「おいおい、デビューもしてないのに大層な口上だな」

「むー、風間さんの意地悪ー」

 

箒……明日来るって言ってたけど、お前だけは来ない方がいいぞ。




キャラプロフィール

名前―藤井雅信(ふじい まさのぶ)
年齢―38
誕生日―5月15日
身長―175cm
体重―85kg
得意技―コブラツイスト、アキレス腱固め
獲得タイトル―全日本コンバットレスリング84kg級優勝
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