インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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今回は回想なので、ちょっと長めになっちゃいました。
あとキャラ崩壊ひどいので、ご了承ください。


第三十五話 束さんの回想

篠ノ之束。ISの開発者にして、天災(誤字にあらず)と称される科学者。教科書にも乗っているほどの有名人で、いろんな国から狙われている人物……の、筈なのだが。

 

「ところで風間さん、練習の前に一回シャワー浴びたいんだけどー」

「おういいぞ。折角だから家のを使いな、着替えは後であやねに持ってかせるから」

「やったー!」

 

何故かトレーニングウェアを身に纏った姿で、今俺達の目の前で風間さんとシャワーがどうとか話している。というか、なんか違和感が。

 

「た、束!お前、いなくなったと思ったら、何で―――」

「まあまあちーちゃん。後で話すから先に汗流させてー」

 

千冬姉をたしなめて足早にシャワーを浴びに行った束さんを、俺達は只呆然と眺めてることしかできなかった。

 

「あ、あの風間さん、何故束がここに……?」

「今言ってたろ。アイツはうちの練習生だ」

「いや、それが信じられないんですが」

 

聞き間違いと思いたかったさっきの言葉を端的に肯定され、思わず否定の言葉が出る

 

「一夏の言う通り、私も信じられません。アイツは、束は―――」

 

俺の知ってる束さんは、極一部を除いて他人に興味を持たず、いい意味でも悪い意味でも人格破綻者と称されるような人間で、他人と関わる、ましてやプロレスの練習生になるなんて――――――

 

「束は見る専だったはずなのに、何で入門してるんですかっ!?」

「そっち!?てか束さんもプロレス見てたの!?」

 

ここに来て驚愕の事実に、つい声を張り上げてしまった。え、どういうこと?

 

「いやー数年前にフラッとやってきて、そのままうちで面倒を見てるんだ。詳しくは本人から聞いてくれ」

「むうぅ……」

 

そう言われてはこれ以上風間さんに訊くわけにはいかず、押し黙ってしまう。千冬姉は納得いかない様子で唇をとんがらせてる。なんかもう、慣れた。

 

「俺はジムの準備をしてくるから。夜練までにはまだ時間があるから積もる話でもしてきな」

 

そう言うと風間さんはあやねさんに束さんの着替えを頼むと、さっさとジムの方に行ってしまった。

残された俺達は突っ立ってるのもあれなので、茶の間に戻って束さんがシャワーから上がるのを待つことにした。

ちなみに龍輝は食後の運動とか言って走りに行った。セシリアとラウラも付いて行った。よく動けるな、アイツら。

 

――

―――

 

「ふぅ~さっぱりした~」

 

数分後、シャワーを終えた束さんがジムのTシャツとジャージという格好で茶の間に現れた。

 

「ヘイ!ちーちゃんにいっくん、お待たせ~」

「束、色々聞きたいことがあるが……まずは何故お前が風間さんの元に入門したかを訊かせてもらおう」

「いいよ~。といっても、あんまし面白い話じゃないけどね」ヨッコイセ

 

千冬姉に返答しながら座った束さんは、先程あやねさんが淹れていったお茶を一煽りしてから、事情を話し始めた。

 

「あれは5年くらい前だったかな―――」

 

 

あの日、私はいつもどおり、いろんなところにハッキングして暇を潰していたんだ。

 

「なんか面白いことないかな~っと―――ん?」

 

そんなある日、偶然覗いた地方のニュースサイトでプロレス興行の情報が載ってるのを見つけてね、気になって覗いてみたんだ。

 

「こんなご時世にまだやってるなんてね~。あれ?この人……」

 

んで、出場選手の一覧を見た時、ある人の名前を見つけたの。誰だと思う?

 

「この人って、確かちーちゃんが大ファンの……」

 

そう!私やたっくんの師匠、風間さんの名前だよ!

風間さんの名前を見た時に、気紛れで覗いただけなのにすごく興味が湧いて来てね、いっそいでチケットを取ったんだよ!しかもリングサイド最前列!10000円だったけど、私にとっちゃ大した出費じゃないしね。

そして試合当日、あの日の緊張と興奮は、今でも忘れられないよ。前日なんて、楽しみで全然寝られなかったんだから。

……ああちーちゃん、言いたいことは解るよ。確かに学生時代にちーちゃんと一緒に何度か観に行ったけど、今度は一人で、しかも久しぶりの観戦なんだから、仕方ないでしょ。

そんで朝一で会場に行って、開場と同時に一番に売店に行って、Tシャツとか色々を買って着替えてから席に着いて試合開始を今か今かと待っていたんだけど……ん?入り待ちしなかったのかって?いやーサイン色紙持ってくるの忘れちゃったし、それに……風間さんが私のこと憶えてるか分からなかったしね。

そんなこんなしてるうちに、試合が始まったんだけど、やっぱりリングサイドって選手の生の音が一番響いてくるから、すごい迫力だったよ!バチーン!ドシーン!ってね。第一試合から凄くてさ、若手からベテランまで必死に、命がけで闘っているのが伝わってきたよ。

―――でもやっぱり一番すごかったのは、風間さんの試合だね。

あの時はセミファイナルでシングルでの試合だったな。風間さんが入場してきたときに、会場がそれまでの比じゃないくらいにワッ!と湧いたんだ。

そしていよいよ試合開始。対戦相手は日本人だけど190cm近い巨体で、体重も風間さんより20kg以上重かったかな。最初こそ勢いで風間さんが押されたけど、途中カウンターで投げてからは完全に風間さんのペース。打ち、投げ、極める、まるで流れるような技の連続。相手選手の反撃も、風間さんは全て受け止めて、その上を行く技で返していく。ちーちゃんと見てた時と変わらない、風間さんの熱い全力のファイトに、胸の奥が熱くなるのを感じたよ。

結果はもちろん風間さんの勝ち。最後はジャーマンスープレックスでピンフォール、あのブリッジの美しさは言葉にはできないね。

全試合終了後に、売店で風間さんがサイン会をやっていてね、試合の熱で興奮してた私は迷うことなくサインをもらいに行った。色紙は無かったけど、Tシャツに書いてもらえばいいしね。

そして、ついに私の番が来た。

 

「よろしくお願いします!」

「おう!……あれ?」

 

風間さんは私の顔をじっと見た後にこう言ったんだ。

 

「もしかして、千冬ちゃんとよく一緒に観に来てくれてた、確か……束ちゃんだっけ?久しぶりだねえ!」

「―――え?」

 

―――その言葉を聞いた瞬間、私は頭の中が真っ白になった。たった数回ほどしか観に行ってなかったのに、私のことを憶えててくれてたんだから。

 

「こんな地方まで観に来てくれたんだ。ありがとな!今日は一人かい?」

「あ、その……」

 

普段の私からは想像できないだろうけど、あの時ばかりは上手く喋れなかったよ。だって私のことを覚えているのなら、私がしたことを知っているかもしれなかったからね。そのせいで恨まれてるんじゃないかって、その時は思ったんだよ。間接的とはいえ、今のプロレスブームが下火になっているのは私が原因なんだからね。私がそんな気持ちでいろいろ考えていた時、風間さんはなにかを紙に書いていた―――

 

「時間が出来たらうちのジムに遊びに来な、歓迎するぜ。これが住所な」

 

そう言って風間さんはメモ用紙にここの住所を書いて渡してくれた。

正直、嬉しさ半分、恐怖半分だったよ。軽蔑されるんじゃないか、ってね。結局その日は、Tシャツにサインをもらって、後日伺うと約束をして私は会場を後にした。

そして、ジムが午前だけという日曜日に、私は風間さんを訪ねた……

 

「よく来たな!まあ上がってくれ」

「お、お邪魔します」

 

風間さんは変わらず笑顔で迎えてくれたけど、私は内心ビビりまくってたよ。何でかって?

さっきも言ったけど、プロレスをはじめ、格闘技が廃れるようになった間接的な原因が私なんだから。いくら私でも、レスラー相手じゃ分が悪いってレベルじゃないしね。

そんな私の心を見透かしたのか、それまで思い出話をしていた風間さんは私の顔を覗きこんでこう言った。

 

「浮かない顔をしてるが、なにか悩みでもあるのか?俺でよければ聞くぞ」

 

正直、どうしようか迷ったよ。隠すべきか、あるいは話すべきか、ってね。

とりあえず私は、風間さんにISについてどう思ってるか訊き、その反応で判断することにした。

 

「IS?それって最近話題のあれか。うーん……」

 

私の問いに風間さんは少しだけ天井を仰いでから、再び私の目を見て口を開き始めた。

風間さんは、どう思ってるんだろう

 

「夢があっていいと思うぞ、俺は」

 

……え?、っとつい間の抜けた声が出た。

 

「俺は詳しくは知らんが、あれって宇宙に行くためのやつなんだろ?あれがあれば、宇宙でもプロレスができるじゃないか、夢が膨らむね。俺もいろんな国で試合したが、流石に宇宙には行ってないからな」

 

開いた口が塞がらなかった。夢がある、そんなことを言ってくれた人間なんて今までいなかったから。

 

「ま、女性にしか使えないってのは残念だがな。羨ましくてしかたねえや。アッハッハ!」

 

そう言って豪快に笑う風間さんを見て、なんか胸の奥がすぅ、っと軽くなったような感じがしたよ。それで私は意を決して、風間さんに話すことにした。

 

「―――風間さん、実は……」

 

私は風間さんにすべてを話した。ISの開発者が私だということやそしてそのISの開発した経緯、私が今置かれてる状況も全部……

 

「まさか束ちゃんが開発者だったとは……そういえば確かに昔そんなこと言ってたな」

 

私の話を聞いた風間さんの反応は、普通だった。多少の驚きはあったみたいだけど、私が昔話したことも思い出したみたいですぐ納得したみたいだった。

 

「束ちゃん」

「は、はい!」

 

そのとき、風間さんが言ってくれた言葉は、今も胸に残っている。

 

「夢を叶えたんだな。おめでとう!」

「―――っ!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、まるでダムが決壊したかのように、涙が溢れだした。

 

「うぅ、あ、ありがとう、ござい、ます……グス」

「うんうん。よー頑張ったな」

 

号泣してる私を、風間さんは笑顔で見守っていた。それがとても暖かくて、嬉しかった。

 

「よっし!今日はお祝いだ!あやね、赤飯炊いてくれ!束ちゃん、何か食べたいものあるかい?」

「えっ!?いやその……いいんですか?」

「遠慮すんな!たんと食ってけ!」

 

確かに最近ろくなの食べてなかったな、とお言葉に甘えてご馳走になったんだけどね。二人も知ってると思うけど、ここのご飯がもー美味しくって!それまでは食に全く興味がない束さんでも箸が止まらなかったよ。

んで食事中に、あやねさんが私に訊いてきたんだ。

 

「ねえ束ちゃん。束ちゃんって今放浪中なのよね、いろいろ大変じゃない?」

「んー、確かに大変ですけど、もう慣れましたね」

「そう……ねえ、束ちゃんさえよければ、家に住まない?」

「おー!そりゃいいな!幸いうちには腕の立つのが多いことだしな」

 

いやもうビックリしたよ。私の状況を聞いて、その上で家に住まないか?って言われたんだから。これが他の人なら、いろいろ罠とか疑うところだけど、風間さんたちに限ってそれはないからね。

 

「……いいんですか?」

「もちろんよ。ただし、家事はちゃんと手伝ってね。生活費はうちの旦那の小遣いから引いとくから」

「マジかよ!?こりゃ仕事頑張んねえとな。ガッハッハ!」

 

 

「こうして私は風間さんのところにお世話になってるって訳」

「成る程……そういう事だったのか」

 

……とりあえずツッコむ所が多すぎてどこからツッコんだらいいか分からないけど、これだけは言わせてくれ。

 

(風間さんって何者なんだよ!!!?)

 

あの束さんの知り合いというのだけでも驚きなのに、束さんが敬語を使って、しかも頼りにしてる人間って、いろんなところから狙われかねないのになんで平然としてんの!?あとなんで平然と受け入れてんの!?

 

「いや待て。今の回想では何故お前がレスラーを目指したかの説明が出てないぞ」

「ああ、それね。切っ掛けは私がここ(風間家)に厄介になってから少ししたくらいに、練習に参加させてもらったときにね―――」

 

 

「えー、今日から束ちゃんが練習に参加する。皆、いろいろ教えてやってくれ」

「篠ノ之束です!よろしくお願いします!」

 

私が挨拶すると、ジムのメンバーの人たちは「よろしく!」「女だからって手は抜かんからな!」と快く迎えくれた。皆風間さんに教わっているだけあって、私の事はあんまり気にしてないみたいだった。

練習では風間さんやメンバーの人たちが基本から丁寧に教えてくれた。子供の頃はちーちゃんがやってるのを見てただけだったけど、実際にやってみると観戦してるのとはまた違う楽しさが出てくるね。気づけば夢中になって、少し気になった所とか出てきたら次々質問してたよ。

 

「束ちゃんは筋がいいな。コンディションもあるし、才能あるよ」

「え!?そ、そりゃ束さんは細胞レベルでオーバースペックだからね」フフン

 

ジムのメンバーに誉められてちょっとテンションが上がってたのもあったから、この後の風間さんの言葉に乗っちゃったんだよな……。

 

「自信満々だな。スパーリングやってみるか?」

「いいの!?やりますやります!」

 

今思うと、ほんと迂闊だったよ……。何であんな自信満々で乗っちゃったんだろ。昔の自分を殴りたい。

 

「璃々、相手してやれ」

「はい!」

 

このとき、私の相手をしてくれたのは黄坂(おうさか)璃々(りり)ちゃんっていう、年齢は私と同じくらいだけど、ジム来て2年位の娘でね、お姉さんが女子プロレスラーで、その影響でジムに入ったんだって。

見た目の印象では私よりも背が低いし、何よりちーちゃん以外の人間に私が敗けるはずないって、驕ったこと考えてたよ。

そしてスパーリング、5分1Rで始めたんだけど、結果は……多分ちーちゃんが想像したのと同じだよ。

一瞬でマットにテイクダウンされて、逃げようとしても重心を変えられ、潰され、押さえ込まれて……全く動けなかった。

初めの1分はずっと抑え込まれて、スタンドから仕切り直してもすぐ倒されて、残りの時間は大体1分毎に関節(サブミッション)とピンを極められて終わったよ。

タイマーのブザーが鳴った時、私はもう息絶え絶えで、さっきまであった自信がぽっきりと根元から折れたのを感じたよ。

 

「どうだ?初めてのスパーリングは」

 

風間さんの問いかけに返す気力も無く、私はマットに横たわったまま動けなかった。

 

「才能だけじゃレスリングはできない、必要なのはフィーリングだ。どこが危険か、どうしたら相手を動かせるか、こう反応してきたらどうするか……それらを感じ取れなきゃならん。その為に練習を積み、勉強する。俺だって分からないものだらけで、いまだ勉強の真っ最中だからな」

 

その風間さんの言葉を聞いた時―――ああ、なんて奥が深いんだ、もっと知りたい、もっとやってみたい―――ぐったりしながらそう思ったよ。

 

「束ちゃん頭いいから、練習すれば絶対強くなる。頑張れよ!」

 

 

「―――以上が、私がプロレスラーになりたいって思った切っ掛けだよ」

 

ダメだ、もうついていけない。というか束さんを完封するなんて、何者なんだよここの人達は!?

 

「ちなみに璃々ちゃんはその翌年無事にデビューしたよ。私は事情が事情だから、なかなかデビューできないけどね」

「当たり前だ。お前がプロレスデビューなぞ、世間が大騒ぎどころではないぞ」

 

これは千冬姉の言う通りだ。ただでさえ狙われてるのに、プロレスデビューなんていろんな国が黙っちゃいないだろう。

なんてことを考えてると、束さんが不敵に笑いだした。

 

「どうした?」

「ふっふっふ、実はね……」

 

と言ったところで束さんはバーンと立ち上がり―――

 

「今度の興行で、とうとうデビューが決まったのだよ!マスクマンとしてだけどね!」

 

…………ホワッツ?

 

「な、な、な―――!?」

「驚いて声も出ないみたいだね、ちーちゃん?」

 

これは千冬姉じゃなくても声が出ないだろう。というか風間さん、何考えてんだ。

 

「ちくしょおおおおおお!?束に先越されたああああああああ!!?」

「フハハハ!どんだけちーちゃんが頑張っても、レスラーとしては私の方が先輩だからね!」

 

いやだから何を張り合ってんだこの人たち。

 

「ま、ギリギリの合格だったけどね。今でも私の実力なんて夜練のメンバーの中では下から数えた方が早いけど」

 

なにそれ。ここってドラ〇ンボールの世界だったの?インフレ激しくない?

 

「……成程分かった。そこまで言うなら―――」

 

そう言って今度は千冬姉も立ち上がって―――

 

「風間さんの一番弟子として、お前を叩きのめしてやる!」

「上等だよ!今の私ならちーちゃんにも負けないからね!」

 

そう言って二人は家を飛び出してジムの方に向かって行った。……正直ついていけねえ。

 

「あらあら、二人とも元気ねえ」

 

あやねさんはそう言ってたが、アレを元気で済ましていいのだろうか。呆気にとられつつも、あやねさんに挨拶してから俺もジムに向かった。

あの二人の対決、一体どうなっちまうんだ?




キャラプロフィール

名前―風間あやね(かざま あやね)
年齢―38
誕生日―8月5日
身長―157cm
体重―××kg
スリーサイズ-B:93/W:54/H:84

概要:風間龍輔の妻。優しく包容力があり、逃亡中の篠ノ之束を受け入れる懐の深さを持つ。実は嫉妬深く、旦那が知らない女性と話しているだけで体術で徹底的にお仕置きする。その光景はもはやジムや近所の名物になっている。最強は風間さんでも川戸さんでもなく、この人かもしれない……。
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