インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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なんとか年内に投稿できました。
次は年明けになるかもです。


第三十七話 どこツッコめばいいの!?

こんにちは。シャルロット・デュノアです。龍輝の師匠さんの招待で、龍輝の地元である山形に一組の生徒全員(+α)でやってきたのですが……

 

「やっと着いたわ!ここに一夏がいるのね」

「自宅の敷地内にあるとはな」

 

現在僕は、鈴と箒と一緒に龍輝が通ってたジムの前に来ています。

先日の約束通り川戸翔さんが迎えに来てくれたので、迷惑だとは思ったのですが父がレスリングをしていたジムということもあり、ご厚意に甘えさせていただくことにしました。

 

「想像以上に立派なジムだね」

「外からでも中の活気が分かるな」

「まあ、声聞こえてるしね」

 

二人の言う通り、ジムの中からは怒声というかなんというか、気合の入った声が聞こえてくる。近所迷惑にならないのかな、と思ったけど、周りには建物少ないし、隣家とは距離が開いてるから大丈夫なのだろう。たぶん。

 

「話はしてあるから、遠慮せず入ってくれ」

 

そう言って川戸さんがドアを開ける。

 

「さあ、入るわよ」

「ああ」

「緊張するなぁ」

 

鈴を先頭にしてジムの中に入っていく。ドアを開けたことで直接聞こえるようになった掛け声……というか怒号が体を打つ。……何か恐くなってきた。

 

「たのもー!」

「ちょっ!?鈴!?」

 

鈴の性格から大人しく行くとは思ってなかったけど、にしてもあれはないよ!まるで道場破りじゃないか!

……うわすっごい見られてる。けどジムの人達はすぐ何事もなかったかのように練習を再開する……何かホッとした。

 

「これはこれは。随分とかわいらしい道場破りだな」

 

と言って一人の男性が僕らの近くまで歩み寄ってきた。体が凄く大きく、流石の鈴も少し引いてるみたい。

 

「連れが失礼しました。私達は、先日こちらを訪問した織斑先生の生徒で―――」

「ああ、君達が!なるほど、確かに翔の言ってた通り、おもしろい娘達だ」

 

箒が丁寧に改めて挨拶してると、目の前の男性はうんうんと頷きながらそう言った。一体どんな風に伝わっているんだろう。

 

「連れて来てよかっただろ?」

「あ、翔さん」

「おかえり。随分と早かったが、また飛ばしてきたな?」

「仕方ないさ。あんまりクラスを空けるのはまずいからな」

 

確かに、飛ばしてたおかげで早く着いたけど、運転は丁寧だったなぁ。

 

「後は俺が対応してるから、クラスに行ってきな」

「ああ、頼んだぞ龍輔」

 

そう言って足早に翔さんは去って行った。恐らく向こうのサンドバックのあるスペースでやっているのが打撃のクラスなんだろう。

 

「自己紹介が遅れたな。俺は風間龍輔、このジムのオーナーで、レスリングコーチをしている」

 

ということは、この人が龍輝の師匠で、父さんの友人の……。

 

「篠ノ之箒です」

「凰鈴音よ」

「あ、僕はシャルロット・デュノアです」

 

一通り自己紹介を澄ますと、風間さんは何故か僕の顔を覗き込んだ。な、何だろう。

 

「君がアルの娘か……確かにアイツが自慢するだけはあるな」

「あ、ありがとうございます」

「色々話したいことはあるが、まあ後にしよう。三人とも、見学でよかったかな?」

 

確か、僕がIS学園に通う原因となったのがこの人なんだよね。後で話せたら、お礼言わないと。

 

「あの、ここに織斑一夏という生徒が来てる筈なのですが」

「ああ来てるぞ。おーい一夏!」

 

風間さんが呼ぶと、練習していた人たちの中から、一夏が駆け足で飛び出してきた。

 

「お前のガールフレンドが来てるぞ」

「ガールフレンド?……って箒!?それに鈴とシャルも!?」

 

凄い驚かれた。僕からしてみたら、一夏があの集団の中から出てきたことの方が驚きなんだけど。しかも練習着姿で。

 

「なによその反応は、来ちゃ悪い?」

「い、いや、そうじゃないんだ……だけど……」チラ

 

歯切れ悪くそう言った後、一夏は視線を箒に向けた。

 

「な、何だ?私の顔に何かついてるか?」

「……まあ、来ちゃったもんは仕方ないか……」

「どういう意味だ!?」

 

そう呟いた一夏の眼は、なんか遠い目をしていた。一体昨日、何があったんだろう?

 

「と、ところで龍輝は?練習中かな?」

「ああ、龍輝なら―――」

 

グイッとさされた方向を見ると、リングの上にいる龍輝を見つけた。

 

「アイツらなら、リングで最終調整中だ」

「調整?」

「試合明日だからな」

 

そっか……もう明日なんだ、龍輝のデビュー戦。なんだかあっという間だったなあ。

 

「しっかし、試合前なのにあんな激しくやって大丈夫なの?」

「一人はエキシビジョンとはいえ、三人同時のデビュー戦だから、余計に気合いが入ってんだろう」

 

龍輝だけじゃなかったんだ。確かにここから見てても十分に気合いが伝わって……あれ?何か見覚えのある人が……。

 

「ねえ、もしかしてあそこにいるのって……」

「い、いや……見間違いではないか?」

 

そ、そうだよね……まさかあそこにいる訳ないよね。

 

「そういえば千冬さんは?一緒に来たんでしょ?」

 

鈴ヤメテ、その話題には触れないで!

 

「千冬姉なら、リングで龍輝と一緒に調整中だけど」

「は?何で?」

「ええっと、話せば長くなるんだが……」

 

また一夏の目が遠くなった……というか見間違いじゃなかったんだ。

 

「昨日の晩のことなんだけど――――――」

 

 

夜練が終わり、風間さん宅で晩飯をご馳走になっていた時のことだ。

 

「千冬ちゃん、デビューしない?エキシビジョンだけど」

「いいんですか!?」

「うちの興業だし、問題ないよ」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!!」

 

 

「―――という訳で、千冬姉もデビューすることになったんだ」

「「「どういう訳(だ)(よ)(なの)ッッッ!!??」」」

 

それだけ!?何でそう言う流れになったとか、そういうの無いの!?そして織斑先生も何ほぼ二つ返事で決めてるの!?あと風間さんと織斑先生ってどういう関係なの!?

 

「お、落ち着けって。気持ちは分かるけど……」

「何でアンタはそんな落ち着いてんのよ!?」

「いやだって、千冬姉昔風間さんの弟子だったらしいし、仕方ないかなって」

 

何その衝撃の事実。

 

「そんな馬鹿な……」

「そうだとしてもそんな急な話で、しかもプロレスデビューなんて学園が許可するわけないでしょ!」

 

そうだ、織斑先生だって一応教員なんだから、副職とかそういったのはダメなはず……だよね。

 

「ああ、それも問題ないって」

「何でよ?」

「話決まった直後に風間さんが許可とってたから」

 

……え?

 

「許可って、誰に?」

「学園長。なんでも昔後援会やってたとかで、二言三言ですぐ決まったよ」

 

だから!何その人脈!ホント風間さんって何者なの!?

 

「だが、いくら学園が許可したからといって……っ!?」ブルッ

 

?どうしたんだろう、反論しようとした箒が急に固まった。視線はリングを向いてるけど、何かあったのかな?

 

「どうしたのよ?」

「い、いや……気のせい、そう、気のせいだ。あの人の気配がしたが、そんなことあるはずが……」

 

今度は目をそらして何か呟いてる。ホントにどうしたんだろう?

 

「オーイ、そろそろ休憩にしよう。リングの三人も水分補給しとけ」

 

風間さんの一声の後、練習してた人たちはそれぞれ汗の始末をしたり水分補給をし始め、一部の人たちは何やら話し合ったりしている。

そしてリングで練習していた龍輝達も休憩のためにリングから降りた。

 

「龍輝、千冬ちゃん、お前達に客が来てるぞ」

「「ハイッ!」」

 

風間さんが呼んだ瞬間、龍輝と織斑先生が僕達の所に走ってきた。

 

「オー、お前ら、やっぱり来たのか」

「何よその言い方。って、今アンタはどうでもいいわ。千冬さん!」

 

龍輝には悪いけど、僕も今は龍輝よりも織斑先生に話を聞きたいんだよね。

 

「なんだ?」

「プロレスデビューするって本当なんですか!?」

「本当だぞ」

 

あっさり肯定された。

 

「元々私はレスラー志望だ。モンド・グロッソに出たのも、箔を付けるためだったしな」

 

ここに来て明かされる衝撃の事実。驚きすぎて開いた口が塞がらない。

 

「まあ優勝したはいいものの、当時すでにプロレスブームは下火になってて試合数自体が減っていたから、新人が入れる余裕はなくてな。食うために教員を始めたわけだが……まさか今になって夢が叶うとは、年甲斐もなく感激してるよ」

 

これさ、僕達だけだからいいけど、他の生徒達や教員の人が聞いたら卒倒するレベルのぶっちゃけ話だよね。

というかこのジムの人達は何も思わないの!?

 

「い、いやでも―――」

「龍輝さーん!」

「嫁ー!」

 

この聞き慣れた声は……。

 

「おー、セシリアにラウラ。お疲れ」

「お疲れ様です!よければ汗をお拭きしますわ!」

「嫁よ、喉乾いてないか?このドリンクを飲むといい!」

 

やっぱりあの二人だ。いなくなったと思ったら龍輝と一緒にこっちに来てたんだ。というか、

 

「ん?あら皆さん、お揃いで」

「お揃いで、じゃないわよ。アンタ達、その格好は何?」

「見ての通り、練習着だが?」

 

聞きたいのはそういうことじゃないと思うんだけど……。

 

「えっと。二人とも、もしかしてここの練習に参加してるの?」

「何を当たり前の事を」

「当然ですわ」

 

あー……まあセシリアは元々龍輝と一緒に練習してたし、ラウラも軍人だから……まあ、確かに当然なのかな?

 

「いやいや、いくらなんでもここまでする?」

「まあでも、二人の気持ちもわからなくはない、かな?」

 

ドドドドドド

 

そんなことを話していると、急に地響きみたいな音が響いた。何だろう、この音?

 

「あ、ああ……この感じは……まさか」ガクブル

 

なぜか箒が震えてるけど一体何が―――

 

「箒ちゃ――――――んっ!!!」ガシィッ

「ギャ――――――ッ!!??」

 

あ……ありのまま今起こったことを話すね。箒がいきなりマスクを被った女性?に抱き着かれた。な……何を言っているのか分からないと思うけど、僕にも何が何だか分からない……。

 

「ひっさしぶりだねー!まさか箒ちゃんの方から来てくれるなんて!」

「こ、この感覚……それにこの声はまさか―――ッ!」

「こらこら、お客さんに迷惑をかけるんじゃない」

 

滅茶苦茶慌ててる箒に対して凄い冷静な風間さん。あと一夏があちゃー、といった顔をしてるけど、正体知ってるの?

 

「久しぶりの再会で興奮するのは分かるが、その恰好じゃ分からんだろう」

「あっそうだね。よいしょっと―――」ゴソゴソ

 

そう言ってその女性はマスクに手をかけ、紐をほどくとそのマスクを外した。その下から出てきた顔は―――

 

「はろはろー。世紀の大天才にしてドラゴンピット所属覆面レスラー『アリス・ザ・ラビット』こと、篠ノ之束さんだよー」

 

……いやいやちょっと待って。まさかと思ったけど違うよね?同姓同名の別の人だよね?じゃなきゃあの篠ノ之博士が覆面レスラーなんて……

 

「シャル……」

「一夏?」

「受け入れろ、現実だ」

 

受け入れられるかーっ!?ちょっと待って、篠ノ之博士って今世界中から追われてる身だよね!?そんな人がプロレスデビューしていいの!?

 

「姉さん……」

「箒ちゃん久しぶりだね!元気だった?」

「元気だった?じゃない!姉さんのせいで、私は―――」

 

何か凄い険悪な雰囲気だよ……。

 

「二人とも、積もる話もあるだろうが、今は練習中だ。そろそろ再開するぞ」

「はーい!それじゃあ箒ちゃん、またあとでね」

「あっ!?姉さん!?」

 

篠ノ之博士はそれだけ言うと他のメンバーと一緒に練習に戻っていった。

こうして、僕達とジムの人達とのファーストコンタクトは、衝撃の結果で終わったのだった。

 

 


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