インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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好き勝手に書いているので、感想などは期待していないのですが、こんな作品にたくさんの感想、ご愛読をしていただき、本当にありがとうございます。
これからも好きなように書いていきますので、どうかよろしくお願いいたします!


第三十九話 決意の前日譚

「異種格闘技戦?」

「そ。相手は柔術をやってる選手らしい」

 

食後の一服の時間に、俺は龍輝に明日の試合の事について訊いた。プロレスの試合かと思っていたので、正直驚いている。

 

「何か以外だな。龍輝のデビュー戦がプロレスじゃないって」

「まあでも、基本ルールはプロレスと同じだから」

「ルール?」

「ああ。まず試合時間は15分一本勝負、決まり手はKO、ギブアップ、ピンフォール、反則についてはプロレスルールと同じ。違う点といえば、足が絡んでたり、下が極めていたら押さえ込みにならず続行される。それくらいだな」

 

へえ、異種格闘技戦と言ってもそんな感じなのか。何か複雑なルールになると思ったけど、このルールなら龍輝の方が有利っぽいな。慣れてるだろうし。

 

「まあどんな試合だろうが、誰が相手だろうが、全力で出し切るだけさ」

「ハハハ、かっこいいなお前」

「うっせ」

 

この調子なら、明日の試合大丈夫そうだな。デビュー戦だから緊張してるかと思ったけど、龍輝に限ってはそんなことはないらしい。

 

「本当はプロレスの試合で組んでやりたかったが、今のご時世どこも新人不足でな。苦肉の策ってやつさ」

 

龍輝と話してるのを聞いたのか、片づけを終えたらしき風間さんが来て今回のマッチメイクの事情を説明してくれた。

 

「すみません、俺等だけゆっくりさせていただいて」

「気にすんな!龍輝は明日デビュー戦だし、一夏君も昨日から練習参加して疲れてるだろ?弟子を休ませるのも師匠の役目さ」

 

いつの間にか俺も新弟子認定されてるみたいだ。まあ、いやな感じはしないけど。

 

「しっかし、あの龍輝がデビューねぇ。未だに信じられないわ」

「俺だって成長してるんだよっ」

「どうだか。つい数か月前まで私にボロボロに負けてたくせに」

「そ、それは……」

 

今度はあやねさんの手伝いをしていた澄香が話に加わる。音だけしか聞いてないけど、あんな激しい親子喧嘩してたのに普通に手伝うとは、実は仲がいいのかな。

しかしマジかよ、あの龍輝が。こう言っちゃあれだけど女子に負けてたなんて。いや、学園でやった試合ではISを着けてたから生身じゃなかったし。

 

「こら、そこまでにしときな。龍輝の実力は、十分プロでも通用するぞ」

「はーい。という訳で龍輝、パパにここまで言わせたんだから明日の試合で恥晒すんじゃないわよ」

「うるっせ分かってるよ!」

 

学園ではいつもマイペースな龍輝も、澄香には尻に敷かれてるみたいだ。

でも言い換えればそれくらい気の置けない仲って事だよな。

 

「ちょっとあんたたち、何騒いでんのよ?」

「布団、敷き終わったよ」

「龍輝さん、どうかなさいましたの?」

「嫁よ、今日こそは一緒に寝ないか?」

 

そう言って鈴とシャル、セシリアにラウラが茶の間に戻ってきた。

実を言うと食事が終わった時に、風間さんとあやねさんの提案で箒、鈴、シャルの三人もこっちに泊めてもらえることになったのだが、風間さんがみんなの分の布団を敷きに行こうとした時、澄香が「いくら客人とはいえ、乙女が止まる部屋に入っちゃ悪いよ。布団は私達で敷いとくから」と言ったため、鈴たちは布団を自分で敷くことになったのだ。ちなみに俺は龍輝の家に泊めてもらっている。

 

「おう。すまんな、本来は俺がやるべきなんだが」

「いいのよパパ。こういったのは自分たちでやらないと」

 

まあ、澄香の言ってることは間違ってないな。やっぱり厚意で世話になるんだから、自分で出来ることは自分でやらないとな。

あれ?そういえば……

 

「なあ鈴、箒はどうした?」

「ああ、何か用があるとか言って篠ノ之博士と一緒に外に行ったわよ」

「外に?」

 

そう言えば箒の奴、来てからずっと束さんと話したそうにしてたからな。何事もなければいいが。

 

 

そよ風が吹き渡り、初夏の暑さを感じさせぬ涼しげな気温の中、月明かりが照らす下で二人の人影が向かい合っていた。

 

「い~い風だねぇ。練習で疲れた体に染み渡るよー」

「……」

 

二人の人影、篠ノ之束と篠ノ之箒は姉妹である。一時期姉の束が失踪したため、久方ぶりの再会となる。しかし、この二人の間には、世間一般の兄弟姉妹のような和やかさなどはない。

 

「姉さん、あなたは一体何を考えているんだ」

「んぅ?」

「ISを造り、世間を乱すだけ乱して失踪。そのせいで私達家族は常に政府に監視され、安全のためと各地を転々とさせられた……散々私達に迷惑をかけて、それなのに今度はプロレス?姉さんは一体、何を考えているんだ!?」

 

最初こそ静かだったものの、内側に溜め込んでた感情が溢れ、口調を荒げ息を乱しながら箒は姉に問う。

 

「ハァ……ハァ……」

「……箒ちゃん」

 

実の妹の心情を聞き、束は纏う空気を一変させ、その表情も真剣なものに変えて問いかけに応える。

 

「箒ちゃんは、プロレスについて、どう思う?」

「な、何だ急に?」

「私はね、プロレスには無限の力があると思うんだ」

 

夜空を見上げ、星を仰ぎながら束は続ける。

 

「プロレスの力ってね、凄いんだよ。観ているだけで選手の気合いが、魂の熱さがこっちにも伝わって、不思議と元気が出てくるんだよ。観客と選手が一体になって、一つのことに熱中する……そこには年齢も性別も身分も、人種も国境もない。プロレスの前では、そんな些細なことは吹っ飛んでしまう。本当の意味で人間を平等にする、それがプロレスの力の一つだと、私はそう思っている」

 

途方もなく荒唐無稽な話ではあるが、不思議と束の話し方……そして纏っている空気がその話に信憑性を持たせていた。その証拠に、箒は「馬鹿馬鹿しい」と切り捨てもせず、ただ黙って束の話を聞いていた。

 

「それに、私は軽々しい気持ちでプロレスラーになりたいわけじゃないよ」

「……っ!?」

 

そう言って再び箒の方を向いた束の目は、さっきまでの真剣でありながらも柔和なモノではなく、鋭く、刺すようなものに変わっていた。

その視線に貫かれたような感覚を覚えた箒は息をのみ、全身の血が凍り付いたような錯覚すらも感じていた。

 

「……これで、私の話は()()終わりだよ。さ、虫に刺される前に戻ろー」

「ま、待ってくれ!」

 

話を締めて風間宅に戻ろうとする束を箒はつい引き留めようとする。その声に束は歩を止めると顔だけを箒に向けた。その表情は元の柔和なものに戻っていた。

 

「続きは、明日の試合で話すよ」

 

 

「ゴッゴッゴッ……プハー!」

「凄い飲みっぷりですね。お注ぎしますよ」

「おっすまんな!」

 

飲み干して空になったグラスに、千冬がビールを注ぐ。

時刻は夜の10時を過ぎた頃、龍輝が一夏と共に実家に戻り、風間宅に残った生徒組も床に就いた後、風間が縁側で晩酌を呑み、千冬がそのお酌をしていた。元々は一人で呑んでたところに千冬が偶然通りかかり、その際風間は一緒に飲まないかと誘ったのだが、千冬は「明日の試合に響くかもしれないから」と珍しく断り、お酌だけをすることになった。

 

「しかし急に決めてスマンな。千冬ちゃんも、エキシビジョンじゃなくて本戦でデビューしたかっただろ?」

「いえ、私は試合に……それも自主興行という舞台に出していただけるだけで、十分です」

「そうか。ング……なあ千冬ちゃん」

 

グラスを一口煽ると、声のトーンを若干落として千冬に語り掛ける。

 

「本気でうちに所属しないか?」

「私が、ですか?」

「ああ。正直に言って、今のプロレス界は……いや、プロレス界だけじゃない、格闘技界全体が昔に比べて落ち込んでいる。メジャーを除いた多くの団体が崩壊し、残った団体も年間興行数は目に見えて減少した。更には深刻な新人不足……正直厳しい状況だ。……だがな」

 

そこで一区切りしてグラスを煽る。千冬は息を飲んで、自身が敬愛する師の言葉を待つ。

 

「逆に言えばそれは、有象無象が無くなったことでもある」

「確かに、以前私が観戦した試合は全て、どこか洗練された美しさや力強さがありました」

「しかしそれ故に団体を新規に立ち上げることが難しく、さらには若者にとって高いハードルとなってしまった」

 

そこまで言うと今度はグラスの中を一気に飲み干し、大きく息を吐く。

 

「だがな、そんな状況だからこそ千冬ちゃんに……いや、千冬ちゃんだけじゃない。束ちゃんや龍輝といった若い選手たちに、不純物の混ざっていない、純粋なレスリングを継承し、次代のプロレス界を引っ張っていって欲しいんだ」

「……私は」

 

しかし、返答しようとした千冬を風間は片手で制し、その先を言わせようとしなかった。

 

「今すぐ答えなくていい。学校のこと、千冬ちゃんが指導している生徒たちの事もある。そんなんじゃ、どっちを選んだとしても心残りが残るだろう」

「……いえ。私の心は決まっていますよ、風間さん」

 

それを聞いて風間は顔を千冬の方に向ける。千冬は師の目を真っ直ぐに見つめながら、言葉を続ける。

 

「今すぐは確かに無理です。3年後……今担当している生徒全員が卒業した後、ここに来ます」

「……呵呵呵!そうか!」

 

千冬の実質的な入団宣言。その言葉を聞き、風間は笑いながら大きく頷いた。そして、空のグラスにビールを注ぎ、それを千冬に渡す。

 

「なら、明日はしょっぱい試合はできないな」

「ええ、もちろんです」

 

グラスを受け取り、中身を飲み干す。入団の前祝いと、明日の試合への激励の一杯は、不思議と澄んだ味がした。

 

「明日は歴史が動く一日になるなこりゃ。あっはっはっは!!」

「ふふふっ。ええ、そうしてみせますよ……龍兄ちゃん

 

夜の縁側に風間の大きな笑い声が響き、千冬が呟いたかつての憧れの人への呼び名は、本人の耳に届いたのか、それとも届かなかったのか。それは彼のみぞ知る。

 

 

―――

――

 

数時間前。某所の道場にて、一人の男が中央に鎮座していた。

 

「……」

「おい、そろそろ出るぞ」

 

男性が声をかけるが、男の反応はない。

 

「緊張するのは分かるが、今行かないと新幹線に乗り遅れるぞ」

「いえ、緊張はしてないです」

「じゃあ座禅なんか組んで何してたんだ?」

「決まっています」

 

男性の問いに答えつつ、男は立ち上がり男性の方を向く。

 

「どうやってプロレスラーを絞め落とすか、そのシミュレートをしていました」

「ほう、自信満々だな」

「柔術とプロレス、その因縁は深い。だが、今回でそれも終わりです」

 

話しながらも男は男性の元へ歩いて行く。そして、男性の前まで来ると、目を見ながら続きを語る。

 

「プロレスラーは柔術に勝てない。その決定的瞬間を披露するのですから」

「フッ、そうか」

 

そう言って男性は男の肩を叩き、先に道場の出入り口に向かう。男もそれに続く

 

「頑張れよ、水穂」

「はい、先生」

 

男の名は呉石(くれいし) 水穂(みずほ)。龍輝の試合の対戦相手である。

 

 

願い、証明、そして決意。それぞれの想いが交錯し、闘士達はリングへと導かれる。

その運命は神の悪戯か。それとも必然か。それは、誰にもわからない。

彼らは只、目の前の闘いに全力を尽くすのみ。

熱き魂の闘いの幕が、ついに上がる。

 




疲れた……もう二度とシリアスはやらねえ
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