インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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やっと書き終わった……でもこっから先、また大変だからなぁ。……がんばろ。

追記
はじめて活動報告を書きました。よかったら見てください!


第四十話 開・幕!!

7月4日、この日の天気はまるでここ、山形市総合スポーツセンターに集った人々の熱気に呼応するように快晴であった。

炎天下に晒され、うっすらと陽炎すらも見えてきたスポーツセンターの第一アリーナ。この場所は現在、大勢の人が集まり、これから始まる事への期待を胸に、今か今かと待ち焦がれていた。

そんなアリーナの一角。この場所において、もっとも異質な空間が構築されていた。

 

「本音はオレンジジュースだっけ、はいこれ」

「ありがと~きよたん」

「かなはお茶だったよね。はい綾○」

「なぜ伏せたのかはわからないけど、ありがとう」

 

アリーナの二階席、この区画には周りから浮いた格好……IS学園の制服姿の女生徒達がキャッキャウフフと談笑しながら、雰囲気こそ違えど周囲の人達と同じように試合が始まるのを待っていた。

 

「しっかしすごい人だね。飲み物買うだけでも10分ぐらいかかっちゃったよ」

「超満員で、立ち見の人までいるしね。齊藤くん、こんな大舞台でデビュー戦するんだよね」

「たっつん緊張でガチガチだったりしてー」

 

リングサイドは即時完売、二階席などもあっという間に売り切れ、満員御礼どころか急遽立ち見席まで用意しなければならないほどの観客動員数で、このような場は初めてなIS学園の女生徒たちの中には軽く引いてしまってる者もいる。

 

「それにしても、まさか織斑くん達が齊藤くんのジムに行ってたなんてね」

「専用機持ち全員、更に千冬様まで行ったまま戻ってこなくて、今日合流したら千冬様だけいないし……」

「たっつんの試合、楽しみだなー♪」

 

そう話していると、会場の電気がゆっくりと消えて暗転していくのと同時に、会場内が静かになっていく。

そして完全に静寂が支配した頃、花道の真上に設置されている大型モニターに映像が写しだされた。

 

『―――また、ひとつの歴史が刻まれる』

 

それは、静かな語りから始まった。

 

『プロレスラー、風間龍輔が立ち上げた、次代のプロレスラー養成所『ドラゴンピット』。そこから芽吹き、一人前となったレスラーは数多い……』

 

『伝統を守り、プロレスの火を灯し続けてきた龍の穴結成から10年……その集大成が今、解 き 放 た れ る ! ! 』

 

ドオォーーーン!!!

 

直後、派手な爆発音が鳴り響き、会場内が爆音とモニターの光に包まれる。

 

『ジム・ドラゴンピット10周年記念興行、Wave the NEW GENERATIONS!!開・戦!!』

 

そして、ここに決戦の舞台の開幕が告げられた。

 

『第一試合!!トリプルデビュー戦No.1!!異種格闘技戦、呉石水穂VS齊藤龍輝!!』

「来たー!!」

「齊藤くーん!!」

「たっつんキメてるねー」

 

派手な演出と煽り映像に、生で観戦するのがほぼ初めてなIS学園の生徒達をはじめ、観客のボルテージがグングン上がっていく。

 

『今大会最年少、ドラゴンピットのヤングドラゴン、齊藤が念願のデビュー!先達と共に鍛え上げた肉体と実力は確かなモノ。対するは、柔術界の若き絞殺王子、呉石水穂!全日本ブラジリアン柔術選手権ミドル級3年連続優勝、さらにU-18日本代表にも選出された、その実力に疑う余地はない。プロレス界と柔術界の若武者が、四角いジャングルで激突する!!』

 

ワアアァァぁーーー!!!!

 

若き実力者同志の対決に、観客席からは大きな歓声が沸き起こる

 

『第二試合!!トリプルデビュー戦No.2!!Beauty & Mysterious、白木真奈VSアリス・ザ・ラビット!!』

 

画面が切り替わり、第二試合の映像が映し出される。

 

『神秘のマスクで素顔を隠した、ドラゴンピットの秘蔵っ子が満を持してのデビュー!身長、体重、実力のすべてが正体不明。一体どのような戦いを魅せてくれるのか!対するは、昨年女子プロ団体ワルキュリアでデビューしたばかりの新人、白木真奈!グラビアアイドルとしても活躍する、その美貌とは裏腹に、その戦い方はヒート&ストレート!新人同士の勢いのある対決に、期待が高まる!!』

 

打って変わって華のある女子プロ対決に、先程とは違った意味での期待が観客たちの胸を高鳴らせる。

 

『第三試合―――』

 

―――

――

 

「男性だけかと思ったら、女子プロの試合もやるんだね」

「さっきのアリスって人、マスクでデビューってことは、別の団体で素顔でやっていたのかな?」

「うーん、どうなんだろう。秘蔵っ子らしいし、事情があるんだとは思うけど」

 

対戦カードが発表される中、慣れたためか少し余裕が出てきた清香とかなりんは先程紹介されたアリス・ザ・ラビット(正体は束)について話し合っていた。

その間もカードの発表は続き、第四試合の紹介と煽りが終わり、次のカードが発表される。

 

『エキシビジョンマッチ!!トリプルデビュー戦No.3!!Most STRONG LADY、萩原莉緒VS―――』

 

実はこのカード、パンフレットには載っていない。いや、エキシビジョンマッチ自体は第四試合と第五試合の間に載っているのだが、誰が出場するかは当日まで伏せられていた。

それ故に、彼女たちは一際驚くことになる。何故ならこの試合に

 

『織斑千冬っ!!』

「「えっ?」」

「わー」

 

自分たちの担任であり、憧れの存在が出場するのだから。

 

「な、何で千冬様が!?」

「実はプロレス好きなんじゃないかなー、っては思っていたけど、試合に出るなんて……!?」

 

そんな彼女たちの動揺をよそに、煽りVTRは続く。

 

『アマレス全日本王者の肩書を引っ提げ、今年デビューしたばかりの萩原と、ISの祭典「モンド・グロッソ」初代チャンピオンにして、実は風間の一番弟子という織斑の同門対決!!エキシビジョンとはいえ、その見ごたえはメイン級……片時も、目を離すな!!』

 

目を離すなと言うが、離そうとしても離れないだろう。それほどまでに、このカードは衝撃的で、観客の興味を誘うものだった。

もっとも、IS学園の彼女たちにとっては、別の意味で目が離せないが。

 

「「――――――」」

 

現に清香とかなりんの二人は驚きのあまり表情が固まり、声も出せない状態だ。

 

「すごいねえー。こんなカードなかなか見れないよー」

 

一方本音はマイペースに感想を言っている。どれだけ肝がすわっているのだろうか。

その後も、カード発表は続くのだが、少女たちの耳には入っていかないのであった。

 

 

「いよいよか……」

 

もうすぐ第一試合……俺のデビュー戦が始まる。

クソッ!あれだけ練習してきたのに、念願のデビューだっつうのに、体の震えが止まらねえ!

 

「大丈夫か?」

「翔さん……正直、きついっす」

 

翔さんも試合があるのに俺のセコンドにもついてくれてる、だというのに余計な心配をかけてしまった。

 

「そう緊張するな!龍輔も言っていただろ、今まで練習してきたことを出せれば勝ち負けは二の次だって」

「そうは言いますけど、翔さんだって知ってますよね。自分の今までの戦績」

 

そう、俺は確かにアマレスの大会では全中総体出場の成績を残しているが、アマチュアMMAの戦績は5戦して1勝3敗1分。お世辞にもいい戦績とは言えない。

そもそもアマレスだって、一回勝てば全中だった上に優勝もしてないんだから、自慢できるようなことでもない。

 

「確かに、お世辞にも好成績とは言えないかもしれないな。だがよ、それが何だ。どれだけ敗けて悔しい思いをしても、諦めずに立ち上がってきたんだろ?念願のデビューだってのに、震えて何もできないまま、終わらせたいのか?それによ―――そんな情けない姿を、IS学園(向こう)の仲間たちに見せんのか?」

「っ!?」

 

その言葉の衝撃は、俺の目を覚まさせるのに十分だった。

 

「……いいえ、そんなの真っ平ごめんっすよ!」

 

そうだ。中学の三年間、そしてIS学園に入ってからもずっと、只管練習していたのは何のためだ……プロレスラーとしてデビューするためだろ!?

 

「この日の為に、必死で練習して、鍛えて、体もでかくしてきたんだ!しょっぱい試合なんかできるかよ!!」

「よし!なら、お前のプロレスを、全部見せつけてこい!!」

「はい!!」

 

やってやるぜ……あいつらが観てるんだ、プロレスの強さってやつを、改めて見せ付けてやる!!

 

『赤コーナーより―――齊藤龍輝入場!!』

 

 

少し前、観客席の一角。IS学園の専用機持ちが固まって座っているスペースにて。

 

「ねえ二人とも、よかったの?龍輝に会いに行かなくて」

「ええ」

「ああ」

 

シャルの言葉通り、セシリアとラウラの二人は会場に着いてから、選手控え室に行くこともなく観客席で大人しくしている。しかも、龍輝は直接会場に向かったため、昨夜別れてから一度も顔を合わせてないことになる。

 

「珍しいわね。あんた達なら控え室にまで押し掛けて、応援の言葉のひとつでもかけてくるのかと思っていたのに。雨でも降るんじゃない?」

「……行ったところで、龍輝さんの邪魔にしかなりませんもの」

 

鈴の若干の皮肉を含んだ言葉に対して、セシリアは少し低いトーンで答えた。

 

「セシリアの言うとおりだ。私達が嫁のために出来ることといったら、ここで試合を応援することだけだ」

「ふーん。あんた達にしては殊勝じゃない。どういう心変わり?」

 

その問いに答えたのは、この中で一番龍輝と関係が深いであろうセシリアだ。

 

「試合前の龍輝さんが、どういう状態なのか、知っていますか?」

「いや分からないけど、あいつのことだから自信満々なんじゃないの?」

「違いますわ。むしろその逆……」

「逆?」

 

一呼吸をおいて、さらにセシリアは続ける。

 

「ええ。恐らく今も龍輝さんは、不安に押し潰されそうになっている筈です」

「あいつが?!嘘でしょ!」

 

鈴がそう思うのも無理がない。普段の龍輝と言えば、プロレスに絶対的な信頼と自信を持ち、常日頃からトレーニングと練習を欠かさない、そういう男なのだから。そんな彼が、不安に押し潰されそうと言われても、信じられないだろう。

 

「信じられないでしょうが、事実です」

 

そう言ったセシリアの脳裏に浮かんだのは、先日行われたタッグリーグの前日。深夜に龍輝が部屋を出ていったのが気になり、隠れて後をつけたところ、彼女は見てしまったのだ。試合の前日にも関わらず、龍輝が只ひたすら中庭の木にチョップをぶつけていたのを。

その後、つけていたのがバレると、龍輝は苦笑しながらも、理由を話した。それが先程セシリアが言ったことの、本人しか知らない何よりの証拠であった。

 

「今日に向けた練習の中、奴の眼には闘志の他に、どこか追い詰められた者のような……焦りと恐怖の色も見えていた。それが見間違いでなければ、セシリアの言うとおり、いっそのこと逃げ出したいとすら思っているかもしれない」

「だったらむしろ、行って激励してあげるべきなんじゃないの!?」

「鈴の言う通りだよ!そんな状態じゃ試合どころじゃないよ……二人は龍輝が心配じゃないの!?」

 

二人の話を聞いた鈴とシャルが声を荒げて問うが、それでもセシリアとラウラは激情することもなく冷静だった。

 

「もちろん心配です……ですが、先程も言いました通り、わたくしたちが行ったところで余計なプレッシャーをかけるだけ……」

「で、でも……」

「今嫁の周りにいるのは、私達よりもよっぽど頼りになる人達だ。悔しいが、私達が行かなくても何も問題はない」

 

たった一日とはいえ、ジムの人達と接したことで、鈴とシャルの二人は意外にすんなりとその言葉を受け入れた

 

「それに、信じていますから」

 

それを聞いた鈴にシャル、話を聞いていた箒と一夏も、息を飲んで続きを待つ。

 

「龍輝さんなら、その不安や恐怖を克服して――――――いつも通りの熱く、魂が燃えるようなレスリングをしてくれると」

「ああ、その通りだ。奴は私が惚れた男だ、この程度の障害など、難なく乗り越えてくれるだろうさ」

 

短期間とはいえ、ジムで共に過ごしていく中で、より龍輝への理解を深め、思いを昇華させた二人の言葉は、どこか彼女たちを引き込ませるような力があった。

 

『これより、第一試合を行います』

 

そんな中、リング上ではリングアナウンサーが、運命の一線の開始を告げる。

 

「さあ、試合が始まりますわよ!」

「嫁の雄姿を、しっかりと目に焼き付けなくてはな!」

 

 

『青コーナーより―――呉石水穂入場!』

 

(入場曲:『Speed』ATR)

 

ロック調の入場曲に合わせ、場内をライトが照らし、レーザーが飛び交う。

 

『プロレスファンであれば、だれもが記憶しているであろう、あの時代。1990年代半ば、グレイシー柔術の参戦により、プロレスの神話が崩壊しました。しかし時を経て、プロレスが柔術を打倒することもありました。その後長く続く因縁が、このカードを産んだのでしょうか!?』

 

そして、スポットライトが花道を照らした時、その姿を現した。

 

『さあ入場してまいりました!日本柔術界の未来を背負う、『絞殺王子』呉石水穂!!象徴ともいうべき白い道着に身を包み、その腰には茶色の帯が巻かれています!19歳という若さと甘いマスクからは想像できないほど高い技量を持ち、世界柔術選手権U-18にも選出されております!以外にも他流試合の経験がない彼が、今大会のオファーを受けたのは、やはりプロレスと柔術という深い因縁故か!?呉石水穂!軽やかにリングへ飛び込んだ

 

歓声を受けながら、トップロープを飛び越えリングに入る呉石。日本だけでなく、世界でも戦ってきた男の眼に、迷いはない。

 

『赤コーナーより―――齊藤龍輝入場!!』

 

(入場曲:『路地裏の宇宙少年』ザ・コブラツイスターズ)

 

アップテンポな歌が会場内を包み、会場内から歓声が飛ぶ。

 

『昔、あるプロレスラーが言いました……「プロレスには、他の格闘技にはない力がある」と。その不思議な力に魅せられ、一人の少年が龍の穴へ飛び込みました。過酷な環境に自ら身を置いた少年は、先達のように自分もデビューする日を夢見て、只只管に歩みを止めなかった。そして今日、少年は―――念願の舞台へと羽ばたきます!!』

 

ライトが一際激しく輝き照らすと、花道に一人の(レスラー)が現れた。

 

『どれだけ血反吐を吐いても、どれだけ打ちのめされても、その度立ち上がり……前だけを見据えて駆け抜けてきました!生半可な覚悟ではない……プロレスを信じ、師を信じ、そして何より……自分を信じたからこそ今の自分がある!!師である風間から受け継いだ伝統あるC.A.C.C.(レスリング)―――そしてその胸に宿した熱き魂の炎は、今もなお、メラメラと燃え盛っています!齊藤龍輝!夢の舞台へ、今、リ ン グ イ ン!!』

 

花道を悠然と歩き、リングへと歩を進めた龍輝の格好は、黒のショートタイツとレスリングシューズのみという出で立ちで、対戦相手の呉石とは対照的な格好だった。

そして入場が終わり、リングアナウンサーが再びマイクを取る。

 

『これより、異種格闘技戦、15分一本勝負を行います!!』

 

ワアアアァァァーーー!!!

 

大歓声が響く中、両選手のコールが行われる

 

『青コーナァー。175cm、79kg。森柔術道場所属、『絞殺の貴公子』―――呉石いぃ…水ぅ穂おおーー!!』

 

歓声に答えながらも、冷静に相手を見据える呉石。その姿からは、どのような修羅場をくぐってきたのかが容易に想像できる。

 

『赤コーナァー。168cm、82kg。ドラゴンピット所属、『継承バーニングソウル』―――齊藤うぅ…龍うぅ輝いいーー!!』

「シャアッ!!!」

 

試合を前に、声を上げて気合を入れる龍輝。滾る魂の熱で身体を燃やし、闘いに備える。

 

『レフェリー和田史郎』

 

コールされたレフェリーが選手二人のチェックを行い、両コーナーに下がらせる。

さあ準備は整った。憧れ続けたプロレスの舞台、そこに立つことを夢見て、只管に駆け抜けてきた男と、唯一つの道を進み、若くしてその道で名を馳せた男。二人の戦士の戦いの幕が、今開かれる!!

 

「ファイッ!」

 

カアァーーーン!!


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