インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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いやほんと疲れた。
ああいうの好きだけど、自分で書くのは苦手、これで限界……。
そこんとこよろしくお願いします!


第四十三話 姉妹の雪解け

「イィヤッ!」

「ぐっ!?」

 

エルボーと逆水平チョップを交互に叩き込んでいくアリス。確実に白木へダメージを与えていく。

 

(なんて肘、一瞬でも気を抜いたら持っていかれるっ!)

「ふんっ!」

 

腕を掴んでニュートラルコーナーへと振る。そして追走してリングの中央程で回転して着地、コーナーにもたれ掛かっている白木へ勢いそのままに背面エルボーを叩き込む。

 

「うっ!?」

『コーナーに振って……スペースローリングエルボー!アリス選手完全に流れを掴んでいます!』

『いやぁ試合の組み立てが上手いね』

 

更に首を捕らえて白木をリングに倒すと、ロープに走り反動で戻ってきたところで独特のフォームでエルボーを落とす。

 

「ぐふっ!?」

『フラッシングエルボー!そのままフォール!』

「ワン、ツー」

(こ……んのお!!)

 

流れるように片足を抱えて抑え込むが、白木は体をはねて逃れる。

 

『カウントツー。しかしこの試合は完全にアリス選手が制しています』

『どこかでペース変えたいね』

(ふーん、意外とタフだね)

 

倒れている白木の頭を掴み無理やり起こす。

 

「このっ!」

「うっ!?」

 

しかしその手を払うと張り手を見舞う。

 

(これ以上やらせるか!私にだって、意地があるんだ!)

 

数発ほど叩き込んだ後に腕を捻り上げる。

 

「セイッ!」

 

そして腕を取ったままミドルキックを胸板に叩き込む。その姿には鬼気迫るものがある。

 

『切れのあるミドル!弾ける音が木霊する!』

 

ダメージによりアリスの身体がふらつき、再びロープに振ると追走し、跳ね返ったタイミングで今度こそ追撃の膝を叩き込む。

 

「ガハッ!?」

『キチンシンクが突き刺さる!』

『綺麗に一回転したな。タイミングバッチシだ』

 

倒れたアリスは膝を突き刺された腹を抑えたまま、未だ横になって悶えている。

 

(くぅ……何て膝、まだ呼吸が苦しい……!)

 

白木はアリスの頭を掴み、上体だけを起こさせると反対側のロープに走り、反動を使って勢いを増して跳ね戻り、胸板目掛けて蹴りを繰り出す。

 

(させないよ!)

「チィッ!」

 

しかしアリスは自ら上体を倒し、それにより白木の蹴りは空を切る。

 

「セイッ!」

「ッ!?」

 

そしてそのままリングの表面を滑る様に回転し、足を払って白木をリングに倒す。

 

『サッカーボールキックを躱して水面蹴り、鮮やかです!』

『なかなか流れを掴ませないな、アイツ。いやぁやるねぇ』

 

更にアリスは一気に立ち上がって近くのロープに足をかけ、その反動を使って高く跳び上がり、白木の腹部目掛け勢いを乗せて落下して両足で踏み抜く。

 

「がふぉっ!?」

『その場跳びのフットスタンプ!何という跳躍力だ!』

 

そのままフォールにいくが、ロープに近かったため足をかけられ、カウントはされない。

 

『ロープに助けられました白木選手。しかし、このダメージはかなりのモノでしょう』

『いや、どうかな?新人とはいえ、鍛えられた腹筋を貫くのは容易い事じゃないさ』

 

白木から距離を取り、立ち上がるのを待つ。そして、ロープを掴みながらようやく立ち上がった白木に向かい駆け出し、追撃を喰らわそうとした……その瞬間。

 

「こぉのお!!」グオ

「おわっ!?」

 

向かってくるアリスの勢いをそのままに、肩で担ぐようにして後方に放り投げる。

 

『カウンターのショルダースルー!場外に真っ逆さまだー!』

(悪く思わないでね。とりあえず、これで少し休める……)

 

放り投げられた先はロープの外。このままでは場外に落下してしまう。……普通なら。

 

「おっと」スト

 

何とアリスは放られた瞬間、トップロープを掴んで勢いを軽減し、場外ではなくリングサイドに軽やかに着地した。

 

『これは凄い!場外に落下すると思いきや、軽やかな身のこなしでリングサイドに着地したー!』

 

驚愕する実況や観客をよそに、アリスはまたもや一跳びでトップロープに乗ると、白木の肩に飛び乗り、前方に勢いをつけて転がりつつ足を掴んでそのまま抑え込む。

 

「え―――?」

「ワン、ツー―――」

 

すかさずレフェリーがカウントを入れる。

 

「スr」

「おわぁ!?」

 

カウントスリーの直前、気を戻した白木が体を跳ねて危うくスリーカウントを逃れる。

 

『おっと惜しい、カウントは2.9!』

『メキシカン・ローリング・クラッチ・ホールドか、渋いねえ』

 

反撃を警戒してか、跳ね返された後すかさず距離を取るアリス。その彼女の姿を白木はロープにもたれながら驚愕の目で見つめていた。

 

(い、一体何が起こったの?いつの間にか丸め込まれていた――――――)

(くぅ、これでもとらせてくれないか。流石に場慣れしているね)

 

ゆっくりと立ち上がる白木。独特のステップを踏みながらその様子をうかがうアリス。

この時、空気の色が変わったことに、観客達は気付く由もなかった。

 

 

(アレが、姉さん……なのか?)

 

箒は、目の前の光景に驚愕していた。リングの上で闘っているアリス・ザ・ラビット、その正体である自身の姉、篠ノ之束の姿に。

彼女が知っている姉の姿は、こんな人の目の前で闘う姿を見せ、しかもあそこまで観客を魅せる事にも気を配るような、そんな事とは無縁の存在だと、そう思っていたのだから。

しかも、この会場にいる観客は、姉のその姿に魅了されつつあった。

 

「あのアリスって娘、中々やるなあ」

「ああ。マスクでのデビューってんでどうかと思ったが、流石風間さんの弟子ってとこだな」

「いいぞーウサギの嬢ちゃん!」

 

現に近くの席にいる観客は、束扮するアリスのことを評価し、声援を送っている。

 

(姉さん……私は……)

 

しかし、過去の確執もあり、箒は未だ気付けずにいた。束が伝えたい、本当のことに。

 

 

濃密な試合内容だが、経過時間は未だわずか2分強。しかし、二人の周りの空気はピリピリと、まるでいつ爆発するかわからない時限爆弾のような空気が漂っていた。

 

「……」

(……目が、変わった?)

 

ジリジリと、観客にも伝わるほどの緊張感を醸し出しながらゆっくりと、距離を詰めながらリングを回る。

 

「―――シッ!」

「ッ!?」

 

先に動いたのは白木。その脚力を以ってマットを蹴り、一気にステップインするとアリスの足目掛けて蹴りを繰り出す。

しかしそこはすかさず脛を上げてカットする。

 

ゴッ!!

 

「ッつぅ!?」

 

しかし、重い蹴りの一撃は、カットの上からでもアリスの足にダメージを与える。

 

『強烈なロー!肉が弾けた様な音が響き渡る!』

『あの蹴り、空手の蹴りだな。カットしたから中までは効いてないだろうが、動きを止めるには十分だ』

 

その言葉の通り、ローキックの一撃でアリスは体勢を崩し、そこを逃さず白木が回転し腹部に足底を突き刺す。

 

「かはっ―――!?」

『素早いソバット!もろに入ったぞ!』

『あちゃー、ありゃキツイな。呼吸できっかな』

 

倒れはしないものの、腹部を押さえるアリスを尻目にロープに走り、反動の勢いを乗せて前蹴りを繰り出しアリスをリングに倒す。

 

『ランニングフロントハイキックが顔面に突き刺さった!アリス選手ダーウン!!』

「ふんっ!」

(っ!?しま―――)

 

すかさずアリスの脚を抱えると、そのまま自分の脚をかけて関節技に移行。ガッチリと腕の骨が嵌り、脚の腱を絞め上げる。

 

『素早くアキレス腱固め、これはアリス選手の足を潰しに来てますね』

『だな。さっきのローといい、機動力を削いで一気に決める気だな』

 

ガードはしているものの外れている訳ではない為、じっくりと、燻す様な痛みがアリスの足を襲う。

 

「〜〜〜っ!!?」

 

悲鳴を噛み殺しつつもゆっくりとではあるが、ポイントをずらし極めから逃れようとする。しかし、白木はその先を読んでいた。

 

(逃がさないわよ……これで!)

「あぐっ!?」

 

脚を抱えていた腕を自ら外し、爪先を掴んで足首を抱き抱えるようにクラッチを組み、身体を回転させてうつ伏せに返しながら足首を極める。

 

「がああああっ!!?」

『アンクルホールドにチェンジ、徹底して脚を壊しにかかっています!』

『一点を攻めて弱点(ウィークポイント)を作る、定石(セオリー)通りの良い攻めだ。極めがまだ甘いがな』

 

足を攻められ続け、ダメージの蓄積も大きい。

しかし、このまま黙って脚を破壊される程、アリスも柔ではない。

 

(ま、だまだあっ!!)グワ

(何っ!?)

 

足首を極められながらプッシュアップで身体を起こし、白木の身体を引きずりながら腕の力でロープに向かう。

白木も逃がすまいと極めを強めようとするが、引きずられる際にポイントがずらされてしまい、うまく極める事が出来ない。

 

「たあっ!」ガシッ

「ブレイク!白木ブレイクだ!」

「チィッ!」

 

レフェリーの指示を受けて離れる白木。積み重ねられたダメージのせいか、アリスは足を押さえてなかなか立ち上がれない。

 

『脚の一点集中が効いてるな』

『これでアリス選手は持ち味を封じられたということでしょうか?』

『そりゃどうだろうね』

 

アリスが立ち上がるのを待たず、白木は追撃を加えようと距離を詰め無理矢理起こすと先程まで攻めていた側の脚を捕り、リング中央まで引っ張る。

 

『脚を取った、また脚攻めか!?』

『徹底して狙っているね』

 

白木はそのまま足首を固定すると、素早く内側にきりもみ状態で倒れ込みながら、アリスの脚を巻き込みながら投げ飛ばす。

 

『ドラゴンスクリュー!!攻められ続けた脚にこれは―――!?』

『おお、流石天才だな』

 

仕掛ける前、今は自分の流れであると白木は確信していた。徹底した脚攻めによってアリスの機動力を奪っていき、このドラゴンスクリューを決め手に一気にフィニッシュに持っていくつもりだった。だからこそ驚愕した。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『な、何ということだっ!?いつの間にかアリス選手が腕十字で白木選手を極めている―!!』

『だから言ったろ?あの娘の武器は機動力だけじゃないってことさ』

 

アリスがやったことは紐解けば単純なことだ。白木がドラゴンスクリューを仕掛けた瞬間、その回転方向に合わせて自身も跳躍し回転。更に空中で体を捻って態勢を整え、マットに着地した瞬間には逆に白木の腕を極めていたのだ。

 

『確かにあのバネも武器の一つだが、一番は天才的ともいえる感性だ』

『感性、ですか?』

『ああ。所謂ひらめきっていうのかな、触れた感覚、場の空気、流れ、その全てを感じ取り、次にすべき事を理解する。これは努力で補うには限界があるもんでな、あの娘のそれは天性のもの、天賦の才と言ったほうがいいかな』

 

風間の言う通り、この試合中でのアリスの動きはまるで新人とは思えないものであり、それはまるでかつてのJr.黄金時代の選手のような動きであった。

 

(な、なんて奴なの!?あんな返し、普通じゃ考えられない!)

(私だって、5年間の積み重ねがあるんだ!デビューしてたった1年足らずの相手程度に、負けてられないんだよ!!)ギリリ

「ああああっ!?」

 

さらに力を込めて腕を極める。白木も抵抗して上体を起こそうとしたりしてエスケープを図るものの、ガッチリと極まっており抜け出すことができない。

 

(けど、私にだって意地があるんだ、ギブアップなんてしない!)

『白木選手何とか耐えていますが、腕は完全に伸ばされています!』

 

ギブアップする気配を見せない白木に対し、アリスは極め方を変えてさらに腕を攻める。

 

「あぁあああっ!?」

『キーロックにチェンジしたか。相手が脚攻めなら、自分は腕攻めって事か』

『これは白木選手ピンチです!』

 

またもやガッチリと極まった関節技(サブミッション)に、白木の血流が悪くなり、みるみる腕の感覚が失われていく。

 

(うっ!)

 

しかし、アリスもそれ以上、極めを強くすることはできなかった。腕十字と違い、キーロックは脚で決める技。先程までの脚攻めにより、脚に力が入りづらくなっているのだ。

そこを白木は逃さなかった。

 

(っ!しめた!今なら―――)

「ッ!?」

「おおおお!!」

 

何と白木は腕を極められたまま、アリスの身体を持ち上げた。

 

『ああっとアリス選手、極めた体勢のまま高々と持ち上げられた!!』

『おお、やるねえ』

 

そしてそのまま、重力に従ってアリスの身体を自分ごと倒れるようにしてマットに叩き付ける。

 

「かはっ!?」

『叩きつけたあー!アリス選手大ダメージ!』

 

キーロックを仕掛ける体勢は、自分の腕を固定する。その為受け身が取れず、想定外の大ダメージを受けてしまった。

 

「くうぅっ!?」

『ああっとしかし、白木選手も腕を押さえている!?』

 

極められた体勢だったため、叩きつけた瞬間その衝撃が極められた肘へと伝わり、自身もダメージを負ってしまった。

叩きつけたことによってロックが外れ、脱出できた。しかしその代償として、自分の身をも痛めつけてしまう、まさに諸刃の一撃であったのだ。

 

「こ……のぉ!」

 

先に立ち上がったのは白木。ダメージを受けたのが肘だけであったため、脚部及び背面にダメージを負ったアリスよりも体勢を整えるのが早かった。

 

(アリス・ザ・ラビット……確かにあんたは天才だ。それは対戦した私がよく分かる―――)

 

頭を掴んで無理矢理アリスを立たせ、頭を抱えると自身の身体ごと反転させて背中合わせの体勢になると、自ら倒れ込みその勢いを以って後頭部をマットに叩き付ける。

 

『スインギング・ネックブリーカー!!今のアリス選手には、厳しい攻めだあー!』

 

そのままアリスの身体に覆いかぶさり、ピンフォールの体勢に持っていく。

 

「ワン、ツー」

「あああ!」ガバ

 

しかしまだ体力が残っていたのか、カウントはツー。

返された後白木はすかさずまた立ち上がり、右の拳を上げて観客にアピールする。

 

『再び立たせた!フィニッシュに行くのか!?』

(―――だけど、私にも負けられない意地がある!)

 

再びアリスの頭を掴み立たせると、片足に自分の脚を絡ませ、固定。

 

『こ、この体勢は!?』

(喰らえ!!これが私の―――)

 

更に背後から固定した脚と反対の腕と頭を脇に抱え込むと―――

 

「全身全霊だああああ!!」

 

気合いの絶叫をあげながら、自分の身体ごと捻りつつアリスの上半身を絞り上げる。

 

『き、極まったああああ!!スタンディング式の、ストレッチプラムだあー!!』

『アレを使う選手がまだいるとはね』

 

ミシミシと、アリスの身体が軋む音が聞こえそうになるほど、きつく絞り上げている。

 

(はいった!ここまで極まったら、もう抜け出せない!)

(ま、まだこんな力があるなんて……くぅぅ)

『5分経過、5 minutes have passed.』

 

先程のダメージのせいか、うまく力が入らず、ろくな抵抗ができないでいる。

 

(箒、ちゃん……)

 

 

「姉さんっ!?」

 

箒はさっきまでとは違う意味で動揺していた。

自分の知っている姉は、天才だが自分勝手で、自分本意で、何を考えているか理解できない人間だった。

その姉が今、マスクを被っているとはいえ、衆人観衆の目の前であんな姿をさらすなんて、箒にはまったくもって理解できなかった。

 

「お、おい箒!束さんがピンチだぞ!?応援しなくていいのかよ!?」

「うるさいっ!!」

 

一夏に対して声を荒げてしまうほど、今の彼女の頭の中はいっぱいいっぱいであった。

 

(何なんだ、この気持ちは……私は姉さんを恨んでいる、そのはずなのに……)

 

姉を恨む気持ちと自覚はしてないが心配する気持ち、そのギャップに箒が悩んでる間にも、リング上では白木がアリスからギブアップを奪おうと極めを強くしていく。

 

「ああっ!?」

 

締め上げられ、苦悶の表情で声にならない悲鳴をあげる姉を見てつい声をあげてしまった。

何故かは分からない。無意識であったのだが、恨んでいるはずの姉が痛めつけられてる姿を見て、何故反射的に声を上げたのか、それが分からなかった。

しかしその瞬間、箒の脳裏に過去のとある記憶が思い起こされた。

 

(そういえば、いつだったか姉さんが……)

 

――

―――

 

 

何年前だろうか、詳しくは覚えてはいないが、確か私が小学生で姉さんが高校生だった時の話だ。

その日の姉さんは何故かいつもより機嫌がよかった。朝から千冬さんに連れ出されていたけど、それと関係あるんだろうか?

気になった私は、姉さんに聞いてみることにした。

なんでも今日、久しぶりに千冬さんの師匠に会ったらしい。師匠と言ってもうちの剣道場のではなく、千冬さんが小学生の頃に面倒を見てくれた人で、その時にいろいろ教わっていて、姉さんも千冬さんに連れられて知り合ったらしい。後で知ったのだが、うちに来たのもその師匠に言われて、見聞を広める為だったとのことだ。

その千冬さんの師匠に会ったとはいえ、それだけでこんな上機嫌になるとは思えない。

 

「実はね、ちーちゃんの師匠さんに話したんだ。今やってる研究の事」

 

姉さんがしてる研究、それはISのことだ。しかし、恐らく門外漢であるその人に話したとして、何か意味があったのだろうか。

 

「師匠さんにとっては専門外だったけど、とても真剣に聴いてくれてたんだ。それで話し終わった後、何て言ったと思う?」

 

恐らくそれが、姉さんが上機嫌になった理由なのだろう。

 

「『夢があっていいな』『頑張れよ、応援してるぞ!』……って言ってくれたんだよ!」

 

それだけ?と、当時の私はそう思ってしまった。しかし、今思えばそれは間違いだった。

小学生だった私には分からなかったのだが、姉さんの研究は、今でこそ世間一般の常識ともいえるほどだが、当時は学生ということもあって世間からは認められずにいた。

そんな時に単純な言葉ではあるが、認められたのだ。姉さんにとって、これがどれ程嬉しかったのか。

一つ気になった。その人はどんな人なんだろう、と。

 

「プロレスラーだよ」

 

驚いた。というか千冬さん、プロレスラーの人に鍛えられてたのか。そりゃ強いわけだ。

 

「今日も試合観てきたんだけどね、いやー凄かったよ!まずね―――」

 

それからは延々とプロレスの試合について語っていた。プロレスを観たことがなかった私にはよく理解できなかったが、興奮した様子で話す姉さんの姿はとても生き生きしていた。

 

「それでね、私思ったんだ。プロレスの凄さってね……」

 

姉さんが語るその凄さとは……。

 

「すべてを受け入れる"懐の大きさ"なんじゃないかってね」

 

何故、そう思うのか?私は疑問に思って訊ねた。

 

「さっきも言ったけど、私の研究のことを話した時に、ちーちゃんの師匠さんは笑顔で応援してくれた。それで訊いてみたんだ、『なんで馬鹿にしないの?』って」

 

姉さんの問いに、そのプロレスラーの人は何て答えたのだろうか。

 

「そしたらね――――――

 

『俺達レスラーは観客に夢を与えるんだ。プロレスラーが人の夢を笑ったらお終いだよ。立派な夢じゃあないか……応援こそすれ、馬鹿になんかしないさ』

 

――――――正直、涙が出たよ。それで決めたんだ。私も人に夢を与えれる人間になろうって」

 

その言葉に、私は素直に感銘を受けた。

 

「……よーし!早速研究頑張らないと!応援してくれた師匠さんの期待に、応えるためにもね」

 

 

―――

――

 

(そうだ、すっかり忘れていた。姉さんは、今のような世界にしたくてISを造っていたわけではなかった)

 

子供の頃の、在りし日の記憶。それにより、自分の姉が本当は何を望んでいたのかを思い出した箒。忘れていたのも無理はない、当時彼女はまだ幼かったことに加え、妹であるというだけで政府の監視下に置かれていたのだ。子供ながらに姉を怨み、記憶からいつの間にか消えてしまっていた。

 

(でも、思い出したからって、今更私が姉さんの応援をするのは……っ!?)

 

ふとリングに視線を向けると、そこには極めを強められ叫び声を上げる姉の姿があった。

初めはロープに向かい必死に伸ばしていた手も、徐々に力を失っていく。このままでは、レフェリーストップもやむなしであろう。

――――――その瞬間、彼女は動いた。

 

「……頑張れ」

「?箒、何か言っ」

 

箒は席から立ち上がると、喉が裂けんほどの声で叫んだ。

 

「頑張れー!!姉さーんっ!!」

 

会場内は、数多くの観客の声援で満たされている。いくら箒が大声を出したところで、リングの上まで届くかはわからない。

だが、その想いは、確実に彼女に伝わっている。

 

 

「アリス、ギブアップか!?これ以上は試合を止めるぞ!」

 

レフェリーが選手の意思を確認する。すでにアリスの腕の力は抜けつつあり、これ以上は危険である。

 

(確かに新人にしては凄かったわ。でも、これで私の勝ち―――!?)

 

白木が勝利を確信した瞬間、何かしらの違和感に気付いた。するとどうだろう、さっきまで生気が薄れていたアリスの腕に、力が入っているではないか。

 

「な、何―――!?」

 

そしてそのまま徐々に抱え込まれた腕を引き戻し、更に頭部を抱えている腕をも剥がしはじめた。

 

『なんと絶体絶命かに見えたアリス選手、白木選手のストレッチプラムを返しはじめた!』

『こりゃどうなるか分からんねえ』

 

白木も外されまいと抵抗するが、どうしたわけかアリスの力の方が強く、おまけに先程の肘のダメージもありゆっくりと確実に外されていく。

 

「こ、このぉ!」

「―――ぅう」

 

そして、ついに頭部を極めていた腕のロックが完全に外れ、同時に絡め捕られていた足も外れる。

そのままアリスは逆に白木の腕を取り、リングに向けて背負い投げの要領で投げつけた。

 

「ううおおおおおおおおっっっ!!!」

「がふっ!?」

 

その時、抑え込まれていたウサギが、再びリングに解き放たれた。

 

『脱出!アリス選手、白木選手のフェイバリットから脱出しました!』

「うぅ……この!?」

 

技を外された精神的ダメージか、叩きつけられたことによる肉体的ダメージから来る焦りか、白木は一旦距離を取ってから立ち上がろうとする。しかし、その時を彼女は逃さなかった。

 

「うおおっ!」

「なっ―――がふぉっ!?」

 

立ち上がろうとする白木に向かって駆け出し、一気に接近すると立ててある片膝を踏み台にして白木の顔面に膝を見舞う。

 

『なんとここでシャイニングウィザード!閃光魔術が炸裂したーあ!!』

『はっきりと言える、アイツは天才だ』

 

その一瞬の出来事で、観客たちのボルテージは一気に上がり、場内には「レッツゴー、ラビット!」コールが響く。

 

「う、うぅ……」

「さーて、行くよ!」

 

今度はアリスが観客に向かってアピール。

白木の体を起こし、胴体をガッチリとクラッチし、そのまま旋回を始める。

 

『あ、あの体勢は、風間さんの得意技のスピニングボムの体勢ですか!?』

『ふっふっふ、さてどうかな?』

 

旋回を続けていく内に、遠心力により白木の身体が高く持ち上がっていく。

 

(鋭い蹴りと強烈なサブミッション、なかなかにやるね、でも!)

 

そして頭上高くまで白木の身体を持ち上げると、肩口に乗せるようにして担ぐ。

 

『い、いやこれは、スピニングボムではないぞ!?』

(いくよ!風間さんから受け継いだスピニングボム、それを元にした私のフェイバリット!その名も―――)

 

そのまま担いだ側へ体重を乗せながら倒れ込んでいき――――――

 

「ううぅぅうりゃああああああああっっっ!!!!」

 

――――――強かにマットに、白木の身体を叩きつけた。

 

(……その名も、"ドライブ・ボム"!!)

『な、なんとおお!!肩に担いだ体勢から、まるでエメラルドフロウジョンの様に叩きつけたー!!』

 

叩きつけた体勢からクラッチを放さず、身体を捻って抑え込む。

 

「ワン、ツー……」

 

レフェリーがマットを叩いてカウントを数える。押さえられてる白木は、ピクリとも動く様子はない。

 

「スリー!」

 

アリスはその言葉を聞いた時、抑え込みを解いて天井を仰いだ。

 

カンカンカンカーン!

 

試合終了を告げるゴングが、会場内に鳴り響いた。

 

『6分21秒、変形スピニングボム、アリス・ザ・ラビット選手の勝利です!!』

ワアアアアアー!!

 

歓声が沸き起こり、アリスの健闘と勝利を讃える。

 

『試合序盤から新人離れした動きを見せたアリス選手が、新技で白木選手を沈め、勝利を勝ち取りましたー!!その姿はまさにジーニアス、まさにミステリアスラビット!!』

『持ち味を生かせた試合だったな。両者とも、いい動きだった』

 

リング上では、歓声に応えてアリスが四方の観客へとアピールしている。

敗れた白木は、セコンドに肩を借りながら控室へと去って行った。

 

 

「やったな箒!束さん勝ったぞ!」

「あ、ああ。そうだな」

 

勝利し、歓声を受ける姉の姿を見て、箒は先程は応援したものの昨夜のことや今までのことで何やら気が引けてしまい、素直に喜べずにいた。

 

「……行って来いよ」

「え?」

 

突如一夏が箒に対しそう言った。

 

「控室。色々話したいことあるんだろ」

「し、しかし……」

 

話したいことはある。言いたいこと、伝えたいことがある。

だが箒は、散々拒否してきたのにいまさら行ってもいいものかと思い、ついしり込みしてしまう。

 

「……分かった、行ってくる」

「ああ、それがいいって」

 

暫し目を閉じて考え込んだ後、意を決して姉の元へ行くことを決めた。

箒は観客席を立つと、控室に向かって駆け出した。

 

(姉さん……!)

 

 

「あー勝ててよかった!」

 

アリスは試合の疲れをほぐすように、グーッと伸びをしながら控室への道を歩いていた。

 

(……結構根性あったなー、あの白木っての)

 

歩きながら先程の試合について思い返す。風間に師事し、ジムでのしごきを耐え抜いた彼女は、負ける筈はないと思っていたが、まさかあそこまで攻められるなどとは想定してなかったのだ。

 

「ま、それでも私の方が上だったけどねー」

「ま、待ってくれ!」

 

鼻歌でも歌いそうな軽い足取りで控室に戻る彼女を何者かの声が引き留めた。

アリスは声の方向に振り向くと、そこには彼女にとって意外な人物がいた。

 

「ハァハァ……姉さん……」

「ほ、箒ちゃん……」

 

そこにいたのは彼女の妹、箒だった。急いで走ってきたのであろう、息は切れ、肩で呼吸している。

妹の姿を確認すると、アリスは紐をほどいてマスクを脱ぎその素顔、篠ノ之束の顔を見せた。

 

「そ、その……えっと……」

「箒ちゃん」

 

急いできたはいいものの、何から話したらいいか分からずに口ごもる箒に束は彼女の名を呼び、先に話し始めた。

 

「ありがとね」

「ッ!?」

「聞こえたよ、箒ちゃんの応援。おかげで勝てたよ、ありがとう」

 

その言葉を聞いて、箒はなにやら胸のうちが晴れるような感覚がした。

そして先程とは違い、何を言うべきかがはっきりと分かった。

 

「……姉さん、私はあなたのことを誤解していた」

「箒ちゃん……」

「あなたは、今も昔も人々に夢を与えようとしていた。それなのに私は―――」

 

その時、箒の身体を束が抱きしめた。

 

「いいよ、箒ちゃん。私も、無責任でごめんね」

「あ、ね、姉、さん……」

 

目頭が熱くなった。そう気付いた時には、瞳から涙が流れだした。

 

「うぅん……姉さん、私も、ごめん」

「箒ちゃん……」

「これからは、私も応援するから……だから」

「うん……みんなに夢を与えれるように、お姉ちゃん、頑張るね!」

 

暫しの間、二人は抱きしめ合っていた。それまでの長いすれ違いの時を、取り戻すかのように……。

 

―――第ニ試合 Beauty & Mysterious

●白木真奈 6分21秒 変形スピニングボム(ドライブ・ボム) アリス・ザ・ラビット○

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