インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第四話 たんと食う

「……腹減った」

 

最悪の目覚めだ。ホントならあの後夜食を食べてから寝るはずが、シャワー上がりにセシリアに遭遇してしまったためほぼ空腹のまま寝てしまった。まあ俺が悪いんだろうが……。

部屋を見渡すが、セシリアの姿はもうない。恐らく食堂だかにでも行ったのだろう。

 

「……飯食い行くか」

 

寝起きの目をこすりながらベッドから起き上がり、顔を洗ってから部屋を出て食堂に向かう。昨日もあんま食えなかったし、今日は一杯食わないと。

 

「よう龍輝!お前も今から朝飯か?」

 

食堂に行く途中でこの学校でもう一人の男子、織斑一夏が声をかけてきた。朝から元気だなコイツ。よく見ると昨日のポニテ女子も一緒だ。やはり知り合いみたいだな、この二人。

 

「ああそうだ。正直腹が減って仕方がない」

「よければ一緒に食おうぜ。なあ箒、いいだろ?」

「……勝手にしろ」

 

なんか不機嫌だな。一夏が何かしたのか?まあ部屋の前に野次馬ができてたくらいだし、何かはあったのだろう。

てか。

 

「……箒?」

「ああ。篠ノ之箒。コイツの名前だよ」

「……」

 

……変わった名前だな。何で掃除用具?と思ったが、そう言う事だったのか。

 

グウゥ~

 

「……すまん、急ぐぞ。もう腹が限界だ」

「わ、わかった。ほら箒、行くぞ!」

「て、手を引っ張るな!バカ!」///

 

俺の空腹が深刻なため、俺達三人はダッシュで食堂に向かった。

 

――――――

 

「もっきゅもっきゅ」

「」

「」

 

食堂に着くや否や、俺は急いで食券を購入して食堂のおばちゃんに渡し(ご飯は特盛)、出来上がった料理を受け取り急いで、且つこぼさないように席に着き腹に飯をかっ込んだ。自分でも驚きなほど腹が減ってたみたいだ。少し遅れて俺の向かい側の席に着いた一夏と篠ノ之の二人は、どうやら俺の勢いに驚いているようだ。

 

「あ、あのさ龍輝。そんなに急いでかっ込むと―――」

「ムグムグゴクン…なんだ?」

「い、いや、何でもない」

 

?なんだ一体。しかし昨日も思ったが、ここの料理は上手いな。いくらでも食えそうだ。

 

「ねえねえ、あの二人が噂の男子だって~」

「何でも一人は千冬様の弟らしいわよ」

「もう一人は……てなにあの量!?」

 

腹に入れて少し落ち着いたおかげか、周りの声がよく聞こえる。昨日もそうだったが、ここの生徒は暇なのか?そんなことを考えながら飯を食ってると、目の前の茶碗と皿が空になった。全然足りん。

 

「わりい、おかわりをもらってくる。席見張っといてくれ」

「まだ食うのか!?」

「昨日より食ってないか?」

「……腹減ってるもんでな」

 

二人に応えつつ席を立ち、先程の食器を片付けたあと食券の販売機に向かう。あんまり待たせちゃいかんし、急ぐか。

二食目の料理を受け取り小走りで席に向かうと、なぜか人数が増えていた。一夏達の方に一人、俺が座ってた席の両サイドに二人。

 

「あ、おかえり龍輝」

「おう……なんだこの状況は?」

 

事情を聴くと、俺がいない間にこの三人の女子が来て、一緒にいいかと訊いてきたらしい。で、席も空いてたから、断るのも悪いと思いOKしたのだそうだ。

 

「別にいいよな?」

「まあいいけど」

 

冷める前に早く食っちまいたいしな。さっきまで座っていた席に座る。

 

「ねえ齊藤君。今みんなどれくらい食べるか話してたんだけど、齊藤君は……え?」

「え?」

「わー」

 

何だ?急に表情がこわばったな。

 

「さ、齊藤君。それ、全部食べるの?」

「当たり前だろ?」

 

ちなみに今度の俺のメニューはミックスグリル定食。単品でチキンカツや生姜焼きなどを付け、もちろんご飯は特盛だ。

 

「さ、流石男の子だねっ」

「いやいやこれは多すぎだって!」

 

そんなに多いか?確か周りを見るとみんな量は少ないが、それは女子だからだろ?ていうかさっきから聞き覚えのある声がすんな。

 

「ん?おお布仏か。おはよう」

「たっつんおはー」

 

昨日結局あれから話してないからか、久しぶりに感じるな。

 

「たっつん大食漢だねー」

「まあ、これくらい食わないと体重増えないしな」

 

俺は身長が低いから、肉で体重増やさんといかんからな。かなり大変だ。

 

「増やすって……。何キロまで増やすの?」

「とりま80キロだな。最低ラインがそれくらいだからな」

「今何キロなの?」

「75キロ。食っても増えん体質だから、あと5キロがつらい」

 

そう言ったとたん、周りが凍り付いたような気がした。中学時代からこの話をするとこうなるが、何故だ?

 

「……織斑、齊藤、私は先に行くぞ」

「ん?ああ。また後でな」

「まふぁふぁ(またな)」モゴモゴ

 

つい口にモノが入ったまま喋ってしまった。師匠に見られたら怒られちまうな。

 

「織斑君って、篠々之さんと仲いいの?」

「ああ、まあ、幼馴染だし」

 

そうだったのか。どおりで。

 

「いつまで食べている!食事は迅速に効率よくとれ!遅刻したらグラウンド十週させるぞ!」

 

織斑先生の声が食堂に響く。そういえば寮長だっけか?トレーニングになるから歓迎だが、授業が遅れるのはよくない。急いで食おう。

 

 

「織斑、齊藤、お前らのISだが準備まで時間が掛かる」

「「へ?」」

 

二時間目が始まるや否や、織斑先生がそんなことを言って来た。

 

「予備機がない。だから少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

「「???」」

 

何言ってるかよく分からんが、とにかくまたメンドイことになるのだろう。その証拠に俺ら二人を除いた教室内がざわめいている。

 

「せ、専用機!?一年のこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出るってことで……」

「いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

そんな声が出てるってことは、専用機持ちとはかなり特別な存在らしい。

 

「専用機ってそんなに凄いのか?」

「知らん」

 

俺に聞くな。シャアザクみたいなもんだろうか?

 

「教科書六ページ。織斑、音読しろ」

「え、えーと……」

 

未だ意味を理解できないでいる俺ら二人を見かねてか、織斑先生が一夏に言った。

内容を要約すると、『ISのコアは開発者以外には作れないのに数が少ないから、みんなで仲良く使ってね♪』と言う事だ。

 

「本来なら専用機は、国家あるいは企業に所属する人間にしか与えられない。が、お前たちの場合は状況が状況なので、データ収集を目的として用意されることになった。理解できたか?」

「な、なんとなく……」

 

傍迷惑だなあ。要は実験台になれって事だろ。気分悪いわ。

 

「あの、先生。篠々之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

女子の一人が恐る恐ると言った感じで質問した。篠ノ之博士って、確か教科書に載ってたな。正直どうだっていいが。

 

「そうだ。篠々之はアイツの妹だ」

 

個人情報バラしていいのか?まあだからどうと言う事もないか。そんなことよりおなかすいた。

 

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内がふたりもいる!」

「篠ノ之博士ってどんな人!?」

「篠々之さんも天才だったりする!?」

 

やかましいな。すきっ腹に響くからやめてほしい。それに、そんな利き方じゃ気分悪いだろう?

 

「あの人は関係ない!」

 

周りが鎮まるほどの大声。当然の反応だな。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

二世レスラーと同じか。身内と比べられちゃたまんねえよな。まあ、俺はアイツの事よく知らんし、俺の両親も一般人だけどな。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

 

そこからは普通に授業が始まり、女子達は未だ篠ノ之が気になる様子ではあるが、授業はちゃんと受けているようだった。

昼休みまであと三時間か、長いな。

 

 

「安心しましたわ。わたくしとあなた方では勝負は見えてますけど、流石に専用機と訓練機ではフェアではありませんものね」

 

休み時間が始まってすぐ、俺等の前に来たセシリアは開口一番にそう言った。はよ飯行きたいんだが。

 

「お前も専用機を持ってるのか?」

「ご存じないの?仕方ないですわね。庶民のあなた方に教えて差し上げましょう」

 

いや別に知らんでもええから飯行かせてくれ。

 

「このわたくし、セシリア・オルコットは代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

「へー」

「そりゃすごい」

「……馬鹿にしていますの?」

 

そんなつもりは毛頭ないが、生憎俺はガンダムはガンダムでも陸戦型の方が好きなんだ。

 

「……こほん。先程授業でも言っていたでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

「そ、そうなのか……」

「そうですわ」

 

一夏の反応に満足そうなセシリア。別にそんな驚くことでもないと思うぞ。

 

「人類って今六十億超えてたのか……」

 

そこかい。だいぶ前から超えてたぞ。

 

「重要なのはそこではないでしょう!?」

 

こればっかりはセシリアに同意だ。

 

「そうだぞ一夏。こんなことでいちいち驚くな」

「ていうか、お前は驚かないのかよ?」

「俺の親父の頃には超えてたらしいしな」

 

授業はちゃんと受けた方がいいぞ。俺が言うのもなんだが。

 

「とにかく!クラス代表の座にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであると言う事をお忘れなく!」

 

ぷんすか怒りながら立ち去って行った。短気は損気だぞ?

 

「何だったんだ?」

「さあな。それより、飯行こうぜ」

 

もう腹がペコペコだ。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ。箒も誘っていいか?」

「構わねえけど、何でだ?」

「ほら、さっきの一件でなんか浮いてるしさ、クラスメイトとして見過ごせねえだろ?」

 

言われてみれば確かにな。コイツ結構気が利くな。

 

「なら先行って席取ってるわ」

「おう、頼むぜ」

 

この場は一夏に任せて先に食堂に向かうとするか。うまくやるといいんだが。

 

 

「おーい、こっちだ」

 

昼飯を食ってる最中、遅れてきた一夏と篠ノ之を見つけたので、声をかける。

 

「席取りサンキュ。ほら箒、座ろうぜ」

「ああ……」

 

なんか機嫌悪そうだな。まああんなことがあったんだしな。しゃーないか。

 

「なあ箒、俺等にISの事教えてくれないか?このままじゃ来週の試合で何もできずに負けちまう」

「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」

「そこをなんとか、頼むっ。龍輝も、教えてほしいよな」

「悪いが俺は遠慮させてもらうよ。そもそもやる気もねーしな」

 

お前はやる気満々かもしれんが、こちとらやるなんて一言も言ってねーぞ。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。それに、あの千冬姉が意見を聞くと思うか?」

「そりゃそうだが……」

 

確かに何度言っても「ダメだ」と一蹴されてるしな。

 

「だろ?だったらもう覚悟決めようぜ」

 

と言ってもなあ。女子に手を上げるのはどうも……。

 

「ねえ。君達って噂の子でしょ?」

 

いきなり話しかけられた。見ると赤のリボンを付けた女子が立っていた。確か赤は三年だったか?

 

「はあ、たぶん」

 

と一夏が返答した。俺は咀嚼中であったため返事はできない。

 

「代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、ほんと?」

「はい、そうですけど」

「モキュモキュ…ゴクン不本意っすけど」

 

噂が広がるのは早いな。女子は噂話が好きと聞くが、ほんとだな。

 

「でも君達、素人だよね?私がISについて教えてあげようか?」

 

ちょうどいいじゃないか一夏。俺は結構だけどな。

 

「はい、ぜ」

「結構です。私が教えることになってますので」

 

一夏の声が篠ノ之の強めの口調の声に遮られた。お前さっき自業自得だみたいなこと言ってただろ。

 

「あなたも一年でしょ?私の方が上手く教えられると思うなぁ」

「……私は、篠ノ之束の妹ですから」

 

カードを切ったか。めっちゃ嫌そうだけどな。

 

「篠ノ之って―――ええ!?」

 

めっちゃ吃驚してんな。

 

「そ、そう。それなら仕方ないわね……」

 

若干引いた感じで退散していく先輩。いい人だったのに……まあどうでもええか。

 

「……教えてくれるのか」

「そう言ってる」

「よかったな一夏。頑張れよ」

 

しかし篠ノ之とかいうの、初めからそう言ってればもっと簡単に終わってたんじゃ?と思ったが、野暮ってもんか。

 

「頑張れって、お前はどうすんだよ?」

「さっきも言ったが遠慮させてもらう。もしやるとしたら、俺とオマエは敵同士になるんだからな」

「そっか。そういえばそうだよな」

 

気付いてなかったのかコイツは。結構抜けてんな。

 

「そういう事だ。じゃあ食い終わったし、先に戻るわ」

「おう。……てかあの量をもう食い終わったのかよ」

 

?量って、一日合計1万キロカロリーになる程度だが?

 


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