インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第五十三話 打ち上げ

某ホテルの宴会ホールにて。

 

「それでは、グラスが行き渡りましたところで、風魔龍輔選手挨拶をお願いします」

 

前に出てマイクを受け取り、会場全体を見回した風間。フゥ、と一度深く呼吸をしてから口を開いた。

 

「えー、皆様のおかげで無事に大会を終えることができました。長々と喋るのは性に合わないので、では!乾杯!!」

 

直後会場にいる全員が「乾杯!」とグラスを掲げる。それを皮切りに皆思い思いに楽しみ始めた。

談笑する者、食事を楽しむ者、既に次の試合について話す者、今大会の振り返りをする者。

そんな中で、この会場において浮いている一角があった。言わずとしれたIS学園御一行だ。

 

「まさか打ち上げにまで誘ってもらえるなんてね」

「ほんと太っ腹だよね〜。うまうま」

 

本来彼女達は招待されたとはいえただの観客ではあるのだが、龍輝の同級生ということで風間の計らいによって興行の祝賀会に招待されたのだ。

地元ホテルのホールを貸し切っての立食パーティーの形で行われた祝賀会は、最低限のマナーさえ守ればそこまで厳しくなく、学生である彼女達でも鯱張らずに楽しめるものだった。実際本音やかなりんなどは開始早々料理に舌鼓を打っている。

しかし全員がそうではない。その光景を見つめる相川清香と谷本癒子の表情はやや強張っている。

 

「二人のあの胆力、こういう時は羨ましいわ」

「本当だよね。私なんか凄いドキドキしてるのに」

「それが普通だよ。だって……」

 

そこで二人は会場内へと視線を向ける。この場には出場した選手やスタッフ達だけでなく、招待されたゲストの姿もある。

 

「国内外の著名な芸能人に格闘家。更には政治家まで来てるんだもん」

「しかもあの人って元総理大臣だよね。顔広いなんてものじゃなくない?」

 

錚々たる顔ぶれに気が引けてしまう二人。緊張により乾いた喉を潤している彼女達だが不意に声をかけられた。

 

「よお、嬢ちゃん達」

「楽しんでるかい?」

「え、えっと……?」

「あ、あなた達は!?」

 

急に声をかけられて困惑する清香。しかしそんな彼女とは対照的に癒子は目を見開いてテンションが上がっている様子。

 

「"大和プロレスJr.タッグフェスティバル"優勝タッグの星宮丈選手と中村翔琉選手!?」

「おぉ、知ってるのか」

「決勝戦配信で見てました!今度のタイトルマッチも応援してます!」

「おう、ありがとな」

「期待を裏切らないように頑張るぜ」

 

目を輝かせる癒子の姿に、友人の意外な一面を見たと清香は苦笑いを浮かべていた。

 

「そういえば龍輝くんは?」

 

今大会でデビューしたクラスメイトの姿を探すが、人が多くて見つけられない。しょうがないと彼女は料理を口に運ぶのだった。

そして、当の龍輝はというと……。

 

「試合お疲れ様でした龍輝さん。はい、あーん」

「嫁よ、こっちのほうが回復にいいぞ。あーん」

「あ、あー……もがっ!?」

 

セシリアとラウラに両脇を固められ、口の中に料理を突っ込まれていた。

 

「流石の龍輝も、されるがままだねぇ」

「あれ窒息してね?」

「あの積極性、見習うべきだろうか……?」

「アタシが言うのもなんだけど、やめときなさい」

 

それを見ていたいつものメンバー達も、相変わらずの光景にやれやれといった感じだ。

当の龍輝からしてみれば早く止めてほしいのだが。

 

「まったく。その辺にしておけ」

「たっくんモテモテだねぇ〜」

 

聞き慣れた声に張り向けば、彼らの担任であり一夏の姉の千冬と、箒の姉である束が立っていた。ちなみに束は試合の時につけていたマスクの簡易版を装着している。

 

「ち、千冬さん!」

「それに姉さんも」

「今はアリス・ザ・ラビットだよん箒ちゃん」

「あ。そ、そうだった……」

「試合お疲れ様、千冬姉」

「カッコよかったです」

「ああ。応援ありがとう」

「おふふぁれふぁまふぇふ」

「お前はまず飲み込め」

 

突然声をかけられて驚いたものの、普段とは違う雰囲気に彼女達の緊張もすぐに解れた。

 

「残念だがあまりのんびりしてはいられん。いくぞ齊藤」

「え?」

「先輩レスラー達へ挨拶回り。忘れたらあとが怖いよ〜」

「う、うす!」

 

水で口の中を洗い流し、龍輝も席を立つ。

 

「悪い皆、ちょっと行ってくる」

「うむ」

「いってらっしゃいませ」

「じゃあね箒ちゃん。また後でね」

「あ、ああ」

 

千冬達についていく龍輝を見送る面々。その背中を見て、一夏がポツリと呟いた。

 

「凄えよなぁ龍輝の奴」

「そうだね。同い年なのにプロになっちゃったもんね」

 

一夏の呟きにシャルが同意の言葉を口にする。

 

「龍輝さん、毎日欠かさず努力してましたもの」

「私は嫁と知り合ってから日は浅いが、どれだけの研鑽を積んできたかは理解している。大した男だ、本当にな」

 

ウンウンとセシリアとラウラが頷きながら龍輝の事について語る。その様子はまさしく後方彼女面だ。

 

「そっか、そうだよな……」

「一夏?」

 

どこか様子の違う一夏に怪訝そうな顔を向ける箒。彼の中にも火が灯り始めていた。

その頃、話題の中心人物である風間はというと……。

 

「いやー、無事に終わってよかったよかった!」

「本当にな。客入りも想定以上だったし、興行としても大成功だ」

 

川戸と共に興行の成功を肴に酒を流し込んでいた。

 

「あなた、お疲れ様。川戸さんも、この人に付き合って大変だったでしょう?」

「なーに、慣れっこだよあやねさん」

「カッコよかったよパパ。はい、どんどん飲んで」

「お、サンキュ」

 

この席には風間の妻であるあやねと娘の澄香も同席している。澄香が風間にお酌をするが、あまり飲み過ぎないようにとあやねが釘を差す。

 

「そういえば、アイツはどこだ?」

「ああ。彼なら今頃、大事なファンと久々に再会してる頃だろうよ」

「なるほどな」

 

風間の説明に得心がいった川戸は手に持ったグラスを呷る。

 

 

宴会ホールから出て、ホテルの中を少し進むとこじんまりとした庭に出る。そこには十字の通路を囲むように花壇が作られており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

カール・レオは花壇のそばにしゃがみ、咲いている花々を見つめていた。

そして、もう一人……。

 

「あ、あの……」

「……っ」

 

声をかけられて振り向けば、そこには彼にとって決して忘れることはない少女が、シャルロット・デュノアが立っていた。

 

「……」

「え、えっと……」

 

しかし、声をかけたもののいざとなってどう話せばいいか、言葉が出てこない。

 

「……気を失ったあの時、声援が聞こえた」

「え……?」

 

言葉に詰まる彼女に、レオが静かな声で言った。

 

「君のおかげで立ち上がれた。ありがとう」

「……っ!」

 

その言葉に、彼女の胸につかえていたものが消えた。

 

「……試合、すごくカッコよかったよ。とう……ううん、レオ」

 

言いかけた言葉を首を振って止めて言い直す。これでいい。今の彼はプロレスラー、"金獅子"カール・レオなのだから。

レオは言葉を返すかわりに彼女の頭を軽く撫で、パーティーホールへと戻っていった。

今の二人には、これだけで十分であった。

 

 

後日。試合観戦を終えたIS学園組と龍輝達は学園へと戻る為駅へと集合していた。

もうしばらく観光がてらゆっくりしてもいいと風間から言われていたのだが、臨海学校の件もあるため惜しみながらも別れを告げた。

帰りの電車の車内での過ごし方は様々だ。お土産を広げて見せ合ったり、御当地スイーツを頬張ったり、疲れからか眠っている者もいる。

龍輝もここ数日試合に向けて気を張っていたせいか、発車するやいなや気持ちよさそうに眠りについていた。

ある種の非日常が終わり、日常に戻っていく。

夏が、始まる。




次回、臨海学校編
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