月曜。ついにこの日が来てしまった。クラス代表決定戦。正直帰りたい。
「―――!」
「―――!?」
俺と同じく代表候補戦に出ることになってる織斑一夏は、アイツの幼馴染とかいう篠ノ之箒と何やら口論しており、相談はできそうにない。
確かに入試で女性の先生と戦ったよ?でも時間切れまで耐えただけだからなぁ。
「お、織斑君齊藤君っ!」
第三アリーナのAピットに慌てて駆け込んで来たのは、童顔爆乳眼鏡女教師の我らが副担任、山田真耶先生だ。走ってるおかげでグラビア顔負けの胸部がブルンブルン揺れてる。あんなのアニメでしか見たことないぞ。
「山田先生落ち着いて。ハイ、深呼吸」
「す~~は~~、す~~は~~」
深呼吸するだけでも揺れるとか、どんな乳やねん。
「で、何ですか?」
「そ、それでですねっ!お二人のISが届きました!」
やっとかい。届かんでもよかったけどな。
「織斑、初戦はお前だ。すぐに準備しろ。ぶっつけ本番でモノにしろ。齊藤はコイツがやってる間に何とかしとけ」
「え?え?……」
ごうんっ、と重い音を立ててピットの扉が開き、扉の向こう側がさらけ出された。そこには、二機のISが鎮座していた。
片方は白、もう片方は黒のカラーリングだ。
「これが……」
「……」
「はい!織斑君の専用IS『白式』と、齊藤君の『フロスト』です!」
フロスト……そう呼ばれた黒のISは、待機してる状態でもシュッとしてて、カラーリングも相まってまるで主人公のライバル機のような印象だ。正直好みじゃない。俺はもっとこう、スマートより武骨なのが好みなのにな。
「不満そうだな」
そんな事を考えていたら織斑先生が声をかけてきた。やっぱどっかにサードアイでもあんじゃねーの?
「いえ別に」
「ならさっさと準備しろ。ニ戦目といってもすぐだからな」
そう言って立ち去る織斑先生。やるしかねーのかな。
一夏の試合はすぐだし、応援くらいはしとくか。
「一夏」
「?」
「頑張れよ」
「―――ああ!」
そう言ってアリーナに飛び出していく一夏。この後はすぐ俺だけど、帰っちゃダメ…だろうな。ハァ。
「ちょっとトイレに行ってきます」
「逃げるなよ」
逃げれねーよ。
◇
「ハァ……どうしよ……」
トイレを口実に抜けてきたけど、だからと言って何か変わるわけでもないしなぁ。
「つーか此処どこだ?」
当てもなく歩いてたせいか、見たこともない場所に出た。迷ったかも。まあ来た道戻りゃどっか知ってるとこに出るだろ。
「ん?」
今何か奥の方から音がしたような。行ってみるか、人がいるかもしんないし。
「この部屋か」
音がしたと思われる部屋の扉を少し開け中をのぞく。部屋の中には整備中?のISが複数と、その内の一機の前で女子が一人なにやら端末に向かってブツブツ独り言を言っていた。
「違う……これじゃまだ……」
よく聞こえないが、なにやら取り込み中のようだな。だけどこのままじゃ戻れないし、迷惑だとは思うが道を教えてもらおう。
「すみません。ちょっといいですか?」
「ッ!?誰!?」ビクッ
いや確かにいきなり声かけたけど、そないビビらんでも。襟元のリボンの色を見ると、どうやら同じ一年のようだな。
「……てあなた、もしかして一組のプロレスラー?」
「まだプロじゃないけどな。でも、何で知ってんだ?」
一組では見たことない顔だし、他のクラスの娘だよな?
「本音から聞いたの。それに、あなた結構有名よ?」
どう有名なのかは……聞きたくないな。
「布仏の知り合いなのか。俺は齊藤龍輝。お前は?」
「……簪」
簪か、変わった名前だな。言い方が何かおかしかった気がしたが。
「ところで、ちょっと頼みがあるんだが」
「見て分からない?私忙しいんだけど」
なんか棘のある娘だなぁ。
「ここから第三アリーナまでの道を聞きたいんだ。情けない話、迷っちまってな」
「それならそこの道を右にまっすぐ行って―――」
結構入り組んでたんだな。よくここまでたどり着いたものだ。
「―――で上の階に上がれば後は分かりやすいから」
「ありがとう。なんか面倒くさい造りしてんな」
「文句ならこの学園に言ってもらえる」
それもそうだな。
「ところで、こんなところで一人で何やってるんだ?」
「……聞いてどうするの」
おっと、聞いちゃいけないことだったか?
「どうもしねえよ。只気になっただけ」
「……」
なんか訳ありのようだな。イジメにでもあってんのか?
「悩みは溜め込むと体に悪いぞ。話すだけ話してみろ。そこの整備中?のISと関係あるのか」
「……これは、私の専用機。未完成だけど」
ほう。専用機と言う事は、簪はあのお嬢様と同じエリートと言う事か。にしては様子がおかしいな。それに未完成ってどういうことだ。
「専用機は企業から渡されんだろ。何故未完成なんだ?」
「……あなたたちのせい……」
……?え?俺?あなたたちってことは、あと誰だ?
「あなたたち、男性の適合者が見つかったせいで、私の専用機の開発は後回しにされた。だから私が残りを完成させてるの」
成程な~。ん?なんかおかしいぞ。
「完成させるって、お前ひとりでか?」
「ええ、そう……」
「よくは知らんが、ISの組み立てって専門家とかが束になってようやく出来んじゃないのか?何で一人でやろうとしてんだよ」
余程の天才とか機械に詳しいならともかく、苦戦してるみたいだしな。
「……これは、私が一人でやらなきゃいけないの。そうしなきゃ、いつまでたっても……」
……訳アリだとは思っていたが、かなり深いわけがあるみたいだな。これ以上踏み込むのはやめといた方がいいのかもしれん。だけど、昔の俺を見てるみたいで何か放っておけない。
「―――"失敗や苦労は、必ず今の自分に役立っている"」
俺には手伝ってやることができん。だから言葉を送らせてもらおう。
「?」
「小橋建太というプロレスラーの言葉だ。俺は辛くなったら、この人の言葉を思い出すようにしている」
師匠から小橋さんの話を聞いた時、俺は自分が情けなくなった。当時の俺の悩みなんぞ、小橋さんが経験したことに比べたら、全然大したことない。
「―――プロレスなんて、もう何年も前に廃れたじゃない。それにプロレスってショーでしょ?そんなものを盲信することないと思うけど」
「……そう思うか」
確かに、女尊男卑の世の中になってからプロレスは急速に衰退していったし、本当のプロレスも知られてはいない。……だったら。
「ところで、そこら辺にある機体は使えるのか?」
「訓練機のこと?使えないことはないと思うけど」
「一機借りてくぞ」
適当な機体を待機状態にしてポケットに突っ込む。
「え?ちょっと!」
「この後の試合、絶対見に来いよ」
正直やる気はなかったし、適当にやり過ごそうと思っていたが、コイツを見て気が変わった。思い返せば、あのエリート様もプロレスを馬鹿にしてたし、今回の試合でコイツら……いや、この学園に
「プロレスの力を見せてやる」
◇
「織斑先生!」
「遅いぞ!たかだかトイレに行くだけにどれだけ時間をかけている!」
開口一番叱られてしまった。いや、色々あったんですよ。色々と。
「すいません。あの、一夏の試合は……?」
「先程終了した。結果は散々だったがな」
後から聞いた話だが、確かに結果は織斑先生の言う通り一夏の敗北で終わった。そりゃそうだろう、相手はISのエリートで、片やこっちは素人なんだから。だが詳しく聞くと、途中で
ちなみに当の一夏だが、ピットに姿が見えないので訊いてみたら、控室(更衣室)にいるらしい。
「オルコットのチェックが終わり次第貴様の番だ。それとも、この期に及んでまだ駄々をこねるつもりか?」
「まさか。やることが決まった以上、全力でやりますよ」
目標さえ決まれば、迷いはない。
「ほう。師の教えとやらはもういいのか?」
「いえ、セシリアに手は出しませんよ。まあ見ててください」
女性に手を出さないというのはもう、教えというよりも
「言うようになったな。なら、貴様の満足するようにやってこい!」
「言われんでも・・・・・・っと、すいません先生。ちょっと頼みがあるんですけど」
「何だ?怖気づいたのか?」
違いますよと言いながらポケットから音楽プレイヤーを取り出し、ある曲をセットして織斑先生に渡す。
「僕が出る前にこの曲を流してほしいんです」
「……フッ、成程。いいだろう。特別に流してやる」
「ありがとうございます!」
「礼は言い、さっさと準備しろ」と言ってピットを後にする織斑先生。恐らく本部席か実況席みたいなところに行くのだろう。何かあの人には全部見透かされてる気がする。
さて、そんなこと言うてる間に準備するか。
◇
『これより、セシリア・オルコット対齊藤龍輝の試合を行います』
試合開始を告げるアナウンスがピットに響く。モニターにはアリーナの様子が映されていて、準備を終えたらしいセシリアが先にアリーナに姿を現していた。龍輝はまだやる気がないみたいなこと言ってたけど、大丈夫かな?
「てゆーか、龍輝はどこに行ってんだ?トイレか?」
俺等がいるピットに龍輝の姿はない。もうすぐ始まっちまうっていうのに、何してんだ?ISも置きっぱなしだし。
『えっ?これを言うんですか……はい、分かりました』
少し小さい音量で誰かと話してる声がアリーナのスピーカーから流れてきた。放送席で何かあったのか?
『えーっと……赤コーナーより、齊藤龍輝選手の入場です!』
……え?
突然の放送についぽかんとしてしまった。俺だけじゃなく、箒と山田先生も何かわからないような顔をしている。
~♪~♪
アナウンスが流れた直後、アリーナに音楽が流れてきた。
♪Try to be best ‘Cause you’re only a man And a man’s gotta learn to take it
しかも洋楽。増々訳が分からない。こんな時に千冬姉はいないし、山田先生が凄い慌ててますよ。
♪You’re the best! Around! Nothing’s gonna ever keep you down
曲がサビに差し掛かった時、俺達がいるピットともセシリアが出てきたピットとも違うピットの出口に人影が現れた。山田先生が急いでカメラを切り替えて確認すると、そこには龍輝が立っていた。ISも身に着けずに。
「た、龍輝!?」
「あ、アイツ、何て格好をしてるんだ!?」
箒がそう言うのも無理はない。龍輝は何故か上半身裸で、下はショートタイツとシューズを穿いただけという、アイツの肉体を存分に見せつける格好だったからだ。観客席からは悲鳴が上がってるが、それが恥ずかしさからの悲鳴なのか、アイツの鍛え抜かれた肉体に対する歓声なのかは知らないけど。
姿を現してから少しして、突然龍輝が走りだし、何を思ったかそのままピットの滑走路の端から飛び降りた。……って!
「「「ええええええええええええええええええええ!?」」」
何やってるんだアイツ!?いやまるでスカイダイビングみたいに凄いキレイなフォームで落ちてるけど!?パラシュート付けてないだろ!?
ドオォーーーーーーーン!!
……龍輝が地面に衝突した。ISも着けずに。あの高さじゃ、受け身を取ってたとしても無事じゃあ済まないだろうし。
山田先生が急いで龍輝が落ちたと思われる地点をモニターに映す。
「龍輝は無事なのか!?」
俺等の心配をよそに、アイツは平然とした様子でアリーナの地面に仁王立ちしていた。ISを身にまとった姿で。
成程なぁ。地面に衝突する直前にISを展開してそのまま着地したのか。うまいことやったな。
「え?え?齊藤くんのISはここにありますよね?」
「そういえば確かに」
え?じゃあアイツは何を着けてるんだ?
「アレは……打鉄!?どうして齊藤くんが!?」
打鉄って確か、訓練用の量産機の事だっけ?格納庫に厳重に保管されてるとかって話だけど。確かに何で龍輝がそれを?
「さ、齊藤くん!?どうして打鉄を展開してるんですか!?」
訓練機を装備してることについて、山田先生が龍輝に通信を繋いで問い詰めてる。当の龍輝は突然の通信にびっくりしながらも、
『生憎OOよりもEz-8、サザビーよりザクⅡの方が好きなんで』
と、とんでもない答えを返してきた。俺ガンダムそんな詳しくないんだよな。
『これより第二試合を開始します。青コーナー。イギリス代表候補生、セェシリアァ・オォルコッッットオォーーー!!』
さっきは渋々と言った感じのアナウンスもすっかりノリノリだ。
『赤コーナー。168cm、75kg。プロレスラー、齊藤うぅ……龍ううううううう輝いいいいいいいいいいい!!』
ワアアァァーーーーーーーー!!
凄い歓声。何かセシリアがかわいそうだ。
『ファイッ!』
凄い違和感の中、その一言で闘いの火ぶたが切って落とされた。