ワーワー キャー
(……ああ)
この感じ、久しぶりだ。以前MMAユースの試合に出た時と同じだ。
「あなた!ふざけてますの!?」
感傷に浸ってたらいきなりセシリアが叫んできた。もう少し浸らせろよ。
「ふざけてねーよ」
「嘘おっしゃい!!なんですのその恰好?それに、どうして専用機ではなく、訓練機の打鉄を展開してますの!?」
分かり切ったこと聞くなあ。さっき山田先生にも説明したのにもう一度せなあかんのか。
「こっちのが好みだからだよ。それにレスラーが上半身出して何がわr」
「何ですのその理由?わたくしを馬鹿にしてるとしか思えませんわ!?」
最後まで言わせろよ。
「もういいですわ。あなたのそのふざけた態度、わたくしが正して差し上げます!」
態度って、少なくともお前よりマシだと思うぞ。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「御託は言い。来い!」
◇
開始早々、セシリアはビットを展開し龍輝の回りを取り囲んだ。俺もそうだったけど、ああされると厄介だ。
そんな状況だというのに、当の龍輝は地面に仁王立ちで立ったまま、動こうとしない。
「あいつ、なんで飛ばないんだ?」
まだ慣れてないとか?いや、稼働時間は俺とほとんど変わらないはず。
『ああーっと齊藤選手、開始早々、セシリア選手自慢のBT兵器「ブルー・ティアーズ」に取り囲まれたーっ!!』
実況がどんどんノリノリになってるし。
『しかし全く動じていない!ビットに目もくれず、セシリア選手を見据えているー!』
ホントにどうするつもりなんだ?迂闊に接近しようとすれば蜂の巣にされるし、見た感じ遠距離武器を装備してるようには見えないし。
『おっと、痺れを切らしたか先に動いたのはセシリア選手!四基のビットから放たれた光線が、齊藤選手に降り注ぐーっ!!』
俺の時よりも攻撃が苛烈になってる気がする。巻き上がった土煙のせいでモニターからでは、龍輝がどうなったか確認はとれない。
あれだけ激しかったら逆に避けやすかったりするのかな?
「煙が晴れてきたな」
箒の言葉通り、モニターの向こうがだんだん鮮明になってきた。
「なっ!?」
「はぁっ!?」
「ええ!?」
『何ぃーっ!?』
煙の晴れた先には、さっきまでと変わらぬ位置で、変わらず仁王立ちをしている龍輝の姿があった。
「もしかして、当たってなかったのか?」
「いや、あの弾幕の中でそれは考えにくい」
そうだよな。ビットの銃口が龍輝に向いてるのは確実だったし、ある程度外れたとしても何発かは当たるだろうし……分からん。
『な、なんと齊藤選手、あの弾幕がなんともなかったかのように平然と立っているー!!』
実況の人も驚きを隠せてないようだ。それはそうだよな、いくらシールドや装甲があるからと言っても、衝撃はすさまじいからな。実際凄かったし。
「いったい、何をしたんだ?」
◇
「あ、あなた、一体何をしましたの?」
「何も」
セシリアの問いに正直に答える。
「嘘おっしゃい!ブルー・ティアーズの一斉射を受けて、平然としているなんてありえませんわ!」
嘘って言われても、本当に何もしてないんだから仕方ない。
「はいはい。それで、もう終わりか?」
「はい?」
「終わりなら、今度はこっちから行くぞ!」
そう言い終わるや否や、目標に向かって歩を進める。捕らえるにしても、ある程度近づかないとな。
「ち、近づかないで!ブルー・ティアーズ!!」
再度ビットが俺に向かって光線を撃ってきた。俺はその光線を真正面から受ける。
視界の端でゲージみたいなのが減っていくが、気にせず歩を進める。
『なんと齊藤選手、ビットによる攻撃を避けようともせず、真正面から受け止めたあーー!!』
「ま、また……。何故避けませんの!?」
何故って言われてもなあ。
「……これ邪魔だな」
バキンバキン ポイ
ふう、すっきりした。
『これはどういうことだ?齊藤選手、打鉄の両肩部のシールドと腰部のアーマーをもぎ取って無造作に投げ捨てたー!!何を考えてるんだあーー!?』
正直盾とかに頼るのは嫌なんだよな。ホントなら
「よ……っと!」ダァン
ある程度近づいたため、地面を思いっきり蹴って跳躍して目標に接近する。セシリアは唖然としてるのか混乱しているのか、動いてない。
『これ!?齊藤選手、セシリア選手ではなく、4基のビットの内の1基に向かって跳躍ッ!!』
「まず一つ」
捕らえたビットを脇で挟み、骨を立てるようにして締め上げる。数秒と経たず、ビットは圧し折れて爆発した。ちょっと痛い。
『齊藤選手、先程の織斑選手とは違い、ビットを切るのではなく圧し折ることで破壊したあー!!』
『かけ方からみて、アレはヘッドロックだな。基本的なプロレス技の一つだ』
『成程……って織斑先生!?何故解説席に!?』
何やってんだあの人。まあいい。
これが俺の闘い方だ。女に手は上げない。だから武装を狙った。武装を破壊して、戦闘能力を奪うようにすれば、女に手を上げることなく闘える。
「残り3……いや4か?」
ビットの残りが3つとライフル1丁だから、合ってるな。
「よし、次!」
「くっ!?この!」
再度ビットの弾幕が張られる。が、そんなものなんの障害にもならない。
ゲージはガンガン減っていってるけど。
『攻撃を避けるどころか、その中を駆け抜けるその姿、まるでブレーキの壊れたダンプカーのようです!』
実況も大分ノってきてるな。あとそれはスタン・ハンセンの代名詞だ。
「二つ目っと!」
2基目を捕らえて膝に叩きつける。さっきもそうだったが、ISを装着してるせいで、前腕部が長くなってるからやりづらい。
『バックブリーカーだな。元々は腰にダメージを与える技だ』
……。
「こ、これ以上やらせませんわ!?」ジャキン
「ぬ?」
アイツ、ライフルを構えやがったか。だが、その程度で止められるとは思うなよ。
「喰らいなさい!」
ライフルの銃口から放たれたレーザーが一直線に向かってくる。ビットよりも強力そうだが、やることは変わらん。真正面から受けるだけだ。
ドゴォ
「ぐぅっ!?」ズザザ
おいおいなんて威力だ、衝撃で体が後ろに圧されたぞ。
腰を落として構えてたのに、以外に重い一撃してやがる。
『ライフルの一撃に思わず後ずさった齊藤選手。流石にこれは耐えれなかったか!?』
ゲージがガクンと減りやがった。ISはダメージを受ける度にバリアー?のエネルギーを消費していって、なくなったら負けとかいうふざけた構造してやがるから、これ以上受けるのは危険だろうな。
「流石に堪えたようですわね。どうですの?今謝れば醜態を晒ずに済みますわよ?」
……だがな。
「フン」
「っ!?」
プロレスっていうのは……。
「そんな水鉄砲、いくら喰らおうがへでもねーぜ!」
ピンチから本番なんだよ!!
「っ!?生意気ですわ!!」ジャコン
「!」
ズガァーン
また撃ってきやがった!衝撃で一部の装甲が弾け飛んだ。
何か鉄の味がする。口の中が切れたか。
「ペッ効かねーつってんだろォ!!」ダッ
血を吐き出しセシリアに向かってダッシュ。一気に距離を縮めないとこのままじゃ勝ち目はない。
「ち、近づかないでいただけませんこと!?」ビシュウ
「ガアっ!?」
しまった……もろ顔面に受けちまった。体が投げ出され、妙な浮遊感の後、地面に叩きつけられた。
◇
『一気に距離を詰める作戦に出た齊藤選手でしたが、セシリア選手のレーザーライフルをもろに貰いダウン!脳震盪でも起こしたのか、全く動きません!?』
「……」
見に来いっていうから一応見に来たけど、滅茶苦茶ね。あの人。
闘い方が全く理論的じゃない。ただでさえISの稼働時間や操作技術で差があるのに、専用機よりもスペックは遥かに劣る訓練機で、しかも全く回避をしないなんて、自殺願望でもあるのかとしか思えない。おまけに飛行はせず、歩行と跳躍だけで移動、接近している。……まあ、それでBT兵器を二基も破壊したのだから、よくやった方か……。
でももう終わり。見ただけでわかる、あのレーザーライフルの威力は馬鹿にならないと言う事は。それを防御もせず、真正面から直撃を喰らったのだから。
「……時間の無駄だった……」
プロレスの力を魅せるとかいうからどんなものかと思ったけど、ただ馬鹿をやっただけじゃない。
そう思いながら私はアリーナに背を向け、体を出口に向けた。
ワアァァァ
「?」
さっきまで静かだったアリーナに、また歓声が起こった。試合終了のアナウンスは鳴ってない筈……。
「まさか……!」
振り向きアリーナの中央を見た時、私は驚愕した。
彼が、立ち上がろうとしていた。
「何で……!」
もう機体はボロボロ。彼自身ももう限界のはずだ。確かにISには絶対防御がある。とはいえ、あれほどのダメージをすべてシャットアウトはできない。
それなのに、彼はまだ戦意を失ってはいない。
辺りからは「もういい」「十分頑張った」等の声が聞こえるが、そんなものは届いてないだろう。
何が彼をそこまで駆り立てるの?