…ややこしや
それは、見飽きた夢。
何度もなんども。気を抜けば起きている時までフラッシュバックする。3年前からずっと見続けてきた。そんな、夢。
俺のトラウマであり、生きる理由であり、壊れた理由。
自分がどこか壊れている、という自覚はある。
感情があまり表情に出ないとか、感性が周りと違うとか、そういうことじゃなく。
どこか、肝心なとこが壊れている気がするのだ。
あいつ曰く、「生に対する執着心が無い」らしい。
俺に限ってそれは確実にないと思うのだが、自分では分からないこともあるので一意見として受け取っておいた。
あいつは時々何の根拠もなしに正解を言い当てるのだ。
そう、ちょうどこの夢の時も。
「今日は狩りに出ないほうがいい」、と。
だが、俺らはその言葉を一蹴して狩りに出た。
そして、『ああ』なった。
圧倒的なまでの暴力の嵐が沈黙した孤島。
真っ赤に染まった俺はただ一人、そこで立ち尽くしていた。
それを他人事のように見ている俺。
全てを救い、一部を失った自分。
あれがなければ俺は死んでいたが、あれの結果とうとうサードという狩人は死んだ。
仲間とともに。
そして、悪夢は終わる。
目が覚めた俺はすぐに顔を洗うためベットから出る。
顔を洗い終わり、何気なく自分の鏡を見る。
能面をかぶった死人がそこにいた。
最悪な、1日の始まりだった。
思わずため息が出た。
あぁ、生きるのは大変だなぁ、と。
結局、俺がベットから出れるようになるまで一ヶ月近くかかった。
こんな大怪我は本当に久しぶりだ。今まで周りの誰かが怪我をすることはあっても、自分の怪我なんてあまりなかった。それこそ初めてのクエスト失敗以来である。ちなみにそれは上位レイアに全治2ヶ月のこんがり肉にされた時のことだ。上位に上がって調子に乗っていた俺にはいいお灸になったと思う。こんがりして村に運ばれた俺を見て、「調子に乗らないで…!」とあいつに泣かれたのは、忘れることのできない出来事の一つだ。もちろん、悪い意味で。いくら幼馴染でも、女性を泣かせたらこうなる、と身を以て知った。
さて、ここの人たちにはかなりお世話になった。怪我の治療に始まり、衣食住。
そして、今後の俺の扱いまで。
あの時の話し合いは、俺も困った。本当に、いや予想以上にめんどくさい話になった。なにせ、お互いの情報がお互い理解できないのだ。
住んでいたとこを説明しようにも、誰もそんな場所見たことも聞いたこともないと言われ。
奇跡的に持っていた、身分証明にもなるギルドカードを見せても「なんだこれ?」と言われ。
逆にこの場所のことを聞いてもセイントシュタインとかいう俺の聞いたことのない国だと言われる。
極め付きは世界地図だ。
俺の知っている世界地図と全く形が違ったのだ。
話が進まなかったので、地図でどの辺か説明しようと地図を貸してもらったのだが、その地図は見たことのない大陸しか書かれてなかったなだ。
これは本当に世界地図かと聞いたら頭のおかしい人を見る目で見られた。解せぬ。
あ、こりゃ話し合い終わんねぇなとか思い始めた時、あの冥土とかいうメイドさんが助け舟を出してくれた。
「ほら、皆さんあれじゃないですか?昔話の『不思議な男の恩返し』!サードさんはあの不思議な人と同じ状況なんじゃないですか?」
どうやら昔話に、今の俺と同じく身元不明の男が助けてくれた老夫婦に恩返しをするためあちこちを駆け回る話があるらしい。
その話では彼は『イセカイ』と呼ばれるところに帰ったらしい。
「…確かに同じように見えるが、あれは昔話。これは現実問題だろう?」
あの頑固おやj…兵士長はどうやら俺を信じてないようだったが、それ以上に納得できる説明がなかったので俺の扱いは『身元不明の男』になった。
まぁ、当たり前だ。というより「怪しいやつ!」とすぐに追い出されなかったし、ここの人たちはユクモ村の人たち並みに優しい。ここの王様はいい国を治めてる。
また、世話になった時にかかったお金等を返したい、という俺のわがまままで聞いてくれ、俺は『冒険者』という職に就くことになった。
冒険者というのは身も蓋もないもないことを言えば、信用ならないハンターのようなものだ。
厳密にはだいぶ違うが、「
どちらも人のための仕事である。
しかし冒険者というものはハンターと違ってきちんとした職業ではなく、あちこちを旅して回り気まぐれに人の頼みを聞く人たちのことを便宜上『冒険者』と呼ぶらしい。
なるほど、よくわからん。
まぁ、俺は働いてお金を返す。そのついででユクモ村に帰る方法を探す。それだけだ。何の問題もない。
…、何の問題もない、はずだった。
冒険者になって1週間。
いつも通り俺は、依頼をする人、受ける冒険者で賑わう宿屋にはいる。
つい最近まであまり賑わっていなかったのだが、看板娘であるリッカという少女がきてから急に賑わい始めた…らしい。俺は賑わっていない宿屋を知らないから想像できないが。
中央通りにいても宿屋の喧騒が聞こえてくるこの宿屋が、少し前まで閑古鳥が鳴いていたなんて信じられない。
喧嘩や乱闘騒ぎもめったに起きないらしく、サービスや料金まで素晴らしい。まさに理想の宿屋。
そんな宿屋だが、俺が入るとすぐに静まる。
そして聞こえてくる小さな声。
「あ、あいつだわ」
「常に無表情の冷酷な冒険者っ…!」
「気に入らないものはすぐに排除するってやつ…?」
「魔物との戦いも血みどろにながら一人で戦ってたって」
「しかも笑ってたって、その時」
「ま、まじかよ…」
俺は悪目立ちしていた。
なんで?なんかしたか、俺?心当たりなんてないぞ?
あれか?高額のクエストだけかっさらうから妬まれたか?そういえば、俺のほうが先に依頼を受けていたのにいちゃもんつけてきた奴がいたなぁ。なんか逃げてったけど。あれかな?
それともあっちか?魔物(ここの生き物で凶暴なもののことを言うらしい。うむ、普通の生き物との違いがよくわからん)の返り血を洗わず宿屋に来たのが悪かったのか?
あとは…、お金がある程度溜まったから買った武器の試し斬りが楽しかったから思わずにやけていたことか?(ちなみに太刀がなかった。一番使い慣れている種類の武器がないとは…。ちょっと辛い。)
しかし、悪いことはしてないので堂々としていればいい。俺はわるくねぇ。
ということで依頼がないか、紙に書かれた依頼が貼ってある依頼板を見に行こうとする。
そこで、とある会話が耳に入った。
「おい、あそこでリッカたんと話してる奴ってまさか…」
「蒼髪ロリであの死んだ魚のような目…、あいつは確か黒騎士をやった奴じゃないか?」
「あの噂って本当なのか?たった一人で黒騎士を倒したってのは」
「多分、間違いない。俺も確認した。」
「つうか何であんな奴がリッカたんの友達なんだよ許s…否、わけわからん」
「いや、俺あっちの方好み」
「おい、ロリコン」
「おまわりさんこっちです」
黒騎士、というのはつい昨日までこのセイントシュタインを騒がせていた魔物である。
どうやら「姫よこせー!!」と王様に脅迫していたらしい。依頼主が王様なので、王様に会えない俺は依頼を受けることができなかった。
昨日まで表の看板に王様じきじきの黒騎士討伐の依頼が貼られていたのだが、
朝一に城に行った彼女が入ってしばらくして剥がされたことから、彼女が黒騎士を倒したことはほぼ確定だろう、ということらしい。
その、そこそこ強かったらしい黒騎士を倒した、というのが先ほどの会話の少女なのだろう。
興味がわいたので、カウンターを見てみる。
そして、目があった。
なるほど、死んだ魚のような目、というのはよく言ったものだ。
目自体に悪いところはない。医者じゃないので詳しいことは分からないが、いたって正常に見える。
問題なのは、本人だろう。
目に、光が灯ってないように錯覚してしまうほどの覇気のなさ。
黒騎士を一人で倒すような少女だ。かなり強いのだろう。誰かに守ってもらう必要が無いくらいには。小さいのに凄い。
しかし俺には彼女が助けを求めているように感じた。彼女が、深い悲しみを追っているように見えた。
そう感じるほどに、彼女は儚げに見えた。
ハンターとしての性か、彼女を助けてやりたかった。
だが、俺には不可能な話であった。
たとえ火龍を討伐できる実力を持っていようが、俺には絶対無理だろう。
実際そうだったから。
トラウマが甦ってきたので慌てて別のことを考える。
今、ここに来たのは依頼を受けるため。俺は今依頼を探しに来たのだ。さっさと数こなして城にお金を返さなくてはーーー
「ねぇ、そこの背のでかい冒険者さん!」
「え、本気なのナイン!?」
「…、俺か?」
先ほどの少女に声をかけられた。後ろで看板娘のリッカがなぜか慌ててる。
そして、
「わたしのパーティーに入らない?」
「…なぜ俺?」
当然の疑問。この宿屋にいたなら、俺の噂ぐらい耳に入っているはず。現にそれでリッカに止められたのだろう。
まさかだがさっき目があったからとかいうおかしな理由でじゃないことを願おう。
「ボクと同じ目だったから、じゃだめ?」
予想の斜め上だった。
俺が彼女に対して思うところがあったのと同じように、彼女もまた、俺に何か感じたのかもしれない。
だけど。
「…だめだな」
俺はパーティーを作らない。ここでも、それは同じだ。
「な、なんで?」
少女は理由がわからない、といった感じにこちらを見上げる。
「ボ、ボクあなたがどんな趣味でも多少なら受け入れるつもりだし、他にメンバーいないよ?それに一人だときついって!黒騎士と戦った私が言うんだから!だ、だから、ね?入らない?」
…、目をうるうるさせてあざとくしても俺は入らん。…入らんからな?
「なんで!なんでそうまでして一人がいいの!?」
「仮に」
あまり、言いたく無いが話そう。
「仮に?」
「俺が仮にお前のパーティーに入ったとしよう。そうした結果、どうなるかわかるか?」
「ボッチじゃなくなr…、分からない」
「お前が死ぬ」
「…え?」
「冗談じゃない。ジンクスでもなんでも無い。俺はそういう星のもとに生まれた。ただ、それだけだ」
いや、そう言い訳してるだけだ。本当はーーー
「くっだらない」
目の前の少女がそう吐き捨てた。
思わずその顔を見る。
それは親の仇でも見るような、そんな表情だった。
「そういう星のもとに生まれた?それこそジンクスの名に混んでも無いじゃん。おうおう、お前がそう思うならそうなんだろうよ、お前ん中ではな」
…全くその通りだった。
「無駄な時間を使った。じゃあ」
そう言って彼女は去っていく。
後には、俺だけが取り残された。
「俺んなかではな、か…」
あの子は、言い訳をしている俺を一発で見抜いたのだろうか。
それで、声をかけてくれたのだろうか。
そんな子を、守ってあげたいとか思っていたのだろうか。
「図々しいどころか…、滑稽だな、俺」
ごめん…二人とも。
俺はまだ、前に進めそうに無いよ。
今度から視点は基本
シリアル…サード(狩人)
ギャグ、という名のうるさい何か…ナイン(天使)
でいけたらいいなぁ…。