とある原石の自由選択《Freedom Selects》   作:エヴァリスト・ガロア

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大幅改稿


002-Ds 自分を客観視するとは

 

 

学園都市に七人しかいないレベル5の第六位―――自由選択(フリーダムセレクト)守殊 選(かみこと すぐる)は、第十九学区の裏路地に立っていた。

 

もう少し正確に言うならば、彼は第十九学区の裏路地に倒れている不良達の中心に立っていた。

 

「おいおいどうした。もう終わりか?」

 

彼はまだ微かに意識のある不良の一人に話しかける。

 

「つまんねえな。十人がかりでこの程度かよ」

 

「……お前があの『万物透過(ビジブルステルス)』だったのか……た、助けてくれ。もうこんなことしねえ。だ、だから……」

 

彼が怯えているのも無理はない。

 

彼らの攻撃は一発も当たらなかったのだ。いや、当たらなかったと言うよりは、すり抜けたと言う方が正しい。まるで幽霊が壁を無視して進むように。そしてそこからは一方的な暴力が場を支配し、現在に至っている。

 

「何だ。俺のこと知ってんじゃねぇか。まぁ、それが俺の能力名って訳じゃないんだが。正直に言ってみろ。見掛けで判断したろ?見掛けで?」

 

「あ、あぁ……」

 

それを聞いて、守殊はがっくりと肩を落とした。溢れる不快感を必死に抑えるようとするその表情に、不良の顔は一気に引きつっていく。

 

「どうせそんなことだろうと思ってたんだよ……今回は気絶させただけだが、本当だったら殺してるぞ?俺にはこの街の人間を見掛けで判断する奴の思考が理解出来ない。結局最後には、そんな事をするお前等みたいな連中が見掛け倒しに終わるって言うのにな。こんな風に」

 

隣に転がる気絶した不良を左足で軽く蹴りながら、守殊は呆れたように続ける。

 

「本当だったら消しても良かったんだが、これから会う奴がいるんだ。そんな時に血の付いた体でお前は会いに行くか?行かねえだろ?まあ、血飛沫なんて一滴たりとも付着するはずがねえんだが」

 

怯える不良に笑えない冗談を吐き捨てる神命は、急に表情を柔らかなものに変えて、

 

「ってことで聞くが、この辺で高校二年くらいの女子高生を見なかったか?霧が丘女子学園の制服を着てると思うんだが、どうも方向感覚がない奴でさ。待ち合わせ場所にはあまり期待できないんだよ。このくらいの身長なんだが知らないか?」

 

質問しながら、守殊は右腕を水平にして首の辺りに置いた。

 

「み、見てない。そもそもここらは俺等みたいな連中を溜まり場だ。一般人なんて殆どうろつかない。ま、ましてそんなお嬢様学園の生徒なんかこの辺で見たことなんてない……」

 

「……こんな学区を待ち合わせ場所にするんじゃなかったな。この辺で見なかったら完全にいねえよ……だから俺は直接迎えに行くと主張したんだ。こんな入り組んだ路地にあいつが敵う訳がないだろうが」

 

自分のような輩に襲われる事よりも、道に迷う事の方を心配するこいつはどういう思考をしているんだと心で思った不良だが、口に出来る筈もない。その女子高生も、どうせ見かけで判断してはいけないのだろう。そんなことはつい先程、身をもって知ったばかりだ。

 

「済まんな迷惑かけて。幾らか時間を無駄にせずに済んだよ。どうせ高嶺の事だ。途中で諦めて俺の寮にでも戻っているんだろうさ。方向音痴の割に帰巣本能だけはしっかりしてんだよなあいつ……」

 

ブツブツと独り言を続けながら立ち去る守殊を、不良はただ苦笑いのままで見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(何なんだよ高嶺の奴。携帯も通じねえ。待ち合わせなんて忘れてんじゃねえのか?)」

 

守殊 選は、第十八学区の大通りから少し外れた路地に立っていた。

 

もう少し正確に言うならば、目の前には不良というには生温い武装無能力者集団、スキルアウトが13人に前後から挟み撃ちにされるように守殊は立っていた。

 

「……お前ら駒場 利徳(こまば りとく)の下の人間じゃねえな。どうせ徒党を組んで調子に乗っただけの連中だろ?飽きてんだよ。もう一杯一杯なんだよ屑共」

 

「何だとこの野郎?そんな地味な風貌しやがって口だけは達者だな。お前等!こいつの身包み剥いじまえ!」

 

守殊 選は苛々している。本日、二度目の襲撃であるからだ。

 

不良に絡まれるのは生涯で通じて何度目だろうか?

 

彼の悩みの9割はこれであると言っても過言ではない。

 

元々レベル5として目立った事はして来なかったし、するつもりもなかった。彼の目的の為には隠密性は必要であった事もあるが、何より意図的な隠蔽の影が見え隠れする時がある。彼は暗部の人間を消すことはあるが、暗部に属している訳ではない。何処の誰に利用されているという実感を噛み締め、その理由を知ることのないまま生きるのは非常に不愉快だ。そしてその皺寄せが日常的にかつ顕著な形で現れてくる。

 

もう一度言おう。守殊 選は苛々している。

 

「お前等!こいつの身包み剥いじまえ!」

 

そんな威勢のいい掛け声で鈍器を握るスキルアウト達は、前後から一斉に神命に襲い掛かった。

 

「全くうぜえよ。サンドバックにしてやる。それとも人柱がいいか?何にせよ、お前等全員無事で帰れると思うなよ?人間と鈍器を拒絶」

 

彼は唱える。それだけでスキルアウト達は勢いよく振り回した武器は守殊の体を何も無いかのように通過し、仲間の脇腹へと直撃する。

 

「ぐはっ!?」

 

この時点で既に三人ほどが地面に倒れこんだ。そしてその一人を足で踏みつけると神命は、

 

「コンクリートを拒絶、効果を対象に付与」

 

彼は唱える。それだけで踏みつけていたスキルアウトの体は舗装された地面の中に沈み込み始めて。

 

「う、うゎあああああああああああああああ」

 

完全に姿が見えなくなるまでの数秒間、その悲鳴が空間を満たし、他のスキルアウトの一切の攻撃を封じた。時間が止まったかのように感じる者もいた。

 

「……やばい……こいつは」

 

そう呟いた棒立ちの男の胸倉を守殊は掴み上げてから言った。

 

「死神にでも見えたか?」

 

「ひいぃ!!」

 

直後、肉と肉がぶつかり何か硬いものの折れる音がした。

 

「汚ねえな。血を飛ばさない努力でもしたらどうだ?最低限の礼節を守れよ。ガキじゃあるまいし。他人の血液を拒絶」

 

服に付着した血液の染みも、まるでシールでも剥がれ落ちるかのように綺麗に消え、地面に再び赤い斑点を描く。

 

「くそっ!銃だ。蜂の巣にしちまえ!」

 

リーダー格の男が命令する。しかし、銃声はあがらない。

 

「何で撃たねえ!?何してんだ!さっさあいつを、じゃねえと死ぬのはお前等だぞ!」

 

そこでようやく自分の置かれている状況を理解したスキルアウトは銃を構え、引き金を引く。だが、その苦労も空しく消えていくことになる。

 

「残念だったな。銃弾は常に効かないんだ」

 

その瞬間、場は絶望で埋もれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通報があったのはこの辺ですわね。初春、詳細な場所のデータを」

 

とある少女が通報のあった現場へと急いで走っていた。常盤台中学の制服に身を包み、腕には緑色の腕章が付いている。

 

風紀委員(ジャッジメント)だ。

 

風紀委員とは学生によって構成され、学園都市の治安維持にあたる組織の一つだ。風紀委員になるには「九枚の契約書にサイン」し「十三種の適正試験」と「4ヶ月に及ぶ研修」を突破しなければならない。入隊にレベルは問われないが、それなりの肉体と精神を要求される。

 

少女の名は白井 黒子(しらい くろこ)。少年が十数人のスキルアウトに囲まれているという通報を受け、その現場に駆け付ける最中だ。

 

「分かりました。白井さんが走っているその通りを直進、二つ目の角を右に曲って直ぐです」

 

イヤホンマイクの形をした近未来的な通信機器で白井が話している相手は、初春 飾利(ういはる かざり)。実は凄腕のハッカーであり、一部では守護神(ゴールキーパー)とも呼ばれている。

 

「了解しましたの」

 

報告を受け、角を曲がった白井は立ち止まると、腕章を胸の前に突き出して言う。

 

「風紀委員ですの。集団暴行の現行犯で全員拘束し……って、え?」

 

そこに転がっていたのは、本来であれば襲っている側であろうスキルアウトの男達。そしてその脇で何食わぬ顔をして立っているのは、本来であれば襲われているであろう少年の姿だった。

 

「通報されてたのか?ならさっさと頼むよ。こいつらいきなり襲い掛かって来てさ。大変だったんだよ」

 

「あ、貴方は?」

 

想像とはあまりにかけ離れた情景に、少し動揺する白井をよそに守殊は答える。

 

「あ、何?資料か何か作るのか?名前は……空閑、空閑 一最(くが かずも)だ」

 

瞬時に偽名を答えた。ここで本名を使って面倒なことになられても困るからだ。今はあくまでも被害者を演じ、適当な理由をつけてこの場を立ち去るのが望ましい。

 

「あ、いえそうではなくて、本当にその……襲われていたのかと。それに通報よりも人数が若干少ないような」

 

「通報があったんだろ?つまり客観的見ればそう見えたってことだ。それに数え間違いくらい誰にでもある」

 

「しかしこれはどう見ても過剰防衛ですの。とりあえず支部まで来て頂かないと」

 

そこで守殊はうんざりするように大きな溜め息をついた。

 

「分かった、分かったよ。話せばいいんだろ?こいつらが襲ってきたところまでは本当。それからはこっちが一方的に殴り倒しました。でもここにいる奴らは気を失っているだけだ。こういう奴らは言葉が通じないから、嫌でもこういう手段を使うしかない訳。これでいいだろ?」

 

開き直ったように話す守殊。

 

「ではまず場所を変えて……」

 

「それはパスだ」

 

白井の対応に対し、彼は即答した。

 

「そういうのは面倒臭えからな。それに長い。もう俺は帰るよ」

 

詰まらない問答を繰り返す気はない。ここで立ち去って、書庫(バンク)を漁られても空閑 一最なんて人間は存在しない。スキルアウトをこの場に残していくのは気がかりだが、どうせ証言してもその証拠が見つかることはない。彼の後を辿る痕跡は今この場に存在しないのだ。ここで立ち去るのが最も合理的だろう。

 

白井の制止を振り切って、守殊は路地を抜けた。

 

が、そこには白井が立っていた。

 

「……お前、空間移動能力者(テレポーター)か?自分を移動できるのを見るとレベル4といったところだな」

 

「御名答。ようやく私についてきて下さる気分になりましたの?」

 

「いや」

 

守殊は相手が空間移動系だと知って、面白くないものを感じていた。

 

「尚更消えたくなった。生憎、逃走と捕縛は得意なんでね」

 

守殊の超能力は、指定した対象物を無視して進むことができる。しかし、空間移動とは明らかにその上位互換。その存在は守殊の能力の利用価値、つまりレベル5の順位に直接関係してくるのだ。

 

空間移動能力者は彼にとっては目障りこの上ない。そしてそれが単なる言いがかりでしかないことも自覚している。それ故に面白くない。

 

「お前は自分の能力を客観的に見ることができるか?」

 

「?」

 

唐突な問いに白井は頭を傾げた。

 

「空間移動ってのは11次元方向の移動を演算し、瞬時に三次元的移動を行う能力だ。だが、当の本人達はその移動経路を正確に見ることが出来るか?11次元的移動、言ってしまえばそれは暗闇の中で演算というロープだけを頼りに進んでいくことにすぎない」

 

「だったらどうなるんですの?」

 

「もし、そのロープを俯瞰的視点から見て、そのどこかを掴んでいたらどうなる?」

 

守殊はニヤリと笑って、

 

「高次元へ拡張を確認、能力を媒介に11次元への視覚を獲得」

 

直後、守殊は白井に向かって拳を思い切り振りかざした。

 

「!?」

 

突然の攻撃に驚きながらも、白井は瞬時にその後方3メートルに空間移動する。

 

「いきなり何するんですの!これ以上は風紀委員の公務妨害と見なして、過剰防衛の被疑者から正式な捕縛対象へと移行しますわよ」

 

「出来るものならやってみろ。今の移動で既に演算内容、つまり移動ルートの割り出しは完了した。もう俺の手には確りとロープが握られている」

 

「確かに、それが本当ならヤバイですわね」

 

「まだ余裕ぶってるようだが、立場を分かってないなら教えてやるよ」

 

そう言うと、どこから取り出したのか、守殊が背中に手を回すと手品のように拳銃が出現した。そしてその銃口を白井に向ける。

 

「そんなものまで所持していたんですの?」

 

白井は白井で自分の太腿に手をかざし、装備している金属矢に触れる。

 

「それ以上動くとこの金属塊を直接体内に転移させますわよ?」

 

「その程度の脅しが効くと思ってるのか?それとこの拳銃はそこに落ちてたものでスキルアウトの所持品だ。俺のじゃない。たった今拾っただろう?見えなかったか?」

 

「知りませんわよそんなこと。重要なのは今貴方がそれを私に向けているということですの。所有権なんて関係ありませんわ」

 

「そうかい」

 

守殊は引き金に手をかけると、先に白井が動いた。白井の太腿から金属矢が4本消え、一瞬の間をおいて守殊の腹部に突き刺さる。

 

筈だった。

 

「なっ!?」

 

突き刺さるどころか、4本の金属矢は守殊が拳銃を握っている手と反対の手の指の間に綺麗に握られていた。

 

「演算への直接干渉……こんなことありえないことですの!」

 

「さて、これからどうする?俺はもう行くつもりだが、まだやるのか?無理する必要はない。スキルアウトを逮捕して終了。それで解決だろ。無暗に一般人を消したくはないんだよ。後これも返すよ」

 

金属音とともに白井の足元に金属矢が転がる。

 

「そ、そんなことが許されるはずないですの!」

 

ちっ、と守殊は白井に聞こえる程の舌打ちをした。それとともに、声色と表情が冷たくなる。

 

「風紀委員てのは一々堅すぎんだよ」

 

その瞬間、守殊が消えた。

 

「な!一体どこへ!?」

 

目を離していた訳ではない。

 

「もしや、あの殿方も空間移動能力者?」

 

「そんな単純な能力じゃねえよ」

 

背後で聞こえた声と後頭部に一瞬の激痛の後、白井は意識が薄れるのを感じた。

 

「手間取らせやがって……」

 

守殊は倒れそうになる白井をギリギリで何とか支え、路地の壁に座らせる。その後、倒れているスキルアウトの全員とその血痕を跡形もなく消し、銃に関しては回収することにした。

 

「さて、こいつはどうするかな。スキルアウトに襲われても後味が悪いし、どこか人目の付く場所まで運ぶか。ったく面倒臭え」

 

髪の毛を掻きながらどこに運ぼうかと思考した時、彼の背後から声が響く。

 

「黒子!!」

 

それは、とあるレベル5の少女の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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