とある原石の自由選択《Freedom Selects》   作:エヴァリスト・ガロア

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003-Ds 階級社会を制す為には

 

 

 

 

 

 

 

「黒子!!」

 

守殊 選(かみこと すぐる)の背後から声が響いた。

 

「アンタ、私の後輩に何してくれてんのよ!」

 

その声の持ち主の方向に目を向けると、見たことのある顔がそこにあった。

 

学園都市のレベル5の第三位、超電磁砲(レールガン)御坂 美琴(みさか みこと)だ。

 

直接会うのは初めてだが、表と裏の双方で著名な人間である。

 

「…………第三位か」

 

現在の状況は、路地裏で倒れている少女の前に銃を持った少年が立っている状態。その光景だけを客観的に見れば、それは犯罪者と被害者が事件現場に存在しているという単純明快な構図だ。

 

皮肉にも守殊は、気絶しているそこの風紀委員(ジャッジメント)に客観性の重要さを説いたばかりである。

 

「この風紀委員、お前の知り合いか?それなら丁度いい。闘志剥き出しの所悪いけど、さっさとこいつを連れて行ってくれ、温室育ちのお嬢さんよ」

 

「アンタが何処の誰かは知らないけど、私の友達を傷つけた。提案には賛成だけど、銃も持ってるような奴の言葉をすんなり受け入れられる訳がないでしょ!」

 

「誤解があるようだから言っておくけどよ、俺はこいつを気絶させるための最低限の力しか奮ってない。そもそも、この銃に弾は最初から入ってなかったんだ。なんならここでロシアンルーレットでもやって見せようか?」

 

当然だが守殊が右手に持っている銃はリボルバー式ではない。引き金を引けば弾が入っているかは一瞬でわかる。

 

守殊は銃口を自分の米神に当て、引き金に手をかける。

 

「ちょっと、何してんのよ!」

 

「どうせ入ってねえんだからつまんねえ心配するなよ」

 

直後、引き金が引かれた。そして銃声とともに守殊の米神と水平な位置のビルの壁に穴が開く。

 

「あ、やべ。弾残ってた……」

 

焦りと驚きの混じった声で呟く守殊だが、この場で最も驚いているのは美琴だ。彼女は守殊が引き金を引き、銃弾が頭蓋に向かって発射されているのを目撃しているのだ。そして現在も、両腕で目を覆うようにして固まったままである。

 

「……ん、あれ?生きてる?」

 

「何で俺が第三位の前で自殺しなきゃなんねえんだよ」

 

もう弾が残ってはいないか確認するため、神命は引き金を何度も引き続けるがもう銃声は発せられない。

 

「アンタ、一体何したのよ?」

 

「ただ避けただけだが」

 

「直撃してる様に見えたんだけど」

 

「そう見えるだけだ。天下の第三位様に比べれば大したことのない力だよ」

 

自嘲気味に語る守殊に、美琴は質問する。

 

「アンタ、一体何者?私がレベル5だって知ってるのに少しも驚かないのね」

 

「第三位ごときが出てきただけで何で俺が驚くんだ?」

 

その言葉を発した瞬間、

 

「第三位ご、と、き、ですって!?」

 

守殊の左を電撃が走り抜けた。

 

「おいおい、あぶねえな。今は電流が効いちまうんだよ。電流を拒絶」

 

「どうしたの?まさか怖気づいた?」

 

「いや、もうお前は俺にとっての脅威じゃなくなった。攻撃したいなら好きにすればいい。たかが第三位の超電磁砲に勝っても利益はないけどさ」

 

「ムカつくわね」

 

「殺す気で来いよ。生半可な攻撃を負けた言い訳にされたくないからな」

 

「じゃあ遠慮なくいかせてもらうわよ!」

 

直後、美琴の体が帯電したかと思うと、守殊に向かって今度は命中するようにそれは放たれる。

 

「もう電撃は効かねえよ」

 

しかし、電撃は彼を擦り抜け、脇に設置されていた室外機に直撃する。

 

(何なのあいつの能力、電撃や銃弾が擦り抜けるのを見ると偏光能力(トリックアート)かしら。或は、電撃が触れた瞬間に自分の後ろに転移させたのだとしたら黒子と同等かそれ以上の空間移動能力者(テレポーター)か。様子を見てじっくりと見極めてやる)

 

御坂は今度は彼に雷撃を浴びせようとするが、それを遮る様に選がまた呟く。

 

「コンクリートを選択、光を拒絶」

 

すると今度は彼の体の色が次第に薄れ完全に見えなくなってしまった。まるで気体が霧散するように。

 

(消えた!?見えなくなったってことはやっぱり偏光能力みたいな視覚か光学操作系能力者の可能性が高いわね。これならさっきの現象も説明がつく!)

 

「逃げ回ってちゃ勝負にならないでしょ。正々堂々と勝負したらどうなの。それともそうして逃げ回ることが、さっきのあんたの余裕の源だったの?」

 

すると美琴の頭上から声が聞こえてくる。

 

「別に逃げ回ってた訳じゃないんだが。少しは攻撃に転じて欲しいのか?」

 

美琴が上を見上げると、ビルの壁面に垂直に立っている守殊がいた。

 

「アンタの能力は相手の五感を狂わせて幻覚・幻聴を起こさせ自分の位置を誤認識させる能力。これでさっきあんたの体がぶれた様に見えたのも、霧散するよう消えたのも、今あんたが私の頭上に浮いているのも説明がつくわ!それなら攻撃手段も検討がつくし、見えなくなることへの対応策もある」

 

自信満々で説明する美琴だが、

 

「残念ながらそうじゃないんだ。まぁそう考えるのが普通だけど。因みにその対策って一体どんな奴なんだ?」

 

「知っての通り私は発電能力者(エレクトロマスター)のレベル5。10億ボルトの出力を誇る電撃をはじめ強力な電磁波によるジャミングや電波傍受、磁力操作によって砂鉄を操ることが出来る。だから電磁波を使ってレーダーのようにして死角からの攻撃にも対応できるのよ」

 

「確かにそういう使い方もあったな。流石に発電能力者は応用性が高い」

 

そう言い終わると、守殊はまた霧散し消えていく。

 

「無駄よ。どこに逃げても電磁波を飛ばしてアンタの位置情報は簡単に割り出せるんだから。そこね!!」

 

美琴は何もないように見える背後の空間に向かって腕を伸ばし雷撃を放った。その方向に5メートル程の地点、その空間からにじみ出るようにして守殊が姿を現す。

 

「正解正解。攻撃は効かないがその探知能力は見事なものだな。まあ結局、無意味な結果に落ち着くんだが。電磁波を拒絶」

 

その直後、彼女の視界からではなく電磁波で感知していた割り出していた感覚から守殊の姿は消えてしまった。

 

(消えた!?視認はできるのにレーダーでは感知できないなんて。一瞬でレーダーの範囲から移動できるような能力じゃなさそうだし、一体何なのよあいつ……)

 

「どうした?怖気づいたのか?」

 

「うるさいわね!」

 

美琴は叫ぶと、どこからか一枚のコインを取り出し、構えてから言う。

 

「そこまで言うなら見せてあげるわ。私の超電磁砲(レールガン)をね!」

 

「当たったら痛そうだよなそれ。ほら、今なら隙だらけだ。一矢報いるチャンスかもしれないぞ」

 

「どこまでも馬鹿にしてくれるわね」

 

美琴の体から電流が溢れ始める。先程の電撃とは明らかに違う。バチバチと火花が音を立て、時折閃光が走る。

 

「そんなに撃ってほしいなら、撃ってあげるわよ!!」

 

瞬間、衝撃が路地を一掃する。明確な物理的威力を持った攻撃が、轟音を伴って守殊を貫いた。その場を満たしていた空気が周囲の砂埃を巻き上げ、暫く静寂が場を支配する。

 

「…………」

 

美琴は黙り込んでいた。視界が遮られ、戦況がどうなったのかが掴めないからだ。

 

「威力は評価できるな。俺にはここまでの破壊力は生み出せない」

 

煙の中から聞こえてきた声に、やっぱりか、美琴はそう思った。

 

「しかし、当たっていたらどうしていたんだ?それこそお前の連れに手錠をかけられる事態だったが、まあいい。当たらないことなんて最初から分かってたことだからな」

 

砂埃が晴れきって守殊の全身が美琴の視界に映る。傷は無く、服が汚れている様子もない。

 

「何で攻撃が当たらないのか、聞きたそうな顔してるから同僚の好で少し教えてやる。簡単な話だ」

 

守殊は得意気に語り始める。ほんの少し同情を含んだ表情で。

 

「今俺とお前の間には5メートル程の間隔が存在する。俺がここから動かずに、素手でお前を殴ろうとしたら当たると思うか?」

 

「当たるわけないでしょ」

 

「そうだ。なら何が足りない?答えは距離だ。じゃあ最初に俺の横を通り過ぎたお前の電撃は何故当たらなかった?俺はその数分前にそこに立っていたぞ。なら何が足りなかった?」

 

数秒の間をおいて美琴が答を口にする。

 

「……時間?」

 

「分かるじゃないか。お前の言う通り、足りないのは時間だ。それなら何故超電磁砲は俺に当たらなかった?距離も時間も足りていた。何が足りない?」

 

攻撃を敵に命中させるためには距離と時間が必要になる。どれだけ拳を振り上げても距離が足らなければ攻撃は当たらず、相手が移動する時間を考慮しなければ攻撃は外れる。

 

「一体何よ?」

 

逆に、攻撃を回避するためには何が必要か?距離や時間以外に何が足らなければ攻撃を回避できるのか?

 

「知らねえよ」

 

「……は?」

 

一瞬、場が凍った。

 

「知らないってどういうことよ?」

 

「俺も知らねえってことだよ。距離でも時間でもない何かってことしか分かってないんだ。いや、俺の説明の全てが正しいかなんて誰も知らない。ただ触れたいものに触れ、避けたいものを避ける。それだけ分かっていればいい」

 

「アンタ、それで本当に能力者なの?」

 

「原石に自分の能力の原理を説明なんかさせんなよ。俺達はそれでこれまでやってきたんだから」

 

「原石?何なのよそれ?それにさっき言った同僚ってどういう事よ?」

 

原石とは、学園都市の行う『開発』のような人工的な手段を用いることなく能力を発現させた者たちのことを言う。しかし、一般には噂程度にしか認知されておらず、その存在を知っているのは暗部の人間くらいだ。

 

「原石は知らないならそれでいい。同僚ってのは俺も、お前と同じレベル5、第六位の自由選択(フリーダムセレクト)だってことだ」

 

「第六位……聞いたことはないわね」

 

「……で、まだ勝敗は決してないんだけど」

 

言いながら守殊は持っている銃の銃口を美琴に向ける。

 

「破壊と殺害って言う意味では俺よりお前の方が上だが、こうなっちまえば最早無能力者(レベル0)以下だよな。利益はないと言ったが、殺せば順位が繰り上がるのはある意味利益といえるのか」

 

引き金に手をかけ、ニヤつく守殊。彼と数メートル離れて立つ美琴は何も口に出来ずに固まっていた。

 

(逃げる?いや無理。どうせ追いつかれる……)

 

「人一人殺して余りある超電磁砲を撃たれたんだ。打ち返す権利くらい俺にも発生するよな?」

 

守殊は躊躇うことなく引き金を引いた。しかし、

 

「……ちっ、忘れてた。弾はもうないんだ。気まぐれであんなことするんじゃなかったな……」

 

ロシアンルーレット紛いの賭けで残っていた唯一の弾を使い切ってしまったことを思い出し、守殊は落胆する。

 

「距離と時間が足りてんのに、よりにもよって銃弾が足りないなんてな。笑い話にもなんねえよ」

 

一気に戦意と殺気が失せていく。

 

「おい、第三位」

 

「な、何よ?」

 

「とりあえず俺は帰るから、そこの風紀委員はちゃんと連れて帰れよ」

 

そういって、守殊はその場から逃げ出すように離れようとした。

 

「待ちなさいよ!」

 

美琴は守殊を引き留めた。

 

負けたことへの悔しさもあった。自分をレベル5と知りながら何の気なしに対峙し、戦いが終わればどうでもよさそうにその場を去ろうとする。

 

それによく考えてみれば、相手は何もこちらに攻撃をしてないではないか。それなのにいとも容易く勝敗が決してしまった。相手の気まぐれで助かり、情けをかけられたようなものだ。

 

要するに、気に食わなかった。

 

だが、彼女が勝利できる可能性は希薄であり、今は何をすればいいのか分からなかった。

 

「アンタ、名前はなんていうのよ?」

 

だからこそ名前だけでも聞いておきたかった。それだけしか出来なかった。

 

守殊は振り返ることも立ち止まることもせずに簡潔に答だけ述べた。

 

「守殊、守殊 選だ」

 

名前を告げた瞬間、消えてしまった。後を追うことも叶わなくなった。

 

「かみこと、すぐる……」

 

残された御坂 美琴は呟き、気絶している後輩のもとへと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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