とある原石の自由選択《Freedom Selects》   作:エヴァリスト・ガロア

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少し短め


004-Ds 彼の視線のその先には

 

 

 

 

 

 

 

 

七年前、此処は学園都市のとある研究所のある一室。

 

薄暗くじめじめとしたその部屋には多くの子供達がいた。彼らの顔からは生気というものがほとんどと言ってもいい程感じられない。彼らはある実験の被験者だった。しかし彼らは望んで実験に参加している訳ではない。

 

彼らは『置き去り(チャイルドエラー)』だった。

 

『置き去り』———入学した生徒が都市内に住居を持つ事となる学園都市の制度を利用し、入学費のみ払って子供を寮に入れその後に行方を眩ます行為、またはその子供の事を指す。

 

ここではよくあることだった。

 

定期的に呼び出される彼らが次にこの部屋に戻ってくる時、その人数は明らかに変化している。しかし、それでもこの部屋から子供が居なくなることはない。

 

この部屋には防音機能が施されているのか外部の音が入ってくることも、内部の音が漏れることもない。そんな中でも何か悲鳴のような声が聞こえるような気がする、聞こえるはずがないのに。

 

 

此処には死が溢れている。呼び出され部屋を出て通路を歩いている時、大きな袋を……そう丁度此処にいる子供達くらいの人間が入りそうなくらいの大きな袋が運ばれているのをよく見かける。その袋にはよく見ると赤いシミが付着していたり、生臭いような臭いがする。中を確認する必要はない。どうせ死が詰まっているだけだ。

 

そんな場所で生きている彼らの瞳の中には希望の文字はなかった。

 

「私達……此処で死んで行くの?」

 

いつも物静かな茶色の長い髪の少女が、隣に座る少年に言った。やはりその少女の瞳にも輝きはなく、ただ濡れていた。

 

それに対し少年の瞳は濡れてはいなかった。何処となく野望に満ち、少なくとも絶望に埋め尽くされている様には見えない。

 

そんな瞳で彼は彼女を見返す。

 

「もう二度と外に出られないのかな?」

 

外に出ることは叶わない。誰もが理解していた唯一の事実を、それでも問わずにはいられなかった。

 

少年は答えた。

 

「そうだろうな。このままだとここにいる全員が殺される」

 

少女は彼の瞳を見つめながらもう一度少年に呟いた。

 

「……怖くないの?」

 

「…………」

 

少年は少し考え込むように間を空けてから言った。

 

「怖くないね。どうせ俺は死なないんだ。いや死ねないと言った方が正しいのかもしれない。これまでに何十もの研究所に回されてきた。腕が千切れたこともあった。腹に大穴が開いたこともあった。でも、絶対に死なない。目覚めたときには腕は腕は繋がって、腹の穴は跡形もなく塞がれてる」

 

そのことを証明するために彼は袖を捲り上げ、傷のあったはずの所を指でなぞった。

 

「で、ここでも俺だけ生き残って、俺以外の人間はどうせ全員死ぬ。それがこれまでのサイクルだ。お前は知る由もないがな」

 

「死にたいの?」

 

「どうして?」

 

「死ねないって言ったとき、これまでで一番悲しそうな目だったから」

 

「……どっちなんだろうな。死にたくはないけど、死んだ方がましだと思うときは沢山ある。でも、何も出来ずに死んでいくだけの人生ってのはつまらなそうだろ?」

 

「死ななくても済む方法があるの?」

 

少女は呟く。

 

「分からない。だがこんな所で死にたくはない、死んでたまるか。俺はここを脱出する。脱出して……それから奴らを、この町を出し抜く」

 

少年は自分の手を見つめてそう言った。

 

その言葉に少女は驚き、頬を垂れていた透明な液体を拭うと、ほんの少し希望を取り戻したかのようにその瞳を見開き少年に問う。

 

「もし……もしそんな時が来たら、私も……連れて行ってくれる?」

 

そんな少女の問いに少年は「勿論だ」と、そう答えた。

 

「だから泣くな。後、これからは『もう死ぬ』とかそういうことを言うのは無しだ。言っただろ?死ぬつもりはないって。だからお前も生きる努力をしろ。生きていさえすればいい。そうすればここから出してやる、絶対にだ」

 

「うん、分かった」

 

少女は到底元気などとは言えないが、それでも希望に満ちた声で返事を返した。

 

 

 

七年前、ある少年と少女が交わした遠い昔の約束。

 

 

 

そんな約束を交わしたわずか数日後、この研究所は突如としてその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市第六位の超能力者である守殊 選(かみこと すぐる)は、第十八学区にある彼の学生寮に帰ってきた。

 

彼も一応は学園都市から学生という扱いを受けており、書類上だけだがこの第十八学区存在する長点上機学園という学校に在籍していることになっている。

 

長点上機学園とは能力開発において学園都市ナンバーワンを誇る高校であり、学園都市の『五本指』の一つに数えられる超エリート校だ。またこの学校の学生寮は、学生寮とは思えないほどの広さと高級感を兼ね備え、セキュリティー等も万全である。

 

守殊はそんな学生寮の3階に位置する自室の前にやって来た。オートロック式の部屋であり、当然、鍵を用いなければ開けることはできない。

 

だが、彼はその能力故に物理的に施錠する用途しか持たない鍵を持ち歩くことはない。正直このドアもコンクリートで塗り固めてしまった方が安全なんじゃないか、そもそもドアなんて必要ないんじゃないかとさえ考えることもあるほどだ。よって彼はこの部屋の鍵をある少女に渡している。(強引に奪われたと言っても過言ではないが)

 

しかし、部屋の中に誰かがいることに気がついた。そして彼は鍵を取り出すこともなく自身の能力を使い部屋に入る。

 

そして案の定、彼の予想は的中する。

 

「選、遅かったじゃない」

 

部屋の奥から少女の声が聞こえてきた。

 

彼女の名前は月極 高嶺(つきぎめ たかね)だ。長点上機学園と同じく五本指に数えられる霧ヶ丘女学院に通っている。

 

「何処へ行ってたのよ?探したのよ」

 

守殊のベッドの上で寝転がり、足をバタつかせながら月極は質問した。

 

「それはこっちの台詞だ。ここにいるなら連絡の一つでも入れるだろ普通」

 

「だって携帯に繋がらなかったんだもん」

 

「つうかいくら鍵を渡しているからって俺の部屋にいる頻度が高すぎないか?お前は霧ヶ丘女学院の生徒だろ。いくら俺が許可してるからって少しは遠慮したらどうなんだ?」

 

「いいじゃない別に。此処の方が広くて過ごしやすいだから」

 

彼女とは七年ほど前からの付き合いだ。以前とある研究所で出会い五年ほど離別していたが二年前に再開したのだ。彼女に鍵を預けっぱなしであるためこの部屋には入り放題で半自宅状態である。また彼女が在籍する霧ヶ丘女学院は長点上機学園と同じく第十八学区に所在しているため、ここからでも余裕で通学できたりする。

 

しかし当然ながら、彼女は彼女で霧ケ丘女学園寮に自室を構えている。ほぼ全ての生活用品はその自室に詰め込まれている筈であるから、守殊が帰宅したときの殆どのタイミングで彼の部屋にいるというのは謎だ。

 

「いいけどよ、俺は疲れてるからもう寝る。帰るんだったら帰るで戸締りはきちんとしていけよ」

 

そう言って強引に月極をベッドの上から追い出し、代わりに守殊が倒れこむ。

 

「ちょっと、女の子が部屋にいるのにそのそっけない態度は何?何かこう、もっと気を使いなさいよ」

 

しかしそんな言葉は気にせず夢の世界に旅立つ守殊。

 

「本当にもう、デリカシーがないんだから」

 

頬を膨らましながらも仕方なく彼女は彼の布団を綺麗に掛け直し、ぶつぶつと呟きながらベッドに腰掛けそのまま一緒に横になってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

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