とある原石の自由選択《Freedom Selects》 作:エヴァリスト・ガロア
ここは長点上機学園の学生寮。昨日、彼は学園都市中を歩き回り、二度も不良に絡まれてそれを返り討ちにした挙句、何故か襲ってきた
何故かその時誰かがいたような気がするが、帰ってからすぐに寝てしまったためよく覚えていない。いたとしても今は八時二十分、普通ならば学校はそろそろホームルームを始める頃であるから既に彼女はこの部屋にはいないだろう。
しかし今、彼はこんな事を気にかけている暇はない。
現在、彼はある目的の為に学園都市暗部に関する様々な情報を収集している。
学園都市には
つまりどうやって情報を入手するかと言うと、そういった研究所に片っ端から侵入しそこにある情報を頂くのだ。また彼の能力は隠密行動に特化しており、その計画を実行に移すには十分すぎると言っても過言ではない。
そんな訳で守殊は、外出する準備を始める。服は昨日着替えずに寝てしまい、今もそれを着たままだ。やろうと思えば能力で身体や服についた汚れを拒絶できそれでお仕舞いだが、気分的にそれはよくない為、シャワーを浴び着替えを始める。
準備も済ませた守殊は、早速寮を出て町へ繰り出す。途中でコンビニに立ち寄り朝食兼昼食を手に入れると、それを食べる為の場所を探す。
数分後、いい場所が見つからずに歩き回っていると路地裏から悲鳴が聞こえてきた。恐らく不良が一般人相手にカツアゲでもしているのだろう。
(チッ、鬱陶しいな。朝っぱらから元気な奴らだ)
そんな守殊の心の声も知らず5、6人の不良のものと思われる声が聞こえてくる。どうも裏路地という場所には妙な縁があるらしい。
(仕方ない、助けに行くか……)
そう思って彼は面倒くさそうに路地へ足を向ける。
「よし、財布も手に入れたし何かお財布ケータイなんかも手に入っちゃったよ。最近の携帯って便利だよなぁ。番号さえ聞き出しちゃえば限度額なんか知ったこっちゃねぇしな」
そう言われながら路地に座り込んでいる学生はそこらの建物の外に設置されているパイプに手を縛り付けられている。そこへまぁタイミングよく守殊が現われる訳だ。
「おいおい6人で一人を襲うとか近頃の不良はめっきり臆病になったもんだよなあ」
「あ?何だてめぇ、文句あんのか?お前一人で俺らに敵うってのグルボァ!?」
「はいはい、そんな台詞はこれまでにもう何百回と聞いてんだよ。飽きてんだよ」
いきなり拳を不良の頬にめり込ませる守殊。彼は基本、一般人以外には容赦しない。正義という大義名分の名のもとにストレス解消をすることが殆どだが。
数分後6人全員を倒しきり、まぁこんなもんかと思って不良が奪っていた財布や携帯などを縛られていた学生に返す。そして学生がお礼を言って帰り、自分も立ち去ろうとしたその時だった。
「ふっ。やはり雑魚どもではこの程度が限界か」
暗闇の中から登場する巨大な影。ザリッザリッという靴音。もう見るからにお前外国人用兵部隊として3ヶ国以上渡り歩いてきただろと突っ込みたくなるような巨漢むきむき人間兵器が、その姿を露にする。
「俺は内臓潰しの横須賀。あいつらを可愛がってくれたようだな」
そんな大層な二つ名を語るならカツアゲなんてしないで大事の一つや二つやってのけなさいよと守殊は思う。
「だがしかし、まずい所へ首を突っ込んでしまったようだな。ここは後悔の通じない場所。対能力者のエキスパート、この内臓潰しの横須賀サマの前に立っちまった以上、貴様はここで」
「すいません。この辺りで落ち着いて朝食を食べられる公園みたいな所ってありますか?」
「おい、ちょっと待て。人の話は最後まで聞けって。落ち着いて朝食って、俺サマの名前は内臓潰しの横須賀だって言ってるじゃん。何普通に朝をエンジョイしようとしてるの!?だから、あの、何だ。どこまで話したっけ?そうそう、こほん。内臓潰しの横須賀サマの前に立っちまった以上、貴様はここでブギュルワ!?」
突然守殊の周辺か発生した空気の塊が横須賀さんの身体に直撃し壁に叩きつけられる。
「……ちょ、げぶっ。何でいきなり?人の話は最後まで聞けって言ってるじゃん。なのに何でそう途中で邪魔をしてビブルチ!?」
横須賀さんが何か言ってるけどそんなことは気にせず、守殊は馬乗りにって追撃を入れていく。それはもう、がすがすと。
「ちょ、待って、グボォ……ちょっとだけでも良いから話を聞いて、ひでぶっ……あ、謝るから、ぶべらっ……」
「よく聞こえないんだけど?」
そう彼が言ったときには横須賀さんはぴくぴくと小刻みに震えているだけだった。
よしっ、と一言だけ言って満足した彼が立ち去ろうとした瞬間、唐突に後ろから大きな衝撃が走った。
「根性ってモンが足りてねえな、兄ちゃん。そんなんじゃ誰も満足しねえぞ」
細い通路を異様な風が吹き抜ける。
風上の方向に振り返ると、路地の出入り口辺りに仁王立ちする一つの影。
その影を見るなり守殊はどこに隠していたのか、拳銃をおもむろに取り出し躊躇うことなくその引き金を引く。
その銃声は正確に相手の心臓を捉えそしてそれに命中した。ばったり倒れる謎の影。
何故躊躇いもなく彼が引き金を引いたのか、それは彼がその影の正体を知っているからだ。
「ふるわァァああああああああああああああああああああああ」
むくりと起き上がる影。此処までの所要時間、わずか三秒。
「何の前触れもなく一発くれるとは、やっぱ根性が足りてねえな。あるいは我慢か?我慢が足りねえのか?総合的に判断するに、さてはお前、近頃のキレやすい子供のような類だろう!!マスコミから好き勝手言われるような立場になって哀しいと思ったことはねえのか!?」
しかしそんな言葉なんかお構いなしに三発ほどの銃声がこだまする。が、もはや人影はビクンビクンと震えるだけで倒れはしない。
「やっぱ死なないんだな」
「根性だよ、根性」
「いや別に聞いてないんだけど」
「強いて挙げれば学園都市の超能力者の一人、七人の内の七番目、ナンバーセブンの
両手を大きく広げ、背中を弓のように反らし、吠えるように宣言する削板。どういう理論か知らないが、彼の背後がバーンと爆発してカラフルな煙がもくもくと出てくる。
Tシャツに旭日旗を抱え、白いズボンに白い上着を肩にかけている。何だこいつは!?、と初めて彼を目にした者は思わず口に出したくなるその風貌の男は意気揚々と自己紹介。
守殊にはどうしても、昭和の典型的な番長を何か間違えて身にまとっているようにしか見えなかった。
呆然として眺めている守殊だったが、我に返って首を振る。
「あのさ、そこまで大々的に宣言したのはいいだが、何で今更出てきた?」
「オレはお前のような奴がこんな路地裏で弱い者いじめをしているのを見過ごすことが出来ないからだ!!」
その言葉を聴いて後ろで倒れていたはずの横須賀さんがいつの間にか目を覚ましていた。
「あれ?何で俺弱い者扱いされてんの?」
知らない内に起き上がっていた横須賀さんだが削板の言葉で相当傷付いていたのだが当の本人はそのことを全く自覚していない。
「お前、よくもやってグボエ!?」
言い切る前にまたも守殊は手をあげる。全く、最初に出てきたあの都市型モンスター横須賀さんは一体何処へいってしまったのだろうか。
「おいお前、この削板軍覇の前でまたも暴力を続けるのなら容赦はせんぞ」
「いや明らかにこいつの方が悪人面だよね。どう見てもこっちが暴力振るいそうだよね」
「しかし実際、殴っているのはお前の方じゃねえか」
「まぁそうなんだが、一々説明するのも面倒だし。もう行っていいか?俺より下位のレベル5と戦っても俺には何の利益もないんだけど」
「何?お前、レベル5か」
「まあな。第六位、守殊 選」
「第六位か、こんな根性の無さそうな男がオレより上とはな。よしオレがお前の根性を叩き直してやろう」
「根性が無いは余計だ。掛かって来るなら早くしてくれ。こっちは文字通り朝飯前なんだ」
「なら早速始めるとするか!!」
うおォォおおおおおおおおおおおおおおとまたもすごく五月蠅い叫びを上げる削板。そしてこれまた彼の背後がドバーン!!と爆発し煙を上げる。
「では行くぞ、すごいパーンチ!」
そう叫んだ直後彼らの間には15メートル程も距離が空いていたはずなのだが、謎の衝撃波か念動力のようなものが飛んできて守殊は数メートル吹き飛ばされる。
「痛えな」
「んっふーん。これぞ学園都市第七位の真骨頂。あえて不安定な念動力の壁を作り、それを自らの拳で刺激を与えることで壊すことによって、遠距離まで衝撃を飛ばす必殺技。
正体不明の念力波と共に、理論的に難有りな解説が飛んでくる。
「面倒な相手だな。回避できるかどうか知らないが、削板 軍覇及び削板 軍覇の発する念動波を拒絶」
直後、守殊は削板に向かって接近を試みる。
これまでの言動から考えるに、削板 軍覇は単純な人間だ。根性という単語を連呼しているあたり、プライドの高い人間であることは間違いないだろう。一度戦いを挑んだ人間の前から消えるような男ではない。況して、
「接近戦を挑まれて、まさか逃げ出すんじゃねえよな?」
こんな単純な挑発ですら無視できるような人間ではない。
「のぞむ所だ!!」
正直な所、銃撃も効かず、能力を使っても回避が可能かも分からない攻撃を相手が放ってくる状況は守殊にとって芳しくない。故に、差し当たって守殊がすべきことは削板の能力と攻撃方法にある程度の算段をつけることだ
「ほらよ!」
守殊が右足で削板の顔面を蹴り上げようと試みる。拒絶をしているので攻撃は当たらない。これは単なる様子見だ。相手の反応速度と出方を見るためのブラフ。
だが、
「その程度の速度の攻撃ではこのオレには当たらんぞ!!」
不意に守殊の視界から削板が消える。
(高速移動か!?)
まるで
「すごいパーンチ!」
「くそがっ!!」
咄嗟に体を捻り拳を避ける守殊だが、やはり何かしらの念動力を纏っているのか、直接拳に当たらずとも体ごと路地の壁面に叩きつけられる。
守殊は積極的に体を鍛えてはいないが、それでも一般人のそれと比べれば身体能力は高い。並の人間では対処しきれない攻撃のはずだったが、どうやら相手の身体能力は自身の能力次第で常識とはかけ離れたものになるらしい。
(思っていたより面倒だな。そもそも拒絶している時点で相手に蹴りが当たる筈がないのに避けられるとはな。それに、多少は軽減できたとはいえ、あの念動波を完全に避けきるのは無理か。様子見でこの様じゃ釣り合わないな)
服の汚れを払いながら、守殊は立ち上がり、頭上に手を伸ばす。
「能力の攻撃が自己完結してないってのは辛いものだな」
自嘲気味に語る守殊の伸ばした手の中にナイフが出現した。服のどこかに隠し持っていたのではなく、手品のように忽然と現れたのだ。
「お前すげえな。手品かなんかか?」
「ああ、種も仕掛けもある簡単な手品だよ。ナイフを選択」
答ながら守殊は走り出す、真っ直ぐに。
「高速移動でも何でもしてみろよ。とりあえずもう一発殴られてやるからさ」
「何度も正面からくるあたり、少しは根性があるみたいだな!!」
単調な動きのまま、守殊は削板との距離を詰めていく。
5000字はやっぱり超えたくないね。