――敵はネウロイだでけではない
「、、、っ!」
少年の鼻を、何度も嗅いだことのある匂いが襲う。
嫌な匂いだ。少年はゆっくりと、相手に悟られぬように懐のナイフを握る。距離はそこまで離れていない。30メートル程だろう。数人の人間が近付いていた。何故気付かなかったのか、少年は窓から見える雨を睨む。
「ふぅ、、、いやだなぁ」
一言呟くと、少年は走りだす。途端そこら中から薄汚れた男達が飛び出した。手には銃やナイフと言った武器が見える。少年は予想通りだ、と少し呆れる。戦闘後の街を我が物のように荒らす人間は決して珍しくない。少年も見慣れている。こういった賊の排除は少年の任務でもあったからだ。ネウロイとはまた違った敵。しかし、少年はその人間を人間として見てはいなかった。
「何処行きやがったあのガキっ、、、!?」
賊の一人が静かに倒れる。その背には一本の大きなナイフが刺さっていた。隠れていた少年が、賊に投げたのだ。物陰から少年がゆっくりと現れ、深々と刺さったナイフを勢い良く引き抜き、止めを刺すため更に胸を突き刺す。
「まずひとり、、、」
血に濡れた刃を物言わぬ賊で拭うと、その遺体を物陰に隠しまた走りだす。慣れたものだった。罪悪感なんてものはない。敵は殺せ。壊せ。殲滅しろ。一人残らず、一機残らず。少年の頭にその教えが繰り返し響く。何人いようが関係ない、何機いようが関係ない。少年はただひたすら、敵を殲滅する為に走り続けた。
「た、頼む!たすけてくれっ、、、!」
最後の一人が命乞いを始め、喚く。恐怖に歪む顔はただ醜く、少年を不快にさせる。早く黙らせたい、素直な気持ちだった。だがそうも行かない、この賊から拠点の位置を聞き出さなければならないのだ。そこには食料や武器が沢山ある可能性が高い。少年は賊が使っていた銃を拾う。
「こると、、、?いいぶきつかってるね」
「な、なんだ?何する気だ!?それならやる、お前にやるよ!だから!?」
部屋に一発の銃声と歪んだ悲鳴が響く。撃ったのだ。賊の足を。賊は何とか逃げようと足掻くが、逃げることは叶わない。巨大なナイフが賊の二の腕の肉を突き破り、その刃が壁に深々と突き刺さっているからだ。動くたびに傷口から血が激しく漏れる。
「うごかないほうがいいよ。しんじゃうのがはやくなるだけ。でも、ぼくのきいたことにこたえてくれたら、、、」
「お、教える!教えるから頼む、殺さないでくれ、、、!」
賊の怯えた目が、助かるかもしれないと希望を見出した表情が、少年の目に映る。ただ少年は何も答えない。ただ純粋な笑みを浮かべる。
「それじゃあこたえてね?かつどうきょてんはどこ?ほかのいきのこりは?それとこのこるとはどうやっててにいれたの?」
「、、、?拠点は西にしばらく行った所にある協会だ!生き残りはもういねえ!おれで最後だ、その銃は死んだウィッチから頂戴した。でもなんでそんなことっ!?」
賊の言葉が止まりその表情は恐怖に染まる。目の前の少年が、いや、もはや人間なのかと疑いたくなるような、眉一つ動かさず、怒りも、喜びも、相手を威嚇する威圧の表情さえ消えた、冷たい無表情になっていた。
「、、、、ぼくはこたえてっていっただけだよ?しつもんしてもいいなんていってない。でもそっかぁ、、、これ、うぃっちのひとからとったんだ」
少年は銃を見つめ、撫でながら、淡々と呟く。その言葉は、賊を責める訳でも、ウィッチの死を悲しむ物でもない。ただひたすらに冷たかった。少年がゆっくりと賊に近づき、腕に刺さったナイフを乱暴に引きぬと、賊から小さな悲鳴が漏れた。
「へへ、、、助かった、、、!たすかっ、、、え?」
助かった、俺はまだ生きている、賊の表情に初めて笑みが浮かぶが、その表情はすぐに崩れ、驚愕にかわった。自分の視界に映るはずのない物が写っていたのだ。首から血を噴水の様に吹き出す自らの身体を最後に、賊は意識を手放した。
「ごめんなさい、、、ごめんなさい、、、」
小さく謝り続ける少年。頬には涙が伝う。助けられなかった命に少年は涙する。
いつの間にか雨が止み、雲から覗く月明かりが、銃を抱き涙を流す少年と、恐怖に歪めた賊の首を照らした