Flat Summer Wars   作:三概井那多

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嵐の前の静寂

俺の住むこの町”パライソタウン”人工島でにある小さな島だ。本土へと繋がる橋か港から出る船で移動がこの島へでの交通手段。歴史的にもまだ浅く、総合病院と買い物先は大型モールは一つで何故か大きい公園が二つも存在し、まだ何が作られるのか不明な埋立地。まだまだ発展途中の人工島に俺は住んでいた。

 

人工島であるために住民のほとんどが色々な地方から引っ越してきた人ばかりではあるが、実のところ俺は違った。何故なら、この島の開発に関わる仕事をやっている父の子であため俺は生まれも育ちも正真正銘のパライソタウンの人間であるのだ。

 

流石にこの町の第一子というわけではないが、それなりに出世の話になるとクラスでは注目の的となることが多い。

 

 スター気分という訳ではないがどことなく照れくさく感じてしまうことが多く、俺の中でもそれが特別なものであると思っていた。

 

『パライソタウンで生まれた子』

 

その言葉が好きだったのだ。

 

まぁ、さやか曰く『血統書付きパライソの子』の方がかっこいいと言っていたが、それは一先ず置いておくとして。

 

けれど、『パライソタウンで生まれた子』であるこは誇りであると同時に一種の呪縛にも感じていた。何故なら俺は周りと違ってパライソタウン以外を知らない。つまり外界が知らないのだ。

 

島から全く出たことがないという訳ではないが、それも精々本土止まりだ。それ以上先の場所に行ったことはない。その先に出ることがあるとすれば早い時期で11月の修学旅行で関西に行くことになり、それが終われば中学卒業後となる。

 

パライソタウンには高校がないのだ。

 

進路のことはまだ決まっていないからわからないが、たぶん本土の学校に行くことになるかもしれない。本土なら通いも可能であるし、人数制限のある学生寮でもパライソタウン出身なら優遇されることが可能だからだ。

 

魅力的に思えるし建設的な判断だと思えるが、心の中ではそれで本当にいいのかと思ってしまう自分がいる。俺の夢は野球選手だ。野球の技量をもっと磨きたい。もっと強くなりたい。

 

それなら本土ではなく、地方の学校に行くべきではないのか?

 

例えば、混黒高校や天下無双高校、超最強学園といった強豪校に。あるいは、一般校でもありながら甲子園に出場経験のある親切高校や花丸高校ならば。と色々考えてしまう。

 

しかし、それはこの島から遠く遠く離れてしまうと同義であることもあり、不安や寂しさが心の中で大きく引っかかっていた。

 

夢を掴むために前へと進むことが必要だ。勇気を出すことだ!

 

だけど、その一歩を踏み出すことが出来ずにいて、心情はざわめいていいようのない焦りと不安を掻き上げていく。

 

揺れる心をなんとか振り払おうとして俺は―――

 

 

「遅刻ギリギリの時間に登校することで、これ以上ない緊張感で悩みを一次的に忘れようとして、不安はなくなったけど遅刻はしてしまった、と」

 

「うん、そうなんだ。遅刻してごめんなさい、深雪ちゃん」

 

「その深雪ちゃんはやめてって言っているでしょ。もう」

 

呆れたような疲れたような顔をする目の前の青いスーツの若い女教師、うちのクラスの担任の深雪ちゃんであった。去年、つまり俺が一年の頃にとある田舎島からやってきたばかりの人で若いこともあっても生徒に人気が(ちょろいから)高く、仕事もできる。

 

主に雑用と問題児ばかりの俺たちのクラスの後始末的な意味で。

 

そんな深雪ちゃんにストレスを増やしてしまうのは忍びなかったが、だがここで「寝坊しました」と一言で片づけてしまったらそれこそ真面目な深雪ちゃんに失礼というもの。

 

なら一層のこと、思春期にありがちな悩みのせいにしてしまえば丸く収まるのではないか? と考えて人工島に生まれ育ったことで将来にやっていけるのか不安抱えている思春期の悩みを遅刻の言い訳にして職員室に来ていた。

 

うーん、こっちのほうが悩みのたねを増やしてしまいそうだな。不眠状態にもなってお肌が荒れたら大変だな。

 

的外れなこと思っていると、深雪ちゃんは肩を落として大きなため息を吐く

 

 

「はぁー……寝坊だから通知表書き直さなくちゃ。小波君だけ皆勤賞なくなっちゃたわね」

 

「……」

 

 

話を全然信じてもらえなかった。わずか一年といえどうやらこの手の嘘はもう深雪ちゃんにもう通用しないようだ。この成長を喜ぶべきか、それともチョロさが無くなっていくのを悔やむべきか。少し考えどころだ。

 

次からはどんな手で言い訳を使うべきと少し考えていると、深雪ちゃんは次からは寝坊は気を付けてね、と一言注意だけしてもう教室に戻っていいとのこと。俺はもう一度謝罪の言葉を言ってから職員室に出ようとするが、寸前で深雪ちゃんに呼び止められた。

 

「小波君。本当に進路のことで悩んでいるならちゃんと話は聞くから。そうじゃなくても、悩みとかがあるなら相談してね。力になってあげるから。一人であまり追い詰めないでね。君の私は先生だから」

 

「……はい」

 

真摯な眼差しで俺と向き合おうとする深雪ちゃんに何と言っていいのか分からずに、素っ気ない返事だけ返して俺は職員室を後にする。

 

一先ず、これからは遅刻したら素直に謝ることにしよう。そう考えなら教室へと向かった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「よお、遅刻魔。深雪ちゃんなんだっけ?」

 

教室に戻ると、ドアの近くにいた俺に気づいたのか鼻にバッ点マークして絆創膏を張っているクラスメートの平山が話しかけてきた。

 

「ああ、深雪ちゃんが朝のHRで俺に会えなくて恋しくて心配したって」

 

「ははは、うそくせえな」

 

軽い冗談を言い合いながら俺は自分の席に着く。

 

「なぁ、夏休みなんだけどさ、キャンプ行かね? キャンプ」

 

「キャンプ?」

 

唐突に平山の提案に首をかしげる。なんでまたと、返すと別のところから返事は返ってきた。

 

「それはですね、最近なんでもキャンプ場にUFOの目撃証言があったそうなんです」

 

「ん、堤にはじめ君、それに石田。おはよう」

 

三人も集まってきたから一先ず、挨拶すると、三人も返してくれる。

 

「で、UFOだって?」

 

「はい。目的はあくまでも自由研究として天体観測として行くのですが、そのキャンプ場はUFOの目撃情報があったそうなんです。もしかしたら私たちも運が良ければ見れるかもしれませんよ」

 

饒舌に語る背の低い眼鏡をかけた如何にも”博士”のあだ名付きそうなコイツは堤。そういえば、今朝のニュースでもそんなことを言っていたなと思い出す。

 

「ふーん、ということはUFOが見れるからキャンプに行くわけか」

 

「ああ、それに皆で遊べる夏も今年しかないだろ」

 

「まぁ、そうか。はじめ君も行くのか? 行けるのか?」

 

顔にそばかすのある、気の弱そうな男子こと村田はじめ君にも確認してみるが、はじめ君は微妙な顔をしてわからないと答える。

 

「ぼくもUFO見たいけど、お母さんが許してくるか分かんないよ」

 

「そっか。はじめ君家って結構厳しいからな」

 

結構予想どおりの答えが返ってきた。はじめ君は厳しい家庭といっても別に裕福な家庭という意味ではなく、純粋に子離れができない母親も存在があり、良くいえば心配症、悪くいえばモンスターペアレントというやつだ。父親が早くに無くしているためか、一人息子が心配のあまり厳しくなることが多いらしく、母親のいうことは絶対順守らしい。

 

そのせいもあって、はじめ君自身も性格的に気の弱いところがあるのだが、不思議なことに躾が厳しいこと以外でははじめ君は特段母親を嫌っていないらしい。一緒にカレーを作ったとかよく聞かされる。

 

「じゃあ、石田はどうなんだ?」

 

最後の一人、石田に訊ねてみる。石田は学校一のメタボ体系で性格はのんきでいつも食べることばかり考えている典型的な人物だ。石田はリッツを頬張りながらうんと頷く。

 

「行くよ、キャンプはいいよね。バーベキューにカレー、焼きマシュマロ、トウモロコシ、焼きそば、もぐもぐ」

 

「ああ、うん。石田は相変わらずだな」

 

UFOには全く興味を示していなかったが行く意思はあるようだった。

 

「で、小波お前はどうなんだよ?」

 

「俺か?」

 

平山が俺に対して訊ねてくる。どうするかなと少し考えてから「やめておく」と答える。UFOうんぬんは一先ず置いとくして、キャンプ自体は面白そうだし参加してもいいかなと思ったが、はじめ君家ではないがたぶん親が反対するだろうし、できれば今年の夏は野球に打ち込みたかった。

 

そう告げると俺の不参加が意外だったのか、平山は血相を変えて引き止めてくる。

 

「おいおい、それはないだろう! 遊べる最後の夏だぜ。ほら、青春を謳歌しようぜ!」

 

「それって来年になれば、『最後の夏だぜ』って言ってそうだな。一体どうしたんだ? お前青春謳歌的なキャラじゃないだろう?」

 

どちらかというと、引きこもりながらも「ああ〜、暇だな」って言って結局何もしないタイプであるはずの平山の様子が可笑しいと思い俺は聞いてみる。すると、平山は少し真剣な表情になって重々しく告げる。

 

「お前が来ないと……女子の集まりが悪いんだ!」

 

「あ、石田俺にもリッツくれ」

 

「ハイ、どうぞ」

 

「石田君ぼくもいいかな?」

 

「いっぱいあるから大丈夫だけど、僕の分だからすこしだけね」

 

 

「って、聞けよ!!」

 

リッツを頬張っているとバン! と机を強く叩く平山。おい、何をするんだ。

 

大切な机を叩かれたことに抗議の目で睨むが、平山はそんなことはどうでもいいと切り捨てて、キャンプに行くことを強く推してくる。あまりにもしつこいので一つだけ確認をとることにする。

 

「ちなみに俺が行くなら行くっていう奴は誰なんだ?」

 

「ウホー、小波が行くなら、リコとユイ、それにアカネにさやかだね」

 

「おい、小学生が入っているぞ」

 

「それにリコが行くなら夏奈も行くって、あとユイの方でエリと白瀬も連れて行くって言ってた。そしたら、そんな大人人数で行くなら保護者はいるのかって委員長が言われて、アカネがリンさんに頼んでみるって」

 

「それは俺が行くなら来る奴が多いんじゃなくって、俺に付いてくる奴に付いてくる奴が多いじゃないのか?」

 

「そんな細かいことはどうでもいいんだ! お前が入れば女子が集まることは事実なんだから」

 

 

俺は芋づる式の先端かよ。あるいは魚の餌か。

 

どちらにしてもあまりいいものではないなと感じては熱く語り、俺にをキャンプ参加することを勧めてくる。

 

 

「分かった分かった。考えとくから」

 

「おう、ぜったいだからな! 最悪、当日はお前来なくてもいいから。話では来るってことでいいからな」

 

「いや、なんでそうなる?」

 

 

当日来なくていいなら今のやりとりなんだったんだよ。それなら最初から俺を誘わないで勝手に話を勧めとけよ。

 

平山と謎のやりとりをしていると、「おはようございます」と聞き覚えのある声で挨拶をされてそちらへと振り返る。案の定、そこには青い髪をした女子生徒、幼馴染みの南雲るりかがいた。

 

「おう、おはようるりか。って、なんで今日は起こしてくれなかったんだ? そのせいで今日は遅刻したんだぞ!」

 

るりかとは幼馴染みであるのと同時に同じマンションに住んでいて、しかもお隣りさんだ。そのせいか、るりか曰く「家が隣さんだからあなたが寝坊したときに先生から訊ねられるからしょうがなく起こしてあげているですからね」と言われて以来休日を除いてはよく朝起こしに来てくれるのだが、どういうわけか今日は起こしに来てくれなかったのだ。

 

そのことを問い詰めてみると、るりかは呆れたようなため息を吐いてから。

 

「昨日、言いましたよね? 明日はお母さんの病院に寄ってくるから朝は自分で起きてください、って」

 

「あれ、そんなこと言ったっけ?」

 

「やっぱり忘れていましたね」

 

しょうがない人ですね、肩を竦めるるりか。

 

るりかのお母さんは少し前から病気で入院している。どういった症状なのかは詳しくは聞けていないが、あんまり芳しくないらしい。

 

るりかの家は父親が無くなっており、母親と二人の母子家庭だ。家庭こそあまり裕福ではないがそれでも二人では十分に暮らしていけるらしい。けど、母親が病気になってからはるりかにも負担がかかっているのか少し顔に疲れのように見える。

 

「るりか、大丈夫か?」

 

「ええ、寝たっきりの状態ですがお医者さんの話では少しずつ回復に向かっていると」

 

「あ、いやおばさんのことではなくてるりかの方が」

 

「え?」

 

 驚いた顔をするるりか。

 

「疲れているように見えたから。俺にできることがあれば何か言ってくれよ。るりかのためならなんでもするからさ」

 

大切な幼馴染が大変な目にあっているなら力になってあげたい。

 

そう思い、少し言葉にするのは照れ臭かったが偽りのない本音を口にする。そうしたら、るりかは二、三回ほどパチクリと瞬きしてすると、ハッと何かに気づいたように顔をにそむける。

 

頬に少し朱色がはいり、コホンコホンとわざとらしく咳をする。

 

「あ、あなたに心配されることはないです。大丈夫です。大丈夫ですけれど、あなたがどうしても言うな「やっほ~、とおいち~! おはよう、なになに何の話?」

 

るりかが何かを言いかけると、横槍が入る。面倒くさい奴が来たな、と内心でぼやいて声の主に返答する。

 

「リコ、今少し大事な話をしているからちょっと待っててくれないか?」

 

「何よその言い方! 私に聞かれたらマズいわけ?」

 

ムッとした表情するポニーテールとは少し違う感じに纏められた緑色の髪をした少女、石川梨子ことリコはそう言い攻めてくる。

 

結構デリケートな話をしていたので聞かれたら不味いかどうかは、もちろん不味いということになるわけだが、……このトラブルメーカーに状況説明しても果たして大人しく引き下がってくれるのだろうか。

 

少し迷っていると、「お~い、小波」と今度は別のところから名前を呼ばれてそちらへと視線を向ける。

 

「おい、小波。来ているのか? 日よう…『ぴゅー、コツン!』あ、痛ッ!?」

 

そこには坊主頭のゴリラみたいなやつがこちらへと接近してきたが、どこからともなく投げられた空き缶が頭部に命中してしまいあえなく撃退された。

 

「越後、大丈夫か?」

 

「お、おう。……おー、痛てて…」

 

缶が当たった場所を撫でるゴリラこと越後は笑いながら無事だと言い張る。

 

本当に大丈夫か?お前はバカだからこれ以上は悪くなることはないけど、逆に良くなるなんてことには…ま、ならないだろう。

 

「越後、赤道は真っ赤であることは知ってるか?」

 

「やれやれだぜ。小波、俺をあまり馬鹿にするなよ? 赤道って書くからには真っ赤にきまっているだろ。レッドカーペットが赤いのと同じさ『ピュー、コツン!』 あ、痛ッ!?」

 

あ、うん。大丈夫だ。いつも通り平常運転(バカ)だった。そう確信できたら二発目の空き缶が越後に直撃した。俺は投げた本人の方を見る。

 

「駄目よ、十一。野生の越ゴリラなんて接近したら、どんなウイルスが含んでいるのか分かりはしないわ」

 

「おい、リコ何をしやがる! 毎度毎度空き缶なんてなげるんじゃね!」

 

「うるさいわね、越ゴリラ。ゴリラは人とは分かり合えないんだから大人しく野生に帰りなさい!」

 

「やれやれだぜ。俺はゴリラじゃないと何度言えばいいだ。あ、小波日曜なんだけどサッカー部の連中から」

 

「私を無視すんな!」と越後に三度目の空き缶が直撃するのを見て、この投擲技術って十分野球部活躍できるのに、とリコを野球部にスカウトしようかと一瞬考えたが、変に問題起こされて謹慎を食らう未来が安易に想像できてしまったのでやめておくことにする。

 

冗談抜きでコイツは何をしでかすか分からない。

 

今までの問題数々が脳裏に浮かび、それを全力で振り払んで話を戻そうするがリコと越後のじゃれあいを続けていた。話が進まないので止めに入ろうするが、その前に別の声が入る。

 

「小波、サッカー部から助っ人の要請が来ていてな、日曜に試合があるそうだ」

 

越後の代わりに答えてくれたのは青山だった。とても中学生とは思えないほどガタイが良く、所属している空手部で鍛えられていることがハッキリと分かる。

 

「六月の試合で貸しを作ったんだろ? その時の借りを返してくれだとさ、俺のところにもきてな」

 

「そういえばそうだった」

 

小さな人工島のこともあり、町にしろ学校にしろどこも人手が足りないのだ。

 

うちなど学校は部活はあっても正式の部品が本来規定人数が足りておらず殆ど〝部〟ではなく〝同好会〟といっていいようなもの。大会などがある場合は他の部活から助っ人メンバーを呼んで試合が当たり前である。

 

六月にあった野球の試合があり、その時にサッカー部の連中と青山とかに一つ借りを作っていた。

 

「青山も参加するのか?」

 

「ああ、特に断る理由もなかったしな」

 

「なら、安心だ」

 

「俺もいることも忘れるなよ」

 

越後が胸を叩きながら堂々と自己主張する。俺はそれを訝しく見つめる。

 

「いや、お前いても平気でハンドするじゃん」

 

「やれやれだぜ。その言い方じゃ、俺が役に立たないみたいじゃないか」

 

「そう言われてんよ。気づけよバカ」

 

理解しがたいといった表情をする越後と、その様子に呆れた顔をするリコ。なんだかんだ言い争うことが多いけど、この二人って仲がいいんだよな。喧嘩するほどなんとやらというか。

 

バカとトラブルメーカーってこともあり、マイナス×マイナスはプラスの見方が…う~ん、できないな。この二人の場合、どう頑張ってもマイナスとマイナスをかけてもより強いマイナスにしかならない気がする。

 

越後、リコ混ぜるなキケン、絶対。

 

「あ、そうだ。悪いけど青山、再来週くらいに野球部も本土と練習試合することになるから、それにも参加してくれない?」

 

気まずい思いで頼み込んでみる。

 

2週続けて他の部の、しかも別のスポーツでの試合になるから流石にこれは断れる可能性があると思い、少し躊躇いがあったが青山は嫌な顔をせずに「構わない」とOKしてくれた。

 

よし、これで再来週は大丈夫と安心した瞬間、「ちょっと、待ってください」と止められる。声の主はるりかだった。るりかはどこか怒ったような顔して聞いてくる。

 

「十一、再来週に試合があるなんて聞いてないんですが?」

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

てっきりるりかには伝えているつもりでいたのだが、本人は目を細めながら「聞いていません」と強くいってくる。

 

「ああ、ごめん。るりかには伝えたとばかり」

 

「忘れないで下さい。もう、こっちにだって色々と準備があるんですから」

 

「ごめんって……で、準備ってなんの?」

 

「それは……色々とあるんですよ!」

 

何故か顔を赤くして怒られてしまった。

 

最近、ウチの幼馴染が情緒不安定の件について。本当にどうしてしまったんだろうか? 思春期のせい? もう、昔みたく一緒にお風呂に入ってくれないのか?

 

そんな親離れしていく娘を持つお父さんの複雑な気持ちになりながらも、よくよく考えて見れば俺たちって一緒に風呂に入ったことはないんだよな。結構、幼馴染って一度くらいは一緒に風呂に入るような微笑ましい思い出があるらしいが俺とるりかにはなかったな。あ、何度か一緒に銭湯に通ったことはあるけど。

 

「今、何か変なこと考えませんでしたか?」

 

「考えてない、考えてない」

 

ただ、昔銭湯で風呂上り姿のるりかを思い出していただけ。

 

湯上りの体を包む白ブラウスは火照った体でほんの少し湿っては若干透けるように見えたのは、発展途上でありながらも年頃ともあり、小さな膨らみ始まったともに新調したと思われる水色のスポーツブラと柔らか白い肌。

 

そのあと、風呂上りの牛乳を早飲み合いっこした際に口の中いっぱいに白いものを流しこむと、量が多かったのか少しだけ口からたらりと滴り落ちていく白いもの。

 

「てい!」

 

「痛て!? いきなり何をするんだリコ!」

 

「あ、いやなんか変なこと考えていそうだったからつい」

 

「考えてない」

 

全く、るりかといい、りこといい、どうして昔のことを思い出しているに、一体何を根拠に言っているんだか。もし、俺がゲームだったらCERO推奨の全年齢対象問題なしA判定貰えるくらいの健全な男だぞ。

 

……何故か、今ものすごい勢いで「おい!」と突っ込まれた気がしたが、まあ気のせいだろ。

 

その後も試合の日程や確保するメンバー、夏休みの予定、どうでもいいバカ話で盛り上がっていたら俺の通知表を書き直したであろう、みゆきちゃんがようやく教室にやってきた。

 

「はい、皆さん。静かにして自分の席に戻ってくださいね!」

 

わいわい、がやがや。わいわい、がやがや!

 

「あ、あの~、皆さん? 先生が来ましたよ! 席に着いてください!」

 

わいわい、がやがや。わいわい、がやがや! わいわい、がやがや!!

 

「話を聞いてください!?」

 

涙目になりながらも教室中に響くくらいに叫んで訴える、みゆきちゃん。しかしそれすらも耳に入らないのか、問題児だらけのうちクラス連中の騒ぎは収まらない。夏休み直前で大分舞い上がっている。

 

いつものことはいえ、流石にみゆきちゃんがあまりにも不憫に思い、仕方なく俺がクラスの熱狂にストップをかけようとすると、他から声がかかる。

 

「皆、静かにしなさいよ! 先生が話しているでしょ!」

 

みゆきちゃんの呼びかけにも無反応だったクラス全員がその一声でピタリ、と止み、そこでようやくみゆきちゃんが教室にやってきたことに気づきそそくさと自分の席に戻っていく。

 

その様子に声を発した彼女は満足そうにする。この子は委員長の神条紫杏、赤い髪にポニーテールしており、目が悪いことが一目でわかる、ぶ厚い眼鏡をかけた女子生徒だ。

 

「ありがとう、神条さん。おかげで助かったわ」

 

「いえ、委員長として当然のことしたまでです」

 

みゆきちゃんがクラスを諫めたことに感謝の言葉を贈るも、委員長は慣れた様子で応対しながら、委員長のアイデンティティたる眼鏡をくいと上げる。

 

「ッケ、くだらねぇ~。これだから優等生様は」

 

聞こえるか聞こえないかのギリギリなラインの声音で呟いた。それが聞こえたのか委員長の肩がピクっ、と反応して、声が聞こえたほうに顔を向ける。

 

机の上に両足を乗せて背もたれに寄りかかって椅子をギコギコ、前足を浮かび上げて欠伸を噛み殺し語っるそうにしている、服装が乱れた目つきの悪く男子生徒、不良の有田だ。

 

委員長はキィ、とぶ厚い眼鏡をかけていても分かるくらい目を細めて有田に向けて告げる。

 

「有田君、行儀が悪いから背もたれにもたれかかない。床が傷つくでしょ。あと、制服のシャツを入れて、ネクタイを締めなさい」

 

委員長は先ほどのことは聞かなかったことにして、努めて優しく口調で説教をするのだが、有田は鼻で笑うかのように吐き捨てる。

 

 

「委員長なんてただのセンコーのご機嫌取りの得点かせぎじゃん。いいよな~、委員長やっているだけで内申点上がるなんて」

 

「な、なんですって!? もう一回言ってみなさいよ! 」

「し、神条さん! 落ち着いて!」

 

傍から見ても有田の安い挑発に煽られて、顔を真っ赤にして今にも掴みかかりそうになるが、慌ててみゆきちゃんが涙目で委員長を抱き留める。

 

問題児だらけのクラスの中で一番良識的で知的な人間なのだが、やはりこのクラスの一員であることには変わりなく、安い挑発に弱いのだった。

 

夏の暑さともにクラスの熱狂に充てられた俺は、雲一つとない青空を見ながらいつも通りの日常に平和だな~、などと能天気なこと思っていた。

 

学校の外では静かに、何かが壊れ始めているとは一切気づかずに。

 

 

 

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 

 

何だかんだと色々あったが大きなトラブルは特に起こらず、細々とした問題はまあ、多少はあったがそこはウチのクラスの日常風景の一種なので仕方がないことにする。

 

うん、剣道部の大神が他校を道場破りというの名の学校侵略計画(なんだそりゃ?)だとか、リコも面白がって参加しそうになって、みゆきちゃんも「他校との問題はやめて!」と泣き叫んだりと、いつも通りにぎやかなことも起きつつ、一先ず面倒ごとは抱えずに無事に放課後の時間がやってきた。

 

クラスの人間の殆どは教室におらず、俺は荷物の整理をして出遅れていた。基本置き勉スタイルではあるが、長期休暇は基本的に全部持ち帰るようこともあり少し手間がかかってしまった。

 

スクールバックの中に教科書類や美術の時間になんで作ってしまったのかと考えてしまう、木工細工で出来た悪魔にもイタチのようにも見える人形を無理矢理詰め込んで、パンパンをなったものを確認するどことなく感じる達成感に満足し、席を立つ。

 

「ねぇ、これからモールに行って水着を買いに行こうよ!」

 

帰ろうかと考えていたら後ろから気になるワード…もとい話し声が聞こえたので何となく、何となく! 顔を向けてちらりと見る。そこには三人の女性陣が話していた。

 

俺は立った席を座りなおす。ほら、今日もうこの後帰るだけで早く帰ったところで特にやることはないし。どうせなら一学期お世話になった教室でこれまでのことを振り返って、思い出に浸るのもオツというのものだろう。

 

そう確かな使命感を心に宿しながら、どんな些細なことも逃さないように聴力を最大限まで発揮させようと集中を始める。

 

あ、決してこれは盗聴ではありませんよ。ただ、聞こえただけですから。

 

 

「ほらほら、エリも一緒に行こうよ! キャンプの時用にエリに似合う水着を選んであげるから♪」

 

「ええ!? えーと、行くのはいいけど、そのぅ……学校用のでいいよ」

 

グイグイと押してくる青髪のポニーテールの体育会系ッぽい、元気ハツラツ女子のユイに対して、おどおどした草食動物ように怯えた様子女子のエリはおずおずと返答すると、ユイはチッチッ、人差し指を振りながら得意げな顔をする。

 

「チッチッ、エリ駄目だよ。折角の夏休みだよ? 一夏の冒険のチャンスなんだから冒険しなちゃ! 引っ込み思案な性格を直すチャンスだよ」

 

「う、うん。そ、そうだけど…」

 

「よし! 分かってくれたんだねエリ! 嬉しいよ! じゃあ、今年の水着は大冒険ということで、……っずばり、へそ出しするビキニでいこうか! 男子の視線をうばっちゃえ!!」

 

「え!? ユイちゃんそこまで大胆なヤツはわたし、むむむ、むり……。うわぁーん、かなちゃん!!」

 

泣き出してしまったエリは銀色の髪の長い女子の夏奈に助けに求める。夏奈は慣れた様子でよしよしと頭を優しく撫でてエリを宥める。まるでいじめられた子供がお母さんに泣きつくようなある意味微笑ましい光景に見えるが、しかしそんなことは俺の中ではどうでもよく、あることに別のことを考えた。

 

そう、『へそ出しビキニ』だ。

 

中学生になると、もう大人の仲間入りした気でいることが多いが、所詮は精神的な意味で大人じみてきた(特に女子は)というだけ肉体的にはまだまだ発展途上、第二次成長はこれからの時期なのだ。そんな幼児体系に近いものにビキニという大人のアイテムを身に着けたアンバランスな姿を喜ぶのはおっさんくらいで、(その具体的な例が何故か、未来パトロールの工場社員や特命ハンターの野球選手と頭に上がってしまったがそれは一先ず置いとくとして)つまりは俺が言いたいことは、ユイの挑戦心は買うが、「思春期の男子中学生をなめんなよ! 」と気持ちとともに「いいぞもっとやれ! 」だ(錯乱)。

 

 

結論はめっちゃアリです。

 

 

ユイは髪の色のせいか青ビキニの連想されて、小動物てきなエリは健康的な黄色を出して、夏奈は赤かな。

 

煩悩にまみれた頭で水着姿を想像していると、三人の会話が聞こえてくる。

 

 

「あー、よしよしエリ大丈夫だぞ、怖くないぞ。ユイ、エリには少しには早いんじゃないのか?」

 

「えぇー、そうかな? エリはこれくらいしないと性格治らないと思うよ。そ・れ・に、エリのを隠しておくのは惜しいよね」

 

「まあ、それはそうだな。エリは凄いからな」

 

とても聞き逃せない会話に耳を疑った。え、今の詳しく聞かせくれない? 何がすごいの?

 

今すぐにでも問いただしたい気持ちがあったが、いま話に割って入ったら殺されるのが目に見えているので大人しくする。というか、今思ったが隠れもせずに堂々座っている男子生徒の後ろでよくそんな話ができるな。男と思われていないの? それとも本当に気づいてないの?

 

どっちにしても少し傷つくな。

 

若干心に傷を負いながらも「うーん」とうなり声をあげる夏奈。

 

たぶん、強引ではあるが親友であるエリのためを思ってことを察したのだろう。

 

エリは人見知りだから、人と仲良くなるのは苦手なところがあるからな。クラスの女子とはそれなりに仲はいいが、男子とはてんで駄目で目があっただけで泣き出してしまうほどだ。

 

しかし、このままじゃエリ自身の将来のためにもならない。来年はともかくとして、再来年には高校生、すくなとも本土の高校にいくことになりパライソタウンの人間、他校の交流ができてくる。そんな中、エリがうまくやっていけるのか心配だろう。

 

強引でもあるがユイなりにも友達のことを考えている。

 

考えていた夏奈は何かを思いついたような顔をする。

 

「なら、こうしよう。とりあえず、モールにまで水着を選びには行く。けど、決めるのはエリ自身。私とユイはあくまでアドバイスくらいで、最終的にはエリ自身が決める。それでいいか?」

 

「う、うん。それなら…いい。二人と買い物には行きたいから」

 

「うん、なら決定だね! ならモールへレッツゴー!!」

 

夏奈の提案に二人も納得して、カバンをそれぞれ持ち直して教室に出ていこうとする。

 

「十一、なんだお前残っていたいのか」

 

ここで夏奈がようやく俺のことに気づいた。

 

「ああ、ちょっと机の整理をしていてな」

 

「え? 十一君聞いていたの? もう、盗聴は犯罪だよ!!」

 

「いや、聞いていないって」

 

俺はパンパンのバックをみせて、いかにも集中して机の整理していたとアピールをして、今の話は聞いていなかったと装ってごまかす。

 

夏奈は右手を顎を擦りながら俺の方を見つめてくる。

 

「そうか。あ、これから買い物に行くんだが、何を買いに行くか知っているか?」

 

「ハッ、その手には乗らないぜ。俺は話を聞いてないから分からんない」

 

「ということは聞いていたんだな」

 

「・・・・・・」

 

はい、越後なみのバカやらかしました。何に対する引っかけだと思ったんだ俺は?

 

エリが涙目でユイの後ろに隠れて、ユイは微妙な顔をしていて、夏奈は「越後なみにバカだな」と笑っていた。俺は三人に目を逸らしてカバンに手を伸ばす。

 

よし、帰るか。

 

気まずくなりチャチャと逃げることを決めこんで帰ろうとすると、呼び止められる。

 

「まあ待て、十一。折角だしどうだ? お前も来るか?」

 

「え?」

 

まさかのお誘い。ワンチャンスがキマシタ!!

 

すぐに了承しかけるが、「だ、駄目!!!」と遮られる。声の主はエリだった。エリはビクビクと体を震わせながら怯えた声でユイと夏奈に訴える。

 

「だ、駄目だよ。男子と一緒なんて。こ、怖いよ」

 

エリは大粒の涙を目必死で抑えて震えた声で言う。まるで友人が悪魔か何かに魂を捧げるのを止めるかのように、血相を変えて俺が買い物に同行するのを断固として拒絶する。

 

流石にそこまで露骨に拒否られると傷つくんだが。

 

頭を掻きむしりながら俺は夏奈は顔を見合わせるとそれぞれ苦笑いする。まあ、だいたい考えていることは一緒だろう。

 

夏奈はエリをもう一度、頭を撫でてから優しく告げる。

 

「大丈夫だ、エリ。ほんの冗談だ。もし、十一が本当についてくるようなことがあったら、警察に通報してた」

 

え? そこまでされんの? もう少しこう、何かいい手があるんじゃないかな、途中で撒くとか。

 

「あるいは、リコとるりかを呼んでいたところだ」

 

「それだけはマジで勘弁して下さい!!」

 

全力で頭を下げてお願いする。なんならこのまま土下座すらしても構わないくらいだ。

 

確かに別の考えはあったが、それは警察に訴えられるよりも恐ろしいことだった。あの二人を召喚されたら俺、パライソ湾に沈められることが目に見えている。

 

夏奈は少し笑って「ほらな」とエリにいう。エリも安心したようで涙を拭ってほっとする。

 

「……(ま、十一がくればリコも喜んで水着を買いにくるんだろうけどな)」

 

「ん、夏奈ちゃんどうしたの?」

 

「なんでもない。さあ、行こうか。十一くれぐれもついてくるなよ」

 

「本当だよ、ついてきたらストーカーで訴えるから」

 

「分かってるよ。だから、警察には、いや絶対にリコとるりかにはいうなよ!! 絶対だかんな! マジで勘弁してください!!」

 

「……警察よりもリコとるりかちゃんに怒られるのが怖いんだ」

 

ボソッと、エリが囁いたが俺はそれには反応せず、心の中で怒られるのが怖いんじゃくて冗談抜きで殺されます。と言っておく。エリが普段どう見ているのか知らないが、俺に対してあの二人は別のベクトルで攻めてくるもんだから対応に困るんだよ。

 

三人が俺を置いて出ていくと、最後に出ようとしたユイが何か思い出したように「あ、そうだ」とこちらへと振り返ってくる。

 

「明日の練習は今日みたく遅刻してきたら駄目だよ!」

 

「ああ、分かっているよ。九時からだろ? 」

 

確認すると、満足したようにうんうん、頷く。

 

「うん、よろしい。よし、今年の夏は野球にキャンプに水着に色々と盛りだくさんなんだから、頑張っていこうね。ファイト!! オー!!」

 

「お、オー」

 

「じゃ、二人を待たせちゃうからまた明日ね」

 

それだけ告げると教室から去っていくのを見ながら、相変わらず元気な奴だなと思った。

 

 

 

「しかし、ビキニか……。やっぱりキャンプにいこうかな?」

 




十一は煩悩になってしまった。


次回から物語が始動していきます。そして、あの方の無双が始まります!!
乞う、ご期待ください!!


ご愛読ありがとうございました!!
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