「美味しいですねこのパフェ!!!現代の甘味は素晴らしいです!」
目を輝かせてさぞ美味しそうに目の前の抹茶パフェなるものに手を出すセイバー。彼女が生きていた時代には抹茶こそあれどパフェなどあるはずもないからその奇妙で美味なスイーツは新鮮なのだろう。ここまで喜んでもらえると来たかいがあったというものだ。
今嗣音とセイバーは飛んできた世界の街で見つけたカフェにいた。しばらくアパートの一室で話し合ったあと、セイバーが暇だし出かけようと提案したからだ。聖杯戦争が行われているのにそんなに気楽に外に出て良いのか、と疑問に思ったが白昼堂々襲ってくるということもない、と信じたい。彼女の記憶通りなら、魔術師というものは基本的に魔術を秘匿しようとするものだ。あくまで魔術というものは科学技術の影に隠れているものであり表沙汰になると都合が悪いこともあるのだろう。
いきなり見知らぬ世界に来てまったく文化圏も何も違ったらどうしよう、と不安だったが不思議とそうでもない。周囲にはビルやマンションが立ち並び見上げると首が痛い。今二人は屋内ではなく屋外のテラスの四人席に座っているのだが、道には多くの店が並び歩行者の数も多い。もちろん元いた世界と細かな違いはあるものの、高校生の時に修学旅行で行った東京に似ているという印象だ。少なくとも朝からアパートを出て嗣音はそう思った。そして昼頃になり空腹感を感じ適当にこのカフェに入ったというわけだ。割りと繁盛しているらしく店内は混雑している。屋内は空調が整っているため人が多く、仕方ないので少し肌寒いが外のテラスを利用しているところだった。といっても嗣音は今ジャージを来ておりテラスも不快というわけではなかった。(基本的に嗣音は外出もジャージだ)沖田の桃色の着物は目を引いてしまったが問題ないだろう。それにサーヴァントなら寒くはあるまい。ただあまり目立つと嫌なので次回からは何か自分の持っている服を適当に着せようか。
「というか昼間っからパフェってどうなのよ」
「いいじゃないですか、糖分は大事ですよ!」
サーヴァントにも糖分は必要なのだろうか、という疑問を注文したカレーライスと共に飲み込む。幸せそうにパフェを口にする美少女とうめぇうめぇと言いながらカレーを突っつくオタク女子大学生。早速女子力で敗北しているようでなんだか複雑な気分だ。
「そりゃまぁそうだけど。あ、あとで一口くれない?」
「良いですよ~、じゃあ代わりに残ったカレー貰えます?」
そうしてお互いに手元の品を交換する。やはり他人が食べているものは気になるものだ。
この店のカレーは随分とスパイスが効いている。つまり結構辛いのだ。すでにカレーは残すところ四分の一程度だが、ここまで食べるのに水を二杯は飲んでいる。嗣音は辛い物が苦手というわけではないが、やはり辛いものを食べていると自然と甘いものが恋しくなってくる。
交換された抹茶パフェは白子や小豆はなくなっていたが抹茶アイスが若干残っていたのでそれを口に放り込む。瞬間セイバーが美味しいと言っていたのにも納得できた。更に先程までの辛味を打って変わったこの甘さはより美味しく感じられる。セイバーも甘味を食べていたのにカレーを美味しそうに頬張る。
しばらくしてお互いに完食した。カレーもパフェも残飯の欠片もない。
いきなり聖杯戦争に巻き込まれたと知ったときはこの先がとても不安になったものだが、今のところ親しい友人と楽しく街を歩いているような感覚だ。突然現れたサーヴァントとも馬が合い、出会ってすぐなのにすでに友人のような感覚だ。
手元にある食後のソフトドリンク(オレンジジュース)をストローで飲みながら、平和だなぁ・・・とか呆けていた。
「すいません、相席してよろしいですか?」
突然後ろの方から声をかけられた。
はっ、と現実に戻ってきて声の方向を見る。後ろには大人の女性と小学生くらいの男の子が手を繋いでいた。その後周りの席を見渡す。自分たちが外のテラスに来たときには空席はあったが今は更に客が増えたのかどこもかしこも満席だった。幸いここは四人用のテーブルで二人分席が余っている。今まで相席などしたことがないため少しだけ抵抗があるが断るほどの理由もない。
どうぞどうぞ、と席に促そうとした刹那。
ガタン!と勢いよくセイバーが立ち上がり腰に帯びていた刀の柄に手をかけた。先程まで刀は持っていなかったため今の一瞬で剣を実体化させたのだろう。腰を落として構えており、いつでも抜刀できるという、いわゆる臨戦態勢だった。周りからは椅子の大きな音と奇妙な出で立ちで目線が集まっている。
「ちょっとセイバー!?どうしたの!?」
「何用ですか、サーヴァント」
嗣音の質問に答えもせず先程の二人組をセイバーは睨みつけている。
サーヴァント、確かにセイバーはそう言った。目線を慌てて女性と子供の方へと向ける。
彼女の身長と同じくらいある水色の髪が特徴的だった。そしてその髪より少し濃いワンピースを着ている。そして何より目を引くのが彼女の紅の瞳。まるで見ているだけで引き込まれるような―――
そうだ、自分はこのサーヴァントを知っている。自分はFate作品は一通りやっているし「Fate/grandorder」も終章までプレイしている。そして目の前の女性はそれらの作品の中で見たことがある。
そう、彼女の名は■■■■■、■■■の■■で■■■として登場した■■■■で――――
その時嗣音は先程とは別種の驚愕を体験することとなった。思い出せないのだ。確かに目の前の女性は見たことがある。これは間違いない。その確信はあるのに彼女に関する記憶が一切思い出せない。近いところまで思い出せそうであと一歩で霞がかったようにぼやけてしまう。
「ママー、あの人達、ママのともだちなの?」
すると次に目の前の女性と手を繋いでいた少年が口を開いた。少年自体には特に変わった様子はない。帽子をかぶり、可愛らしいキャラクターがプリントされたTシャツに長ズボンを履いている。
しかし聞き捨てならないのは、その少年は手を繋いでいるサーヴァントを「ママ」と呼んだのだ。
嗣音は思い出せないことを一旦頭の隅に追いやり、彼女たちを、主に手を繋いでいる部分を見た。案の定少年の手には三つの赤い聖痕、聖杯戦争に参加しているマスターの証である令呪が刻まれていた。
「ええ、ちょっとした知り合いみたいなものかしら」
少年の疑問に、ママと呼ばれたサーヴァントは笑顔で答える。もちろん知り合いではないし今初めて出会ったのだが。
しかし確実なのは、今ここには聖杯を求めて争うマスターが二人、そしてそのサーヴァントも随伴している。つまりいつここで殺し合いに発展してもまるで不思議ではない。
セイバーは今にも抜刀しそうな勢いだ。恐らく嗣音が命ずればすぐにでも攻撃を仕掛けるだろう。そして自分も謎の女性のサーヴァントに警戒せざるを得ない。もちろんこの場には他の人間も大勢いるし出来る限り戦闘は避けたい。何とかしてここでの戦闘は回避できないか、と考えていると、目の前のサーヴァントが予想外の台詞を放った。
「あら、ごめんなさい。貴方達と戦うつもりではなかったんです。ただ席が貴方達のスペースにしか空いていなかったもので」
戦うつもりはなかった、という想定していなかった言葉に嗣音は戸惑った。嘘をついているようにも見えない。彼女は謝る時に本当に悪そうに頭を下げてきたのだ。自分が素直すぎるだけかもしれないがどうにもこのサーヴァントが悪い人には見えなかった。
少しだが緊張の糸が緩む。ひとまずここで周りを巻き込んで殺し合いという最悪のケースを回避することはできた。ところが自分のセイバーは未だ警戒を解こうとはしない。突然サーヴァントが現れたのだから当然の反応なのだが、とりあえず今は我慢するように頼んだ。
「申し遅れました。私はサーヴァント、クラスはバーサーカーです。そしてこちらは私のマスターで息子の黒碕薫と言います。どうぞよろしくお願いしますね」
穏やかな様子で自分とマスターの紹介をする。やはり一緒にいた子供がマスターで間違いがないようだ。しかしマスターが息子とはどういうことだろうか?
「それで、席、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
どうやら本当に相席をするのが最初からの目的だったようだ。油断したところを狙って攻撃される、ということもあるまい。万が一そういうことがあれば高い敏捷を誇るセイバーが先に相手を倒すだろう。それに何かしらの有益な話ができるかもしれない。
そして未だ警戒を解き切れていないセイバーと共に四人でテーブルを囲んだ。
「よろしくね、おねーちゃん!」
席に座る際にバーサーカーが連れていた子供がこっちに挨拶をしてきた。まったく悪意の欠片もなく純粋にこちらを信用している。子供は嘘をつかないものだ。
嗣音にはだいぶ年が離れた弟がいる。大学に進学する際に一人暮らしを始めたため一緒に住んでいた時間はそう長くはなかったが、一時期は弟の世話をしたものだった。そのためお姉ちゃんと呼ばれるのは初めてではなかったが、そう言われると不思議と心が暖かくなった。隣のセイバーはお姉ちゃんと呼ばれて案外嬉しそうにニヤニヤしていた。
先程まで何事かとこっちを見ていた周囲の客たちも再び自分の世界に入り込んでいる。喧嘩か何か起きればとりあえずそっちのほうは見るが余計な干渉はしない。そして終われば何事もなかったかのように各々の元の行動に移る。すごく人間らしい行動だし、むしろ余計なことをされなくてよかったと思う。
バーサーカーはやって来たスタッフに対してお子様ランチを注文した。当然マスターである黒崎のためだろう。しかしバーサーカーの分は何も注文していないのだが何も食べないのだろうか。
くだらない世間話を交わしていると割とすぐにお子様ランチがやって来た。黒崎は嬉しそうに小さなフォークでハンバーグを口に入れている。
するとバーサーカーが思い出したかのように口を開いた。
「そうそう、そこのマスターさんと二人でお話したいことがあるんですが、少しの間お借りしてもよろしいですか?」
「だ、駄目に決まっているじゃないですか!マスターがサーヴァントも連れずに他のサーヴァントと一対一で話すなんて危険にもほどがあります!」
「まぁセイバー、何か大事な話みたいだし私は行くよ」
「嗣音さん、でもですね!」
「大丈夫、この人に限ってそんなことはないよ」
普通であれば敵サーヴァントと二人になるなど正気ではない。相手の真名は思い出せないままだが、どんなサーヴァントであれ人間一人殺すことなど造作も無いからだ。恐らくそれは書くことしかできない作家のキャスターなどでも同じことが言えるだろう。
あと口にこそ出さなかったが二人で話したい、という以上このテーブルに彼女のマスターである黒碕薫は残るだろう。言うなればお互いに人質を取っているようなものだ。万が一バーサーカーが嗣音に手を出せば、セイバーも迷わず彼女のマスターを切ることになる。そのリスクを払ってでも話したいことがあるとは、よほど重要なこと、それもマスターの耳に入れたくないほどのことに違いあるまい。
「ありがとうございます。では・・・そうですね。申し訳ないですが一旦外までよろしいですか?あとセイバーさんにはその子のお世話をして貰いたいのですが・・・」
「なっ、何で私がそんなことを!?」
「まぁまぁセイバー。ここは私からもお願い」
「お姉ちゃん、一緒に遊ぼ!」
意図せず三方向から攻められることになったセイバーは、しかしお姉ちゃんという呼称が気に入ったのか満更でもないといった雰囲気で引受け、嗣音とバーサーカーは席を立った。
嗣音とバーサーカーは店を出てすぐの裏路地にいた。店を出る時に会計を済ませていないのに外に出るのはまずいと思い払おうとするとバーサーカーが話を聞いてくれるお礼に、とこちらの代金まで支払うと言った。流石に申し訳ないと断ろうとしたが彼女がぜひ払わせてほしい、と引かなかったので素直に善意に甘えることにした。店を出て案内されるままに人気のない裏の方に案内されそのまま歩いてきたところだ。
ひょっとして人が見てないところでやっぱり私を殺そうとしてるのか、とほんの少し不安になったが、彼女は先ほどと変わらない様子で話した。
「突然付いてきてもらって本当にごめんなさいね」
「大丈夫ですよ。それで話っていうのは?」
嗣音が話を促す。周囲の人、更にバーサーカーがマスターとセイバーにさえ話したくない事だ。少なくとも重要な話であることに間違いはあるまい。
するとバーサーカーから笑顔が消え決まりが悪そうな顔になる。言うのに迷っているのか、あるいは言いづらいのか。しばらくして彼女は口を切った。
「実は、この聖杯戦争で私達を攻撃しないでほしいのです」
それは嗣音が思ってもみなかった頼みだった。聖杯戦争は聖杯をめぐる七人のマスターとそのサーヴァントの戦い。それならばマスター同士は基本的に敵対するのが常識、たとえ一時的な協力関係があったとしても最終的には争うことになるだろう。それを拒むとは、よほど戦闘に向かないサーヴァントなのか、あるいは他に理由があるのだろうか。
「理由を聞いてもいいですか?」
「理由はいくつかあるんです。一つはもし戦闘になったら私が力を抑えることができずに暴走してしまうかもしれないんです。なので私はできるだけ戦いたくない・・・」
顔に影を落とし呟くように話すバーサーカー。嗣音はマスターなのでバーサーカーの力が大雑把ながら見ることができる。今の段階では力を抑えているのかそう強い能力の持ち主には見えない。しかし嗣音はどこかでこのサーヴァントを見たことがある。朧げな記憶だが、このサーヴァントはとても危険なような、そんな気がするのだ。
「でも一番大きな理由は、あの子、薫を戦わせたくないんです」
「薫、貴方のマスターの?」
彼女は首を縦に振る。
「もちろんあの子は私の子ではなく、あの子が私を呼び寄せたんです」
サーヴァントがマスターを選択しこの世界に連れてくる。どうやらセイバーが言っていたことは事実で、他のマスターにも当てはまることのようだ。
「あの子は優秀な魔術師を両親に持つ、いわゆるサラブレッドでした。しかし不幸にも、その時あの子には魔術回路が備わらなかったんです」
魔術回路、それは魔術師にとって必須とも呼べるものだ。魔力を電気とすれば魔術回路は発電機、魔術回路がなければ魔術は使えない。もちろん魔術師の息子にとってそれはあまりに致命的だ。
「魔術回路が隆起しなかった薫は、両親に虐待を受けました。それもただの肉体的な暴力ではありません。酷いときには魔術の実験体としてゴミのように扱われた事もあったようなんです」
「ちょっと待ってください、でもあの子は貴女を現界させているじゃないですか。それで魔術回路がないっていうのは・・・」
「そう、実際のところ彼は魔術回路がなかったわけではなく、単に以前の家庭では出てこなかっただけなんです」
魔術回路は何も生まれた時から自由自在に使えるわけではない。最初はスイッチがオフになっているため、修行などのきっかけを通してオンにしなければならないのだ。一旦スイッチをオンにすることができればその後は自由自在に魔術回路を操ることができるのだが、もしオンにできなければ優れた魔術回路を持っていても無意味だ。
「理由はわかりません。ただ彼の両親は徹底的に魔術回路を使わせるための訓練をさせました。それで出てこなかったから彼を見限った。魔術師という生き物はそういうものなんでしょうね。魔術が最優先で自分の子にすら愛情を注げないほどの・・・」
バーサーカーの握っている手に力が入る。表情は大きく変わらないものの、わずかに悔しさ、やりきれない気持ちが滲み出ているようだ。
子供というのは弱い生き物だ。だから親が守ってあげなければならない。その親が子供を攻撃するなど残酷なことだ、と嗣音も思う。嗣音の家庭は両親ともに優しく虐待とは無縁の家だったが、テレビなどでそういうニュースなどを見るたびにかわいそうと思っていた。
「そんなある日、私があの子の慟哭を聞いたんです。助けてほしい、という声を。誰かに愛されたい、と願う心を。だから私はあの子のサーヴァントとしてここに来ました。だから出来る限りあの子には戦わせたくないんです。私はバーサーカーとしてでもサーヴァントとしてでもなく、一人の母としてあの子に愛情を捧げたいんです」
―――だって、あの子は誰にも愛されたことがないんだから。
彼女は最後にそう言った。
彼女の気持ちは本物だ。本当にあの子を大切に思っているし愛したいと思っているのだろう。それくらい彼女の言葉には熱がこもっていた。
「だから、私は聖杯戦争で戦いたくない。聖杯にかける望みなんてありません。あるとすればあの子と共にいることだけです。どうかお願いできないでしょうか」
「わかりました」
彼女の提案を何の逡巡なく受け入れた。そんな事情を聞かされて敵と認識できるほど嗣音は冷酷ではなかった。バーサーカーは掛け値なしに母親であろうとしているのだ。彼女が何者であるかは未だ思い出せないがさぞ歴史に名を残す慈愛の深い母親であったに違いあるまい。
すると彼女は顔を輝かせて近づき、嗣音を抱きしめた。
「ちょっ、わっ!」
「ありがとうございます・・・!」
彼女は心底嬉しそうに腰に回した手に力を入れる。もっともサーヴァントなのだから本当に力を入れられたら嗣音など潰されてしまうだろうが、この手の力は不思議と心地良かった。
だがそれよりも遥かに重要な事があった。嗣音の顔は今とてつもなく柔らかい感触に包み込まれている、つまり。
「バーサーカーさん!ちょっ、胸、胸が!」
と言いたかったが胸に挟まれ上手く発音できない。
嗣音の身長が低いわけではないのだが、このバーサーカーは背丈が高くまるでモデルのようだ。その為彼女に抱きしめられるとその豊満なバストがちょうど自分の頭と同じくらいの高さだ。
柔らかい。ふわふわのマシュマロのような、張っていない水風船のような、なんとも言えない絶妙な大きさ、滑らかさ。包まれているだけで何かもどうでもよくなってしまう心地よさ。もし自分が男だったら即刻堕ちていただろう。更に彼女から漂う花の香り、彼女の母性、幼き日に母親から抱きしめられたのが思い出される。とてつもない幸福感だ。男じゃなくて良かった、とかそういうレベルではなく、人間であれば誰もが堕ちそうだ。
「あら、ごめんなさい!つい嬉しくなっちゃって、怪我はないですか?」
慌ててバーサーカーが抱きついていたのを離した。
大丈夫です、むしろごちそうさまでした。
と言ってしまいそうになった口を慌てて抑える。心の片隅に、もう少しあの状態でいればよかった、と言う声があるあたりこの女性は自覚なき魔性の女なのではないかと思った。なんだか自分の平らな胸が急に情けなくなってきた。それに彼女の慈愛の深さはまさに大海のようだ。自分はまだ大学生だが成長したらこうなれるだろうか・・・?
―――精進しよう
とよくわからない決意をそっと胸の中で固めた嗣音だった。
「じゃあ、ぜひあの子を守ってあげてくださいね。貴方のマスターがこれからも元気に生きられるように」
とりあえず彼女から体を離し何気なくそう言った。本当に何気なく言ったつもりだったのだが。
彼女はその発言を聞くと表情に影を落とした。暗い顔のまま顔を俯かせてしまう。まるで何かに悲しんでいるかのように。
「あの、すいません。何か癇に障ってしまいましたか?」
何か地雷を踏んでしまったのかもしれない。慌てて謝罪し取り繕おうとする。怒っている様子ではないためこちらが攻撃されることはないだろうがいきなり不安になると心配にもなる。
「はっ、ごめんなさいね。何でもないんです。どうかお気になさらず」
そう言ってバーサーカーは慌てて顔を上げた。笑顔を取り繕おうとしているが、どこか無理をしているような表情だった。
事情を訪ねようかとも思ったが、彼女の表情はこれ以上の質問を拒んでいるような気がした。嗣音は胸の微かなわだかまりを引っ込めることにした。