嗣音とセイバーは夕日で照らされた都会の街を歩いていた。スーツや制服を着ている人が帰宅しようと中々の賑わいとなっている。また家族連れが買い物をしたり若者同士が遊んでいたりと嗣音にとっては珍しい都会の人口密度であった。田舎の方ではこう言った光景は早々見られまい。
「いや~今日は楽しかったですね!都会の街というのもなかなかどうして良い物じゃないですか!」
「そうだね、こうやって遊んだのも久々な気がするよ」
セイバーは大きめの紙袋(結構高いケーキ)を片手にご機嫌そうだ。嗣音としても中々楽しかったので素直に同意しておく。
昼にバーサーカー達との出会いは何ら不穏な出来事をもたらさなかった。嗣音が彼女の提案を承諾すると彼女は心から喜んだし、その後もしばらく世間話をしたものだ。まるで聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントとしてではなく、話していると安心する大人の女性という感じのようだった。彼女は基本的には中立の立場を取り、どの陣営とも協力も敵対もしないそうだが、もし何か困ったことがあれば可能な範囲でお手伝いします、との事だった。彼女のマスターである子供、黒崎薫の事を考えると、ぜひ彼女にはマスターを守ってほしいものだ。彼女の最後の暗い表情は気になったが彼女にも彼女なりの事情があるのだろう。あまり第三者が干渉するところではないと思う。
ちなみに嗣音とバーサーカーが二人でテーブルに戻ると、黒崎とセイバーが二人で楽しそうに手遊びをしていた。セイバーは笑顔でやっていたし、バーサーカーのマスターもとても楽しそうだった。セイバーが嗣音達が戻ってきたのを見かけると
「いやっ、こ、これは仲良くしてたとかそういうわけではなくてですね!」
と恥ずかしさからか言い繕おうとしていた。嗣音とバーサーカーで思わず笑ってしまったのは不可抗力というものだった。
その後カフェでお互いに別れて夕方になるまでとりあえず遊ぶことにした。幸い都会だけあって見て回るのに困りはしない。道を歩けば様々な娯楽施設、大型ショッピングセンター、果ては何やら怪しげな店まで愉快な場所については枚挙に暇がない。田舎の方に住んでいる嗣音にとっても珍しいことこの上なかったのでやはり気分が高揚した。ゲームセンターでリズムに合わせて踊ったり格闘ゲームをしたり、大きなビルに入って中の色々な飲食店や衣類の店を物色して回った。移動中に裏路地に冒険感覚で行ってみると、どう見てもいかがわしい店があったりして顔を真赤にして退散したりもした。大学生の嗣音は時間がある方だが、こうして時間を有意義に過ごしたのは本当に久しぶりな気がする。まるで気の知れる友人と二人で旅行にでも来ているようだと感じていた。
「それじゃそろそろ帰りましょうか」
沖田が嗣音に声をかけてきた。嗣音は左手首にある黒い腕時計を見た。気がつけばもう六時になっていた。街を照らす夕日も沈みつつある。朝からアパートの一室を出て本当に圧倒いう間だった気がする。やはり楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまうものだ。
「うん、じゃあ帰ろうか。道案内よろしくね」
「了解しました!それじゃとりあえず駅まで行きましょうか」
快くセイバーは承諾し再び歩き始めた。見たことのない街だから嗣音一人では間違いなく迷子になってしまうだろうが、サーヴァントであるセイバーは街の地図も頭に入っているらしい。聖杯戦争のために作られた街なのだから、聖杯が場所を教えていても当然だと言える。
二人で歩きながら嗣音は周りの風景を見ていた。元気に走っている子どもたち、道路を走る多くの四輪車、ご機嫌そうに道を歩くカップル、少しくたびれた様子で仲間と話すサラリーマン、他にも多くの要素でこの街は賑わっている。例えこの街が聖杯に作られた街でも、この人達の心は本物なのだろう。そう考えると少し切なくなる。恐らく聖杯戦争が終わればこの街は消えてしまうのだから。
「あのさ、セイバー。なんだか夢みたいだね」
「夢?何でですか?」
「だって、聖杯に作られた街に飛んできたわけだけど、ここにいる人達はみんな楽しそうだし、私達だってたくさん遊んだし。本当は聖杯戦争なんてなくて、私は夢でも見てるんじゃないかって思ったんだ」
本当に夢物語のように感じる。あまりに非現実的すぎて、目を覚ましたらまたいつもの部屋で目を覚ましそうだ。
すると沖田が立ち止まってこちらの顔に手を伸ばしてきた。そして親指と人差し指で頬をつまむと思いっきり捻ってきた。
「セイバー!?ちょっ痛い痛い!」
もちろん本気でやったら顔など一瞬でちぎれるのだろうがそれでもかなり痛かった。
するとセイバーはすぐに手を話した。
「ね、夢じゃないでしょ?」
「・・・そうだね」
どうやら夢のようだ、と言ったからつねったらしい。とても古典的だし多分夢の中でつねられても夢からは醒めないと思うのだがそれは野暮というものだろう。少なくともこれが夢じゃなく現実なのだとは自覚できたのだから。
―――急に体の中を何かが通り抜けていった。もちろん物理的にではなく感覚的にだ。これを言葉で表すなら悪寒だろう。なにかとても嫌な感覚を覚える。
セイバーも感じたようで先程の笑顔から一転、サーヴァントとしての厳しい顔になっている。
「マスター」
「・・・うん、感じた間違いなくサーヴァントの気配だ」
彼女は半ば感覚的にそれを理解した。セイバーと同じ英霊の気、蘇った伝説が放つ独特のオーラ。それを確かに感じ取ったのだ。
「随分と尖った気ですね。まるでこちらを誘き寄せているかのようです」
確かにこの気配は少なくとも穏健な気ではない。とてつもなく攻撃的でこちらを挑発しているかのようだ。更にその瘴気はとても範囲が広く誘っているのは明白と言える。
どうしますか、とセイバーがこちらに目をやる。彼女は静かにこちらの判断を待っている。どちらを選んでも彼女は言うとおりにするだろう。
―――どうする
相手がどの程度のサーヴァントかはわからない。しかし相手を挑発するほどの力量を持っているのは確かだ。それにわざわざ誘うということは、その場所に行けばまんまと釣られてしまうことになり、相手の有利な条件で戦うことになるかもしれない。やはりこれは罠だと考えるほうが妥当だろう。
しかしいずれは戦わなくてはならない。元の世界に戻るには他のサーヴァントを全員倒さないといけないのだから。逃げていてはいつまで経っても前には進めない。ならば戦うしかない。
「行こう」
嗣音ははっきりとそう決断した。
―――あの業火の中貴方は逝ってしまわれた
私が愛した貴方は死んだ
自ら放ったあの炎の中で焼け落ちた
私が貴方を追い詰めた時、貴方はこう言った
―――是非もなし、と
貴方は一度だって私を愛してくれなかった
貴方は一度だって真剣に見てくださらなかった
貴方が見ているのは戦乱の世だけだった
私は貴方をこんなに愛しているのに
私は貴方にこんなに恋しているのに
―――だから私は叛逆した
そうすれば、私だけを見てくれる
貴方の心は私だけを「見ざるを得ない」から
たとえそれが憎悪の混じったものでも、軽蔑でも非難でも侮蔑でも抗議でも憎悪でも何でも良かった
――――それでも貴方は心から私を見なかった
謀反を起こし、対峙した私を貴方はただただ無関心だった
許せない、何の興味も抱いてくれない貴方が
許せない、私を見もしてくれなかった貴方が
許せない、何もなく焼け死んでいった貴方が
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない
―――わが愛は炎で燃え尽きるものに非ず、貴方に捧げる総てなれば
嗣音たちがやってきたのは町外れの屋敷だった。屋敷と言っても外から見たらボロボロで人目でもう誰も住んでいないことがわかる。誰か住んでいたときはそれなりに豪華だったのか、ボロ屋敷の前には広い庭がある。今は手入れもされておらず草が生え噴水も止まってしまっている。敷地の入り口には大きく売地と書いてあった。もう日が落ちかけ辺りは暗くなってしまっているからともすればお化け屋敷のようだった。町外れの廃墟ともなればさぞ恐怖スポットとしては適しているだろう。
先程感じた気配は間違いなくこの敷地の中から放たれている。ということはこの売地の領域の中は敵サーヴァントのテリトリーと言っても過言ではない。思わず嗣音の肌から汗が滲み出る。しかしいつまでもここで止まっているわけにもいかない。
「行こうか」
そう言って嗣音は敷地への門を潜った。後ろにセイバーもついてくる。屋敷は見れば見るほど廃墟だった。幽霊が住み着いている、と言われても信じてしまうほどの不気味さだ。所々雑草が生えている石畳を歩く。ここにいるサーヴァントがどれほどの者かはわからないが、できればあまり強くない方がいいな・・・と考えていると
「ほう、このまま誰も来ずに終わるかと思っておったが、なかなかどうして勇ましき者もおったものじゃ」
突然前方から声が聞こえた。慌てて止まって後ろへと数歩下がる。沖田は既に刀に手をかけている。見たところ目の前には誰もいない。
すると目の前の何もなかった場所がねじ曲がる。何もいないと思われた空間には一人の少女が立っていた。どうやら先程の声の主は目の前の少女のようだ。
「貴方が先刻の気の主ですか。辺り構わず挑発とは随分と自信があるようですね」
セイバーが眉一つ動かさないで問いかける。嗣音にも理解できた。この少女こそがサーヴァントで先程の攻撃的な気の発生源だと。さらに言えば嗣音にはこの少女がどうしても見た目通りの存在には見えない。背は低いが目の前の軍服の彼女は人の皮を被った悪魔のようにも感じられる。
「如何にも。お主のクラスはセイバーで間違いないか?そして其処の女がマスターか」
「はい」
短く首肯するセイバー。続けて嗣音も首を縦に振る。
「よい。なら名乗っておこう。わしはアーチャー。真名は第六天魔王、織田信長じゃ!」
「えっ・・・?」
「なっ、貴方正気ですか!?」
はっきりと高らかに声に出した。セイバーは慌てて聞き返した。嗣音とて一瞬何を言っているのかわからなかった。そして数秒遅れて理解した。彼女は自分の真名を堂々と明かしたのだと。
サーヴァントにとって真名とは最も秘匿しなければならないものだ。真名を知られるということはその英霊の逸話に基づく弱点を相手に知られることになるからだ。毒で死んだ英霊なら毒に弱く、火で死んだ英霊なら火に弱い。また英霊にはとてつもない防御力を誇る者もいるが、特定の部位のみそういう属性がない事が多い。そう言った英霊は何としても真名の露呈は防がねばならないのだ。
そして彼女の名乗った真名、織田信長は日本ではおよそ知らぬ者はいまい。戦国時代に天下統一の事業を押し進め、志半ばで家臣の謀反により自害した戦国大名。後に彼の部下であった豊臣秀吉が天下統一を成し遂げたが、恐らく天下統一は織田信長なくして成立しなかったであろう。
やはり見たことがある、と嗣音は思う。Fate作品に織田信長は何らかの形で登場している。しかし思い出せない。ひょっとすると沖田以外に関してはFateの記憶がはっきりとは思い出せなくなっているのかもしれない。
しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。今はサーヴァント同士が向かい合っている状態。いつ戦闘が始まっても不思議ではない。
織田信長は両手で地に立たせていた刀を右手で持ち直す。いつでも戦えると合図しているかのようだ。
「まさか最初に戦う英霊が同じ日の本の侍とはのう。わしはアーチャーだが刀を使うのも吝かではない。ここは尋常に一騎打ちとでも洒落込むとするかな」
「尋常に一騎打ち、と言いながら自分のテリトリーに誘い出すのはどうかと思いますが」
「お節ごもっともじゃな。じゃが安心せい、ここには罠、魔術、お主が不利になるものもわしが有利になるものも一切ない」
「ならなぜここに呼んだんです?」
「なに、せっかくなら一対一で殺し合いたかったものでな。それに策を練るのは軍師の役目じゃ。あいにくわしのマスターは引き篭もりでな。外に出る様子がまるでないのじゃ」
会話しながらもお互いの手の内を漁っていく。セイバーはひどく冷静に、アーチャーはそれよりは感情的に自分のことを話している。アーチャーの言を信じるならどうやら罠も相手マスターもここにはいないようだ。ならここで戦うのは絶好の機会ではないだろうか。
「さて、無駄話もこの辺にして始めるとするか」
「ええ。マスター、危険ですので下がっていてください」
「・・・うん、わかった。がんばって」
セイバーがこちらを見て指示を出す。サーヴァント同士の戦いに巻き込まれて只の人間が無事でいられるはずもない。素直に巻き込まれないところまで後退する。
気がつけばかなり世界は薄暗くなっていた。温度も下がり徐々に寒くなっていっている。しかし嗣音が今震えているのはそれだけが理由ではない。これから起こる殺し合いに震えているのだ。
セイバーとアーチャー。両者が睨み合っている。セイバーは日本刀を両手で右耳の辺りで持つ構え、アーチャーは右手で無造作に刀を持つ構えだ。剣での勝負ならセイバーが有利だろうが、アーチャーに何も狙いがないとも考えにくい。
静寂が場を包む。嗣音はその光景を固唾を呑んで見守る。西部劇のガンマンの打ち合いを彷彿とさせる光景だった。
戦いの火蓋が切られたのは唐突だった。初めにセイバーが動く。僅かに膝を落とすとその場から姿を消す。アーチャーが目を見開く。次の瞬間にはアーチャーの真後ろを取っていた。沖田総司のスキル、縮地だ。移動する際に道中をカットしてあたかも転移したかのように動く。そのスキルは沖田総司の敏捷の高さの賜物であり高速移動を超えて位置を変える。
セイバーがそのまま右手で背を狙って渾身の突きを放つ。もちろんそれを黙って受けるアーチャーではない。即座に体を反転しセイバーの突きを刀でいなす。
次にアーチャーもセイバーの胸に突きを繰り出す。セイバーは体勢を立て直し後退した。
しかし逃すまいとアーチャーが追撃する。アーチャーは自信の獲物を大きく上に振り上げ思い切りセイバーに叩きつけようとしている。セイバーはとっさに刀を上段で横にして来るであろう衝撃に備える。
「阿呆め」
アーチャーはそう呟いて口元を大きく歪ませた。彼女は何も剣しか獲物がなかったのではない。右手の剣は武装の一部にすぎない。むしろ彼女が左手に持つものこそ彼女をアーチャーたらしめる所以でもある。
彼女は左手に実体化させた火縄銃の銃口をセイバーに向ける。三発連続での発射。剣での攻撃に気を取られていたセイバーは胸と腕に二発受けてしまった。
「くっ!」
「セイバー!」
たまらず嗣音が声を上げる。だがやられたままで終わるセイバーではない。アーチャーが射撃した後セイバーが上段の刀を滑らせ、銃使いの脇腹を斬る。しかし無理な姿勢で切ったため決して深くはなかった。
「ちいっ!」
アーチャーも一旦後ろへと引く。セイバーも刀を持ち直す。
油断した、とセイバーは思った。
アーチャークラスである信長がセイバーと剣だけで戦うなどと無理がある。当然別の武装があるだろうとは思っていたが剣と銃を同時に使う戦法とは思わなかった。
アーチャーが使っている銃は見た目こそ時代錯誤なマスケット銃だがもちろん当時と同じ性能ではない。火縄銃なら一発撃ってから次発までかなりの時間が掛かるが、先刻アーチャーは火縄銃で三発連続の射撃を行った。つまり彼女の火縄銃はリロード無しで無限に撃てると見ていいだろう。もちろん厄介だが、対処できないわけではない。先程は不意を打たれたが銃を使うとわかったならばそれを見て対処すれば良いだけだ。
流石じゃ、とアーチャーは思った。
当然先程の攻撃で仕留められるとは思っていなかったがあそこまで回避されるとは思っていなかった。剣だけでセイバーと戦えば当然こちらが劣るだろう。
セイバーがどれほどの剣豪かは知らないが、少なくともアーチャーは別に剣の腕がそこまで秀でているわけではないからだ。そこで剣をブラフにし、銃で霊核がある心臓を狙った。サーヴァント相手に銃を撃っても大したダメージにならないことが多いが、それでも急所を突かれたなら話は別だ。
サーヴァントの弱点は主に頭か心臓にある。もとは人間なのだから当然だ。そこで確実に信長は三発心臓を移動されることを計算して撃ち込んだ。しかし彼女は予想より早く動き僅かに肩と腕に当たってだけに留まった。やはり一筋縄ではいかないようだ。
次に動いたのはセイバーだった。
縮地で距離を詰め胸を斜め上から切ろうとする。それをアーチャーは左手の火縄銃の銃身で受け止める。そしてアーチャーは右手の剣でセイバーの横腹を切った。
その後アーチャーはバックステップして距離を取ろうとする。それを隙と判断しセイバーは傷を無視して剣で突きを狙おうとする。後方に跳ねたアーチャーは地面に足をつけておらず自由に動くことはできない。
―――貰った!そう確信する。
しかしまたもやセイバーの予想外の出来事が起こった。セイバーがアーチャーへと肉薄する中、空中から彼女の左手にあるはずの火縄銃が突如アーチャーの頭上に現れこちらに発砲してきた。足元に着弾する銃弾を避けるため足を止め一旦後ろに下がる。
「甘いのう人斬りよ。銃は手がないと使えぬものではないぞ?」
こちらを振り返りアーチャーが嘲笑う。相変わらずアーチャーの左手には銃が握られている。しかし彼女の背後には左手のそれと全く同じ物が一丁浮かんでいる。どうやら先程の攻撃は背後の浮かんでいるものから来たようだ。セイバーが先程傷を受けた横腹を軽く手で抑える。幸い魔力が回っているためしばらくすれば傷は塞がる。この程度サーヴァントにとってはかすり傷みたいなものだ。再び刀を構え直す。
「ちっ、一体何本銃が出てくるんです?アーチャー」
「さてな、一か二か、十か百か。試してみるか?剣豪」
言葉を交わす間も沖田の回復が進む。恐らくセイバーが信長に与えたダメージはとっくに回復されているであろう。アーチャーがそんなに多く銃を同時展開できるとは思えない。セイバーの推測では通常時なら最大で五本が限度だろう。しかし彼女の宝具次第ではそうとも断じきれない。
今のところ彼女の銃には特別な効果はないように思われる。受けてみても普通の銃と威力は大差ない。なら多少のダメージは視野に入れて攻撃を仕掛けるのが良策であろう。
「さて、それでは次はこちらの番じゃな」
そう宣告し、アーチャーは右手の剣を消した。次の瞬間には三丁目の銃が
右の手に握られていた。剣を捨てて二丁の銃で攻めてくるようだ。セイバー相手に剣の間合いに入れず中距離からの銃撃は効果的だろう。
「さあ、耐えてみよ、セイバー」
嗣音から見ると、二人の戦いはひたすらに圧倒的だった。ただの人間にすぎない嗣音からすれば、目の前の光景はまるで理解できていない。太刀を交わし、銃声が鳴る。人知を超えた高速の戦い、とても目で捕捉できるものではない。
―――これがサーヴァントの戦い
Fate作品でサーヴァント同士の戦いとは日常茶飯事であったが、やはり実際に見るのではまるで印象が違う。一歩でも踏み入ったら死は免れない掛け値なしの戦場。それだけの真実の殺し合いがそこにはあった。
しかしあくまで客観的に戦いを見ると、今のところアーチャーが若干ながら有利に見える。セイバーの獲物は両手に持つ日本刀が一振り、対してアーチャーは刀に加えて今両手に握っている火縄銃二丁、更に空間から突然出現するそれがもう一本あるのだ。アーチャーはそれを巧みに用いてセイバーを押している。それが決定打とはなっていないものの、剣のみを使うセイバーにとって連続で打たれる銃は厄介であろう。
思わず足が震える。目の前で死闘を繰り広げている恐怖、セイバーが負けてしまうかもしれないという不安、自分も死んでしまうのではないかという危惧、様々な感情が内心渦巻く。
気がつけば両手を強く握りしめていた。嗣音は自分の右手を見る。そこには確かに三画の令呪が刻まれている。マスターの証、セイバーのマスターであるという証明がそこには健在だ。そう考えると少しだけ緊張が解けた。この令呪がある限り、私はセイバーと共に戦えると。
二丁の銃を用いてアーチャーは雨あられのようにセイバーに銃弾を打ち込んでいた。現代の銃器と比べると決して一弾ごとの速度は早くないものの、やはり数が圧倒的だ。弾を装填する必要もなく無限に出てくる銃弾。これでは火縄銃というより機関銃を相手にしているかのようだ。
だがそれで倒されるようではセイバー失格だ。セイバーは銃弾を躱し、刀で弾き、あるいは時々当たりながらアーチャーに近づく。
アーチャーへの距離は近いようでとてつもなく遠いが、確実に前進していく。
そしてアーチャーの目前へと肉薄した。
セイバーはアーチャーを仕留めるべく全力で剣を振り下ろす。アーチャーは即座に右手の銃を剣へと換装、上段からの剣を下から受け止める。互いの力が拮抗しそのまま鍔迫り合いの構えとなった。
このままの姿勢では再び空中からの銃に狙われる、そう察したセイバーは思い切り剣に力を入れアーチャーの剣と激突させる。金属と金属がぶつかる小気味よい音が鳴る。全力でぶつけてきたセイバーの剣の重みに耐えられずアーチャーの姿勢が僅かに崩れる。
ここで決める、と言わんばかりに二撃目の剣戟を振るう。しかしまたもやセイバーの思惑通りにいかなかった。刀でアーチャーの心臓を狙ったセイバーに左右の二方向から連続して銃弾が飛んでくる。
敏捷を活かして膝を落とし身体を動かして躱す。退いたセイバーに向かってアーチャー自身が持っていた左手の銃がこちらに向かって吼える。しかし迫る銃弾をセイバーは剣で両断した。
改めてアーチャーの方を見ると彼女の背後には二丁のマスケット銃が浮かんでいる。更に再び換装したのか両手には二丁の同じもの。計四丁の銃を同時に操っている。
「さすがじゃのうセイバー。最優のセイバーのクラスは伊達ではないと見える」
アーチャーは未だ余裕そうにセイバーに声をかける。実際セイバーが最初に与えた一撃からまるで相手に有効なダメージが与えられていない。近づいても銃と剣を交互に使う戦法で上手く有効打を決められない。
しかしいつまでも押されているわけにもいかない。いくら銃弾の一発が小さなダメージとはいえ塵も積もれば山となる。少しずつ消耗してしまうのは言うまでもない。ならば多少のダメージを覚悟の上で次の一撃で決める。
―――マスター。提案があります。どうか、宝具の開帳をお許し頂きたい。
念話でマスターに声をかける。サーヴァントの最大の武器である宝具を介抱するために。
宝具とはその英霊が生きた伝説の象徴。まさに物質化した奇跡。剣、弓、槍などの武器を宝具とする英霊がいれば、防具や装飾品、あるいは能力が宝具という英霊もいる。いずれにせよ宝具とはその人物を象徴するものであり、真名を詠唱する真名詠唱によってその真価を発揮する。
故に宝具とは他の武装とは違い圧倒的な力を有するものであり、逆に言えば真名を開放しなければならないため、万一宝具で敵を仕留めきれなければ相手に真名を露呈することになってしまう。
しかしセイバーは己の宝具ならば確実に目の前の銃を使う弓兵を仕留めきれると確信していた。剣を振っても回避されるなら回避不可能な対人魔剣を震えば良い。必中の宝具ならばいくら剣と銃を使われようとも必ずや致命傷に届くはずだ。
―――わかった、セイバー。貴方の宝具でアーチャーを倒して!
幸いマスターからは承認が得られた。その承認をもってセイバーは全身の力を剣に集中させる。嗣音からも魔力をもらい、宝具の発動に必要なだけの力を一点に。
「ほう、お主宝具を使うつもりじゃな?」
急激に高まるセイバーの魔力を前にアーチャーも宝具を察する。しかしセイバーにとってはそれは些事だ。いくら気づかれようとセイバーの宝具は必ずやアーチャーを屠るのだから。
「良かろう、ならばわしもお主に全力を出すとするかのう!」
セイバーと同じようにアーチャーも魔力を高めていく。アーチャーも対抗して宝具を使うようだ。アーチャーの赤黒いオーラが彼女を元に増幅していく。まさにそれは第六天魔王の名に相応しい厖大な瘴気だった。それを目の前にしてもなおセイバーは己の宝具にのみ集中する。己の矜持をかけた我が刀は必ずや魔王を断つと信じて。
互いに宝具の開放を狙っている。宝具には通常の攻撃とは異なるため多くの魔力を費やす。現に今セイバーとアーチャーの両者は魔力を高めている。セイバーは己の内側に静かに力を高め、アーチャーは途轍もない破壊の気として外側にまで滲み出ている。人間である嗣音が感じるプレッシャーは先程までと比べ物にならない。気を強く持っていなければ今すぐ腰を抜かしてしまいそうだ。逃げ出したい、そんな弱気な念に駆られる。しかし逃避するわけにはいかない。目の前で自分のセイバーが命がけで戦っているのだ。それにセイバーは勝算があると宝具の承認を持ちかけてきた。
なら自分はそのセイバーを信じなければならない。サーヴァントを信じなくて勝利があるとは思えない。嗣音は己の魔力を必死でセイバーへと送る。なぜ己に魔力があるのかは未だにわからないが、今はそんなことはどうでもいい。今はただ自分の力をセイバーに捧げて宝具を最大限の力で発動させる。今はそれだけを目指していればいい。
瞬間、嗣音は何かを掴んだ。これは信長がオーラを放ったときと同じ物だ。何かの気配を感じる。強い魔力の塊、執念じみた存在。すぐに嗣音は感じ取ることができた。アーチャーのそれとは違うが、これも間違いなくサーヴァントの気配だ。この場所に三人目のサーヴァントが近づいてくる。それもとても速い。まっすぐこちらに近づいてくる。
「待ってセイバー!サーヴァントが一人ここに来てる!」
嗣音が大声で離れているセイバーに知らせる。それを聞いたセイバーは一旦宝具の開放を中断しマスターである嗣音のところまで後退した。一対一でアーチャーと戦うならまだしも、三人目のサーヴァントがどう動くかまるでわからない。三つ巴になるか、もしかするとアーチャーに協力するかもしれない。少なくとも戦局は変わるのだから一度様子を見たほうがいい。下手に宝具を使い真名を晒すのは避けるべき事態だからだ。
「何じゃつまらぬ。せっかくだから貴様を消してやろうと思っておったのに」
セイバーの様子を見てアーチャーもオーラを霧散させる。セイバーが宝具を使わないならアーチャーも使わないらしい。真名を自ら名乗るほどのアーチャーが真名を隠すために宝具をキャンセルしたとは考えにくい。つまり全力で戦うときしか宝具は使わぬと決めているらしい。
「しかしセイバー、お主も随分と醜い姿よなぁ。すでにその着物も血が滲んでおるぞ?」
現にセイバーの桜色の和服には銃弾を撃ち込まれた血痕ができていた。その傷はほとんど癒えてはいるものの、魔力的に着実に消耗している。
「やはりここで仕留めたほうが楽かもしれんのう。さてどこまで耐えられるか。新たなサーヴァントとやらが来る前に死ぬかもしれんぞ?」
そういって再び両手に銃を構えてこちらに銃口を向ける。再びセイバーがそれを弾こうと構えた刹那。
「信長様ああああああああああ!!!!」
青白い閃光が信長に向かって横から迫った。もちろん光ではなく新たなサーヴァントだ。そのサーヴァントは出現するやいなやアーチャーの右側から突進、即座に獲物の刀でアーチャーに斬りかかった。呆然とするセイバーの前で、アーチャーは即座に右方向に体を捻らせ両手の銃を交差させ剣戟を防いだ。しかしあまりの力にアーチャーは数メートルほど後方に押されてしまった。すぐにアーチャーは体勢を立て直し乱入者へと目線を向ける。
「何者じゃ?決戦に水を差すどころかわしに横から斬りかかった愚か者は。わしを織田信長と知っての愚行じゃろうな?」
暗かったのと先程の衝撃で砂埃が舞ってその姿が確認できなかった。しかしすぐに晴れて新たなサーヴァントは姿を晒す。
「嗚呼、信長様・・・!本当に、本当に信長様なのですね・・・!」
「お主・・・まさか光秀か!?」
アーチャーが驚愕した声を発する。傍から見ていた嗣音も同じく驚いた。アーチャーは今光秀と言ったのだ。織田信長にとっての光秀とは、少なくとも嗣音は一人しか知らない。
織田信長に仕えた家臣、天下統一を押し進めた信長に謀反を起こし本能寺の変において己の主を死に追いやった日本史の中でも知名度なら五本の指に入る裏切り者、明智光秀。もし本能寺の変が起こらなければそのまま信長が天下を取っていたかもしれない。そういう意味では明智光秀が歴史にもたらした影響というものはとてつもなく大きい。
そして戦国の武将ということは魔術に心得があるはずもない。また明智光秀が槍を使っていたという話は聞いたことが無い。ひょっとしたらあるのかもしれないが、恐らくクラスはライダーだろう。
「信長様。ライダー、貴方の明智光秀でございます。私はあの時から片時も貴方を忘れることなくお慕い申し上げておりました」
まるでセイバーと嗣音など見えていないかのようにアーチャーと言葉を交わす。ライダーの声は情熱的でアーチャーへの熱意が伝わってくる。しかし嗣音は微かに違和感を感じていた。日本の通常の主君と臣下の関係なら、臣下が情熱的に仕えていたとしても多少はありそうなものだ。
しかし光秀は信長を裏切り死に追いやった、言うなれば裏切り者だ。それが情熱的に、というのは若干不思議に感じる。それに先程からのライダーの声音、単に情熱的というよりは、もっと、こう別の何かを含んでいる気がしてならないのだ。例えるなら、長い時を隔てた恋人と久しぶりに再会したかのような。
「本当に喜ばしい、きっとこれは必然、私が貴方様と再開できたのは運命だったのですね!」
「お主、何のつもりじゃ?」
「はい信長様。私は今度こそ貴方のもとで添い遂げさせて頂きたいのです」
「わしのもとで添い遂げる?寝言は寝てから言うのじゃな」
アーチャーがライダーの言葉を一蹴する。しかしそれも無理もない。裏切って間接的に殺しておきながら今更仕えたいとはあまりに虫の良い話だ。しかしライダーの次の発言はアーチャーが予想だにしないものだった。
「ええ、今度こそ私は貴方を愛しきらせて頂く、と言っているのです」
「・・・は?」
「はい!私はあの時、貴方が戦場を駆けていた時からずっと貴方に心を寄せておりました。貴方の有志、神仏をも恐れぬ豪胆さ、まさに魔王に相応しい力強さ。私はその時からずっとお慕い申し上げておりました。お美しく、凛々しく、王たる風格をも持ち合わせていらっしゃる。もう貴方様以外には考えられません。どうか私めにご寵愛をお与えください!」
アーチャーの口から思わず間抜けな声が漏れる。ライダーはふざけている様子はなく、あくまで真面目な様子だ。もっともライダーの様子は頬を赤らめ興奮しているのが火を見るよりも明らかだったのだが。つまり愛する、という彼女の発言は単なる敬愛とか尊敬とかそういう類ではなく・・・
「えっ、愛するって、アーチャーもライダーも女だよね?戦国はそういうのもありだったりしたの?」
「さ、さぁ。昔は男色は珍しくなかったと聞きますが、百合はどうなんでしょう・・・?」
傍から見ていたセイバーと嗣音も思わず困惑する。突然他人の愛の告白を聞かされたら誰でも反応に困るだろう。それもやたら情熱的な。更に女性同士と来た。これで某けるなと言う方が無茶な話だ。
アーチャーも絶句している。まさかかつての背信の臣下に愛を訴えられるとは想定外だっただろう。しばらくしてようやく口を開く。
「お主、クラスをバーサーカーと勘違いしてはおらぬか?」
「いいえ、れっきとしたライダーでございますとも。まぁ似たようなものかもしれませんが」
「そうか。まぁそれはどうでも良い。わしの愛が欲しいとかのたまっておるが、あいにくお主には『興味がない』。お主も聖杯に呼ばれたサーヴァントなのであろう?ならばせいぜい戦場でその生命を費やすが良い」
淡々とアーチャーが告げる。先程のライダーの独白に一旦ペースを崩されただろうに、あっという間に立て直し先程までの高圧的な様子に戻っている。そう、臣下にではなく、あくまで敵のサーヴァントに接する態度だ。そしてその言葉は確かに恐ろしさを孕んではいたものの他のアーチャーの発言と変わらないものだった。
『興味がない』
その一言を聞くやいなやライダーの上気し興奮した様子が鳴りを潜めた。そして俯いたまま急に静かになる。先程までの愛の告白が嘘のようだ。
「やはり貴方は、そうなのですね・・・」
「ん?貴様何か言ったか?」
そう小さく口から音を漏らす。その声は誰にも聞き取れるものではなかった。彼女の前にいるアーチャーにさえも。
嗣音に、ライダーが登場した時と同じ感覚が襲いかかる。先刻は彼女の気を執念と感じた。今ならそれがもう少し詳しくわかる。彼女のそれは愛情、それもかなり常軌を逸した、どうしようもなく狂った愛憎。
いずれにせよライダーの雰囲気が明らかに変わった。まるで人が急に変わったかのようだ。彼女は危険だ、アーチャーとは違う方向で剣呑さを漂わせる。
「・・・そうですか、なら・・・」
ライダーが顔を下に向けたまま左の腰に帯びた刀を鞘から抜く。決して早くなく、むしろ奇妙なほどのっそりと動くその様は不気味さを孕んでいる。右手に日本刀を握りしばらく黙り込む。
すると急にアーチャーへと移動、いきなり上段から斬りかかった。
「くっ!」
ライダーが刀を抜いた時点で備えておいたのか、アーチャーが両手の銃でライダーの剣を防ぐ。刀身と銃身が押し合って軋む。
アーチャーは向かい合ったライダーの顔を見た。すでに辺りは暗くなっていて光もない。なので当然詳細に見ることはできない。しかしそれでも改めて理解できた。彼女は精神が狂っているのだと。尋常ならざる愛憎をこちらに向けているのだと。
「ふん、愛しているとかほざきながら、結局斬りかかるとはお主相当病んでおると見えるな!」
「ふふふ・・・貴方が愛してくださらないなら、愛してくださるまで貴方に背き続けます。何度でも貴方に逆らいます。安心してください。絶対に殺しません。死ぬ寸前まで攻め続けて、貴方が私を見てくださるなら喜んでそうしますが!」
「図に乗るなよ小僧が!」
アーチャーがライダーの刀を弾きライダーの胸へと数発撃ち込む。弾丸は吸い込まれるようにライダーを貫く。
「ああ、貴方様の傷、貴方様から頂いた攻撃、この光秀、恐悦至極です!」
「ちぃ!気味の悪い奴じゃ!」
アーチャーは足で地を蹴り後退、右手の獲物を銃から剣へと変更する。距離が一旦開いたがすぐにライダーが接近し詰められる。
アーチャーは今度は剣で対応、近距離で何度も刀を打ち合う。ライダーが剣を弾けばアーチャーが銃を踊らせる。アーチャーが撃ち込めばライダーは躱して再び迫る。一進一退の状態だ。
「どうしますかマスター、踏み込みますか」
その様子を見ていたセイバーが嗣音に声をかける。ひどく冷静な声、恐らく行けと言えば迷いなく切りに行くだろう。
今アーチャーはライダーとの一騎打ちに手がいっぱいだろう。ライダーはそもそもアーチャー以外まともに認識していないようにも見える。セイバーの高い敏捷に縮地が組み合わされば、二人の決闘の隙を突いてどちらかを殺すことができるだろう。
しかし信長と光秀、因縁浅からぬ間柄の二人の戦いに水を指すのは悪いのではないか。それに少し卑怯な気がする。いくら戦いとはいえ殺し合いならなおさらルールというものがあるのではないかと思うのだ。また万一失敗してアーチャーとライダーの目標がこちらへと移り、二対一の構図となると非常にまずい。
「いや、せめてあの二人が決着をつけるまで待ったほうがいいんじゃないかな」
「そうですか?今狙えば殺せると思うのですが・・・」
嗣音の意見を理解しかねる、という風に沖田が話す。人斬りである彼女は納得できないようだ。やはり幕末の世を生きた武士と自分では倫理観が異なるようだと感じた。
ちょうどその時、嗣音はある音を聞き取った。ブロロロロという機械的な音、エンジン音だ。音からして車ではなくバイクだろう。その予想が正しいことを数秒後嗣音は視覚で確認することになる。
サーヴァント三騎がいる空間にド派手にバイクが突っ込んできた。セイバー達は敷地の入り口から入って右側の方にいたのだが、もしもう少し左にいたら乱入してきたバイクの餌食となっていたことだろう。
機械の馬はスピードを出したまま入り口から入ってくると車体を九十度回転させ強引に止まらせる。急なブレーキによるタイヤの摩擦や無理な運転でエンジンが轟音を鳴らす。まるで映画のワンシーンのような光景に嗣音は呆然としてしまった。
そのバイクには二人乗っていた。一人は長い黒いコートに身を包んだ若い男、もう一人はそれと対象的に白い衣を身に纏う金髪の少女だ。前に座っているのが男の方だから運転してきたのも彼なのだろう。
そして嗣音とセイバーはすぐに理解した。黒い男に掴まっている白い少女、彼女はサーヴァントだと。セイバーが新たな乱入者に注意を向ける。
「すまんキャスター。大丈夫か?酔ってないか?」
「は、はい。私は大丈夫です。マスターこそ大丈夫でしたか?」
「大丈夫だ。ちょっと急いで危険運転になっちまったがな。まぁこうでもしないとライダーに追いつけなかったからしょうがねえんだが」
バイクに乗ったまま会話するシートの上の二人。少女のほうが男を心配して、男は笑って答えている。どうやら男がマスターと見て間違いあるまい。そして彼のサーヴァントであるあの少女がキャスターだろう。それにしてもサーヴァントが酔うことがあるのだろうか、と嗣音は疑問に思った。
会話を終えるとキャスター達はバイクから飛び降りて地に立った。するとすぐに近くにいた嗣音達に目を向ける。
「よっ、あんたらがセイバーとそのマスターか?」
「あっ、はい。そうですけど」
「乱入してすまん。俺の名はレオン、キャスターのマスターだ。ちょっとそこのライダーに用があってきたんだ。少し待っててもらえるか?」
レオンと名乗った青年が話しかけてきた。見知らぬ嗣音にまるで友人であるかのように気軽に話しかけてくる。しかしそれが不快でないほどの爽やかさを持っていた。魔術師というより、運動部のエースという例が的確かもしれない。
なぜレオン達がライダーに用があるのかわからないが、とりあえず邪魔をする意思は嗣音にはなかった。どうぞ、と言おうと首を縦に振ろうとする。
「ライダーさん!」
だがそれより先にキャスターが大声を上げた。方向はもちろん、未だ戦っているアーチャーとライダーの方だ。
するとアーチャーと交戦していたライダーがおもむろにキャスターへと体を向ける。
ライダーの雰囲気が突然変わった。先程まで笑い、悦に入りながらアーチャーと剣戟を交わしていたというのに、今はまるで人が変わってしまったかのように冷徹な視線をキャスターに向けている。
「何用ですか、キャスター。私には貴方達に従う意思はありませんが」
底冷えするかのような声を発するライダー。ひっ、っとキャスターが怯んでしまう。だがそれに負けず必死な様子でキャスターが口を開く。
「あの、ライダーさん!私は貴方が心配でここまで来たんです!」
「心配?何を心配しているのか知りませんが、余計なお世話です。さっさと失せてください」
「おいおい、そりゃねえぜライダー。あんたの魔力を賄ってるのはキャスターなんだぜ?なら話くらい聞くのが筋ってもんじゃねえのか?」
隣からレオンが口を挟む。レオンの声音は決して怒りを含んでいるものではなかったが、強い意志を感じさせるものだった。その発言もライダーは黙ってください、と一蹴したのだが。
「何じゃ光秀、お主キャスターがマスターなのか。サーヴァントに仕えるサーヴァントとはなかなかどうして稀有なものじゃな」
傍から見ていたアーチャーがからかうようにキャスターに話しかける。
「いいえ安心してください信長様。確かに私はあの者共に呼び出されましたが、彼女たちをマスターとする気は毛頭ございません。私の主は貴方様だけですので」
再び熱を帯びた声音に戻りアーチャーに返答する。どうやら情熱的に接するのはアーチャーである信長に対してのみらしい。それもそのはず、ライダーにとって大事なのは信長だけであり、他の物は路傍の石に過ぎないのだから。
「おいライダー。あんたは何を心配されているのかわからないと言ったな」
「・・・ええ」
レオンがキャスターに話しかける。ライダーは、アーチャーとの戦いを邪魔された不快感を隠そうともしない。
「なら代わりに俺が言ってやろう。ライダー。あんたの精神は壊れてんだよ」
「壊れている・・・ですって?」
「ああ。あんたのスキルはキャスターから聞いている。『妄執』。その人物が特定の対象に尋常じゃない執念を持っている場合に得られるスキル。その効果はその他対象の現在地の把握、魔力が切れた後でも一定時間の現界を可能にする、恩恵は枚挙に暇がない」
「それがどうかしましたか」
「だがそんなスキルが何の対価も要求しないわけがない。そのスキルが要求するものは理性。わかるか?お前がそのスキルを使えば使うほどお前は」
「気が変わりました。まずは貴方から殺します」
話し続けるレオンをライダーが遮る。その声は冷淡なもののようでありながら、明確な殺意も存分に含んでいた。
ライダーはレオンの方へと刀を構える。そして力を込めてレオンへと急速に近づいた。人間には到底不可能な、サーヴァント特有の疾走。次の瞬間にはレオンの体には刀が突き刺さることだろう。
空を切り、凄まじい速度でレオンに肉薄する―――!
「待ってくださいライダー!!!」
即座にキャスターが右手を出して声を上げる。もちろん待てと言われて待つようなライダーではない。キャスターの制止の声も無意味にライダーの凶刃はレオンの命を断つはずだった。
「くっ・・・!」
ライダーが苦悶の声を上げてレオンの目の前で止まる。剣をレオンに突き立てようとしているが、まるで後ろから引っ張られているかのように腕を動かせないでいる。
「失念していました、まさか令呪を使われるとは・・・!」
キャスターは何か魔術を使ったわけでもない。そもそもあの一瞬でサーヴァントの動きを拘束する事など不可能だ。ただ一つ、令呪を除いては。
令呪はサーヴァントへの絶対命令権。令呪の命令はサーヴァントでも抵抗は困難だ。高い対魔力を持つサーヴァントならば令呪の縛りにも抗えるが戦国の武将である光秀に十分な対魔力はない。
キャスターは前に出した右手を戻して見た。右手の甲にあった三画の令呪、それが一つ消えている。どうやら右手を出して待て、と言ったのが令呪を使った命令と認識されたようだ。結果的に止められたから良かったもののこんなことに令呪を使ってよかったのだろうかと若干不安になったキャスターだった。
「ふん、仕方ありませんね」
令呪に逆らえないと理解したライダーは刀を鞘に収めた。すぐ前に立っているレオンを睨みつける。常人ならば腰を抜かすほどの眼光だったがレオンはなんでもないかのように目線を合わせる。
「ちっ、興が冷めました。今日は退かせていただきます」
忌々しく舌打ちをし翻る。キャスターもレオンも何も言えなかった。ライダーの背中がこれ以上の接触を明らかに拒絶していたから。まだ何か言うなら必ず殺すと如実に示していたから。
しばらく歩いてライダーはアーチャーの方へと顔を向けた。アーチャーは既に武装を解き、腕を組んでライダーをじっと見ている。
「信長様。しばしのお別れですがご安心を。私は必ず貴方様の元へ戻りますので」
そう言い残しライダーは空間から消え去った。霊体化したのだ。恐らくこの場から一旦離れて何処かへと行くのだろう。
「ではわしも帰るとするかのう。わしも興が冷めた。疲れたし帰って茶でも飲む。セイバー、お主との戦いは次に持ち越しじゃ」
「次は必ず貴方を殺します、アーチャー」
「ふん、せいぜい自惚れておくことじゃな」
アーチャーも後を追うように霊体化した。セイバーはようやく構えを解き刀を納める。激闘を繰り広げたアーチャーとライダーはこの廃墟から消え去り欠片も跡がない。無人の屋敷とその庭には少し肌寒い冬の風が吹いているだけだった。
戦闘シーンの話をするとしよう。
スピード感のある描写、わかりやすい描き方、描写は常に苦痛に溢れていると。正直疲れたよパト○ッシュ、ガーデンオブアヴァロン!
はいみなさんお久しぶり、初めましての人ははじめましてリクです。一章をご閲覧頂きありがとうございました。序章に引き続き読んでくださった画面の前のあなたには本当に感謝してます本当にありがとうございました。
さて、私は今まで幾つかSSを書いたことはあったのですが、戦闘シーンを書いたのは初めてでした。書いてみての感想ですが、これはもう疲れる疲れる・・・。それに困ったちゃんのヤンデレまで乱入してきて・・・。まだまだ初戦だと言うのに頭を抱えることとなりましたよ、まぁこれからもっとド派手な戦闘が待ち受けているのでどうかちょっとだけ期待しながら待っててください!具体的には、ちょっと下に行って感想や評価なんかをしていただければ・・・(乞食)
さて、今回もSSを書くにあたって数多くの相談に乗ってくださったみやくもさん、本当にありがとうございました!沖田ガチャのために石をくださった御恩絶対に忘れません!引けませんでしたけどorz
あと友人のN君、貴重なアイデアをどうもありがとう。実はアーチャーのマスターである基山は友人のN君のアイデアなんですね。下書きとかも一緒に見てくれてありがとな~これからもヨロシクゥ!
さて次の投稿も未定なんですが、時間かかるかもしれません(´・ω・`)
どうか首を長くして待っていただければ幸いです。それでは二章で再び会いましょう!