「は? 魔王退治? 無理無理」
幼い頃から思っていた。ワタシは特別なのだと。
この里にいる誰よりも優秀で、誰よりも天才で、誰よりも賢く、誰よりも勇敢で、誰よりも強いのだと。
そして、誰よりも努力家なんだと。
決して子供特有の夢見がちな幻想などではない。
本当に心の底から思っていたんだ。信じていたんだ。
「ほれほれ、そんな夢物語を語るより収穫手伝え。今年はブルーパイナップルが豊作だべ」
里の大人達は口を開けばワタシの理想をぶち壊す言葉を吐き出す。
情けない。あぁ、全く情けない。子供の見本となる大人が現実を見ないで、武器も持たずに代わりに鍬を持って畑仕事に精を出すなんで。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんはなんで毎日兎跳びしてるの? 収穫手伝わないと怒られるよ?」
里の子供達は口を開けばワタシの努力を疑問に思う。
大人達の悪影響で悪い方向に教育されてしまった君達は何と哀れか。まるでアクシズ教団に入信してしまったように。
今すぐにでも君達を助けてあげたい。歩むべき道を正してあげたい。
だけど、流石のワタシでも生まれた頃から施された洗脳を解く術をまだ持ち合わせていないのだ。
どうか許してほしい。そして約束しよう。今はまだ手を差し伸べられないが、いずれ必ず沼地から引っ張り上げることを。
何せワタシこの里随一の天才なのだから。
「まぁたあの娘っ子は仕事もせんと遊びよってからに」
ふん、何とでも言え。お前達はいずれ知ることになる。ワタシの偉大さをな。
「魔王を倒し我ら一族の栄光を取り戻すなんて、口では何とでも言えるべさ」
「んだんだ。魔王退治なんて紅魔の連中に任せりゃよい。わしらはブルーパイナップルの栽培と青牛の飼育をしていればばっちぐーじゃ」
何ということだ。我らが憎っくきあの紅魔の者に委ねるなど。
見損なった。見損なったぞお前達。
同じ台詞を里の御神体である青眼の白龍《ブルーアイズホワイトドラゴン》の前でも言えるのか。
我らを護りし、いずれ再び我らを導く青眼の白龍《ブルーアイズホワイトドラゴン》に対してなんたる愚考か。
あぁ、此処まで性根が腐っていたなんて。我らの栄光を忘却の彼方へ追いやり、世に蔓延る悪に立ち向かう勇気を切り捨て、嬉々として家畜の世話をし、武器を握るその手に果実を掴み、笑顔を浮かべるなんて。
もう、我慢の、限界だ。
「何? 里を出て行くだ?」
「馬鹿なこと言っとらんで働き。あんたもう十二じゃろうが。いつまで勇者の真似事しとるつもりね」
「いいかよく聞け。確かに我が里の者が魔王を討伐出来たら万々歳じゃ。世間もわしらに対する態度も改まるじゃろう。けどな? それを何故お前がやる必要がある? ……自分は特別? 天才? 優秀? 努力家でもある? ……それは自惚れというもの。 お前やわしらに出来ることは精々ブルーパイナップルの栽培と青牛の飼育ぐらいじゃて」
いいさ、その低い志しで満足していればいい。
だが、ワタシは違う。満足なんて出来ない。ワタシの中に眠る強大な力が叫んでいるのだ。勇者よ! 英雄よ! 歩け! 踏み出せ! 今がその時だ!
「さぁ行くズラ……!」
時は来たり。刮目せよ世界。刻み込め世界。歓喜せよ世界。
賛美歌を歌え。舞い踊れ。この世界に祝福を。後世に語り継ぐ準備は出来たか。見届けよ。その英雄の名を。
「我が名はアカンモウダメダー・スベテオシマイ・カナワンナァ! 蒼魔族随一の天才にして魔王を討伐する未来の英雄ズラ!」
これはとある蒼魔族の少女の英雄譚。