TALES OF CRYING ―女神の涙と黒い翼― 作:ILY
≪ファマグス港≫
リアトリスと合流し、王都から無事に逃げだした六人は王都北東の港、ファマグス港に辿り着いていた。
「どうしようか?セオニアに逃げる訳にいかない以上、選択肢はもう東のレーシア連合国しかないけど、乗せてくれる船見つかるかな」
エッジが不安そうに言う。
いつもならどこかから解決策を引っ張ってくるラークも、今回は同意見の様だった。
「そうだね、普通に考えてエッジやクロウを乗せてくれる船なんてそうそう無い……奪うしかないか」
物騒な呟きを聞き逃さず、クリフが止める。
「お前その犯罪者の思考やめろ」
「いや、この国ではずっと犯罪者だけどね。私とエッジは」
クロウが皮肉を言い、一行はしばし考え込む。
と、
「リアちゃんじゃないか!最近サーカスでの活躍の噂を聞けなくて心配してたんだぜ」
「おじさん!今こっちの港に来てたんだね、てっきりレーシアの方に居るのかと思ってたよ」
「いやあ、ちょうど帰りさ。里帰りだったら乗っていくかい?」
「うん、おじさんの船なら安心だね!ありがとう」
戻ってきたリアトリスが事も無げに報告する。
「あ、みんな。乗せてくれる船見つかったよー」
沈黙が流れた。
クロウが責める様に口を開く。
「誰よ、船見つからないとか言ったの」
「うーん、いや。まあ、確かにリアトリスは元々レーシア大陸の出身だけど、こんなにあっさり会えるとは思ってなくて」
ラークは苦笑いしながら弁解し、それから気を取り直して続けた。
「その説明にもなるし、ちょうどいい機会だから次の目的地の事も教えておこうか」
一行は船へと歩きながら、ラークの説明を受けた。
「シンの一族の村、ですか?」
一行はレーシア連合国に向かう船の上に移動していた。
アキの言葉にラークは頷く。
「厳密にはアエスラング側の、リアトリス達の一族。「
「……ごめん、その「シン」って全部音一緒なの?」
クロウの指摘に応えて、リアトリスが代わりに説明する。
「シンの一族っていうのはアエスラング側とイクスフェント側に二種族居るの。イクスフェントに居るのが強い身体を持った「
ラークはこれまであまりシンの一族の事については説明をしない事が多く、リアトリスが喋りそうになっても横から割って入って話をはぐらかしていた。
その為シンの一族が何なのかラークとリアトリス以外はあまり分かっておらず、それは一族のハーフであるエッジも同じで、特にアキとクリフに至っては全てが初耳の内容だった。
四人は何から聞くべきか悩み、エッジが最初に口を開く。
「長い寿命って、ラークちなみに今いくつなんだ?」
その言葉にラークはあれ、と首を傾げる。
「言ってなかったっけ?今117才、人間の肉体の年齢で言うと十八才くらいだよ」
「……それは、そのペースだと寿命千年くらいあるって事か?」
クリフの言葉にラークは横に振る。
「いや、そこまではいかないよ。最初の八年位は人間と同じくらいの速度で成長して、ある程度生物として成熟してから徐々に変化が緩やかになるんだ。だから寿命は七百才前後、八百才を越えたらかなりの長寿だね」
そこでふっ、と笑う。
「君達より年上ではあるけど、「身」の一族としては見た目通りまだまだ若造である事に変わり無いし、偉そうにするつもりは無いよ」
クロウはそれに対して眉をしかめる。
「その言い方が既に、なんだけど」
「うーん、それは生来だね」
悪びれなく言うその姿に全員呆れた。
「ごめんね、みんな……」
リアトリスが代わりに謝る。
「そ、それでもやはり我々の年齢でも私よりずっと歳上ですから」
アキも何とかフォローを入れようとする。
少々逸れた話をエッジが戻した。
「それで、つまりこれから向かう「
ラークは同意する。
「そう、ほとぼりが冷めるまでね。確実とは言えないけど、とりあえずアクシズ=ワンド王国とセオニア王国との全面衝突は避けられた筈だし、しばらくはクロウとエッジは隠れる事を最優先した方が良い。僕とリアの使命の事はそれからだ」
使命という言葉にアキが不思議そうな表情をする。
「お二人の使命はてっきりクロウさんを国家の手から守る事だと思っていましたが、違うのですか?」
リアトリスがその問いに答える。
「間違ってはいないよ、でも私とラークの役目はあくまで人間の手から宝珠の力を遠ざける事。クロウが持ってるのは確かに闇の宝珠の欠片ではあるけど、まだ残りが見付かってないの。それを探さないと」
宝珠の力を危険視していたクリフは驚きを露にする。
「あんな力が何処かにまだ転がってるってのかよ……」
「闇の宝珠が持ち去られたのは十五年前、そこから今まで大きな変化も噂も無いから少なくとも悪用する様な人間の手には渡っていない」
ラークはそう答えたが、消息が分からない闇の宝珠アスネイシスの事は全員の心の中に小さな不安を残した。
―――――――――――
≪ナペラキ港≫
レーシア連合国の南西の港に着いて船を降りると、アキは興味深そうに周囲を観察した。
「何だか随分雰囲気が違いますね」
彼女の言葉も当然だった。セオニアや中央大陸の港は概ね石畳が広がっていたが、ここは木の桟橋だ。
そして、港からいくらも行かない所から始まっているのは整備された街道ではなく、人の侵入を阻む密林だった。
「ここは定期連絡船が来る様な大きな港じゃないからね、あまりお金をかけていないんだよ。でもリアの知り合いに乗せて貰えたのは幸運だったかもね、
ラークの説明にリアトリスが苦笑いして付け足す。
「まあ、ここ使ってるのほとんど私達だしね」
トレンツの村もこのタイプの港だったのでエッジとクロウはそこには驚かなかったが、別な所に驚いた。
「何か、これ――」
「……暑い」
レーシアの大陸に近付く時から気温差は全員が感じていたが、上陸するといよいよ立っているだけで汗ばむ程だった。
そんな二人にクリフが追い打ちをかける。
「残念ながらここから目的地に近付いたらもっと暑いぜ?何しろ火山の目と鼻の先だからな」
エッジ、クロウ、アキの三人はそれを想像してうう、と呻いた。
リアトリスは彼の説明に意外そうな顔をする。
「クリフさん、レーシアに来たことあるの?」
気温差を気にする様子もなく伸びをしながらクリフは答える。
「一応四つの大陸は全部行ったことあるぜ、隅々までとは言わねえけど」
アキはそんなクリフに
「それは、良いですね。私は皆さんと旅をするまでほとんど王都から出た事が無かったので驚いてばかりです」
クリフは少々落ち込んだアキを励ます様にありったけの笑顔を向ける。
「何言ってんだよ、これからだろ?アキちゃんまだ十四なんだから」
「あ、ええ。そうですね、まだまだこれからでした」
不意を突かれた様に嬉しそうに笑うアキ。
そのやり取りをクロウは何処か面白く無さそうな表情で見つめ、エッジに疑問を持たれる。
「クロウも話に入りたかったのか?」
「別に、私からアキに話しかけることなんて無いし……ちょっと船酔いでぼうっとしてただけ」
狼狽しながらクロウは誤魔化すが、エッジはため息をついて言った。
「その反応、やっぱり話したかったのはアキとか」
「私がクリフなんかと話したい訳無いでしょ、当然話したいのは――ああ!もう、良いからこんなとこでグズグズしてる場合じゃないでしょ、さっさと行こ」
言いかけた言葉を止めて、クロウはエッジから離れた。
リアトリスは笑みを隠しきれない様子でエッジに近付いて囁く。
「いつの間にかアキと随分仲良くなったね、クロウ」
エッジはその言葉に頷く。
「元々は別に性格合わない訳じゃないと思うんだ、だから二人が仲良くなれたのは嬉しいよ」
「そうだね。私も……クロウに味方が増えたのは嬉しい」
そう言って彼女の後姿を眺めるリアトリスの姿に、何故かエッジは少しの距離を感じた。
≪心の郷 イノアザート≫
密林の間の狭い舗装されていない道を抜け、一行はラーク達に説明された「
交差した木の棒で出来た柵に囲まれた村の中には、エッジ達が見たサーカス団のものによく似たテントが幾つも立っておりそれが住人の主要な生活の場であるのは明らかだった。
表向きは代々サーカス団になるものが多い村と言う事になっているらしいその村は、一見すれば普通の村でしかなかった。
ただ一つ、大きく皆の視線を引き付けた村の背後にそびえる煙を吐く山――カンデラス火山を除いて。
テント暮らしも、万一の時に移動しやすい為の物なのかもしれなかった。
「ここが、リア達の……
エッジは無意識に首から下げたペンダントを握り締めた。
到着してすぐラークは一人、村の奥へ足を向けると言った。
「リア、エッジとクロウの事は頼むよ。僕は少し用事があるんだ」
リアトリスは不思議そうな顔をするも、素直に従う。
「分かった、じゃあ皆付いて来て」
一行は彼女に案内されるまま、村の中心部のテントへと通される。
「ここで
入り口の
「おお、リア!大きくなって!」
「何よ、帰って来るなら言ってくれれば良いのに!もう!」
一行は突然の事に
夫婦らしき二人にぎゅうぎゅうと挟まれながら、苦笑いでリアトリスは説明を続けた。
「私の、お父さんとお母さん」
―――――――――――
「はっ、何だよ。俺達があれだけ準備してやったのに、失敗したのかよ」
スプラウツの本拠地。
王都シントリアからの
バルロは怒りを込めてそんなフレットを睨む。
「口を慎めフレット、報せはそれだけでは無いぞ。まだ次の仕事が控えている」
そう言って老人はルオンと、彼と共に報告を持ってきた黄緑の髪の小柄な少年に尋ねた。
「ルオン、レパート、大気中のディープス量の調査結果は確かだな?」
ルオンは無言で頷き、レパートと呼ばれた黄緑の髪の少年も話したいのを必死に堪えていたかの様に早口で答える。
「勿論完璧だぜ!俺の調査した箇所はルオンより断然多い」
老人はその報告を聞いて眉間に皺を寄せる。
「調査の精度を聞いた、走って一箇所一箇所の調査を怠ってはいないだろうな……まあ、良い多少の誤差はあれ、これなら概ねリュウゲン様の仰った通りだ」
とりあえず納得すると、老人はその場に集まっている『
「では、次の仕事だ。『
フレットは興味無さそうに頭をかき、セルフィーは真剣な表情で、ルオンは無表情で頷いた。
詳細な説明をするバルロの後ろで報告を持ってきた銀髪の青年――レスパー・シビルは暗い表情でレーシア大陸で展開される作戦を聞きながら、そこに逃げたと思われる少女に思いを馳せていた。
(アキ……)