地獄のような惨劇から1週間。今でこそ最初のような大きな破壊活動は無いものの着実に被害は大きくなりつつあった。仁は謎の集団の追跡を逃れ現在都心から離れた郊外の小さな店に身を隠していた。
「これと、これ…。こっちのやつもまだ食えそうだな。」
店のなかは大部荒らされていたがまだ食べることができそうな品物を見繕って鞄につめていく。まだこの店には食べれるものがいくつか残っているがそれも時間の問題だ。早急に安定した食料の確保と情報を仕入れる必要があった。
「食い物はこれで3日はもちそうだけど情報が少なすぎる。あいつらは何なんだ…。彩、涼、里奈…。皆無事なのかよ……。」
1人誰に言うでもなく呟く仁。結局あれから彩とは会えておらずそれどころか他の知り合いにも会えておらず無事も分からない。分かっていることといえば自分達の故郷に侵略してきた連中が『アカデミア』と名乗っていることくらいだ。
「1人じゃ危険だしとりあえずだれかと会うことが先決だな…。」
店から出ると改めて周りを見渡してみる。ここは郊外なので都心ほどではないが建物があちこち壊れて廃墟と化している。
都心の方を見てみると街のシンボルでもあったタワーも見えた。仁の目にはそのタワーがこの街の凄惨さを表しているようにも見えた。
歩き出しても考えるのはやはり自分の親友達の安否だった。今無事なのか、怪我はしていないの、もしかするともう既に奴らによってカードに……。
そこまで考えて仁は頭を大きく横に振る。
『大丈夫、皆ダイヤ校では実力者だったんだ。そう簡単にカードにされるわけないっつの。』
そう自分に言い聞かせると最悪の事態の考えを押し込めようとする。
「今度の大会優勝するって約束したんだ。さっさとあいつら追っ払って元の平和なハートランドに戻してやる!」
改めて自分の決意を確認して歩き出そうとしたそのとき近くで爆発音が響く。
慌てて振り向くとそこには例の制服を着た『アカデミア』とよく見た顔が見える。
「彩……?」
間違いない。ついさっき身を案じていた親友の姿がそこにあった。しかし彼女の身はボロボロでなおかつ3人のアカデミアから逃れているようだった。
よく見ると彼女のデュエルディスクは液晶が完全に壊れており抵抗ができる状態でないのは誰が見ても明らかだった。
その瞬間脳裏に子供達がカードにされる光景がよみがえる。このままだと彩もカードにされてしまう。
「んなことさせるか!」
そう叫ぶと彩のもとに全速力で走り出す。アカデミアの3人は仁が後ろから追いかけて来ることなど気づきもしない。このハートランドにおいて自分達が追われる側になることなど想像してすらしてないだろう。
「はぁっ……はぁ…。」
もうどのくらいの時間走っただろう。体力の限界なんてとうに越えているが走り続けなければならない。止まってしまえばどうなるか想像できてしまうからだ。
しかしいつまでたっても奴らは振りきれない。抵抗しようにも唯一の武器であるデュエルディスクは破壊されてしまった。
もう逃げるしか道が残っていない彼女に更なる追い討ちがかけられる。
「行き止まり……?」
道を曲がったところで目の前に見えたのは倒壊したビルが逃げ道を塞いでいる光景だった。よじ登ろうにも高すぎてとてもじゃないが無理だろう。たとえ越えられたとしても敵はモンスターを使って突破してすぐに追い付かれてしまう。
どうすればよいのか、そう考えるうちに足音はすぐそばまで近づいていた。
「手こずらせてくれたなぁ。やっと追い付いたぜ」
「さっさとカードにしてやるよ」
「まあ、待てよ。こいつには散々苦労させられたんだ。じっくり楽しませろよ。」
まるで狩りをする獣のような目をしながら近づいてくる3人。彩は自分でも体が震えているのが分かったがそれを必死に押し殺しディスクを構える。
「アンタ達なんかの思い通りにならない……!」
それをみた3人は一瞬呆気にとられた顔をして次の瞬間ゲラゲラと大声で笑い始めた。
「こいつは傑作だ!エクシーズの屑が俺達アカデミアに抵抗するなんてよ!」
「もうディスクも壊れてる癖になにができるってんだ!」
「結局テメエら屑は俺達のハンティングゲームの獲物でしかねえんだよ!」
そう言うとアカデミアの1人がディスクを構える。この1週間何度も見てきた光景だ。やられる、、自分もカードになってしまう、そう思った瞬間
「やめろぉぉぉぉぉ!」
聞きなれた声が聞こえたかと思うとアカデミアの1人が何者かにいきなり体当たりをされて吹き飛ばされる。敵は勢いよく地面を転がり気絶してしまった。
続けて残りの二人にも間髪いれずに蹴りを叩き込む。リアルファイトなど滅多にしたことないがそんなこといっている暇などない。
「仁……。アンタ…無事だったの…。」
「話すのは後!逃げるぞ!!」
先程は気丈に振る舞っていたのか仁の顔を見た瞬間弱々しい声で話す彩。この一週間何があったのかは分からないが酷い目にあったことは明確だ。緊張の糸が切れたのだろう。
運よくアカデミアの3人は仁の一撃で気絶しているので逃げるのには絶好のチャンスだ。
「こっちだ!」
仁は彩の手を力一杯掴むと全速力で走り始めた。できるだけ遠くに逃げなければ、そう考え二人は体力が続く限り走り続けた。
「はぁっ……。はぁっ。もう限界…。」
「俺も…だ…。こんなに走ったのなんていつぶりだろ…。」
現在二人は街のはずれにあるビルの中に避難していた。ここならアカデミアの手もそう簡単に及ばないだろう。
「仁、無事でよかった。それと助けてくれてありがと。正直あのままだと確実にやられてたわ。」
「彩も無事でよかった…。皆に会えないからてっきりカードにされてるかと思ってたよ…。ホントに、ホントに良かった…。」
「何?アンタ泣いてんの?」
「はぁ?んなわけ…」
そう言いかけて自分の顔を触ってみると確かに頬を涙が伝っていた。彩に言われて始めて自分が泣いていることに気がついた。仁も親友が無事だったことと誰かに会えたことで緊張の糸が切れたのだろう。
「その歳で泣くんじゃないわよ、全く。」
そう言っている彩の目にも涙が浮かんでいる。口には出さないが彩も仁と出会えて安心したに違いない。
「これからどうする?」
何分か泣いたあと仁がそう切り出す。いつまでもここにいても何も始まらない。何か対策を考えないとまたアカデミアの連中に狙われてしまう。
「涼や里奈はどうなの?あれから会わなかった?」
「うん……。だから皆を探してたんだ。でも誰にも会えなくて…。」
「私も奴らと闘いながら皆を探してたんだけど逃げるのが精一杯だったから…。」
そう言って二人ともしばらく黙ってしまう。しかしある考えが彩の頭に浮かぶ。
「そう言えば逃げてる最中にスペード校の生徒を中心にレジスタンスが組織されてるって聞いたけど。」
「ああ…。黒咲やカイトも入ってるっていうあれか。」
この一週間アカデミアの連中にハートランドは侵略されていたがただ一方的にやられていたわけではない。スペード校、クローバー校の生徒を中心に生き残ったデュエリスト達が集結していると噂を聞いた。
奴らがどうやってモンスターを実体化させているか、そのカラクリは未だに分からないが抵抗する術といえばデュエルくらいだということは分かった。よって彼らデュエリストが立ち上がったのだ。
本当ならダイヤ校のなかでも実力者である仁もレジスタンスに参加すべきだったのだろうがある考えがあり乗り気になれなかった。
それはデュエルを戦いの道具に使うことだった。故郷を守るためとはいえ相手を殺してしまうかもしれないのだ。仁はレジスタンスのメンバーほど割りきれなかった。
「確かにデュエルを使って戦うのは抵抗があるけど今はそんなこと言ってられないわよ。私達が単独でいるより組織に入るほうがメリットがあるわ。」
彩の言うとおりだ。このまま二人でいてもアカデミアという巨大な組織を相手には到底太刀打ちできない。里奈や涼を探そうにも情報を仕入れるには組織に属したほうが都合がいい。
「そう…だな。レジスタンス……行ってみるか。」
しばらく考えて仁は答えをだす。
「私も行くわ。アカデミアの連中にこれ以上好き勝手させない!」
そう言った彩の目には怒りと憎しみの感情が見てとれた。どうやら彩はアカデミアと戦う覚悟を決めたようだ。ならば自分も腹をくくらなけばならないだろう。
「んじゃ、そろそろ行くか。こっから遠いってわけじゃないけどいつもより時間かかるだろうし夜になる前に着きたいしな。」
「そうね。それに私のデュエルディスクこんなんだし万が一奴らに出くわしたら戦えないし…。あ、そうだ。」
何かを思い付いたように彩は自分のデュエルディスクから1枚のカードを引き抜き仁に渡す。
「これは?」
「ナンバーズよ。これならアンタのデッキでも問題なく使えるでしょ。私はデュエルできないからレジスタンスのアジトにつくまで貸してあげる。」
「え?でもこれ彩の大切なカードじゃ…。」
「別にあげるって言ってるわけじゃないしいいわよ。その代わりなくすんじゃないわよ。」
彩からカードを受け取るとエクストラデッキにしまう。アカデミアの敵とまともに戦えるか不安があったがナンバーズという強力なカードでデッキを強化できたので多少は安心できるだろう。
「よし!じゃあ彩のことは俺が守ってやるからな!」
「はいはい。」
そう軽口を叩きながら出口にむかって歩き始める二人。この一週間ずっと殺伐とした雰囲気のなか1人で過ごしてきたので久しぶりに明るく話した気がする。いつかまた平和なハートランドで楽しくデュエルができる、そんなことを考えていたときだった。
「見いつけた。」
聞いたことのある、しかし2度と聞きたくない声が聞こえた。
「なん…で。ここが……。」
唖然とする仁を嘲笑うかのようにアカデミアの1人が懐から1つの電子機器を取り出す。その液晶画面には赤い点がチカチカと点滅していた。
「さっきその女には発信器を仕込ませてもらったぜ。こんな風にチョロチョロされると面倒だからな。」
「クソッ…。」
悪態をつきつつ敵がいる方向とは反対の出口から逃げようとする。
しかしそう簡単に逃げれるわけもなかった。
「逃がすわけねえだろうが!」
そう言うと横に従えていた機械の犬に攻撃を命じる。命令を聞くとすぐに仁と彩にむかって炎の玉を吐く。
「キャッ!!」
「うわ!あっぶねぇ……!」
なんとか間一髪避ける。しかしそのまま火の玉はビルの主柱に直撃しそれを粉々に砕いた。
直後ビル全体が大きく揺れ始める。ただでさえ壊れかけていたのに今の一撃で完全に倒壊を始めた。
「やべえ!早くこっから出ないと!」
仁の言葉に彩も全力で走る。
しかしあと少しで出口というところで仁は瓦礫につまづいてしまう。
「しまっ……。」
もう駄目だ。そう思った瞬間背中を力強く誰かに押された。
「え。」
後ろを振り向くと彩が優しげに微笑んでいた。
「彩ぁぁぁぁぁぁ!」
まだ間に合う、絶対に死なせない。そう思って必死に伸ばした手は虚しく空をきるだけだった。
『生きて』
ビルが崩壊する直前彩がそう言ったようなきがした。でも彩が何を言ったかを聞く術はもうない。
「なんで……どうして…。」
口をついてでるのは言葉にならないことだけだった。頭の中はごちゃごちゃで整理が全くつかなかった。そこで聞こえたのは敵の高笑いだった。
「あっはっは!!こりゃあいいや!エクシーズの屑が必死に庇いあってやがる!どうせ全員死ぬのによ!」
「……。」
相手の言葉に対し何も反応はない。しかしその静けさとは裏腹に仁の心のなかは悲しみ以外の感情が渦巻いていた。
「……し……ったか?」
「あぁ?なんつってるか聞こえねえんだよ。聞こえるように言えよ。それともびびって声もでねえのか?」
ゆらりと立ち上がる仁。その目には目の前の敵を叩き潰すという強い意思が伝わってくる。
「楽しかったか…?力のない人や逃げ惑う人たちをカードにして……嘲笑うのはたまらなく楽しかったか?」
「はぁ?さっきから何訳のわからんこと……」
「楽しかったかって聞いてるんだよ!!!」
自分でも驚くほど殺気のこもった声で叫ぶとデュエルディスクを構えて戦闘体制にはいる。
それを見たアカデミアはニヤリとすると応戦するようにディスクを構える。
「おもしれぇ。お前もすぐにあの女の後をおわせてやらぁ。」
ディスクに浮かび上がるライフ4000の文字、そしてオートシャッフルが開始される。
今までの楽しいデュエルではない、命のやり取りをする殺しあいのデュエルだ。
「「デュエル!!」」
二人の言葉が重なりソリッドビジョンのフィールドが展開される。
アカデミアとの命懸けのデュエルが今始まった。
デュエルは次回からです。
感想、お気に入りよろしくお願いします。