IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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臨海学校(二日目 福音 再戦)

 目を覚ますと、俺は旅館の一室で寝かされていた。

 多少記憶が混乱するが…誰かに眠らされたのは覚えている。時計を見たらすでに午後三時を指していた。そしてあの時の出来事を思い出すと、――――俺は急いでベッドから飛び降り部屋から出た。

 何が何でも、確かめなければならない事がある。俺を見かけた旅館の従業員さんやクラスメイトの声を無視し、俺は全力疾走で作戦を話し合った大広間まで向かった。走りながら俺の心に占める思いはただ一つ、

 

 葵が今どうなっているか、それだけだった。

 

 

 大広間の扉を乱暴に開け、中に入ると千冬姉と山田先生がいた。千冬姉は険しい顔で空中ディスプレイに映されている画面を眺め、山田先生も同様に画面を眺めながら携帯端末を動かしている。扉を開ける音に反応した二人は俺の方を向き、山田先生が、

 

「お、織斑君!気が付いたんですね!よかったです!」

 笑みを浮かべて近づいてきたが、俺はその山田先生の肩を乱暴に掴んだ。

 

「きゃっ!ちょっ、ちょっと織斑君」

 

「葵は!葵の容体はどうなんですか!教えてください!」

 肩を掴まれて顔を赤くしながら抗議しようとした山田先生に、俺は声を荒げ詰め寄った。落ち着けるわけがない。葵の怪我、あれを見せつけられて楽観視出来るわけがない!

 脳裏に刻まれたあの光景が思い出されていく。

 俺と箒を抱き、福音の攻撃を一身に浴びた葵。墜落後海に沈んでいく葵を死に物狂いで抱き寄せ、海上に浮かんだ時見た葵の怪我。腕に脚に、特に背中の傷は凄まじく焼けただれた皮膚に抉られた筋肉。背中を半分隠す位伸ばしていた髪も、焼け焦げて見るも無残な状態になっていた。顔だけは損傷がなかったが、あの真っ白な顔で力無く眠っている姿はどう見てももう…

 

「落ち着いてください織斑君!青崎さんですが…なんとか一命を取り留めています」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「はい、本当です」

 山田先生から葵は生きてると聞いた瞬間、俺は安堵して大きな溜息をついた。

 

「よかった、本当によかった」

 最悪な事態が杞憂で終わって安堵する俺だが、

 

「しかし、まだ安心はできんがな」

 ディスプレイを見ていた千冬姉が、振りかえり俺を見ながら言った。

 

「え、千冬姉!それはどういうことだよ!」

 

「普通なら確実に死んでいた程の傷だ。しかしスサノオの操縦者絶対防御のおかげで青崎はかろうじて命を繋ぎ止められている。だが、これはISのエネルギーを全て操縦者に送り続ける事で成り立っており、スサノオの損傷率は普通なら廃棄される程だった。スサノオが完全に機能停止したらその時青崎は死ぬ。そのため…今は束が全力でスサノオの修復を行っている。スサノオの修理が進めば進むほど、ISから受けられる加護は強くなるからな」

 

「…それにスサノオが完全に回復しない限り青崎さんの意識も戻らないままですからね。その点で言えば今の状況はかろうじて無事と言える所です」

 な、なんだよそれ。で、でも!

 

「でも束さんが修理しているんですよね。それなら大船に乗ったつもりで安心できます。だって束さんは葵の風邪も一瞬にして治すくらいの天才ですし。なら葵もすぐに」

 

「半年」

 楽観的な意見を言おうとする俺に、千冬姉は硬い声で言った。

 

「半年、これが何を意味するかわかるか織斑」

 また真剣な顔で俺に言う千冬姉。…半年?何の事だよ。

 

「…青崎が全ての面で完全復帰するまでかかる時間だ。束が青崎の怪我を見てそう判断した。…しかもそれは束が所有する医療用ナノマシンをフル活用しての治療時間だ。一般の医者達は葵の怪我見ただけでIS乗りへの復帰は諦めていた」

 険しい顔をして俺に言う千冬姉。それを聞いて、目の前が真っ暗になったかと思った。足に力が入らず、そのまま床に崩れ落ちた。床に手を付けながら、葵の事で頭がぐるぐる回っていく。束さんの協力があっても半年…。あいつは三月にも大怪我して先月ようやく復帰したばかりだろ。なのに、また…。

 

(言ったでしょ、二人は守るって)

 葵が俺と箒に言った言葉が脳裏に蘇る。あの時身を呈して俺と箒を守った葵。作戦前から俺と箒を守ると言った葵は、その言葉通り俺達を守ってくれた。自身を犠牲にして。

  

 誰かを守りたい。誰かの為に戦いたい。そう決意していたはずなのに。

 

 実際は俺が守られてばかりだ……。

 

 

「…すまないが織斑、話はここまでだ。私達は逃げた福音をどうにかしなければならない。お前は別室で指示があるまで待機していろ」

 そういってまた千冬姉は視線を空中ディスプレイに戻した。そして後ろを向いたまま、

 

「…やることがないのならこの部屋から出て右に曲がった通路の一番奥の部屋にでも行くといい。そこに青崎がいる」

 …どこか力無い声で言った。それを聞いた俺は夢遊病者のように力無く立ち上がると、千冬姉が言った場所に向かうことにした。現在の葵がどうなっているか、ちゃんと確かめるために。そしてただ、会いたい。そして会って、

 

 何を言えばいいんだろうか…

 

 そして千冬姉が言った部屋に着いて中に入ってみたら、…そこには包帯を巻かれ体の至る所にチューブを繋がれてベッドで寝ている葵と、そのベッドの横で椅子に座りながら項垂れている箒がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  私のせいだ

 目の前にいる葵を見ながら、私の心はそれしか思い浮かばない。私が勝手な行動をしたせいで、葵が…これほどの重傷を負ってしまった。それはもう歴然とした事実だ。私が…一夏と葵の足を引っ張ってしまった。

 

 一夏と一緒に戦いたい。葵達に追い付きたい。

 この思いの為に、私は姉さんに電話してまで専用機が欲しいと願った。そして姉さんは専用機紅椿を私にくれた。そしてその紅椿の性能は素晴らしく、その性能を…私は自分の実力だと勘違いしてしまった。

 これならもうセシリア達にも対抗できる、一夏と一緒に戦える。私はそう思い舞い上がっていた。姉さんの推薦もあったが、一夏が参加する作戦に私も参加できると知った時、無人機襲来の時に感じたあの時の悔しさ、それを思うと一夏と一緒に戦える事が本当に嬉しかった。

 しかし私の役目は一夏を運ぶだけで、実質一夏と一緒に戦うのは葵だけというのは少し不満を持った。確かに織斑先生達の言うことももっともだが、今の私なら問題無くこなせると思っていた。

 

 …だが実際はどうだ。葵が危ないと思い援護したつもりが、それは葵の戦闘の邪魔でしかなかった。葵達に追い付いたと思っていたらそれは私の勘違いなだけで、全然追い付いていなかった。

 数時間前の私を殺したくなるほど後悔していると、部屋の扉が開く音が聞えた。顔を扉に向けると、…私同様暗い顔をした一夏が部屋に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 「…一夏か」

 意気消沈した顔をしながら、弱々しい声で箒は俺に顔を向けた。赤く泣き腫らした目をしていて、…俺同様、いやそれ以上に箒は自分を責めているんだろう。

 俺は無言で箒の横に椅子を置き、そこに座り葵の怪我を見る。全身に巻かれた包帯が痛々しい。顔だけは奇跡的に怪我は無く、そこだけ見れば寝ているように見える。福音の攻撃によって髪が焼かれ、今では首までしか無い。しかしその長さは葵が中学までの…男だった時と同じ長さだった為、今の葵は本当に顔だけ見たら昔と変わらない。いつも俺に笑ったり怒ったりした顔は、…今はただ眠った顔しか見せてくれない。

 凄惨な葵の姿。それを見て、俺の心は悲しいという感情よりも―――ある感情の方が勝っていった。

 

 

 不思議なもんだ。

 ここに来るまでは葵に会って、どうする?葵に対し何て言えばいいんだと思っていた。だが今の葵を見て、葵が目を覚ました時の事を考えると、葵に言いたい事、言わなければいけない事がすぐに出てきてしまった。

 

 そして…俺はどうしてもやりたい事が出来てしまった。これはもう、止める事が出来ないどうしてもやりたい事が。

 

「何も言わないんだな一夏」

 俺が葵を眺めながら思案していたら、ずっと黙っていた箒が不意に俺の方を向いて言った。

 

「私のせいで葵はこんな事になってしまったのだぞ。私が勝手な行動をして、そのせいで葵がこんな目に。一夏、横にいながらどうして私を責めない」

 半泣きの表情で俺を見て訴える箒。その目は自分を責めてくれと言っている。確かに今回の件は箒にも責任があるかもしれない。でもな、

 

「箒だけ非があるわけじゃないだろ。非なら俺も…葵にもある」

 今回の件、箒は全て自分が悪いと思ってるだろうが…それは違うんだ。

 

「はあ?何を言ってるんだ一夏!…下手な慰めならやめてくれ!」

 俺の言葉を聞き、声を荒げる箒。泣き腫らしたはずの目からまた涙を零しながら俺に向かって叫んでいく。

 

「悪いのは全て私だ!紅椿を与えられ、その性能を自分の実力だと勘違いした!己を過信しすぎた!そして私は葵を信じず、危険だと勘違いして福音を攻撃してしまったせいで葵はそれに巻き込まれてしまいシールドエネルギーを大幅に無くさせてしまった!そして葵の言う通りエネルギーが少ないのに攻撃してしまって、さらに福音からの攻撃を受け私のエネルギーも無くなった!一夏はそんな私を助けるために、私のせいでエネルギーを使い果たしてしまった!そして…」

 胸の内を吐き出すように嗚咽交じりで俺に言う箒。作戦終了後、目を覚まし葵の病室でずっと己を責め続けていたんだろう。しかし責めるべき葵は眠ったままで、謝りたいのに謝れなくて…。それで俺に葵の代わりに自分を責めて欲しいと思ってるんだろう。

 

「何故二人とも私なんかを。私なぞ助けなければよかったんだ。私なんかを助けるから」

 

「箒!」

 俺が急に大声を出したせいで、箒はビクッと体を震わした。しかし箒、それだけは言わせない。

 

「それ以上言うな。葵が本気で怒るとしたら、それだ」

 そして俺も怒っている。箒の気持ちはわかる。でも箒、…それだけは許せない。

 

「箒、お前の様子が少しおかしかったのは作戦前から俺と葵もわかっていた。その理由も、大体俺達は察しが付いていた。紅椿を与えられ、その性能に浮かれてるんだとな」

 箒が驚愕の顔で俺と葵を交互に見詰める。まったく、気付かないわけがないだろ。

 

「でも俺も葵も黙っていた。専用機持って嬉しいのは仕方ないし、箒は俺を運ぶだけだから危険は無いだろうと思ってしまったからだ。でも万が一を思って葵は俺に言ったんだよ。もしものことがあったら、箒を頼むとな」

 

「葵が…」

 

「言われなくともやるけどな。だから箒、今回の件はお前の異変に気付きながらもちゃんとお前に忠告しなかった俺も葵も悪い。自分を責めるなとは言わないが、それを頭に入れておいてくれ。そして箒、さっき何故責めないとか言ってたが…結果はどうあれ、葵は絶対箒を責めないだろうよ」

 

「どうして…」

 

「それは目を覚ました葵に確かめてみろよ。俺からはもう何も言う事は無いぞ。反省なら箒、もう俺が言わなくとも充分やってるからな」

 そう言って俺は立ち上がった。やりたい事はもう決まっている。なら、もう行動に移すまでだ。そして部屋から出ようとすると扉が開き、

 

「一夏、箒ここにいるんでしょ。こっちに来なさい」

 鈴が廊下から俺達を手招きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、福音の位置はもう特定出来たのよね?」

 

「ああ、衛星が奴の居場所を掴んだ。ここから南西30km離れた空域を漂っている」

 

「居場所がわかりましたならこちらのものですわ。友達を傷つけてくれたお礼を返してさしあげませんと。ええ、倍にして返さなければいけませんわね」

 

「…一夏と箒大丈夫かなあ。立ち直っているといいんだけど」

 

「…あの二人が未だに落ち込んでるようならあたしが殴って目を覚まさせてあげるわよ。専用機持ちの責任ってやつをわからせるために、そして何よりも――――――友達を傷つけたあの機体と今戦わず何時戦うのよってね!」

 鈴、ラウラ、セシリア、シャルロットの四人は一夏達の作戦失敗後、千冬から別室で待機命令を出されていた。しかしおとなしく待機するわけもなく、各自ISの調整を行い福音と戦う準備を進めていた。そして一夏も箒も目を覚まし、福音の居場所もラウラのドイツ軍が特定した為、千冬の許可も無く福音退治に向け行動を開始した。四人は葵の病室に到着し、

 

「一夏、箒ここにいるんでしょ。こっちに来なさい」

 鈴が部屋にいる二人を部屋の外に連れ出した。その時部屋を出る一夏を見て鈴は驚いた。

 

(箒はまだ落ち込んでますって感じだけど…一夏はそうじゃない)

 鈴は箒以上に、一夏が落ち込んでると思っていた。しかし今の一夏はそんな様子は見られない。箒の目は半分死んでいるが、一夏の目は違う。強固な意志を持った目をしている。

 

「鈴にラウラにシャルにセシリア。ちょうどいい。俺も皆に言いたい事があったんだ」

 四人を見渡して言う一夏。四人は一夏を見つめ、笑みを浮かべた。

 

「あ~あ、一夏に関しては何の心配も無かったわね」

 

「さすが嫁だ、やるべき事をわかっている」

 

「さすがですわ一夏さん」

 

「おいおい、俺はまだ何も言ってないぜ」

 

「じゃあ一夏、何を言いたいのかな」

 

「ああ、俺は今度こそ福音を倒す。絶対にだ!何が何でも負けられない!でも俺だけの力じゃ無理だ。だから…みんな俺に力を貸してくれ!」

 そう言って一夏は四人に向かって頭を下げた。それを見た四人は、笑みを浮かべながら、

 

「そんなの貸すに決まってるでしょ」

 

「わたくし達は最初からそのつもりでしたもの」

 

「居場所はもう特定している。こちらはすぐにでも出発できるぞ」

 

「今度こそ勝とうね、だから一夏もう頭上げなよ」

 一夏に協力することを約束した。

 

「ありがとな、みんな」

 

「当たり前の事を言ってるまでよ。で、箒。あんたはどうなの?居場所はわかった。一夏もあたし達もみんな戦う。あんたには専用機があって戦う術もある」

 

「わ、わたしは…」

 

「あんたはどうなの?戦うべき時戦う者なの?それとも…友達が傷つけられたのにも関わらず戦わない臆病者なわけ!」

 鈴の言葉を聞き、箒の胸に火が灯っていく。戦う事を選んだ一夏、鈴達。そして…葵を傷つけた福音を思い出し、決意した。

 

「私も戦う!今度は必ず勝つ!」

 箒の言葉を聞き、箒の決意を見た一夏達は満足げに互いに頷きあった。

 

「よし、じゃあ作戦会議を開こうぜ。葵が目を覚ましたら全てが終わってるようにするために!」

 

 

 

 

 

 

 

 目標のIS、銀の福音は南西の海上をふらふらと移動していた。一夏達と接触する前は一直線にどこかに向かっていた福音だが、接触後はどこか当てもなく彷徨い続けている。その姿は親に見捨てられた迷子のようにも見える。しかしそんな福音に、

 

 長距離から飛来した弾丸が頭部に着弾し、大爆発を起こした。

 

 すぐさま体勢を立て直し、先程来た狙撃がどこから来たものか確認。すると3km程先に大型ライフルを構えたラウラに姿があった。続けて福音に対し狙撃を行うとするラウラだが、

 

「敵機A確認。警戒レベルBと判断。目標を迎撃します」 

 オープンチャンネルから音声が流れたと思ったら、福音は恐るべき速さでラウラに向かっていった。距離がどんどん縮んでいく。ラウラも福音に対し攻撃を行っているが、福音の光弾に相殺されていった。そして距離を詰めた福音がラウラに翼を広げ一斉射撃を行おうとした瞬間、

 

「させませんわ!」

 強襲用機動パッケージを使い猛スピードでセシリアは福音に向かっていった。ビットはスラスターとして使用しているため、手に持っているスターライトmkⅢで砲撃を浴びせていく。しかし福音は難なくセシリアの砲撃を回避すると、光弾をセシリアに浴びせようと翼を展開。しかし、

 

 バアン!

 

 背中をラウラから狙撃された。体勢を崩した福音にセシリアが急接近する。距離的に光弾で迎撃するのを諦めた福音は、セシリアに体当たりをしようとする。が、

 

「はあーーーーー!」

 その瞬間セシリアの背に乗っていた鈴が、双天牙月を両手に構え、福音に向かって渾身の力を持って双天牙月を振りおろした。鈴の攻撃を脳天から受け、凄まじい衝撃と共に海に落下していく福音。しかし海に落ちる寸前でスラスターを噴出し持ち直した福音は、追い撃ちで衝撃砲を浴びせてくる鈴とレーザーの砲撃を行ってくるセシリアから逃げようと後退。しかし、

 

「逃がさないよ」

 ラウラとはまた別に地点で待機していたシャルロットが、福音に対し狙撃を開始。頭部に腹部に着弾し爆発が起きる。動きが止まった福音に、ラウラの狙撃が、セシリアのレーザーが、鈴の衝撃砲が襲いかかる。多方向からの攻撃に福音も対処が出来ず、じわじわと消耗していく。しかし、

 

「敵機B,C及びDを確認。警戒レベルBと判断。迎撃を開始します」

 オープンチャンネルから流れてくる声を鈴、セシリア、シャルロット、ラウラは聞いた。そしてそのすぐ後、

 

 攻撃にさらされながらも福音は翼を展開。まずは近くにいたセシリアと鈴に対して砲撃を行った。

 

「来ましたわよ鈴さん!」

 

「避けるわよセシリア!」

 慌てて回避に移るセシリアと鈴。しかし二人の予想を上回る光弾の雨が二人を襲った。大部分は回避出来たが全ては避けきれず、二人とも数発着弾。爆発の衝撃で吹き飛ぶ二人に福音は恐るべき速さで近づくとまずはセシリアの腹部に蹴りを放った。

 

「きゃ!」

 後方へ吹き飛ぶセシリア。慌てて鈴は衝撃砲を福音に浴びせるも、福音はすぐに後退。そして後退しながらも翼から全方向に光弾を撃ちだして鈴に、ラウラに、シャルロットに光弾を浴びせていく。しかし、

 

「そんな分散した攻撃じゃあたし達には当たらないわよ!」

 光弾を避けながら鈴は衝撃砲で攻撃していく。シャルロットとラウラも避けきれない場合はシールドを展開して防いでいく。蹴りのショックから立ち直ったセシリアも、鈴と共にスターライトmkⅢで福音を攻撃し追い詰めていく。4人の苛烈な攻撃を受け、次第に福音は形勢が不利だと判断した。

 

「…優先順位の変更。当該空域からの離脱を最優先」

 オープンチャネルから音声が聞えると共に、福音はまた全方位に光弾を浴びせ牽制。その隙に一番手薄な場所から強行突破を開始した。それを見届けたセシリア、鈴、シャルロット、ラウラは笑みを浮かべた。そして福音が強行突破した方向から真っ直ぐに――――展開装甲された紅椿が襲いかかった。

 

「逃がさん!」

 その言葉と共に紅椿から大量のレーザー群が福音に急襲。レーザー攻撃を受け福音は後ろに吹き飛んでいく。そしてその後ろから、

 

「はーい、いらっしゃい」

 鈴とセシリアが福音の両手を拘束し、福音の動きを止める。箒も福音に抱き付き、さらに身動きを止めた。無論福音も黙っておらず、自分もろとも至近距離で砲撃を浴びせようと翼を展開。しかしその前に、

 

「一夏!頼む!」

 

「おおおおおおお!」

 上空にステルスモードでずっと待機していた一夏が、零落白夜を展開して福音に斬りかかった。

 

「のあdんvsんmv;sddljsp」

 零落白夜の一撃を頭部から受け、絶叫を上げる福音。すぐに箒は福音から離れ、腹部にまた一撃を与える一夏。福音の動きが弱くなり、抵抗も弱弱しくなっていく。福音を拘束している鈴もセシリアも勝利を確信して、気を緩めてしまった。

 

 その瞬間を福音は見逃さなかった。

 

 渾身の力で二人の拘束を振りほどき、一夏達から後退。そして先程展開していた光弾を至近距離で浴びせようとするが、

 

「させるかよ!」

 一夏は零落白夜を展開した状態でスラスターを噴射しながら、福音が光弾を打ち出す前に近づき、

 

「おおお!」

 叫び声と共に一夏の零落白夜の一撃は福音の両翼を斬り飛ばした。

 

 両翼を失った福音はそのまま力を無くし、海へと落ちていった。

 

「ハアハア、やりましたの?」

 海に落ちた福音を眺めながら、セシリアは言った。箒も海面を見ながら、

 

「零落白夜の一撃に加え、両翼も斬ったのだ。これなら」

 

「ああ、俺達の勝ちだな」

 ふう、と一夏は溜息をついた。

 

「しかし俺って結局隠れて止め刺しただけだな…。皆の作戦通りにはなって勝ったけどなんだこの燻り感は…」

 

「あんたの攻撃は少しもエネルギー無駄に出来ないのだからしょうがないでしょ」

 

「それに一夏、最後の攻撃は凄かったよ!僕には出来ないよ」

 

「それを言ったら一夏、私は福音に攻撃した後抱きつくしかしてないぞ…」

 

「ちゃんと福音を挟み撃ちしてくれたではないか。レーザーの弾幕張って逃げ道塞ぐのは紅椿しか出来ないことだから胸を張っても良いと思うぞ」

 

「そんなことよりも福音を回収しませんと。中には人が乗ってますのよ」

 

「ああ、そうだった」

 一夏は改めて福音が落ちた海面に目を向けた瞬間、

 

 海面が勢いよく上に爆ぜた。

 

「な!なんだ!」

 驚く一夏の眼前に、光の球が現れた。それは福音で、青い雷を体に纏いながら丸くなっている。

 

「何だ!何が起こってるんだ!」

 

「まさか第二形態移行だと!ここで!」

 一夏の疑問にラウラが驚愕しながら叫んだ。そして全員のオープンチャンネルから福音の声が流れていく。

 

「敵機E,及びFを確認。敵機F、警戒レベルAと判断。殲滅します」

 そして福音は一夏を見据えると、背中からエネルギーの翼を生やし、恐るべき速さで一夏に襲いかかった。あまりのスピードに一夏は反応できず、福音は一夏をエネルギーで出来た翼に包みこむと、零距離で光弾を一夏に浴びせた。再び翼が開かれると、ボロボロになった一夏が海面へと落ちていった。

 

「一夏!よくも!」

 怒りに燃える鈴が福音に対し、衝撃砲を浴びせながら双天牙月を構え突撃していく。しかし福音は無数の装甲から翼を展開。先程よりも遥かに多い光弾が鈴に襲いかかった。

 

「ええ!く!」

 

「なんですのこの性能!無茶苦茶ですわ!」

 鈴の近くにいたセシリアまでも光弾の嵐は巻き込み襲いかかった。必死で回避するも、数が多すぎる。避けきれずに次々と着弾し弾き飛ばされていく。鈴達を追い払った福音は再び一夏の方に顔を向けるが、

 

「一夏!しっかりしろ!一夏!」

 一夏は箒に抱えられて福音から離れていっている。それを見た福音はエネルギーの翼を展開、それを前方に束ねるようにすると―――大型のレーザー砲となり一夏と箒に放たれた。

 

「箒!避けろ!」

 

「え?」

 ラウラの叫びを聞き、箒が振りむいた時にはレーザー砲を避ける事はもう不可能だった。そのため箒は一夏を抱きかかえ、盾となった

 

(今度は私が一夏を守る!)

 

 直撃しその衝撃で箒は気絶し、絶対防御が発生した紅椿は、一夏と共に下にあった岩礁に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と箒が福音の攻撃に晒される少し前、旅館の近くの海辺では簡易ラボを作った束が、その中でスサノオの修復作業を行っていた。

 

 スサノオ回収後はずっとスサノオの修復作業を行っている束だが、その胸中は混乱していた。

 

「何で何で何で~?どうしてこうなっちゃったのかなあ。私の完璧な未来予想図じゃ紅椿で颯爽と箒ちゃんがいっくんを運んで、福音はあーちゃんが足止めして、いっくんが止めを刺す。箒ちゃん達なら問題無く行えるはずだったのに…」

 束は、作戦中箒がした行動を思い出した。

 

「まさか箒ちゃんが…。本当ならこれで箒ちゃんの紅椿の性能、白式の一撃必殺の威力、暴走するISにも負けないあーちゃんのIS技術を世界に知らしめることが出来たはずなのに。そしてその功績でちーちゃんもあんな連中に抑えられることも無くなるはずだったのに…」

 しかし現実は作戦は失敗した。それも最悪な形で。

 

「最初は福音が暴走しているという情報掴んだ時、これだから愚民はとか思ったけど、利用させてもらおうとちーちゃんに作戦プラン教えたのに。…あの軍事施設、もう地上から消し去っちゃおうかなあ。それと、福音を暴走させた連中もかなあ」

 黒い感情が束の中で渦巻いて行く。束が行動を起こせばそれはたやすく行えるだろう。

 

「ま、それは後に考えよっと。うし!スサノオ修理完了!これでひとまずあーちゃんの命は繋がった!後は自宅のラボから医療用ナノマシンを」

 束がスサノオの修理を終えた瞬間、

 

「え?」

 スサノオは束の前から姿を消した。

 


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