IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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臨海学校(二日目 福音 決着)

「う、…うう」

 意識が朦朧とする。俺は…今倒れているよな、何が起こったんだったか…。

たしか第二形態に移行した福音が俺の目の前に現れて、その後俺の周りを奴のエネルギー翼が俺を覆って…ああそうだ、その後光弾を至近距離で浴びせられたんだった。そしてその衝撃で…おそらく気絶したのか。

 

「ぐっ…」

 クソ、かなり手ひどくやられている。まだ視界がはっきりしない。シールドで守られているとはいえ、完全に衝撃を防いでくれるわけじゃないからなあ。もうこのままここで眠ってしまいたい。体が休みたいと言っている。でも、

 

「休んでいられるかよ…」

 俺にはまだやることがあるんだ。それをやり遂げるまで、休んでいる場合じゃない!

 あいつは…、葵は…これ以上の…苦しみを…

 

「あいつを…、葵をあんな目にあわした福音をぶちのめすまでは…」

 俺が朦朧とした意識で呟いていたら、

 

 

 

 

 

 

「一夏、こんな所で寝てると危ないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 と、上から葵の声がした。ってええええ!?

 

「葵!」

 一瞬にして意識が覚醒した。目を見開き、体を起こすと…

 

 そこにはスサノオを装着した葵がいた。

 

 それは最初の出撃時と全く同じ姿をしていて…そしていつも俺に向けている笑みを葵は浮かべていた。

 

「あ、葵!ど、どうして…」

 

「どうしてって…いやあれあれ。鈴達がまだ近くで福音と戦ってるんだから、こんな所にいたら流れ弾に当たるかもしれないから危ないわよ」

 葵が指差す先に視線を辿ると、鈴達が福音と戦っている姿が見える。

 

「い、いやそうじゃない!葵、怪我は!」

 

「怪我?ああ一夏、大丈夫。箒も気絶してたけどたいした怪我はしてないから」

 そういう葵の視線を辿ると、俺のすぐ近くで気絶している箒がいた。確かに葵が言う通り大丈夫そうだ。そうか、よかった。ってだからあ!

 

「いい加減にしろ葵!俺が言いたいのはお前の怪我の事だよ!あれだけの大怪我をしたんだぞ!」

 しかし声を荒げて葵に怒鳴るも……葵の見た目は本当に怪我する前と変わっていない。俺の怒鳴り声を受けた葵は、

 

「ごめん、心配かけたけどさ…、この通りもう大丈夫」 

 と言ってにっと笑い髪をかきあげた。

 

「葵、その髪…」

 

「私の髪焼け焦げてたはずなのに、体だけでなく髪の長さまで元通りにしてくれるなんて、サービス良すぎよね。ま、髪は女の命だからかな」

 福音によって焼け焦げた髪も、元通りになっていた。俺は改めて葵が無事な姿を確認する。そして俺を見る葵の目を見て、俺は確信した。

 

 ああ、本当に葵はもう大丈夫だ。

 そしてそれを理解した瞬間、心の奥底から嬉しさがこみ上げてくる。止められない。止めれるわけがない。

 そして俺は葵を見つめながら、

 

「ったく、あんな無茶しやがって。心配させんなよな!本当に心配したんだからな!そして」

 心から思う本心を、

 

「――――ありがとうな、お前のおかげで,俺も箒も無事だ」

 葵に言った。そして俺の言葉を聞いた葵は、人差し指を立て、満面の笑顔を浮かべながら返した。

 

 

「貸し一つね。今度返しなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 頭が痛い。体中が痛い。

 少しの間私は気絶をしていたようだ。意識が戻ってきたが、それとともに体に負った痛みを自覚し始めている。しかし、この程度の痛みが何だというのだ。

 

葵は、

 

私と一夏を庇ったせいで…。

 

 立たなければ。

 戦わなければ。

 

 ふらつく体を起こし、目を開ける。そしたら…、

 

 目の前に一夏と話している、葵がいた。

 

「葵!」

 ど、どういうことだ!?葵は、旅館で寝ているはずだ。なのに、今私の目の前にスサノオを装着した葵がいる。私の叫び声を聞いて葵はこちらを振り返り、

 

「あ、箒も気が付いた。見た感じ大きな怪我は無かったと思うけど、体は大丈夫?」

 少し心配そうな顔をして私に言った。

 

「私の事などどうでもいい!それよりも葵!体は、怪我は!私よりもお前の方がはるかに重傷だったはずだろうが!」

 

「この通り。完全復活ってね。心配かけたけどもう大丈夫」

 そう言って私に笑いかける葵は、確かに大丈夫そうに見える。私に対し笑いかける葵を見て、私の中にあった不安がどんどん消えていくのを感じる。ああ、本当に……葵はもう、大丈夫なんだ。

 

「よかっ、よかった、本当に…」

 安心したら涙が溢れて来た。それを両手でぬぐい、再度葵に顔を向ける。

 

「葵、わ、私はお前に」

 葵に対して謝らなければならない。私が余計な事をしたせいで。私のせいで葵はあんな怪我を。しかし葵は私が言い終わる前に、

 

「箒、ま~言いたい事は一杯あるとは思うけど、とりあえずそれは福音を倒した後にしよっか」

 空を見上げながら、葵は私の台詞を遮った。葵が見ている方を向くと…そこにはいまだ福音と死闘を繰り広げているセシリア達の姿があった。

 

「しかし葵!」

 なおも言い募ろうとする私に、葵は指で頬を掻きながら、

 

「う~ん、じゃあ箒、これだけは先に言っとくわね。何を思ってるかは大体察しが付くけどさ

―――――――結果はどうあれ、友達が心配して助けようとした行為を、誇る事はできても怒る事は、私はできないわね」

 真っ直ぐ私を見つめながら言った。その言葉を聞いて、あの時病室で一夏が言っていた事を思い出す。

 

(葵は絶対箒を責めないだろうよ)

 

 

 ああ、その通りだった。一夏の言う通りだった。一夏の方を向くと、一夏も笑みを浮かべながらこちらを見ている。一夏は…葵がこう言うのをわかっていたのだな。

 

「さて、鈴達がまだ戦ってるし参戦しに行きますか。一夏、箒。どれだけエネルギーある?特に一夏、零落白夜は使える?」

 

「少し残ってるが…ぎりぎり後一回零落白夜が使えるといった所だな」

 

「よし、なら一夏それは絶対最後まで取っといてね。あの福音を倒すには一夏の零落白夜がどうしても必要だから。箒はどう?まだいける?」

 

 私もエネルギーを確認するが…どうやら一夏を庇ったときに全てのエネルギーを使ってしまったようだ。

 

「すまない葵、一夏…私はゼロだ」

 

「じゃあ箒はここで待っててね。全て終わらせるから」

 

「行くぞ葵!今度こそ福音を落としてやる!」

 福音に向かって飛んでいく一夏。その顔はあきらかに、さっきまでとは違った。葵が怪我してからは一夏、少し怖い顔をしていたのに今は違う。活き活きとした顔をしている。

 

 そしてその顔こそ…私が好きな一夏の顔だ。

 

「先に行くなっての。じゃあ箒、行ってくるね」

 一夏に続き葵も飛んでいった。私はそれを見送り、心の底から願った。

 

 (私も戦いたい。今度こそ、守れる存在になりたい)

 エネルギーがなくなり動けないこの機体が恨めしい。しかし私も戦いたい。葵と…一夏と一緒に戦いたい!

何で今私は戦えないのだ!私が専用機を欲しいと願った理由は、今の一夏、困難に立ち向かおうとする一夏と一緒に戦いたかったからなのに!そして、私も一夏のように仲間を守りたいのに!

 

 そう強く願い続けていたら、その思いに応えるように紅椿の展開装甲から赤い光に交じって黄金色の粒子が溢れだした。

 

「な、なんだ一体!?」

 そしてハイパーセンサーから情報が流れだす。そこには――――機体のエネルギーが急激に回復していってる事を伝えた。そして『絢爛舞踏』発動と書かれていた

 

「これが、紅椿のワンオフ・アビリティ…」

 絢爛舞踏によってエネルギーは完全に回復した。なら、

 

「私も、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死闘が続いていた。

 一夏と箒が撃墜された後も、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラの四人は福音を倒すべく戦い続けていたが、それは絶望的な戦いだった。四人は連携を取り合い、福音に対し攻撃を行っていたが、第二形態移行した福音は火力、スピード共に四人を圧倒していた。さらに、

 

「ああ、もう!いつになったらこいつ沈黙するのよ!」

 

「通常ではもうとっくにエネルギーゼロのはずですわよ!」

 セシリアのビット、鈴の衝撃砲、シャルロットのショットガンにアサルトライフル、ラウラのレールカノン等々の攻撃を受けても、福音は何事もなかったかのようにすぐに反撃に転じている。軍用ISとして開発されてる上に暴走の為リミッターカットされている福音のエネルギーは四人よりも何倍も圧倒していた。

 

「一夏の零落白夜の一撃を受けたんだからいい加減に落ちないかな」

 

「くそ、もう一度一夏の零落白夜の一撃を与えられれば…」

 四人は己の兵装の火力不足を嘆いていた。競技用のISでは十分な兵装でも、福音に対しては決定打まではいかない。無論四人の執拗な攻撃は確実に福音に対しダメージを与えてはいるのだが、福音のエネルギー翼による圧倒的な光弾の弾幕は四人の攻撃以上に苛烈で、このまま戦い続けていたら先に四人のエネルギーの方が尽きる事が四人とも理解していた。

 

「せめて近づければこれを…」

 シャルロットは左腕に装着されている盾を見ながら唸る。それは六九口径パイルバンカー≪灰色の鱗殻≫。別名盾殺しのそれは当たれば第二世代兵器の中では最強の攻撃力を誇る。しかしこの武器は使えない。いや使う事が出来ずにいた。

 

「やめておけシャルロット。今の福音に下手に近づいたら一夏のように一瞬にして蜂の巣にされる。そもそもあの光弾の弾幕を避けて近づくのはシャルロット、お前でも無理だ」

 

「そうなんだよね…」

 近づこうにも福音の動きはこちらよりも早く、全身からエネルギー翼を出し光弾を放つ福音に対し四人は近づくことすら出来ないでいた。しかも近づいても一夏ように一瞬にしてエネルギー翼に包まれて蜂の巣にされてしまう。それらを全てかわすことは出来ないとシャルロット本人もわかっている。

 

「でもこのままじゃ」

 皆やられてしまう。

 シャルロットがそう呟く前に、

 

「シャルロットさん!そっちにきてますわ!」

 一瞬でも福音から意識を外したシャルロットに福音は接近してきた。慌てて迎撃しようとするも、福音は背中に展開しているエネルギー翼から光弾を放ちシャルロットに浴びせていく。ラウラ達もサポートすべく攻撃を行おうとするが、それよりも早く福音はさらに他の部位からエネルギー翼を展開させ、光弾を打ち出し攻撃を牽制させていく。必死で回避行動していたシャルロットに福音は近づき、福音はシャルロットの足を掴んだ。シャルロットはアサルトライフルを至近距離で福音の頭部に放つも、頭部からさらにエネルギー翼が展開しそれを防いでいく。そして背中から展開されているエネルギー翼が大きく開き、シャルロットを包み込んだ。

 

(もう駄目だ!)

 シャルロットがそう思い目を瞑った瞬間、

 

 バアン! 

 

 爆音が響いた。

 

 爆音を聞き、シャルロットが目を開くと―――――――そこには攻撃を受け吹き飛ばされている福音の姿が見えた。

 

「あ、ありがとう。助かったよ!」

 そう言ってシャルロットはラウラ達の方を向くが、皆惚けたように福音とは別の方向を向いていた。何で?と思いながらシャルロットもラウラ達が見ている方を向くと、

 

 

 そこには、白式を展開させた一夏と、スサノオを展開した葵の姿があった。

 

 葵の手には天叢雲剣が青く光っている。シャルロットを救ったのは、その天叢雲剣の攻撃だった。それは鈴もセシリアもラウラも、助けられたシャルロットもすぐにわかった。しかしわからないのは一つ。

 

 どうして大怪我を負って意識不明のはずの葵がここにいるのだろうと。

 

「あ、葵!?あんた何で?あんただって大怪我して!」

 四人の心を代弁するかのように鈴が葵に対して叫んだ。ひどく混乱しながら叫ぶ鈴に対し、葵は笑みを浮かべながら叫んだ。

 

「皆が喧嘩してるのに私だけいつまでも寝てるわけにはいかないでしょーが!」

 葵の姿、態度を見た鈴は昔を思い出した。転校してしばらくたっていじめられた自分を、庇ってくれた一夏のすぐ後に来て助けてくれた姿を。

 

「く~~~!あんたら二人とも毎回タイミングが良すぎる時にくるわね!」

 そう悪態をつく鈴だが、顔は笑っていた。

 

「葵さん!本当に大丈夫なんですの!寝てなくて平気なのですの?!」

 

「ええ、もう本当に大丈夫!完全復帰したわよ」

 心配顔のセシリアに対し、葵は親指を立てて笑った。その姿を見て、セシリアの顔にも笑顔が広がっていく。

 

「一夏も気が付いたか。体の方は大丈夫なのか?」

 

「一夏、箒はどうしたの?箒も大丈夫なの?」

 

「ああ、心配かけてすまない。俺は大丈夫だ。箒もエネルギーがなくなってるからここにいないが、体の方は大丈夫だ」

 一夏と箒も無事とわかり、鈴達は安堵した。戦っている最中も二人の事は心配していたからだ。

 

「いや和んでいる場合ではないぞ皆―――――――来る!」

 ラウラの叫びに、全員がラウラが見ている方向を見る。天叢雲剣の全エネルギーの内半分を一度にレーザーとして撃ちだした葵の攻撃からまた体勢を立て直した福音は、新たに現れた葵と一夏を見据えている。

 

「警戒レベルAの敵機F、戦線復帰。敵機Gを確認。敵機G,過去のデータから同機を確認、照合。警戒レベル―――Aと判断。敵機F及び敵機Gを最優先で殲滅対象とします」

 一夏達がオープンチャンネルから流れる声を聞いたと同時に、福音は一夏達の上空まで最大加速で飛ぶと全身からエネルギー翼を展開し、その場で一回転した。その瞬間、

 

 福音を中心に全方位からの光弾が一斉に一夏達に襲いかかった。

 

 必死になって避ける一夏達。しかし圧倒的な光弾は容赦なく一夏達に浴びせられていく。そして福音はさらに一夏に照準を絞り光弾を浴びせていく。光弾が一発、二発と一夏に着弾し福音の猛攻に一夏は晒されたが、

 

「一夏!」

 シャルロットが一夏の前に出て実体シールドとエネルギーシールド両方を併せ持つ『ガーデンガーデン』を展開して福音の攻撃から一夏を守った。

 

「いい加減それ見飽きたのよね!」

 

「一夏はやらせないわよ!」

 

 葵の天叢雲剣のレーザーの斬撃と、鈴の衝撃砲が福音を襲った。福音はすぐに回避したが攻撃を止める事に成功した。その福音を葵はじっと見つめる。

 

「ねえ、さっきから聞こうと思ってたんだけど……何か福音パワーアップしてない?頭から生えてた両翼無くなってるけど、全身からなんかエネルギーでできた翼生やしたりしてるし」

 

「葵さんが眠られてる間に私たちが戦ってたのですが…一夏さんの零落白夜の攻撃を受けた後第二形態移行されましたの!」

 葵の疑問に対し、セシリアはビットを展開し多方向から福音にレーザーを浴びせながら叫んだ。

 

「第二形態移行!?そんなRPGのラスボスじゃあるまいし…」

 

「知らないわよそんなの!」

 福音の光弾を避けながらぼやく葵に対し、同じく避けながら衝撃砲を浴びせていく鈴。葵は天叢雲の剣を振りながらも、

 

「…ねえ一夏、なんで一夏は第二形態移行してないの?普通親友が敵の攻撃を受けて死ぬか大怪我負ったら『葵のことかー!』とか叫んでパワーアップするもんじゃないの?」

 一夏の方を向き、ジト目をしながら葵は一夏に言った。

 

「知るかそんなもん!それだったら葵、お前も何で死の淵から復活してるくせにパワーアップしてないんだよ!漫画とかじゃ死の淵から復活した者は新たな力と共に登場するもんだろうが!」

 葵の質問に、一夏はシャルロット共に光弾を避けながら叫んだ。

 

「はあ?無茶言わないでよ。大体復活するだけでも奇跡なのにさらに新たな力とかどんだけ要求するわけ?大体そういうのは主人公がするわけであって、どちらかというとヒロインの私の役じゃないし」

 

「ヒロイン(笑)」

 

 一夏に対しさらに葵は何か言おうとしたが、

「いいから戦いなさいよあんた達!」

 

「戦いに集中しろ二人とも!」

 

「今の状況わかってますの!」

 

「一夏、戦わないなら守らないよ…」

 一夏と葵に対し鈴、ラウラ、セシリアは本気で怒鳴った。シャルロットも顔は笑ってるが目は全く笑ってない顔をしている。しかしそれでも攻撃の手を緩めない辺りはさすが代表候補生であった。

 

「…まあ確かにそんな場合じゃないわね。よし、一夏!零落白夜の準備していて!私が」

 四人の怒りを感じ、改めて意気込む葵に対し、

 

「すまん葵…。さっき福音の攻撃を受けたせいでもう使えなくなった」

申し訳なさそうに一夏は言った。

 

 

 この時全員の時は確かに止まった。

 

 そしてすぐに

 

「この役立たず~~~~~!」

 葵の叫びが周囲に響いた。

 

「…すまん。マジですまん」

 

「いや仕方ないよ。福音のあの攻撃は僕たちだって避けきれないし」

 落ち込む一夏をシャルロットが慰める。

 

「あ~切り札が戦う前に尽きたわね…」

 

「…もう本当に逃げる事を考えた方がいいのかもしれんな」

 

「あの福音がそれを許すと思う?」

 退却を本気で考え出したラウラに、葵が福音を指差す。鈴とセシリアの攻撃を受けながらもこちらを殲滅せんと光弾をばらまいていく。

 

「…無理だな」

 

「…とはいえ本気でヤバい状況よこれ。一応出発する前に千冬さんに私がここに行く事はメールで伝えたら、すぐにオープンチャンネルで千冬さんから教師部隊の準備が完了するまで待てとか叫んでたけど…何時来るかまではわからないし」

 

「…一応援軍は来るのだな。しかし」

 

「…下手したら来る前にこちらは全滅するかもしれないけどね。こうなったらラウラ、シャルロットと共に一夏にエネルギーギリギリまでわけてあげる事出来る?はっきり言って一夏の一撃無くて倒せるとは思えないし。その間私が福音をこちらに近付けないようにするから」

 

 葵は天叢雲剣を構え、鈴とセシリアの援護に向かおうとした。しかしその前に、

 

「みんな無事か!」

 箒の声が聞こえ慌てて声がした方を向く葵達。そこには、

 

 全身から黄金の粒子を纏った箒がいた。

 

「箒?お前確かエネルギー切れのはずじゃ?」

 

「一夏!これを受け取れ!」

 一夏の疑問に答えず、箒は一夏の手を握った。すると紅椿から白式にエネルギーが注がれていく。あっという間に白式のエネルギーは満タンとなった。

 

「え、エネルギーが回復した!」

 驚く一夏に対し、箒は白式から離れると、

 

「行くぞ一夏!今度こそ、福音を倒すぞ!」

 一夏に叫ぶやいなや箒は紅椿を最大加速させ、福音に向かっていった。

 

「何があったんだ箒に?しかしこれでエネルギーが回復した!」

 

「箒はパワーアップしたのにお前ときたら…」

 

「しつこいぞ葵!それよりもこれで」

 

「ええ、決めるわね」

 葵は不敵に笑った。

 

「でもどうするの葵。一夏の零落白夜は使用可能になったけど、あの福音にあてるのは相当難しいよ」

 箒、セシリア、鈴、ラウラと交戦している福音を見ながらシャルロットは葵に聞いた。

 

「それは私がお膳立てしてあげる。一夏、私が攻撃の機会を作るからそれでしとめてよ。それが最後のチャンスだから」

 真剣な顔をして一夏に言う葵に対し、

 

「まかせろ」

 一夏は力強く頷いた。

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ始めようか。箒!鈴!セシリア!ラウラ!シャルロット!これから私は福音に対し接近戦を持ち込むから皆サポートお願い!」

 そう叫ぶやいなや葵は福音に対し最大速度で向かっていった。

 

「葵!?無茶だ!」

 

「無茶でもやるっきゃないでしょ!皆とにかく撃ちまくって!」

 ラウラの叫びも振りきり葵は福音に向かっていく。無論福音も黙って接近を許すわけがなく全身から展開されたエネルギー翼から光弾を撃ちだしていく。しかし、

 

「させませんわ!」

 

「こっち向きなさい!」

 

「邪魔はさせん!」

 セシリア、鈴、箒は葵を援護すべく福音に猛攻を浴びせていく。ラウラもシャルロットも長距離狙撃で攻撃するも、福音はまた全方位攻撃を行い箒達を薙ぎ払う。近くにいた箒達は福音の攻撃を受け吹き飛ばされていく。しかし、

 

「まだまだ~~~!」

 葵はその福音の光弾を避けながら弧を描くように福音に近づいていった。無論全弾回避は無理であり、数発の光弾は葵に着弾していた。しかしスサノオの装甲が少し砕けようとも、葵は福音に向かい続けた。

 

 第一形態時ならともかく、第二形態の福音の攻撃はいかに葵といえども避けきれず、単独で福音に近づくのは無理であった。しかし全員で福音の意識を分散させたら、全方位でのバラマキ型なら葵は避ける自信があった。多少予想以上であったが、それでも葵は福音に近づいていく。福音もそんな葵を脅威を判断し、さらに光翼を展開し葵に対し光弾の数を増やしていくが、そのすぐ後に、

 

 バアン!という音が鳴り、福音の頭部は爆発した。

 

 葵に攻撃を集中させたとはいえ、福音は鈴達の警戒を怠ってはいなかった。多少数は少なくなったが、以前福音は全方位に光弾をばら撒いて鈴達を牽制していた。しかし、先ほどよりも葵に対し攻撃優先度を上げた福音の攻撃は、葵以外の者にとって回避する余裕が出来、葵以外の者に――攻撃する余裕も出来た。元々福音から距離を取っていたラウラが、少しでも攻撃が緩くなった瞬間にオーディンの瞳を極限まで広げ、光弾の雨を掻い潜るレールカノンの狙撃を行った。

 ラウラの一撃により光弾が一瞬止み、それを好機と見た葵は勝負に出た。

 

「ハアアア!」

 ラウラの攻撃からすぐに福音は立ち直ったが、しかしその時にはすでに葵は福音に『瞬時加速』を使って突撃していた。一瞬にして葵は福音の正面まで近づき、残るエネルギー全て天叢雲剣に注ぎ福音の頭部めがけて振りおろそうとした。

 もはや翼での迎撃では間に合わないと福音は判断。そして葵の持っている剣は過去のデータからかなりの威力があると理解した福音は、両手からエネルギー刀を展開。両手を交差させ、葵の一撃を防ごうとする。

 

 その福音を見て、葵は会心の笑みを受かべ―――――天叢雲剣を消した。

 剣を収納した葵を、福音は理解できなった。しかし剣を消した意味を理解する前に、

 葵は福音の懐に近づき、右拳を構え、

 

「ハアッ!」

 気合いと共に葵が一番得意とする、正拳突きを叩きこんだ。その拳は福音の腹部に当たり、その瞬間、

 

 

 

 

 福音は爆音と凄まじい衝撃を受け後方に吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 体を錐もみしながら吹き飛んでいく福音。その先には、

 

「じゃあ一夏、後はよろしく」

 零落白夜を展開させた一夏がいた。一夏は吹き飛んでいく福音に、

 

「今度こそ決める!」

 最大稼働させた零落白夜の一撃を与えた。一撃を受け福音は絶叫を上げて一夏の首に手を伸ばすも、

 

「おおおお!!」

 ブースターも全開にして一夏は福音にさらに零落白夜の刃を押し付けていく。福音の手は一夏の首に届く前に―――全ての機能を停止した。

 

「おっと」

 銀の福音の装甲が消え、中にいた操縦者が落ちそうになったのを慌てて一夏は抱きとめた。顔色は悪く気絶しているが、大きな怪我とかは無いようだ。ほっとする一夏の前に、葵は近づき、笑顔で右手を上に上げる。一夏もそんな葵を見て、左手で操縦者を支える。そして笑顔を浮かべながら右手を上げると、

 

 パアンという音が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「任務完了と言いたいが、お前達は独自行動を起こし重大な違反を犯した。帰ったら反省文の提出と懲罰用特別トレーニングがお前達を待っている。覚悟しておけ」

 福音を倒し、旅館に帰った俺達を千冬姉と山田先生は玄関で待っていたがそこから出る言葉は勝利の祝いの言葉ではなく……なんともキツイ説教だった。

 いや千冬姉、確かに千冬姉の言う事はもっともだけどさ、少し位は褒めてくれよ…。

 

「まあまあ織斑先生、みなさんもうボロボロですからこのくらいで」

 旅館の玄関前で説教をし続ける千冬姉に、やんわりと助け船を出す山田先生。ああ、天使に見えます。

 

「ふん、まあいいだろう。お前達、これから山田先生の指示の下怪我のチェックをしてもらえ。特に葵、理由がわからずいきなり全快してるから特に念入りにな」

 

「わかってますよ」

 そして千冬姉は俺達をじっと見つめだした。

 

「え~っと、なんですか織斑先生」

 じっと見つめられて居心地が悪いくなった俺が聞くと、

 

「…しかしまあ、お前達よくやった。よくあの福音を倒したもんだな。そして、ちゃんと皆無事に帰って来た」

 そう言うと、千冬姉は俺達から顔をそらした。もしかして照れてる。あ、山田先生にやにやしながら千冬姉見てる。葵達も千冬姉の言葉を聞いて嬉しそうな顔をしてるな。特にラウラが。

 そして旅館に入ろうとしたら、いきなり玄関が開いた。そこからのほほんさん達が現れて、

 

「よかったよー。おりむーたち全員無事だよー」

 

「みんな鬼退治おめでとう!」

 

「怪我とかない?大丈夫?」

 俺達に祝福と心配の声を掛けてきた。

 

「大丈夫よみんな。この通り深刻な怪我してないから」

 

「それが一番おかしいわよ!」

 葵の返事に谷本さんが全力でつっこんだ。…まあそうだよなあ。

 

「それにしても皆無事で本当によかった~。準備したかいがあったもの」

 鷹月さんがしみじみしながら言った。準備?ってあーそうだったそうだった。

 

「え、皆準備してくれてたの」

 

「当然!青崎さんが謎の復活をしたという情報が入ったからならいけると思ってね」

 

「謎って…まあそうだけど」

 シャルの質問に谷本さんが親指立てながら答えた。おお、素晴らしい。

 

「本当に!すみません山田先生、さっさと検査終わらせましょう」

 

「是非ともそうして下さい山田先生」

 鈴とセシリアがさっさと検査を終わらせようとせっつく。

 

「ラウラ、僕達も準備しないとね」

 

「ああ、ようやくメインディッシュの時間だな」

 シャルもラウラもこれからの事を考えると笑みを浮かべている。

 

「…いやみんな、準備とは何だ?何の事を言ってるんだ?」

 一人事態についてこれず混乱する箒。そんな箒を見て、

 

「何って、これから皆で篠ノ之さんの誕生日会をするわよ」

 笑顔を浮かべながら谷本さんは言った。

 

「た、誕生日会!私の!」

 驚く箒に

 

「箒、あんた今日誕生日なんでしょ。葵に言われるまで知らなかったけど」

 

「ちょうど臨海学校中でしたから、どうせなら皆でお祝いしようと思いまして」

 

「皆でプレゼントも買ったぞ。楽しみにするがいい」

 

「ちなみに誕生会を発案したのはそこの谷本さん達だよ。クラスでどうお祝いしようか話してたら、皆ノリノリになってね」

 

「そ~いうこと。じゃあ箒、福音退治という前座は終わったし本日のメインイベントを始めるわよ」

 

 鈴、セシリア、ラウラ、シャル、葵が笑みを浮かべながら箒に言っていく。

 

「あ、篠ノ之さん。パーティ期待しててね!篠ノ之さんの好きな食べ物、昨日聞いた分沢山用意したからね!」

「皆で沢山作ったよ~。しののん楽しみにしててね~」

 

「まさか昨日、あれだけ質問してたのは…」

 

「そーいう事。青崎さんと話ししながら篠ノ之さんの好みを聞きだしてたって訳」

 笑顔を浮かべながら、ハイタッチする葵、谷本さん、鷹月さん、のほほんさん。

箒はそんな皆の姿言葉を聞き、茫然としてたが瞳に涙が溜まっていく。そして、

 

 

「ありがとう、皆。私なんかの為にこんな、こんなに…本当にありがとう」

 半分泣きながら笑顔で言った。

 

「おいおい泣くなよ。箒、じゃあ中に入ろうぜ!」

 俺は箒の手を握り、旅館の中へと入って行った。

 


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