IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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臨海学校(三日目 戦後処理)

「いや~箒の誕生日会、大盛況だったわねえ一夏。あんなに箒が嬉しそうな顔してたの久しぶりかな」

 

「福音退治の祝勝会も兼ねてたからな、クラスの全員はもちろん他クラスも巻き込んで騒いだよな」

 

 沈みかける夕陽が綺麗に見える旅館の一室で、現在俺と葵は箒の誕生日会の事を語りながら夕食を食べている。部屋には俺と葵しかいない。そして俺と葵の目の前には…大トロにアワビにオコゼに鯛等が乗っている豪華絢爛な刺身盛り、とらふぐの唐揚げ、スズキのパイ包み焼き、ハモの蒲焼、フカヒレの姿煮等々、一体全部でいくらかかるのか想像も出来ない御馳走が目の前に並んでいる。

 …いや「ちょっと奮発して良い物食べよっか」と葵が言って女将さんに料理注文してたけど、やりすぎだろこれ。全額葵が払うとは言ってるから金の心配はしなくていいとか言ってるが…。

 

「こちらは伊勢海老の椀物ですよ」

 

「へ~伊勢海老ですか。これも凄く美味しそうですね~」

 さらに女将さんは料理を運んできて、葵が嬉しそうな顔しながらその料理を受け取った。さっきから幸せそうな顔して料理を食っているな葵。いや確かにめちゃくちゃ美味いけどな。俺も葵に負けない位目の前の御馳走食べまくってるし。普段は夕食時は多く食べない俺も葵も、この御馳走の前にはそんな主義は吹っ飛んでいた。

 

「いや~二人ともよく食べますね~。やっぱり若いだけありますね」

 

「いえいえ女将さん、ここの料理が美味しすぎるせいですよ。あ、よろしければこのスズキのパイ包み焼きの作り方教えてくれませんか?家に帰っても食べたくなる味ですので」

 

「あらあら。そんなに気に入って貰えたのでしたら喜んで教えてあげますよ。でも難しいわよこの料理」

 

「大丈夫です、腕には自信がありますから――――――そこの一夏が」

 

「作るの俺かよ!」

 

「冗談よ冗談。でも一夏、この料理気に入ったでしょ。私も一緒に作るからさ」

 

「ん…わかったよ、それなら俺も一緒に作ってやるよ」

 

「頼むわよ一夏、一人じゃ作るの難しそうだし」

 

「ふふふ、お二人とも大変仲がよろしいんですね」

 

「そりゃ勿論、幼馴染で親友ですから」

 葵が笑顔で答えると、何故か女将さんは愕然とした顔をした。え、どうしたんです?

 

「はあ、幼馴染で親友ですか。それで仲がよろしいんですねえ」

 女将さんはそう言った後、何故か同情した顔をしながら俺に近づき、

 

「…気を落とさず、頑張りなさい。もっと攻めないと彼女の認識は変わらないわよ」

 と、謎の言葉を俺に耳打ちして部屋を後にした。…いや、一体なんの事です?何を頑張れって?

 

「?何を言われたの一夏?」

 

「…いや俺もよくわからん。何か頑張れとかお前の認識を変えろとか言ってたが、何の事だか」

 

「私の認識?何の事なんだろ?まあいいや、そう言えば昨日は束さんも登場し吃驚したわね。束さんいきなり乱入して箒に抱きついたと思ったら、満面の笑みで『箒ちゃんお誕生日おめでとう、これ私からのプレゼントだよ!』と言って箒にプレゼント渡した時は箒本当に驚いてたし。私てっきり紅椿が箒の誕生日プレゼントだと思ってなあ。箒もそう思ってたみたいだから凄く戸惑ってたけど、結構嬉しそうに受け取ってたわね」

 

「中身は束さんとお揃いのリボンだったな。『箒ちゃん、これで姉妹お揃いだね!』と束さん笑顔で箒に言ってたけど、…箒何とも言えない微妙な顔してたな」

 

「そう?戸惑ってたけど、箒嬉しそうだったわよ。多分あれは照れ隠しよきっと」

 そう言って大トロを美味そうに頬張る葵。俺はハモの蒲焼を食べる。ああ、美味いなあこれ。

 

「プレゼントといや鈴はチャイナドレスだったな」

 

「あれ箒に似合いそうよね。セシリアは高そうなティーセット一式あげてたっけ。さすがイギリス人」

 

「シャルはバレッタを箒に贈ってたな。そしてラウラは…軍用ナイフだったな。とても切れ味が良いと真顔でナイフの説明してたが箒の顔少し引きつってたなあれは」

 

「ラウラらしいと言えばらしいわね」

 

「お前は簪だっけ。結構凝った細工されてて綺麗だけど簪とはなあ」

 

「髪伸ばして苦労を知ってね。毎日使う物だし」

 そう言って髪を掻き上げる葵。髪を伸ばして葵も髪のケアの大変さを身にしめているらしい。葵さっき温泉に入ってたせいだろうか、少し赤くなっている顔に浴衣姿でその行為は、なんというか…少し色っぽいな。妙だな、いつも部屋でシャワーを浴びた後の葵を見てたりしてるのに、今日の葵は何時もと違って見える。やっぱここが旅館で葵が浴衣着てるせいか?

 

「どうしたの一夏。急に顔赤くして?」

 

「何でもねえよ!気にすんな!」

 

「…何怒ってんのよ。あ、そういえば一夏も箒の誕生日プレゼントはリボンだっけ。一夏にしては良いプレゼントね」

 

「…お前昨日散々『束さんと被ってるー!』と叫んでたがな。後何だよ俺にしては良いプレゼントって」

 

「いや一夏なら木彫りの熊の彫刻でも送りそうだし」

 

「送るかそんなもん!」

 

 

 

 

 俺達はその後も箒の誕生日会の出来事について語りながら、

 合宿3日目の夜を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は少し遡る。

 昨日の箒の誕生日会は、束さんの乱入等もあり大変盛り上がった。夜の11時過ぎまで騒いでいたが、それ以上はさすがに千冬姉が許さず会そのものはお開きとなった。しかし臨海学校最終日、皆おとなしく眠るはずもなく各部屋で夜通し騒いでいたらしい。いや俺は千冬姉と部屋が一緒の為皆とは別だからぐっすり眠れたけどな。葵も原因不明の治癒で復活したので、とりあえず様子見のため皆とは隔離された場所で眠らされたため、葵もぐっすり眠れたようだ。しかし箒達は福音について質問責めされたり、専用機持ちとしてのIS操縦のコツ等を延々と質問されたりと一睡も出来なかったようだ。

 翌朝箒達を見たら皆目にでっかいくまが出来ていた。

 

「こういったイベントでは生徒は旅館では眠らず、帰りの交通機関で眠るのが日本の伝統らしいな…」

 かなり眠そうな顔をしながらラウラが俺に言ってきた。…まあ概ね間違ってないかな。

 千冬姉や山田先生にも目にくまが出来ていた。どうやら福音について政府のお偉いさん方と夜通し報告しあってたらしい。…そういや千冬姉、部屋に戻って来なかったな。

 その後全員寝不足で幽鬼のような顔しながらも撤収作業は開始された。10時前には全て終わり、みんなバスに乗り込んでいった。

 

「ようやく眠れる~」

 青い顔をしながら谷本さんがバスに乗っていく。のほほんさんにいたってはもう眠りながら歩き、バスに乗っていった。

 昨日激戦を繰り広げた鈴達の疲労は凄まじく、すでに足取りはヤバかった。特に前線で戦い続けた鈴とセシリアは酷かった。葵がそんな二人を支えながらバスに乗ろうとしたら、

 

「ちょっと待った。貴方たちでしょ、織斑一夏君に青崎葵さんってのは」

 と、声を掛けられた。俺と葵は声がした方を向くと、そこには20歳位の美人な金髪のお姉さんがいた。ってあれ、どこかで見たような…。

 

「はい俺は一夏ですけど…」

 

「葵は私の事ですが…何か用でしょうか?」

 お姉さんの問いに肯定する俺と葵。俺も葵も、近くにいる箒達も誰だろうこの人?と思ってたら、向こうは笑みを浮かべて言った。

 

「ああ、自己紹介が遅れたわね。私はナターシャ・ファイルス。銀の福音の操縦者よ。昨日貴方が私をお姫様抱っこしてくれてたのに忘れたのかしら」

 

「ああ!」

 ナターシャさんの自己紹介に、俺と葵は勿論近くにいた箒達も思い出したようだ。そうそうこの人だよ、昨日はこの人気絶してたしみんな福音を倒した後ふらふらになって帰ったからあんまり顔見て無かったんだよあ。しかしもうこの人動けるのかよ。凄い回復力だな。

 驚く俺達をナターシャさんは笑みを浮かべながら見渡し、

 

「皆ありがとう。貴方達がいたから私は助かって、今こうして話をする事が出来るわ」

 俺達にお礼を言って頭を下げた。そして顔を上げると葵の前に立ち、

 

「貴方の攻撃、効いたわよ。あの青く光る剣の一撃もだけど、あの最後の拳の一撃。まだお腹に衝撃が残ってるわ」

 そう言ってナターシャさんはお腹をさすった。

 

「あ、すみません…」

 

「ふふ、別に謝らなくてもいいわよ。しかし貴方も拳で戦うのね。うちのイ―リスと気が合いそうね。そして―――――どっちが勝つかも興味あるわ」

 

「そんな国家代表にまだ私は勝てませんよ」

 

「まだ、ね…」

 葵の返答に目を細めながら薄く笑うナターシャさん。次に俺の方を向き、

 

「貴方の攻撃が一番効いたわ。さすがブリュンヒルデの弟、ワンオフアビリティも同じだなんてね。助けてくれてありがとう。貴方の一撃が私を解放してくれたわ」

 俺の手を握り笑みを浮かべながら感謝の言葉を言うナターシャさん。…俺のおかげ、か。

 

「いえそんな。みんながいたから俺はあの一撃を与える事ができたんですから」

 

「ふふ、謙遜しなくてもいいわよ。実力が無かったら私を倒せるはずがないんだから」

 そう言ってナターシャさんは俺から離れると、

 

「感謝のキスでもしようとは思ってたけど、彼女に悪いからやめとくわね」

 悪戯っぽく言って笑った。…いやナターシャさん、彼女って誰のことですか?そしてナターシャさんは俺と葵を見て、若干真剣な顔をしながら、

 

「じゃあね二人とも。次はモンド・グロッソで会えるのを楽しみにしてるわ」

 と、言って去っていった。

 

「モンド・グロッソで、か。葵はともかく俺はなあ…」

 ナターシャさんはああ言ってたけど、俺の実力は…。

 

「…なんかあたくし達見事なまでに眼中に入ってませんでしたわね」

 

「僕達も戦ってたんだけど、あの人一夏と葵以外はその他扱いにしてたよね…」

 去っていくナターシャさんを見ながら文句を言うセシリア達。

 

「しかたあるまい。実際あの戦いで戦局を動かしたのは葵で、止めを刺したのは一夏なのだからな」

 みんなが怒る中、ラウラは一人冷静にあの戦いについて分析していた。

 

「…あんたも結構美味しい所持ってたけどね」

鈴の呟きを全く無視し、ラウラは葵の方を向き、

 

「葵、お前も専用機を手に入れたのだ。帰ったら私と戦え。今までお前は専用機を持ってなかったが今は違う。対等の条件でお前と戦い、そして勝つ!」

 真剣な顔をして葵に言った。

 

「ええ、スサノオがある今なら真っ向勝負で勝って見せるわ。…でも今日は止めといたら。疲れてるから明日お互い万全の状態で」

 

「…そうだな。今日は体を休めるとしよう

 葵もラウラの声と態度から本気である事を知り、真剣な顔をしてラウラの挑戦状を受け取った。そして俺達はバスに乗り込もうとしたら、

 

「待って!待ってください~~!織斑君達はバスに乗らないでください~~~!」

 山田先生が走りながら俺達に叫んだ。

 

 

 

 

 その後山田先生から専用機持ちは全員ここに待機するよう命じられた。他の生徒達は先にバスに乗って帰ってしまった。

 

「…なんですの一体。わたくしもう学園に帰ってゆっくりしたいですのに」

 

「…同感。あ、もしかしてあたし達だけもう一泊ここでゆっくりしていいとか!福音倒した功績で一日遊んでいいとか!」

 

「おいおい、そんなわけが」

 

「ああ、凰。お前の言う通りだ」

 鈴の言葉に突っ込もうとしたら、その前に千冬姉が鈴の言葉を肯定した。ってええ!マジで!てか千冬姉何時の間に!

 

「ほ、本当ですか!織斑先生!」

 おお、鈴が目を輝かせながら千冬姉に詰め寄ってる。いやセシリアにシャル、箒に葵にラウラも嬉しそうだ。

 

「ああ本当だ、お前達は今日もここで泊る事となった」

 眠たそうな目をしながらも笑みを浮かべながら千冬姉は俺達にそう言った。それを聞いた俺達はそれはもう喜んだ。なんだよ千冬姉、昨日は散々福音倒しに行った事責めてたけどちゃんと御褒美くれるんだ!

 しかし喜ぶ俺達だが、

 

「ああ、大いに遊んでいいぞ。―――――――お前達のIS装備の各種試験運用データ取りが終わった後でな」

 千冬姉の台詞で、俺と箒を除く全員の動きが止まった。…ああ、そういや昨日はそれが行われるはずだったけど福音騒ぎで流れてたんだっけ。でもたしかあれ一日かけてやるもんだよな確か。

 

「…織斑先生、それはIS学園に帰ってからでも」

 

「却下だ青崎。本来なら昨日終わらせるはずだったがあの騒ぎのせいでそれどころではなかったからな。スケジュールの関係上今日にでもデータの内容を報告せんといかん」

 そして千冬姉は鈴達の方を向き、

 

「お前達も代表候補生ならわかるな、国の為に協力せんとどうなるかは言わずともわかると思うが。な~に凰、専用機持ちの責任とやらを果たしてくれればいい」

 有無を言わさぬ口調で鈴達に言った。…遠まわしにやらなかったら鈴達の立場が危うくなるっていってるんだよなこれ。

 さっきまでの喜びから一転、全員膝を付いて落ち込んでいる。

 

「ちなみに織斑に篠ノ之、お前達にも協力してもらう。せっかく専用機を持ってるんだ、友達を助けてやれ」

 …ああ、それで俺と箒も残されたわけか。

 

「全員わかったらさっさと始めるぞ!お前達の試験用装備は昨日先生方が入江に置いているから入江に着き次第すぐにやってもらう。な~に頑張れば夕方には終わるかもしれんからそれ以降は遊んでいいぞ」

 千冬姉の言葉に、俺達は力なく「はい」と答えた。

 

 

 

 そして夕焼けが見える時間帯になった頃、ようやく俺達は全ての試験データを取り終えた。…キツかったなマジで。日本もだがイギリスもフランスもドイツも中国も装備送りすぎだろ。

 

「IS装備データは全て終了だ。これから明日の朝までは自由時間にしてやる。好きなだけ遊べ」

 …いや千冬姉、もう夕方なんですが。そして俺は周りを見渡すと…そこには死屍累々と言った光景があった。

 

「…鈴、終わったわよ。遊べるわよ」

 

「そんな気力もうどこにも残って無いわよ…」

 浜辺で寝そべっている鈴に葵が話しかけるが、死にそうな程弱弱しい声で鈴は答えた。セシリアにラウラ、シャルに箒も浜辺で倒れている。

 

「では私と山田先生は今回のデータを各国に送るために旅館に戻る。後はお前達の好きにしろ」

 そう言って千冬姉と山田先生は旅館に行ってしまった。…千冬姉も疲れた顔してたけど、山田先生はそれ以上にフラフラだったな。昨日から徹夜で仕事して今日も夕方まで俺達と一緒に装備のデータ取りやってたから無理も無いけど。

 

「ねえ一夏、これからどうする?」

 みんな浜辺に倒れてる中、葵だけ元気であった。まあ昨日ぐっすり寝れた俺と葵はきつかったがなんとか耐えきれたが、昨日から戦い続けて徹夜してた箒達はもう体力の限界のようだ。

 

「…旅館に戻るか」

 

「…それしかないわね」

 その後俺と葵はISを展開し、箒達を担ぎあげて旅館に戻る事にした。用意された部屋に入り布団を敷いてそこに寝かすと、全員すぐに眠ってしまった。俺と葵は部屋から出て、一応千冬姉に全員部屋で寝た事を伝えようと千冬姉の部屋に行ったら、

 

「…寝てるわね」

 

「…ああ、爆睡だな」

 …千冬姉と山田先生もパソコンの前で突っ伏して寝ていた。一応ゆすって起こしてみたら、千冬姉が殺しそうなほどの目つきで俺を睨むと、

 

「…タイマーをセットしてある。仮眠くらいさせろ」

 そう言ってまたすぐ眠ってしまった。いや千冬姉、それなら布団で寝ろよ。しかし先程の形相を思い出し、俺は起こすのを止めた。

 

「さて、どうするよ葵。みんな眠っちまってるけど」

 廊下を歩きながら、葵にこれから何をしようか聞いてみた。

 

「とりあえずご飯でも食べない?お腹すいたし」

 確かにな。そういやお昼ご飯食べる暇も無くデータ取りに追われたしなあ。

 

「あ、一夏。どうせなら少し奮発しよっか。千冬さん達も眠ってるし黙って美味しいもの食べよ!大丈夫、金は私が払ってあげるからさ」

 そう言って葵は女将さんに料理の注文をしに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし葵、いくらなんでも注文しすぎだろ…。某ごちになります番組でもここまで注文したりしないぞ」

 

「その料理をきっちり完食した一夏に文句言われたくはないわね。私より食べたくせに」

 これでもかっという位沢山あった御馳走だが、テーブルの上にあった料理は全て俺と葵の二人で完食した。…まあ確かにどっちかというと俺の方が食べたけどな。15の男の食欲を舐めんなよ。

 その後葵は急須にお湯を入れ、お茶を作り俺の前に湯のみを置いた。

 

「はい一夏、食後のお茶」

 

「ああ、サンキュ」

 ずずーっとお茶を流し込む。うむ、美味い。葵もお茶を飲んでくつろいでいる。

 

「って葵、話しそらすな。さっき俺達が食べた料理はどう考えても少し奮発ってレベルじゃ無かったぞ。なんでまた急に」

 俺の再度の問いかけに葵は

 

「まああれよ、生の実感を得たかったからかな」

 と、少し真面目な顔をして俺に言った。

 

「生の実感?」

 

「そ、生の実感。まあ単純な話よ。ほら私死にかけたじゃない。ってああ一夏!そこで暗い顔しない。後それで引け目に感じない!もうその件はあの時箒としたでしょ。話を戻すけど、スサノオのおかげで復活しその後はみんなを助ける為に無我夢中で戦ったけど、戦いが終わってみんなで喜んでいた時、こう思ったのよ。ああ、死んでたらみんなとこうして喜びを分かち合うことなんて出来ないんだなって。そう思ったら急に生きてるってそれだけで凄い事なんだなって。そしてまだやりたい事がたくさん私にはあるなって思った」

 そういってまたお茶を啜る葵。なるほどな、って待て。

 

「いや葵、それと今回の料理はどう結びつくんだ?」

 

「だからやりたい事よ。今回の件みたいにひょんな事で何時死ぬかもしれないかわかったもんじゃないから、それならもう生きてる内に好きな事をしておこうと思って。いや~一度は御馳走を思いっきり食べたかったのよね~。でも一人じゃ寂しいから一夏も一緒でよかった。それに久しぶりに一夏と二人きりで夕食だしね。ちょっとはりこんでみた」

 

「久しぶりって…。学園じゃいつも部屋で二人っきりだろが」

 

「そうだけどね、まあいいじゃない御馳走こんだけ食えたんだから。金持ちの幼馴染に感謝しなさい」

 そういって俺にカードを見せる葵。先に葵はカードでこの料理を前払いしていた。

 

「いやカードじゃお前がいくら金持ってるのかわからんのだが」

 

「私の貯金、多分数千万は軽く超えてるわよ」

 

「マジで!何でそんなに持ってるんだよ!」

 

「代表候補生はテストパイロットも兼ねてるからね、それと…あの出雲研究所で起きた事件。あの代表候補生の親から多額の慰謝料をね」

 慰謝料の辺りを言う時の葵の顔は暗かった。

 

「そ、そうか…」

 

「ま、そういうわけだから一夏はお金の事は心配しなくてもいいから。大体今回の料理、折半しても一夏の一年分のお小遣い軽く超えるわよ」

 

「…ありがたくおごらせて貰います」

 

「うむうむ」

 

 その後しばらく俺と葵はお茶を飲みながらのんびりと過ごしたが、葵はまた温泉を入りに行った。俺はまだ入る気分でもでもなかったので、部屋に残る事にした。畳の上に寝そべると、心地よい睡魔が襲ってくる。いかんな、食べてすぐ寝ると太っちまうのに。あ、そうだ。

 

 明日には帰るんだし、もう一回泳ぎにいくか。

 葵も温泉入りに行ってるからしばらく戻ってこないだろうし、軽く泳ぎにでもいくとしよう。

 

 さっそく水着に着替え、俺は海に向かう事にした。周りに街灯はないが、今夜は満月のせいか真夜中でも明るい。むしろこんだけ綺麗な満月なら下手に街灯が無い方がいい。準備運動をして海に近づいてったら、前方の岩場に誰かがいた。そいつは岩場に腰を下ろして海を眺めてるが、その後ろ姿はどうみても、

 

「葵?」

 俺の呟きが聞えたのか、岩場に座ってたそいつは後ろを振り返った。

 

「え、一夏!? なんでここに!?」

 後ろに振り返った人物は、予想通り葵だった。俺がここにいる事に驚いているが、俺はそれ以上に驚いている。温泉入りに行ったんじゃなかったのかとか、そんな疑問は葵の姿を見たら完全に吹き飛んでしまった。

 

 だって満月の光を浴びている葵は、水着を着ていた。そしてその水着は…あの日千冬姉が見せたあの水着で、一昨日箒が来ていた水着と全く同じだったからだ。

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    おまけ

 

 一夏達に福音が撃墜された数時間後の、とある秘密基地での出来事。

 

「福音がやられてしまったようね」

 

「け、あやつは我等四天王の中では最弱」

 

「代表候補生ごときにやられるようでは恥知らずね」

 

「…何を言ってるのオータムにスコール?」

 

「っち!これだからこのガキはいけすかねえ!ノリが悪いなったく!」

 

「世代が違うのかしら?」

 

「…どうでもいい。それよりもスコール、貴方が主導していた福音奪取作戦はこれで完全に失敗したわよ。今後はどうするつもり?」

 

「あ、そんなもん直接乗り込んで奪いに行けばいいだけだろうが!」

 

「…単純馬鹿」

 

「ああ、殺すぞガキ!」

 

「落ち着きなさいオータム。まあ確かに今回の件は私のミスだったわね。工作員を仕込んで福音に意図的に暴走状態に陥らせ、飛び出した所をエムとオータムが取り押さえるという算段だったけど」

 

「私達が待機してる場所とは全く正反対の方向に飛んでいったわね。そもそもスコール、意図的に暴走状態にさせたと言ってるけどその後福音を制御できたの?」

 

「ええ、もちろんよ。……多分」

 

「多分って…」

 

「だってしょうがないじゃない。ここに制御装置あるけどこれって半径20kmまでしか効果範囲ないのよ。これ使う前に福音は日本に飛んで行ってしまったし、その後あの日本の代表候補生が背中に強力な一撃与えたせいで完全に暴走しちゃったし」

 

「しかしさっきはああ言ったが完全に暴走した福音をよくあの連中倒せたな。しかも第二形態移行したらしいじゃねーか」

 

「…さっき言ってた日本の代表候補生と唯一の男子である織斑一夏の活躍があって倒したらしいわ」

 

「そう。エム、織斑一夏は強くてよかったわね」

 

「…」

 

「ま、どうでもいいか。じゃあスコール、アメリカに回収された福音を私が回収しに行ってもいいか?」

 

「そうねえ」

 

「…スコール!そこのパソコンに妙な物が!」

 

「妙なもの?エム、なんなのそれ?」

 

「…なんかウサギの耳を生やした少女がぴょんぴょん跳ねている」

 

「どれどれ、…なんだこれは?」

 

「あ、なんか台詞があるわね。なになに『あははは、ちょっと君達は調子に乗ってるからお仕置きだ。あーちゃんの苦しみ味わってね』…ってこれもしかして」

 

「スコール!この場所に多数のミサイルが接近してる!その数200!」

 

「ああ、どういうことだ!なんでそんなものがこっちに来るんだよ!」

 

「…どうやら篠ノ之博士を怒らせてしまったようね」

 

「「は!?」」

 

「確か今回の福音騒動で篠ノ之博士のお気に入りが死にかけたらしいわ。でもすぐに傷が治ったらしいけど」

 

「なんだそりゃ!そいつサイボーグか!?」

 

「どうでもいいけど二人とも早く逃げないとヤバい!」

 

「ふ、これで悪の芽が尽きたとは思わないことね篠ノ之博士。光あれば闇がある。きっと第二、第三の」

 

「いい加減にして!」

 

 

 この日、束によって一つの悪の秘密結社は地上から消えた。世界は少しだけ平和になった。

 


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