IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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番外編 男子中学生の海(後編)

「なあ一夏、向こうの磯で釣りでもしないか? あそこの海の家で釣り竿貸してくれるみたいだぜ」

 

「お、いいな。石鯛でも釣って千冬姉に食わせてあげるぜ!」

 

「……やっぱシスコンだな。後レンタルの竿じゃ釣るの無理だろ。そもそも時期が微妙じゃねーか」

 

「そこは気合と根性でだな」

 

「おい! 無視すんなお前等!」

 俺がナンパに行こう宣言したら、葵と一夏の奴俺をスルーしてどっかに歩き出しやがった! 釣りに行くとかお前等せっかく海辺来たのに何考えてだよ!

 

「……いや、お前のアホな発言につきあえるかっての」

 

「……大体何で海に遊びに来たのにナンパなんてやるんだよ、意味がわからん」

 俺のツッコミに、一夏と葵は足を止め、面倒くさそうに俺に振り返った。

 

「馬鹿かお前! 海に来たからナンパするんじゃねーか! 俺達ももう中学生なんだぜ! 小学生とは違うんだぞ!よく漫画とかにある、異性との運命的な出会い、そしてそこから始まる甘い思い出! 思春期真っ盛りの俺達の望む展開を自らの手で掴み取ろうじゃねーか!」

 俺は願望込めて熱く主張してみたが、

 

「……」

 

「……」

 ……一夏は白い目線を、葵は完全に馬鹿を見る目を俺に向けてきた。

 

「何だよ、良いじゃねーか今日は鈴がいなくて男しかいないんだぞ。偶には男だけパーっと弾けようじゃねーか」

 

「まあ男だけでパーっとしような意見には賛成だけど」

 

「ナンパはなあ……」

 このメンバーで遊ぶ時は大体鈴もセットな為、男だけで騒ぐなんて事はあんまり無い。さっきの遠泳勝負とかも鈴がいなかったらやらなかっただろうしな。俺のこの意見には一夏と葵も、少し共感したようだ。

 

「普段鈴以外の女子と俺達って遊ばないだろ。 今日は鈴がいないし、鈴には黙って俺達は真の男になろうぜ!」

 

「真の男って……」

 

「お前何考えてるんだ?」

 

「あ、決まってるだろ!それは……へへ」

 葵のツッコミに、俺はナンパが成功し、可愛い女の子と、まあ、その色々妄想働かせてしまった。やべ、今からもう色々テンション上がってしまう!

 そんな俺をさらに呆れながら見る一夏と葵。な、なんだよ! 男なら当たり前の妄想じゃねーか。

 

「……はあ、いいか弾。 まず間違いなくお前が考えてるような妄想は実現しないから時間の無駄だ」

 しかし俺の妄想は、呆れた顔をした葵に一蹴された。

 

「はあ? いやそんなのやってみないとわからないだろ?」

 

「わかるっての。大体だな弾、お前のナンパに対する認識が甘いんだよ!」

 

「認識が甘い?」

 

「そうだ。聞くが弾、お前ナンパっていうがそれは何を最終目的とする? 女の子と一緒に遊ぶまで? キスか? それともDTを卒業するまでか?」

 

「え、いや、それは……とりあえずキスかな」

 そりゃDT卒業出来るまで行けたら最高だけどよ。まあ可愛い子とお付き合いをし、その場の空気に流されて今日はキスまで持ち込めたら良し! 

 

「なあ、DTって何だ?」

 

「キスまで、か。……やっぱり認識が甘い」

 DTを知らない一夏の質問を無視し、葵は俺の目標を駄目出しした。

 

「何だよ、何が駄目ってんだ?」

 

「なあDT」

 

「そもそもだ弾、さっき俺達がもう『中学生』になったとか言ったがな、その認識が既に間違っている。正確には『まだ中学生』というのが正しい。そもそもさっき俺達の好み云々とか言ったが、俺達の好みって年上の巨乳のお姉さんだったんだぞ。中一の俺達なんて相手にされるわけないだろ!」

 

「ぐっ! た、確かに……で、でもだ! 年下が好きって人もいるじゃないか」

 漫画とかじゃ年上のお姉さんが、年下の少年を可愛いとか言いながら誘惑する展開があるじゃないか。

 

「いねーよ、そんな人。大体年下好きって人は可愛いショタが良いって事だろ。残念ながら俺達中一で微妙な背の高さだからな。さらに一夏と弾、お前等って結構筋肉付いてるからそういうお姉様方の食指対象外になってると思うぞ」

 しかし俺の願望は再び葵によって叩き潰された。かなり葵の偏見が混じっている気もするが。 そして葵、俺と一夏の体を睨むな。俺は買い出しで重たい食材運ばされたりする為、そこそこ筋肉はある。一夏もたまに筋トレしてるとか言ってたから、細見でも引き締まっている。葵は部活、そして毎日家でも鍛えてる割には……悲しい程筋肉がないな。いや、お前ならさっき言った可愛いショタを狙える……は無理か。ショタ以前にこいつは年齢のわりにロリにもなれない見た目だし。

 

「クソ、中途半端に成長している俺が憎い!」

 

「ああ、年上から可愛がられたいならもっとチビで可愛い容姿でないと駄目だったんだよ」

落ち込む俺に、葵は俺の肩に手を置いて慰めてくれた。横で一夏がくだらねーって顔で俺達を見ているのはこの際無視しよう。

 

「だから弾、ナンパなんて時間の無駄だし他の事を」

 

「いや、まだ諦めん!」

 

「いや諦めろよ!」

 

「いや、葵の話を聞いたら年上を狙うのは難しいとわかった」

 

「わかったんなら」

 

「つまり、年上でなく同年代を狙えばいいってことじゃねーか」

 同い年位なら対象外とかにならないだろう。

 

「だが弾、それではもう一つの好み、巨乳という条件もなくなるが。同年代で俺達が納得するだけの胸の持ち主なんてそうそういないぞ」

 

「う~ん、いやもうこの際それも諦めようと思う。確かに葵の言う通りだが、高望みしても無理なようだしな。可愛い女の子をナンパというのに絞ろう」

 とは言っても、さっき俺達と同い年位の子だったが凄く大きな胸してたのいたし。ちょっと、いやかなりほんわかした顔してた子だけど、かなり可愛かった! ああいう子を探せばもしかしたら!

 

「そうか、まあ同年代なら年上を狙うよりも難易度は低くなるな」

 

「だろう、なら」

 

「だが甘い! やっぱりお前はまだまだ甘すぎる!」

 ナンパいこうぜと言う前に、葵から再度駄目出しを喰らった。

 

「どうしてだよ? 同い年位なら」

 

「全く、お前はわかってない! 同い年位なら相手にされる! そんわけないだろうが! いいか、同い年という事は、中学生なんだぞ。 この年代は無駄に夢を持ってマセたのが多く、どちらかというと年上の男性に理想を持っているもんなんだよ!」

 

「そうか? 鈴とかそうは見えないが?」

 熱く語る葵に、一夏が疲れた顔で葵に言うも、

 

「あいつは例外だ。まあ、誰かさんがそうさせなかったってのもあるが」

 葵は何か皮肉めいた事を言って一蹴させた。……まあ鈴は葵の言うような理想持つ前に一夏に惚れているからな。

 しかしまたしても偏見に満ちた葵の言葉だが、蘭がなあ……確かに年上の一夏に惚れやがってるし、あながち違うとも言えない気がする。

 

「つまりだ、俺達みたいなのが誘ってもやっぱり向こうはそこまで気乗りしないんだよ」

 

「……なんか俺よりも葵、お前の方がナンパに興味持ってるように思えるのは気のせいか?」

 

「っはあ! 何言ってんだよ、俺はただ一般論言っているだけだろ」

 俺の指摘に葵は顔を赤くしながら反論するが……いやここまでナンパについて薀蓄垂れた後にそんな事言われてもな。

 

「大体、俺はナンパなんてやりたくない。さっきのだって親父が持っている本に書いてあったのを言っただけだ」

 ……葵の親父さん、何読んでんだよ。まさか30過ぎでもナンパしてんの?

 

「そもそもだ弾、お前の言う通りナンパに成功したと仮定するが……さっきお前が言った最終目標ってキスだったよな。今日初めて会った子が、キスまで許すとかそんな尻軽な奴は俺はちょっとなあ」

 

「いや葵、ナンパってそういうのが目的だろ。そもそも、俺はそれだけで終わらす気は無い」

 

「それで終わらす気は無いって……弾、俺は友達をボコして警察に突き出すような事はしたくないんだが」

 

「アホか! 何考えてんだよ! そうではなく、出会ってキスまでやってが終わりじゃなく、連絡とって今後もお付き合いするんだよ」

 俺がそう言うと、葵は「ああ、そういう事か」と言って納得したようだが……葵の思っているナンパって、その日限りの付き合いなのか? それこそお前、漫画に毒されてると思うぞ。

 

「しかし弾、この浜辺で知り合って今後も付き合うとか言うが……俺達が住んでるのはここから結構離れてるぞ? 向こうもここじゃ無く別の場所に住んでいる可能性も高い。例え成功しても遠距離恋愛になるんじゃないか? 中学生でしかもこんな形で出来た恋なんて、どうせ長く持たないだろ。時間の無駄だしさっさと諦めろ」

 

「葵、お前さっきから言いたい放題だな」

 

「でも事実だろ? 遠距離恋愛とかなかなか会えないから、近くにいたちょっと魅力的な奴にコロッと転がって、そしてそいつと……ああ、お前がサプライズで会いに行ったら彼女は新しい男と部屋で!」

 

「だ~わかった、わかったから少し落ち着け葵!」

 顔を赤くしながら妄想を言う葵を俺は落ち着かせる事にした。

 

「すまない、少し暴走した」

 多少落ち着いたのか、俺に謝ってくる葵だが……いや、少しってレベルじゃなかったけどな。

 

「で、ここまで言えばわかるな。ナンパなんて時間の無駄だという事を。そして、自分の興味の無い相手からナンパされるのは耐えがたい程迷惑な物だという事も知っておけ」

 一つ目はともかく、二つ目は葵の実体験からか妙に説得力あるな。

 

「やるなら……そうだな、せめて高校生になってからだ」

 

「何故に高校生になったら?」

 

「その時には体も出来上ってるし、演技すれば大学生とかでも言って相手騙せるかもしれないだろ? 少なくとも今よりは成功率上がると思うし。……とにかく、今は諦めろ」

 

「……あ~くそ、わかったよ。ナンパは諦めよ」

 ちぇえ、ちょっと普段できない事やろうと言っただけなんだが、ここまで反対しなくてもいいじゃねーか。

 

「それでいい。まあ三年後リベンジしようぜ。そん時は付き合ってやるから。よし、じゃあ改めて一夏、さっき言ってた釣りでも……って一夏! 大丈夫か!」

 

「どうした? っておおい!」

 葵が急に驚き、俺もそういえばさっきから無口だったなと思って一夏がいた場所に視線を向けると、そこには一夏が砂浜に蹲っている姿があった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、軽い日射病だからすぐに治る」

 

「無理するなよ一夏、ほらこれでも飲んでろ」

 

「悪いな」

 

「いやそれはこっちの台詞だ。弾と馬鹿な話に夢中になっていて気が付かなかったんだから」

 蹲っていた一夏を抱き起した葵は、すぐに一夏が日射病で倒れた事を察すると俺達が休憩用に借りたビーチパラソルに連れて行き、そこに一夏を寝かした。葵はすぐに団扇や濡れタオルを用意し、俺には飲み物買って来いと命令し、手際良く対処している。体の各所を濡れタオルを張り、団扇を扇いで一夏の体を冷やしている。俺も葵同様、団扇で扇いで一夏の体を冷やすようにしている。

 

「しかし一夏、本当にどうしたんだ? 普段ならこの程度で倒れるほどヤワではないだろうに?」

 

「あ~それはな……多分昨日は夜中の2時まで千冬姉に付き合わされたからだな」

 葵の疑問に、一夏は疲れた顔をしながら答えた。

 

「……また深夜まで千冬さんの愚痴に付き合わされたのか。ああ、それでさっき寝不足とか言ってたのか」

 

「ああ、千冬姉昨日久しぶりに帰ってきたんだけどかなり荒れててな。『また代表に選ばれた!』とか『ウザい見合いをまた馬鹿首相が薦めてきた!』とか言ってつまみも無しに酒飲みだしたんだよ。俺は胃に何か入れて欲しいからつまみ作ってたんだけど、途中で千冬姉の酌をしながら愚痴に付き合わされて……」

 

「……何かあの千冬さんのイメージからかけ離れた話だな。大変だったんだな一夏」

 あのクールビューティーな千冬さんって家ではそうなのか? そういや家事とか出来ないみたいな話さっきもやってたし、俺の中での千冬さん像がどんどん崩壊していく。

 

「……いや、千冬姉は俺を養ってくれてるんだから、これ位はやって当たり前だ」

 俺が同情の声を掛けると、一夏は笑って俺の同情を否定した。その姿に、俺も葵も苦笑する。やっぱりこいつは筋金入りのシスコンで……家族を大切にする良い弟だ。

 

「俺は後少し横になっていたら大丈夫だから、葵に弾。お前等は遊びに行って来いよ」

 

「ば~か。お前をほっとけるか」

 

「俺のせいでお前等まで付き合う事無いって。さっき言ってたナンパとかして来いよ」

 一夏をほっておけない葵だが、一夏は気を使われるのが嫌なようで俺と葵に遊びに行けと言うが、ナンパして来いよと言った辺りの一夏の顔はただ面白がっているだけに見える。

 

「やるか、そんなの。タオルもまた温くなってきたな。また冷たいのに取り替えてくる」

 一夏の提案を一蹴した葵は、タオルを再び冷やすためまた水道がある所に向かって歩いていった。俺はその後ろ姿を眺めていたら、

 

「おい弾、お前も葵についていってくれ」

 横になっていた一夏が疲れた声で俺に言ってきた。

 

「どうして?」

 

「今日何度もあったの忘れたのか? あいつ一人だとまたナンパに捕まるかもしれない。あいつなら襲われても何人いようが全く心配いらないが、面倒な揉め事になるのは嫌だ」

 ……確かに、あいつ単独行動させたらナンパされて、その度葵の奴キレかけて殴り倒そうとしてたし。

 

「しゃーない、わかった俺も行ってくる」

 俺は立ち上がると、背中から「頼むな」という一夏の声を聞きながら葵の後を追う事にした。

 

 

「あれ? 弾、お前まで来たのか?」

 

「ああ、俺も少し腹が減った軽い物でも買いにな」

 葵に追い付いた俺は、まあそれらしい理由を言って葵と一緒に歩いていく。まあお前のナンパ防止の為に来たとは言えない。言ったらこいつのプライド傷つくし。

 手洗い場で濡れタオルを再度冷やした葵と、其処ら辺で適当に焼きそばとかき氷買った俺は再び一夏の所へ向かおうとしたが、

 

「あ」

 

「ん? どうした葵って……ああ」

 途中葵が呆れた声を出し、俺も葵が見ている方向に顔を向けて見たら……葵が呆れた理由が納得出来た。俺達が見ている先では、さっき海の家で葵にナンパした奴が、警察に連行されている姿があった。

 

「そういえば、無理なナンパって条例違反にされてるんだよなあ」

 

「お前が普通にナンパされてたから麻痺してたが……そういや今じゃナンパって相当自信ないと迷惑行為扱いされるんだった」

 ……やべえ、そうだった。ISのせいで今じゃ女尊男卑が当たり前。女の気まぐれ一つで捕まっちまう世界なんだった。

 

「なあ葵、お前がナンパに反対してたのって……」

 こうなるかもしれないと思ってたからなのか? そう思いながら葵に聞くと、

 

「さあな?」

 葵はただニッと笑うだけで何も言わなかった。

 

 

 

 

 

「……なあ葵」

 

「……なんだ弾」

 

「俺達って一夏から離れて何分経ったっけ?」

 

「10分もなかったかな」

 

「そうだよな、10分もなかったよなあ」

 

「ああ、そうだな」

 

「なのに……あれはどういうことだ!」

 俺は怒りと共に、さっき買った焼きそばとかき氷を地面に叩きつけた。「あ~! もったいねえ!」と葵が喚くが、そんなの気にしていられなかった。

 何故なら!

 

「ね~君大丈夫~。こんな暑い日に無理しちゃ駄目だよ~」

 

「本音の言う通りですよ。海ではしゃいでしまったのはわかりますが、適度に水分取って休まないとこうなります」

 

「はあ……ご親切にすみません」

 

「ううん。困った時はお互い様だよ~」

 

 俺達がいなくなって僅か10分! その10分で一夏は―――美少女二人から介護されていやがった! ああ、あののほほんとした顔の子! 俺がちょっと前目を付けた巨乳のこじゃねーか! その子、一夏の体冷やすために団扇で扇いでるし! あああ! さらに一夏の奴、その子の姉?とおぼしき人から膝枕されてる! お姉さんも巨乳で、俺の好みストライスだし!

 

「そんな! 俺が一番欲しい物を一夏の奴は何もしないで……」

 あまりにも理不尽な光景に、涙を流しながらその場に俺は蹲った。

 

「……良く見ておけ。あれが真のモテ男をというものだ。俺は今まで散々こんな光景を見てきた」

 落ち込む俺に、葵が優しい声を掛けながら再び俺の肩に手を置いて慰めてくれた。

 

「わかっただろう、ナンパなんていかに虚しい行為か」

 

「ああ、よ~く理解したよ」

 

「そして弾、俺達がすべき行動は?」

 

「任せろ」

 決意を抱き、俺と葵は一夏の下へ向かっていった。

 

 

 

 

 

「あ、葵に弾。戻って来たか」

 

「ああ、今戻ったが……こちらの方達は?」

 

「この人達は俺が一人で寝てるのを心配してくれて、日射病で寝てたとわかるとお前達の代わりに看病してくれたんだ」

 そう言いながら、一夏はお姉さんの膝枕から頭を上げた。

 

「もう大丈夫です、友達が来てくれましたから。看病していただきありがとうございます」

 

「いえいえ、気になさらないで下さい。こっちが勝手にしたことですので」

 

「そうだよ~、困っていたら助け合うのは当然だよ~」

 一夏が二人に礼を言うと、二人は気になさらずと言ってくれた。……可愛くて巨乳でその上性格まで良い美人姉妹。 なんだこの浜辺の女神様は?

 

「ではお友達と、お姉さんも来たようですし私達は失礼しますね」

 

「お、お姉さん……」

 

「じゃあね~、今度から気を付けるんだよ~」

 

「……ええ、二人ともありがとうございました」

 お姉さん呼ばわりされたことに葵は顔が引きつるも、なんとか笑みを浮かべながら二人にお礼を言った。

 

「よし、さっきの人達のおかげで俺も結構回復したぜ! 葵、弾。なんかして遊ぼうぜ」

 美人姉妹に介抱されたせいか、一夏の体も回復したようだ。そんな一夏を、俺と葵は白い目で眺め、

 

「そうだな、さっき向こうの方で跳び込むのに最適な崖があったな」

 

「よし、そこに一夏を放り投げよう」

 俺と葵は互いに一夏の片方の手を掴むと、葵が言っていた崖に向かう事にした。

 

「お、おい! 何だよ二人して! 放せよ! どこに連れて行こうってんだよ!」

 一夏の叫びは、俺と葵が崖から放り投げるまで延々と続いていった。

 

 

 

 

 

 

「―――何て事があったよね昔」

 

「ああ、あったなあ」

 

「で、今あの時から三年経って高校生になったけど、ナンパする?」

 

「この状況で? ふざけんな」

 

「ですよねー」

 そう言って葵は、海に向かって視線を向ける。俺も葵と一緒に視線を向けるとそこに

 

 

「一夏さ~ん、一緒に泳ぎましょう!」

 

「いや、嫁は私と一緒に泳ぐのだ!」

 

「一夏、私にサンオイルを塗ってもらえないか?」

 

「まあまあ皆落ち着いて。ここは公平に皆でビーチバレーでもしようよ」

 一夏に群がっている多国籍な美少女達の姿があった。

 

「あ~あ、最初は臨海学校で私だけ泳げなかったから皆でまた海に行こうという話だったのに、皆一夏に夢中になっちゃって」

 目の前の光景を見ながら、若干葵は不貞腐れながら言った。

 

「何で俺今日呼ばれたんだよ。完全にいらない子じゃね? 俺」

 あの可愛い子達は一夏にしか興味無いみたいだし。それにこの浜辺、皆有名人だから人目に付きたくないという理由でプライベートビーチみたいな所に連れてこられたから、ここにいるのは俺達しかいない。女の子は皆一夏に惚れている中、さっき葵の奴ナンパしないのとか言ってたが出来るわけねーだろうが!

 

「ん? だって前釣り船に誘った時海で泳ぎたそうにしてたから。だから誘ったんだけど、そういや泳がないわね?」

 

「いやあれはちょっと違うと言うか……ま、もう満足しているんだけどな」

 あん時はまた葵の水着姿見たいと思ってただけだし。それを今こうして横で見れるし。海に行くよりこうしている方が俺にとっていい。……というか一夏のあんな光景を横目に一人で泳いでるとか惨めすぎるだろ!

 

「ちょっとー、葵に弾! はやくこっちに来なさいよ!ビーチバレーやるわよ!

 そんな事思っていたら、鈴が大声でそんな事を言いながら俺達に近づくと、

 

「ほら行くわよ! 元××中学校生VS他国籍軍! どっちが強いか見せつけるわよ!」

 そう言って俺と葵の手を握ると、一夏達の下に引っ張っていく。どうやら俺達元同じ中学VSその他の子でビーチバレー勝負するらしい。

 

「お~い弾、男の意地見せてやろうぜ!」

 俺が近づくと、一夏は少しホッとした顔をして俺を歓迎してきた。やはり女だけの集団は一夏も未だに慣れないようだ。

 

「それは私も加勢してあげる」

 

「ちょっと、男達で固まらないでよ! あたしもいるんだから! そして葵! あんたはもう女の子!」

 

「はいはい」

 鈴の指摘に、葵は苦笑を浮かべながらビーチバレーの配置に着いた。俺も配置につき、相手チームを見ると、

 

「あ~あ、嫉妬してらあ……」

 向こうの皆、かなり羨ましそうに葵に鈴、そして俺を睨んでいる。一夏と昔の思い出を共有し、それが今でも続いてるからだろうな。

 

「ま、それはそれだ。この四人もちょっと色々あってまた再結集したんでな……勝たせてもらうぜ!」

 そして試合開始の合図と共に、俺達は熱くビーチバレー勝負を始めたのだった。

 




番外編後篇です。
本編はもう少ししたら載せれそうです

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