IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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夏休み 代表候補生の事情

 8月12日。

 夏休みに入って2週間が過ぎ、多くのIS学園生徒達は帰省していた。普段は寮生活で休日しか、しかも申請書を出さないと外出する事が出来ず、そのため遊びたい盛りの年頃の少女達の多くが夏休みに入ると直ぐにIS学園から出ていったが、何人かの生徒達は帰省せずIS学園に残っていた。

 家や国の事情で残らざるをえない生徒もいるが、無論それらは一握りしかおらず、IS学園に残る事を選んだ者の多くが、夏休みの間人が少ない時学園の訓練機で特訓したかったからである。

 専用機を持ってない一般生徒は、学園の訓練機を借りなければISの特訓をする事ができない。しかし、学園の訓練機もそんなに数が無いため、せっかく膨大な申請書を書いても順番が回ってこない限り乗ることが出来ない。1年から3年生まで貸出が殺到するため、週に2回乗れたら良い方で、週一回しか乗れないなんてこともある。

 そして、学園としても他国との摩擦を懸念し、代表候補生が優遇して貸し出されている。代表候補生と言っても、専用機を貰っている方が稀であるからだ。しかし、それでも一般生徒よりもマシというだけで、最低週2回で週3回乗れたら行幸という程度である。

 そのため、夏休みで多くの生徒達が帰省しているこの時が、少しでもISで練習したい彼女達にとって一番練習しやすい期間になっていた。

 そのためIS学園にあるIS訓練用アリーナは、夏休みになっても練習する生徒達によって毎日賑わっている。しかし、今日に限っては、第二アリーナを除けば静かであった。いや正確には、第二アリーナしか生徒達がいなかった。いつも訓練している多くの生徒達は、観客席に座り、真剣な眼差しをしていた。彼女達の視線を辿ると、そこにはISによる試合が行われていた。片方はラファールに乗っているイタリアの代表候補生エレナ・バルタサーレ。もう一人は打鉄に乗っている日本の代表候補生青崎葵。

 第二アリーナにいる全ての者に見られながら、両者は凄まじい攻防を繰り広げていた。

 

 

 

「ハア!!」

 エレナは、右手に持っている五九口径重機関銃デザート・フォックスを葵めがけて放射。弾丸の嵐が葵に襲い掛かるが、葵は打鉄のスラスターを最大出力させそれを回避。上下左右に回避しながらも、葵は徐々にエレナとの距離を詰めていく。エレナが葵が操る打鉄の軌道予測をしながら弾丸を放っているが、それをさらに上回る葵の回避能力にエレナは舌を巻いた。

 

「全く、どうやったらあんだけ動けるのよ」

 近づいてくる葵に離れるよう後退しながら射撃を行うエレナ。そして右手に持っている武装の弾丸が尽きると、すぐに左手に持っていた右手と同じ武器デザート・フォックスを放とうとするが、

 

「!!」

 葵に攻撃しようと構えた瞬間、葵はエレンめがけて近接ブレードを投擲。葵は相手の銃の残弾を戦いながらも計算し、相手の銃の弾が無くなった瞬間を狙っていた。投擲されたブレードをエレナは身を捻りながら避け再び葵に銃口を向けようとしたが、その時には葵がエレナとの距離を瞬時加速を行って大幅に詰めていた。エレナは慌ててスラスターを後方にフル噴射しながら、左手に持っているデザート・フォックスを葵に放つが、葵は前面に物理シールドを展開し、弾丸を防ぎながら接近。エレナは右手に持っている武装を解除。物理シールドを貫く徹甲弾仕様アサルトカノンガルムを取り出し発射しようとしたが、

 

「甘い!」

 葵はエレナが撃つ前に、近接ブレードでガルムの銃身を両断した。そしてエレナに近づくと、返す刀で葵はエレナの頭部めがけて剣を振り回した。しかし、

 

「!!」

 

「そう簡単にはいかないわよ」

 エレナは左手に持っていた武装を解除し、新たに武装を取り出していた。ラファールの基本装備の一つ、近接ブレードブレッド・スライサー。葵の斬撃を、エレナは間一髪で受け止めていた。

 

「近接戦は貴方だけが十八番ってわけじゃないのよ!」

 エレナはそう叫ぶやいなや、右手の武装も解除し、新たにもう一本ブレッド・スライサーを取り出して、それで葵の胸を突いた。思わぬ反撃によろめく葵だが、攻撃はそこで終わらなかった。エレナはさらに後退した葵めがけ、顔と首、胸を突いていく。三つの突きの速さは葵の予想以上に早く、あまりの速さに葵は対処できず全ての攻撃を葵は受けてしまった。そして頭部の攻撃を受けた衝撃のせいで、葵が一瞬だがエレナから意識を外した。その瞬間をエレナは逃さなかった。

 葵めがけて突きを放っている間にもエレナは左手の武装を解除し、さっき葵に放とうとしたガルムとは別のガルムを取り出していた。一瞬の隙を見逃さず、エレナはガルムを葵めがけて発射。徹甲弾が当たり、シールドエネルギーを大幅に下げながら葵は大きく後方に吹き飛ばされていった。

 

(当たった! ならもう一発当たれば!)

 エレナはこれが最大の好機だと思い、さらに追加攻撃を行っていく。しかし、二発目、三発目はすぐに体勢を整えた葵が避けていった。さらに追加攻撃を放とうとするエレナだが、その時己の間違いに気付いた。

 葵の残りのエネルギーからして、後一発ライフルが当たれば勝てると思ってしまい、エレナは武装をガルムのまま攻撃してしまった。しかし、重機関銃でも弾丸を回避していく葵にとって、単発のガルムでの攻撃など避けるのは造作も無い事だった。さらに避けながらもあっという間にこちらに近づいていく葵に対し、エレナは慌ててガルムを解除し、デザート・フォックスを取り出そうとしたが―――すでに遅く、近接ブレードを構えた葵がすぐそばまで来ていた。

 葵から離れるよう後退するエレナだが、葵ももう逃がす気はなくスラスターをフル噴射しながら接近。葵の接近からから逃げられないと判断したエレナは、右手にブレッド・スライサーを取り出して、葵を迎え討つ事にした。ガルムを撃っても避けられるだけだし、今更デザート・フォックスに変えても、構えるころには葵に銃事切り飛ばされる。高速で迫ってくる葵に、エレナは己の剣の腕を信じ、迫ってくる葵にカウンターで攻撃することにした。迫ってくる葵が、エレナも間合いまで来た瞬間、エレナは葵めがけてブレッド・スライサーを突き出した。しかし、その直後に

 

「え?」

 

 エレナの突き出した右手は、葵の繰り出された斬撃によって打ち払われてしまった。葵が繰り出した斬撃はあまりにも早く、エレナは何時打ち払われたのかもわからなかった。驚愕しながらエレナは、己の右手を打ち払った葵の姿を眺める。

 

(あ、これは……かつてモンド・グロッソ大会で見せた……テンペスタを破った時織斑先生が見せた居合とかいう業……)

 かつて千冬が自国の代表を破った時使われた技を自らも受け、エレナは妙な感慨を受けた。そしてそれに浸る前に丸腰となったエレナの前に葵が迫る。葵の右拳は握られているのをエレナは見ると、

 

(あ~あ、ここまで来たのになあ……)

 もはや回避が間に合わないとエレナは気付いた。溜息をつこうとしたが、それをする前に、

 

「ハア!」

 葵の繰り出す渾身の正拳突きがエレナの胸に当たり―――その瞬間に勝負は決してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。負けたのは悔しいけど良い勝負ができたわ」

 

「こちらこそ。フェンシングであれ程の攻撃を受けたのは初めてです。良い経験が出来ました」

 勝負が決まり、二人は地面に下り立ち、ISを脱ぐと両者笑みを浮かべ、お互いを称えながら握手をしていた。

 

「私の方が良い経験させてもらったわよ。第一回モンド・グロッソで私の国の代表テンペスタを破った織斑先生の居合。まさか私も体験できるなんて思わなかったもの」

 

「織斑先生のに比べたら全然まだまだです。織斑先生の居合と比べたら、私の居合なんて完成度50%以下ですから」

 

「……あれで織斑先生の半分以下? どんだけなのよ織斑先生」

 葵の言葉を聞き、呆れるエレナ。

 

「おつかれー! エレナに葵さん! 凄かったよ二人の試合!」

 観客席で観戦していた生徒達が、興奮しながらアリーナの中に入り葵とエレナに集まっていった。エレナの他の他国の代表候補生達や一般生徒達が、興奮しながらエレナや葵の健闘を褒め称えていく。

 

「おしかったわねエレナ」

 エレナの同室である、スイスの代表候補生であるエマ・リーンがそう言ってタオルをエレナに渡した。

 

「ええ、本当に……惜しかったわ」

 苦笑しながらタオルを受け取るエレナ。葵の方を向くと、葵も他の生徒からタオルを貰い汗を拭いていた。

 

「判断誤ったわね。ガルムを撃った後すぐにデザート・フォックスに替えて両手で撃ってたら勝てたかもしれなかったわよ」

 

「どうかな。今日の試合見てたらわかると思うけど、あの子の回避技術は異常に高いから……」

 

「じゃあさらに射撃特訓しなくちゃね」

 

「ええ、それとフェンシングの特訓もね。私の剣もかなり自信があったのに、まだまだのようだったわ」

 

「……私からしたら貴方も充分接近戦のスペシャリストだけど」

 決意を新たにするエレナをエマは呆れながら眺めた。そして、視線はエレナを破った葵に向けていく。主に同級生に囲まれてISについて話している葵だが、エマはその姿を見ながら疑問を口にした。

 

「そういやあの子……なんで髪が赤になっているの?」

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、場所は群馬県。数年前出来た関東でも有数の遊園地、知名度では某夢の国には劣るが、それでもここ数年人気が急上昇のテーマパーク。

 その名はヘンダ―ランド。

 某夢の国の鼠みたいなマスコットキャラ、ヘンダ―君を中心に某夢の国のシステムをパクったようなキャラ達が数多く存在するが、なかなか完成度が高いと評判で、某夢の国にも劣らない夢と希望に溢れたヘンダ―ランド。そのヘンダ―ランドに、

 

「一夏! 次はあれ、あのジェットコースターに乗ろうよ! ラウラもあれ乗りたいよね!」

 

「同感だ。あの乗り物、先程から乗っている者皆悲鳴を上げている。どうやら戦闘機等の急激なGや動きに耐えるための訓練施設のようだ。どれ程のものか見極めておこう」

 

「……ラウラさん、あれはそのような物ではありませんわよ」

 

「一夏……そのあのヘンダ―君とやらと一緒に写真撮らないか?」

 

「あー箒! 抜け駆けしてるんじゃないわよ!」

 一夏、箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラの6人は遊びに来ていた。一夏は、久しぶりに集まって遊ぶ彼女達の姿を眺める。皆楽しそうにしており、ヘンダ―ランドを満喫していた。

 セシリア、シャルロット、ラウラの3人は、学期末テストで暴れたという事でそれぞれの国で地獄のしごきを受けていたが、それもようやく解放され昨日揃って帰国していた。箒も同時にIS学園に戻って来ており、久しぶりに一夏と葵、鈴に会った4人は、夏休みなのだからみんなでどこか遊びに行きたいと主張。なら明日一夏達はヘンダ―ランドに行く予定だから、みんなも来る? と一夏が誘ったら、4人は即答でOKした。

 すでに幾つものアトラクションに乗り、目標は全アトラクション制覇を目指している。楽しそうな彼女達を眺め、そして今日この場にいない―――葵の姿を思い、一夏は溜息をついた。

 

「……臨海学校といい、今日といい、あいつは何でこうも間が悪いんだよ」

 

「ま、それは同感ね。このヘンダ―ランドに遊びに行くことになったのも葵と、あんたのおかげだしね」

 鈴も一夏と同様、急に来れなくなった葵の事を思い、溜息をついた。

 

 

 

 数日前、一夏と葵はウォーターランドで催されたペア対抗競技に参加し、見事優勝を果たし景品の沖縄ペア1週間の旅行券を手に入れた。最初一夏はこの旅行を葵と行こうとしたが、

「ごめん一夏、私何時政府から呼び出しくらうかわからないから長期旅行は無理」

ときっぱり断られた。なら千冬と行こうとしたが、

 

「学生のお前と違って私は忙しい。そもそも貴様、夏休みだからと言って1週間もIS訓練しない気か?」

 千冬の言葉を聞き、遊んでる場合では無いと思い直し沖縄旅行を諦めた。鈴や弾にやろうとしたが、

 

「一夏も葵も行かないならあたしもいかない」

 

「……行く相手がいねえ」

 それぞれ断られた為、最終的に葵が今回ウォーターランドに来れたのは厳さんのおかげだから、厳さんにあげようということで決着した。

 

 

「厳さんにチケットあげたら、じゃあ代わりにこれやるよと言われてここのチケット貰ったが、出発直前で葵の奴急に政府から呼び出しくらってIS学園に待機だもんな」

 

「葵ったらあの変装気に入って、今日は赤く染めて弾と姉弟になってやるとか言って髪染めてたのに。電話に出たあの葵の落胆した顔は当分忘れそうもないわね」

 

「しかし葵が行けなくなったのを弾に連絡したら、弾の奴も急用があって行けないみたいな事言い出したし。……まあ弾も急に来れなくなったから、箒達が昨日帰って来なかったら鈴と二人でここにくる事になってたかもな」

 

「そうなったらあたしとしては嬉しいけどね。でも弾が急に行かなくなったのは、箒達が一緒だからと葵が行かなくなったからよ」

 

「?」

 

「……わからなければいいわよ」

 一夏の様子を見て、鈴は大きく溜息をついた。

 

 

 

 

 

「へえ~、じゃあ今日は本当なら織斑君や専用機持ちの子達と、ヘンダ―ランドに行って遊ぶ予定だったんだ」

 

「はい、そうだったんですけど……さあ出発しようという時に急に山田先生から連絡があり、今日の午後スサノオの実験の為学園に待機するよう命じられました。正直今日来る人が出雲技研の方達じゃなかったらすっぽかそうと思いましたよ」

 IS学園食堂で昼食を食べながら、葵は同席したエレナとエマの二人に愚痴っていた。

 

「はは、それは残念だったわね。でも、そのおかげで今日は貴方と勝負出来たから私としては良かったけど」

 

「まあ私もエレナ先輩とエマ先輩にまた勝負できたのは嬉しいですけど。……スサノオ手に入れてからは誰も私に勝負挑んでくれなくなりましたからね」

 

「ま、それはしょうがないわよ。専用機持った貴方に挑んでも勝負にならないもの。もっとも、お互い条件同じにして量産機で戦っても私負けちゃったけどね」

 葵を見ながら、苦笑するエマ。彼女もエレナの後葵と戦ったのだが、エレナ同様葵に敗北していた。

 

「しっかし葵、貴方の今日の動き前戦った時より良かったわよ。正拳突きの威力は相変わらず出鱈目だけど、今日の私が放つ弾丸を避ける貴方の動き! ここ最近打鉄乗ってなかったくせに前回以上に早くて驚いたわ」

 

「同感。せっかくここ最近は専用機で特訓してるから条件同じにしたら勝てると思ったのに」

 

「今日は人が少なく、訓練機で打鉄が一機余っていて、都合よく葵もIS学園にいるから今日こそリベンジって思ってたのに……また負けるなんて」

 

「でも今日は本当に危なかったですよ。エレナさんのフェンシング、あまりにも早かったですから対抗するには奥の手の居合使わなければ勝てませんでしたもの」

 

「そうよエレナ、貴方はまだいい方じゃない。私は葵のシールドエネルギーを半分も減らせること出来なかったのに」

 

「でも負けは負け。追い詰めたといっても、最後は私の剣よりも葵の剣の腕が勝ってたし」

 

「剣の腕でしたら今日のエレナさんの腕前見る限り、そう差はあるとは思えませんけど。今日勝てたのは久しぶりにやった居合がちゃんと成功したからですし。実戦でやったの半年振りでしたから」

 

「半年振り? しかもちゃんと成功したからって……奥の手なのにそんなに成功しない技だったのあれ?」

 葵の言葉を聞き、呆れるエレナ。そして同時に、そんな博打技で負けたことに悔しくなってきた。

 

「いえ……正確には半年前は出来てました。しかし1ヶ月前までは使うことが出来なかったんです」

 

「どういう事? 半年前は出来てて、それが先月までは使えなかったっていうのは?」

 

「はははは、まあそれは色々ありまして」

 顔に汗を流しながら、葵は余計なことを言ったと後悔している表情を浮かべた。それを見たエレナとエマは、気になったが触れてほしくない話題なんだとわかり追及するのをやめた。

 

「そういえばエレナ先輩、エマ先輩、聞いてもいいですか?」

 

「何を?」

 

「答えられる範囲ならいいけど?」

 

「あの……何故一夏やラウラといった私とは別の代表候補生には勝負しなくて、私には勝負を申し込むんですか? ラウラとかあれで私達位しか勝負してくれないから結構寂しがってたりするんですよね」

 

「あ~それ。それは単純な理由よ」

 

「単純な理由?」

 

「だって、勝負挑んでも勝つのがわかってるから」

 葵の質問に、エレナはつまらなそうな顔をしながら答えた。

 

「一夏君は最近頑張ってるようだけど、先月までの彼だったら勝負にもならないし。ドイツのラウラにしても、1年にしては頑張っているようだけどAICに頼りすぎね。貴方と違って、私は近接戦縛りしないから攻略の糸口はいくらでもあるわよ。何より基本動作がまだまだね。他の子達も同じくね」

 

「私はちょっと違う理由。エレナみたいに絶対勝てるというわけでもないから。ただ……専用機でなくお互い量産機という条件が同じだったら私が絶対勝つ自信あるから、かな。負けた時、機体性能の差で負けた……なんて思ってしまうのが嫌だからかも。私も専用機持ってたら、絶対負けないのにとかね。でもプライドが許さないのよ、貴方は専用機持っているんだから私と同じ条件で戦いなさいなんて。まして年下にね」

 エマの言葉に、専用機を持ってない事に対するコンプレックスが滲みでていた。

 

「多少の僻みがでるのよ、同じ代表候補生なのに腕では負けてないはずなのに一方は新型貰って毎日好き勝手練習されてると。そして訓練機で練習し、自分で見つけたコツやテクニックを専用機持っている連中に披露したくないとかね」

 エレナも、エマの言葉に多少共感していたのかエマの話を聞いている時何度か頷いていた。エレナ自身、腕はあるはずなのに専用機を貰えないことには多少の不満を抱いているからだ。

 

「確かに専用機持ってない代表候補生に、そういう空気あるわよね。でも葵、貴方は来た早々から専用機持ちに喧嘩売ってラウラ以外軒並み倒すし、そしてどう見てもとっておきみたいな技を惜しげもなく使いまくってるから、そういう空気は少し緩和されてもきたわよ。それに貴方ラウラに負け続けても一回も、それを機体性能の差にしなかった。そういう貴方だからこそ、今専用機持っていても純粋に腕試ししたいと思うのかな。だから葵、次はスサノオで私と勝負してね。貴方の本当の全力、私はそれを受けて負けても……絶対機体性能の差で負けたなんて言わないから」

 

「いや今日貴方、純粋に機体性能云々抜きでIS操縦技術で負けたじゃない」

 

「頼むわよ葵」

 エマのツッコミを無視し、葵に言うエレナ。その言葉を聞いた葵は、

 

「はい」

 笑みを浮かべながら答えた。

 

 

「ねえ、それ私もいいかな」

 

「え?」

 突然後ろから声を掛けられ、葵は驚いて後ろを振りむいた。そこには女生徒が一人、佇んでいた。

「やあこんにちは」

笑顔で葵に挨拶する少女。手には扇子を持っており、それを広げてあおいでいた。少女の顔を見て、葵は驚いた。その少女が誰なのか、葵は知っていた。学園に在籍する者なら、知らない方がおかしい人物であったからだ。

 

 

「さ、更識会長!……気配隠して近づかないで下さい。心臓に悪いです」

 葵の文句を聞いた少女―――それはIS学園の生徒会長である更識楯無であった。

 

「ああ、それはごめん。で、葵君。さっきの話だけど、私もいいかな?」

 

「……何をです?」

 

「何って君との試合だよ。当然、君が最近手に入れたスサノオでね」

 そう言って楯無は、扇子を折り畳み先端を葵に向けた。

 

「ちょっとー、私が先に申し込んでるんだから割り込まないでよ」

 

「エレナは先程戦ったから、次は私の番だと思うけど? それに君は同じ条件で負けたばっかりなのだから、再戦するならもう少し力を付けた後にずべきだけど?」

 

「……」

 割り込みに文句を言うエレナだが、盾無の言い分も一理あるので言い返せなくなった。

 

「それで葵君、どうかな? 今日の試合私も管制室で見てたけど……ようやく君が本調子になっていたからお姉さん嬉しくて。もう少し時間がかかると思ってたけど、これは臨海学校で起きたというアレのおかげなのかな?」

 

「何をいっているの会長?」

 

「ああ、何でもないよエマさん。さあさあ葵君、明日にでも私と勝負してみない?」

 笑顔で言う会長に、葵は少し考えた後表情を引き締めて言った。

 

「お断りします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、群馬県ヘンダ―ランド。

 

「あ、見て皆! ヘンダ―城からパレードが行われているよ!……ってあれ?」

 

「ほお、あれがパレードというものなのか? 初めて見るが珍妙な格好と動きをしながら行進するのだな」

 

「……一夏さん、確か私の記憶が確かならここは西洋を舞台とした夢あふれるテーマパークではなかったです?」

 

「私の目には日本の阿波踊りにしか見えないののだが……」

 

「ああ、阿波踊りで合ってるぞ箒。ヘンダ―ランドではパレードで阿波踊りによく似た踊りが行われているとここのガイドブックに書いてある」

 

「何でそんなもの踊ってるのよ! 意味わかんないわよ!」

 

「何でもヘンダ―ランドの設定で、魔女ってのがいるようだがその魔女を倒す踊りがあれらしい」

 

「……何それ?」

 

「何か最初はそんな設定なかったらしいが、後から追加されたようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、駄目?」

 

「はい、まだ私は会長とは戦いません」

 葵から挑戦を断られ、楯無は肩をすくめた。

 

「やーい、ふられてやんの」

 

「どうして駄目なのかな? 理由を聞いてもいいかな」

 エレナを無視し、盾無は葵に理由を尋ねた。

 

「理由ですか? それは……まだ戦っても更識会長には勝てないから。これが理由ではだめですか?」

 

「……ふうん」

 楯無は扇子を広げ、それを口を隠し目を細めながら葵を眺めた。

 

「……そう、なら仕方ないかな」

 

「あら楯無、貴方ずいぶんあっさり諦めるわね?」

 

「戦う気がないな仕方がないからね。じゃあ私がここに来た要件を済ませるとしますか。青崎君、第三アリーナに出雲技研の職員さん到着してるわよ」

 

「ええ、もう来てるんですか! 早く言ってくださいよそれ!」

 楯無の話を聞いた葵は慌てて立ち上がり、

 

「それでは私行ってきますので! エレナ先輩、エマ先輩、更識会長失礼します!」

急いでその場を後にした。その後ろ姿を見ながら、

 

「……戦ったら勝てない、か。微塵も思って無いくせに」

 楯無は薄く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー一夏、今日一日IS漬けだった俺がいないヘンダ―ランドは満喫したか?」

 夜の9時過ぎにIS学園に帰り、自室に戻るとベットで横になっていた葵は開口一番に俺に嫌味を言ってきた。

 

「まあそんな僻むなよ。今日の用事はお前だってしょうがないとかいってただろ。おみやげ買ってきてやったからこれで機嫌直せよ」

 

「おみやげ?……お前のセンスじゃ期待できないなあ」

 失礼な事を言う葵の手に、俺は今日買ってきたおみやげを渡した。

 

「ヘンダ―ランドで一番の売れ筋、『スゴイナスゲーデスカード』だ。ただのトランプでなく、魔法のトランプって設定らしいぞ」

 

「……一夏、普通女の子がこんなおみやげ貰って嬉しがると思うか?しかも名前間違ってるし」

 あ、本当だ。『スゲーナスゴイデス』だった。

 

「普通の女の子は知らんが、お前は嬉しいだろ? お前昨日ヘンダ―ランド行ったらこのトランプは記念に絶対買いたいとか言ってたよな?」

 

「……いやこういうのは行った記念に買うから欲しいのであって、行ってないのにこれ貰っても俺にとっては変な絵柄のトランプにしかならないんだよ」

 そう言いながら、葵はトランプの絵柄を見ていく。確かにオオカミ男や妙にセクシーな魔女に雪だるまに魔女……いやこれオカマだから魔法使いになるのか?

 

「まあ今日はそれで勘弁してくれ。行きたかったら俺が付き合ってやるぞ」

 

「……考えとく」

 

「おう、あそこは結構楽しめたからまた行きたいしな。そういや葵、呼び出しくらってたけど今日何してたんだ?」

 

「ん? ああ今日は先日出雲技研に行った時に実験で失敗したのを、改良してここに持ってきてくれたんだよ。……どうせなら明日にして欲しかったが」

 

「ああ、4日位前泊りがけで葵が出雲技研でスサノオの調整の為出かけた時のことか。ああ、だからお前ここに帰ってきたとき少しお前暗かったんだな。その実験が失敗したせいで」

 

「……まあそうだな」

 

「なら今日の事は文句言うなよ。お前の為わざわざ再調整して持ってきてくれたんだろ? で、実験は成功したのか?」

 

「一応な。問題点は幾つかあるが、それはおいおい解決できるし」

 

「ならよかったじゃないか。ちなみに何の実験だったんだ?」

 わざわざここまで来て実験するんだから少し興味ある。しかし、

 

「それは秘密です」

 葵は人差し指を立て、それを唇に当てながら笑った。……お前それ好きだな。

 

「と言っても、明日にでも実験の成果見せてやるよ。明日は久しぶりに箒達と試合できるし」

 

「そうそれ。ラウラやセシリア、シャルも明日お前と戦うの楽しみにしてたぞ。本国の地獄のしごきの成果見せてやるって」

 

「へえ、そりゃ楽しみ。ん? 箒は?」

 

「箒は剣道で実家での修行の成果みせてやるだと。……俺にも楽しみにしとけと言ってたな」

 

「剣道じゃ俺も箒には勝てないのに、さらに修行つけてこられたら……結構やばいな」

 

「……お互い頑張ろうぜ」

 

「そうだな。ま、とりあえず千冬さんの特訓に耐えた後の話だなそりゃ。今日遊んだ分、明日の特訓は厳しいぜ」

 

「……明日倒れたらまたここまで頼むな」

 俺の頼みに、葵は苦笑しながら頷いた。

 

 

 

翌日、俺は千冬姉にISの特訓をお願いするために第3アリーナに向かった。一緒に葵に箒、鈴にセシリア、シャル、ラウラもそれぞれ練習するため付いて来ている。第3アリーナに付くと、中には千冬姉以外にもう一人いた。IS学園の制服を着ていて、あのリボンの色は――青色だから二年生か。なにやら千冬姉と話しているが、千冬姉の顔は何故か険しい。明らかに何か不満を持って、その女子生徒と話をしている。

 

「あら、織斑先生と一緒にいますのは会長ではございません?」

 

「あ、本当だ。織斑先生と何話しているんだろ?」

 何? 会長?

 

「……一夏、まさかと思うけどあそこにいるのはこの学園の生徒会長だからね」

 

「い、いやもちろん知ってたぞ葵!」

 いかん、全く知らなかった。が、何やらみんなの顔を見ると知ってて当たり前のようだから黙っとこう。

 そうこうしていると向こうもこちらに気付いたのか、千冬姉と会長さんがこっちを向いた。そして会長さんはなにやら妙に笑顔を浮かべながら近づいてきた。

 

「やあやあおはよう一夏君。初めまして、私はこの学園の生徒会長更識盾無。よろしくね」

 そう言って、会長さんは手を俺に差し伸べてきた。

 

「あ、こちらこそ初めまして。織斑一夏です」

 俺も自己紹介した後、会長の手を掴んで握手した。

 

「云々、今後ともよろしくね。で、早速本題に入るけど今日から君の指導は織斑先生でなく、私が担当することになったからよろしくね」

 

 

 

 え?

 




 遅くなりましたが久しぶりに更新。
 いえ完全にスランプだったのです。リアルの生活環境も変わったせいで執筆意欲も皆無でしたし。
 次回こそ、少しでも早く更新したいなあと。
 

 新装版読みましたが、打鉄の設定見てまさかの近接ブレードの名前が 葵
 今回戦闘シーン書きながら「やべえ、これじゃ葵が葵を投擲。わけわかんえよ」となり、これだけ名前表記止めました(笑)

 ようやく会長を出せたあ。更識姉妹は好きなんで、もっと早く出したかったんですがこの物語の展開上どうしても出しにくいキャラなんですよねえ。

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