IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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夏休み 葵VS会長(後編)

「なあ、皆の意見を聞きたいんだけど」

 

「何ですの一夏さん?」

 

「まあ予想は出来るけどね」

 

「葵が会長に勝てるかどうかだろ?」

 

「ああ、それ。実際の所葵が会長さんに勝てると思うか?」

 

 会長さんと葵、試合が決まりお互いの準備があるため一時間後第二アリーナで試合する事となった。その間待っているのも暇なので、皆に葵が会長さんに勝てるのかどうか聞いてみる事にした。なにしろこの試合の結果次第では、俺の同居人が葵から会長さんになる上に、トレーニングのコーチも千冬姉から会長さんになってしまうのだ。

是が非でも葵に勝って欲しいが……相手はロシアの国家代表だし、俺は会長さんの実力を知らないからなあ。

 

「それは心情を考えたら葵に勝って欲しいけど……正直あたしも葵が会長に勝てる確率は会長7、葵3って所と思うわよ」

 

「僕もそうだね、鈴と同意見かな」

 

「私は会長が勝つ確率は8割といった所だな。葵も確かに強いが……更識楯無の実力とあのロシアの機体ミステリアス・レイディが合わさると幾ら葵でも勝てる気がしない」

 

「ラウラ、それほどまでにあの生徒会長は強いのか?」

 

「ああ、ドイツでも第三回モンドグロッソ大会に向けてイタリアのテンペスタとロシアのミステリアス・レイディは優勝最有力候補視されている。……もっとも教官が出場したら話は別になるが」

 ううむ、やはり葵が勝つ見込みが無い意見ばっかだな。俺会長さんの実力知らないけど、そんなに凄いのか。

 

「でも葵は先月専用機のスサノオ手に入れたし、その後ラウラと戦って勝ってるし結構いけるんじゃないか?」

 

「……嫁よ、私を高く買うのは嬉しいが私と会長とでは実力が違う。私が会長と戦っても、勝てる確率はほぼ無い。それはここにいる全員が同じ事だ。悔しいが……IS学園において生徒会長というのは最強の称号と呼ばれるのは伊達ではないという事だ」

 ……え~、そんなこの学園において生徒会長ってそういう称号なの? いやまあ確かにあの会長さんを見てると納得するけど。

 

「ううむ、皆そう言うが私は葵が勝つと思うのだが……」

 

「箒さん、それはどうしてですの? わたくしも葵さんが勝つ見込みは……難しいと思うのですが」

 

「いや……さっき葵が試合の準備をすると言ってここから離れる時、私にこう言ったのだ。『箒、この試合よく見ててね。あ、これ一夏にも言っておいて』と。一夏、葵のこの台詞どう思う?」

 葵の奴箒にそんな事言ってたのか。葵と会長さんの試合、そりゃ当然しっかり観戦する。しかし気になるのは、わざわざ俺と箒を限定して言っている事だな。

 

「う~ん、まあここにいるメンバーの中で実力が低いのは俺と箒だから、会長さんと葵の試合は参考になるみたいな意味にも取れるけど……なんか違う気がするな。とりあえず箒、この試合箒は良く見ておいたいいな。どうも葵は箒に見て欲しいような感じだし」

 

「……一夏、なんか拗ねてないか」

 

「……」

 いや、別についで扱いみたいなのを気にしてなんかいないぞ、本当だぞ。

 

「ふうん、あいつがそんな事を。まあ確かに葵もなんか未知数な所あるし、案外やってのけるかもね」

 

 その後も雑談している内に気が付いたら試合開始時間となった。アリーナの観客席にいるのは俺達だけ。他の一般生徒達は誰もいない。どうやら今回の試合は何故か秘密に行われるらしい。理由は千冬姉に聞いても教えてくれなかった。

 先にアリーナに入場したのは会長さん。初めてミステリアス・レイディを装着した姿を見るが……なんか装甲が薄い。肌の露出部分が多いけど、それを補うかのように左右対で存在するアクアクリスタルというパーツから体を包みこむような膜を張っている。水のマントを被ってるようにも見えるな。

 そして会長さんのすぐ後からピットから葵の姿が現れる。スサノオを展開しており、右手には既に天叢雲剣を握っており、最初から完全に臨戦態勢となっている。

 両者はお互いアリーナの中央に揃い、千冬姉の質問に答えていく。

 そして、

 

「では、始め!」

 千冬姉の合図と共に、両者の激突は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に動いたのは葵であった。手に持つ天叢雲剣にエネルギーを注ぎ込み、攻撃力を上げた後両手で構え楯無に向かって接近していく。楯無もすぐにナノマシンによって超高周波振動を起こした水を纏うランス、蒼流旋を構え、接近する葵を迎撃しようとする。

 接近する葵、待ち構える楯無。お互いの距離はすぐに縮まっていく。

 そして先に攻撃したのは、楯無だった。

 ランスの攻撃範囲内に入った葵に向かい、楯無は蒼流旋を一閃。胴体に迫る一撃を、葵は天叢雲剣を振るい、蒼流旋の一撃を防ぐ。

 

「くっ!」

 しかし葵にとって予想以上に重い一撃であったため、防いだ衝撃により体が少し横に泳いでいく。体勢を崩した葵に、楯無は少し体を移動しながら、蒼流旋を葵に向かって振るっていく。腕、腹、顔、肩に向かって閃光のように突き出される蒼流旋。その速さ、正確さ、そして一撃の重さに葵は防ぐ一方で、天叢雲剣の剣の間合いに入れないでいた。

 

(く、これほどまでの槍使いだったなんて……さすが国家代表ってところなのかな)

 しかし葵は楯無が繰り出す槍の動きに翻弄されながらも、口は薄く笑っていた。

 

(でも、まあこれぐらいなら)

 楯無がまた葵の胸目掛けて蒼流旋を繰り出すが、その一撃を葵は体を横に少しずらしかわした。

 

(対応できなくもないかな)

 しかし、かわした瞬間、更識の持つ蒼流旋。その刀身から一斉に無数の針が伸びていった。

「!」

 至近距離で発動され、葵はかわす間もなくまともに喰らい、葵は慌てて後退した。

 

「どう、私の蒼流旋。ただの槍じゃないわよ」

 

「……ええ、少し舐めてました」

 ナノマシンの水を覆って作られている楯無の蒼流旋。水で出来ている為、その形は変幻自在。うかつに避けて前に出ようとすると串刺しにされると葵は理解した。

 

(なら、こうしますか)

 再び天叢雲剣を握りしめ、葵は楯無に向かっていく。当然楯無は葵目掛けて槍を振るい、そして葵は―――先程同様、更識の蒼流旋をかわしていく。そして同時に、左手に近接ブレード≪葵≫を一瞬にしてコールし、それを楯無目掛けて投擲した。

 至近距離で弾丸の如く放たれた葵の剣を、楯無は体を横にずらして回避。しかし、さっきのように蒼流旋に変化を与える暇が無かった。その一瞬を葵は見逃さず、一気に楯無に近づいた。

 天叢雲剣の間合いに入った葵は、楯無の脳天向かって振り下ろそうとするが、

 

「おおっと!」

 後ろ向きのまま楯無は瞬時加速を行い、葵の一撃が当たる前に後方へ避難。攻撃が空振りした葵は、すぐに追撃をしようとした。しかしその直後、

 

 葵を、そして葵の周辺一帯が大爆発を起こした。

 

 ミステリアス・レイディの特殊武装の一つ、霧状の水を水蒸気爆発させその衝撃と熱で相手にダメージを与えるクリア・パッション。楯無の蒼流旋を天叢雲剣で防いでいた葵だが、その防ぐ一撃の度蒼流旋から微量な霧が発生し、周辺一帯を少しずつナノマシンの水が覆っていくのに気付かなかった。

 爆発によって吹き飛ばされている葵に、楯無は蒼流線を葵に向ける。そして楯無は蒼流旋に備わった武装、四門ガトリングを葵に向けて放っていく。

 

「く!」

 爆発の衝撃から素早く立ち直る葵だが、すぐさま楯無からガトリングガンの嵐が襲っていく。最初数発は被弾していくが、すぐさまスラスターを最大出力で噴射させ、高速離脱。楯無もガトリングガンで葵の後を追うが、葵も逃げながらも天叢雲剣を振るいレーザーによる斬撃を楯無に放つ。しかし楯無はなんなくかわすと再び葵に向けガトリングガンを放つが、葵相手にこの距離で放ってもかわされるだけと判断し、すぐにガトリングガンでの追撃はやめた。

 再び蒼流旋に螺旋状にさせたナノマシンの水を纏わせると、楯無は今度は自分から葵に近づいて行った。

 近づいてくる楯無に、葵は天叢雲剣を振るい攻撃するも楯無に通用せずあっさりかわされる。やはり自分の遠距離攻撃では無駄と判断した葵は、天叢雲剣の刀身に再びエネルギーを纏わせ、葵も楯無に向かって突進する。

 再び楯無は、近づいてくる葵に蒼流旋を一閃するが、その一撃を葵は天叢雲剣で迎撃しその結果―――楯無の一撃は大きく弾かれ、その衝撃で体が横に泳いで行った。

 驚く楯無の視界に、葵の持つ天叢雲剣が写る。その刀身は、さっき見た時よりも数倍の輝きを放っていた。

 

(なーるほど、攻撃する一瞬の内に天叢雲剣のエネルギーを最大級に込めて一撃の威力を上げたのね)

 防いだ衝撃で体が泳いでいる楯無に、葵は一気に詰め寄っていく。そして天叢雲剣を楯無に向けて振り下ろした。

(でも、甘い!)

 楯無は葵の天叢雲剣の斬撃を、アクアクリスタルから発生したナノマシンの水による楯で防いだ。一撃が防がれた事に葵は驚くが、すぐに

 

「はああああ!」

 気合と共に天叢雲剣にエネルギーと力を加えると―――楯無の水の盾を切り裂いた。

 

「嘘!」

まさか自らの防御が破られるとはと驚く楯無だが、間一髪後方に下がることで葵の一撃をかわした。しかし、すぐに葵は楯無に間合いを詰めると、

 

「はあ!」

 葵は左拳を握りしめ、楯無の胸に正拳突きを叩き込んだ。しかし、

 

「!!」

 

「それは喰らわないわよ!」

 葵の正拳突きの一撃。それを楯無は先程同様、胸に浮かぶ水の盾によって防いでいた。

 しかし攻撃を防がれた葵はすぐに、右手に持っていた天叢雲剣を楯無の腰目掛けて一閃。意識が胸に行っていた楯無は慌ててナノマシンの盾をその軌道上に形成するが強度が足りず、葵の一撃はそれを突き破った。そして楯無は葵の一撃を受け、その衝撃で横に吹き飛んでいった。

 すぐに葵は楯無の後を追うが、楯無は牽制の為蒼流線からガトリングガンを放ちながらスラスターをフル噴射しながら後退。まともに突っ込んだらハチの巣にされる為、葵も一旦距離を取り、ガトリングガンの攻撃をかわす。そして両者、離れると

 

「やるわね」

 

「そちらこそ」

 楯無と葵、両者互いの実力を認め笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだよ、あれ」

 まだ開始間もないが、俺は会長さんと葵の試合に度肝を抜かれていた。会長さんが繰り出す槍裁き、それを防ぐ葵。それだけでも俺の常識を超えた速さで行われていった。

 横を見ると、箒、鈴、ラウラ、セシリア、シャルも食い入るように試合を眺めている。

 

「動きが……違う」

 

「ええ、先月見た時より……あの福音事件の時よりも今の葵さんは動きが違う」

 

「でも、なんだかんだでやっぱり葵の方が押されてるわね」

 鈴の言う通り、俺もそれは思った。今の所やはり会長さんが葵を押している。天叢雲剣の一撃も正拳突きも防がれてるしなあ。会長さんと違い、葵は決定打を放てない状態にいる。

 

 

 

 

 

 試合の展開は、一夏が危惧した通りとなっていった。楯無の蒼流旋による長時間斬り結んだ場合発生されるクリア・パッション。それを回避するため数合打ち合う度に葵は距離を取るようになる。その時楯無は蛇腹剣を取り出し、その刀身に纏わりつく水を鞭のように形を変え、葵を襲う。ウォーターカッターの如きその一撃は変幻自在で、葵を苦しめ、離れるのも危険となった。また蛇腹剣に捕まったら、そこから電撃を流されたりもされ、じわじわと楯無は葵のシールドエネルギーを奪っていった。

 葵は楯無の攻撃に翻弄され、もはやシールドエネルギーはごく僅かとまで追い詰められていった。しかし、

 

(おかしい)

 葵を追い詰めている楯無だったが、何故か違和感を感じていた。

 楯無は蒼流旋を葵の胸目掛けて放つが、葵は左手に持った近接ブレード≪葵≫でそれを受け止め、動きが止まった楯無に天叢雲剣のレーザー斬撃を放つ。すぐさまアクア・クリスタルで前面を覆い、葵の攻撃を防ぐ。それを見るとすぐに葵は後方に下がり、同時に左手に持っていた≪葵≫を牽制の為投擲。それを蒼流旋で打ち払う楯無だが、葵はすぐさま右手に持っていた天叢雲剣を突き出し、楯無を刺そうとする。身を捻り間一髪さけた楯無は、すぐに距離を取りながら葵目掛けて蒼流線を一閃。その一撃を、

 

「!」

 葵は、左手に再度展開した≪葵≫で楯無の攻撃を打ち払った。

 

(そう、さっきからの妙な違和感……何時から葵は私の一撃を片手で払えるようになったの?)

 試合開始直後は、葵は天叢雲剣で、しかも刀身にエネルギーを乗せて両手で防いでいた。

 

(なのに今では片手、しかもただの何の変哲もない近接ブレードで払われている)

 おかしいのはそれだけでない。葵のシールドエネルギーは楯無が大きく減らしている。もはや蒼流旋やクリア・パッションを1、2撃すれば試合に勝てるはずだ。ガトリングガンも7.8発位当たれば倒せるだろう。しかし、すでに撃ち尽くしてしまっている。

 

(そこまで減らしてるのに……そこまで減らした時からこちらの攻撃が通用していない!)

 葵があと少しで負けるという状態まで楯無は追い込んだが、その状態のままもはや五分以上過ぎても楯無は葵に攻撃を当てられないでいた。

 

 クリア・パッションで攻撃されるのを恐れ葵はすぐに後退していく。その葵をさっきまではすぐに蛇腹剣で追撃していたが―――楯無は追撃を止め、後ろに後退し葵から離れることにした。

 

「!」

 その瞬間葵の目が大きく開くを楯無は捉えた。両者互いに離れていくが、葵はすぐに後方に下がるのを止めると―――瞬時加速を行い、一気に楯無に向かっていった。

 

(ここで瞬時加速!?)

 猛スピードで向かってくる葵に、楯無は危険と判断し自らも後方に向けて瞬時加速を行い、葵の追撃を逃れる。本来ならここでガトリングガンを撃ち迎撃したい所だが、あいにく既に弾切れだった。蒼流旋で迎え撃ってもよかったが、先程までの推測―――蒼流旋を何時の間にか片手で、しかも天叢雲剣でない剣でそれを行われていることに危機感を抱いた楯無はそれを躊躇い、逃げることを選んだ。しかし、

 

(ええ!)

 後ろに大きく後退した楯無を、また猛スピードで葵は追撃していく。

 

(二重瞬時加速! まさかあの状況で!?)

 驚く楯無だが、葵は目の前まで迫ってくる。もはや迎撃するしかないと蒼流旋を構え、近づいてくる葵を串刺しにせんと槍を突き出す。その瞬間、

 

「え?」

 思わず間抜けな声が楯無の口から洩れた。何故なら、楯無が構えていた蒼流旋。それが、

 

 葵が左手に≪葵≫、右手に持つ天叢雲剣の攻撃を受けて―――蒼流線が手から離れたからだ。重い一撃だったわけではない。目に見えない程の速さでも無い。なのに―――楯無が気付いた時は、手に持っていた蒼流線は楯無の手を離れ、宙に舞っていた。

 驚愕する楯無に、葵は近づき―――天叢雲剣のエネルギー全てを刀身に込め、渾身の一撃で楯無の頭部に振り下ろした。その結果、

 

 轟音と共に、楯無は地面に叩きつけられてしまった。

 

「~~~~!」

 天叢雲剣の頭部への一撃、そしてその衝撃で地面まで叩きつけられ、楯無の意識は朦朧としていた。しかし、ミステリアス・レイディのハイパーセンサーが、上空から猛スピードで葵のスサノオが追撃に来るのを知らせている。そして楯無がいた場所に、上空から葵が急襲。楯無がいた所に天叢雲剣を突き立てるが、寸での所で楯無は前方に飛んで回避。しかしすぐに葵も天叢雲剣はそのままに、≪葵≫を取り出して追撃。楯無はすぐに瞬時加速を行い、とにかく急いでここから離れようとした。この距離なら、葵の剣が届く前に前方に逃げれるはずだと思っていた。

 しかし、瞬時加速を行ったと同時に、楯無は背中に妙な衝撃を受けた。そして、

 

(え、え~~~!)

 楯無は瞬時加速した加速状態で、地面を転がって行った。慌てて上空に行こうとしても、ミステリアス・レイディの機体は上手く上空に飛ばず、すぐに地面に落ちてしまった。何がどうなってるのか理解出来ないまま転がっていると、後方で葵の姿が見えた。そして葵の姿を見て楯無は再度驚愕した。

 

(あ、あの姿勢は……昨日エレナとの試合で見せた!)

 昨日の葵とエレナとの試合。試合終盤で試合を決める一撃を放った葵の居合。その神速の一撃が楯無が瞬時加速で逃げる一瞬前に、ミステリアス・レイディのスラスター二基を切り裂いていた。

 

(私本体を攻撃したらシールドバリヤーで防がれるはず。 まさかこの子―――最初からスラスターだけを狙った!?)

 何度驚いたかわからなくなる楯無。しかし、前方に転がっていく楯無目掛けて葵は再び迫ってくる。武器は無く、スラスターを二基壊された為満足に飛ぶ事も出来ない。最早打つ手がないと思われる楯無だが、

 葵が近づきその体に一撃を与えんと≪葵≫を振り下ろした瞬間、楯無と葵、両者の間で大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

(やった!) 

 武器を払われ、スラスターを二基破壊され満足に動くことも出来ない。もはや絶体絶命の状況で楯無がしたのは―――自身をも巻き込む、アクア・パッションによる自爆であった。

 アクアクリスタルを出力全開にして周囲に水蒸気を発生させ、自身に被害が及ぶのも構わず楯無は出力を惜しまず解放させ葵と自爆した。自爆の爆発で大きく吹き飛ばされる楯無だが、葵も同様に楯無と反対方向に吹き飛ばされていた。この爆発により、葵のシールドエネルギーはまさに風前の灯といったほどまでに下がっている。いや、このエネルギーでは、飛んでこっちに向かうだけでなくなってしまうだろう。

 

(さっきの爆発でヤバいのはこっちもだけど……向こうはそれ以上ね。後はもう、こっちの攻撃が掠るだけで向こうは倒れる)

 楯無は戦況が自分に有利になっているのを理解したが、

 

「~~~!」

 体を動かした瞬間、楯無の体に激痛が襲った。元々防御はナノマシンの水が行うため、ミステリアス・レイディの装甲は薄い。それが仇となっていた。

 

(地面に叩きつけらてた瞬間は少し軽減できたけど……さっきの瞬時加速状態で地面を転がった時が堪えるわね……)

 高スピードで地面を転がっている時の衝撃は、装甲の薄い楯無にとって致命的だった。シールドバリヤーが展開され、大きくエネルギーを削り取られた上に衝撃で体中を痛めつけられてしまった。ふらつく体を起こした楯無に―――地面を駆りながら葵が猛スピードで向かってきていた。

 大きく息を吐きながら近づいていく葵。手に持つ武器は≪葵≫。天叢雲剣は未だに地面に突き刺さったままになっていた。

 その姿を楯無は確認すると―――楯無の周りに浮いているアクアクリスタルを操作し、前方数メートルの所で水蒸気を発生させた。

 

(もう葵も飛べないみたいだし……近づいてきたらアクア・パッション起こして倒そう)

 今の状態で蒼流旋や蛇腹剣を振るっても、葵ならかわしてしまうだろう。それに蒼流線がはらわれた後では、葵に接近戦をする気が楯無に起きなかった。

(もうすぐ、もうすぐ)

 前方に展開した水蒸気は、微量だが葵を倒すには十分な量だ。後は葵さえ一定の距離まで近づいたらそれを爆発するだけでいい。楯無は、葵が必殺の間合いまで来るのを待てばいい。

 

そのはずだった。

 

(?)

 それを気付いたのは、楯無が武人として一流であったからかもしれない。

 

(!)

 一瞬の違和感、それに気づいた瞬間、

 

 葵は、楯無のすぐそばに来ていた。

 

(何時の間に! 私が見逃すわけが!)

 しかし現実に、気が付いたら葵は楯無のすぐそばまで来ていた。現実は変わらない。距離を詰めた葵は、何時の間にか≪葵≫は捨てており、左拳を構え正拳突きの構えを取る。その瞬間に、

 

(させない!)

 楯無は自身の周りにいた残りのナノマシンの水を守るように展開。試合中葵の正拳突きを防いだ時と同じように、水の盾を作り攻撃を防ごうとする。自身の体を守る究極的な優先意識が、ナノマシンが応え葵の攻撃前に盾が完成した。

 

(やった、これで)

 しかし、楯無は気付いていなかった。葵の利き手は右手。何故この瞬間も葵は左手で攻撃しようとしたのかを。良く見ていたら葵の左拳が……先程までとは違い、二倍以上膨れていることに。

 そして葵の左の正拳突きは放たれ、楯無の水の盾に衝突。

その瞬間、葵の左手は光り楯無の水の盾を貫通。その勢いは止まらないまま、楯無の胸に当たり、楯無はアリーナの壁まで吹き飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言葉に出ないってのはこういう状況の事をいうんだろうなあ。

 今葵が会長さんを殴り飛ばしたけど……ああ、言葉が出ない。なんつうか、あれだ。無茶苦茶だ。

 横にいる皆も同様で、全員驚愕やら呆れを含んだ目で葵を見ている。

 

「……正直に言うわね。今の葵に、あたし絶対敵う気がしない」

 

「……僕も同感」

 

「……本国の地獄の特訓で少しは近づいたと思ってましたけど」

 

「何時の間に……私と葵とではここまで離れてしまっていたのだ」

 鈴、シャル、セシリア、ラウラが悔しそうな声を絞り出す。特にラウラが、悔しそうに歯噛みしている。……ああ、俺も皆の気持ちがわかる。俺のライバルは……ここまでのものだったとはな。

 そんな中箒だけ、皆と同じ驚愕とも呆れの表情を浮かべているが、もう一つの表情を浮かべていた。それは―――歓喜。

 

「おい、一夏。葵の試合!」

 箒は興奮しながら俺に話しかけてくる。

 

「葵、あいつさっきの試合で! 篠ノ之流の技を3つも使っていた!」

 

「嬉しそうだな箒」

 

「当然だ! 葵はISを使って見事再現して見せた! なら、私も修行すれば出来るはずだ!」

 そう葵は、会長さんとの試合で箒の親父さんから習った篠ノ之流の技を3つ、見事にISに乗って再現して見せた。

 一つ目は篠之流剣術で、二刀流の時に使える相手の武器を手放させる武器払い。二つ目は千冬姉も使っていたという篠ノ之流に伝わる居合、3つ目は篠ノ之流の中でも裏奥義とも呼ばれる技、零拍子。

 どれも葵が俺達に初めて見せる技だ。そして葵は見事それらを使って―――会長さんに勝利して見せた。

 

「なるほどな、そりゃ葵も箒に良く見とけと言うよ」

 ISに乗っていても、篠ノ之流剣術は通用する。葵はこれを箒に、そして俺に伝えたかったわけか。

 

『試合終了!』

 千冬姉の声が響いていく。

 

『この試合』

 ああ、全く、俺の幼馴染は、

 

『ドロー』

 大した奴だって、え。

 

 あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、まさか殴った衝撃ってだけで私のシールドエネルギーがなくなるとは。さすがにこれは私も予想外でした」

 場所は生徒会室。中にいるのは生徒会長椅子に座る楯無と、教師の千冬。そして葵の3人しかいない中、葵はつい先ほど行われた試合の結果に愚痴っていた。

 

「それはこっちの台詞だよ。 葵君の戦いぶりは正直私も驚かされたよ。槍を手放させた君が言う篠ノ之流剣術。私のスラスターをぶった切った神速の居合。そしてISに乗りながらもやってのけた無拍子もどき」

 

「ああ、それラウラの為に取っておこうと思ったんですが……私の第六感が使わないとヤバいと言うもんですから使ったんですよね」

 

「極めつけは最後私の」

 

「会長の水を突き破ったこれですね」

 そう言って葵は、左手だけ部分展開させた。スサノオの左手だが、肘から先が白く覆われており、拳に至っては通常に2倍以上に膨れ上がっていた。

 

「本邦初公開! スサノオが持つオートクチュールの武器の二つ目! 三種の神器の一つ! その名も八尺瓊勾玉!」

 妙なハイテンションで、葵は千冬と楯無に試合を決めた武器を見せた。

 

「う~ん、これが私のミステリアス・レイディの水の盾をぶち抜いた武器かあ。……でもさあ」

 

「何でしょう?」

 

「何でそれが八尺瓊勾玉? 正直ただの籠手じゃないかな、それ。何が勾玉なの?」

 ジト目で楯無は葵の左手に覆われている籠手、八尺瓊勾玉を眺める。

 

「いや良く見てくださいよ会長」

 

「何を?」

 

「ですからこうして」

 葵は左手を前に突き出し、楯無のから横に見えるようにした。

 

「どうです? なんか横から見ると握っている部分が空洞で、拳から肘までの形が微妙に勾玉っぽく見えません」 

 

「……」

 葵の言葉を聞き、まあ言われてみれば百歩譲ってそう見えなくはないのだが……かなり強引な理屈であった。

 

「はあ、もうそれはいいわ。じゃあもう一つ質問」

 

「何です?」

 

「何でその八尺瓊勾玉。左手に付けているの? 貴方の利き手は右手でしょ?」

 

「あ~、それなんですけど」

 ちらっと会長を見る葵。その姿に少し申し訳ない顔をして、

 

「まあ言わなくてもおそらく気付いているとは思いますが……今の会長さんの姿が理由です」

 そう言って、葵は楯無の姿を眺める。生徒会長椅子に座っている楯無だが、制服の下には無数の包帯が巻かれている。

 

「肋骨が3本粉砕されたよ。 ISの絶対防御が発動されたにもかかわらずこの威力。もしこれが君の右手による攻撃だったら」

 

「死んでいただろうな、確実に」

 千冬が溜息をつきながら答えた。

 

「出雲技研の者から聞いていたが……まさか左手に、しかも出力を抑えた上でこの威力か。もしかしたらIS委員会から使用禁止を言い渡されるかもしれないな」

 

「右手だと洒落になりませんからね。5日前、出雲技研で右手に装着して威力測定したら本気でヤバい数値叩きだしましたし。右手で本気で殴ったら、『絶対防御? ISにはそれがあるから絶対死なない? ならそのふざけた幻想をぶち壊す!』な事になりますから」

 

「なんだ? その変な口上は?」

 

「私の数値を見た方が、なにやら笑いながら言ってたので。面白いから後で一夏達に説明する時も言いますよ」

 

「はあ、もういい。いい加減そろそろ本題にはいるぞ」

 千冬はそう言って、楯無の方を向いた。

 

「試合結果は、予想外の引き分けだが……どうする? もう一度日を改めて再戦するか?」

 千冬の質問に、楯無は

 

「いや、今回は私の負けでいいです」

 笑みを浮かべながら千冬と葵を見ながら言った。

 

「え、でも会長……」

 

「私は万全の体勢で挑んだけど、貴方はまだ第三世代兵装八咫鏡も無い状態で戦ってそして引き分け。同じ引き分けでもそれじゃあ中身が違う」

 

「いえ会長、それなんですが」

 

「いい、何も言わなくてもいいよ葵君。君は私と戦い引き分けたが、実質君の勝ち。これでいいじゃないかな」

 

「あの」

 

「い い よ ね」

 

「……はい」

 何か葵は言いたそうではあったが、有無を言わさない楯無の圧力の前に頷いてしまった。

 

「よし、じゃあ今回の賭けだけど……今回は一夏君と同室になる件は諦めるとするわ。織斑君の同居人は、これまで通り葵君」

 

「そうですか」

 楯無の話を聞き、葵はほっとした。葵も一夏以外の、正確には女の子の同居は可能な限り避けたかったからだ。

 

「でも、織斑先生のコーチの件だけど……こればかりは私の権限だけではどうしようもないわ。でも、そうね。今までのように毎日はともかく……週に2.3回程度は織斑先生がコーチする許可を私が取ってあげる。文句言ってた生徒も、毎日じゃなければ納得してくれるかもしれないしね。勿論、織斑先生がコーチしない日は私が一夏君を鍛えてあげる。戦闘技術以外にも、射撃特性や操縦特性とかは織斑先生でなくても私が教えられると思うし」

 

「ああ、それで私も構わない。飛び道具や第三世代の兵装については私よりも更識、お前の方が上手く説明できるだろうし。むしろお前がコーチに加わることはこちらとしても助かる」

 楯無の提案に、千冬は笑みを浮かべながら頷いた。

 

「え、じゃあもしかして今回の件って、一夏にとって一番いい結果になったって事?」

 

「結果だけ見たらそうなるな」

 

「まあ葵君、君が負けた場合は本気で私は一夏君と同居して、コーチの件は織斑先生から外していたけどね」

 葵を見ながら、楯無は笑う。しかし葵は、そんな楯無を見ながら

 

「会長、それ本当ですか?」

 疑問に満ちた目をしながら言った。

 

「あ、そういえば織斑先生! 会長!あの件なんですが」

 

「わかっている。今回の試合は極秘で行われている。つまり、最初から存在しない試合となっている。そもそも、今回引き分けなのだからお前の杞憂することはないがな」

 

「……勝ってしまったらIS学園最強。つまり生徒会長になってしまうから戦いたくないとか。私もずいぶん舐められたものね」

 

 楯無しがジト目をしながら葵を睨むも、

 

「だってそれは、最初から負けるのを前提にするとかありえませんし」

 葵は涼しい顔をしながら答えた

 

 

 

 

 

 話は終わり、葵は一夏達の下に同居の件やコーチの件の結果を伝えるために生徒会室から出ていった。葵が完全に生徒会室から出ていった後、

 

「更識、今回の件だが……どこまで本気だったんだ?」

 

「織斑先生、何のことです?」

 

「私が織斑のコーチを辞める件についてだ」

 剣呑な目をしながら、千冬は楯無に言った。

 

「幾らお前が生徒会会長で、そういう苦情があったとしてもだ。お前、まさかそれを本気で受理しようしていたのか?」

 

「まさか。そんなくだらない苦情、取り合うわけないじゃないですか。真剣にISの訓練をしている者を、有名人の弟だからとかブリュンヒルでに付きっきりでコーチされて羨ましいとか、そのくせ自らは織斑先生にコーチを頼みにいかないくだらない連中の為に、私は動きませんよ。今回苦情言った連中には私から言っておきますよ『なら、君達も頼み込んで織斑先生の指導を受けてみたら』って。どうせ皆、一夏君がやらされてる訓練を見ているからすぐに逃げ出しますでしょうね」

 

「じゃあやはり、今回それで難癖つけてきたのは」

 

「はい、青崎葵。彼女と戦うためです」

 

「……それはロシア、もしくは日本の命令か?」

 

「さあ、どうでしょう。ただ言えますのは私も純粋に戦ってみたかったってのがありますね。そして戦った結果、やはり私の予想通りでした。織斑先生、葵君ですが―――かつての実力、完全に取り戻しましたね」

 

「ああ、それもお前という強敵と戦っている間に、な」




後編終了です。
話の流れは決まってたので、休みの日に一気に書いてみましたが……駄目ですね、戦闘シーンがくどいし単調です。
しかも、この展開は……葵TUEEEEだし。
いえ、一応今のところ、今回で会長も葵の手札を知ったわけですので次回戦ったら勝負はわかりませんよと言っておきますが。

そして今回忘れかけていた葵のスサノオの設定、三種の神器の一つ八尺瓊勾玉登場しました。
内容については……すみません、酷いです(笑)
しかしようやく二つ目を出したし、最後の神器もきっと……そのうちだします。

まあとりあえず、これでようやく会長編終了。次回は夏休みらしく、海へ行ったり花火大会にと夏休みを満喫させ、二学期に突入させます。
無論、海に行くのは葵と……

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