IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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夏休み 海と祭

 高校生の青春で、海は欠かすことの出来ない夏のイベントだろう。

 青い空、白い雲、輝く太陽は夏の象徴であり、夏休みという長期の休みで暇を持て余している高校生は、眩しい海を見てしまうと興奮し小学生に戻ったかのように遊びまくる。

 さらに男子高校生の場合、そんな海に同性の野郎達と行くのでなく、可愛い女の子と一緒に海に行ったら―――夏休み明けの教室でまず確実に、色々な意味で勝者となる。

 友達と行くのもそりゃ楽しいが、やはり異性でしかもそれがとびきりの美少女と二人っきりというのは全く次元の違う話だ。男なら聞いたら誰もが羨ましがり、そして嫉妬の目で睨むだろう。

 そして、今の俺はその立場にいる! 夏の最大の青春イベントの一つ、海に誰もが認めるだろう美少女と二人で海に来ているのだ! 男子高校生の憧れのシチュエーションを、今の俺は体験しているのだ! やべえ、俺ってネットで言う超リア充だぜ! これで俺も夏休み明けのクラスで、誰もが羨ましがれる話が出来るぜ!

 

「………そう思っていた時期が、俺にもありました」

 いや本当に、昨日までは本当にそう思っていた。

 

「へ? 弾急に何?」

 

「何でもねーよ。 それよりも葵、引いてるぞ」

 

「あ、本当だ。よーし、次は何かな?」

 楽しそうな顔で葵は、手に持っている釣り竿のレールを巻いていく。竿を時折揺らしながら巻くこと数秒後、

 

「フィーッシュ! あ、やったあシマアジゲット! 二匹目貰い!」

 おそらく60cm前後のシマアジを葵は釣り上げた。これで葵の言う通りシマアジは本日2匹目だな。アジはすでに20以上釣っているが。ちなみに俺はアジを15匹程釣っているが他の魚は釣れていない。嬉しそうな顔をしながら、葵は釣ったシマアジを船長さんに渡した。

 

「一歩さん、これも生け簀にお願いします!」

 

「あいよ! しっかし葵、女になっても釣りの腕は落ちてないな! 空手の腕は女になったのにさらに上がってたが」

 20代後半位の短髪で厳つい顔をして、筋肉が隆々としておりまさに海の男を体現したような船長に、葵は釣ったシマアジを手渡した。ちなみにこの二人、出向前に揺れる甲板の上で組み手を行い、不安定な足場をモノともせず大立ち回りをやらかした末葵の蹴りが船長を海に叩き落とした事で決着した。話を聞けばここに来れば毎回やっているようで、葵の空手の成長を図るためやっているらしい。これまで葵の全敗だったようだが、今年初めて勝てたので葵は大喜びしていた。俺は最初葵が女になったから手加減したのかと思ったが、船を操縦していた時の船長の顔がマジで悔しそうであった為、手加減抜きの本気だったのを知った。

 この船長さん、葵の親父さんの元弟子で昔から葵と一夏を釣り船に乗せてくれていたらしい。今日葵と二年ぶりに再会し、最初は葵の姿を見て驚いていたがすぐに笑顔で受け入れていた。「TVで見るよりもずっと美人になったな」と船長さんが言った時、葵の奴少し顔赤くして照れていた。その後今回一夏の代わりに俺が来たもんだから色々怖い顔で尋問されたが……葵が呆れた顔で「友達よ友達。気の置けない友達」と言ったら解放してくれた。……しかしさっきからたまに俺の事を厳しい目で見ている。怖いんで止めて欲しい。そんな俺の心労を明らかに意図的に無視しながら釣りを楽しんでいる葵を、横目で眺めてみる。

釣りをしているのだから当たり前だが、葵の格好はズボンに白の長袖、その上にライフジャケットを付けており頭には帽子を被っている。ああ、全く色気が無い。

 

 昨日の夜、急に葵から電話があり、「弾、明日暇? 暇なら海に行かない? 一緒に行こうとした一夏が急にいけなくなったから」と言われ俺は二つ返事でオーケーした。

 だって海だぞ。つい最近一緒にプールに行ったが、その時見た葵の水着姿は非常に眼福だった。

またそれが見れるかと思ったら断る理由あるわけがない。しかし、

 

 

「騙された……、つうかよく考えたらただ海に行って遊びに行くなら二人っきりはないよな」

 浜辺で泳いだりして遊ぶのならそら大勢誘うよなあ。それが人数絞って海に行くとなると考えられるのは、

 

「釣り船乗る予定だっだけど一夏が乗れないから俺を誘った、か。手ぶらで水着の用意はしなくていいと聞いた時点で少し怪しんどけよ俺……」

 俺はがっかりしながら項垂れる。竿が引いているが釣り上げる気があんまり起きない。

 

「弾、あんたも引いてるわよ」

 葵の声を聞き、しかたなくリールを巻いていく。まあこの当たりじゃまた小さいアジだろうけど。

 そして予想通り、10cm程度のアジを俺は釣り上げた。これで16匹目、葵に追い付くには後4匹いるな。

 

「弾も釣ったし、私もどんどん釣り上げていきますか!」

 葵はそう言って、また海に向かって竿を振った。何匹釣り上げる気なんだこいつは?

 

「もう食べるには充分釣っただろ?」

 

「私だけならともかく、お世話になっている千冬さんや山田先生に一夏達の分も考えたらこれでも足りないかもしれないから。それに一夏はデカいアジを丸ごとアジフライにして食べるの好きだし。後朝食用に一夜干しを作って食べさせたいわね」

 

「一夏に?」

 

「ええ、そうよ。まあ一夏だけでなく箒も好きだし、せっかくだからセシリア達にも食べさせたいしね。白米に味噌汁におひたしに干物! これぞ日本の朝食ってね」

 

「……それ俺も食っていい?」

 

「弾も? ええ、いいわよ。じゃあ明日一夏の家に朝7時で」

 

「さも当たり前のように一夏の家を使うの決めてんのな」

 

「だって私の家はまだ無いし。最初はIS学園で作って皆に振舞おうと思ったけど、千冬さんが刺身を作るなら酒が欲しいからって場所を提供してくれたのよ。IS学園よりも千冬さん家の方がゆっくりできるから私も賛成したわ。だから今日は千冬さん達のつまみを作る為忙しくなるわね。あの人達酒を水のように飲んで食べるから」

 なんか葵の話を聞いていたら、あの世界最強のブリュンヒルデである一夏の姉が急に親しみやすくなる気がする。何度も千冬さんに会ったことあるが、あの人なんか近寄りがたいんだよなあ。そんな千冬さんを葵は近所のお姉さんみたいに気安く話している。やっぱこいつはいろんな意味ですげえな。

 

「そっか。ならもっと頑張って釣るとするか」

 俺がそう言って葵に笑いかけると、

 

「ええ、弾も頼むわよ」

 葵も笑顔で俺に返した。

 

 

 

 

 ……やべ、これだけでなんかもう今日来てよかったと思いたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこうなるんだよ……」

 IS学園の整備室で、俺は椅子に座りながら大きく溜息をついた。

 

「今日は本当なら葵と一緒に釣りに行く予定だったのに……。山田先生、なんで毎回直前になって明日の用件伝えるんです? 嫌がらせですか?」

 

「ご、誤解ですよ織斑君! 本当に青崎さんの時も今日の一織斑君の件も急に私の方に連絡が来たんです!」

 俺の恨みがこもった視線を受け、山田先生は大きく首を横に振りながら否定した。いや山田先生に文句言ってもしょうがないのはわかってるけど。

 

「しかしこちらの用事を少しは考えて欲しいですよ。せめて3日前に連絡してくれれば……」

 いや今日の釣りは3日前でも無理なのはわかっているんだけどね。葵の親父さんの弟子の幕の内さんが釣り船やってて、キャンセル客が2名出来たから葵を誘ったんだし。毎年都合よく2名キャンセルされてたけど。

 

「葵の奴は今頃釣りまくってるだろうなあ。……何でいざ遊びに行こうとしたらどっちかが予定入るんだろう。天の嫌がらせですかこれ?」

 

「……織斑君、気持ちはわかりますけど我慢お願いします。織斑君のデータは大変貴重なんですから、こまめに記録していかないといけないんです」

 そりゃ世界で唯一の男性操縦者だから、ISの謎を解くためにも様々なデータが欲しいのはわかるんだけど。

 

「まあまあ織斑君、今日はまだ16日。夏休みはまだ半分残ってるんですから」

 逆を言えばもう半分過ぎた事にもなるんですけどね。しかし振り返ったら夏休みに入ってからいろんな事があったな。3日前なんか会長さんと葵が戦って……。

 

「あ、そうだ山田先生。頼みがあるんですがお願いしてもいいですか」

 

「頼み? 何をですか織斑君?」

 

「葵が出雲技研にいた頃のIS戦の映像ってあります? あるなら見たいんですが」

 俺が葵の昔の映像が見たいと思ったのは、葵と会長さんの戦いを見たからだ。

 葵はIS学園に来た当初と比べ、明らかに強くなっている。専用機を持ったからと最初思ったが、会長さんと戦っている葵を見てそれは違うと感じた。会長さんと戦う葵の動きは徐々に変化し、それに伴い強くなって会長さんを追い詰めたが、俺にはあれは葵が戦いの中で成長したというより……本来の動きを取り戻してきたみたいな気がした。

 俺の頼みを聞いた山田先生は一瞬驚いた顔をしたが、

 

「ごめんなさい織斑君。それはまだ出来ません」

 残念そうな顔をして断った。

 

「え? まだ出来ないってどういうことですか?」

 

「青崎さんと織斑先生から止められているんです。もし織斑君から頼まれても、織斑君が青崎さんのシールドエネルギーを8割減らすことが出来なければ見せることは出来ないと言われてます。織斑君はまだそこまで青崎さんを追い詰めた事ないですよね」

 なんだよそれと思うが、俺も葵のシールドエネルギーは最高で半分減らした事しかない。しかもそれは葵が打鉄に乗っていた時だから、スサノオ持っている今の葵じゃ……当分無理だな、こりゃ。

 

「わかりました、ならその条件を満たしたら、また頼みにきます」

 

「……随分あっさり引き下がるんですね織斑君」

 

「あの二人がそう言ってるんなら、意味があると思いますから。じゃあ山田先生、もう一つお願いがあるのですが今日の予定ですが最低4時までには終わらせて下さい。一方的にこっちの予定を無視したのですから、せめてこれだけでもお願いします」

 

「4時までにです? それなら急げば大丈夫とは思いますが、今日は青崎さんと釣り以外にも予定があったんですか?」

 

「はい。久しぶりに揃いましたから」

 

 

 

 

 

 

「へえ、じゃあもしかしたら一夏はその会長と一緒の部屋で生活する事になりかけたのか」

 

「そ。まあ何故か成り行きで私が戦ってそれを無くさせたけどね。だってそうしないと私が部屋を追い出されるし」

 俺と葵、なかなか当たりがなく暇になったから最近の葵や一夏の出来事を聞く事にした。

 

「でも葵、どうせ何時かはお前も一夏の部屋追い出されて誰かと相部屋になるんだろ?」

 

「まあそうなんだけどね。でも……もう少しだけ今のままで過ごしたいとは思ってる。何時かは出ていかなければいけないのはわかっているけどね、一夏には悪いとは思っているけど」

 何言ってるんだこいつ?

 

「……いや一夏がお前と同居を嫌がる理由は全く無いと思うんだが。むしろあいつずっと一緒にいることを望むと思うぞ」

 葵が来る前と来た後で、一夏が学園の事話す時の顔が凄く変わったからな。前は女の園で一人でいるのは辛いみたいな事言ってたのに、葵が来てからは本当に楽しそうに話すからな。

 

「だって私が一緒の部屋にいることで、一夏我慢していると思うし」

 我慢? 

 

「いや私も決まった時間に部屋を空けて、決まった時間に部屋に戻るようにしてたけど……やっぱり朝っぱらからはそういう気が起きなかったのかな。それに先月から一夏も朝練しだしたから朝の時間もなくなったし。放課後はお互いIS訓練や部活とか夕食食べたらあっという間に時間過ぎてしまい、9時過ぎたらお互い部屋にいないといけないし」

 

「なあ葵、まさかとは思うが……一夏の我慢している事って」

 

「うん、オ○○○」

「ブハッ!」

 予想はしていたが葵から直球で言われ、思わず吹き出してしまった。……いや同い年の女のからこんな言葉聞けるとは思わなかった。

 

「あ、葵! お前何てこと」

 

「弾、結構これ重要な事と思うのよ。ほら私って結局アレは偽物というか別物だったせいで精巣とかなかったから、男の性欲ってわからないのよ。だから私の知識って、昔弾達と一緒に見たエロ本とかしかないし。まああの時一夏や弾みたいにそこまで興奮しなかったのは私が本当は女だったからなんだろうけど」

 そういや中一の頃、鈴を仲間外れにして一夏の部屋でエロ本やAV鑑賞したな。あんときは俺はハイテンションで、一夏も結構盛り上がってたけど……葵はそこまで盛り上がってなかったような。いや良く考えたら、これって俺と一夏は同年代の女の子と一緒にエロ本読んでAV見てエロトークしまくったことになるのか? 

 

「……何考えて赤くなってるのよ。そりゃ私からそういう方面の話題振ったけどオ○○○程度の話題で赤くなるほどウブってわけでもないでしょ。中学の頃は散々こういう話はあんたから言ってきたくせに」

 葵が呆れた顔しているが……昔の事を思い出しその意味を理解したからだよ。とんでもないな、今振り返ると。

 

「いやそりゃそうだけどよ……お前は馬鹿か?」

 

「馬鹿とは失礼ね。結構重要と思うわよ」

 いや馬鹿だろお前。

 

「なら葵、お前に聞くがお前は一夏と同室だがお前はその、一夏がいてもオ○○○はするのか?」

 

「セクハラで訴えていいかしら」

 

「お前からそういう話題をふったんだろうが!」

 真顔で言うな。少し傷ついたぞ。

 

「やるわけないでしょ、痴女か私は。それに私って、その……あんまりそういう事をするのはちょっと抵抗あるのよね」

 ……顔を赤くして言うな。成り行きというか葵から振った話題だが、俺も同い年の異性からオ○○○やってるのかを聞くとかとか何だこの異常空間は。

 

「……ああ、じゃあ同室相手を一夏でなく、鈴だとしよう。これだと同じ同室相手だが、葵この場合ではオ○○○を鈴がいてもするのか?」

 

「……ああ、まあ弾が言いたいことはわかったわよ」

 俺の話を聞いていき、葵は納得がいったという顔をした。

 

「そりゃそうよね、よく考えたら同室相手が同性だろうが異性だろうが、どのみち誰かいる時点でオ○○○はできないわね」

 当たり前だ。例え俺と一夏が一緒の部屋で生活していたとしても、堂々とオ○○○するわけねーし。つか一夏がしていたとしたら一夏を部屋から追い出す。

 

「葵のわからないところで処理してるんだよ」

 葵に投げやりな感じで言うも……しかし俺も気になってきた。女しかいないIS学園で女と触れ合う機会が無数にあり、部屋には葵みたいな女が一緒にいて、あいつはどうやって性欲を処理してるんだろうか?

 

「ったく、相談があるとか言うから真面目に聞いたのに」

 

「ごめん弾、私が悪かったわ。さすがに鈴とか箒とかにこんな話題は触れないからちょっと弾に聞いてみたくなったのよ」

 まあそりゃ鈴とかが喜んで漫談するとは思えないけどな。

 

「こんな話題でふと思ったが……葵、お前って一夏とこういう話をしたりするのか?」

 

「一夏と? うーん、まあ確かに昔から一夏とはあんまりしないわね。というか弾がいなかったらこっち系の話はしないかな」

 

「何で?」

 

「何て言うのかな。昔はそこそこ話していたけど今は……意図的にお互い避けてるってのがあるわね。理由は言わなくてもわかると思うけど」

 

「……ああ、そうだよな」

 いけね、これは俺が悪かった。

 

「だから今は……弾だけよこういう話題をするのって」

  

「……」

 ああ、くそ! こいつは本当にあれだな! 俺に対してワザとやってんのかよこんちくしょう! なに微笑みながら言ってんだよ!

 

「あ~そ、そうだ葵! 確か今日って篠ノ之神社でお祭りがあったよな! 俺は御手洗や中学の時のダチと行くけど、お前も行くのか?」

 なんか良くない雰囲気になりかけたので、俺は顔を若干赤くしながら葵に尋ねた。まあどうせ一夏と一緒にいくだろうけど。

 

「ええ、行くわよ。今日は久しぶりに揃ったし」

 葵は笑みを浮かべながら答えたが……久しぶりに揃った? 

 

「花火が楽しみよね~」

 葵がそう言った後、また俺と葵に当たりがきだしたので釣りを再開する事となった。

 

 

 

 

 

 

「……何故?」

 私は目の前の光景を見て絶句した。私が見る先には―――神楽を舞う舞台周りを埋め尽くす大勢の見物人達がいた。

 今日私は6年振りに実家に戻った。戻った理由は、今年の篠ノ之神社で行われる祭りの神楽舞。今年は久しぶりに私が舞えと父から言われた為であった。それは今月父に剣の稽古をしてもらう時父から言われた条件で、私もこの地に久しぶりに戻った為断る理由も無く承諾したのだが……観客の数が6年前と比べて明らかに増えていた。

 いやこれはおかしいだろう! 過去を振り返っても、神楽舞を見る見物客はそんなに多くなかったはずではないか! ……いや一部異常なほど目つきの悪い男が何人かいたが笑顔で姉さんと千冬さんが追い払っていた気もするけど。私が顔を強張らせながら舞台を眺めていると、

 

「あは~、こりゃ満員御礼だね箒ちゃん。私が宣伝したかいがあったもんだね~」

 後ろから底抜けに明るい声がした。って!

 

「ね、姉さん!」

 

「はろー箒ちゃん。1ヶ月ぶり~」

 先月臨海学校で会った姉さんがいた。とてもいい笑顔をしながら。しかも姉さんの服装を見て、私は再度驚く事となった。

 

「姉さんその恰好……」

 それはこれから神楽を舞う私と、全く同じ格好をしていた。

 

「姉さん、まさかとは思いますが……」

 

「うん。箒ちゃん。私も一緒に踊るから! 大丈夫、踊りはこの天才がしっかり覚えてるから完璧に踊れるよ!」

 まあ昔を振り返れば、姉さんも高校一年生までは踊っていたからそれは問題無い……って違う!

 

「いやそうではなく! 何で姉さんが私と一緒に踊る事になってるんです! いえそれよりも先程の宣伝って……」

 

「うんこの私がネットや街で宣伝しまくったから! 美人姉妹、神楽を舞うって! いやあ効果絶大だったよ! あ、見てよ箒ちゃん! あそこにいるのって昔箒ちゃんを虐めていた男の子達だ! へええ今日見に来たってのはどうやら昔はツンデレしてたんだねえ。ま、もう遅いけどね! 箒ちゃんはいっくんのものだから!」

 何て事してくれたんだこの姉は! しかも姉妹で宣伝って! 貴方は世界中から追われているという自覚があるのですか!

 

「あ、もうすぐ時間だ。いこ、箒ちゃん」

 姉さんはそう言って、私の手を取った。

 

「ちょ、姉さん! 私は姉さんと一緒に踊るとは」

 

「拒否したら紅椿のメンテ拒否しちゃおうかなあ」

 

「な!」

 それは卑怯すぎませんか姉さん!

 

「……ああもう、わかりました。今日だけは一緒に踊ります!」

 

「ありがとう箒ちゃん! お姉ちゃん嬉しい」

 しぶしぶ承諾すると、姉さんは満面の笑みを浮かべながら私に抱き着いてきた。ええい、抱き着かないで欲しい! 暑苦しい!

 

「じゃあ箒ちゃん! 一緒にいこ」

 そう言って、姉さんは再び私の手を取った。満面の笑みを浮かべながら私の手を取る姉さんを見ると……何だろう、維持張って拒絶している私が何やら馬鹿らしくなる気がする。

 

「最後に教えてください」

 

「ん? 何かな箒ちゃん?」

 

「どうして急に、私と一緒に神楽舞に出ようと思ったんです?」

 私の質問に、

 

「理由は無い、かな。6年ぶりに成長した箒ちゃんが実家に戻ってきたから私も一緒に舞ってみたくなっただけ」

 姉さんは本当に、ただそれだけだよという顔をしながら答えた。……なんだろう、この気持ちは。6年もほったらかしにしたくせに。姉さんがISを作ったせいで家族がバラバラになったのに。姉さんのせいでこの地を離れることになって一夏とも、葵とも別れることとなったのに。全ての元凶の姉さんを私は恨んでいた。

 でも姉さんは、私の初めてのわがままを笑顔で受け入れてくれたし、先月は紅椿とは別にわざわざ誕生日プレゼントをくれたし。

 私は姉さんがわからなくなった。でも今確かにわかることがある。それは、

 姉さんは私と一緒に神楽舞をするのを、本当に楽しみなんだってことが。

 

 

  姉さんと一緒に舞台の上に立つ。大勢の観客達が私たちを見ている。多くの人が姉さんを見て驚いているが、

 

「よ! 待ってましたあ!」

 

「束ちゃん、貴方の踊りは何年振りかねえ」

 

「科学者だけじゃない所見せてくれー!」

 姉さんに向けて歓声を上げるものも少なくなかった。そういえば私が踊る前は姉さんが踊っていて、かなりの評判だったのを思い出した。

 

「おお、あの時の子か! 成長したなあ!」

 

「綺麗になったわねえ」

 

「篠ノ之なのか、あれ……」

 うう、どうやら私にも注目が集まってきたようだ。どうも観客の中には6年前も見に来ていた者もいるようで、私の事を覚えていたようだ。……恥ずかしい。姉さんは堂々としている。その度胸が恨めしい。

 気後れしながら観客を眺めていったら、私の目はある一点を見て止まった。神楽舞の舞台から少し外れた場所。しかし全体を良く眺めることができるそこに、

 

 笑みを浮かべ、手を振っている一夏と葵がいた。一夏の右隣に葵、左隣には千冬さんもいた。三人とも浴衣を着ており、こちらを笑みを浮かべながら見ている。

 

「私が呼んだんだよ、6年ぶりに皆一緒に揃いましょって」

 驚いている私の後ろから、姉さんが嬉しそうに言った。姉さんも笑顔を浮かべながら、一夏達に手を振っている。

 

「箒ちゃん、ちーちゃん達が見ているから―――気合入れて踊ろうね」

 当然です。一夏達が見ているのなら、無様な姿なんて見せられるわけがない!

 

「はい、姉さん!」

 そして伴奏が流れ出し、私と姉さんは舞台の上を舞っていった。ただ夢中で舞っていて、周りの光景みる事が出来なかったが、

 

 舞い終わった後に沢山の歓声と拍手が、私と姉さんの神楽舞が成功したことを教えてくれた。

 

「箒ちゃん、お疲れ様。凄く綺麗に舞えてたよ!」

 姉さんが満面の笑みで言ったその言葉。この時ばかりは―――素直に嬉しいと私は思えた。

 

 その後、私も姉さんも浴衣に着替え一夏達とお祭りを楽しむ事となった。本来ならその後神社の仕事を手伝うはずだったのだが、

 

「久しぶりに束ちゃんも千冬さんに、悪ガキ共も揃ってるんだ! 楽しんでいけ!」

 という現神主の叔父さんから言われたので、本当に久しぶりに姉さん、千冬さん、一夏、葵、私で祭りを楽しむこととなった。……一瞬一夏と二人っきりがよかったと思ったりもしたが、

 

「そこは我慢してよ箒。気持ちはわかるけど私も久しぶりに箒とも一緒にお祭り楽しみたいんだから。来年は我慢するから、ね」

 葵からそんな事言われたら嫌だと言えるわけがない。それに……私も一夏、葵と一緒に、昔のように祭りを楽しみたい。二人と別れてから、毎年夏になるとそんな思いをしてきたのだから。

 

「ねえちーちゃん! 金魚すくいやろ金魚すくい! また昔みたいに根こそぎ奪いつくした後に川に放流しちゃいましょう!」

 

「止めろ束。昔それをやって店主が泣いていたのを忘れたのか」

 そんな事やってたんですか姉さん。あ、店主が物凄く青い顔して姉さん見ているけど……まさか。

 

「お、射的あるぜ! 葵、箒! 勝負しよう!」

 

「へえ、射撃で私に勝負とか一夏も身の程しらずね。IS学園の射撃訓練での私の成績しっているくせに」

 ISで銃を全く使わないくせに、葵は射撃の成績は1組でラウラ、セシリア、シャルロットの次に上手い。

 

「吠えてろ。本物の銃と射的の銃は勝手が違うんだよ。葵が思っているよりは難しいぜ!」

 そういうものなのだろうか? それに射的で勝っても、虚しくないのか一夏? そんな事思っていたらとっくに二人は射的屋の前まで行っていた。

 

「何やってんだよ箒! 早く来いよ!」

 

「ああ、今行く」

 銃でなく弓なら私の圧勝なのになと思いながら、私は一夏と葵の下に向かった。

 

 

 

 

 そして時間が過ぎ、私達は屋台がある広場から離れ森に向かった。向かう先は、篠ノ之神社の者しか知らない秘密の場所。昔、父が姉さんに教えたと姉さんが言っていた。

「昔父さんから教えて貰って、そこから綺麗に花火が見えるものだから感激して父さんにお礼言ったわね。そしたら箒ちゃん、父さん泣いて喜んじゃったのよ。『初めて娘に何かを教え、それを感謝されたって』大袈裟よねえ」

 かつて姉さんが私にその場所を教えてくれた時、姉さんは呆れた顔をしながら私に言っていたが……今では父の気持ちが少し理解出来る気がする。

 そして私達がその場所に着いた時、ちょうど花火が打ち上げられた。

 色取り取りにに咲く花火。その光景を私達はしばらく黙って眺めていた。

 

 思い返せば、6年前も―――この5人で、ここで花火を眺めていた。姉さんや千冬さんがいない時も、一夏と葵と一緒にここで花火を眺めていた。

 

「ねえ箒ちゃん」

 花火を見上げながら、

 

「来年も、一緒に見てもいいかな」

 どこか力無い声で姉さんは私に言った。少し薄暗く、姉さんがどんな顔をしているかわからない。ただ、私は姉さんの頼みに、

 

「ええ。来年もまた」

 素直に答えることができた。

 

「そっか。うん、じゃあ来年必ずまたここに来なくちゃね」

 薄暗くて顔が見えないはずなのに、その時私は姉さんがとても嬉しそうな顔をしているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    おまけ

 

 花火を見終わった一時間後

 

「どうです千冬さん、今日釣ったばかりのシマアジを刺身にしました。こちらはアジの握りと塩焼きです」

 

「うむ、美味い!」

 

「う~ん、美味しいよあーちゃん! やっぱ魚は釣りたてだよね!」

 

「ありがとうございます千冬さん、束さん。あ、一夏! アジフライ食ってないで一夏もつまみ何か作りなさいよ。さっきから私と箒ばっか作ってるのよ!」

 

「うっせ。今日の俺は白式の点検とデータ取りで疲れたんだ。釣りを楽しんだ葵が作れよ」

 

「それを言うなら一夏、私も神楽舞を演じたから疲れたのだが。そもそも一夏、ここはお前の家だろうが! お前が働け!」

 

「そうそう。それに私は明日の朝食用に一夜干しも作ったんだから、一夏も働きなさい」

 

「つうか何で、お前が釣った魚を当たり前のように千冬姉と束さんががっついてんだよ。しかも底なしのように酒を飲みながら」

 

「まあ元々千冬さんは日頃お世話になってるし、束さんはスサノオの件もあるし。そのことで二人に₍お礼をしたいから今日はお二人を招いたのよね」

 

「場所は俺の家だけどな」

 

「だって私の家まだ無いし、IS学園じゃお二人の希望の酒が飲めないし」

 

「つうかそんな理由の飲み会ならやっぱお前がちゃんともてなせよ」

 

「いい加減疲れてきた。それに材料は提供したんだから一夏もやる」

 

「……なんか私は完全に巻き込まれたな」

 

「まあまあ箒。明日は美味しい干物食べさせてあげるから」

 

「……大根おろしも頼む」

 

「了解~~」

 

 

「あ、あの~織斑先生、急に呼び出してどうしたんですかってええ! なんですかこれ!」

 

「あ、山田先生も着たみたいね」

 

「……葵、お前が呼んだのか」

 

「ええ、山田先生にも普段お世話になってるから」

 

「今の姉さんと千冬さんと一緒にさせるとは……」

 

「おおきたな真耶! まあこれでも食べながら飲みましょう!」

 

「え、なんです! ってお酒臭いですよ織斑先生!」

 

「む~、君がちーちゃんのお気に入りかあ。束さんは少しジェラシーなのだ。やっぱり胸! この私よりも大きい胸!」

 

「え、この人まさか篠ノ之束博士!? って胸揉まないで、揉まないでください~」

 

「よいではないかよいではないか~」

 

「一夏ー!空いたから次もってこーい! そして酌をしろー!」

 

 

 

「ああ、束さんが私達以外でも楽しそうにしている。やはり山田先生は癒しの効果が! 束さんのコミュ障改善にうってつけの人物!」

 

「……俺にはただおもちゃにされてるだけだと思うが」

 




いやあIS二期、楽しみです。まだ見てないですけどどうやらアニメではヒロインズが祭りを楽しんでるようなので、こっちはまずありえない組み合わせにしました(笑)

そろそろ温い展開でなく、一気に展開を進めようと思ったりも。

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