IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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学園祭 火種

「あ~だからあ、何度も言うけど一夏と弾とで何かあるとかないから。ただ一緒に遊びに行ってるだけの写真よあれ。付き合っているとかないの! わかる! へ?名前呼び捨てで仲が良いじゃんって……裕也、あんたにも私名前で呼んでるじゃない。 はい、ああそれは断るわ。何度も言わせないで」

 

「……これで何人目ですの箒さん」

 

「私も正確には数えていないが……おそらく10人は軽く超えていると思う。私と買い物に出かけている間にも何度もかかっていた」

 

「誰か知らないけど、本当にムカつくわねこの記事。一夏はチャラ男にされてるし、葵は尻軽女扱いしてるし!」

 

「この雑誌のせいで僕もフランスから電話がかかってきたよ。主に友達から一夏が好きなの? とか頑張って落としなさいとかね。……フランスから連絡が来たって事は、この雑誌の内容ネットでかなり広範囲に拡散されてるよ」

 

「私にも副官のクラリッサから緊急連絡が入ったからな。少なくとも我々の国には広まっている可能性は高い。 クラリッサからは『隊長、私のせいで申し訳ありません! しかし外出するのでしたらせめてIS学園の制服でなく、もっと可愛い服装がよろしいかと』と言われたがどういう事だろう? 何日かしたら私の為に本国から部隊の皆で選んだ服を輸送するとも言っていた」

 

「わたくしも本国の友人から連絡がありましたわ。……内容はシャルロットさんが仰っていたのと同じですわ」

 

「あたしもこっちの友達から中国の友達からも言われたわよ。……頑張れとか負けるなとか」

 

「……さて、皆の話を纏めると一つの共通点が出てくるのだが」

 

「そうですわね、わたくしもそれに気づきましたわ」

 

「僕もね。何故か不思議な事に、一夏の女性関係で僕達取り上げられているのに……何故か僕達は一夏と付き合っているという質問でなく」

 

「電話してくる皆ことごとく、励ましの言葉ってどういう事よ!」

 

「クラリッサも私が嫁と付き合っているとは全く思って無かった……」

 

「それもこれも、この記事に貼られているわたくし達の写真がアレな事と、この記事に貼られている葵さんの写真のせいですわね」

 

「葵に詳しく聞きたいが電話でそれどころないようだ。そういうわけで一夏、―――詳しく聞かせて貰おうか」

 

「はははは……」

 御手洗達と別れ、IS学園に戻った俺が部屋に入ると、そこはある意味修羅場だった。

箒達は例のIS雑誌を広げながら何か議論をしており、葵はずっと電話で何か話している。そして今、俺は葵と一緒に写っている写真の件で追及を受けている。

 箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラの目がマジで怖い。いや、本当に怖い。やべえ、何か下手な事言ったらマジで殺される気がする。相変わらず電話で面倒くさそうに話している葵も、箒達の顔を見て顔を引き攣らせている。そして葵は目で俺にこう言っていた、『後はまかせた』と。この野郎、元はこれお前のせいなんだからな!

 そして俺は溜息をついた後、箒達が手に持っている例のIS雑誌に目を向ける。俺や葵の誹謗中傷記事が載っているが、その中で箒達が問題視している写真。そこには、八月の最終日、葵と一緒にラウンド○ンに行った時の写真が貼られていた。

―――少し顔を赤くして満面の笑みで俺に抱き着いている葵と、葵の頭や腰に手を置いて自分でも気持ち悪い位笑みを浮かべている俺の写真が。

 そして再度溜息をついた後、箒達にその写真の状況を話していった。

 

 

 

 

 

 

 

葵の奢りでクレープを食べた後、ゲームコーナーに行き久しぶりにレーシングゲームに格ゲーを葵と対戦したり、次は何をしようかと歩きながら葵と話していたら

「おい、ちょっといいか」

 

「ん?」

 急に後ろから声を掛けられた。振り向いたら多分俺達と同年代位の奴等が3人いた。全員男で、かなり体格が良い連中だ。しかも佇まいから、全員なんらかの武道をやっている連中だとわかり、俺は顔を引き締めた。まさかカツアゲか、葵目当てのナンパか?

 葵も俺と同じ事を思ったのか、男達を見たら目を細め拳を握りだした。

 

「いやいや、待て待て! 別に怪しい者じゃないって俺達! 青崎、ほら俺だよ俺!」

 葵の握り拳を見て、最初に声を掛けた男は慌てて葵に自分は怪しい奴じゃないと主張。そんな男を葵は胡散臭い顔で見て、一瞬だけ目を大きく開いたと思ったら、

 

「姿を現しながらのオレオレ詐欺!? ますます怪しいわね」

 そう言って大きく後ずさると何かの空手の構えを取った。

 

「何でそうなるんだよ!」

 

「いや俺達だよ俺達! 忘れたのかよ!」

 

「織斑! お前も何か言えよ!」

 警戒する葵を見て声を掛けた男や他の男達も慌てて否定していくが、……ここに至って俺はこの連中が誰だったか思い出してきた。おそらく葵も思い出しているのだろう、警戒している顔をしているが、目は笑っているからな。

 

「葵、いい加減からかうの止めろ」

 俺がそう言うと葵はニヤっと笑った後、

 

「それもそうね。久しぶりね佐藤、そして宮崎に田所。中学以来ね」

 中学時代、葵が入部していた空手部の連中に声を掛けた。

 

「わかってるなら最初から言えよなあ」

 

「ごめんごめん、何せ2年振りなもんだからすぐには思い出せなくって。だって皆体格がかなり立派になっちゃってるから記憶の姿と違いすぎたから。入部したての時はあんなにヒョロヒョロだったのに」

 

「性別変わったお前程じゃねーよ。……体格変わったのもお互い様だろ」

 葵の姿を上から下まで見た後、佐藤は少し顔を赤くしながら答えた。良く見たら他の連中も似たような事になっている。……いや、まあ気持ちはわかるぞ。今日の葵の格好はキャミにミニスカだから目の置き場に困る。

 

「所で青崎、さっきの構えを見る所女になってもまだ空手はやっているようだな」

 

「勿論。女になってもそこは変わらないわよ。皆もまだ続けているようだし、何なら少し手合せする?」

 葵は笑みを浮かべながら佐藤達を挑発するが……お前はそんな恰好で戦う気か?止めとけ。

 

「いや、それは止めておくよ。それよりも青崎、お前その口調」

 

「まーね、今は女だし何時までも男だった頃の口調ってわけにもいかないしね。変かな?」

 

「いや、変じゃない。むしろ今までがおかしかった」

 

「本当にそうだ、やっと俺達は解放された」

 

「中学の頃は男だったとか言っても……当時からしてお前を男としてみるのは無理があったからな。今の姿があるべき姿なんだとマジで思うぜ」

 佐藤に続き、宮崎に田所が同意していく。しかし宮崎の解放とは何なんだ?

 

「何よ解放って?」

 葵もそこに疑問を持ったのか、宮崎に質問した。その瞬間、宮崎の目がカッと開き、

 

「お前に惚れてはいけないという気持ちにだよ。中学時代、何度俺達はお前の姿を見て悩んだことか!」

 大声で葵に向かって叫んだ。

 

「へ?」

 

いきなりのカミングアウトに葵の目は点になった。

 

「おい宮崎! お前何をいきなり!」

 

「俺達も巻き込むなよ!」

 佐藤と田所が顔を赤くしながら宮崎を責める。しかし、宮崎はその二人を無視し、葵に近寄ると、

 

「中学の頃から好きでした! 俺と付き合って下さい!」

 未だ目が点になっている葵に向かって、告白をした。え、何だこの状況は?

 

「え、ええ!? ええと、その……ごめんなさい」

 いきなりの宮崎からの告白に、葵は戸惑いながらも宮崎の告白を頭を下げながら断った。ん、何か知らんがちょっと嬉しいのは何故だろう?

 

「何故だ青崎!」

 

「いや何故って言われても……」

 

「中学時代、道場でお前を見た瞬間に俺は惚れた! でも、お前が男なんだと知った時の俺の絶望がわかるか! 初恋が男とか死にたくなるような黒歴史だと当時俺は想い泣いた! その後部室でお前が着替えているのを横目で見ながら『どう見ても貧乳の女子にしか見えねえ!』と心の中で叫びながら瞼に焼き付け、家に帰った後はそれをおか」

 

「死ね!」

 宮崎が最後まで言う前に、顔を赤くした葵が宮崎を殴り飛ばした。……いや、これはどう考えても宮崎が悪い。葵が殴るのも無理が無いよな、これは。

 軽く数メートルは吹き飛んだ宮崎だが、何故か良い笑顔を浮かべながら気絶している。そして顔を赤くしながら荒い息を吐いている葵は佐藤や田所の方を向くと、

 

「まさか……貴方たちも宮崎みたいな事を」

 若干怯えたような顔をしながら聞いた。

 

「い、いや違う! 俺達はそんな事はしてない!」

 

「そんな変態行為をするのは宮崎だけだ!」

 必死な顔と声で二人は否定する二人。そんな二人の必死さを見て葵はホッとしているが、……何故か俺は直感で、二人も似たような事した気がした。

 

「と、ところで青崎。あんなんだがさっき宮崎の告白を断ったけどどうしてだ?」

 

「いや何でって言われても、付き合いたくないからとしか言えないわよ」

 

「納得いかーん!」

 田所に質問に葵が答えた瞬間、さっき葵に殴られた宮崎がいきなり覚醒し叫んだ。

 

「ええ! もう復活したの!?」

 

「ふ、青崎。俺達も昔と違い成長してるんだよ」

 

「いや宮崎、いちいち俺達まで含めるのは止めろ」

 予想以上のタフさに驚く葵に、顔面に拳の跡があるが特に問題が無い宮崎に、それに突っ込む田所。なかなかカオスな状況になってきたな。

 

「青崎、どうして俺の告白を断るんだよ!」

 

「いやだから付き合いたくないから」

 

「どうして付き合いたくないんだ!」

 

「むしろこのやり取りで付き合いたいと思う方がおかしいわよ!」

 しつこい宮崎に、とうとう葵が叫んだ。

 

「おい、止めろ宮崎。もう止めろ!」

 

「どう考えてもお前が悪い。葵の言う事はもっともだから!」

 宮崎の暴走に、必死になって止めようとする。

 

「青崎、お前は中学時代俺を惑わせ、そのせいで俺はホモなのかと悩みまくったんだぞ!その責任を取れ!」

 

「知るかーー!」

 いや宮崎、お前さっきの話じゃ葵の着替え姿でアレを、当時は男と認識していてそれやったんなら……止めよ、考えたら気持ち悪くなってきた。

 

「は、まさか!」

 葵に対し何やら言っていた宮崎だが、急に俺の方を向いてきた。あ、いやな予感するなこれは。

 

「さっきから視界には入っていたが……まさか青崎! 俺と付き合えないのは織斑とすでに付き合っているからなのか!?」

 さっきまで蚊帳の外でやり取りを見ていた俺も巻き込まれてしまった。おいおい、何言ってるんだよ宮崎。葵は親友でそんな事

 

「ええ、私の彼氏は一夏だからもう駄目」

 あるわけないって、ええ! 何言ってるんだ葵!?

 

「ああ、やっぱりかあ」

 

「まあそうだよなあ。さっき二人で歩いてるの見た時からそれ思ってたし。中学の時あんだけ仲が良かったお前らが、片方女になったら付き合うよなやっぱり」

 葵の言葉に驚く俺だが、佐藤と田所は何故か納得している。いや田所、お前の理屈はおかしい。

 

「ま、マジなのか! やっぱりお前達付き合っているのか!」

 

「ええ、そうよ。一夏の良い所は私が一番知っているから。同時に一番何が魅力かも知っているもの」

 そう言って、葵は笑顔を浮かべながら――俺の胸に飛び込んで抱きしめて

(いいから合わせろ。宮崎がしつこい)

 小声で俺に囁いた。ああ、そういうことか。

俺の胸に顔を押し付けていた葵は、そして葵は顔を上げると、

 

「一夏、大好き」

 若干顔を赤くしながら、笑顔で俺に言った。そして俺もその後葵の頭や腰に手を当てて抱きしめ返し、

 

「俺もな。というわけで宮崎、諦めてくれ」

 呆然と見ている宮崎に言った。密着しているから葵の体温やら感触がもろに伝わってきて……ヤバい! いや何かよくわからんがヤバい! 葵! いつまでこれしなければならないんだ! なんか、こういろいろとヤバいんだが!

 

「くそお、やっぱりそうなのかあ」

 項垂れる宮崎。どうやら納得したようだ。そして佐藤達は……あれ、何で俺達を見てニヤニヤしているんだろう。

 

「さ、いくぞ宮崎。二人のデートを邪魔しちゃ悪いだろ」

 

「そうそう、お邪魔虫は退散しようぜ」

 そう言いながら二人は宮崎の腕を掴んで、この場をから離れていった。それを見ると俺は手を放し、葵も俺から離れていった。ったく、何だったんだ今のは? 離れていく3人だが、急に佐藤は宮崎の手を放したと思ったら俺に近づいていき、

 

「織斑、頑張れよ。嘘をまことにしたいならな」

 笑みを浮かべながらそう囁くとまた宮崎の手を掴んで移動していった。

 

「一夏、佐藤は何を言ったの?」

 

「いや、何でもない。騒いで悪かっただと」

 

「ふうん」

 葵の質問に、俺は何故かありのままの事を言いたくないから嘘を言った。いや、本当に何でだろうな。そういえば、似たような事を臨海学校の行った時女将さんからも言われたな。

 

「さて、何か変な事があったけどとりあえず仕切り直すわよ。次はダーツでもしない?」

 

「いいな、やろうぜ」

 何か色々考えさせられる事が多いが……いいか、とりあえずは。考えるは後にして、とにかく今は夏休み最後の休みを葵と一緒に満喫しよう。俺はダーツ場に向かう葵の後ろを歩きながらそう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうん、そんな事があったのね」

 俺はおおまかに、あの日何がありどういうわけで写真のような状況になったかを箒達に説明した。こういう仕方のない状況のせいで写真のような事をしたんだと俺は力説した。しかし、

 

「まあ状況はわかりましたけれど……」

 

「仕方なくやった演技にしては一夏、あんたかなり良い笑顔浮かべているわね」

 何故か皆納得がいかない顔を浮かべている。

 

「葵に抱き着かれて鼻の下伸ばしおって、不潔だぞ一夏!」

  

「い、いや! 別にそんな事思ってなかった! 葵の演技に合わしただけだって!」

 

「ふうん、じゃあこのもう一枚の写真に写っているこれは? これもかなりあんた達良い顔で写っているけど」

 鈴が見せている写真。それは葵の特集記事で貼られている写真で、それはラウンド○ンで遊び終わった後の帰りに撮られた写真だった。

 

「いやこれは俺も葵も遊び倒した後だからな! そりゃ楽しかったって顔して帰るだろ!」

 

「う~ん、まあ一夏も嘘は言って無くて多分その通りなんだろうけど……納得いかないなあ。というか何で葵はそんあ写真貼られてるのに、僕達はこんな写真貼られてるんだよ」

 ハアっと溜息をつきながら、雑誌の写真に目を向けるシャル。俺の特集記事で葵以外にも全員、俺とデートしているような写真が貼られている。

 

「そういえばラウラさん、これ一夏さんと何処に行かれた時撮られた写真ですの?」

 

「ああ、それは副官のクラリッサから日本のアニメや漫画を買って来てくれと頼まれて嫁と一緒に買いに行った時の写真だ」

 

「制服姿で?」

 

「うむ、あの時は私は私服を持っていなかったのでな」

 ラウラと写っている写真、そこには俺とラウラが虎の○という店でクラリッサさんから頼まれている商品をラウラと一緒に買っている写真だった。真剣な顔をしてメモを見て商品を吟味しているラウラと、その後ろで買った商品を両手に持っている俺が写っている。

 

「……これじゃどうみてもラウラはオタクで、一夏は買い物に付き合わされてるように見えるわね」

 

「……それでしたらわたくしも似たようなものですわ。私の写真も以前休みの日に買い物に行った時、買いすぎて持って帰るのに困っていた時偶然一夏さんと出会って荷物をもって貰って時撮られたものですし。この写真じゃわたくしは一夏さんを荷物持ちにしているようではありませんか!」

 いやセシリア、実際そうだったじゃん。俺が自主的にやった事なんだけさ。

 

「僕の写真もさ、……以前水着を買いに行った時一夏に手を繋いで貰って歩いている所を撮影されてるんだけど、写真の隅っこに小さいけど話し込んでいるセシリアと鈴の姿と、切れてるから姿ないけど多分葵と話しているラウラの姿があるんだよね。これじゃ実際はデートなんかじゃなく、皆で買い物に来たみたいな写真になっているよ」

 なんか悲しそうな顔で嘆くシャル。ああ、そういえばこの時何故か葵達、こっそり俺とシャルの後ろを付けてたんだよな。

 

「それならあたしの写真も同じパターンよ。あたしのは先月一夏とウォーターワールド行った時撮られた物だけど……これも隅っこの方で金髪に髪染めてイルカの浮き輪を持って歩いている葵の姿が写っているしね」

 そして鈴は俺の特集記事に貼られている写真の中で、ある一枚の写真を指さす。そこには……『織斑一夏! 金髪少女とペア参加イベントで優勝!』と書かれている。

 

「この写真も髪の色が違うけど、多くの人がこの金髪は葵だと気付くわね。……体型とかで。わからないにしても、同じプールに一緒にあたしと一夏と一緒にいる時点で、シャルの写真と同様皆で遊ぶに来ている写真と思われるし」

 不機嫌な声で鈴もシャルと同じような事を言う。

 

「いや、そこに何故葵がいるのか私は不思議なのだが? 二人で出かけたのだろう?」

 

「……色々複雑な事象があったのよ」

 箒の疑問に、少し頬を緩ませながら答える鈴。妙に達観したその態度に、箒達は不思議がった。

 

「そして最後に箒さんの写真ですけど」

 

「これ、ある意味一番酷いよね……」

 

「言うな!」

 写真を見ながら叫ぶ箒。そして皆で俺と箒が一緒に写っている写真を眺める。そこには先月の篠ノ之神社の祭に行った際の写真が撮られている。浴衣を着た俺と箒が並んで歩いている写真。しかし、

 

「これも写真の隅っこだけど、金魚すくいしている織斑先生と……今現在世界中で追われている束博士の姿が写っているね」

 

「姉さんたちのせいで、私と一夏の写真というよりも姉さんの目撃写真として大きく報道されているのが納得いかない!」

 まあ束さんの現在の姿を捉えた貴重な写真だからなあ、これ。いやしかし、この貼られている写真だけど……一体どうやって撮ったんだこれ? 全部盗撮だろうけどこれほどまでに偶然が重なった瞬間みたいな場面を、マジで何時どうやって撮ったんだ? しかも俺や葵達、さらに束さんまで気付かれないように? ISの謎よりもこっちの方が謎に思えてくる。

 

「う~ん、やっぱりこれどう見ても作為的に選んでるわね。パッと見は一夏がプレイボーイだと貶している写真だけど、実際は私以外の写真は私と一夏が付き合っているのを強調するためのような写真になっているわね」

 何時の間にか電話が終わった葵が、俺達と一緒に雑誌を眺めながら言った。

そう、そうなんだ。俺が葵達を弄んでいるような記事だが……蓋を開けたら箒達はスルーされ、ネット上ではほとんどの意見が俺と葵が付き合っていると事となっている。

御手洗達も真剣な顔で、俺と葵が誹謗中傷で誤解されるのを心配しているのかと思ったら、

 

「一夏、学園から不純異性交友とかで煩く言われる覚悟しておけ! ヤッてたしてもヤッテないと強く言い続けろよ。でないと退学する可能性があるからな。それと避妊はちゃんとやってたんだろうな。出来てたら言い訳不可能だぞ」

 と、とんでも無い的外れな心配をしやがってたし! 弾には『青崎と友達って事がバレたから、今後は周りが会わせろとか煩くなるぞ、大変だな』みたいな事言ってたが。御手洗達までそう思っているという事は、……多くの人間が誤解しているんだろうな。

 

「……私が載っている特集記事、これもそうなのよね。出雲技研で出来た友達と弾、そして一夏と一緒に写っている写真が貼られているけど」

 ページを捲り、葵の特集記事をみんなで見る。そこには俺の時と同様、葵が色々な奴と二人で一緒に写っている写真がある。しかし……ああ、こっちはもう、あれだ。ここに写っている連中が本気で葵が好きなのだとしたら、本気でご愁傷様と言いたくなった。

 

「いや葵の休日の姿を見てて思ってたけど」

 

「……あんた、向こうでも休日は学校の制服姿だったのね」

 出雲技研にいた時の葵の写真、その全てが葵はセーラー服を着ていた。

 

「ははは、いやだってさ……しょうがないじゃない。この時はまだ女になって1年しか経ってないのよ。政府のお偉いさんからは男のような恰好は禁じられてたし、でも女物を着るのは抵抗があったし。制服でも妥協してたのよ、出かけるのにジャージ姿はあんまりだと皆が言うから強制的に着るセーラー服で我慢したの。これも女子を象徴する服装だから皆文句言わなかったわね」

 いや、おそらく文句はあったがお前の事を考えたら強く言えなかったんたんだと思うぞ。しかし葵、お前学校に通ってたのか。ずっと出雲技研の施設とやらにいたと思ってた。

 

「このキャンプに行ったと思われる写真も、お前夏服用セーラー服着てるな。一緒に写っている男がかなり気合入れた格好しているのに」

 

「こっちの桜並木を歩いている写真だけど……葵と、一緒に写っている男も風呂敷みたいなの持っているわね。もしかしたら花見に行く途中の写真なわけ? 一緒に写っている男はこれまた頑張ってお洒落しただろうに、あんたは制服……」

 

「しかし葵と一緒に写っている男達、どれも見た目は悪くないな」

 

「いや箒、これ悪くないってレベルじゃないと思う」

 

「全員ホストで通用しそうですわね」

 写っている全員、確かにタイプは違えど……どれも顔や体格いいな。そして共通しているのが、明らかに葵に好意を持っているのが写真からでもわかる。見ていると何か気に食わなくなる。

 

「でも葵は全く眼中に無いって感じで写ってるのがまた……。弾とも写っている写真あるけどこっちも葵はIS学園の制服を着ているし。そんな中唯一葵が私服姿で写っているのが、一夏と一緒にいる写真」

 ああ、ここまでされると俺でも思うよ。葵の本命が誰だとか。

 

「あ~、まさかあの時気まぐれで来たこの恰好がここまで影響出るなんて。夏も終わるし、せっかく鈴とセシリアが選んでくれたの着ないと勿体ないとか思って着たらこうなるなんて」

 葵は先月の最終日、今までとは違うかなり女の子らしい恰好をした事をかなり後悔している。

 

「う~ん、葵のこの恰好を選んだのはあたしとセシリアだがら、きちんと着てくれたことに関しては嬉しんだけど」

 

「何か複雑ですわね」

 俺としては鈴にセシリア、二人にグッジョブと言いたいぜ。葵、お前は今後も私服を買う時は二人の意見を聞いておけ。

 

「しっかし、どうしよっか今後は。とりあえず舐めた記事書いたこの雑誌の出版社を潰しに行く?」

 葵は雑誌を手に取り、恨めしそうな顔して物騒な事を言った。既に右手は天叢雲剣が握られている。

 

「いや待て、葵早まるな」

 

「だって一夏、これって私や一夏だけでなく箒達やさっき電話に出てた裕也達も巻き込んでいるのよ。きっちり落とし前を」

 

「その必要はない」

 

「あ、千冬姉!」

  本気で出版社に殴り込みしそうな葵を何時の間にか玄関に立っていた千冬姉の声が止めた。そして千冬姉は部屋の中に入ると、部屋にいる俺達を見渡した。

 

「関係者が全員揃っているな。なら今からこの雑誌の事で話がある。今回の件だが葵、お前が乗り込もうとしていた出版社だがすでに潰れている」

 

「はあ!? いやこれ今日その出版社から発行された雑誌だぞ千冬姉!」

 千冬姉の言葉を聞き、俺も他の皆も驚く。

 

「元々IS雑誌としてそこそこ有名だが最大手ではなかったからな。ある団体も買収しやすかったのだろう」

 は? ある団体?

 

「この雑誌の記事の目的は、明らかに織斑と青崎をそういう関係なのだと思わせる為だ。それを達成したら連中はすぐに逃走。うちの生徒に対し舐めた真似をしてくれたものだな」

 いや千冬姉、何千冬姉も葵みたいな事いってるんだよ。

 

「だが善意の協力者のおかげで、犯行グループはすぐにわかり取り押さえる事は出来た」

 へえ、もう捕まったんだ。その善意の協力者さんとやらには感謝しないとな。……まああの人だろうけど。

 

「はあ、もう解決しちゃったんですか。それで織斑先生、誰がこんな事やったんです?」

 そうだよ、こんな事誰がやったんだ? どうせろくでもない連中なんだろうけど。

 

「その件は後で話す。とにかく日本政府とIS学園としては写真に写っているような事は認めるが、織斑も青崎も記事に書かれているような人間では無いと否定する。 ……実際お前達、そういう関係ではないのだろう」

 

「当たり前ですよ!」

 

「……そうか。ならいい」

 ん? 千冬姉、今の間は何だ?

 

「しかしこんな記事と写真が貼ってある分、しばらくは世間は騒ぎ立てるだろうが……とにかく無視しろ。世間の関心何て2ヵ月もすれば忘れる。いちいち構う方が長引いてしまう」

 それだけ言うと、千冬姉は葵だけ連れて部屋を出て行った。葵にだけは犯人の正体を教えるらしい。

 

 

 

 数時間後、部屋に戻って来た葵に誰がやったんだと聞いたら、

 

「わりい。千冬さんから口止めされてるから教える事はできない。だが一夏の知らない連中だしもう報いも受けてるから気にしない方がいいぜ」

 何度も聞いても葵は誰か言わなかった。う~ん、少し納得いかん。俺も被害者なのに。それが顔に出たんだろう。葵は苦笑して俺に言った。

 

「後そうだな。あの記事で怒っているのなら一夏、お前の目標のモンド・グロッソ優勝。それをやり遂げたら連中にとって最高の仕返しになるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     おまけ

 

「ねえ、箒」

 

「ああ葵、私も気付いている」

 

「さっきから妙に私達を周りの人がジロジロ見ているけど、何故かしら?」

 

「葵は最近有名になっているからじゃないのか?」

 

「でも私だけでなく、箒も見られてるようだけど?」

 

「……確かに。葵だけでなく何故私も?」

 

「変な空気ね。さっさと買い物済ませて帰りますか」

 

「そうしよう。ふふ、一夏の奴驚くだろうな」

 

「一夏最近筋肉が付いてガタイ良くなったせいで、剣道着が少し窮屈になってたからね。内緒で買てプレゼントして驚かせよ。それに私の剣道着もボロボロだったしね、丁度良かった」

 

「私も新しい竹刀を欲しいと思っていたんだ。葵、私は自分の竹刀選んでくる」

 

「ええ、その間に注文した剣道着取りに行ってくるね」




 さあて、これからどうなっていくのでしょうね(笑)

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