IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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学園祭 開催

 俺と葵の中傷記事が載った雑誌が発売され、その日の夜にはすでに

『世界で唯一の男性IS操縦者織斑一夏! 彼の本命は誰だ? 最有力候補は幼馴染!』『下手すれば国際問題? まさかの6股!』『何人もの違う少年と一緒に写っている青崎葵! 全員イケメン! 今、イケメンは地方にいる!』『プールに写っている金髪の少女。どう見ても髪を染めたあの子』『浴衣姿のブリュンヒルデと篠ノ之束博士、金魚すくい屋を泣かせる』『女子しかいない学園でハーレムを築いた織斑一夏! その驚異のコミュ力』『もはやリアル乙女ゲーの主人公』等々、ネット上では勝手に盛り上がっていた。

 そして一番盛り上がっているのは葵、箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラの六人で誰が俺の本命なのかというネット投票。途中経過では票の8割を獲得して葵が暫定一位。二位に箒で次点に鈴、セシリアとシャルとラウラはほぼ横並びとなっている。まあ俺に葵が抱き着いている写真が載ってればそうなるよなあとは思う。そして何故かこの騒動で、日本のネット住民の中でラウラの人気が物凄く上がっている。

葵曰く『まあ銀髪で左目を眼帯している美少女軍人だし。それが日本のアニメや漫画に興味持っている様子が撮られてるのよ。ラウラは日本オタク界のアイドルになっちゃったわね』らしいが、葵、お前ってそういう方面に何時の間に詳しくなったんだよ。

 雑誌が発売された翌日、朝からニュースとして報道され、俺がIS訓練よりも女遊びにご執心やら葵が男に軽い女扱いするタレントの台詞には怒りが湧いた。何人かの女性識者とやらがそれに同調した意見を言ったりし、さらに怒りが湧いたが、

 

「一夏、あの連中は女性原理主義というか今の女尊男卑の風潮を作った連中だ。お前や、俺みたいな存在を認めない一種の狂信者だから相手にするな」

 葵が何とも冷めた声で言うのを聞いたら、少し落ち着いた。

 

 世間やネットでこれだけ騒がれてはいるが、IS学園内では混乱が起きなかった。朝食堂に行くと、

「織斑君、災難だったね」「周りが煩くなっているかもしれないけど、私達は味方だから」「私達は雑誌でなく、生で織斑君や候補生達の姿見ているから」「織斑君や他の皆が、この学園でどれだけ頑張っているかもしっているしね」

 同学年から先輩方まで俺達の事を心配し気遣ってくれた。その事に俺は嬉しかった。

 しかし、多くの人が俺にそう言った後、

 

「青崎さん! 写真に写っている人達私に紹介して!」

 ……葵に出雲にいる間に出来たという連中の紹介をしてくれと頼みこんでいった。

 

「青崎さん! 私にもリアル乙女ゲーキャラを紹介して! 一体何をどうやったらその素適空間に行けるの!」

 

「見た所年上から同級生っぽいのから年下まで、知的タイプから俺様っぽいのまで揃っているわよ! ぜひ紹介して! お願い!」

 

「……いや、そんな事言われてもあいつらいるのは島根だから。それに私は会いたくないし」

 興奮したクラスメイトから上の先輩まで多くの女子生徒が葵に詰め寄った。葵もこの反応は予想していなかったのか最初は面食らっていたが、何やら渋い顔をしながら紹介してと懇願する人達のお願いを断っていった。雑誌が販売された後、おそらくその島根の連中からの詰問が葵に殺到していたからな。そんな状況で葵が他の女子をその連中に紹介とか……写真の件で騒ぐのと同じ位酷いと俺は思うんだが。

 まあ、こんな感じで学園内では葵が少しキレそうな場面もあったが俺達のグループの事に関しては混乱は起きなかったのは救いだった。冗談で「え、織斑君って青崎さんと付き合ってるものと思ってた」と言ってくる人が何人かいる程度で、学園生活に関しては今まで通りだった。ネットやテレビを見れば好き勝手言っているが、千冬姉の言う通り、その内風化すると思う。だから俺や葵達も、とりあえず雑誌の件はなるようになれと思い一旦脇に置いて、学園祭をどう盛り上げていこうかに頭を切り替えた。

 多くの議論を重ねて意見を纏めていき、俺達のクラスは学園祭で売り上げ一位を目標にして準備していった。喫茶店のお菓子はクッキー類の焼き菓子は前日葵の指揮の下大量生産し、ケーキ等の生クリームを使う日持ちしないお菓子類は、朝早くからこれまた葵の指揮の下作る事となった。俺も料理が出来るので、菓子作りメンバーに入れられた。セシリアがメンバーに混ざりたそうではあったが、相川さんが『内装手伝って! メイド喫茶だから本場イギリス風にしたいからセシリアが頼りなの!』と言って強引に外してくれたのは助かった。

他にも箒、シャルも駆り出され、工場の如く菓子を大量生産していくが、作り過ぎな気もする。学園祭を迎える前から疲労で倒れそうになるが、一番大変であろう葵はノリノリで菓子を作り、皆の指導をしていた。

「こういった学校行事って、島根いる時は出来なかったから」

 クッキーを作りながら、葵は楽しそうに笑った。ん? でもお前セーラー服着ていたから中学校行ってたんじゃないのか? なんかあまり気にしていなかったが、葵の中学時代が少し気になって来た。

「そういえば私も各地を転々としていて、友達とこういう事するのは初めてだ」

 隣で葵と一緒にクッキーを作っている箒も、楽しそうに笑っている。いや箒、それはただお前が……まあ、いいか。

 

「僕もこういうの久しぶりだなあ」

 シャルも生地を作りながら、葵と箒に同意する。シャルはなんか容易に友達と和気藹々としながらハロウィーンの準備しているイメージが湧くなあ。

前日の菓子作りが一段落したら、明日に向けて衣装合わせが行われた。メイド服だが、ラウラの不思議な伝手により学園祭前日に届けられた。到着が遅かったので皆心配していたが、無事届いた事にほっとし合わせを行ったが、一時間後歓声と悲鳴がクラスに響く事となった。

 

 

 

 

「それでは、皆が待ちに待った学園祭を開催します!」

 学園祭当日、壇上で楯無さんの宣言の下学園祭が開催された。全校集会が終わり多くの生徒達がそれぞれの持ち場に行こうと駆け出していく。

 

「一夏! あんたのクラスには負けないわよ!」

 それぞれのクラスに戻る途中、鈴が楽しそうな声で俺に挑発した。

 

「ああ俺も、いや俺達のクラスが優勝してやるぜ!」

 俺の言葉を聞いたら、鈴は笑って自分のクラスに戻った。

 

 

 

「さあ皆! 学園祭で優勝が絶対よ! 二位とか三位とかは何の意味が無いわ! 学園祭で優勝出来なかったらそれはドベと同じ事よ!」

 クラス皆が集まっている中、エプロンを着けている谷本さんが握り拳を上げながら宣言した。ちなみに谷本さんは葵が希望していたキッチン担当だ。昨日と今日の菓子作りにも参加していて、料理の腕も悪くない。いや、もしかしたら俺と同等かもしれない。葵もそれは認めており、谷本さんがいるなら大丈夫だと安心していた。

 ……しかし、俺はキッチンの方を向いて少し頭を抱える。昨日も葵の指揮の下、お菓子を大量生産したが、今日も早朝から葵は張り切ってケーキからシュークリーム等を作っていた。その結果……もはや何人前あるのかもわからないようなうず高く積もれたお菓子の山。

誰かが「うず高く積まれた例のあれね、これじゃ」とか言っていたが、その表現が妙にしっくりする。例のあれが何なのか知らないけど。

 

「見ての通り、売るものは沢山あるわ! 残った場合もったいないから私達で食べるけど、そんな事態が起きらないことを祈るわ!」

この学園祭、最初の出し物決めから今に至るまで、谷本さんや相川さん、鷹月さんが中心に回っているが、中でも谷本さんが一番中心となって仕切っている。彼女の手腕を思うと俺がクラス代表でなく谷本さんがクラス代表になった方が良かったんじゃと思えてしまう。

 

「そしてこのクラスの目玉の織斑君! 準備は出来た!」

 

「ああ、俺はもう準備出来たよ」

 昨日ラウラの伝手でメイド服が送られてきたが、一緒に俺が着る執事服も入っていた。サイズも合っており、着心地もかなり良い。執事の燕尾服を着たのは初めてでそれは当たり前なんだが、鏡を見た俺の感想は自分でも悪くないかなと思った。着替えて皆の前に出ると、

 

「キャー、織斑君カッコいい!」「云々、某漫画に出てくる執事みたい」「いややっぱり現実の破壊力は違うわね!」

 昨日も見たはずなのに、クラスの皆俺の執事服姿を絶賛してくれた。俺自身悪くないなあと思っていたけど、それでも人から似あうと言われたら嬉しい。海で鈴達が水着の感想を聞いていた気持ちが、何となくこれで少しわかった。

 

「こっちも準備出来ましてよ」

 そう言って、今度はメイド服に着替えたセシリア達が現れた。若干顔を赤くしながらメイド服に着替えたセシリア、ラウラ、葵、箒が現れる。

 

「うんうん、やっぱりメイドさんは金髪の人が映えるわね!」「ボーデヴィッヒさん可愛い! なんかメイドさんってよりも可愛い妹がご奉仕に着たみたい!」「篠ノ之さんも青崎さんも良いわよ! 流れるような長い黒髪がとても好印象!」

 俺の時同様、メイド服に着替えた葵達をクラス一同大絶賛している。確かにメイドに着替えた葵達は、その、なんというか……直視出来ない。

 普段とはまるで雰囲気が変わった4人。セシリアは何時もご主人様みたいな空気出しているけど、メイド服に着替えたらなんかえらくギャップを感じるけど凄く似合っている。

 ラウラも凄い。学園の制服でもラウラはズボンを履いているから、スカート姿ってだけでも貴重だ。しかしストレートの髪を今はツインテールにしてメイド服を着ているラウラは誰かが言ってたけど可愛い妹って表現が合っている。顔を赤くしながら照れている様子も、普段は見れない光景だから凄く新鮮だ。

 箒のメイド服姿も良く似合っている。着る前は箒の奴「私は身も心も日本人だ! 西洋の服など合わん!」みたいな事言っていたが、実際は見事に調和している。束さんがこの姿を見たら……物凄く良い笑顔をしながら激写しそうだ。

 そして葵。箒と同様、物凄く似合っていて可愛い。弾が葵のメイド服姿が見たいと言っていたが、見たらその気持ちが良く分かった。ぶっちゃけ可愛い。

しかし、俺とそこまで身長が変わらない葵がメイド服姿を着ると、ある意味圧巻だった。似合ってはいる。ただ、

 

「なんつーか、ラウラという比較対象がいるせいで葵がとんでもなくデカ女にみえるな」

 普段は気にしないのだが、こう改めて横に並んで比較していくとそう思えてしまう。

「……それは言わないでよ一夏」

 

「嫁よ、つまりそれは私がチビだと馬鹿にしているのか?」

 俺の言葉に、葵が若干苦笑いを浮かべ、ラウラは少し顔を膨らませた。その仕草もなんか小さい女の子がむくれたようで可愛く、周りも同じような事を思ったのか微笑ましい笑顔を浮かべながらラウラを見ている。

 しかし葵は身長170近いらしいが、確か欧米の女性平均値では少し高い程度なんだよな。それを踏まえたらまあ確かにセシリアやラウラは、小さい方になるんだろう。何せ日本人の箒がセシリアやシャルよりも背が高いんだし。あ、そういえば。

 

「シャルはどこ行った?」

 セシリア達と一緒に来ていたと思ったが、姿が見えない。

 

「ああ、シャルロットさんでしたら」

「……おまたせ」

 セシリアが言い終わる前に、暗い顔と声を出しながらシャルが姿を現した。

 

「キャー! やっぱりデュノアさんはその恰好が一番ね!」「衣装を送ってくれた方はわかってらっしゃる!」「これで勝てる!」

 俺や葵達と同様、シャルの姿を見て喝采を上げるクラス一同だが……褒められているシャルは嬉しくないようでかなり暗い顔をしている。まあその原因は、シャルの服装のせいであった。本来ならシャルは葵達と同様、メイド服を着る予定だったのだが、

 

「……はは、やっぱり僕ってこういう運命なんだなあ。可愛い服装なんか、僕には似合わないんだ」

 達観したような顔をしながら、シャルは己の格好、―――俺と同じ燕尾服、執事姿を見下ろした。

 

「なんか懐かしいなあ。シャルが転入してきた時を思い出す」

 

「そうだね。……僕としては二度とシャルルに戻る気はなかったのに」

 そしてハアっとシャルは溜息をついた。まあ確かに、しぶしぶ男装していたのから解放されたのに、またされるとは思わなかっただろう。しかし何でラウラにメイド服送った人はシャルにメイド服でなく執事服送ったんだろう? 最初は俺の服が2着きたのかと思ったが、明らかにサイズが小さかったから不思議だったんだよなあ。

 

「う~ん、シャルロットが嫌なら私が着ても良かったけど」

 

「……不幸な事に、僕と葵じゃ身長が違いすぎるし。葵じゃこの服入らないし、葵のメイド服じゃ僕にはぶかぶかだったしね。……特に胸囲が」

 

「いやそこで恨めしい視線送らないでよ。でもまあどっちにしろ私よりもシャルロットの方が男装似合うのはわかってたけど」

 

「そうだね、僕と違って葵じゃ胸がデカすぎて潰したらハト胸でかっこ悪いもんね」

 

「……同意はするけど貴方の胸も大きい方じゃない。そこまで完璧に誤魔化せるデュノア社のサポーター技術は凄いけど」

 

「……はあ、もうやる気がでない」

 そう言ってシャルはまた溜息をついた。

 

「ちょっとしっかりしてよスバルん! 貴方は織斑君に次ぐこのクラスの目玉なのよ!」

 

「そうよスバルん! 貴方の姿には多くのファンがまだ残っているのよ! それに外来のお客様もほとんどが女性な事考えたら、スバルんの需要は高い!」

 

「頑張れスバルん~。迷える執事スバルん~」

 

「スバルんって何!?」

 

「源氏名よ! 深い意味は無いわ!」

 スバルん連呼する相川さん、鷹月さん、のほほんさんに叫ぶシャルだが、谷本さんの言葉を聞いてまたがっくりと肩を落とした。ちなみにのほほんさんは着ぐるみをきている。のほほんさんは主に外で客引き担当となっており、それには俺は凄く納得した。……こう言ってはなんだが、のほほんさんに接客やキッチンを任せるのは凄く不安だからだ。しかしのほほんさん、顔を被ってはいないけどその着ぐるみは……ガチャ○ン? いいの、それ?

 

「さあ、皆の準備は万全みたいね! 模擬店開始時間まで後40分! 皆気合を入れ」

 

「失礼します」

 谷本さんが再度気合を入れようとした時、教室の扉が開き誰かが教室に入って来た。

 

「あのすみません、模擬店開始時刻はまだなので」

 おそらく外来のお客さんだろう。開始時刻前に来てしまったので一旦お引き取り願おうと俺は入った来た人に言おうとしたが、その言葉は途中で止まってしまった。

 何故なら、入って来た人は俺の知っている人だったが、まさかこの人が来るとは思わなかったので驚いてしまったからであった。

 

「お久しぶりですね織斑様」

 そう言って、見惚れるような笑顔をメイド服姿で会釈した人―――それはセシリアの使用人のチェルシーさんだった。……うわ、今の笑顔にあの会釈、どれも完璧に絵になっている。葵達のメイド服姿も良いと思ったけど、やはり本職の人は次元が違う。顔が熱くなるのを俺は感じた。

 

「ふふ、織斑様。顔が赤くなってますわよ」

 そう言いながらチェルシーさんは俺の両頬を手で触った。ひんやりした手がとても気持ち良い。しかし、

 

「!」

 何故かは知らないが、俺は反射的にチェルシーさんから距離を取った。そして俺がいた所に、……セシリアのBTが浮かんでいた。

 

「何であなたがここにいますの?」

 チェルシーさんの前にBTを浮かべているセシリアが、憤怒の形相をしながらチェルシーさんに質問する。ってよく見たらセシリアだけでなく、箒にシャルにラウラも凄い目でチェルシーさんを睨んでいるし! 葵だけ面白い物を見る目でセシリアとチェルシーさん眺めてるなあ。

 

「何を言っているのですかお嬢様。お嬢様が私にこのIS学園の招待状を送ったのではありませんか」

 セシリアの質問に、チェルシーさんは笑みを浮かべながら答えた。

 

「う、そういえばそうでしたわね。まさか本当に来るとは思いませんでしたけど」

 

「当然来ます。何しろお嬢様がメイド服でご奉仕すると聞きましたもの。普段私がお嬢様にお世話してますが逆の立場になれるとしたら何が何でも来ますわ。それに今日はメイドとしてだけでなく―――セシリーの幼馴染みとしても来てるわよ」

 

「フン、意地が悪いですわね」

 言葉の後半はチェルシーさん、メイドとしてでなくなんか、普通の女の子みたいな雰囲気を出していた。そして悪態をつくセシリアだが、顔は先程までと違い笑みを浮かべている。

 

「あ、あの~オルコットさん。今までの流れでこの人が誰なのかはわかったけど」

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだでした。私はチェルシー・ブランケットと申します。オルコット家に仕えているメイドです」

 そう言ってクラスの皆に頭を下げるチェルシーさん。その優雅な姿に、クラス一同惚けている。

 

「そ、そうですかご丁寧にありがとうございます。ってそうでなくて! チェルシーさん、申し訳ないですが模擬店開始時間はまだなので」

 

「ああ、それは構いません。私がここに早く来たのはお客としてきたわけではないからです」

 谷本さんが最後まで言う前に、チェルシーさんがやんわりと遮った。

 

「へ? では何しに来たのですか?」

 

「決まっています。私が来日した目的は大きく4つ」

 4つもあるのかよ。

 

「その一つはお嬢様のご奉仕を受ける事。そして二つ目は」

 チェルシーさんの目が葵の方を向き、

 

「青崎葵様。貴方にお礼を言うためです」

 そう言って、チェルシーさんは葵に向かって深々と頭を下げた。

 

「本当に、本当にありがとうございます。貴方には感謝してもしきれません」

 よくわからないが、チェルシーさんは葵にもの凄く感謝しているようだ。

 

「葵、お前チェルシーさんに何かしたのか?」

 

「え、いや初対面なんだけど。何で私この人に感謝されてるの?」

 身に覚えのないお礼を言われ、葵は困惑している。困惑している葵をよそに、チェルシーさんはさらに言い募る。

 

「本当に、本当にありがとうございます! セシリーを! セシリーを治してくれてありがとうございます!」

 

「治すって? え、セシリアって病気だったのか? それを医者でもない葵が治したのか?」

 困惑する俺だが、どうやら俺だけでなく葵も、クラスの皆もチェルシーさんが何で感謝しているのかがわからないようだ。

 

「ちょとチェルシー! その件はもう止めなさいと」

 そんな俺達をよそに、セシリアは顔を赤くしながらチェルシーさんに向かって叫んでいる。しかしチェルシーさんはそんなセシリアの言葉を無視して、

 

「本当に本当に! セシリーにまともに食べれるサンドイッチを作れるようにしてくれてありがとうございます!」

 葵に向かって感謝の言葉を叫んだ。チェルシーさんの言葉を聞き、先程までチェルシーさんの様子を訝しんでいたが、クラス一同が「あ~、納得」って顔をした。

 最近もやっているけど昼飯は俺達各自でお弁当を作って、屋上で一緒に食べている。各自のお弁当を食べ比べたりしているが、前まではセシリアのお弁当は恐怖そのものであったけど、葵が食べて酷評して、その後ショックで大泣きしたセシリアを宥めて料理指導したんだよなあ。そのおかげで、セシリアのお弁当もサンドイッチは安心して食べれる味になった。……しかし、葵が指導していない料理に関しては相変わらずの味なんだけどね。

 

「セシリーが先月イギリスに帰った時、掃除をしている私に『チェルシー疲れたでしょう。軽食を作ってきましたわ』と言ってサンドイッチを持って来た時、私は絶望しました。ああ、またあの言語に表現できない味が私を襲うのだと」

 

「ちょっとチェルシー!」

 

「しかし私はメイド。ご主人様には逆らえない立場。笑顔でサンドイッチを持つセシリーに感謝をしながらも死刑囚な気持ちで食べました。そしたら、まさかの! 普通の味でした。私はこの時ほど神に感謝し、奇跡を信じた事はありませんでした」

 顔を赤くして叫んでいるセシリアを全く無視し、言い募るチェルシーさん。……しかしこの人自分ではセシリアに仕えるメイドとか言っている割には好き勝手言っているなあ。ああ、さっき幼馴染みとして来たとも言ってたから、今は幼馴染みとして言っているのか。

 

「そういうわけです。青崎様には感謝してもしきれません」

 

「あ、いや~そう言う事でしたか。ま、まあ友達の欠点を少し矯正しただけですからそこまで感謝しなくてもいいですよ」

 何で感謝されたか知った葵は、少し困った顔をしながらチェルシーさんに言った。本当にこんな事でこんなに感謝されても困るみたいな顔をしている。そんな葵の姿と言葉を聞いたチェルシーさんは、また嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「ふふ、まさかさらに嬉しい事を言ってくれますなんて」

 

「?」

 何でまたチェルシーさんが喜んでいるのか、葵はわからないのか首を傾げている。いや俺もわからないんだけど、セシリアの方を向いたらセシリアは顔を真っ赤にしながら葵とチェルシーさんを見ていた。

 

「先月日本に来た時は織斑様にはお会いできましたけど青崎様はいらっしゃらなかったので。今日はお礼を言う事ができて満足です」

 

「そういえば先月セシリアが帰国した時って、私は鈴と一緒に買い物に行ってたんでした。すれ違いになってたようですみません」

 

「いいえ、私も勝手に青崎様がIS学園にいるものだと思ってましたので」

 

「そうですか。ところでチェルシーさん、先程ここに来る目的が4つあるとか言ってましたが、他は何でしょうか?」

 ああ、そういやさっきチェルシーさんそんな事言ってたな。葵の質問に、

 

「ああ、そうでした。私がここに来た3つ目の目的。それは皆様に短いですがメイドの何たるかを指導して差し上げようと思ったのです。言っては悪いですが、メイド服を着ただけではメイドとは言えません! 歩き方から言葉使いまで沢山気を付ける事がありますが、最低限な事は教えます。特にお嬢様は一番駄目ですから」

 先程までとは違い、幼馴染みとしてでなくメイドとしての顔をしながら答えた。

 

「は! ちょっとチェルシー何を言って」

 

「是非ともお願いしますチェルシーさん! もう時間は無いですが付け焼刃でもいいですので皆の指導をお願いします!」

 チェルシーさんの言葉にセシリアはなにやら抗議しようとしたが、その声は谷本さんによって掻き消された。

 

「ちょっと谷本さん! 貴方何を」

 

「全ては勝つためよ!」

 またも何か言いかけたセシリアだが、谷本さんの力強い声にまた掻き消された。

 

「時間が無いわ! 早速奥の方で指導お願いします! さあ皆! ハリーハリーハリー!」

 どこぞの吸血鬼みたいな事を言いながら、葵達をせかす谷本さん。

 

「わかりました。ではさっそく指導いたしましょうお嬢様」

 

「ちょ! 話しなさいチェルシ~!」

 そんな谷本さんに応えるかのように、チェルシーさんは嫌がるセシリアの腕を掴んで奥に向かっていく。そんな様子を眺めていた葵達も、溜息をついた後奥に向かっていった。それを眺めた後、

 

「よかったな、俺達は執事だから免除されたぞ」

 

「……嬉しくない」

 メイド指導を免れたシャルに軽口を叩いてみたが、シャルは拗ねた顔をしながら言った。

 

 

 

 そして30分後、開始ギリギリでセシリア達のチェルシーさんによるメイド指導は終了した。正直30分で何を指導できたのか疑問なのだが、指導を終えたセシリア達は何故か疲れ切っていた。

 

「メ、メイドとはかくも恐ろしい職業なのだな」

 

「メイド。まさかあそこまでメイド道が深い物とは……」

 

「当主の仕事なんかよりも、使用人の方が忙しいのですわね……」

 ラウラに箒にセシリアが疲れた顔で俺に言ってくるが、箒、なんだよメイド道って。

 

「本職の人の生の声は良い参考になったわ」

 葵も疲れた顔をしているが、どこか満足した顔をしていた。

 

「まだまだ教えたい事はいっぱいありますが、今日はこれだけにしておきます」

 どこか満足した顔のチェルシーさん。チェルシーさんだが、営業が開始した後はセシリアの接客を受けた後違う場所を見ていくと言っていた。先ほど教えられた指導のチェックを受けるので、セシリアは憂鬱な顔をしている。ちなみにミスをしたら、ミス一つにつきセシリアの恥ずかしい過去をバラされるとの事。むしろチェルシーさんはセシリアのミスを期待している節があるなあ。

 そしてチェルシーさんから、あの雑誌の件について言われた時は少し動揺した。ただのデマ記事だけど、チェルシーさんはどう思っているかは気になったからだ。しかし、

 

「有名税みたいなものです。ああいった出来事は世界のどこでもあります。堂々としていればよろしいですよ」

 俺チェルシーさんは俺を、皆を信じてくれていた。それが嬉しかった。

 

「これからも色々あるでしょうが、お嬢様を、セシリアをお願い致します」

 そんなチェルシーさんの言葉に、

 

「はい!」

 俺は力強く答えた。

 

 

 

 あれ、そういえばチェルシーさんの4つ目の目的聞きそびれたけど、なんだったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園外周。

 

 

 

「ここが隊長が学ばれている学園ですか。隊長のメイド姿……う、いかん鼻血が!」

 

「ふふふ~、箒ちゃんのメイド服か~。可愛いんだろうな~。あーちゃんのメイド姿も、いっくんの執事姿も楽しみだな~」

 

「へへへ、一夏から貰ったこの招待券! これで俺も女の園に入れるぜ! 楽しみだな葵のメイド姿。鈴も何するかしらないが多分可愛い恰好しているだろうな」

 

「鈴……」

 

「……」

 

「……待っていろよ、織斑一夏!」

 

「……お願いだから変な事はしないようにな」

 




私の趣味全開で展開しますので、原作とは大きく乖離します。ご了承ください。

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