遅れて現れた幼馴染
「ふ~、久しぶりだな我が家も」
IS学園は今日は休みなので、俺は久しぶりに家に帰る事にした。理由は単純にそろそろ季節が夏に近づいたため、夏服を取りに来たのと定期的に掃除しないと家が埃まみれになるからだ。ちなみに今回家に帰る事は誰にも言ってない。何故なら、
「誰かに教えたら絶対皆付いてきそうだもんなあ」
箒達に言えば絶対一緒に行くと騒ぐのは間違いない。別に箒達の事が嫌いというわけではないが、家の掃除と替えの服を用意した後弾や和馬達に会いに行こうと思ってるため、皆には黙っとく事にした。理由は、
「たまには男だけで騒ぎたいもんなあ…」
IS学園に入学してから周りは女性しかいない。弾には「このハーレム野郎!」とか言われるが、女しかいない状況は想像上につらい。箒達が悪いというわけでない。箒と鈴は幼馴染だし、セシリアやシャルル、ラウラも俺にとってIS学園で出来た友達だ。皆と一緒になって騒ぐのは楽しい。しかし…性差ってのはやはり大きいんだよ。男女の違いというだけで、やはりどこか心の中で相手に対する遠慮みたいなものが産まれてくる。弾達みたいに、同性の遠慮のない会話ってのが出来ない。
「さてと、弾達を待たせるのも悪いから早く終わらせるか」
居間、廊下、台所、千冬姉の部屋の順に掃除し、最後に俺の部屋を掃除する。まあ先月掃除した時から一回も家に帰って無いため、たいして汚れてないからすぐに終わっていく。掃除を済ませ押入れから服を引っ張り出し、持っていく服を選んだ。
「よし、こんなもんだろ。弾達と遊んだらまた家帰って荷物取りに行けばいっか」
荷物もまとめたし部屋を出ようとしたら、俺は机に置いてある写真立てが見えた。中学二年の春に撮った写真で、そこには俺と弾と鈴と……、
「そういえば、あいつ元気にしてるかな…」
二年前の写真には、6歳の時から俺とずっと一緒に遊んでいた、男の幼馴染が写っていた。
「ちょっと一夏!今日は黙ってどこに行ってたのよ!」
久しぶりに弾達と男同士でバカ騒ぎしてIS学園に帰ってきたら、アリーナで自主練を終えた箒、鈴、セシリアの三人と出会った。
「そうですわよ一夏さん!黙って学園外に出るなんて!買い物とかでしたら私を誘ってくれてもいいですのに!」
「一夏、黙ってどこ行ってたんだ?」
俺が黙って外出した事に不満な三人。おそらくここにいない、シャルルやラウラも同じだろうな。
「ちょっと家に夏服を取りに行ってたんだよ。その後は弾達と会って遊んでたけどな」
「弾と?なら私も誘いなさいよ。私も久しぶりにあのバカの顔見たいし」
「悪い鈴。ちょっと男同士だけで話したい事もあってな」
「なによそれ」とぶつぶつ言う鈴。
「弾ってどちらさまですの?」
「確か一夏と鈴の中学生の頃の友達だったか?」
「そう。IS学園入学してからあまり会ってないからな。今日は旧交を温めてたって訳だよ」
そういうと三人とも納得したようで、俺を非難した眼差しは無くなっていた。
「弾達で思い出したけど、……一夏、あいつからまだ何も連絡無い?」
どこか遠い場所を見ながら鈴が俺に訊いてきた。その顔は寂しそうな顔をしている。
「…ああ、前にも言ったが一度も無い。あいつは二年前、置手紙残して消えたきりだ」
俺も寂しそうな顔してるだろうなと思いながら答えた。
「一夏、鈴、もしやお前達の言っているあいつとは…葵の事か?」
箒もどこか寂しそうな顔して俺に訊いてきた。
「ああ、葵の事だよ。あの野郎本当にどこ行ったんだろうな…」
「あの皆さん…、一体誰の事について話されてますの?」
セシリアが頭に? マークを付けながら尋ねてきた。そういえば、この場で葵の事を知らないのはセシリアだけだった。
「悪いセシリア。さっきから鈴や箒が言ってた奴は青崎葵って奴で俺の親友。そうだな、箒が女のファースト幼馴染なら葵は男のファースト幼馴染って所だ」
「へ~、一夏さんの親友なのですか」
「ああ、一夏と葵は本当に仲がよかったぞ。そして私の所で一緒に剣道を習っていたから、私の幼馴染でもある」
「まあ私にとってもそうね。一夏と同時に葵とは友達になったし」
箒と鈴が懐かしいなあって言ってると、セシリアが再度質問してきた。
「あの一夏さん、先ほどの会話の流れからして、その葵さんは急に一夏さんの前から姿を消したんですの?」
「そうなのよセシリア! あのバカ急に学校を休みだして、家に電話しても繋がらないし携帯も出ないし心配して家に行ってみたら、そこには私と弾と一夏宛の手紙しかなくて、それ以外はもぬけの殻だったのよ!」
あれにはビックリした。葵の家に付いていた青崎って書かれた表札が無くなってて、ドアに鍵がかかって無く開けてみたら、玄関入口に俺達宛の手紙だけおいてあった。それ以外は家具も一切合財全部無くなっていた。ちなみに弾宛の手紙には「短い間だったが楽しかったぜ」、鈴の手紙は「酢豚の腕前磨けよ」、俺の手紙には「またいつか会おうぜ!」だけだった。つーかこれわざわざ三人分用意する必要あったのか?って思えるほど中身が無い手紙だった。
「あの後の一夏はそれはもう落ち込んでたわね。一週間は机に突っ伏してたっけ」
「しかたないだろ、人生の半分は一緒に過ごした奴が何も言わずにいなくなったんだぞ。親友と思ってたのに俺に何も言わず…」
やべえまた落ち込んでくる。あの時は本当に絶望したな。鈴や弾がいなかったら人間不信になってたかもしれない。
「そんな事があったんですね…。大丈夫ですよ一夏さん、鈴さん、箒さん。その方とはまたいつか会えますわよ。だって一夏さんの手紙にいつか会いましょうと書いてあったんですから」
そういって笑顔で励ましてくるセシリア。彼女の気遣いが少し嬉しかった。
「そうね、あいつはとはまた会って一回ぶん殴らないと気が済まないし」
「私も葵から剣道の腕では負け越しだったからな。今度こそ勝ちたい」
そういや葵と箒は結構ライバルな関係でもあったな。俺にとってもそうだったけど。
「そうだな、死んだわけじゃないしいつかまた会えるよな」
と言いながら俺達は寮に戻って行った。途中鈴と箒が「私がいなくなった時はどんな反応だった?」と聞いてきて、どう返すべきかかなり悩んだりもした。
翌日、教室でシャルルとラウラに「昨日はどこへ?」と聞かれ、箒達と同じ説明をした。
「まあ確かに、一夏もここにずっといると気が滅入るよね」
「ふん! 私という夫がいるのに何か不満なのか?」
二日前クラスメイト達の目の前でいきなり俺にキスをして以来、ラウラは俺を嫁扱いする。正直言って止めて欲しい。
「ところで一夏よ、一つ聞きたい事がある」
と言ってラウラは誰も座ってない机を指差し、
「あの机に誰か座ってるのを私は見た事が無い。教官が教鞭を振るってるのに出席せんとはなんという名の奴だ?」
「あ~そういえば僕も気にはなってたんだ。ここに転校してきてからあの机に誰も座ってないから」
二人に聞かれるも俺はこう答えるしかない。
「知らん」
「「は?」」
「だから知らないんだよ。このクラスに初めて入った時からあそこは空席だったんだよ。山田先生に聞いても『すみません、今はまだ教えられません』の一点張りだし」
「名前も教えてくれない。同じクラスメイトなのに?」
「なにかわけありの人物なのか?」
「多分な。千冬姉も教えてくれなかったし」
そうこう言ってるうちにチャイムが鳴り、HRの時間となった。山田先生と千冬姉が教室に入ってくるが、何故か山田先生は何時もと違い、表情が硬い。千冬姉は相変わらず鉄面皮だけど、少し何時もよりも空気が違う。山田先生と千冬姉の何時もと違う態度に、クラスの皆も少し戸惑っている。
「さてと朝のHRを始めますが、その前に一つ報告があります」
何時もより硬い声を出しながら、山田先生は言った。
「皆さんと新しく一緒に学ぶお友達を紹介します」
この時クラス一同の心は一致したと思う。「え、また?」と。
「いえ正確にはこのクラスに在籍してたのですが、事情があって今まで登校出来なかった生徒が今日から通うんです」
なるほどな。シャルル、ラウラに続きまた転校生が入るってのは少し変だしな。俺は今朝話していた空席を眺めた。
「それでは紹介します。入ってきて下さい」
山田先生の合図の後、扉が開き一人の少女が教室に入ってきた。身長は高く、俺と5センチ位しか変わらないかもしれない。髪は背中を半分隠す位長い。そしてスタイルは抜群。痩せてるように見えて箒とタメ張りそうなほど大きな胸をしている。そして顔もかなり綺麗な分類に入るだろう。少々ツリ目だが、その瞳は優し気な眼差しをたたえている。
うんかなりの美少女だな。昔会っていたらそう簡単には忘れないだろう。でも俺は彼女に会った覚えがない。
なのに、何故……俺は彼女にとてつもなく懐かしい印象を覚えるんだろう?
彼女は教室を見回し、そして俺を見つめると極上の笑顔で言った。
「皆さんはじめまして。私の名前は青崎葵と言います。事情があって入学後出席しませんでしたがどうかよろしくお願いいたします」
え?…ちょっとまて、
今この子…、
青崎…葵と名乗った?
「特技は空手と剣道です。格闘戦なら誰にも負けない自信があります。最近ではお菓子作りにもハマってます。得意なお菓子はシュークリームです」
俺が動揺と混乱してる中、教壇の前に立っている子は自己紹介を続けていく。青崎葵?いやあいつがここにいるわけがない。あいつは正真正銘男だったはずだ。しかしこの子の名も青崎葵。
あ、なるほど!つまりこの子は、
―――――ただ単に同姓同名の別人の人だ!
いやそうだよな、それなら納得だ。葵も空手と箒ん家で剣道習ってたけど、ただの偶然だよな。葵は武術習ってるのに筋肉全然付かず、女みたいに細かったし、顔も凄く女顔で男子制服着なければほぼ100%女に間違われてたりしてたけど別人だよな!だって俺の記憶の葵と目の前にいる彼女、よくよく見たら顔は物凄く似てるが、記憶にある葵はまだもう少し男の顔してたよ~な……? あれ?
「――――――――以上です。あ、後一つ言う事があります」
そう言って彼女は俺と箒の顔を見て、
「久しぶり元気だったか一夏!また会えて嬉しいぜ!箒も久しぶり!6年振りだな!」
と眩しい笑顔をして俺と箒に言った。
…………数秒の沈黙の後、
「「葵~~~~?!」」
俺と箒の叫び声が教室に響いた。
「え、織斑君と篠ノ之さんの知り合い?」「そうでしょ、二人を名指しで挨拶してたし」「でもそしたら何で織斑君と篠ノ之さん、お化けでも見たような顔で青崎さんを凝視してるの?」「それと青崎さん、何でいきなり男の子みたいな話し方に?」
葵の発言によって、クラスメイト達が騒々しくなった。箒を見たら、葵を凝視しながら口をパクパクしてる。まさに鳩が豆鉄砲をくったようって感じだ。いや俺も似たようなもんだろうけど。セシリアは昨日葵の事話してたから「え、葵さんは男性だったはずでは?」と俺と箒と葵を交互に見ている。シャルルとラウラは……何故葵に対し敵意のこもった目で見てるんだ?
いやそれよりも、何で? どうしてあいつ、女になってるんだよ! いや確かに性別間違えて生まれただろと散々周りから言われる位女顔だったけど、お前間違いなく男だっただろ!
「静かにせんか馬鹿共!」
千冬姉の一喝で一瞬にして静かになった。流石千冬姉。
「全くまだHRは終わっておらんのに。ああ、青崎」
「はい何ですか織斑先」
パアン!っという音と共に葵は千冬姉から出席簿で頭を叩かれていた。
「な、何故叩くんですか千冬さ」
しまった! って顔して口を押さえた葵に、再度パアン! という音が響いた。
「学校では織斑先生と呼べ。後先程の質問の答えだが、お前の口調が男になった場合容赦無く叩いて矯正してくれと上からの命令があったのでな。最低限公共の場では口調に気を付けろ」
「了解しました織斑先生」
頭を抑え若干涙目で答える葵。痛いもんなあれ。
「さて、これでこのクラスの者が全て揃ったわけだが、お前達に言わなければならない事がある」
千冬姉はちらっと葵を見て、
「言わなければならない事とは、今日初めて登校した青崎の事だ。事情があって登校が遅れたわけだが私が今から言う事はそれに関しての事ではない。青崎自身についての事だ」
そういって千冬姉は「青崎、お前から言うか?」と聞き、「はい」と言って葵はまたクラスメイト達の前に立ち、
「え~とですね、実は私は今は正真正銘女の子ですが、中学二年の春までは男の子でした」
と特大の爆弾を放った。
「ええ!嘘でしょ!」「あの胸で……男?」「篠ノ之さんと同等の大きさ…」「どうやってあの大きさに!」
再度クラス中の皆が葵に(主に胸に)注目し騒がしくなったが、
「いちいち騒ぐな、この馬鹿者共!」
と、同じく千冬姉の一喝で静かになる。…いや千冬姉、それは無茶だろ。後皆胸に注目しすぎだろ…いや、確かに大きいな。
「話の続きですが、誤解しないでほしいのですが私が女の子になりたいから性転換手術をしたというわけではありません。私の体が元々は遺伝子的に女性だったんです。半陰陽といって、詳しく話すと長いので省きますが、ようは元々女性だったけど見た目が男性だったというわけです。私が14歳になる前にそれが発覚し、将来の事を考えて男性として生きるよりも女性として生きる事を選びました」
自身の事情を真摯な表情で話す葵。その顔に嘘など欠片も見えなかった。
「かなり葛藤や迷いもありましたが、こうしてISの操縦も出来るようになってますので結果的には良かったと思います。それに思いもしなかった再会もありましたし」
そういって俺と箒を眺める葵。…確かに葵とここで、こんな形で再会するとは思いもしなかったな。
「なぜこのような事を言ったかですが、体は女性ですが手術前は男性として生きてきました。元男性ということで、私の事を女性として受け入れづらい人等もいるからです。そういう人がいるなら初めから言って来てください。私もなるべく配慮しますので」
悲しそうな顔をして葵はクラスを見渡した。その顔を見て今までそういった拒絶を受けた事があると容易にしれた。
「しかし」
ん?急に葵の顔が一転、悲しい顔から挑発的な顔をし、
「ISの操縦では誰にも負けるつもりはありません!そこだけは遠慮しません!」
と宣言した。
ああ、うん。そうだよな。俺の記憶にある葵はそんな遠慮深い奴じゃあないもんなあ。気配りがよく出来る奴だったが欲望には忠実だったし。
「以上です。では改めて皆さんこれからよろしくお願いいたします」
と一礼した。その瞬間、俺は立ち上がった。
「ああ、お前の事情は聞いたが、そんなのは関係無い!本当は女だった?関係ねえ!その程度で俺がお前に対して認識変わんねえよ!またよろしくな親友!」
「うむ、お前の事情は理解した。しかしお前がどう思ってるかは知らんが、私にとってお前がどんなに姿が変わろうと私が知っている葵のままだ。一緒にまた精進しよう」
俺と、同じタイミングで立ち上がった箒の声がクラスに響いた。驚いた顔して俺と箒を見る葵。しかしすぐに少し半泣きになりながらも嬉しそうな顔をして、
「ありがとう、二人とも」
と言った。
…やべえ、今は完全に女になってるからかかなり可愛い。
「私も全然問題にしないよ~。このクラスに入ったからにはアオアオも一組の仲間だよ~」
のほほんさんが笑顔で葵を受け入れてくれた。それをきっかけに、
「大丈夫よ青崎さん、私達はそんなことで貴方を偏見な目で見ないわ」「それに隠してるならともかく、堂々と私達に教えてくれたもの。並みの勇気じゃ出来ないわ。なら私達もそれに答えるまでよ」「IS勝負、私も負けないわよ!覚悟しててね」
クラスの全員が葵に笑顔で答えていった。セシリアもシャルルも、……ラウラはよくわからないが拒絶してる様子は無い。どうやら葵は皆に受け入れられたようだ。
その後休み時間の度に葵は質問責めになり、葵の事を聞いた鈴が一組を襲撃。今の葵を見て(特に胸を見て)驚愕し、そして以前宣言した通り一発ぶん殴った。葵も抵抗すること無く受け入れ「ごめん」と言うと「別にもういいわよ!こうしてまた会えたし!」とプイっと顔をそらした。
「休み時間じゃ時間が足りないわ!昼休みにたっぷりと色々話して貰うからね!」
と言って鈴はまた二組に戻って行った。俺も箒も込み入った話は昼休みにしようと葵に話してたため、ちょうど良かった。
そして昼休みになると俺は葵の腕を掴み、
「さてと、じゃあ色々と聞きたい事が山ほどあるんで話して貰おうか」
有無を言わさずに屋上へ連行した。
完結出来るよう頑張ります