IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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学園祭 短い平和

「織斑君~、はやくオーダー取りに来てよ~。主人を待たせるなんて執事失格だよ~」

 

「は、お嬢様!今しばらくお待ちを」

 

「スバルん~、頼んだケーキ遅いわよ。仮にも私の執事なら欲しい時に持ってこないなんて執事失格よ。執事券使っておしおきが必要かしら」

 

「ラウラちゃ~ん、お兄ちゃんが頼んだコーヒーはまだかな~」

 

「相川さん、3番テーブルの食器を片付けたら6番テーブルに新しいお嬢様のご案内を! スバルんは1番テーブルのお嬢様のケーキはもう出来てるから! ラウラ、4番テーブルの連中には「クソ兄貴!」とでも言っておいて。喜ぶから」

 

「任せて!」

 

「だからスバルんって何なの?!」

 

「……何故私だけ男性客からの注文が多いのだろう? それに何故皆私を妹扱いする?」

 

 だ~、くそ! なんだこの忙しさは!

 

 俺達1組のメイド喫茶だが、開店直後から今に至るまで物凄い数のお客さんが並んでいる。お客さんの9割が女性で、多くが俺目当てとクラスの皆から言われた。実際入ってくるお客さんで指名されるのは俺が一番多いからそうかもしれない。しかし、

 

「スバルん! 7番テーブルのお嬢様が呼んでるから早く行って!」

 シャルが指名される数もかなり多い。というか、俺とシャルで6割以上のお客様の対応に追われている。そのため他の接客担当の葵に箒、セシリアにラウラは忙しい俺達とは違いそこまで忙しくない。……しかし、一応ここではシャルはシャルルとして紹介されているのに、多くのお客さんがシャルを見たら『スバルん』と言う。何故なんだろう? 

 

「お待たせしましたお嬢様。本日ご用意した紅茶はベノアでございます」

 

「お嬢様、今朝料理長がお嬢様の為にケーキを作りました。是非とも御賞味下さいませ」

 引っ切り無しに呼ばれないせいか、葵とセシリアはチェルシーさんから教わったメイドの心得とやらを優雅に実践している。最初チェルシーさんはセシリアが一番駄目とか言っていたが、実際はセシリアが誰よりも完璧にメイドをこなしていた。

 

「行ってらっしゃいませお嬢様。お戻りは何時になりますでしょうか?」

 

振る舞いから言葉使いまでチェルシーさんそのものだ。しかし、チェルシーさんからすればまだまだだったようで、

 

「まあギリ合格とします」

 という評価だった。

 

「お嬢様、お茶を注ぎます」

 そう言って、葵は紅茶をお客さんのカップに注いでいく。接客を嫌がっていたくせに、今では葵も楽しそうにメイドをやっている。いや元々、葵は接客が嫌なのではなくメイド服を着るのが嫌だっただけなんだが。おそらく腹をくくり、楽しむことを選んだんだろう。葵はセシリアの次にメイドが様になっている。

そもそも葵は俺と一緒に今まで弾の家や鈴の家の手伝いをしていて、その中には接客も含まれていた。鈴の家も弾の家も結構繁盛していた店だったし、その中で揉まれた俺と葵は接客に関しては慣れている。そして実際にこういった飲食関連の仕事を一番やった事あるのは俺と葵であり、忙しい俺とは違い葵は、

 

「セシリア! 9番テーブルに紅茶とクッキー、それとコーヒーにエクレアも一緒で! 四十院さんは8番テーブルの片づけを急いで!」

 

「わかりましたわ!」

 

「わかった!」

 今回初めて接客業をする皆に的確な指示を出して皆を動かし、また葵自身も的確に動いてお客さんを捌いていく。メイドの中で一番背が高いのもあり、その働いている姿から、しだいに葵はクラスの皆から『メイド長』の称号を得ている。そして葵も結構人気があり、ラウラの次に人気がある。TVの影響もあるが、葵も日本の代表候補生として人気があるようだ。

 ちなみに、本日の客に雑誌の件での話題は禁止している。店入り口前にも貼ってあり、それをしたら即店から出て行ってもらう事になっている。幸いなことに、入場するお客さん達は空気を読んで、誰も葵や俺にその話題を言ってこない。

 

「お、お嬢様! ケーキセットを持ってきました!」

 

 箒とラウラだが、……まあまだ多少の照れがあるから箒は動きが少しぎこちない。でも頑張っているのはよくわかり、お客さんからの受けも良いようだ。あの人と接するのが苦手な箒が笑顔を浮かべながら接客をする姿に俺は少し感動した。束さんみたいには箒はなってほしくない。

 

「クソ兄貴、茶と菓子だ。すぐに食べて飲んで早く出ろ」

 ラウラは……いや、これ完全にメイドとしてでなく接客業として駄目だろ。しかし、

 

「う~ん、ツンデレな妹が入れた紅茶とケーキは格別だ!」

 ラウラの接客を受けた野郎達は喜んでそれを受け入れている。客の1割が男性なのだが、それのほとんどがラウラを指名している。葵がラウラに、『ラウラ、もし男から指名されたら横柄に接していいから。多分そっちの方が喜ぶ』と言ったせいでラウラは本当に雑な対応している。あんな酷い接客なのに、受けた連中は皆喜んでいる。わからん。

 しっかし……IS学園の学園祭は一般公開されてない招待制なのに、こいつらどうやって入ったんだろう? いや、この学園の生徒の身内なんだろうけど。さっきから外から中の様子を見ている生徒何名が、恥ずかしそうな顔して男連中見ているし。

 

「お姉ちゃん、今日の注文は何が良い?」

 さらにラウラだけ、客を呼ぶ時はお嬢様でなくお姉ちゃんと呼ばせている。

 

「ボーデヴィッヒさん! 貴方は女性客から呼ばれたら全員『お姉ちゃん』と言って!」

 開店前、相川さんがすごく良い顔をしながらラウラに言った。無論ラウラも何で?という顔をしたが、

 

「うん! それがいいよ! ラウラ、相川さんの言う通りにしなよ!」

 凄く良い笑顔をしたシャルからも言われたので、ラウラはお嬢様と言わずお姉ちゃんと呼んでいる。その効果は絶大で、

 

「キャー!可愛い!」「こんな妹が欲しかった!」

 ラウラがお姉ちゃんというと、皆歓声をあげながら喜んでいる。そのため、俺、シャルの次にラウラの指名率は高い。……いや、よく考えたらここってメイド喫茶なんだよな。執事とメイドでない妹が人気のほとんどを占めるってどうなんだろう?

 

 俺やシャルの執事、ラウラ達の人気もあってメイド喫茶は大繁盛しているが、それだけでなく、

 

「うわあ! このショートケーキ美味しい!」「こっちのりんごパイも良いわよ!」「クッキーと紅茶が凄く合う!」「これすべて手作り!? 店開けるレベルよこれ」

 葵主導の下、大量生産したお菓子の評判もかなり良い。俺も散々試食で食べたが、味については文句なく美味い。葵の友達からレシピを貰い、それを参考に作ったと葵は言っていたがレシピ見てもそれを美味く作れるかは別だ。

看板に『日本代表候補生青崎葵完全監修のお菓子!』と書いてあるので、葵は『メイド長』と一緒に『料理長』とも呼ばれている。料理をほぼ同時期に習ったのに、お菓子作りに関しては完璧に俺は負けている。いや、厳さんの業火野菜炒めも何時の間にか葵は作れるようになっていたし、菓子以外でも俺負けている? 

 

「一夏! ぼうっとしてないで早く動け!」

 

「お、おう!」

 箒の叱咤を受け、俺は急いでお客さんの所に向かっていった。ちなみに、店の外で待っているお客さん相手に、のほほんさん達がクッキー等の焼き菓子をラッピングして販売したりしている。ケーキの持ち帰りを頼むお客さん(ほとんど男だが)にも、わざわざ紙箱用意して割増料金で販売する鷹月さん。売るチャンスをとにかく物にするクラスメイト達の姿は、実に頼もしく思う。

 

 

 

 

 

 お客さんが詰めかけ、大忙しだったが正午になる頃には少し落ち着いてきた。走り回っていた俺とシャルもようやく一息つき、葵達も多少の暇な時間が出来た。

 

「よし、お客さんの流れも落ち着いたし、皆も順番に学園内見て回ったら? 今なら全員ここにいる必要ないしね」

 谷本さんから自由時間を貰ったので、俺達は順番で学園内を回る事にした。しかし、

 

「あ、本当に申し訳ないんだけど……織斑君とデュノアさんは両方いなくなるのはまずいからどっちかは残ってて」

 この谷本さんの台詞でシャルは絶望した表情を浮かべ、「学園祭なんて、学園祭なんて大嫌いだ」と膝を抱えて蹲った

 回る順番だが、セシリアにラウラ、箒は俺と一緒に回りたいと言ってきたがさすがに4人も一気に抜けるのは無理だし、俺もそう長々とここを抜ける事ができない。3人が誰が俺と一緒に行くかで議論になったが、くじ引きの結果俺と一緒に回るのはセシリアとなった。

 大喜びしているセシリアだが、その横で物凄い目で箒達が睨んでいる。え、何だ? 皆そんなに早く学園祭を見て回りたかったのか?

 

「面倒くさいから、早く行って早く戻ってきなさいよ」

 箒達を見て苦笑を浮かべながら、葵は俺とセシリアをクラスから追い出した。ちなみに俺とセシリアの次はシャルとラウラが一緒に回り、最後に箒と鷹月さんが一緒に回り葵は今日招待した人と一緒に回るようになっている。

 

「今日のお菓子のレシピ教えてくれたお礼したいしね」

 その台詞から、葵が呼んだ相手が誰か解ったが一緒に回れると思っていた箒がかなり残念がっていた。

 

「さて一夏さん、どこへ行きましょうか」

 笑顔をしながら聞いてくるセシリア。

「そうだなあ」

そう言って周りを見渡すと、隣のクラスが見えた。あ、そういえば。

 

「そういや鈴が隣のクラスで何かやってるんだよな。セシリア、ちょっと見に行かないか?」

 朝の様子から、鈴のクラスの出し物も自信があるようだし。そう言ってセシリアの方を向くと……一目見てわかるほどお怒りの顔をしたセシリアがいた。

 

「あ、ありえませんわ」

 体を震わせながら怒気をはらんだ声で俺に言うセシリア。え、何でセシリアこんなに怒っているの!?

 

「え、そんなに変か!? 友達の出し物を少しひやかしに行くだけなのに?」

 鈴とはセシリアも仲良いんだし、ちょっと見に行ってみようじゃん。面白そうだし。俺がそう言うとセシリアはさらに目が一瞬吊り上がったが、

 

「……はあ。いえ、まあ一夏さんはそういう方でしたものね」

 何故か大きく溜息をついた。

 

「わかりましたわ。では鈴さんのいる2組に向かいましょう」

 肩を落としながら、セシリアは2組に向かった。何でセシリアが気落ちしているのかは謎だが。そして2組に向かう俺達だが、

 

「あれ、さっき2組からでてきたのチェルシーさんじゃないか?」

 

「え? あら本当ですわ」

 俺達が見ている先で、チェルシーさんが笑みを浮かべながら2組を後にしていく。 チェルシーさんもIS学園祭楽しんでいるんだなあとか思いながら、俺達は2組に入る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「う~、やっぱり一夏が抜けるのはキツイよお」

 一夏とセシリアが休憩の為いなくなってしまい、シャルロットの負担はかなり増えてしまった。生徒はともかく、外来のお客さんにとってシャルロットの貴公子な姿は一夏がいなくなった後にさらに際立っているのも原因であった。

 

「まあまあスバルん! 人気独り占めよ、嬉しくないの」

 

「葵までスバルん言わないでよ」

 むくれるシャルロットに、葵は笑って注文されたメニューを運んでいく。運びながらも『夜竹さん、ティーカップがそろそろ少ないから大至急洗い物終わらせといて』と無駄なく指示出しながら働くその姿に、シャルロットは感心しながら眺めた。

 

(@の店長には劣るけど、葵って無駄なく作業してるなあ。鈴の家や弾って人の家で接客やってたとか一夏と葵言ってたけど、葵はこういう仕事向いていると思う。僕も夏休み1日だけ働いたからわかるけど、自分の仕事だけでなく周りもフォローするとか物凄く大変なのに。葵からのフォローがなかったらと思うとぞっとしちゃうよ。そして一夏がいなくなった後に、一夏の凄さが良く分かった。一夏は僕よりも忙しかったのに、大量のお客さんを一人で捌いてたんだから) 

 お客さんのケーキを運びながら、改めてシャルは一夏の存在の大きさを思い知った。一夏がいなくなり、シャルの指名率が増えた為それを補うべく葵や他のクラスメイトもフォローしている。しかし、先程まで働いていた一夏はほぼ誰の指示やフォローをされる前に自ら動きお客さんの対応をしていた。もし一夏が無駄なく動いてくれていなかったら、1組のメイド喫茶は早々に大混乱を起こしていただろう。

 

「スバルん、4番テーブルに呼ばれているから行ってあげて」

 

「うん!」

 葵からの声に、シャルは大きく返事をしながら4番テーブルに向かう。

 

(そういえば一夏って、忙しくても葵から何も言われてないんだよね。葵が言わなくても一夏がもう行動していたってのもあるけど)

 その事にシャルは一夏と葵が羨ましいなあと思った。何も言わなくても、相手を信頼しているという関係に。

 

(僕も、そういう相手がいたらなあ)

 その時一瞬シャルの脳裏には銀髪の少女の姿がよぎったのだが、

 

「大変お待たせしましたお嬢さ」

 4番テーブルに着きお客さんの姿を見た瞬間、頭が真っ白になり言葉も途中で途切れてしまった、何故なら4番テーブルにいたのが、

 

 

見事な軍服を着て左目に眼帯をしている美人が、恍惚な表情を浮かべながらテーブルに突っ伏しながら鼻血を大量に流していたからだった。

 

「桃源郷や~、日本はやはり東洋の神秘ジパングなんや~」

 鼻血を流しながら嬉しそうな声でうわ言を言う美人に、シャルは

 

(え、何!? 何でこの人鼻血出してるの? あれかな、ここはティッシュを出して介抱したらいいのかな? というかこれ葵呼ぶ前に気付いてたよね? 面倒事を僕におしつけたの?)

 後退りしながら激しく狼狽した。どうしようかとシャルは悩みだしたが、

 

「シャルロット、落ち着け。クラリッサが謎の出血をしているが、わが副官は優秀なドイツ軍人だ。すぐに回復する」

 

「ラウラ!」

 

 ラウラの若干呆れた声を聞き、我に返った。そしてシャルは声が聞こえた方に振り向くと、そこには呆れた顔をしたラウラが鼻血を流している美人―――クラリッサを見下ろしていた。

 

「え、え~とラウラ。これどういう状況なのかな。クラリッサさんって確か前話してくれたラウラの部隊の副官だよね。その人がなんでここにいて、しかも鼻血出しながら気絶しているの?」

 

「いやこのIS学園の招待券を、ドイツに送ったのだ。どうも本国はこのIS学園の設備を実際に見て確認したいとこのクラリッサから言われてな。その視察にクラリッサが選ばれて日本に来たようだ。ここに来る前に学園内を色々見て回り、無事任務を達成した事を上司である私に報告に来たようだ」

 

「……へえ、視察に報告ねえ」

 ラウラの説明を聞いた後、ジト目をしながらシャルロットはクラリッサを眺める。クラリッサの両脇にはこのIS学園で買ったと思われる大量の荷物があった。その中でも一際大きな紙袋があり、その紙袋には『IS学園漫研』の文字が書かれていた。

 

(ここの漫研の作品以前読んだことあるけど……一夏や一夏の友達、そして男になった僕があんなことをしちゃう作品描いてたよね。あんなのがどうして視察に必要かなあ。そもそも、軍の隊長務めているラウラが報告すればいいだけの話だよねそれ)

 疑惑の目を浮かべながら、シャルロットはクラリッサを眺める。

 

「全く、実際ここに在籍している私か今までの留学生から聞けば良い物を。本国はわざわざクラリッサを派遣してまで確認したいものがあったというのか?」

 

「そうなんだ。まあその件は学園祭が終わった後クラリッサさんに聞けばいいと思うよ。で、それでこれが肝心なんだけど何でこの人鼻血出してのびてるの?」

 

「ああ、それなのだが谷本から呼ばれてここに来たらクラリッサが座っていて、相手がクラリッサな為『久しぶりだなクラリッサ』と言ったのだ。そしたらクラリッサがいきなり泣き出して『隊長! その姿は大変素晴らしく脳内メモリーに永久保存しますが、その前に! ここはメイド喫茶でドイツ本国では無いのです! ですから私にも一般人と同じ対応でお願いします』と言われてな。上官である私に何て態度だと思ったが、まあ確かに教官、いや織斑先生もここはドイツでは無いと普段言っているしな」

 

「それで?」

 

「うむ、まあ多少恥ずかしかったのだが……クラリッサにこんな事言うのは恥ずかしかったが『お帰りなさい、お姉ちゃん』と多少どもりながら言ったのだ。そしたらこうなった」

 そう言って、また呆れた顔をしながらラウラはクラリッサを見下ろす。しかし、シャルロットはクラリッサを眺めながら、

 

(わかります、クラリッサさん)

 先程までとは違い、生温かい目をしながらクラリッサを見下ろした。

 

「で、僕は何でここに呼ばれたんだろう?」

 

「……それは私が呼んだからです」

 シャルロットの疑問に、ようやく復活したクラリッサが顔を上げてシャルロットを見つめた。鼻血を流したままで。無言でシャルロットはティッシュをクラリッサに渡し、『ありがとう』と言ってクラリッサもそれを受け取った。

 

「……まさか『ご主人様』でなく『お姉ちゃん』と言われるとは予想外であまりの嬉しさに意識が飛んでしまいました。隊長のメイド姿も素晴らしすぎて、私は今日という日を一生忘れないでしょう。それに」

 嬉しそうな顔でクラリッサは、シャルロットの姿を上から下まで眺め、

 

「挨拶が遅れましたが、私はラウラ隊長が率いている黒ウサギ隊の副官クラリッサ・ハルフォーフと言います。貴方がシャルロットさんですね、隊長からはよく伺っております。貴方に会えたことも、とても嬉しく思います」

 そう言ってシャルロットに₍握手を求めた。

 

「え、ええと、こちらもよろしくお願いします」

 先程までとは違い、穏やかな表情を浮かべて握手を求めるクラリッサに戸惑いながらもシャルロットは握手した。

 

「シャルロットさんの事は隊長からよく聞いております。この学園で出来た親友だと。隊長からまさかそのような発言がでるなんて、最初は凄く驚きました」

 

(ラ、ラウラ僕の事そう思ってくれているんだ!)

 クラリッサの言葉を聞き、笑みを浮かべながらラウラの方を向くシャルロット。その先には顔を少し赤くしたラウラがいた。

 

「ああ、隊長の少し恥ずかしがっているその姿もいいです! ああ、ここが撮影禁止なのが悔やまれます」

 

「おいクラリッサ! 今日のお前は何かおかしいぞ! 普段の冷静なお前はどこに行った!」

 

「ああ、申し訳ございません隊長! どうも憧れの日本に来れたのでテンションが上がり過ぎてます」

 

「それでクラリッサ、私とシャルロットの用件はいったい何なのだ? 谷本達に無理言って今時間を割いているのだ。私とシャルロットも何時までもお前の相手は出来ないのだぞ」

 話が進まない事に、ラウラは多少イライラしながらクラリッサにきつく言った。ラウラの言葉通り、一夏もいなくさらに人気No2とNo3が抜けている為、周りのお客さんからもクレームが出始めている。

 

「そうでした、では急ぐとします。シャルロットさん」

 

「はい」

 

「本当は隊長の想い人の一夏君にも言いたかったのですが―――隊長に素晴らしい変化を与えてくれた事に本当に感謝しております。特にシャルロットさん、隊長が貴方の事を話す時は本当に楽しそうでした。隊長があんな声で話す相手が見つかったことが、私や部隊の者全員が喜んでいます。シャルロットさん、今後も隊長をよろしくお願い致します」

 そう言ってクラリッサは、真剣な顔をしながらシャルロットに頭を下げた。

 

「いきなり何をいっているのだクラリッサ!」

 突然の副官の言葉に、ラウラは顔を赤くしながら動揺した。しかし、ラウラの横にいるシャルロットは、ラウラの肩に手を回して抱き寄せて、

 

「はい、今後とも僕はラウラと一緒にいるよ。だって、僕はラウラの親友だからね」

 満面の笑みを浮かべながらクラリッサに言った。ますます顔を赤くしていくラウラ。そしてその二人を見たクラリッサは、

 

「ああ、今日はIS学園に来て本当に良かった。これで私は何も心配する事がありません」

 そう言って満足した表情を浮かべながら1組を出て行った。

 

 

 ちなみにこの一連の流れは1組の者全てが注目しながら見ており、クラリッサが出て行った後割れんばかりの拍手が沸き起こった。店にいた客は、

 

「え、何この友情展開!」「素晴らしすぎる。当分は御飯のおかずがいらない」「メイドと執事の友情! これは次回作で使える!」

 と大盛上がりしていた。

クラスメイト達は、転向初め頃のラウラの姿を思い出し、クラリッサがあそこまで感動した理由が少し理解していた。

 

 

「全く、一夏はタイミングが悪い時に出て行っちゃったわね」

 この場にいない親友を思い、葵は苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とセシリアはつかの間の休憩を満喫し教室に戻った。鈴のクラスに行った後はセシリアの所属するテニス部の出し物を見に行ったり、色んな物を見て楽しんできた。しかし戻った時、何故かクラスのみんなから

 

「……タイミング悪いよね織斑君って」「あの場にいない事がおかしい」「何でもっと早く帰って来なかったの!」と何故か非難された。何故? ちゃんと休憩時間は守ったぞ? それに非難されるのは俺だけで、セシリアは何も言われないのも何故だ?

 

「まあ今は忙しいから終わった後話してあげる」

 納得がいかない俺に、何やら意味深な事を言う葵。いや、少しくらい今教えてくれよ。

 

「はいはい、それよりもこれからシャルロットとラウラが抜けたんだから気合いれてよ。人気No2とNo3の人気を埋めれるのはNo1の貴方なんだから」

 ……葵、何かその言い方じゃここがホステスかホストの店みたく思えてしまうぞ。いや、あながち間違ってはないんだけど。後それならこれからはお前がNo2だぜ。

 

「へいへい。あ、そうだ葵」

 

「何?」

 

「後でお前も鈴のクラスよってけよ」

 

「? いやそれは当然行くけど?」

 まあ言われるまでもなく、葵は行くだろうけどな。鈴のクラスは中華喫茶で、鈴もチャイナドレスを着たりとインパクト強かった。恥ずかしいのか、俺とセシリアが見たらやたら顔を赤くしながら照れていたし。そしてなによりも、

 

「葵もあのメニュー表みたら驚くだろうな」

 あのメニュー表、あれは

 

「織斑君―! 呼ばれてるよー!」

 

「あ」

 いかんいかん、今はもう執事として集中しなくちゃな。見たら俺を指名している客の姿が見える。早く向かうとしよう。

 

 

 そういや、交代でシャルとラウラがさっき出て行ったけど、二人とも顔が赤かったな。それにクラスの皆、葵だけでなくあの箒すら二人をニヤニヤしながら見送ってたが何でだ?

 

 

 

 交代して10分後、シャルとラウラがいない分午前中よりも大変になったが何とか対応していると、急にクラスが静かになった。何事かと思って周りを見回したら、

 

 

物凄い美人さんが教室に入って来た。

 

その人が着ているのは和服で、昔箒のおばさんが祝いの時着ていくような和服よりも数段上の着物だと俺はぼんやり思った。それを身に付けた女性は艶やかな腰まである長い黒髪で、まるで昔のお姫様かのごとく綺麗に後ろに垂らしていた。化粧はあまりしてないが、あれがナチュラルメイクというものなんだろうか? 雰囲気はおとなしく、かすかに浮かべている笑みとかまるで大和撫子を体現しているかのようである。身長はそうだな、あの高さは丁度束さんくらいかなあ……。

そんな事思っていたら、もう一人中に入って来た。って!

 

「織斑先生?」

 中に入ってきたのは千冬姉だった。あれ? 確か千冬姉って忙しいからここには来れないとか言ってなかったっけ? クラスの皆もそう聞かされていた為、何故千冬姉がここに来たのかと不思議がっている。そんな千冬姉だが、……何故か苦々しい表情を浮かべながら先に教室に入って来た女性を睨んでいる。

 周りを見回したら、メイドよりも数段上のインパクトを持つ美人さんの入場に声を失っているが、何故か葵は面白い物を見た顔をし、箒は……いやこら待て。

 

「おい箒、どこに行く気だよ」

 こっそり教室を抜け出そうとした箒を俺は取り押さえる。

 

「頼む一夏! 見逃してくれ」

 

「いやそう言ってもなあ、お前休憩時間まだだろ」

 

「前借りさせてくれ!」

 

「駄目に決まっているだろ。シャルとラウラが抜けたせいで忙しいんだから」

 俺と箒が出口付近で言い争っていたら、

 

「箒、3番テーブル呼ばれているわよ。あの和服の人と織斑先生がいる席ね。そしてちゃんとメイドとして迎えるように」

 そう言って、笑顔で葵は出口の扉を閉めた。逃がす気は全くないようだ。それがわかった箒は、大きく溜息をついた後3番テーブルに向かった。

 3番テーブルでは、和服美人さんが千冬姉に微笑みながら何か言っている。千冬姉は、ただ疲れた顔をしながら頷いている。そんな二人に箒は近づき、

 

「お、お帰りなさいませお嬢様」

 ほとんど絞り出すような声で話しかけた。そして箒に声を掛けられた和服美人さんは、箒の方を向き、微笑みながら口を開らき、

 

 

「あ~~~~も~~~! 箒ちゃん可愛すぎ~~~~~~~~!」

 ……先程までの大和撫子な雰囲気は一瞬で吹き飛び、満面の笑みを浮かべながら箒に抱き着いた。……いや、まあなんとなくわかってはいたけどね。最初はびっくりし過ぎでわからなかったけど、千冬姉が一緒にいるし葵や箒の態度見たらねえ。

 大和撫子な和服美人かと思ったら、いきなりそんな仮面を剥ぎ取り箒に抱き着く束さんに、クラスの皆呆然といながら眺めている。しかし、

 

「こら! 話してください姉さん! 皆見てます!」

 

「よいではないか~よいではないか~」

 束さんに抱き着かれて恥ずかしがっている箒の言葉を聞き、

 

「え! ちょっと! 篠ノ之さんの姉ってことは」「まさかあの人、篠ノ之束博士!」世界中が指名手配されてるあの!」「嘘! まさか生で会えるなんて思わなかった!」

 箒に抱き着いている人が束さんだとわかると、一気に騒がしくなった。

 

「あ~も~! 箒ちゃんのメイド服姿最高! これはもう永久保存決定だね」

 

「抹消してください!」

 満面の笑みを浮かべる束さんに、真っ赤な顔で怒鳴る箒。千冬姉はそんな二人を見ながら……あ、ニヤついてるな。

 

「ようこそいらっしゃいましたご主人様方。こちらは本日の自慢の一品となっております」

 束さんか千冬姉が注文をするよりも前に、葵はケーキセットを二つ盆に載せて運んでいた。しっかり紅茶まで用意している。

 

「おおお! あ~ちゃんのメイド服姿も凄く似合うよ! うんうん、箒ちゃんとあ~ちゃん、最高のメイドだとこの天才の束さんは保障してあげる!」

 

「ありがとうございます」

 

「そんな保障いりません!」

 お礼をいう葵と、顔を赤くしながら拒否する箒。見事な対比だ。

 

「いっくん~、いっくんもこっち来てよ~」

 笑顔を浮かべながら俺を呼ぶ束さん。周りを見るが、皆もう束さんにくぎ付けだしいいか。誰も注文しないだろ。

 

「ようこそいらっしゃいましたご主人様」

 

「おお! いっくんもちゃんとわかってるね! でもねいっくん、どうせならお嬢様と言ってほしいな!」

 ……えええ。いやまあさっきまで自分よりも年上の人をお嬢様とか言ったりしてたけど、それを束さんに言うのは恥ずかしい。

 

「さあさあいっくん! 早く早く!」

 束さん、期待で目を輝かせているし。……ああ、もう!

 

「いらっしゃいませお嬢様!」

 うわ、ちょっと声が裏返った!……すまん箒、さっきのお前の気持ち少しわかった。

 

「うわ~~~! うんうん、なんかいっくんにそんな事言われると照れるなあ! いっくんもその執事姿似合っててかっこいいし!」

 また嬉しそうな顔で身を悶える束さん。束さんのテンションはさっきからストップ高だな。

 

「あ~も~、やっぱりここに来てよかった! 三人の姿が見れて大満足だよ。ケーキも美味しいし!」

 満面の笑みを浮かべながら紅茶を飲む束さん。って! 本当だ、何時の間にかケーキ無くなってる!

 

「ほう、葵お前のケーキはもう店でも売れるレベルじゃないのか」

 

「あ、ありがとうございます! 束さん。千……いや織斑先生」

 束さんと千冬姉両方から褒められ、葵はかなり嬉しそうだ。

 

「で、姉さん」

 

「何かな箒ちゃん」

 

「何で貴方はここにいるのですか!」

 

「何言っているの箒ちゃん! 妹がメイド服着てご奉仕してくれるんだよ! 妹の学校行事に姉として来るのは当然だよ」

 

「な……」

 あまりにもストレートなシスコン発言に、顔を赤らめながら怯む箒。

 

「い、いやだって……今までも中学で文化祭とかやってましたけどその時は来なかったじゃないですか」

 

「う~ん、それなね……さすがにあの場で出るのは天才の私でも躊躇ったからかなあ」

 

「え! 去年までずっと……」

 

「うん、物陰に隠れながら見てたよ」

 

「うわあああああああ!」

 束さんの言葉を聞き、箒は頭を抱えた。……いや、お前そんなになるなんて一体何があったんだ?

 

「でも今日はね~、本当に箒ちゃんが学園祭楽しんでるみたいだから。だから正体バラシてもいいやと思って抱き着いちゃった」

 

「ちゃった、じゃない! 姉さんは世界中から追われている自覚が」

 

「束」

 箒の言葉を遮り、千冬姉が束さんを呼んだ。天井を指さしながら、神妙な顔で頷いている。

それを見た束さんは、

 

「あちゃ~、意外と愚民でも仕事早いんだ」

 何故か残念そうな顔をしだした。

 

「……流石ですね織斑先生。言われるまで全く気が付きませんでした」

 何故か葵は、尊敬した目で千冬姉を眺めている。何が起こっているのかよくわからないが、

 

「もうちょっといたかったけどしょうがないっか」

 束さんの言葉から別れの時間が来たのはわかった。

 

「じゃあしょうがないから、私はもうここを後にするよ。箒ちゃん! いっくん! あーちゃん! またねー! そしてちーちゃん、今日は色々ありがとうねー!」

 そう言って笑顔を浮かべながら別れの挨拶をした瞬間、

 

 束さんの姿は消えてしまった。本当に一瞬で、本当は最初からいなかったんじゃと錯覚してしまいそうな程に、音も無く束さんは俺達の目の前から姿を消した。

 

 突然の失踪に教室中が驚愕したが、千冬姉だけは美味そうにケーキを食べながら紅茶を飲み、味を満喫していた。

 

「あっという間に消えちゃったわね。確かにこれなら、誰も補足なんて出来ないかな」

 

「いやそれよりも、先程の織斑先生は」

 

「まあ束さんも気付いていたと思うけどね。箒を目の前にして浮かれていて気付かなかった場合の保険じゃないの? まあ織斑先生が警告した位だから気付くの遅れたんだろうけど」

 ……成程浮かれていて気付くのが遅れた、か。何だかんだで箒と束さんは姉妹だなあ。

 

「ところで織斑先生、どうして束さんと一緒に教室に入ったんです?」

 

「単純にあいつに対しての監視だと思え。あいつの気まぐれで学園祭がめちゃくちゃにされたら敵わないのでな」

 そう言って溜息をつく千冬姉。ふうん、監視ね。どっちに対する監視なんだか。

 

「ここに来る前にあいつから散々この学園内を連れまわされた。ったくあの馬鹿は正体さえバラさなければ気付かれないものを」

 

「まあでも、正体がバレてもいいと最後思ったんでしょうね」

 

「ああ、そうだな」

 千冬姉は何やら温かい目で箒を眺める。箒もそれに気付き、少し戸惑っている。

 

「おい、それよりもケーキ追加を頼む。そして今度はコーヒをくれ」

 ケーキセットと紅茶を飲みほした千冬姉が空になった皿を俺に差し出す。俺はそれを受け取ると、さっきの束さんの言葉が脳裏によぎった。そしてちょっとした悪戯心もありながら、

 

「かしこまりましたお嬢様、少々お待ちを」

 千冬姉にそう言って、急いでその場を後にした。うわあああ、やべえ! さっきのノリでつい言ってしまったあ! ケーキセット持ってた時千冬姉どんな顔してるかなあ……。

 俺はやたらとニヤついている鷹月さんからケーキセットとコーヒを受け取ると千冬姉のテーブルに向かった。そしたら、……何故か頭を抱えて悶絶している葵の姿があった。

 

「……葵、お前また何か変な事言ったのか?」

 

「……いやわりと事実を言っただけ」

 何だよ事実って。まあ俺はとりあえず千冬姉頼んだ注文をさっさと置くとするか。ケーキセットとコーヒーを千冬姉の前に置き、立ち去る前に千冬姉の顔を見たら……さっきまでよりも千冬姉は耳が赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで一夏、弾を招待したとか言ったけど弾は何時来るの?」

 

「ああ、弾なら……ああ! ヤバい!」

 シャルロットとラウラの二人が戻って来て、箒と葵の休憩時間となった。箒は鷹月とすでに教室を後にしており、葵もこれから出ようという時に何気なく一夏に尋ねたのだが、その瞬間一夏は叫びだして頭を抱える事となった。

 

「ヤバい……そういやあいつ午後になったらくるとか言ってたから校門入り口前で落ち合う約束してたんだった」

 

「いやちょっと一夏! 午後になったらってもう2時間は過ぎているわよ!」

 

「ああ、急いで迎えに」

 すぐさま教室をでようとする一夏に、

 

「駄目~~~!」

 必死な顔をした谷本、相川の二人が出口を遮った。

 

「またお客さんが混みだして忙しくなったのに、青崎さんに篠ノ之さん、さらに一夏君までいなくなっちゃったら店が回らないよお」

 

「う、いやそうだけど俺も」

 友達を散々待たした上に来ないとかはさすがに出来ないと一夏は言おうとしたが、

 

「はいはい、じゃあ私が迎えに行ってあげるわよ。私の待ち人がいるのは同じ場所だしね。一緒に回ってくるわ」

 

「……すまん葵」

 

「いいわよ、どうせ弾とも一緒に回ろうと思ってたし」

 葵が弾を迎えに行くというので、一夏は店に残る事にした。

 

「じゃあ私がいない間、皆頑張ってね~」

 そう言って、葵は1組を後にした。

 

 

校門に向かいながら、葵は顔がにやけるのが抑えきれなかった。

 

「会うのは久しぶりだなあ。今日のお菓子も教えてくれたレシピのおかげだし。早く会ってお礼しなくっちゃね」

 途中鼻歌まで歌いながら、葵は校門前に到着した。周りを見回すが、葵の探している人物の姿は無かった。弾の姿も無かったが、

 

「まあ、流石にもう学園内にいるでしょ。後で電話して合流すればいいし」

 と思い、深くは考えなかった。携帯を出し、探し人に連絡を入れようと葵は携帯の画面を見たら、

 

「あれ? 着信にメール?」

 今から携帯にかけようとした相手から、たくさんの着信があった。そして同時にあるメールが一通。

 

「い、いやまさかね」

 嫌な予感がした葵が、メールを開くと、そこにはこう書かれていた。

 

『ごめんなさい! 今日行けなくなった! 本当にごめん!』

 

「ええ~!何で~!」

 突然のドタキャンに嘆く葵。そして留守電もあったので葵はそれを聞いてみた。そこには申し訳ない声をしながら、葵の待ち人は来れない理由を葵に伝えていた。

 

「……う~ん、まさかお世話してもらっている洋菓子の先生のコンクールの日に、その先生以外のスタッフが皆食中毒で倒れたから急遽お手伝いする事になったなんて」

 商品を扱う仕事として最低な理由で倒れたスタッフに葵は呆れたが、

 

「まあでも、代打で抜擢されたってことはそれだけ努力したってことよね。代打できる程の力が無かったら、先生も頼らないだろうし」

 能力を買ってもらった事と、お世話している人のピンチだから来れないのはしょうがないと葵は思い直した。

 

「さて、でもどうしよう。とりあえず弾に電話しようかな」

 気を取り直し、葵は弾に電話を掛けることにした。

 

『おー葵か! どうしたんだ?』

 

「いや休憩時間になったから一緒に回ろうと思ってね。今どこにいるの?」

 

『ああ、今は』

 

「お前のすぐ後ろにいる」

 

「きゃっ!」

 いきなり後ろから声を掛けられ、葵は驚いて飛びのいた。そんあ葵を弾は笑いながら見ている。

 

「驚かさないでよ!」

 

「すまんすまん葵。お前がいるのは電話する前から見えてたからな。暗い顔して携帯見ていたから元気出してやろうと思って」

 

「……うう、普段なら弾の接近に簡単に気付くのに。まだまだだなあ私って」

 葵は、気配に気付けなかった事に落ち込んだ。

 

「まあ落ち込むなって。何があったかは知らないが元気出せよ。ところで」

 そう言って弾は葵の姿を上から下まで眺めると、

 

「うん! 俺の予想通りだ! 葵、お前凄くいいぞその恰好! 自信もって可愛いと言える! いやマジで可愛い!」

 葵のメイド服姿を眺め、大絶賛した。

 

「あ、いやその…ありがとう」

 弾の言葉に、葵は若干赤くなりながら礼をいった。

 

「さっきの驚いた顔と声も可愛かったぜ! 葵、お前でもあんな声出す」

 

「うるさい!」

 さらに顔を赤くした葵の右拳が、弾の腹部に命中し最後まで弾は言葉を言い終わるとこは出来なかった。

 

 

「うう、いてえ」

 

「自業自得よ」

 数分後、腹をおさえて悶絶していた弾がようやく回復した。

 

「照れるなよって待った待った! すまんもう余計な事は言わない! だからその拳をしまってくれ」

 

「わかればいいのよ。で、何で弾はこんな所にいたわけ? まさかずっとここで一夏を待ってたの?」

 

「いや、実はここに入ろうとした時に見知らぬに妊婦さんが産気づいてしまってな。介抱してたら身内と間違われて病院まで連れて行かされた。妊婦さんは病院に任せて俺はさっきまたここに戻って来たんだよ。病院にいる間何回も俺一夏の奴に電話したのに、あの野郎一回も電話に出ねえし」

 

「そ、そうなんだ。携帯に出ないとか一夏も酷いわね」

 口が多少引き攣りながら、葵は弾の言葉に頷いた。

 

「しかし見知らぬ妊婦さんを介抱してたらそのまま連れてかれたとか、弾も相当なお人好しね」

 

「しょうがねえだろ、目の前であんな状態になったら見捨てる事なんかできるわけないだろ。妊婦さんも俺の手を放してくれないし一緒に行くしかねえんだよ。……なんだよ葵、その笑みは」

 

「べっつに」

 少し照れながら話す弾に、葵は笑って誤魔化した。

 

「まあ何時までもここにいてもしょうがないわね。早く中に」

 葵は弾と一緒に校舎の中に入ろうとしたが、急にある一点を見つめると言葉が途切れた。

 

「ん? どうした葵?」

 葵の言葉が途中で途切れたので、弾は葵が見ている方向に顔を向けてみた。校門入り口前を見ているようだが、特におかしなところは弾は見当たらなかった。

 

 しかし葵は見つけていた。校門入り口前付近、校舎が良く見える場所に一人立っている男性を。何か寂しそうな顔をしながら立っている男性の姿は、葵が良く知っている人物だったからだ。

 

「あれは……鈴のお父さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ慎吾さん」

 

「どうした裕也?」

 

「どうして俺達、わざわざIS学園まで来たのにこんな所にいるんだよ! 早く葵の所に行こうぜ!」

 

「では聞くが裕也、お前葵に会ったら何するつもりだ?」

 

「決まっている! あの雑誌に載っていた織斑一夏との関係を直接聞くまでだ! そして葵の姿を間近で堪能した後は、葵のメイド接客を受ける」

 

「……織斑君に会った場合は?」

 

「葵をどう思っているか聞くに決まっている! 本当は赤毛野郎にも聞きたいがいるかどうかはわからんし。だが織斑だけは絶対ここにいるからな!」

 

「……葵達はせっかく学園祭を楽しんでいるんだぞ。そんな中お前は修羅場を持っていくつもりか?」

 

「俺は別にそんなつもりはない!」

 

「お前になくてもお前が行ってそんな事やったら修羅場になるんだよ」

 

「でも慎吾さん、せっかく俺達はあいつらが泣いて悔しがるほどのIS学園の入場チケットを手に入れてここに来たんですよ。葵に会わないでどうするんですか」

 

「IS学園も見どころ沢山あるぞ。色々な施設見て回ればいいじゃないか。そりゃ俺も葵に会いたいけどな。でも今のお前が行ったら修羅場になりそうだからなあ」

 

「ああ、くそ! せっかくここまで来たのに離れの校舎からしか葵の姿を見れないなんて!」

 

「でもここからだと良く見えるだろ。見てた感じ、葵は楽しそうにメイドやってたな」

 

「あの織斑の野郎、馴れ馴れしく葵と接しやがって」

 

「そりゃあの二人幼馴染みだからなあ」

 

「しかも織斑の野郎、何人もの女の子といちゃつきやがって! これで葵の事は遊びとか抜かしたら、慎吾さん! 俺は自分を止める事が出来そうにありません!」

 

「……それはないと思うがなあ。葵ってそういう奴は嫌ってたし」

 

「相手が幼馴染みだから強く言えないのかもしれない!」

 

「……」

 

「ん! ちょっと慎吾さん!」

 

「どうした?」

 

「あ、あ、あ~~~~!」

 

「煩い! どうしたって……ああ、葵休憩から戻って来たのか」

 

「その横!その横!」

 

「ん? あ、確かあれは雑誌で葵と一緒に写っていた子か。まあ葵と織斑君共通の友達みたいだしってああ! 待て裕也止まれ!」

 騒々しい叫び声を上げながら、二人は漫研が主催しているBL喫茶を後にした。後日、数時間も二人一緒に過ごしていた美形二人の姿は、漫研部員達からはさぞ眼福だったようで二人の本が大量に作られることになった。

 

 

そして、二人がいたテーブルのすぐ近くに、金髪の中年の男性が座っていて、彼も二人同様にある場所をじっと見つめていた。 

 




お約束な展開ですみません。

クラリッサさんと束さんの出番が少ないなあ。もうちょっと上手く登場させれたらよかった

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