IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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学園祭 乱入者達

「葵ー!」

 

「な、なんだ!」

 突然の大声に驚いた俺は声がした方を向くと、そこには扉を開いて教室内を凝視している、いや正確には葵をガン見している野郎がいた。突然の乱入者にクラスの皆呆然としたが、多くの者がすぐに顔を赤くして乱入者を眺めていく。

なにしろいきなり現れ、葵の名前を叫んだ奴は……男の俺から見てもカッコいいと思える位のイケメンだったからだ。おそらく俺よりも高い身長にすらりと長い手足。肩幅は広いが引き締まっている体型。そして整った凛々しい顔を、熱い視線と共に葵に向けていた。

しかしどっかで見た事あるような……あ、こいつ確かあの雑誌で葵と一緒に写っていた奴じゃないか? 名前は確か……何だっけ?

 

「ゆ、裕也?! え、何で裕也がこのIS学園にいるのよ!」

 

「裕也! お前勝手に暴走するんじゃない!」

 

「慎吾さんも! 何でここにいるんです?!」

 最初に現れて葵の名前を叫んだ野郎―――裕也の登場に驚く葵だが、裕也の後ろに現れたもう一人の姿を見てさらに驚いている。

二人目に現れたのもこれまたカッコいい人だった。年はおそらく20過ぎだろう。こちらも端正な顔立ちをしていて、嫌味な位スーツ姿が決まっている。多分俺よりもずっとこの執事服が似合いそうだ。

 

「葵!」

 

「え、えー何? 裕也?」

 慎吾さんとやらの静止の言葉を無視し、裕也は教室内に入っていく。そして戸惑う葵の前に立つと、

 

「……いや、葵。お前のその恰好、とてもよく似合ってるな。凄く可愛いぜ」

 目をそらしながら顔を赤くして葵にメイド姿の感想言っていった。……いやお前、あんな派手な登場しておいていきなり何だその純情少年な態度は。

 

「……ありがとう。で、裕也。いきなり大声出して現れて、何しにここに来たの」

 可愛いと言われ一瞬顔を赤くした葵だが、すぐに冷めた目をして裕也に問い詰める。

 

「それは今からわかる」

 裕也は葵にそう言うと、未だ呆然としている俺の前に裕也が現れた。

 

「おい、お前が織斑か?」

 

「そうだけど……人に尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀じゃないのか?」

 まあ誰かはおおよそ見当はつくが、なんとなく気に入らないので憎まれ口を叩いてみた。

 

「それもそうだな。俺は新庄裕也。葵が出雲技研にいた時、葵の剣道のライバルであり一番親しかった男だ」

 ……何だその自己紹介は? しかし、ふうん、剣道のライバルで、葵と一番親しいねえ。

 

「織斑一夏。世間では唯一の男性操縦者という事になっている。そして葵の幼馴染みで一番一緒に時間を共に過ごした親友だ」

 

「……ふん、葵が女になってからの時間は俺の方が長い」

 

「それももうすぐ逆転するとおもうけどな」

 だって今部屋一緒だからな。葵が男でいた時よりも一緒にいる時間は今の方が濃いし。

 

「……何変な所ではりあってるのよ」

 俺と裕也のやり取りを聞いていた葵が、呆れた声でツッコミをいれるが無視する。何故か知らないが、こいつは妙に俺の癇に障る奴だ。裕也はしばらく俺を睨むと、教室内を見渡して弾の方を向いて指をさして言った。

 

「おい、そこのお前。お前も名乗れ」

 

「え、俺の事か?」

 離れた所に座っていた弾だが、裕也から呼ばれしぶしぶ立ち上がると、

 

「あー、なんだ。俺は五反田弾だ。葵とは中学の時知り合った友達だ」

 妙に疲れた声で弾は裕也に自己紹介をした。

 

「五反田弾か。覚えたぞ」

 

「いや覚えてもらってもなあ」

 裕也の呟きに、弾は呆れている。いや葵の名前を叫んだかと思ったら、今度は俺や弾に絡んでくるし。本当になんなんだこいつは?

 葵の方を向くと、

 

「で、慎吾さん。何でここにいるんですか?」

 裕也では話にならないと思ったのだろう。後から現れた慎吾さんとやらに事情を聞いていた。

 

「ん、まああんな雑誌が出たからね。色々心配だったんだよ」

 

「……多分今裕也が思っている誤解はあの時の電話で否定したはずですが」

 

「いやそれだけでなく、皆お前がちゃんと学校生活が問題無いかと不安になってたんだよ。島根の時を思ったら、あの記事の影響を不安に思うのは当然だろう。俺のコネでチケット二枚入手して遠くから観察してたけど、そんな心配はいらなかったようで安心した」

 

「当然です。ここにいる皆はあんな連中と一緒にしてはいけませんよ」

 ほのぼのとした空気をだしながら話をしていく二人。いや葵、さっきから俺と弾を睨んでくる裕也を早くなんとかしてくれ。

 

「リアル修羅場キター!」「え、なになに! あの裕也って人青崎さんとどういう関係だったのかな?」「一番親しいとか言ってたわよ! 元カレかしら?」「でもさっきの青崎さん見てたらそんな関係には見えないけど?」

 

 ……教室にいる皆、なんか目を輝かせてこっちをみてるし。

 

「「「「……」」」」

 箒にセシリア、シャルにラウラも突然の事態に驚いているが……ラウラ以外は他のクラスメイトと同様、なんか面白がって見ているのはきのせいだろうか?

 

「織斑、五反田」

 

「なんだよ」

 

「お前達二人、葵の事どう思ってるんだ?」

 

 

 

「あ、慎吾さん。コーヒーとケーキいかがです?」

 

「お、いいねえ。じゃあもらおうか」

 

 

 

「どう思ってるかって? いや、さっきも言ったが葵は俺の親友だ」

 

「俺もそうだな。あいつとは友達だな」

 

「本当にそれだけか?」

 

「……お前俺達と葵の言葉、ちゃんと聞いてたか?」

 

「一夏、あれだ。この手の奴は自分で結論出してるからなあ」

 俺と弾が呆れるが、裕也は俺達の返答を聞くと、

 

「そうか。それが今のお前達の認識なんだな」

 何故か唇の端を少し上げ、薄く笑った。

 

 

 

「おまたせしましたご主人様。本日のおススメとコーヒーでございます」

 

 

 

「……何が言いたいんだよ」

 

「いやあ、お前は葵の親友(・・・・)なんだろ?」

 そう言って裕也は俺を指さすと、

 

「で、お前は葵の友達(・・・・)だ。それでいいんだろ? 例え葵が誰かと付き合う事になろうとも変わらないんだな」

 次に弾を指さして言った。

 

 

 

「どれどれ、おお! 美味いなあこのケーキ。やっぱり葵の作るお菓子は本当に美味しい」

 

 

 

「……あ、当たり前だ! だからさっきからそう言ってるだろ!」

 何故か知らないが、一瞬俺は言葉に詰まってしまった。

 

「……いやまあ、俺もそうだけどよ」

 弾も、さっきまでよりも少し歯切れ悪く答えている。

 

 

 

「ありがとうございますご主人様。コーヒーのお味の方はいかがでしょうか?」

 

 

 

「そうか。ああ、お前達がそれでいいのならかまわん。……腰抜けども」

 

「はあ? 今何て言った」

 なんだよこいつ。最初から俺に喧嘩売っているのか? 

 

「やめろっての一夏。で、裕也って言ったか。お前も必要以上に挑発するなよ。わざわざ島根からここまで来たようだが、これで満足しただろ。多分お前が望んだ答えを聞けただろ?」

 裕也に食って掛かりそうだった俺を弾が止め、弾が苦笑しながら裕也にそう言うと、

 

「……!」

 裕也は険しい顔で弾を睨み付けていった。

 

「……五反田、か。やはりお前も危険だな」

 

「……いや何でだよ」

 

「織斑よりは頭が回る」

 

「それは当たり前だろ」

 

「おい、どういう意味だお前ら」

 

 

 

「ふう、うんコーヒーも香りがよくそれでいて苦味も絶妙だ。デザートにコーヒー、パーフェクトだよ葵」

 

「感謝の極み」

 

「おお、ご主人様の理想の返答で返すとは……。マジで完璧だ」

 

 

 

「っておい! さっきから何やってるんだよそこ!」

 俺と弾が裕也に絡まれてるのに葵! 何無視してその慎吾さんとやらの相手してんだよ! 早くこっちをなんとかしろ!

 

「慎吾さん! 何勝手に羨ましい事やってるんですか!」

 裕也も葵の作ったケーキを食べている慎吾さんにくってかかる。

 

「だってもう付き合ってらんないわよ。というかごめん、正直関わりたくない。聞きたくもない」

 俺の叫びに、葵は溜息をつきながら疲れた顔をして両手で耳を覆った。

 

「ん? 裕也話は終わったか? じゃあ帰るぞ」

 そう言って慎吾さんは立ち上がると、裕也の肩を掴んで強引に引きずりながら出口に向かっていく。

 

「いってらっしゃいませご主人様。……もう帰って来なくてかまいません」

 葵は出口に向かう二人に、疲れた顔しながら言った。

 

「待ってください慎吾さん! 何帰ろうとしてるんですか!」

 

「俺はもう目的果たしたからな。 葵からサービスもしてもらったしもうここにいる理由がない」

 

「俺はまだ終わってません! それに葵のサービス俺受けてないし!」

 

「まあ裕也、それは後日やって」

 

「じゃあさっさと終わらせろよ。いい加減営業妨害として追い出すぞ」

 いい加減鬱陶しくなったので葵の言葉を遮りながらそう俺がぼやくと、

 

「……馬鹿」

 

「……はあ」

 

「……あ~あ」

 ……何故か弾に慎吾さん、葵が半眼を俺に向けて溜息をついた。え、何で?

 

「はやく終わらせろだって?」

 俺のぼやきを聞いた裕也は、慎吾さんに掴まれていた肩を強引に振りほどくと俺と弾を険しい目で睨み付けるがすぐに視線を葵に戻し、

 

「……そうだな。お前達に聞いても無駄だし、もうここで決着つけるか」

 何かを決意した顔で裕也は葵に歩み寄っていく。裕也が放つ気迫に、クラスメイト、教室にいるお客さん全員が言葉を失い、無言で葵と裕也に視線を向けていく。箒にセシリア、シャルにラウラも、とても真剣な顔をしながらじっと二人を見つめている。慎吾さんも、止めようとしたが、

 

「……」

 葵が無言で首を横に振ったので、止めるのをやめて葵と裕也を見つめる事にした。

 

「……」

 無言で見つめている葵。さっきまで疲れた顔で裕也を見ていたが、雰囲気を変え真剣な顔をした裕也が近づくと、葵も表情を変えていった。

 

「葵」

 葵の前で立ち止まる裕也。さっきまでとは違う雰囲気に、俺も言葉を失いながら二人を眺める。

 

「俺、お前に言いたい事があるんだ」

 

「……何?」

 裕也の問いかけに、葵は薄く微笑んだ。その微笑みは、―――俺には葵が何かを覚悟した表情に見える。

 

「本当は一年以上前から言いたかったんだが」

 そう言って、裕也は一旦言葉を止めて葵を無言で見つめる。葵も何も言わず、裕也を見つめていく。二人とも何も言わず、見つめ合いは続いていったが、

 

「葵」

 裕也は決心した顔を浮かべ、

 

「俺は、お前を」

 葵に向かって言葉を紡いでいくが、

 

「ちょっと待った~~~~~~!」

 最後まで言い終わる前に、

 

「はいストップ! ストップ!」

 ……勢いよく扉を開き教室に侵入した楯無さんの声に遮られた。

 

「な、な」

 

「か、会長……」

 突然現れた楯無さんに裕也は絶句。葵も驚愕した顔で楯無さんを見つめていく。

 

「あ~危ない危ない。地下から此処まで来るのに時間掛かっちゃって手遅れになるところだった」

 顔中に汗をかきながら胸をなでる楯無さん。裕也と葵を見つめながらほっとしているが、

 

『………………』

 ほぼ教室にいる全ての人が、楯無さんを無言で睨んでいる。……まあ、さっきのは俺でも裕也が何をしたかったのはわかるもんなあ。さすがにあのタイミングで乱入はいくらなんでも酷過ぎるよな、うん。

 

 

 ……でも何故だろうか。今、俺はすごくほっとしているのは。

 

 

「おい、あんた何なんだよ」

 最後まで言い終わる前に乱入してきた楯無さんを、裕也は睨み付ける。

 

「私? 私はこの学園の生徒会長よ。名前は更識楯無。よろしくね新庄裕也君」

 

「……何で俺の名前知っているんだよ」

 

「ふふん、私がこの学園の会長だからよ」

 そう言って楯無さんは扇子を広げにやりと笑った。広げた扇子には『お見通し』と書かれている。

 

「まああんたが何者かはどうでもいい。何で俺の邪魔をした?」

 

「そうですわ会長! さすがに今のは酷いと思いますわ!」

 

「わざわざIS学園まで乗り込んできたのに、この仕打ちはさすがに……」

 

「会長空気読めー!」

 

「引っ込め会長―!」

 裕也の非難に、セシリアに箒、相川さんや谷本さんも同調。それに応えるかのように、教室にいる皆が楯無さんを睨んでいく。

 しかし楯無さんはそんな非難を一身に受けても怯まず、

 

「まあ結果的に邪魔をしたのは謝るけど、新庄君。 どっちかというと私は君の味方だよ」

 笑みを浮かべながら裕也に言った。

 

「は、ふざけないでくれ! あの状況でお前」

 

「新庄君!」

 怒る裕也を、楯無さんの鋭い声が裕也を黙らせた。楯無さんから発する気迫に、裕也はたじろぐ。

 

「最後まで聞きなさい新庄君。私は君の味方と言いました。それは本当にそうよ。だってあなたは」

 一旦言葉を止めた会長は、俺と弾の方を向きながら言った。

 

「二人の真意も知りたいんでしょ」

 

「……それはもう、さっき聞いた」

 楯無さんの言葉を、裕也は半眼で答えた。……実際、俺と弾はうんざりしながら答えたからな。

 

「まあ、それが本音ならいいんだけど」

 何やら意味深に笑いながら楯無さんは扇子を開いた。扇子に書かれている文字は『真実はいつも一つ!』に変わっていた。

 

「それに貴方が知りたいのは二人もだけど……葵君もだよね」

 

「……いえ会長、私も散々言いましたから」

 会長の言葉に、葵がうんざりした顔で答えた。

 

「本当にそう?」

 

「……、はい」

 楯無さんの言葉に、葵は一瞬言葉に詰まらせながらも答えた。

 

「ふうん、そうかそうか」

 何を納得したのか、楯無さんは何やら頷きながら呟いていく。

 

「ねえ、じゃあ新庄君に葵君、一夏君に五反田君は答えが変わらないわけね」

 

「ああ、そうだよ。なんなんだよあんた!」

 

「そうです」

 

「あ、ああ」

 

「はい。で、楯無さん。本当に何しに来たんです?」

 楯無さんの念押しな確認に、裕也はイラつきながら、葵と弾は疲れた顔で答えた。そして最後の俺の質問に、

 

「じゃあ、その答えを皆の前で発表してもらいます」

 楯無さんは笑みを浮かべながら、再度扇子を広げて言った。そして扇子には

 

『IS学園名物! 告白大会』

 

 の文字が書かれていた。

 




今回は短めです。
もったいぶったわけでもないんですが、少しリアルが大変なのと今後の展開で物凄く迷っているのもあります。

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