姉さん、事件です。
今日俺はIS学園の学園祭で、クラスの催し物であるメイド喫茶(兼執事&妹)で売り上げ1位を目指し頑張ってたんだけど……裕也と慎吾さん、さらに楯無さんがクラスに乱入して来て、気が付いたら俺は
「さあさあ学園祭名物告白大会! 今回も幾人もの少女達が告白してきましたがいよいよクライマックス! 最後の告白者達を紹介します!」
……IS学園の第3アリーナにある特別ステージの上に立っております。ちなみに周りを見たら観客席は満席で、立ち見者もかなりいる。皆例外なく俺達を目を輝かせながら見ているし。
「おい、一夏! いったいこれは何がどうなってるんだ? いやそもそもお前はともかく、何で俺まで巻き込まれてるんだよ!?」
俺の横で弾が激しく狼狽しながら俺に詰め寄るが……そんなもの俺も知りたい。まああの場にいて、楯無さんに目を付けられたからというだけなんだろうけど。ご愁傷様としか言えない。
ある意味この事態を引き起こした元凶の裕也を見てみると、裕也も戸惑っているが、俺や弾よりかは動揺していない。さっきからずっと―――俺達から10メートル位離れた所に立っている葵を凝視している。裕也に見つめられている葵だが……こちらはなんかもう、乾いた笑みを浮かべながらこちらもメイド服姿のまま放心状態となっていた。
ああ、本当に何でこんな事態になっているんだろう?
「IS学園が開校された年から続くこの伝統イベント! これまで67組が愛の告白をし、なんと14組ものカップルを成立させた実績があります!」
そんな俺達とは違い、ステージの壇上でマイク片手に熱いマイクパフォーマンスをしているのは新聞部の副部長、いや今月部長を指名された黛先輩である。新聞と報道は違う気もするんだが、黛先輩の司会は中々に良く、さっきから場がかなり盛り上がっている。って、今まで14組もカップル成立したのか!? 女子高なのに!?
「なおこの告白大会で成立したカップルの9割は半年で別れています! ま、しょうがないよね!」
……ああ、それならちょと納得した。
「しかし今回ラストに行われる告白は、今までとは違います! なんと、この告白大会初の男性から女性に対する告白が行われるからです! いや、本当に凄い! 現在の観客数は過去最高となっております!」
黛先輩の声に応えるかのように、観客席のいたる所から歓声が聞こえていく。
「今回はなんと、3人の少年があちらにいる少女! 青崎葵さんに告白してもらいます!」
「ふえっ!」
急に黛先輩から紹介され、さっきまで放心状態だった葵は驚きながら観客席の方を向いた。
「今回彼等が告白する少女は、日本の代表候補生で次期代表最有力候補である青崎葵さん! 同性でも惚れちゃいそうな美しい顔にモデル顔負けのスタイルを持つ反則級の美少女です! なお趣味は菓子作りな上に炊事洗濯掃除織斑先生からお墨付きを頂く程の完璧で凄まじい女子力を誇っています。 なにこの子怖い! なんかもうモテるの当然な彼女に、今回3人の少年が彼女の心を射止めんとするのです!しかも告白する少年の中に、この学園では知らない人はいない程の有名人! 織斑一夏君もいるのです! おそらく今回の告白はIS学園の歴史に残るほどの出来事となるのは間違いありません!」
いやちょっと待て! 何で俺がメインみたいになってるんだよ! 今回の告白はどう考えても裕也がメインじゃないのか。ああ、裕也もなんか気に入らない顔で俺を睨んでくるし!
弾の方を見ると、
「……だから何で俺もメンバーに入ってんの?」
……未だ放心状態でなにやら呟いていた。
「では、そろそろ今回告白する方々を紹介していきます!
そう言って黛先輩は、熱い声で俺達を紹介していった。
「まず紹介しますのは、エントリーナンバー1番五反田弾君! 高校一年生で今回告白される青崎葵さんとは中学一年の時に知り合ったそうです! 家は食堂をされており、五反田君も結構な料理の腕前だそうです! さらに来週五反田君の高校の文化祭では、彼はバンドをやり、ベースを担当するとの情報も入ってます! ルックスも結構良く、料理も出来て音楽もこなす! 中々良いスペックの持ち主です!」
黛先輩の紹介により、会場がまたヒートアップしていく。観客にいるIS学園生徒からの「親しみ持ちやすいかな」やら「年下で純朴そう」やら「恋人にするならこの中では一番ね」やらの声が聞こえたせいか、さっきまで放心状態だった弾も何かまんざらでもない顔をしながら周りに頭を下げている。しかし、
「続きましてエントリーナンバー2番、新庄裕也君! こちらも高校一年生で今回の注目株! 青崎さんとは2年程前知り合ってるようで、本人曰く青崎さんと最も親しい男との事! 青崎さんとは剣道仲間であるそうで、新庄君自身もかなりの腕前です! なんと去年は全国大会に出場したとか! そしてなによりもこの新庄君、とにかくカッコいい! 顔が良い上に身長も高く運動神経も抜群! さらに学力も良くて今年行われた全国学力検査ではなんと8位! 文武両道のイケメンとは彼の事を言うのでしょう!」
黛先輩が裕也の紹介を終えると、「キャー! カッコいい!」「私の王子様……」「なにこのスペック! 乙女ゲーのキャラでもここまでのいないわよ!」「私! 私を選んで!」
……弾の時とは数倍以上の歓声が観客席から溢れて行った。そんな歓声を、裕也はどうでもいい顔をして聞き流している。弾の方を見ると、
「……は、まあそうだよなあ。凡人が夢見てもこんなもんだよなあ」
……何やら黄昏ながら虚空を眺めていた。
「そしてエントリーナンバー3! 私達が誇るIS学園の王子様でハーレム王、織斑一夏! 今年入学した彼の周りには常に可愛い子の存在が! 青崎さんとは幼少からの幼馴染みであるとの事です! ちなみに青崎さんがこのIS学園に通うようになってからはほぼ二人は一緒に行動をしており、その様子はさながら夫婦! 一部では「何であんなに仲が良いのに付き合ってないの?」と疑問視すらされたりしています。 いえわかってます! 理由というか、複雑な関係なのは重々承知です! それが今回変わってしまうのか? 個人的に一番気になる所でしょう!」
そして俺の紹介が終わるが……なんだよその紹介は! ハーレム王って何? ナンパ野郎かよ俺は! そして俺と葵ってそんな風に見られたのか? いや確かに葵とはいつも一緒にいるし部屋も同じだけどさ、いや何で? あの雑誌が出た後何人かが『織斑君と青崎さんって付き合ってると思ってた』と言われたけど、あれって冗談じゃなかったの?
そして何やら刺すような視線を感じたので、振り向いたら……裕也の奴が物凄い目で俺を睨んでるし!
観客席からは裕也の時と同じくらいの歓声が沸いている。
「織斑君―! 結局のところその辺どうなのー?」「お願い違うと言ってー! 私にもチャンスを!」「ハーレムでもいいから私も加えてー!」「いや織斑君は学園で共有すべき!」「ラッキースケベ!」
さっきの裕也と同じ位の歓声が俺に注がれるが……何だろう、シャルルの時も感じたこの違和感は?
「以上で告白する方の紹介は終わりです! なお今回の解説には今回と去年の告白大会で累計4人に告白された更識生徒会長に、今まで10人から『お姉さまになってください』と言われた織斑先生を招いています! いやあこの学園で最多の告白された回数を誇るこのお二方、なんとも豪華でございます!」
黛先輩が差し出している腕の方を向くと、そこにはステージの下の『解説席』と呼ばれる場所に楯無さんと千冬姉が座っていた。
「……薫子、余計な事は言わなくていいわよ」
「黛、学園祭終わった後は私の部屋に来い」
黛先輩の紹介に半眼で答える楯無さんと千冬姉。楯無さんはともかく……千冬姉は本気で怒っているな、あれは。
「と、ところで会長! 今回この4人がこのこの告白大会に参加しましたのは会長の仕業だそうですが、どのような意図があってのことでしょうか?」
千冬姉の目線と言葉に黛先輩は一瞬怯んだものの、すぐに立ち直り楯無さんに質問した。あ、それはおれも知りたい。黛先輩からの質問にマイクを持った楯無さんは、
「そりゃ決まってるんじゃない! 面白そうだったから!」
扇子を広げ、何とも良い笑顔で答えた。扇子には『未成年の主張!』と書かれている。……古いっすね。
呆れながら楯無さんを眺める俺だが、楯無さんがマイクを離した時
「………」
楯無さんは何か口を動かしているのを見た。
「あれ?会長、今何かいいましたか?」
「ううん、何でもないわ」
「そうですか」
黛先輩も会長が何か言ってたように見えたそうだが、会長が否定したので訝しながらも引き下がった。千冬姉の方を見ると、何故か少し笑みを浮かべているのが気になる。
「さあ会長が大変下衆な理由で呼ばれた4人ですが、もう時間もありませんので早速始めて行きましょう! エントリーナンバー1番五反田弾さん。どうぞ熱い思いを青崎さんにぶつけてください!」
「は、はあ!」
さっきまで黄昏ていた弾だったが、急に出番が来て激しく動揺している。
「さあさあ五反田君、こっちこっち」
そんな弾を黛先輩は引っ張っていき、葵の前に立たせていく。そして弾に、
「では五反田君、お願いします」
そういうと黛先輩はさっさとステージの隅に移動していく。強引に葵の前に立たされた弾は、途方に暮れた顔で葵を見るも、葵もどうしたらいいのかわからない顔で弾や辺りを見回している。……なんだこれ、公開いじめか?
どうしたらいいのかわからずオロオロしている弾に、
「あ、五反田君! この大会あくまで『告白』大会だから! 何も愛の台詞だけ言わないといけないわけじゃないわよー」
解説席から楯無さんが、助け舟?を寄越した。
「へ? それって?」
「つまり普段言いたいのに言えないような事を言う大会なのよ。まあ同性が相手だから普通なら言えないような事をお祭り騒ぎのどさくさで言っちゃえがこの大会が出来た理由だけどね。学園の生徒が整備課の備品をこっそり横流ししたのを見たなんて告白も過去あったし。だから五反田君! 貴方の普段言えないような事を青崎さんにぶつけちゃいなさい!」
「……更識、学園の恥を外部に教えるな」
何やら熱く語った楯無さんだが、……その横で千冬姉がこめかみをひくつかせながら楯無さんを睨んでいる。楯無さん、頬に汗が流れてるがそれを無視しながら弾を応援している。
しかしなるほど、告白大会とか言われて葵に何言おうと困ってたが、これはそういう主旨の大会か。じゃあ、なんとかなるかな。
そう思って弾の方を向くと、弾も先程までよりかは動揺が無くなっているのが見える。もっとも会場中から見つめられるプレッシャーは相当な物のようで、緊張した顔で葵を見つめると、
「あ、あの葵!」
「う、うん!」
葵の方も緊張してたのか、弾から名前を言われた時、声が上擦っていた。そして葵以上に声が上擦っている弾は、
「頼む葵! その恰好で俺の家でウエイトレスやってくれ!」
大きくお辞儀をしながら葵に告白をした。
「は?」
弾の告白に、葵は呆けた顔で弾を眺めていく。いや葵だけでなく、裕也に黛先輩も、会場にいる観客も同じ顔をしながら弾を眺めている。おそらく皆こう思っているだろ、何言ってんだこいつ?と。
「……」
「……」
しかし皆が呆れる中、何故か楯無さんと千冬姉は神妙な顔で弾を凝視していた。
「……あ、あの弾。いったい何?」
おそらく予想もしていなかっただろう弾の告白に、葵は困惑した顔をしながら弾に尋ねると、
「いやお前のその姿、マジで可愛いしそれ着てうちで働いてくれたら客も沢山来てくれて商売繁盛間違いなしかなあと」
何やら明後日の方を向きながら、しどろもどろに弾は答えて行った。顔は赤く、自分でも馬鹿な事言っていると思ってるんだろう。
「い、いや嫌ならいいんだ! ただまあちょっと頼むな!」
そう言うと弾は顔を赤くしながら葵から離れて行った。どうやらこれで告白は終了らしい。
「え、え~と第一発目から予想外な告白が来ましたが、解説の会長に織斑先生! 今の告白をどう思いますか?」
「……まさかいきなりこんな告白が来るなんて、五反田君恐ろしい子!」
「全くだ。高校生の分際で大した奴だなあいつは」
黛先輩の質問に、楯無さんと千冬姉は弾の告白に高評価を下した。
「へ? それはどうしてです? 正直あれは……ちょっと無いと思ったのですが」
黛先輩が、おそらく会場にいる観客皆が思っている疑問を二人に尋ねると、
「だって五反田君、青崎さんをウエイトレスにしたいといっているのよ! つまり五反田君は、青崎さんを店の看板娘にしようとしている!」
「つまり五反田は青崎を俺の店に来いと、お前の永久就職先は俺の家だと五反田は青崎に言ったわけだ。将来すら見据えた上での告白、侮れん奴だ」
黛先輩の質問に、戦慄した顔で解説している楯無さんと千冬姉だが……いやそれ、どう考えても深読みしすぎだから。葵が「そうなの?」な顔で弾を見ており、弾は「違う違う!」と顔を横に振っていた。
「なるほど、あの告白にそこまでの意味が込められていたなんて。一人目からなんともヒートアップしてまいりました! では次にエントリーナンバー2番! 新庄裕也君お願いします!」
楯無さんと千冬姉の余深読みの解説に感銘したのか、さっきよりもさらに興奮した声で黛先輩は裕也に出番を託すと再びステージの隅に引っこんでいく。
名前を呼ばれた裕也は、弾とは違い緊張した様子はなく真っ直ぐ葵に向かって歩いていく。観客も、弾の時と違い葵と裕也を真剣な眼差しで眺めている。1組で裕也が葵に告白しそうになった情報は周りにも流れているようで、弥が上にも注目されている。
真剣な顔で葵を眺めている裕也。葵もあのときと同様、微笑を浮かべながら裕也を眺めている。お互い見つめ合う事数秒、そして
「葵、俺はお前を守りたい」
裕也は葵に向かって語っていった。
「俺と葵が最初に会った時は、俺は葵の事は別に意識していなかった。爺ちゃんからお前と剣道の試合頼まれなかったら、俺はお前の事をクラスにいる女子の一人としか思わなかっただろう。でも、あの日、お前と試合をした日から俺はお前の事を意識するようになった。まあ笑っちまうのが、その時は女子に試合に負けたから次は絶対勝つ!な気持ちだったんだけどな。でも、その後剣道だけでなく、お前と会うの楽しくなってきて、気が付いたら俺はお前を目で追うようになっていた。そして、お前が俺を助けてくれた日に、俺はお前に誓った! 葵が助けてくれたように、俺もお前を守るとな!だから!」
「葵! 俺、お前の事が好きだ! 俺をずっとお前の側で守らせてくれ! これからの人生、ずっと!」
裕也は、最後までまっすぐ葵を見つめながら言い切った。裕也の告白を受け、葵は―――顔を赤くしながらうつむいていた。
裕也の告白後、会場は爆発したかのような歓声に包まれた。キャーキャー騒ぎながら、観客の皆が裕也を、そして葵に向かって何か言っている。そんな声に、葵はますます顔を赤くしながら俯いていった。
……
……
……
あれ、なんだ? 何か知らないけど……落ち着かないというか、裕也の台詞を聞いて顔を赤くしている葵の姿が、何故か俺はまともに見たくない。弾の方を見ると、
「……まあ、あいつは言ってしまうよなあ」
裕也を見ながら、弾は頭を掻きながら溜息をついていた。
気持ちを伝えて満足したのか、何か吹っ切れた顔をしながら裕也がこちらに戻ってくる。裕也は一度視線を俺に向けるが、何も言わず黙って俺の横に立った。
「いやあ、大変熱い告白でした! 聞いてるだけの私でもちょっと赤面しちゃうほどの裕也君の告白でしたが、解説のお二人はどうでしたか?」
「う、うん。気持ちをはっきり伝えてるから凄く良いと思うわよ」
「前置きが長い。後半だけビシッと言え」
黛先輩の質問に、弾の時とは違い楯無さんは少し歯切れ悪く、千冬姉は明らかな駄目出しをした。え、何で?
「え、あれ~~以外にも解説のお二方には今の告白は不評のようですね」
黛先輩もこの返しは予想外だったのか、少し困っている。
「いや告白自体はいいのよ。 新庄君の素直な気持ちを青崎さんにぶつけているのはよくわかるもの!」
「まあ誤魔化さずにストレートに言うのは悪くないと言っておく」
先程の発言のフォローのつもりかしらないが、楯無さんはともかく千冬姉、それフォローになってないから。
「え~では気を取り直して、いよいよラストの紹介です! エントリナンバー3番織斑一夏君! お願いします!」
うわ、とうとう俺の番が来てしまった!
黛先輩がステージの隅に移動したのを見て、俺は仕方なく葵に向かって歩いていく。さっきまで顔を赤くしていた葵も、俺を見ると表情を変えた。その葵の表情からは―――俺が何を言うのか楽しみにしているのがありありと見て取れた。なんだ、さっきまでよりかお前かなり余裕だな。……そりゃ俺は裕也と違って愛とか言わないが、お前に何か言わなければならないこっちの身を少しは考えてくれよな。まあ、さっきの会長さんの言いたい事を言えばいい、あのセリフのおかげでいう事は決まってるんだけどさ。
俺は葵の前に立つ。再び会場にいる観客が一斉に俺と葵を見つめていくのがわかる。……すまん弾、確かにこりゃ何か言うのも勇気いるな。裕也の奴はこんなのものともせず告白しやがったのか、大したもんだ。
大勢の目から放たれるプレッシャーを感じながら、俺は葵を真っ直ぐ見ながら言った。
「葵、俺はお前よりもを強くなる。今はまだお前よりも弱いが……絶対お前に追い付いて、追い越していく! そして日本代表の座、絶対貰っていくからな! 言っとくがISだけじゃないぜ! 剣道も再び俺はお前よりも超えてやる! 最初の勝負と剣道! これだけはやっぱり俺はお前に譲れない! 絶対に俺は、―――お前よりも強い男になる!」
一気に言い切った俺は、言い終わった後地面に顔を向けた。……前も似たような事言ったと思い出し、少し恥ずかしくなったからだ。でも前と違うといえば、まあ剣道も強くなるって所か。これは最近思ってることなんだよな。7月からまた本格的に剣道の練習しているが、ブランクがあるとはいえ箒や葵に負け続けるのはやはり悔しい。特に葵に負けるのは箒に負けるよりも悔しかったから。
顔を上げて葵の方を向くと、……何故か葵は可哀想な物を見る目で俺を見ていた。
「……可哀想な一夏。一生代表になれないまま終わるのね」
……この野郎、俺の告白全否定かおい。
「余裕ぶっこくなよ! 近いうちに絶対お前を負かしてやるからな!」
「まあ、頑張りなさい。一夏の挑戦、受けて立つから」
そう言って。葵は不敵に笑った。そして言いたいことを言った俺は元居た場所に向かって歩いていくが、その先で裕也が驚愕した顔で俺を見ていて、弾は……笑いながら親指を立ててグッジョブのポーズをしていた。
ちなみに観客中がなにやら呆気にとられた顔をしながら俺を見ているが……まあ期待に応えられなくてごめんとだけ言っておく。
「え、え~と織斑君の告白が終わりましたが……解説のお二人は今の告白をどう思います?」
「……」
「……」
黛先輩に質問されても、楯無さんも千冬姉も何も言わない。呆れているのかと思ったが、良く見たら―――楯無さんも千冬姉も笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「あ、あのー会長? 織斑先生?」
反応が無い二人に黛先輩は困っていると、
「さすが織斑君ね」
「合格だ」
謎の言葉を楯無さんと千冬姉は満足気な顔をして言った。楯無さんと千冬姉の言葉の意味が良く解らない黛先輩は、
「え、ええとまあこれで3人の告白が終了しました! 三者三様の言葉でそれぞれ大変魅力的でしたが、では青崎さん! 貴方の答えをお願いします!」
もう先へ進めて行くことを選んだ。黛先輩が先程と同様、ステージの隅に引っこんでいく。
答えと言われ、葵は一瞬―――本当に一瞬だが辛い表情を浮かべた。
しかし……本当に何なんだろうなこの展開。ほんの2,3年前はこんな事態が起きるなんて予想もしてなかった。当たり前だ、葵は男だったんだから。それが今は葵は女で、……男から告白される立場になっているなんて。当然だが、葵が一番その事に戸惑い、困惑しているんだろうな。
それでも葵は、何かを決心した表情を浮かべると、俺達の下に近づいていった。
はっははははははは!
弾の告白、もしかしたらとか一瞬警戒してたけど、まさか俺にメイド着て接客しろとか! いやあの場でそんな事思いつく弾凄いよお前! 尊敬しちゃうぜ! 弾の野郎、やっぱりあいつは――――
一夏の告白は―――ああ、駄目だ。これはもう笑ってしまうな、うん! 考えるのは止めよう! 忘れよう! だってそうしないと、ああもう! 顔がにやけてしまう! くそ、もうあいつは何でこう―――人の急所つくかなあ……
とにかく、弾と一夏の告白は愛の告白じゃなかった。
正直言って、……すごくホッとした。まさかとか、もしかしたらとか思ってたが、弾は空気を読んで、一夏は天然でなんとかなったんだろうけど。
裕也は……まあ、覚悟はしていた。でも、俺は―――裕也に応える事は出来ない。
裕也がどんなに思ってようと、俺は、裕也を、恋人にすることは無い。
おそらく、会長はわかってたんだろう。俺が裕也を好きじゃ無い事を。こういった本音をばらす大会でも弾と一夏は俺に愛の告白とかするわけないとか。
全員が見ている中で、あの雑誌で出てた私の疑惑を、まとめて払拭する機会を与えてくれたのは、そういう事なんだろう。
そして一夏と弾に、二人ともはっきりと私を親友と友達としか見てないと言える機会を与えてくれたんだと。
そして会長は、こういった公式の場で、『今はIS国家代表になる事で頭が一杯で、恋愛とか考えるのは無理です』という言い訳をどうどうと言えるようにしてくれた。これで一夏も弾も、はっきり言ったうえで俺がこう言えば恋愛絡みはなくせるんだろう
裕也がちょっと可哀想だけど、多分会長は裕也を可哀想だとは思って無いなあ。味方とか言ってたけど、実際は一番の敵だったんだし。理由は……会長は、多分、いやあっているかな。
でも、裕也は、この皆が見ている中、本気で俺に告白してきた。裕也の気持ちは、1年前からわかってはいた。 一夏じゃないんだ、これは気付いていた。でも俺は、そんな裕也の気持ちを無視して、友達として接してきた。気付いてるのがバレたら……友達としての関係も終わってしまうと思ったから。
でも、あの雑誌のせいで裕也は露骨に俺に好意を、感情を見せるようになった。裕也は今日この告白まで俺が裕也の気持ちに気付いてないとか思ってるんだろうけど、いやそんなわけないから。気付くなってのが無理だっつーの。
まあ、しかしはっきりと裕也は俺に告白をしてしまった。裕也は俺を―――
裕也は最初から最後まで、一夏や弾と違い、
そんな裕也に、私は何て言う? 今はISに専念したいから恋とか考えられないとか言って振る? ありえないわね。そんな今後の希望を与えるような曖昧な返事で振るとか。裕也がどういう人間かは私は良く知っている。そんな振り方しても、裕也は―――私を待つというんでしょうね。
だったら、はっきり、私も女らしく裕也に気持ちを伝えよう。
私は裕也に向かって真っすぐ歩いていく。その行動に観客中が、黛先輩が期待を込めた視線で私を見ているけど、ごめん、皆の期待とは違う事をします。会長が目を剥いて私を見ているけど、すみません会長。好意は嬉しいのですが、―――裕也だけは、本音で言わせて下さい。
「裕也」
私は裕也の前に立ち、緊張している裕也の前で、
「ごめんなさい、裕也。私は、貴方の気持ちには応えられない」
裕也が告白してきた時と同様、深く頭を下げながら裕也の告白を断った。
「………」
私が気持ちを伝えた後、裕也しばらく無言だった。両隣いる弾と一夏が対して驚いてない。二人とも、なんとなく私がこう言うのはわかってたんでしょうね。顔を上げてしばらく裕也を見つめると、
「そうか」
裕也は乾いた笑みを浮かべると、大きく溜息をつき、
「やっぱり駄目か~~~~」
片手を顔に付けて天を仰いだ。一瞬光る物が裕也の顔に見えたけど、見なかった事にした。そして10秒程か、上を向いていた裕也が顔から手を放し私を見据えると、
「ありがとう葵。はっきり言ってくれて。 これですっきりした」
言葉通り、裕也は吹っ切れた顔を私に見せてくれた。
「裕也、理由は聞かないの?」
私の質問に、
「ん? 聞いてそれを改善したら惚れてくれるのか?」
裕也は興味無い顔で、私の質問に返した。
「……いえ、それはないけど」
「だろ? だから聞くだけ無駄だ」
う~ん、あれ? 私の予想じゃ裕也、もう少し食い下がるとか思ってたけど、そうでもないわね?
「ただし一つ、葵、お前に言いたい」
私の疑問をよそに、裕也は私に近づくと、耳元にこう囁いた。
「葵、ありがとう。お前を好きになれてよかった」
そう言うと、裕也は笑うと私から離れて行った。……不意打ちはちょっと反則なんですけど。
「あ、青崎さん。新庄君を個別で振っちゃいましたけど、残り二人はどうなるの?」
ちょっと動揺していたら、横から黛先輩が申し訳なさそうに私に聞いてきた。あ、そういえばこの告白大会は最後は私の気持ちを応えるんだったっけ。
じゃあ、最後にこの大会に終止符を打ちますか。でもそれは、会長が用意してくれたシナリオとは違う結末で。
裕也が私に告白しちゃったんだ。
私も、もう後の事は考えないで、この場でもう言っちゃおうかなあ。
それが私の立場を悪くするとしても、私は無論相手も迷惑だとわかっていても、いや、あいつなら、多分じゃなくきっと一緒にいれば大丈夫かな。
本当はもっと後で言おうと思ってたけど、言うなら今かな。
そう思いながら、私は―――――弾の前に立った。
言うべき台詞は
私と、付き合ってください
おまけ
一夏、裕也、弾が会長に告白大会出場を命じられた時、
「ちょっと待ってください会長! そこの新庄さんだけならともかく、一夏さんも巻き込むのは許容できませんわ!」
「そうだ会長! 告白しているのは新庄だけなのだから新庄だけ連行すればいいだけの話じゃないか!」
「というか五反田君だっけ? 何で彼まで?」
「一夏の私の嫁だ! 私の嫁を勝手に連れていくことは許さん!」
当然の如く、セシリア、箒、シャル、ラウラの四人は反対した。例え本気じゃないのはわかっているにしても、一夏が他の女に告白するとかのイベントは四人は耐えられないからだ。
「ふ、君達が反対するのはわかってたよ! お願いします先生方!」
「了解!」
楯無が叫ぶと、セシリア達の前に3人の生徒が立ち塞がった。 立ち塞がった三人を見て、セシリア達は驚愕した。
「え、貴方はダリル・ケイシー先輩!?」
「貴様はフォルテ・サファイアか?」
「確かお前は会長の妹の更識簪だったな! 何でお前達三人が私達の邪魔をする!」
学園が誇る一夏達以外の専用機持ちが、箒達の前に立ち塞がった。
「いや今後食堂タダ食べ放題と聞いて」
「右に同じく」
「……私はケモノ戦隊ケモンジャーの限定DVD貰えると聞いて。ですよねお姉ちゃん」
「……うん、簪ちゃん。そこの4人暴走させなかったらあげるね」
「りょーかい」
そう言って、姉に向かって親指を立てる簪。
「そういうわけで、DVDの為に貴方達をここで止める」
「そんな理由で!?」
「舐められたものだな! こっちは4人いるのに3人しかいないではないか!」
「余裕」
「大した自信だね! でも」
「言っておくけど、次暴れて校舎壊したら皆強制帰国らしいよ。篠ノ之さんは束博士の下に送還されるって」
簪のこの一言で、4人全員の動きは止まった。
「その覚悟持って暴走するなら……相手にするよ?」
その後、四人は暴走することなく、他のクラスメイト達と一緒におとなしく会場で事の成り行きを見守る事となった。
次辺りで学園祭終了します。