IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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葵の二年間

「さてと、ようやく昼休みだ。色々吐いてもらうぜ」

 

 朝のHRで葵との衝撃的な再会後、俺は聞きたい事がたくさんあったので昼休みが待ち遠しかった。あまりにうわの空状態で授業受けてたせいで、千冬姉に合計7回は頭を叩かれた。箒も4回叩かれていた。

 葵と話す場所は人気が少ない屋上でする事にした。久しぶりに再会したら女の子になってるし、なんか複雑な事情がありそうだから教室じゃ話づらい事も多いだろうしな。

 昼休みが始まり、俺は葵の腕を掴み、屋上まで引っ張って行った。

 

「おい、一夏。別に逃げないから引っ張るのは止めろ!」

 悪いが無視だ。今はまだ優しくする気にはなれない。俺達の後ろには箒が付いてきている。葵について聞きたがってるセシリア達には、残念ながら少しお願いを頼んだ為一緒に付いてきてはいない。それに葵も、まずは俺達幼馴染組からの方が事情を話し易いしだろうし。

 

 

「遅いわよ三人共!待ちくたびれたじゃない!」

 屋上に着くとすでに鈴が待っていた。

 

「悪い鈴。葵を連行してたら遅れてしまった」

 

「だから逃げないっていってるだろーが!」

 

「いいから話を始めるぞ。うかうかしてたらすぐに昼休みが終わってしまう」

 とりあえず屋上に設置されてる円テーブルの椅子にそれぞれ腰掛ける事にした。

 

 全員が座ると、葵は俺と箒、鈴を順に見て回り言った。

 

「まあ一夏と鈴にとっては2年振り、箒にとっては6年振りの再会になったわけだけど……何から聞きたい?一番聞かれると思ってたこの体については一夏と箒には朝のHRで、鈴には休み時間に話したけど?」

 確かに見た目どころか性別まで変わった経緯についてはもう知った。だがな、

 

「葵、俺が本当に知りたいのはそんな事ではない。いや例えHRでその件を話さなくても、俺が葵に真っ先に聞きたかったのはそんな事ではない」

 

「いやお前、幼馴染が性転換して現れてるのに、それがメインでなく何を真っ先に聞きたいってんだよ?」

 

「とぼけるなよ。逆にお前が俺の立場になったら、お前はまず真っ先になんて俺に質問する?」

 俺の言葉に葵は観念したような顔をして、

 

「どうして一言も無く、黙って俺の前から消えた?」

 と、俺がもっとも問いただしたかった台詞を言った。

 

 

「ちなみに私もそれが知りたかったわ。あんな置手紙だけで納得してるとでも思ったわけ?」

 そういって鈴は葵を睨んだ。その目は納得のいく説明をしろと言っている。

 

「私もそれは気になっていた。お前が一夏に何も言わず、しかも置手紙も一言しか書いてないのはおかしいと思っていた」

 

「葵、嘘偽りなく正直に話してくれ。この二年間これが俺が一番気になってたんだ」

 俺達の質問を受け、葵は溜息をついた後、顔を伏せて絞り出すように一言答えた。

 

 

 

「……怖かったから」

 

 

「怖かった?何が怖かったんだよ?」

 

「俺が男でなく本当は女だったから、それを話すことでお前達との関係が壊れるのが怖かったんだよ、あの当時はな」

 葵は顔を上げ、自嘲めいた顔してそう答えた。

 

「あの頃は俺も情緒不安定で、考え方が凄くネガティブだったんだよ」

 

「何せ中二の春辺りから急に体調が悪くなり、手足も妙に痛むようになった。最初は成長痛かと思ったけど、それにしてはおかしかったし。そしてついに急に家で俺は意識を失って倒れたんだよ。親父が慌てて病院の担ぎこみ、診断され結果俺は男ではなく女だと判明した」

そういえば…あの頃の葵、妙に顔色悪かった気がするな。…なんで俺、それを気にかけなかったんだ! クソ!

 

「晴天の霹靂とはまさにこの事だった。だってお前は本当は女の子なんだよと言われても、俺は今まで男として生きて来たんだぜ。どうしろってんだよ。男として生きる事も考えたけど、生殖器は女だから男を選ぶと子供は作れない。なにより男を選んでも、貴方の体では男らしい体格をするのはかなり難しいと言われたよ」

 ……まあそれはわかる。中学入ってから葵、空手部に入って毎日相当練習してたのに、全然筋肉付かず、まるで女の子みたいな体格だったし。

 

「医者も俺を女として生きる事を強く勧めてきてたよ。絶対美人になるからって」

 ……たしかに。俺も医者だったら絶対そっちを勧める。今の葵を見たら、医者の言う事は正解で正しいもんな。…胸もデカイし。

 

「それにやっぱり遺伝子的にも女性だからそっちの方が後々体の不具合も起きないからって。長生きしたいならやはり本当の性別が一番良いって。医者の説明を聞いて、親父も俺が女として生きる事を勧めてきたよ。そして俺は考えに考え抜いて―――女の人生を選んだ」

…おそらく、俺には想像もつかない位悩みに悩み抜いた末に結論だしたんだろう。今までの人生丸ごとやり直しに等しいから。

 

「わかるか、あの時俺は男として生きて来た事を全否定されたんだよ。親からもな。今までのお前は間違った存在なんだって俺は思うようになった」

 そして葵は俺達を見て言った。

 

「だから怖かったんだ。一夏達から俺が否定されるのが。俺が女になることで今までの関係が全て壊れるんじゃないかって。一夏達から俺を否定する事を言うんじゃないかって。

そして俺は一夏達から逃げる事を選んだ。一夏達の反応が怖かったから。親父に頼んで夜逃げ同然で引っ越ししてくれと頼みこんだ。親父はそれを了承してくれた。でもやっぱり会えなくなるのは嫌で、凄く会いたいけど会いたくなくて。そんな考えをしてるうちに出発の時間が来て、時間が無くパニックになった俺は、とっさに思いついた本心の別れの言葉を書いた」

 あの時俺に書いた手紙は「またいつか会おうぜ!」。つまり、

 

「つまりうだうだ考えてても、結局会いたかってことだったんじゃねーか」

 

「……まあな。ただあの時の俺は」

 

ふざけるな!

 

「バカかお前。HRでも言った通りお前がどんな姿に変わろうと、お前は俺の大切な幼馴染だ!なんで俺に相談してくれなかったんだよ!」

 

「だから一夏、あの当時の俺は」

 

「五月蠅い!事情はわかった!理由も聞いた!納得する事も多々ある!でも、俺を信用して欲しかった、悩みがあるなら打ち明けて欲しかった、お前のために力になりたかった…、こればかりは理屈では語れないんだよ!」

 

「ちょっと落ち着きなさい一夏!あんたの気持はよくわかるけど、葵も…」

 

「葵も悩み苦しんだんだ。つらかったのはお前だけでは無い」

 

 鈴と箒に悟され、葵が辛そうな顔をしているのを見て……俺は頭に上っていた血が急速に引いていった。…そうだよな、確かにこんな事、おいそれとは話せないよな。それに俺も辛かったが、一番辛かったのは……葵なんだ。

 

「…すまん葵、俺勝手な事言い過ぎた」

 

「いいよ別に。お前の言う事はもっともだから」

 

「ありがとな」

 

「ねえ葵、そういえばあんたさっきから昔の俺は~と言ってるけど、なら今のあんたは」

 

「ああ、あんな事して後悔してる。何故一夏達を信用しなかったのか、頼らなかったのかって。実はそれに思い至ったのは夜逃げにして二日後、手術直前に思った」

 

「「「はやっ!」」」

 なんだそれ。お前のそれまでの葛藤はなんだったんだよ!

 

「まああれだ、もう完全に女になるんだと思ったら今までの行動を振り返り、自分の行動がいかに間抜けかと思い知った。はははは」

 ははははじゃねえ。箒も鈴も呆れてるぞ。

 

「……たく、じゃあなんであんたその後私達に連絡よこさなかったのよ!迷いなくなったんなら電話一つ位よこしなさいよ!」

 目を吊り上げて葵に向かって怒鳴る鈴。箒もうんうんと頷いている。そうだよ、なんで迷い無くなったんなら連絡くれなかったんだよ。

 

「あ~それな。いやそれが出来なかったんだよ、正確にはさせてくれなかった」

 

「させてくれなかった、だと?どういうことだ?私みたいに政府の監視下に置かれたわけではあるまいに」

箒の疑問に、葵は少し笑みを浮かべ箒を指差して言った。

 

「いやそれが……箒と同じような立場に俺もいたんだよ」

 

「「「はあ?」」」

どういうことだ?と驚く俺達。そして葵は、箒から俺に顔を向けると、

 

「あ~いやどっちかというと箒よりも一夏の方が近いかも」

そういって、箒に指していた指を今度は俺の方に向けた。

 

「俺と?」

 

「つまり……具体的にどういうことなのだ?」

 葵、お前一体何したんだよ?箒も鈴もわけわかんないって顔してるぞ。

 

「わかった、ちゃんと説明しようか。そう、あれは桜も散り春も終焉を迎え葉桜が綺麗な」

 

「そういう前置きはいいからさっさと話しなさい!」

 額に青筋立てながら鈴が葵に怒鳴った。俺も箒も同感とばかりに頷く。いいから早く言え。

 

「わ、わかった!だから落ち着け!………まあぶっちゃけるとだな、結論から先に言うが俺が日本代表候補生になったから、お前達に連絡する事も出来なかったし、入学も遅れた」

 

「「「日本代表候補生!?」」」

 

「そう、ゆくゆくは日本代表になって、千冬さんが出場したモンド・グロッソで優勝が今の夢で目標」

 

 葵の表情に嘘は全く見られない。どうやら本当に代表候補生になっており、そして本気で日本代表の座狙っているようだ。

 

「ちょっと! あんたが日本代表候補生? 嘘でしょ?」

 

「い~や本当だぜ」

 そういってニヤっと笑う葵。

 

「つーか俺からすれば、わずか一年とちょっとで中国の代表候補生となったお前の方が信じらんないけどな」

 

「んっ、まあね! 私って天才だし」

 葵の言葉を聞き、自慢げにふんぞり返る鈴。

 

「そんなことよりも、どういった経緯でお前は代表候補生になったのだ?」

 おい箒、そんなことよばわりされて鈴が少しむっとしてるぞ。しかし確かに気になる。お前一体何があってそんなことになってるんだよ。

 

「ああ、それはな…」

 そして葵は、どこか遠い目をしながら話出した。

 

 

「二年前、俺は手術終了後真っ先に一夏に事情を説明しようとした。が、やっぱりやめた。さすがにあそこまでやってしまったんだし、どうせなら完全に女の子になった状態で会ってびっくりさせようと思ったからだ」

 

「?手術終わったんだろ?女になったんじゃないのか?」

 俺の言葉に葵は馬鹿を見る目で見た。……なんだよ変な事言ったか?

 

 「バカ。手術したからって体つきとかすぐに変わんないだろ。大体胸とかペッたんこだし。そんな状態で会っても女になったなんて言っても、お前ピンとこないだろーが」

 なるほど、確かにそうだ。

 

「その後半年間女になってしまったから心のケアとかでカウンセリングを受けたり、色々な薬を飲んだり注射したりしたら、それがまあ色々成長することすること。その頃から髪も伸ばすようにしてたし、医者もびっくりなほど女っぽくなった。胸もそうだな、そのころですでに……」

 葵の目は鈴の……、おい止めろ!そのネタは止めとけ!

 

「すでに……何?」

 バックに炎が見えそうなほどの怒気を放つ鈴。マジ怖いんですが。

 

「……いや何でもない。ま、そんなわけで見た目が充分整ったからいざ一夏達に会いに行こうとしたら、政府から役人が来てISの起動テストをして欲しいという要請が来た。どうも俺みたいなパターンの人間でも、女性ならISに乗れるかどうか調べるんだと。俺も女になったんだしISの操縦ができるかもと思い、快く了承。近くのIS開発施設に赴き、そこにあったIS打鉄に触ってみたら見事起動。俺みたいな女でもISは起動することが証明された。そして俺はどうせだしとISを動かしていいかと頼みこんだ、なんせISに乗る機会なんてこれが最後かもしれないと思ったからな。そして役人さん達は快くOKしてくれたんで、俺はISを思う存分動かしてみた」

 

「いやあまさに世界が変わるとはこのことかと思ったよ。今までとはまるで違う感覚に俺は夢中になった。ISから流れてくる情報を基に俺はさらに自分が限界と思える操縦をこなしていった。そして一通り満足して地面に降り、ISを解除したらかなり興奮した役人さん達が俺に詰めより、『こっちに来てくれ!』と叫び俺を連行。検査室に入れ俺のフィジカル・データを取った。そして俺のIS適性だけど、なんとA!」

 

「まあ代表候補生ならその位あるわよ」

 たいして驚いてない鈴。「ん~~~!」となにか悔しそうな箒。まあわかるぞその気持ちは。

 

「どうも俺の操縦が初めてとは到底思えないほど良かったらしく、しかも適性Aってことで皆騒ぎ俺をべた褒め。いやあそれほどでもとか言ってたら、そこに一人の少女が現れた。その子は俺を見て、『ふん、元男がIS乗り。冗談じゃないわね』と言って思いっきり侮蔑を込めた目で俺を見た。その子の言葉にカチンと来た俺は、何?その元男よりもIS操縦下手そうだけど君と言い返した。そっからはお互い罵り合い、キレた俺は勢いでISで勝負だ!と言った。そして俺は周りが反対するのを振り切り、広場で俺は打鉄に、彼女は専用機を展開した。え、専用機?と思ったら施設の方が教えてくれ、その時彼女は日本代表候補生だと知った。自信満々に勝負に乗ったのはそのためだった」

 うわ…、初めて乗ったISで勝負を提案する葵も葵だが、専用機で勝負しようとするその子も相当ずるいな。

 

「しかし後には引けないし、不思議と負ける気はしなかった。ISから流れてくる情報を参考にし、イメージ通りに操縦して戦ったら――――――――――開始10秒足らずで俺が勝った」

 

「はあ?いやちょっとまて!おかしすぎるだろそれ!」

 

「あんたの話の流れからして勝ったんだろなあとか思ってたけど、いくらなんでも誇張しすぎよ!」

 

「10秒でシールドエネルギー全て無くすなど、打鉄に白式の雪片弐型でもあったとでもいうのか貴様!」

 三者三様で葵に「嘘つけ!」と言う俺達。いくらなんでもおかしいだろ。代表候補生相手に!

 

「いや本当。嘘偽り無し。ただ一つ誤解している。おそらくお前達は10秒で俺が相手のシールドエネルギーを0にしたと思ってるだろ」

 

「違うのか?」

 

「ああ、違う。俺は相手を気絶させたんだよ。俺の攻撃を受け、彼女の機体は勢いよく壁に激突。轟音を立てて壁を粉砕した彼女はその衝撃で気絶した」

 

「ISに乗った相手を一撃で気絶……葵、お前は一体何をしたんだ?」

 

「いや単純に『瞬時加速』を何故か理解できてたからそれを使って一瞬にして相手との距離を詰めた。俺を舐めきってた彼女は対応が遅れ、ガラ空きの腹に正拳突きを当てたらそうなった」

 マジかよ。いくら葵が空手をやってたとはいえ……

 

「まあそれは今後授業や放課後の模擬戦で実践してやるよ。言うよりもやった方が早い」

 

「わかった。疑問は後にしよう。で、話の続きを頼む」

 

「ああ。ま~俺が代表候補生を一撃で倒したもんだからもう大変な事になった。しかも倒し方が武器を使わず拳のみ。役人さんが政府の上層部に連絡して協議の結果、俺は代表候補生となった」

 そして葵はは~っと溜息をついた。

 

「しかし俺が代表候補生になった理由は少し複雑でな。ISは女しか操縦できないだろ。で、俺は体は本当は女だったとはいえ、手術前は男として生きていた。日本政府の一部がその辺を押し出して『今は女だけど元男!男で初のIS乗り!』というかなり強引だがそんな宣伝で俺を売り込もうとしたんだよ。しかしそれはいくらなんでもと反対する人達もいたんで、とりあえずIS学園入学までは保留となった。政府としては日本にはこういう人材もいるとアピールする目的もあったため、結論が出るまでは俺の存在は秘密扱いとなった。そのため俺は知り合いに干渉することが出来なくなった。俺が一夏達に連絡できなかったのはこれが原因なんだよ。まあだけど」 

 そう言って葵は俺を見て

 

「一夏の登場のおかげで世界初の男性IS乗り計画は白紙になったけどな。本当の男がIS操縦できるんならそっちに飛びつくわな」

 と言って笑った。ああ、やっぱそんな風に宣伝されるのは嫌だったんだな。

 

「ま、それが無くても実力的には代表候補生のレベルなんで肩書はそのまま。政府の監視も無くなったんだけど、一夏も箒もIS学園に入学するのを知ったからその時言おうと決意。入学を楽しみにするもIS学園に入学直前にトラブルがあって登校が遅れ、今日が初登校になった」

 

「トラブル?入学前に何があったのだ?」

 

「いやそれはまた今度にしてくれ。今はまだ……言いたくない」

 葵はどこか暗い顔して答えた。…その顔を見て俺も鈴も箒も追及するのは止めた。

 

「まあ以上が俺に起きた、一夏達が知らない二年間の出来事だ。満足したか?」

 

「いや話を聞いたが……、葵、お前どんだけ波乱万丈な人生送ってるんだよ」

 

「世界初の男のIS乗りのお前に言われたくはないぞ」

 いや俺よりも絶対お前の方が凄い。

 

「それよりも、いい加減俺のことばっかりでなく、お前達の事も話してくれよ。空白の時間を互いに埋めようぜ」

 葵、そう言ってもだなお前が期待するほどの事はほぼ無いぞ。

 

「いや葵、俺はお前が消えた後はこれと言って話す事あんまり無いぞ。二年の時は弾達と遊んでばっかりだし三年の時は受験勉強で消えたし」

 

「私もあんたが知っての通り三年の時中国に帰ってそこで代表候補生になってISの特訓に明け暮れたわね」

 

「私は政府の監視下の元各地を転々とする日々だけだった」

 

「……予想以上につまらない返しだな。じゃあIS学園に入学してからはどうなんだよ。結構噂は聞いてたんだぜ。一夏のクラス代表決めとかタッグマッチトーナメントとか。なかなか面白そうだから話してくれよ」

 俺はそれを聞いて時計を確認。かなり話しこんだが昼休みは後10分ある。これなら間に合うな。俺はセシリアの携帯にワン切りで合図を送った。

 

「ああ葵、いいぜ。でもそれならまずは」

 その時屋上の扉が開き、セシリア、ラウラ、シャルルが入ってきた。シャルルの手にはバスケット。中には昼飯も食べずに話してた俺達用のサンドイッチがある。俺はセシリア、シャルル、ラウラの横に立ち、

 

「この学園で出会った、俺達の友達を紹介させてくれ」

と言って、セシリア達に自己紹介をお願いした。

 

「わたくしはセシリア・オルコットと言います。出身はイギリス。今後ともよろしくお願いしますわ」

 

「僕はシャルロット・デュノア。出身はフランス。僕とも一夏達みたいに友達になって欲しいな」

 

「私の名はラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ出身。嫁の一夏の幼馴染なら、私も仲良くせんとな」

 

「ああ、改めてよろしく。俺も皆とは友達になりたいよ。……ところで一夏」

 葵はなんかニヤニヤしながら俺を見る。なんだよ気色悪い。

 

「嫁とはまた……、意外だがなかなか面白い彼女なんだな」

 と言ってラウラを見る葵。いやちょっと待て。

 

「違」

 

「違いますわ、ラウラさんは一夏さんの彼女ではありませんことよ!」

 

「そうだ葵、勘違いするな」

 

「こいつが勝手に一夏の事そう呼んでるだけよ!」

 俺の言葉を遮って葵に否定するセシリア、鈴、箒。いや何をそんなにムキになってるんだ。

 

「何を言う、この国では気に入った者を」

 

「ラウラ、話がややこしくなるから」

 そういってラウラの口を塞ぐシャルル。あれ、なんか目が笑って無いように見えるのは気のせいか?

 

「……あ~わかった、これだけでこれがどういう人間関係なのかも大体理解した」

 なんかしみじみ納得っという感じで頷く葵。その手にはサンドイッチがっ…て!

 

「葵!何勝手に食ってるんだよ!」

 

「何言ってるんだ一夏。鈴も箒ももう食べてるぞ」

 え? と思い鈴と箒を見てみる。二人とも片手にサンドイッチ、もう片手に牛乳を持っている。何時の間に! そしてバスケットを見てみたら……見事に空っぽだった。

 

 

「さてと栄養補給も済んだし、午後の授業を受けるか!オルコットさん達は放課後また改めてお茶でもしながら話そうか」

 

「賛成ですわ、放課後ゆっくり時間がある時話しましょう」

 

「一夏達との昔の面白いエピソードとかあったら話してくれたら嬉しいかな」

 

「うむ、それは楽しみだな」

 

 わいわい言いながら教室に戻っていく葵達。俺は空腹のまま空のバスケットを持ちながら後を付いていく。……まあ葵、皆と仲良くなれてるからいっか。

 

 

 

 

 その後授業も終わり、放課後葵は千冬姉から自分の部屋鍵を受け取った。なんとなく予感がして葵の鍵の番号を見てみたら………俺の部屋の番号だった。

 

「葵は登校しない可能性もあったから、いない者と考えて部屋割を行った。しかもその後鳳やデュノア、ボーデヴィッヒと予定外の転校もあったため、使用可能状態の部屋が無い。用意が出来るまで織斑、お前の部屋に同室して貰う。まあ今まで篠ノ之やデュノアと一緒に生活していたんだ。間違いは起こさないだろう」

 そう言いながらも、何故かニヤニヤしながら俺に言う千冬姉。…なんだよ千冬姉、その妙な笑みは。

 

「葵…それにお前もいきなり女と同室するよりは織斑で慣れた方がいいだろう」

 

「織斑先生……、ありがとうございます」

千冬姉にホッとした顔で礼を言う葵。確かに、まだ葵も女子と同室はまだキツイんだろうな。

 

「そういうわけだ、お前ら仲良く生活しろよ。まあ言われるまでも無いと思うが」

 そういって千冬姉は苦笑を浮かべながら教室を去った。

 

 

 

 その後箒達にこの事を伝えたら「う~ん、でも葵なら…」「今は女の子だし……、でも男だったし…でも一夏と同室は…」「嫁と同室だと!羨ましい奴だ」と全員唸りだしたが、葵が皆を引き連れて物陰で囁いたら全員一応納得してくれた。何を話したんだ?しかし葵に訊いても、

 

「お前は気にしなくていいんだよ。ちょっとした協定」

 と,わけわからない返事しかしなかった。なんだよ協定って。それからは全員でお茶を交えながら葵の事やIS学園に入学してからの事を話し合って、楽しい時間を過ごした。……葵がいくつか俺の過去の暴露話をした事以外では。いやこれのおかげなのか、葵もセシリア達とファーストネームで呼び合うようになったりと、仲良くなったからよかったが。

 

 

 皆と別れた後、葵は送られた荷物を引き取りに行き、それを持って俺の部屋に入り、荷物を整理し終えると、

 

「じゃあ一夏、これからもまたよろしくな」

 と、笑顔で俺に言った。それに俺も、

 

「ああ、お互いにな」

 と、笑顔で返した。

 


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