「は? どういう事だよ?」
何で俺が更識さんと組むのが決まってるんだよ?謎の手紙を書いたり、男子更衣室に侵入してまで俺に会いに来た理由が、来月末に行われるというタッグマッチトーナメントのパートナーに更識さんは俺を勧誘するためだったようだが、その理由が俺をさらに困惑させた。更識さんと組むのが決まってる? 何言ってるんだこの人?
「悪いけど、あんな本描いたり、男子更衣室に勝手に入ってくるような人と俺はパートナー組みたくない。他当たってくれよ」
何を根拠に俺と組むのが決まっていると言ってたのかわからないが、今までとさっきの行為や態度で俺の中で更識さんの印象は最悪と言っていい。楯無さんの妹だけど、それだけで更識さんと仲良くしろと言われても俺は嫌だな。
声色に不機嫌を隠しもせず俺は更識さんの勧誘を断ったら、
「……ふうん。まあ予想通り」
断れた更識さんは、妙に納得した顔で頷いた。なんだよ、更識さんも俺が頷くとか思って無かったのかよ。まあいい、これで用事済んだんだろ。ならさっさとここから出て行ってくれ俺が言おうとしたら、
「でも織斑君。そんな事言うけど、織斑君は誰とタッグ組むつもり?」
先程までとは違い、眠そうな目を開けて更識さんは俺に質問した。……さっきからずっと眠そうな目をしてたのに、目を開けて俺を睨むだけで、更識さんから物凄いプレッシャーを感じる。
「え、いや……まあ妥当に葵かな。前一度組んだシャルとかも良いと思うけど」
雰囲気が変わった更識さんに俺は若干たじろぎながら俺は答えた。
まあ純粋に組みたいと思うのは葵だな。最近千冬姉や楯無さんの指導受けてるから葵と模擬戦とかやってないけど、基本戦闘スタイル同じだしな。昔から一緒にいるおかげで口に出さなくても、目とか見るだけで何が言いたいのかなんとなくわかるし。
シャルは前一度組んだ事あるし、シャルは何でも器用にこなすからどんな事態になっても上手く合わせる事が出来そうだしな。それに葵と違い、シャルだと近接以外でも中・長距離も即対応できるし。
それらの理由で俺は更識さんに葵とシャルの名前を上げたら、
「……はあ」
更識さんは呆れた顔をしながら大きく溜息をついた。な、なんだよ。俺おかしい事いったかよ。
「……織斑君、それ本気で言ってるのなら貴方は友達の事全然見ていないのね。何時もいる葵達を仲間や友達と言ってるくせに、相手の事を考えていないなんてさ」
「な! 何だよそれ! どういう事だよ!」
「言葉通りの意味だけど? 今回専用機タッグマッチトーナメントと聞いて、組むなら葵? デュノアさん? 百歩譲って葵は良いとしても、デュノアさんという選択肢は貴方から言うのは論外。その理由がわからないのは、貴方が本当に周りを見えてない証拠」
「はあ? 俺が相手の事考えてない? 周りの事見えていないって、俺は皆の事大切に」
「でもそれは当然よね。織斑君が相手の事しっかり考えたり、周りをよく見えてたら今の貴方が取り巻く環境は早々崩壊してるんだし。今日の所は帰るね。返事は明日以降私の所に言いに来てくれればいいから」
俺は皆の事大切な仲間と思ってると言おうとしたら、興味無い顔で更識さんはそれを遮り、勝手な事言って俺から背を向けると、更衣室から立ち去ろうとした。しかしドアに手を掛けると、更識さんは振り返ると、俺に向かって口を開いた。
「ねえ織斑君。葵の事好き? ってああ、言わなくてもいいや。あんな映像出してる時点で聞くまでもないんだし。……ただ何時から好きになったかは知らないけど、私から言えるのは今の織斑君はがっかりってだけ」
葵の事を好きって言われ動揺した俺を、自分で言った癖に興味無い目で俺を見た更識さんは、最後まで好き勝手言った後更衣室から出て行った。
更識さんが出て行った後、俺はイライラが募ってしまい、思わずロッカーを強く叩いた。手が痛いが、それ以上にさっきまでいた更識さんに俺はイラついていた。
散々勝手な事言った挙句、最後まで澄ました顔で更識さんは俺と対峙し出て行った。あれは完全に、俺の事を更識さんは格下扱いしていた。それだけでもムカつくが、それ以上更識さんの、俺が葵達の事をよく考えてない、見ていないと言われた事に俺は腹が立った。
葵、箒、鈴は三人ともこの学園で再会できた大切な幼馴染。セシリアにシャル、ラウラはこの学園で出来た友達だ。それを今日初めてまともに話したような人に、侮辱される謂れは無いはずだ。大体、人の事考えろとか言っている張本人が、俺や葵、シャルやラウラを対象に好き勝手な本書いてるじゃねーか。アレはどうなんだよ、ったく。
それに最後のアレは一体何なんだよ! ああそうだよ、確かに俺は葵に惚れたよ。あんな映像出してたから、更識さんにそう思われても仕方がないのもわかるよ。ただ、今日会ったばかりの人からがっかりよばわりってどういう事だよ!
俺の心は荒れまくったが、ふと時計を見ると、すぐ着替えないと食堂に間に合わない時間となっていた。食堂に行く前にアレを済ませておこうと思っていたが、もはやそんな気は欠片も起きない。俺は憮然とした顔をしながら手早く着替えると、食堂に向かう事にした。
「更識さん?」
「ああ、ちなみに妹の方な。どんな人か知ってるか?」
食堂で葵達と夕食を食べながら、俺は葵に更識さんの事を聞いてみた。同じ代表候補生同士だし、更識さんは葵で呼び捨てにしてたし二人はそれなりの仲なんだろう。……その割には、葵と更識さんが学園で話してる所一回も見た事ないけどな。
「何で一夏が簪の事を……ああ、あの手紙でか」
「む、どういう意味だ葵? まさか葵、今朝のあの手紙の意味を解っていたのか?」
「ま~ね。ちょっとした推理というか、単純にあんなの書く専用機持ちは簪さんか私しかいないだろうから」
……おい、それってお前も今度専用機タッグマッチトーナメントが開催されるの知ってたって事かよ。でないとあれ読んでも何の事かわかんないしな。
「何、ということはあの謎の暗号を書いたのは4組の更識妹だったのか」
「ずるいよ、僕達にも教えてくれたらいいのに」
「? ちょっと、何の話よ。今朝の手紙って何の話?」
「ああ、鈴さんは2組にいらしたからご存じなかったですわね。今朝教室に入りましたら一夏さんの机の上にラブレターがあったと皆さんで騒いでたのですが、一夏さんが中を開けてみたら……そんな甘い物じゃありませんでしたわ」
更識の事を聞こうとしたら、今朝のあの手紙事件を皆思い出し一気に騒がしくなった。
「それで一夏、あの手紙ってどんな意味があったの?」
「そうだぞ嫁、隠さず教えて欲しい」
「わかった、わかったからちょっと待ってくれ。先に葵から更識さんの事を聞いてからな」
手紙の内容を知りたがる皆だが、それよりも先にさっき葵にした質問の答えを聞かせてくれよ。あの出会いのせいで、ちょっと俺機嫌悪いからさ。
「……ふうん、一夏ってそんなに会長の妹が気になるんだ」
あれ? 更識さんの事聞いてるだけなのに、何で鈴が不機嫌に? いや、よく見たら鈴だけでなく、葵を除く皆何故か不機嫌な目で俺を見てるんだけど? 急に不機嫌になった皆に俺が戸惑ってると、葵は呆れた顔をして溜息をついた。
「……全く、ちっとも学習しないんだから。それで一夏、簪さんだけど私が知っている簪さんは……飄々としていて、常に冷静沈着。でも内に熱い心を持っていて気遣いの出来た優しい人だなって思ってるけど」
「……それマジで言ってるのか?」
葵から聞く更識さんのイメージは前半は俺も納得だが、後半はとてもじゃないが納得いかない。特に気遣いとか優しい人とかって……。
「マジだけど? 簪良い人だよ、私は好きだな」
俺は疑惑に満ちた目で葵を見ても、葵は笑顔で肯定した。
「……でも葵、お前って更識さんとそんなに仲良かったのか? 俺お前が更識さんと話してる所見た事無いけど?」
「簪とはこの学園で初めて会って、その時からLineを通して交流し仲良くなったわよ。夏休み以降は生徒会室で会長と交えながら話す事も増えたし。ただ他の人目がある所では簪は私と話すの嫌がるけどね」
「……何でそんな密会みたいな事やってんのよあんたら」
葵の話を聞き、鈴が呆れている。いや俺もだけど、何で葵は更識さんとそんな事やってんだよ?
「ん~、それは……ちょっと言えない部分があるけど、簪ってマイペースな性格だから」
「……葵さん、答えになってないですわよ」
「……う~ん、ごめんこれは簪の許可ないと言っちゃ駄目だと思うし。でも理由は一応あるのよ」
葵の話を聞いたら、余計に更識さんがどんな人物かわからなくなってきた。葵は優しい人とか言うが、あんなに俺に暴言吐いたあいつが? ……いや、本当に酷いやつならあの動画をあっさり消去とかしないけど。
「ねえ葵、そういえばその会長の妹だけど臨海学校やタッグトーナメントの時も欠席してたけど、実力はどうなの? 中国にいた時からその辺の情報全くないのよね。学園のアリーナでも練習してるの見たことないし」
「確かに、練習している時アリーナで更識と会ったことは私も無いな。しかしあの学園祭の時、先輩二人と一緒に私達の前に立ち塞がった更識は妙に自身があったが……」
鈴と箒の疑問に、セシリア達も頷いている。そういや俺も毎日アリーナで練習してるけど、一回も更識さんと会った覚えないな。 アリーナは複数あるけど、それでも一回も会ってないとかありえるのか? まさかあんな漫画ばっかり描いて、練習サボってんじゃ?
「いやいや簪はちゃんと練習してるわよ。皆に隠れてやってるから知らないと思うけどね。そしてタッグマッチや臨海学校は……諸事情でね。詳しくは言えないけど」
おい、何でそこは目を逸らしながら言う? 余計気になるんだが。
「それで実力なんだけど」
まああんな変な漫画描いたりする人だ、会長の妹だからってそう対したことは無い。
この時までの俺はそう思っていた。
しかし、続く葵の言葉を聞き、それは大間違いだと知った。
「はっきりって強いわよ。実力はおそらく会長と同等、でも今の私じゃ―――同じ打鉄同士ならともかく、専用機で戦ったら勝てないわね」
葵の発言に皆驚愕し、戸惑いながら葵にどういうことなのかと詰問したが、葵は笑ってはぐらかすだけで教えてくれなかった。その後は再び手紙の内容を皆聞いて来て、まだ発表されてないが専用機タッグマッチトーナメントが開催される話を皆にしたら……何故かその後は皆妙に口数が少なくなり、そして何故か皆俺をチラチラと見て行った。
時折皆から「抜け駆け……」やら「私を差し置いて……」とどうやら更識さんを非難する声が漏れたが、小声なのではっきり聞こえない。葵の方を見たら、もう興味無いのかご飯を食べる事に集中していた。
そしてご飯を食べ終え、皆それぞれの部屋に戻って行った。俺も葵も一緒に部屋に戻り、そして何時もなら部屋に葵がいる事で意識しまくってるのだが、
……織斑君、それ本気で言ってるのなら貴方は葵達の事全然見ていないのね。何時もいる葵達を仲間や友達と言ってるくせに、相手の事を考えていないなんてさ
私から言えるのは今の織斑君はがっかりってだけ
更識の言った言葉が頭にこびりついていて、俺をそんな気持ちにさせてくれなかった。
更識の言ったことは、俺に対する侮辱だ。そうなんだと思っても……ベットで横になりながら、さっきまでよりも冷静になった俺は、更識の言った言葉を完全に否定してはいけない
、そんな気が何故か起きていた。
そして翌日、朝のHRで千冬姉から来月末専用機タッグマッチトーナメントの開催を知らされた。昨日話したからセシリア達の反応はそこまで驚いてないが、クラスの皆は今日知ったから大騒ぎをしている。そしてそれはクラスだけでなく、学園中がこの話題で持ちきりとなっている。なにせ昼食堂で食べていたら、
「これは大変! 織斑君が誰と組むか、オッズ表作らないと!」
「集計は私がやっとくわ!」
「大本命が青崎さんで、対抗馬に前回組んだデュノアさんってところかしら?」
……こんな会話が、学園関係無く飛び交っていた。いや、何で俺のタッグ相手が皆そんなに気になるのかしらないが、葵やシャルが本命で、他はセシリア達という順はなんか俺の予想通りだなと思った。俺もまず葵にパートナーの申し入れをしようと思ってるし。当然だが更識さんの名前は全く出なかった。皆更識さんは俺と組むなんてありえないと思ってるんだろう。
「皆今朝のHRの話でばっかりしてるわね」
「当然でしょ。 前回のタッグマッチトーナメントは変な乱入があったせいでながれちゃったし。それに専用機持ち学年問わず全力で勝負するとか、滅多に無い事なんだから」
「確かに俺の何時も戦う相手って葵達だし、二年や三年の先輩と戦った事無いな」
「会長はロシア代表でおそらく優勝候補筆頭。誰と組むのかが非常に興味あるが……所で一夏、お前は誰と」
「……お待たせしました」
箒が何か言いかけてたが、それは暗い顔をしながら現れたセシリアの声によって遮られた。セシリアの後ろを見ると、同じく顔色の悪いシャルロットとラウラの姿があった。
三人とも、昼休みになったら図ったかのように同じタイミングで携帯電話が鳴りだし、電話に出た後は急に顔つき変えて教室から出て行った。何の電話だったのか知らないが、おそらくあまりよろしくない電話だったのは、見たらわかった。
そして暗い顔をしながらセシリアは鈴に近づくと、
「お願いします鈴さん! わたくしとタッグを組んでください!」
鈴に向かって頭を下げ、パートナーの申し入れをした。
「え、えええ!」
突然の申し入れに、鈴は驚きセシリアを見つめる。セシリアは懇願するような顔をしながら鈴を見ており、それが余計に鈴を動揺させていた。
突然のパートナーの申し入れに、鈴だけでなく俺も箒も、いや食堂にいた全員が驚愕の目でセシリアを見つめていく。しかし、そんな中葵とシャル、ラウラの三人だけが何故か納得した顔で二人を見ていた。
そして
「あ、僕はラウラと組むことにしたから」
「うむ、嫁よ残念だが、これは仕方がない事なのだ」
続くシャルとラウラの言葉に、再び周りにいる生徒達が驚きながら二人を見つめる。箒も鈴も驚いた顔で二人を見つめるが、俺はまあそこまでは驚かなかった。この二人仲が良いし、妥当な組み合わせと思うし。シャルと組めないのは残念だが、仕方ないか。
「え、ちょっとどうしたのよセシリア! シャルロットにラウラも急にパートナー決めるし!」
「……だってね」
「……うむ、勝つためには仕方ないというか」
「……もうわたくしには後がありませんの」
突然の展開に混乱する鈴に、シャルとラウラ、セシリアは暗い顔で顔を見合わせると、大きなため息をついた。
「……鈴さん覚えてます、あの一学期の期末テストですけど」
「あ~あの一夏の寝言であんたら四人が暴走したアレ?」
「ええ、それです。あれの罰は夏休みの地獄の特訓で終ったと思ってましたが、考えが甘かったですわ。今回の専用機タッグマッチトーナメントの件を本国にも連絡があったようでして、こんな通達をさっき受けましたわ。『これで結果出せ。何時までも情けない報告はいらない』と……」
暗い顔でセシリアが言い、横を見るとシャルとラウラも暗い顔をしながら頷いている。……おそらくこの二人も、セシリアと似たような事言われたんだろう。
「そんなわけで! わたくしと一番気が合いそうな鈴さんにパートナーのお願いに来ましたの。お願いします鈴さん、わたくしと組んでください!」
再び鈴に向かって頭を下げるセシリア。その真剣な態度に鈴は戸惑っていたが、
「……はあ、わかったわよ! 本当は一夏と組みたかったけど……まあセシリアとならあたしもいいわよ。だから顔をあげなさい! パートナーになるんなら、そんな卑屈な態度をしないでよね。お互い対等じゃないと、気分が悪くなる」
後半は顔を赤くしながら、横を向いて鈴はセシリアの申し入れを受け入れた。
「鈴さん、ありがとうございます! ああ、今日ほど鈴さんが良い人に見えた日はありませんわ。お礼に今度わたくしがデザートを」
「それはやめて!」
セシリアが言い終わる前に、鈴が大声でセシリアの手作りデザートを拒否した。……まあ、最近は多少改善されたとはいえ、サンドイッチ以外はそこまで良い訳じゃないもんな。
「鈴、余裕な態度を取っているが、お前は大丈夫なのか? セシリア達がこんな事情抱えてるのだが?」
「あたし? 何で? セシリア達と違いあたしはそんな大暴れしてないし、クラス代表として一夏をボコッたり実績あるもん」
箒の疑問に、鈴は自信満々に答えた。横でセシリア達が鈴の言葉を聞き唸っている。
しかしこれで鈴にセシリア、シャルにラウラは相手が決まった事になる。残ったのは……葵と箒か。うん、箒には悪いが、葵にパートナーをお願いしよう。
「皆決まっていくなあ。じゃあ俺は」
俺は葵にタッグのパートナーを頼もうとしたが、
「箒、私と組まない?」
それを言う前に、葵は……箒にパートナーの申し入れをした。
…………
…………
…………
…………あれ?
「なっ! 私とか?」
葵にお願いされ、箒は驚きながら葵を見て、次に俺を見て戸惑っている。
「ええ、私は箒と組みたいなと思ってる。駄目かな」
笑顔で言う葵に、箒は葵を、そして俺を横目で一瞬見た後、
「ああ! よろしく頼む!」
箒は笑顔で葵の頼みを受け入れた。
こうして、葵は箒と。鈴はセシリアと。シャルはラウラと組むことが決まった。
この結果に、再度食堂は騒然としたが、俺はそんな事が気にならない位放心状態になっていた。
そして……あの時更識さんが言った、どうせ私と組む事になるの意味を、この場で思い知る事となった。
はい、一夏はハブられてしまいました。
ここ数話で下ネタというか過剰描写をしてしまい、感想でお叱りいただきました。
私自身、やりすぎたかな? と思ってましたが、どうもその通りでしたので反省しています。
しかし、決してふざけてやったわけでもないので、あんな状態になった一夏ですが今後かっこいい所を見せてくれる……かもしれません(笑)